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担保の設定や取得の際の注意点とは?担保の実行についても解説!

Q
 取引を開始するにあたって、また、債務の支払条件を変更してほしいと言われた場合には、担保を設定してもらうことが重要と聞いたことがあります。
担保設定の必要性を教えてください。
また、担保取得の際の注意点やの担保の種類、そして、担保の実行方法も教えてください。

A
 担保取得は債権回収に非常に役に立ちます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
なお、担保取得はなるべく早い時期にする必要がありますので、この点はご留意ください。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「担保の設定や取得の際の注意点とは?担保の実行についても解説!」
について、詳しくご解説します。

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担保設定の必要性

自社Xが取引先との間で締結した売買契約を理由に取引先に対して代金支払いを求めているという場面を想定してください。

この場合、代金支払いについて、分割で支払う旨の合意があることがあります。

この分割支払いが、長期になると、将来、取引先が支払いをすることができなくなるリスクが生まれます。

したがって、このようなリスクを回避すべく、長期分割払いの際には支払を確保する仕組みが必要となります。

そうした仕組みとして、担保を設定してもらうことが考えられます。担保物権を設定すると、当該担保を設定した財産から他の債権者に比して優先的に自己の債権を回収することができます。

 担保は、契約を締結することによって設定することができる場合もあります。

 当事者の契約によって設定できる担保権を「約定担保権」といいます。他方、法律上当然に債権者に付与される物権を「法定担保物権」といいます。

 また、担保物権の設定以外で債権を回収する方法もあり、代表的な例はとして①相殺②代物弁済③債権譲渡が挙げられます。(なお、相殺については、【相殺とは?】相殺の活用による債権回収の方法とポイント記事で詳しく解説しているため、そちらをご覧ください。)

長期分割支払合意をする場合のポイント

例えば、債務者が契約で定められた履行期限にお金がないことを理由に、支払延期を申し出てくる場合があります。

この場合、長期分割支払合意をすることがあります。

長期分割支払合意を書面として契約書に記載するにあたって、
必ず明記したいのは①債務の承認②支払方法③期限の利益喪失条項の3点です。
この3点について説明をしていきます。

①債務の承認

債務者が債権者に対して現時点で未払いとなっている債務の内容及び金額を確認する条項を定めます。
これにより、債務者に債務の承認をしてもらいます。
債務の承認をさせるのは、「時効の更新」のためです。時効の更新をすることで、今まで進んでいた時効の進行が停止し、その時点から新しい時効の進行が開始することになります。
「時効メーターを0に戻し、時効の進行を再スタートさせるために債務者に債務の承認をさせる」というイメージです。

②支払方法

 分割支払の内容に関する条項を定めます。
ポイントは、債務者の支払に対するモチベーションを保つような条項であることです。
遅延損害金を含め債務の承認を取りながら、一定の金額の支払を終えた場合は残額を免除するという条項が例として挙げられます。

③期限の利益喪失条項

 期限の利益とは、期限が到来しないことによって、その間に当事者が受ける利益(四宮和夫・能見善久「民法総則(9版)」弘文堂408頁)と説明されます。

 債務の支払に期限が付されている場合は、債務者は、その期限が到来するまで支払をしないことが正当化されるという利益を受けています。
このような債務者の利益を主張できなくさせる条項を期限の利益喪失条項とよびます。

 期限の利益喪失事由として代表的なものは、「分割金の支払を怠ったとき」や「分割金の支払を連続して2回怠ったとき」というものなどです。

【債務承認及び債務弁済契約書-例】

債務承認及び債務弁済契約書

株式会社〇〇(以下「甲」という。)と株式会社××(以下「乙」という。)は、以下の約定にて債務承認及び債務弁済契約について合意した。

第1条 乙は、甲に対し、契約締結日現在、乙が甲より購入した鉄の売買代金債務の残額である1,500万円の支払債務(以下「本件債務」という。)を負担していることを承認する。

