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資本政策とは?IPO(上場)成功に不可欠!目的や注意点について弁護士が解説

IPO準備に向けて最初にすることの1つに、資本政策の立案があります。
今後の会社の成長のために必要な資金調達額を考慮し、上場までの資金調達や、将来の株主構成をシミュレーションする必要があるからです。

初期投資がそれほど大きく必要ではないビジネスモデルであり、早い段階でサービスが市場に受け入れられ、短期的に黒字化でき、さらに事業拡大のフェーズにおいても、毎期利益が確実に出るもので、金融機関からの借り入れもスムーズに行えたというような場合、資本による資金調達を行っていない会社もあります。

しかし、上場にあたっては、会社の命運を決める業務であるので、担当業務の人は向こう2年間はこの業務に忙殺されるでしょうし、責任も重いものとなるため、慎重さが必要です。

今回は資本政策について詳しく説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「資本政策とは?IPO(上場)成功に不可欠!目的や注意点について弁護士が解説」
と題して、詳しく解説します。

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上場のための経営戦略としての資本政策とは

資本政策とは

IPOにおける資本政策とは、事業計画等に基づく企業価値の予測、資金調達ニーズの明確化、役職員等に対するストック・オプションの付与、創業者の持ち分比率維持や安定株主持分比率維持、創業者利益の実現等の様々な項目を考慮して、適切な株主構成を計画することを言います。
通常、資金調達フェーズごとに株主構成を明示した資本政策表を作成します。

企業の成長過程において、資本政策財務戦略は、最も重要な意思決定のひとつです。
企業が成長するためにはキャッシュを調達する必要があり、それを資本で調達する場合には企業の支配権(議決権)の変化を伴うからです。

資本政策の実行においては、赤外部から新たな資本を受け入れるケースもあって、一度実行すると修正が難しくなります。また、上場後の持株比率をどの程度維持していか、ということも考えなければなりません。そして、仮に上場に向けて新たな資本を受け入れるとしても、受け入れる株主の属性については注意が必要です。

ここで間違えた場合、取返しがつかない場合もあります。一例として、株主の中に反社会勢力がいれば上場はできなくなります。そのため、外部から資本を調達する場合は、特に慎重に事を進める必要があります。

すでに上場した企業にとっての資本政策は、資金調達手段の選択や安定した財務体質の実現、あるいは企業の支配権に主眼が置かれる場合には資本提携を通じた業務提携の手段として用いられます。
一方で、上場予定のない非公開企業にとっての資本政策は、企業の支配権の異動や、事業承継(相続)対策が主な目的となります。

上場を目指す企業にとっての資本政策は、こうした既上場企業や上場予定のない企業にとっての資本政策と共通する目的のほかに、重要なポイントがあります。

株式上場は、企業の株式が一般投資家の投資対象となることを意味するので、上場のための資本政策は、株式を投資対象(「銘柄」)として質的な変化に対応していくうえで必要な目的を含んだものでなければなりません。例えば、上場後の株式の流通性を確保するための施策や、安定株主対策が挙げられます。

上場のための資本政策においては、それまでの株主と異なる外部者に第三者割当増資等を通じて株主として参画してもらうことが多いです。

この時の外部株主の参画の意思決定と株価は、上場を目指す会社のビジネスプランが評価・吟味され、参画していきます。いわば、外部株主は会社のビジネスプランを信任した上で、参画してくるのです。
その一方で、株式はいったん発行ないし割り当てると、その後の買却等の処分は株主の自由意思に委ねられるため、資本政策は「やり直し」が困難という側面があります。

このためには、

  • まず株式上場後も視野に入れたビジネスプランを明確にし、
  • それを数値化した事業計画、「企業価値の実現計画」をその実現可能性も含めて十分に検討し、
  • その事業計画を前提とした資本政策を策定する必要があります。

したがって、株式上場のための資本政策は、上場企業としてのスタート台を決める重要な経営戦略の1つであります。
以下に、株式上場における資本政策の一般的な作り方を要約します。

