澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「「保証人を立てる」ってどういうこと?~債権回収のための人的担保~」
について、詳しく解説します。
保証とは
概要
保証とは、債務者(主たる債務者)が契約どおりに債務を支払わない場合に、その債務を主たる債務者にかわって支払う義務を負うことをいいます(民法466条1項)。
ある人(Z)が、債権者(X)との間で、債務者(Y)(この人を「主債務者」といいます)が債務を履行しないときに主債務者(Y)に代わって債権者(X)に支払うことを約束する契約です。Zのことを「保証人」といいます。
保証人は、主たる債務とは別個の保証契約によって成立する、保証人独自の債務を負担します。
これが「保証債務」、保証債務を負担する合意が「保証契約」です。
個別の財産ではなく、保証人の一般財産を引当てにすることから、人的担保といわれます。
債権者としては、取引の開始時に取引先に保証人を立てさせておけば、取引先の支払いが遅れたり、取引先が倒産したりした場合、保証人に対して、取引先にかわって支払うように請求し、債権を回収することができます。
このように、個別財産を引当てにしないものであるため、保証人が仮に破産した場合には、債権者は、一般債権者として、債権額に応じてその保証人に残された資産から按分弁済を受けることになります。
そのため、抵当権、質権その他の担保権と比べて、回収の確実性、実行性という点では、不確実な保全方法といえます。
しかしながら、主債務者が債務を弁済しなければ、保証人が債務を弁済する義務を負うという点で、主たる債務の弁済を心理的に促す効果が大きい保全手段です。
なお、「連帯保証契約」とは、保証契約の一種ですが、主債務者に財産があるかどうかにかかわらず、債務者が保証人に対して支払いを求めたり、保証人の財産の差押えをすることができたりするものです。
以下では、単に「保証」としていますが、すべて「連帯保証」を含めて解説していきます 。
ⅰ.保証債務は、「債権者」と「保証人」との間の保証契約によって発生します。
「債務者」が「保証人」に依頼して保証してもらうことが多いですが、「債務者」と「保証人」との間の合意は、「保証契約」そのものではないことに注意が必要です。
ⅱ.債務者が保証人に自己の債務を保証することを委託(依頼)し、承諾された場合、債務者と保証人との間に「保証委託契約」が成立します。
この「保証委託契約」と「保証契約」は別ものです。保証委託契約が成立しても、「債権者」と「保証人」が保証契約をしなければ、保証債務は発生しません。
この保証委託契約に基づいて、保証契約が成立した場合、その保証人は「委託を受けた保証人」になるのです。
ⅲ.「保証委託契約」がなくても、つまり、債務者の依頼なしに、または債務者の意思に反して保証人が債権者と保証契約をすることがあります。この場合でも、保証債務の内容は変わりません。
ⅳ.債務者が債権者に対し、「保証人をつける」と約束した場合でも、それだけでは保証債務は発生しません。
この場合、保証人(候補者)はまだ何ら義務を負いません。ただし、債務者は、担保提供義務(民法137条3号、民法450条)を負うことになります。
保証の性質
先ほど述べた、保証債務の性質として、主債務と同一の内容であること、主債務とは別個の債務であることの他に、保証主要な性質としては、3つの特徴があります。
第1に、 付従性があります。
付従性の内容は、以下の3点に細分化されます。
- まず、保証債務は、主たる債務(主たる債務者の債務)が成立してはじめて成立します(成立に関する付従性)。
- また、主たる債務が縮減されれば、保証債務もその限度で縮減され、保証債務が主たる債務より重くなることはありません(内容における付従性)(民法448条)。
- そして、弁済等により、主たる債務が消滅すれば、保証債務も消滅します(消滅における付従性)。ただし、法的倒産手続では、保証債務は従前どおり存続します。
第2に、主たる債務(債権)が債権譲渡などによって移転したときは、保証人は、新債権者に対して履行の責を負う、つまり、保証債務も移転するという随伴性が挙げられます。
もっとも、主債務について、免責的債務引受けがされたときは、保証債務は消滅することは注意が必要です。
第3に、主たる債務の履行がない場合にのみ、履行すればよいという補充性があります。
補充性は、具体的には、債権者が保証人に対し、保証債務の履行を請求した場合、保証人が債権者に対し、まずは主たる債務者に請求するよう主張することができる催告の抗弁権(民452条)と、債権者が主たる債務者に請求した後でも、主たる債務者が資力を有していたら、債権者は、まずは主たる債務者に対し執行しなければならないという検索の抗弁権(同法435条)から構成されます。
補充制については、後記のとおり、連帯保証には認められない点に留意が必要です(同法454条)。
他には、
