澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「保証人・債務者以外の第三者から債権回収するとき、注意すべきことは?」
について、詳しく解説します。
社長兼保証人の交替
社長の高齢化に伴い、子弟に社長を承継させる際、保証人も同時に交代をすることがあり、債権者としての対応を迫られることがあります。
例えば、債権者甲社が、乙社に対する貸金の担保として同社社長の乙野太郎さんとその義弟である丙野次郎さんの両名に連帯保証をしてもらっていた事例を考えてみましょう。
乙野太郎さんの社長業引退にあたり、後任社長として同人の子である乙野一郎さんが就くことになり、同人が連帯保証債務を乙野太郎さんから承継することとなった場合、どのように保証人を変更すべきでしょうか。社長の交代に伴い、新社長(乙野一郎)に保証人になってもらう際に気を付けることについて説明します。
本件のように、連帯保証人として弁済をする利益を有する代位債権者丙野次郎がいるようなケースでは、乙野太郎の連帯保証という対人担保を消滅させる以上、丙野次郎の了解を得ておく必要があります。これを怠ると、後日になって、丙野次郎から「乙野太郎から償還を受けられたはずの金額分については、保証債務を履行しない」との反論が出てくるおそれがあります。
民法504条1項本文は、
「弁済をするについて正当な利益を有する者がある場合において、債権者が故意または過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするにあたって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる」
としています。
改正民法504条2項では、
「債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。」
として、合理的な担保交換については、このような事態が生じないことを定めましたが、どのような事例が合理的な理由があるとされるのかについて、今後の裁判例の蓄積を待つほかありません。
したがって、貸付けをしている甲社としては、念のため、丙野次郎から、上記連帯保証人の交替について、明示的な承諾文書を得ておくことが安全といえます。
非経営者による個人保証
経営者でない者を個人保証人としたい場合、どのような法規制があるのでしょうか。
企業に勤める友人に対して、自己の借り入れについて保証人になってほしいようなケースです。
根保証契約の成立時
個人根保証をしてもらう場合、個人根保証としての各種規制が及びます。
主な規制としては、次のようなものがあります。
② 主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証を、主債務者が個人保証人に委託するときは、委託を受ける者(保証人となる者)に対し、一定事項に関する情報を提供しなければならないとされています。
この情報を提供しなかったり、事実と違う情報を提供したりした場合には、保証人は保証契約を取り消すことができます(民465条の10)。
また、主たる債務者の取締役等民法465条の9で挙げられた者以外の個人が保証人となる場合で、事業のために負担した貸金等債務が主債務であるかまたは主債務の範囲に含まれる場合、根保証契約締結日前の1ヶ月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、当該保証契約または根保証契約は無効となります(民465条の6)。
元本の確定
根保証契約は、
- ①元本の確定期日が来る
か
- ②元本の確定事由が生ずる
と、元本が確定し、以後はその確定した債務につき保証債務が履行されます。
①確定期日については、個人貸金等根保証契約については5年以内という規制がありますが(民465条の3)、貸金等債務でない場合は、確定期日の規制はありません。
②確定事由については、465条の4第1項に規定されています。
- 債務者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行または担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
- 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
- 主たる債務者または保証人が死亡したとき。
という3つの確定事由があります。
主たる債務者の情報を提供する義務と違反の効果
債権者は、保証人に対して、次のような主債務者に関する情報を提供することが義務づけられています。
主たる債務の履行状況に関する情報
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証した場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主債務(元本・利息・違約金等)の不履行の有無、残額、弁済期到来済みの額といった情報を提供しなければなりません(民458条の2)。
この情報提供義務違反の効果については、条文上明記されていませんが、債務不履行の一般法理に従って、損害賠償請求や保証契約の解除ができるものと解されます。
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報
個人保証人に対しては、委託の有無を問わず、主債務の期限の利益喪失を知った時から2ヶ月以内に、債権者は保証人に対し、その旨を通知することが必要とされています(民458条の3第1項)。
この情報提供義務に違反して期限の利益喪失を知った時から2カ月以内に通知をしなかった場合、債権者は、保証人に対して、主たる債務者が期限の利益を喪失した時からその旨の通知をした時までに生じた遅延損害金に対応する部分について、保証債務の履行を請求できません。
なお、債権者が通知をしなかった場合でも、債権者は、保証人に対して、主たる債務についての期限の利益喪失の効果を主張できなくなるわけではありません。債務者が期限の利益を喪失した場合は、保証人も期限の利益を主張できなくなり、残債務の全額(ただし、期限の利益喪失から2ヶ月以内に通知しなかった場合に支払義務を負わないものとされた遅延損害金を除く)に相当する保証債務の履行を求めることができます。
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