【資本政策の作成手順】

ⅰ 株式上場とその後の数ヵ年を含むビジネスプランの策定
(経営理念の明確化、ビジネスモデルの明確化)
ⅱ ビジネスプランを具体化した中期経営計画の策定
ⅲ 株式上場のタイミングの決定と期待される上場時の時価総額の検討
ⅳ 資本政策の実施により達成すべき目的と実行手段の検討
(ア) 株式上場時の株主構成、株式数、予想株価
(イ) 事業計画に基づく資金調達必要額の検討
(ウ) 上場審査上必要とされる関係会社の整備の検討と整備の実施による株主構成の変化の検討
(エ) インセンティブプラン・事業提携・組織再編・事業承継等の検討
ⅴ 実行手段・対象者・実施時期の決定
ⅵ 各実行手段実施時の予想株価と発行株式数の決定
ⅶ 株主構成の変化状況のシミュレーションによる調整

資本政策は、達成すべき目的と実行手段の設定により、いくつものパターンがあります。
実現性の高い資本政策には、全体の資金計画および利益計画と相互に整合性を図ることが重要です。特に、利益計画を変更する場合には、資本政策で予定している株価の実現可能性にも影響が生じる可能性が高いため、適宜見直す必要があります。

まず、新たな投資を受け入れるか否かを決めていきます
既存株主の整理を行い、新たにエクイティ・ファイナンスをするか否かを決めます。ここでは、売上高や利益から、単に資金調達をするという観点から新たなエクイティ・ファイナンスの要否を考えます。利益が十分に出ていて、既存ビジネスを回していくだけであれば調達は必要がない、ということもあります。

次に、上場時に新たに株式を発行する公募によって株式を市場に出すか、既に持っている社長等が保有している株式を市場に売り出すかを考えます
前者を公募、後者を売出しといいます。

公募は、新たに資本金を組み入れることになるため資金調達に該当し、売出し創業者の利益実現に該当します。

売出しは創業者をはじめとする大株主の利益を確定することができ、これはリスクを負って起業した創業者の当然の権利といえます。

一方で新たな資金調達が行われるわけではないので、通常会社の成長性に寄与しないため売出しが多すぎると投資家からの印象もよくないでしょう。
次に、全体の持分比率のコントロールとして、上場後の持分比率をどのようにするかを決めます
社長等がオーナーであれば、実質的に会社をその人たちが100%支配していることになります。

しかし、上場するということは、一般の投資家も会社の株式を市場で売買できる状態にするということです。仮に50%売買できるとすると、社長等の持分合計も50%になりますので、一般的に会社を支配しているといわれる過半数の持分比率を維持できないことになります。

株主は、会社の所有者となるため、社長の持分比率が低ければ、当然株主から解任される可能性もないわけではありません。その点を踏まえて売出し比率、持分比率等を考える必要があります。
一般的に上場にあたっては、向こう5年間の中期経営計画を策定します。

そして、会社の将来的な価値をシミュレーションした上で、目標とする調達額に到達するよう、株式の売出し価格と数量を決定します。
企業価値が高ければ高いほど少ない発行株式で目標とする資金調達額を達成でき、創業者が持っている株式も高く売れることになります。

つまり、上場するまでにきちんとした事業計画を作りそれを達成し、会社の価値を上げた上で安定的に会社運営ができる水準の株式を創業オーナーに残して株式を売り出す、という方法が理想といえます。

また、資本政策の実行手段を決定する際には、法的規制等(会社法(以下「会」といいます。)、金融商品取引法、上場前規制、税制)に十分留意する必要があります。

株式上場における資本政策の目的

資本政策は、株主構成や保有比率を考慮しつつ実行される資金計画であると同時に、資本政策の実行手段、対象となる株主・潜在株主の属性などにより、複数の目的を達成することが可能な経営戦略でもあります。

株式上場における資本政策の目的としては、一般に以下のようなものが挙げられます。

  • ① 事業の成長に合わせたタイムリーな資金調達と株式上場時の安定した財務体質の実現(純資産比率の向上など)
  • ② 安定的な経営が可能な株主構成の維持(安定株主対策)
  • ③ 役員・従業員に対するインセンティブの付与(インセンティブプラン)
  • ④ 事業戦略パートナーとの関係強化(資本提携)
  • ⑤ 組織再編・関係会社整備(グループ再編・M&A)
  • ⑥ 高い流通性の期待できる上場株式数の確保(株式数の調整)
  • ⑦ 事業継承対策