●主債務者に対する履行の請求その他時効の中断(更新)事由があれば、保証人に対してもその効果が及ぶ(民法457条1項)こと、
●保証人は、主債務者が債権者に対して保有する債権により相殺を主張できる(民法457条1項)こと
等も挙げられます。
連帯保証との違い
単純な保証のほかに、連帯保証というものもあります。
連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負うことをいいます。
「連帯して」とは、次のようなことを意味しています。
①催告の抗弁権
単純な保証の場合には、保証人は債権者に対し、「まず主たる債務者に催告しろ」と請求することができます(民法452条)。
これを「催告の抗弁権」といいます。
これに対し、連帯保証の場合には、連帯保証人には催告の抗弁権はありません(民法454条)。
債権者は、主たる債務者よりも先に連帯保証人に対して請求することもできます。
②検索の抗弁権
単純な保証の場合には、保証人は債権者に対し、主たる債務者に資力があり、執行が容易なことを証明したうえ、「まず主たる債務者の財産について執行しろ」と請求することができます(民法453条)。
これを「検索の抗弁権」といいます。
これに対し、連帯保証の場合には、検索の抗弁権はありません(民法454条)。債権者は、主たる債務者よりも先に連帯保証人から支払いを受けることもできます。
このように前述の補充性は、「連帯保証」にはありません。
補充性は、債権回収の観点で債権者にとって望ましいものではないので、必ず「連帯保証」をとるようにしましょう。
なお、主債務が主債務者の商行為によって生じたとき、または保証が商行為である場合、法律上、当然に連帯保証になりますので、この点はよく覚えておいてください(商法511条2項)。
分別の利益
複数の保証人が、それぞれ単純な保証債務を負担している場合には、債務額は保証人の数に応じて分割されます(民法456条、427条)。これを「分別の利益」といいます。
たとえば、主たる債務者が1,000万円の債務を負っていて、保証人が2人いるときは、それぞれの保証人は500万円ずつの支払義務を負うことになります。
これに対し、連帯保証の場合には、分別の利益はないとされています。
つまり、上記の例でいえば、保証人2人がそれぞれ1,000万円全額の支払義務を負うことになります。
債権者は、連帯保証人のなかで資力のありそうな者を狙い撃ちして請求することもできますし、連帯保証人全員に対して同時に請求することもできます。
保証と連帯保証の相違点
保証 | 連帯保証 | |
---|---|---|
催告の抗弁権 | あり | なし |
検索の抗弁権 | あり | なし |
分別の抗弁権 | あり | なし |
単純な保証・連帯保証と根保証との相違点
単純な保証と連帯保証のほかに、根保証というものもあります。
根保証とは、一定の継続的取引から発生する不特定の債務を保証することをいいます。
単純な保証や連帯保証の場合は、保証の対象となった主たる債務が支払われるなどして消滅すると、保証債務も消滅してしまいます。
これに対し、根保証は、反復・継続した取引から発生する一切の債務を保証するための保証です。そのため、主たる債務が消滅しても、根保証債務は消滅せず、次に発生する債務を保証することになります。
取引先と継続的な取引を開始する際に、取引先に保証人を立てさせるときは、根保証にするべきでしょう。根保証にしておかないと、個別の取引が終了するごとに保証契約を結び直さなければならず、不都合だからです。
また、前述したように連帯保証にするべきです。債務者の資力に疑いが生じた際には、資力のある保証人に対し、すぐに請求できるようにするためです。
保証契約のリスク
概要
保証人は、主債務者の代わりに主債務者の負った債務を支払うように債権者から求められることになります。保証人が任意に支払わない場合には、保証人は、自宅の不動産が差押え・競売されて立退きを求められたり、給与や預貯金の差押えを受けたりするなど、裁判所の関与の下で支払いを強制されることにもなります。
このように、保証は大きな財産的リスクを伴うものですが、主債務者から「迷惑をかけないから」、「名前だけ貸してほしい」などと言われて、安易に保証人となった結果、後々、大変な状況に陥ってしまうというケースも見られます。
保証人になる際には、このようなリスクがあることを十分に認識しておくことが重要です。
↓
②友人(主債務者)は経営に失敗して破産。債権者から1億円を請求される。
↓
③自宅の不動産が差押え・競売されて立退きを求められる。
情報提供義務の新設(民法458条の2)
リスクの低減を目的として、保証人のために、次のような情報が提供されます。
主債務者が保証人になることを依頼する際の情報提供義務
事業のために負担する債務について保証人になることを他人に依頼する場合、主債務者は保証人になるかどうかの判断に資する情報として
- ⅰ主債務者の財産や収支の状況
- ⅱ主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報