第2条 乙は、本件債務のうち1,100万円について次のとおり分割して甲が指定する下記銀行口座に振り込んで支払うものとする(振込手数料は乙の負担とする。)。
  〇〇年△△月から〇〇年××月まで毎月末日限り 金50万円
  〇〇年□□月から○○年◇◇月まで毎月末日限り 金100万円
  ○○年●●月末日限り              金110万円


    銀行口座[省略]
以上

第3条 乙が前条に定める分割金の支払を連続して2回怠ったとき(一部不払を含む。)は、何らの催告なしに期限の利益を喪失するものとし、乙は、甲に対し、直ちに本件債務の残額及び残額に対する期限の利益喪失日の翌日から年〇〇%による遅延損害金を支払わなければならない。

 …

  以上の合意が成立した証として本書を2通作成し、甲乙各自1通ずつ保管するものとする。

  〇〇年〇〇月〇〇日
甲代理人 〇〇県〇〇市〇〇町△-△-△ □□ビルディング2階
□□法律事務所
            弁護士□□ 
乙 〇〇県〇〇市〇〇町△-△-△
            ◇◇株式会社
            代表取締役◇◇ 

担保取得の時期-平常時が理想です。

 約定担保権の対象は、①不動産、②動産、③債権が考えられますが、債務者が保有している財産としては限りがあります。

 また、危機時期(債務者の支払能力が疑わしくなった時期)には金融機関等がすでに上記の財産について担保に取っていることが通常です。

 そのため、担保として価値がある資産に担保権を設定するためには、債務者に債務不履行があった時ではなく、平常時に担保取得することが重要です。

信用不安時における担保取得の要注意ポイント

 信用不安時に担保取得を考えている場合にすることは、
①早急に担保を取得する
②新規与信のための担保と既存債務のための担保を区別する

の2点です。

①早急に担保取得する

 倒産が近づくほど、担保を設定してもらっても、当該担保設定行為が否認(※)されるリスクが高まります。
否認されてしまうと、せっかく担保にとっても、その効力が否定され、担保取得した意味がなくなってしまいます。

特に取引先が法的倒産手続開始申立てをした後、または支払不能になった後に担保取得した場合、否認される可能性が非常に高いです。

「取引先が支払不能または支払停止状態にあること」または「破産や民事再生手続申立ての事実」を知っていた場合には、債権者は債務者の状態について「悪意」となり、担保設定行為について否認されてしまいます。

また、取引先に担保提供する義務がないのに、取引先にお願いして担保設定した場合にも「悪意」と推定されます(破産法162条)。
悪意でなかったと主張することもできますが、この推定が覆ることはほとんどないでしょう。

支払不能前30日以内の時期であっても、否認リスクはかなり高いです。この時期に担保取得する場合、取引先に担保設定の義務がなく、かつ、他の債権者を害することを知っていた場合には否認されます(破産法162条1項2号)。そして、「破産法162条1項2号にあたらないこと」を立証するのは非常に困難です。

以上から、できるだけ早く担保取得する必要があるのです。

※否認とは、破産手続開始前になされた破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定して破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能行使のことをいいます。

②新規与信のための担保と既存債務のための担保を区別する

 既存の債務に関する担保取得行為が偏頗行為否認(※)の対象になります。
他方、新規与信に伴う担保取得行為は、原則として、否認されません。
そのため、新規与信に伴う担保と既存の債務に関する担保を区別するのがよいでしょう。

 もっとも、無制限の担保取得が認められているわけではないことに注意してください。
新規与信の金額の範囲内で担保を取得するにとどめておかないと否認のリスクがあります(破産法161条参照)。

 また、もう一つ注意したい点があります。
それは、取引先から担保の供与を受けた上で、新規に資金を融資する場合には、融資した資金の使用目的を契約書等に明記しておくべきだということです。
使用目的を記載していない場合には、詐害行為に該当すると判断され否認されるリスクがあるからです。

すなわち、使用目的が記載されていない場合には、例えば不動産に担保を設定して得られた資金を隠匿したと疑われ、詐害行為にあたるとされるリスクがあります。
このため、新規融資の場合は使用目的を記載することを推奨します。


