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【税務について】債権回収のための備え3

Q
債権回収の遅延が生じている場合や債権回収をあきらめた場合などの税処理について教えてください。

A
税処理の場面で直面する
①一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒処理
②任意の回収と税務
③少額債権と取立費用を考慮した貸倒処理
④私的整理の債権放棄を行った場合の税務処理(債務免除)
について本記事で解説します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【税務について】債権回収のための備え3」
について、詳しくご解説します。

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一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒処理

国税庁HP 第1款 金銭債権の貸倒れ
国税庁HP 貸倒損失として処理できる場合
参照

債務者との
①取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をしたとき以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後
②1年以上が経過した場合(③当該売掛債権について担保物のある場合を除く)には、
④その債務者に対する売掛債権について、その売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます。
(法基通9-6-3⑴)。

売掛金を貸倒として損金処理すると、会計上、費用として計上されるため、課税対象外となり、税金を圧縮することが可能となります。そのため、節税できるというメリットがあります。

①取引の停止の意義
継続的取引を行っていた債務者(取引先)について、その資産状況、支払能力等の悪化が原因で、その後の取引を停止するに至った場合をいいます。
なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。

②1年以上経過の意義
次のうち最も遅い時から1年以上経過した場合をいいます。
●債務者(取引先)との取引を停止した時
●最後の弁済期(回収期日(支払期日)のこと)
●最後の弁済の時(最終入金日)

③売掛債権について担保物のある場合は適用されません。

④備忘金額は通常1円です。そのため、貸倒れとして損金経理する対象額は、
売掛金の額-備忘価額1円
となります。
X社のY社に対する売掛金が1000万円であり、法人基本通達9-6-3が適用される場合、備忘価額1円を残した貸倒損失の会計処理は次のとおりです。

(借) 貸倒損失 9,999,999円 / (貸) 売掛金 9,999,999円

任意の回収と税務

X社はY社に対して複数の回収困難先があります。
今後の債権回収を考えるにあたって、どのような場合にどのような税務処理をすべきでしょうか。
任意の回収の税務処理として、法令上、①貸倒引当金、②貸倒損失に関するルールがあります。
ここでは、貸倒引当金について解説します。

貸倒引当金とは

貸倒引当金とは、将来、相手方が貸し倒れたことによる損失の見込みの程度に応じて、その発生額を見積もって、あらかじめ、会計・税務処理上の手当てをすることをいいます。
貸倒引当金は引当金の一種です。
引当金は、企業会計原則注解(昭和57年4月20日企業会計審議会)注18によると、

① 将来の特定の費用又は損失であること
② ①が当期以前の事象に起因して発生したこと
③ 発生可能性が高いこと
④ その金額を合理的に見積もることができること

以上の要件を満たす場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載することになっています。
なお、会計上は、当期の費用又は損失として処理され、税務上は損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、申告を要件として、その金額のうち繰入限度額に達するまでの金額の損金算入が認められます。

貸倒引当金に関する法改正について

平成24年4月1日以後に開始する事業年度から、貸倒引当金を繰り入れることのできる適用法人が限定されることになりました。法人税法52条1項及び国税庁タックスアンサーNo.5500「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲」によると、

① 資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人のうち100%子法人等を除く法人
② 資本金又は出資を有しない普通法人
③ 公益法人等又は協同組合等
④ 人格のない社団等
⑤ 銀行、保険会社その他これらに準じる法人
⑥ 金融に関する取引に係る金銭債権を有する一定の法人(上記4つの法人を除きます)。

①の100%子法人等とは、
●資本金の額若しくは出資金が5億以上の法人又は相互会社等(以下「大法人」という)による完全支配関係(一の者が法人の発行済み株式等の全部を直接又は間接的に保有する関係をいいます)がある普通法人

●完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人
をいいます。

⑥の法人については、この制度の対象となる金銭債権が一部に限定されています。

法人税上の貸倒引当金

法人税法上の貸倒引当金には①一括評価金銭債権②個別評価金銭債権の2種類があります。
①一括評価金銭債権は売掛金、貸付金その他これらに準じる金銭債権(個別評価金銭債権を除く)のことを指します。

一括評価金銭債権に関して、貸倒引当金として税務上損金算入が認められる額(損金算入限度額)は、原則として、次のように求めます。

一括評価金銭債権の損金算入額=期末一括評価金銭債権の帳簿価格×過去三年間の貸倒損失発生額に基づく貸倒実績率(小数点以下四位未満切上げ)

一括評価金銭債権の対象

法人税基本通達11-2-16から11-2-18によると以下のとおりです。
一括評価金銭債権となるものは次のとおり

●売掛金、貸付金
●保証債務を履行した場合の求償権
●未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等又は貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
●他人のために立替払をした場合の立替金
●未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの

一括評価金銭債権とならないもの

●未収入金のうち、預貯金・公社債の未収利子、未収配当
●保証金、敷金、預け金
●手付金、前渡金
●前払給料、概算払旅費、前渡交際費
●仕入割戻しの未収金

貸倒実績率の求め方

国税庁タックスアンサーNo.5501「一括評価金銭に係る貸倒引当金の設定」によると、次のような手順で計算します。


①その事業年度開始の日以前3年以内に開始した各事業年度の売掛債権等の貸倒損失の額

②その各事業年度の個別評価分の貸倒引当金納入額の損金算入額

③その各事業年度の個別評価分の貸倒引当金戻入額の益金算入額
の計算


⑴で求めた数値×12/(左の各事業年度の月数(1か月未満は一か月とする)の合計額)を計算します。


⑵で求めた数値×左の各事業年度の数/その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度終了の時における一括評価金銭債権の帳簿価格の合計額


中小企業等では、貸倒実積率に代えて法定繰入率による計算が認められています。

法定繰入率による損金算入額限度額=(期末一括金銭債権の帳簿価額-実質的に債権とみられない金額))×法定繰入率


という計算により求めます。

対象となる企業は、以下のとおりです。

次の法人を除く「事業年度末における資本金が1億円以下の普通法人」です。
●資本金が5億円以上の法人、相互会社又は受託法人(以下「大法人」という)による完全支配関係がある普通法人
●完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている普通法人(適用除外事業者)
等です。

会計上の貸倒引当金

貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、債権を区分しています(金融商品に関する会計基準27頁参照)。

区分 内容
一般債権 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権
貸倒懸念債権 経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権
破産更生債権等 経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権


債権の貸倒見積高は、その区分に応じて次のように算定します(金融商品に関する会計基準28頁参照)

算定方法
一般債権 債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準
貸倒懸念債権 以下の①または②の方法によります。
①債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見込高とする(財務内容評価法)
②債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュフローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれる時から当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法(キャッシュフロー・見積法)

ただし、同一の債権に関しては、債務者の財務状況及び経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用すること。
破産更生債権等 債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見込高とする(財務内容評価法)

少額債権と取立費用を考慮した貸倒処理(法基通9-6-3⑵参照)

売掛債権額から備忘金額を控除した残高を貸倒れとして損金経理するための条件

売掛金などの債権が回収できなくなった(貸し倒れた)場合には、その分を損失にすることができます。では、売掛金を回収することは可能だが、取立費用が売掛金の総額を超える場合はどうでしょうか。このような場合も、損失にすることが一定の条件を満たす場合には可能です。
その条件とは、次の2点です。

①法人が同一地域の債務者について有する売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たないこと

②当該債務者に対し支払を催促したにもかかわらず弁済がないこと

注意点

以上の2点が条件となりますが、よく見られる間違いや備忘金額の設定についての質問がよくあるので、ここで紹介します。

●この特例の対象となる債権は、売掛債権すなわち売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権です。そのため、例えば貸付金はこの特例の対象になりません。

●「法人が同一地域の債務者について有する売掛債権の総額」について、同一地域の債務者が複数ある場合は、複数の債務者に対する売掛金債権の総額となります。

●備忘金額は通常1円とします。

例えば、売掛金を9万円、取立費用を15万円として、上記基準を満たす事案を考えると、貸倒損失の会計処理は次のようになります。

(借) 貸倒損失 89,999円 / (貸) 売掛金 89,999円

私的整理の債権放棄を行った場合の税務処理(債務免除)

債権の回収努力を行っても、相当長期間回収が困難な状況が続いたため、回収を断念し、私的整理により債権放棄をすることとした場合の貸倒損失の処理の可否や税務上の問題点について説明します。

私的整理による債権放棄について貸倒処理をするための条件

私的整理による債権放棄について貸倒処理は次の場合に認められます。

①債務者の債務超過の状態が相当期間継続していること

②その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること

③その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除(債権放棄)であること

この要件を満たすと、債権免除額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入することになります。

①債務超過の意義
債務超過とは、債務者の負債の総額が資産の総額を超える状態のことをいいます。
債務超過状態にあるかは、時価を基準として判断します。

②相当期間の意義
相当期間の基準は一概にはいえず、個別の事情によって判断する必要があります。少なくとも一時的な債務超過の場合や1年以上経過しただけでは相当期間経過したということはできないでしょう。
なお、税務調査に備える上では、通達に基づく貸倒損失の要件の充足性について、慎重に検討する必要があります。


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