を提供しなければいけません。
この制度は、事業用の融資(借金)だけでなく、売買代金やテナント料など、融資以外の事業のための債務の保証にも適用されます。
主債務の履行状況に関する情報提供義務
主債務者の委託を受けて保証人になった場合には、保証人は、債権者に対して、主債務についての支払いの状況に関する情報の提供を求めることができます。
この情報提供は、個人のみならず、法人の保証人も求めることができます。
主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
債務者が分割金の支払いを遅滞しているような場合に、一括払いの義務を負うことを「期限の利益の喪失」といいます。
主債務者が期限の利益を喪失すると、遅延損害金の額が急に大きくなり、早めに完済をしないと、保証人としても多額の支払いを求められるおそれがあります。
そのため、保証人が個人の場合、債権者は主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内にその旨を保証人に通知しなければなりません。
保証人の立てさせ方
まず、取引先の代表者を保証人にすることが考えられます。
「会社が支払えないときは、社長個人に支払ってもらいますよ」と圧力をかけ、取引先が期限どおりに支払うように仕向けられるからです。
しかし、取引先が倒産するようなときは、取引先の代表者も倒産状態にあることが通常です。取引先が支払うことができない状況に陥ったときのために保証人を立てさせるのですから、いざというときに、取引先にかわって支払うことができるだけの資力のある者を立てさせなければ意味がありません。
そのため、可能であれば、取引先の代表者以外の者も保証人に立てさせるとよいでしょう。
しかし、これから取引を開始しようとするときに、あまり強硬な要求をすることは難しいことも多いでしょう。
その場合には、取引先の代表者のみを保証人とし、他方で、連帯根保証債務を負わせることも考えられます。
保証人を立てさせるときは、取引基本契約書に連帯保証条項を入れ、連帯根保証人として署名捺印をしてもらいます。
連帯根保証人には、面前で署名捺印してもらうことがポイントです。連帯根保証人に対して請求したときに、「この契約書に署名捺印した覚えはない」という言い逃れを許さないためです。
極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約について(民法465条の2)
根保証契約とは
前述のとおり、「根保証契約」とは、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約をいいます。
例えば、保証人となる時点では、現実にどれだけの債務が発生するのかがはっきりしないなど、どれだけの金額の債務を保証するのかが分からないケースに利用されます。
次のようなケースが根保証契約に該当することがあります。
- ①子どもがアパートを賃借する際に、その資料などを大家との間で親がまとめて保証するケース
- ②親を介護施設に入居させる際に、その入居費用や施設内での事故による賠償金などを介護施設との間で子どもがまとめて保証するケース
根保証契約を締結して保証人となる際には、主債務の金額が分からないため、将来、保証人が想定外の債務を負うことになりかねません。
そこで、次のような(2)(3)のルールが設けられています。
このルールは、民法改正の後も変わりません。
極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効
個人(会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払いの責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めらなければ、保証契約は無効となります。
この極度額は書面等により当事者間の合意で定める必要があります。
極度額は、「○○円」などと明瞭に定めなければなりません。
保証人は極度額の範囲で支払いの責任を負うことになるので、保証をする際には、極度額に注意を払いましょう。
このように、極度額を定めないで根保証契約を締結してしまうと、その契約は無効となり、保証人に対して支払いを求めることができないことになるので、債権者にとっても注意が必要です。
特別の事情による保証の終了
個人が保証人になる根保証契約については、保証人が破産したときや、主債務者又は保証人が亡くなったときなどは、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。
前述の①(建物)賃貸借の保証人については、個人としても法人としても関わることが多い身近な例です。
具体的に考えてみましょう。