※偏頗行為否認とは、破産者による特定の債権者にのみ利益を与える行為の効力を否定して、破産財団から流出した財産を破産財団に回復させる破産管財人の権能のことをいいます。

担保権の実行方法(債権回収基本のき・実践債権保全)

契約により成立する担保権

抵当権・根抵当権

⑴抵当権・根抵当権の意義
ア 抵当権
抵当権とは、債務者又は第三者が債権者に占有を移転させないで債務の担保に供した不動産について、債権者が他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法369条)のことをいいます。

 抵当権を設定するためには、①抵当権設定契約の締結②設定者が不動産についての処分権限(例えば所有権)を有していること③被担保債権の存在(通常は金銭債権)の3つの条件が必要です。

 通常の抵当権は、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅します(これを付従性といいます)。
また、被担保債権が譲渡された場合でも、抵当権はそれに従って移転します(これを随伴性といいます)。

イ 根抵当権
 根抵当権は、抵当権と基本的に同様の権利ですが、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の範囲で担保する点が抵当権との大きな違いです。

根抵当権は付従性が緩和されています。根抵当権が担保している特定の債権が弁済により消滅しても根抵当権自体は消滅しません。
さらに、根抵当権は随伴性が否定されています。
つまり、ひとつひとつの被担保債権が譲渡されても、債権を譲り受けた者が根抵当権を取得することはありません(民法398条の7第1項前段)。

⑵債権回収の方法
①担保不動産競売の申し立て
抵当権・根抵当権に基づき、裁判所に担保不動産競売を申し立てます。

担保不動産競売は、単に競売とも呼ばれ、競売により不動産担保権を実行することをいいます。
裁判所が入札を実施し、最高値の札を入れた者に対し、代金支払いを条件に対象不動産を売却します。
売却金額は債権者が自己の債権に充当できますので、これにより、債権回収が可能となります。

同一の不動産に複数の抵当権が設定されている場合は、登記の順番で優先順位が決まり、競売代金は1番抵当権者から順に配当されます。

担保不動産競売の申立ては、1番抵当権者でなくともすることができますが、この申立てをしても1円も配当を受けられる見込みがないことが明らかな抵当権者は、この申立てをすることができません。

②担保不動産収益執行
裁判所に担保不動産収益執行を申し立てます。担保不動産収益執行は、不動産担保権の実行方法のうち、不動産から生じる収益を弁済に充てる手段です。これにより、担保不動産の収益(賃料など)から債権回収が可能です。

所有権留保売買

⑴意義  所有権留保売買とは、売買目的物の代金債権の担保のため、買主の代金完済以前に売買目的物を買主に引き渡しつつ、買主の代金完済まで売主の目的物の所有権を売主に留保する内容の売買契約です。

取引先が代金の支払いを怠ったときに、売買の目的物を取り戻すことで、これを代金債権に充てることができます。

なお、取引先との取引において所有権留保条項がなかった場合でも、新たに取引先と交渉して所有権留保条項を付けることも可能ですし、信用不安時に備える意味で有用です。
また、否認されるリスクもほとんどありません。実務上も、例えば、自動車を購入する際の自動車ローンでも、所有権留保条項がついていることがほとんどです。

⑵債権回収の方法
 所有権留保売買においては、債務者に債務不履行が生じた場合、所有権に基づき売買の目的物の引渡しを求めることで債権回収が可能です。

ただし、債務者が法的整理手続に入ったときは、債務者から占有改定(占有している動産を以後本人=債権者のために占有する意思を表示したときに、相手方にその動産を引き渡したことになることを意味します(民法183条))などの対抗要件(自身が権利者であることを他人に主張できるための条件)を具備する必要があります。
 

動産譲渡担保・集合動産譲渡担保

⑴動産譲渡担保・集合動産譲渡担保の意義
ア 動産譲渡担保の意義
 動産譲渡担保とは、債権担保のために目的動産の所有権を債権者に移転させるが、債務者にその動産の使用収益を認めるものをいいます。形式的には債権者に動産の所有権が移転しますが、債務者の下で動産を活用できることが利点です。債務者が債務の履行をしない場合に、債務者の下にある動産を引き揚げて債権回収をすることができます。