これらの資本政策の目的を、実行手段と対象者(株主・潜在株主)の属性により整理すると下図のようになります。

≪資本政策の目的:実行手段と対象者の属性による分類≫

実行手段


対象者の属性
普通株式・
種類株式の新規発行
新規予約権・
新株予約権付社債の発行
株式移動・
自己株式の取得等
株式分割・
株式併合
合併・
会社分割・
株式交換・
株式移転
オーナー一族・
財産保全会社
資金調達・
安定株主対策・
事業承継対策
安定株主対策・
事業継承対策
安定株主対策株式数の調整 組織再編・
関係会社整備
役員・従業員・
従業員持株会
資金調達・
安定株主対策・
インセンティブプラン
インセンティブプラン
エンジェル・ベンチャーキャピタル資金調達 資金調達
金融機関資金調達・
安定株主対策
資金調達
事業戦略パートナー資金調達・
資本提携・
安定株主対策
資金調達・
資本提携・
安定株主対策
一般投資家資金調達 資金調達

資金調達

資本政策は、事業計画に関する記事(IPO(上場)準備は事業計画が命!!~計画の策定方法を解説~をご参照ください)の中の資金計画の資本(出資)部分の計画であり、事業の成長に合わせたタイムリーな資金調達は、資本政策の目的の中でも重要な項目の1つです。

資本による資金調達の重要なポイントは、調達コストです。一般的に資本による資金調達を行った場合、出資者に対して資金を返還する義務はないため、調達コストが割安であるとの誤解が生じることが少なくありません。

しかしながら、出資者の立場からすると、資金の回収リスクは、デット(負債)による投資と比して高いため、結果として出資者が期待する利益、すなわち会社側にとっての調達コストはデットより高くなるのです。

出資者は通常、配当または株式譲渡以外には投資の回収手段はないから、資本による資金調達を行った場合には、高配当又は(及び)高株価の実現が強く求められることを十分に認識しなければなりません。

安定株主対策

株式上場を達成するということは、同時に、一般株主(法人、個人含めて機関投資家から一般投資家までさまざまな属性の株主)が参入してくるということです。

一般的に、未上場会社の株主構成はオーナー経営者とその一族、また、創業関係者がほぼ100%の株式を保有するケース、つまり所有と経営が一致している場合が多いため、現実問題として一般株主が参入してくることに抵抗を感じる経営者は多いです。

つまり、これまでのような経営上の機動的な意思決定が図れないのではないか、株主代表訴訟を提起される心配はないのか、株主総会が荒れるのではないか、といった心配です。
特にここでは、経営の根幹にかかわる経営の意思決定の局面での重要な問題、株主総会での議決における主導権確保につながる安定株主対策について記載します。

会社法において定められている株主総会における決議には、

  • ①普通決議
  • ②特別決議
  • ③特殊決議

の3つがあります。

①の普通決議とは、定款に特別の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う決議です(会309①)。
この充足数は定款で排除可能なため、充足数を完全に排除し、単純に出席株主の議決権の過半数で決議することも可能です。
ただし、役員の選任・解任の決議については、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならないものとされている(会341)ので、当該決議については定足数を削減するにしても議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満とすることができません。

②の特別決議とは、当該株主総会において議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない決議です(会302②)。
逆にいうと、3分の1超を保有されると、これらの決議事項に対する拒否権を持たれることになります。

③の特殊決議とは、株式の譲渡制限を付する定款変更等の場合に要するものと、株主ごとに異なる取扱いをするための定款変更の場合(会109②)に要するものとがあります。
前者は、当該株主総会において議決権を行使することのできる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない決議です(会309③)。
後者は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の4分の3(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない決議です。

各決議が必要な主な項目は下記の図のとおりです。

各決議が必要な項目

株主総会特別決議が必要な主な項目(会309②)

株式譲渡等承認の請求を受けた場合における対象株式の買取りの決定(会140②)および取締役会非設置会社における指定買受人の指定の決定(会140⑤)

特定の株主からの自己株式の取得(会160①、156①)

全部取得条項付種類株式の全部取得(会171①)