建物賃貸借の保証人は、賃借人が賃貸借契約から生じさせた一切の債務について保証契約を負います。ただ、ときに賃借人が長期にわたる賃料の滞納により多額の賃料債務を生じさせたり、賃借建物内での自死(自殺)などの予期できないことで多額の債務を生じさせたりすることがあります。
このような場合に個人保証人に重すぎる責任の履行を求めることが適切であるかについて問題視されており、2020年4月1日に施行された改正民法で従前の取り扱いが変更されました。
すなわち、建物賃貸借契約においては、賃貸人が個人(根)保証人を求める場合、あらかじめ(根)保証人が保証する金額の限度額(極度額)を定めていない時は、その保証契約は無効とすることになりました。
改正法の施行後に更新される保証人の責任について、改正前民法が適用されるのか、それとも、改正後の民法が適用されるのかについて説明しますと
法務省は、
- A.「合意により賃貸借契約や保証契約が更新したときは、改正後の新しい民法が適用される」
としていますので、合意更新の場合は更新時に保証極度額を定める必要があることになります。
- B.「他方で、施行日前に保証契約が更新後の債務も保証する趣旨で締結され、保証について合意更新されなかった場合(法定更新された場合)には、施行日後も改正前の民法が適用」されると
見解を述べています。
実務上、「契約更新の通知を受けなかった保証人の保証責任の有無」についても、問題となることがあります。
保証人は更新後も責任を負うとするのが判例(最高裁平成9年11月13日)であることからすると、この相談はBの場合に該当すると考えられますので、この相談における保証人は改正前民法の適用を受けることになります。
改正法施行後に契約が更新された保証人からの保証責任についての相談は判断が難しいので、早期に弁護士相談を案内するようにしましょう。
極度額が設定されることで保証人の引き受け手がますます少なくなることが予想されます。
家賃保証会社のシステム保証に移行する賃貸物件がこれまで以上に多くなるのに伴い、保証会社の審査も厳しくなると思われます。
公証人による保証意思確認手続の新設について
法人や個人事業主が事業用の融資を受ける場合に、その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が安易に保証人になってしまい、多額の債務を負うという事態が依然として生じています。
そこで、個人が事業用の融資の保証人となろうとする場合には、公証人による保証意思の確認を経なければならないとされています。
この意思確認の手続を経ずに保証契約を締結しても、その契約は無効となります。
なお、この意思確認の手続は、主債務者の事業と関係の深い次のような方々については、不要とされています。
- ①主債務者が法人である場合 その法人の理事、取締役、執行役や、議決権の過半数を有する株主等
- ②主債務者が個人である場合、主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や、主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者
A.公証人は、公証人法の規定により、判事(裁判官)、検事、法務事務官なども長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任命しています。
A.公証人が設置して事務を行っている、公証役場(公証人が執務する事務所)です。
公証人による保証意思確認の手続の流れ
- ①公証役場に行く
これから保証人になろうとする方は、保証契約をする前に、原則として公証役場に出向いて、保証意思確認の手続(保証意思宣明公正証書の作成の嘱託)を行うことになります。
保証意思宣明公正証書は、保証契約締結の日前1か月以内に作成されている必要があります。
この手続は、代理人に依頼することができません。本人自身が公証人から意思確認を受けることになります。
- ②保証意思の確認
公証人から、保証人になろうとする方が保証意思を有しているのかを確認されます。
●保証をしようとしている主債務の具体的な内容を認識しているか
●保証をすることで自らが代わりに支払いなどをしなければならなくなるという、大きなリスクを負担するものであることを理解しているか
●主債務者の財産・収支の状況等について主債務者からどのような情報の提供を受けたか
などについて確認を受けます。
このほか、保証人になろうと思った動機・経緯などについても質問されることがあります。
その後、所要の手続を経て、保証意思が確認された場合には、公正証書(保証意思宣明公正証書)が作成されます。
A.保証意思確認の手続の手数料は、1通1000円とされています。
その他費用が掛かる場合もあるので、嘱託先となる公証役場に問い合わせましょう。
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法的手続によって債権を回収するためにはどうすればいいのか?
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