イ 集合動産譲渡担保の意義
 集合動産譲渡担保とは、動産譲渡担保のうち、内容が変動する動産の集合体を一括して担保にとるものをいいます(道垣内弘人「担保物権(4版)」有斐閣334頁参照)。

たとえば、倉庫に複数ある在庫機械を一括して担保にとります。
このように、①種類②所在場所③量的範囲の3つの基準で集合動産譲渡担保の目的物を特定します。

⑵債権回収の方法
担保の目的物を回収し換価処分することで、その処分代金を債権の弁済にあて、債権回収をします。

実務上では、担保の目的物を回収するための工夫として、「被担保債権が履行されない場合には、譲渡担保権者が目的不動産について現実の引き渡しを受ける」という条項を契約書にあらかじめ定めることを推奨しています。

仮に、取引先が担保目的物の回収に応じない場合には、担保目的物引渡請求訴訟を提起する必要があります。訴訟を提起する場合は、目的物についての占有移転禁止又は処分禁止の仮処分の申立ての検討も視野に入ります。

担保権の実行方法については、法律で定められていません。実務上は、私的実行として以下の順番で行います(裁判所HP-その他の手続参照)。

①集合物を構成する個々の動産の流動性を止めて対象を固定化し
②被担保債権額の範囲内で、譲渡担保権者が固定された目的物の価値を取得し、被担保債権額と目的物の価値との間の差額を清算する

清算の方法は①処分清算方式と②帰属清算方式とがあります。

①譲渡担保権者が第三者に担保目的物を処分し、それにより得た売却代金を債権回収に充て、余剰があれば清算金として設定者に支払うという方法
②譲渡担保権者が担保目的物の所有権を確定的に取得し、その担保目的物の適正な評価額と残債権額との差額を清算金として設定者に支払うという方法

 債権譲渡担保、動産譲渡担保については、早めに着手することが重要です。担保の目的動産の劣化が進んでいきますし、散逸するおそれもあるからです。

集合債権譲渡担保

⑴意義
 集合債権譲渡担保とは、多数の債権(将来発生する債権を含む)をまとめて、担保として譲渡することをいいます。

⑵債権回収の方法
 以下の債権譲渡通知書の空欄部分を埋め、配達証明付内容証明郵便で第三債務者に発送し、第三債務者から債権回収を行う例が少なくないです。
 債権譲渡登記をしているときは、第三債務者に登記事項証明書を渡し、通知した上で債権回収を行います。

【債権譲渡通知書-サンプル】

債権譲渡通知書

 前 略   当 社 が 貴 社 に 対 し て 有 す る 下 記 の 債 権 を 、 令 和 〇 年 〇 月 〇 日 、 〇 〇 株 式 会 社 (東 京  都 〇 区 〇 町 〇 丁 目 〇 番 〇 号 代 表 取 締 役 〇 〇 〇 〇 )に 譲 渡 い た し ま し た の で 、 ご 通 知 い た し ま す 。

( 譲 渡 債 権 の 表 示 )
令 和 〇 年 〇 月 〇 日 付 売 買 契 約 に 基 づ く 売 掛 債 権 金 〇 〇 〇 〇 万 〇 〇 〇 〇 円 以 上 、 ご 通 知 申 し 上 げ ま す 。
草 々 

令 和 〇 年 〇 月 〇 日
東 京 都 〇 区 〇 町 〇 丁 目 〇 番 〇 号
×  ×  株 式 会 社
代 表 取 締 役    ×   ×  ×  × 殿
東 京 都 〇 区 〇 町 〇 丁 目 〇 番 〇 号
              △  △  株 式 会 社
              代 表 取 締 役    △ △ △ △   印

債権質権

⑴意義
 質権とは、債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(民法342条)のことをいいます。