相続その他の一般承認による株式取得者に対する株式売渡請求(会175①)

様式の併合(会180②)

非公開会社における募集株式の募集事項の決定等(会199②、200①、202③四)

非公開会社における募集新株予約権の募集事項の決定等(会238②、239①、241③四)

取締役会非設置会社における譲渡制限株式たる募集株式の割当の決定(会204②)

取締役会非設置会社における譲渡制限株式を目的たる株式とする募集新株予約権の割当の決定(会243②一)および譲渡制限新株予約権たる募集新株予約権の割当の決定(会243②二)

監査役および累積投票により選任された取締役の解任(会339①、342③~⑤)

役員等の損害賠償責任の一部免除(会425①)

資本金の減少(定時株主総会において欠損填補の範囲で行う場合以外)(会447①)

株主に金銭分配請求権を与えない現物配当(会454④)

定款の変更(会社法第2編第6章)

事業の譲渡等(会社法第2編第7章)

解散(会社法第2編第8章)

組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転(会社法第5編)

株主総会普通決議(定款で定足数の排除可能)が必要な主な項目(会305①)

会計監査人の選任・解任(会329、339)

役員の報酬等(会361、379、387)

自己株式の取得に関する事項の決定(会156①)

法定準備金の減少(会448①)

剰余金の額の減少(会450、451)

金銭による剰余金の配当(会454①)

株主総会普通決議(定款で定足数を3分の1未満とすることはできない)が必要な主な項目(会341)

役員の選任または解任(会329、339)

特殊決議(議決権の行使できる株主の半数であって、当該株主の議決権の3分の2以上の多数で決議)(総株主の半数であって、総株主の議決権の4分の3以上の多数で決議)が必要な主な項目(会309③)

吸収合併契約等の証人(会783①)

新設合併契約等の承認(会804①)

公開会社から非公開会社への定款変更

人的属性に基づき株主の権利を取扱う定款の変更(会109②)

株式上場とは、マイカンパニーからパブリックカンパニーへの変革であり、株式上場後は多数の一般株主が自社の株主となります。

したがって、株式上場後は、オーナー兼経営者は、自分自身が大株主であったとしても、少数株主の利益を考える必要がでてきて、自己の保身のための過度な持株比率維持を意図した安定株主対策をとることは許されなくなります
安定株主対策は、あくまでも経営権の確保による会社経営の安定化や株価安定維持を目的としたものでなければなりません。

このような観点から、上場準備企業のオーナーおよびその後継者は、取引先等の安定株主を含めた議決権の比率を資本政策の策定及び実行過程において検討することとなります。
安定株主の比率は、議決権の50%から70%といわれており、経営の安定化を図るために必要な程度を見極め、バランスよく安定株主づくりを進めることが必要です。
オーナーおよび後継者の議決権比率の下限としては、株主総会特別決議の拒否権となる、3分の1超の議決権の確保が一応の目安といえます。

インセンティブプラン

資本政策は、資金調達だけの話ではありません。
上場するには会社の成長性や安定性を証券取引所に認識してもらいます。上場を可能とする成長を実現するには、従業員のモチベーションアップが必須ですので、従業員に対するストック・オプションの付与を検討する必要があります。

企業の成長に伴い自身の資産形成が可能となるのであれば、会社の成長に貢献したいという意識(インセンティブ)が芽生えることになるため、役員・従業員に対するインセンティブプランの策定は、会社の成長戦略の一環として一般的に行われています。

インセンティブを付与するには、給料・賞与で直接的な方法もありますが、株式上場によるキャピタルゲインは、非常に大きなインセンティブになり得ます。
そのため、上場を目指す企業は、資本によるインセンティブプランを活用することが多いです。インセンティブプランそのものは本来、人事戦略として位置付けられるものです。もし資本を用いるのであれば、株主構成や潜在株式比率に影響を与えるため、資本政策の中に組み込んで検討する必要があります。

資本によるインセンティブプランは、大きく分けて、ストック・オプション従業員持株会があります。
これらは、報酬・給与とは別のかたちでのインセンティブや士気向上として機能し得るものではありますが、いずれもその分だけ発行済株式総数が増加し、既存の株主(多くの場合社長でしょう)の会社への支配比率が低下する可能性を内包しています。