民法342条は「物」として規定していますが、民法362条は「財産権」を質権の目的とすることができると定めているため、債権も質権の対象にすることができます。債権を質権の目的とする質権を「債権質権」といいます。

⑵債権回収の方法
 例えば、保険金請求権を質権の目的としている場合において、保険金が発生するような事故が発生したときは、保険会社に対して保険金の支払いを請求して保険会から回収することができます。このように、質権者は、目的債権が金銭債権であるときは、自己の債権額に対応する部分に限り、直接に取り立てることができます(民法366条1項2項)。

 また、民事執行法に基づく実行も可能です(民事執行法193条)。この方法は、目的債権に条件等が付され、目的債権の取立てが困難な場合に有益です。

保証人からの回収

⑴意義
ア (通常)保証
保証とは、債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負うことをいいます(民法446条1項)。ここでの債務者を主たる債務者、その債務を主たる債務、主たる債務者のほかに主たる債務を履行する責任を負う人を保証人、その債務を保証債務といいます(中田裕康「債権総論(4版)」有斐閣557頁参照)。

イ 連帯保証
連帯保証とは、主たる債務者と連帯して債務を負担する保証(民法458条参照)のことをいいます。通常の保証と連帯保証の成立要件は同一であり、①書面により②保証契約締結③主たる債務の存在、の3点です。
ただし、連帯保証は、債権者と保証人との間の保証契約に「連帯して」という文言をつけることが通常です。
通常の保証と異なる点は、3点あります。

違い①-債権者は主たる債務者より先に連帯保証人に請求可能
連帯保証には催告の抗弁(民法452条)と検索の抗弁(民法453条)がないという点です。催告の抗弁とは、債権者が保証人に債務の履行を請求したときに、保証人がまず主たる債務者に催告するよう請求できる権利のことをいいます。検索の抗弁とは、催告の抗弁により催告を受けた債権者が主たる債務者に催告した後であっても、保証人が①主たる債務者に弁済の資力があり、かつ、②執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債権者の財産について執行しなければならないというものです。 連帯保証の場合には催告・検索の抗弁権がありません。

違い②-連帯保証人に生じた事由の効力が主たる債務者に及ぶ可能性アリ
通常の保証の場合、主たる債務者に生じた事由の効力は保証人に及びますが、保証人に生じた事由の効力は主たる債務者には及びません。
これに対し連帯保証の場合では、主たる債務者と保証人との間の関係について、連帯債務の規定が準用されている(民法458条)ため、違いが生じています。
民法458条は、保証人に生じた事由(更改、相殺、混同)の効力は債務者に及ぶと規定しています。更改とは、当事者が従前の債務に代えて、新たな債務を発生させる契約を締結することにより従前の債務が消滅することです(民法513条)(中田裕康「債権総論(4版)」有斐閣490頁参照)。混同とは、債権及び債務が同一人に帰属したときに、その債権が消滅することをいいます。
もっとも、民法458条は民法441条但書をも準用している点が重要です。これによると、債権者と主たる債務者との間で、連帯保証人について生じた事由が主たる債務者に効力を生じるという特約を締結したときは、その特約に従う旨を規定しています。

違い③-分別の利益がありません
 (通常)保証では、保証人が複数いる場合、各保証人は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負い、保証人の数によって分割されます(民法456条・427条)。これを分別の利益があるといいます。(通常)保証とは異なり、連帯保証人が複数人いる場合、それぞれの連帯保証人は全部を弁済する義務があり、保証人の数によって分割されません。したがって、連帯保証では分別の利益がありません。

⑵債権回収の方法
 以上のように保証には複数の種類がありますが、いずれの保証であっても、保証人が設定されている案件では、債権者は、保証人から債権回収を試みることに違いはありません。ただし、保証人と連帯保証人とでは、上述した①~③の違いが債権回収において、以下の違いとして現れます。

 違い①からの帰結として、債権回収の順番が決まります。
すなわち、連帯保証の場合は、連帯保証人にいきなり保証債務履行請求をすることができますし、主たる債務者に対して債務の履行請求をすることもできます。
他方、保証の場合は、まず主たる債務者に債務の履行請求をする必要があります。

 違い②の帰結として、特約がない限りは、連帯保証人に例えば更改という事由が生じた場合には、これが主たる債務者にも及び、主たる債務者に請求できる額が、消滅した債権の分減少します。
通常の保証の場合は、保証人に更改が生じても、主たる債務者に全額請求することが可能です。

 違い③からの帰結として、保証人に対して請求できる額が異なってきます。
通常の保証の場合は、保証人の数が5人であれば、そのうちの1人に保証債務履行請求をする場合は、請求額が5分の1になります。
5人全員に保証債務履行請求を行ってはじめて全額の回収が可能です。
他方、連帯保証では、連帯保証人が5人いる場合、通常の保証人のように、額を五等分する必要はなく、全額請求することができます。

当然に成立する担保権

動産売買先取特権

⑴意義
 動産売買先取特権とは、動産の売買契約を締結し、これに基づき売主が動産を買主に引き渡したが、買主が代金未払いの場合に、売主がその動産から動産の代価及びその利息の支払いを優先的に受けられる権利のことをいいます。

⑵債権回収の方法
①動産競売の申立て
動産売買先取特権としては、対象動産が債務者(取引先)のもとにある場合、動産競売の申立てをすることで、配当金から債権回収を行う方法があります。
この方法により債権回収を行う場合、差押えしようとする動産が、債権者と債務者の間の売買契約の目的物であることを立証する文書が必要ですから、取引基本契約書、見積書、発注書、請書、出荷依頼書、運送会社の荷受表、請求書、受領書、納品書などを用意しましょう。
この方法では、執行官が実際に差し押さえますので、差押対象物件の場所や保管状況などについて把握する必要があります。

②転売代金債権の差押え
対象動産が転売され、転売代金が取引先に対して未払いの場合、物上代位により転売代金債権を差し押さえることで、転売先から債権回収を行う方法があります。

この方法により債権回収を行う場合、

①対象物件が債権者と債務者の間の売買契約の目的物であること

②対象物件が債務者と第三債務者との間で転売されたこと

③①②の物件が同一であること

の3点を証明する必要があります。

これを証明する文書は取引基本契約書、見積書、発注書、請書、出荷依頼書、運送会社の荷受表、請求書、受領書、納品書などですが、これ以外に転売の事実を証明する文書(②を示す売買契約書、発注書、納品書など)も用意する必要があります。

証拠の他に重要な点は、転売先の協力を得ることです。転売先に買主に対する支払いを待ってもらえるかが重要です。

留置権

⑴意義
 留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権を有するとき、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置できる権利のことをいいます。
 留置権は法定担保物権であるので、契約なしで法律上の要件を満たすと当然に成立します。

その要件とは、

①他人の物であること
②その物に関して生じた債権を有すること
③その債権が弁済期にあること
④債権者がその物を占有していること
⑤その占有が不法行為によって始まったものでないこと

の5つです。

 契約によることなく当然生じる担保権であることがメリットですが、債権回収のための強制的な手続きが迅速に終了しないというデメリットが大きいです。

⑵債権回収の方法
 競売申立てをすることで債権回収を行います。
 ただし、実務上、物を留置することによって、債務者が支払をする契機が生じ、債権回収が事実上図れることが多くあります。

担保権以外の債権回収手段

代物弁済

⑴意義
債務の弁済に代えて債務者の資産を譲りうけることで債務を消滅させる方法があります。代物弁済という手段です。
代物弁済については民法482条に規定があります。

代物弁済を行うためには、

①債権が存在していること

②代物弁済契約の締結

③他の給付をしたこと

という3つの条件が必要です。

⑵代物弁済の要件
①「債権が存在していること」というのは、自社Xが取引先Yに対して売掛金がある場合のように、消滅させる債権が存在していることを意味します。代物弁済は、債権を消滅せることが目的なので、この条件が必要となります。

②「代物弁済契約の締結」は、「弁済者」「が、債権者との間で債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約」(民法482条)のことを指します。

③「ほかの給付をしたこと」
 注意したい点は、代物弁済の目的となる資産の額は債権の額と同一であることが要求されていない点です。
そのため、代物弁済により消滅する債権の範囲を特定しておくべきです。
また、適正な債権の範囲は、給付する対象の価値と同程度にすべきです。
なぜなら、給付する対象の価格が過大であるときは、取引先が不当利得返還請求により、自社が得すぎた利益を返還することを求めてくるリスクがあるからです。

債権譲渡

⑴意義
 債権譲渡とは、債権をその同一性を保ったまま移転することをいいます。
「債権の同一性を保ったまま」というのは、債権についている担保、保証、抗弁権も債権に随伴して移転するという意味です。
ただし、根抵当権が付いている債権を譲渡しても、新債権者は根抵当権を行使することができないという例外があることに注意してください(民法398条の7第1項参照)。

 したがって、人的担保や物的担保が付いている債権を譲り受けると、担保付の債権を譲り受けることができます。

 なお、債権を譲渡する者を「譲渡人」、債権を譲り受ける者を「譲受人」と呼びます。また、債権が二重譲渡された場合には「第三者」という用語を目にすることがあります。

⑵債権譲渡の要件
債権譲渡があった場合に、譲受人が債務者にその債権の履行を求めるためには、①譲受人が譲受債権の発生原因事実(例えば、「譲渡人が債務者にソフトウェアを100万円で売却したこと」)を主張することがまず必要です。

 さらに、債権の譲受人が①の債権を譲り受けたことを示さなければならないので、②①の債権の取得原因事実(例えば、「譲渡人が譲受人に対して①の債権を代金70万円で売った」)を説明することが必要です。

 そのため、債権譲渡に関する契約書には、①②を記載する必要があります

⑶対抗要件
 債権回収のために債務者が第三者に対して有する債権を譲受人が譲り受けるとき、債権譲渡の対抗要件を備えていることが要求されています(民法467条参照)。

債権譲渡の対抗要件として要求されるのは、「譲渡人が債務者に通知すること」または「債務者が承諾すること」(民法467条1項)のいずれかです。

そのため、譲受人が譲渡通知を作成し、譲渡人の署名押印を得て発送することを推奨します。

⑷譲渡制限特約(中田裕康「債権総論(4版)」有斐閣630―632頁参照)
 一般的な取引基本契約には債権の譲渡制限に関する条項が定められていることが通常です。

例)甲と乙は、相手方の書面による承諾なく、本契約上の権利又は義務を第三者に譲渡できないものとする。

このような譲渡制限特約に違反して債権譲渡を行った場合でも、原則として有効となります(民法466条2項)。

 原則と記載したため例外もあります。この例外としては、①債務者保護②譲受人保護のための例外規定があります。

①債務者保護規定(民法466条3項)
民法466条3項は、債務者が履行を拒絶できる場合について規定しています。
それによると、譲渡制限特約について知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対して、債務者は履行拒絶できるとしています。

ここでいう重大な過失というのは、譲渡制限特約の有無に関する調査義務違反の程度が著しいことをいいます。

また、債務者は、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって譲受人その他の第三者に対抗することができます(民法466条3項)。弁済その他の債務を消滅させる事由として想定されるのは一般的には相殺と説明されています(一問一答162頁)。

②譲受人保護規定(民法466条4項)
 民法466条4項は、債務者が債務を履行しない場合において、譲受人は債務者に対し、相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者は、履行拒絶も譲渡人に対する弁済等の対抗も、できなくなる(中田裕康「債権総論(4版)」有斐閣632頁参照)ことを規定しています。

⑸⑷の例外-預貯金債権の特則
 預貯金債権については、民法466条2項の例外規定が定められています(民法466条の4参照)。
預貯金債権が譲渡された場合、債務者(金融機関)は譲渡制限特約について知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対し、その特約を対抗することができます。


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