前述の通り、資本政策はやり直しが非常に困難なので、実行前に慎重に検討しましょう。ストック・オプションや持株会を導入するにしても、その利害損失を十分に知ったうえで慎重に導入を考えましょう。

上場を目指す企業で活用するケースが多いストック・オプションは、役員・従業員に対し株価が相対的に割安な時期に第三者割当増資を行うこともインセンティブの付与のための有効な手法です。具体的な違いは下記のとおりです。

ストック・オプション

概要

・役職員等(外部者を含む)に対して、無償で新株予約権を付与する制度

メリット

・将来の利益を報酬として、役職員等から強いコミットを引き出せる
・権利付与時点での資金負担がない

デメリット

・インセンティブ効果は低い
・退職は持株会退会事由であり、キャピタル
・ゲイン取得のためにIPO時までの在籍が必要

資本政策
上の特徴

・株主構成が安定し、敵対的買収に対する抑止力になる

ストック・オプションは、有償で発行される場合と無償で発行される場合とがありますが、いずれも新株予約権の発行として位置づけられます(会238条)。

新株予約権とは、株主会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(同法2条21号)。

従業員持株会

概要

拠出金の給与公序、奨励金の支給などの種々の便宜を与えることにより、従業員の自社株取得を容易にし、財産形成を助成する制度

メリット

・社員の忠誠心の向上になる
・持株会により自社株の継続的取得に伴う安定株主の創設
・給与天引きで積み立てられ、無理なく財産形成が可能

デメリット

・権利行使ができなくなると、モチベーションの低下を招く・企業価値のディスカウント要因となる

資本政策上の特徴

・上場後は売却されることが多く、安定株主記としての役割は期待できない

従業員持株精度とは、会社が従業員に自社株を保有してもらい株主としての資格を持たせることを奨励する制度をいいます。 br>従業員から会員を募り、給料または賞与から天引きされた拠出金を原資として株式を共同購入し、拠出額に応じて持分を配分する方法で運営するための常設機関が持株会であり、会社が株式上場することに伴う従業員の財産形成と安定株主としての意義から多くの会社で広く採用されています。従業員持株制度に関する記事はこちらをご覧下さい。

退職者によるストック・オプションの行使を認める場合~

従業員に付与するストック・オプションは、当該従業員が退職した後に増加した企業価値から利益を得させることを防止して適正なインセンティブを与えられるように、行使時点の在職を行使条件とすることが一般的です。

ただ、定年退職や会社都合による退職など、従業員のためにストック・オプションの行使を認めることが合理的な場合もあります。
とすると、定年退職をした場合や、取締役会が「正当な理由」があると認める場合には、退職した従業員にもその行使を認める旨の行使条件を予め定めておくことがよくあります。

この場合、退職者にストック・オプションの行使を認めるかどうかは、取締役会が「正当な理由」があるかどうかによって判断することになります。
会社の勧奨に応じて円満退社した従業員とその後に紛争が生じてしまったようなときであっても退職時点の状況にかんがみて、「正当な理由」があるものとして行使を認めるべきでしょうか。

このような場合では、元従業員がストック・オプションを行使できる地位にあることの確認を会社に求めた訴訟があります。
この裁判では、「正当な理由」とは、企業価値の向上に対する貢献という見地から在籍する従業員と同等に扱うことを正当化する事由がある場合を意味するものとし、また、「正当な理由」の有無は行使を認める取締役会の決議時点までの事情を考慮することができると述べて、当該元従業金について「正当な理由」は認められないと判断されたのです。【東京高判平成28・11・10】

資本提携

事業戦略上の重要なパートナーとの関係を強化するために、第三者割当増資を行い、資本提携が実施されることがあります。
この場合、増資の相手先は安定株主として機能することが期待できるため、資本提携を目的とする増資には、資金調達と安定株主対策が両立できるという特徴があります。

その反面、自社のビジネスプランが変更となった場合や、当該パートナーの戦略が変更となって自社との提携を必要としなくなった場合は、株式の移動等が必要となるリスクもあります

資本提携の手法としては、第三者割当増資のほか、段階的な資本提携を行うために新株予約権が利用されることもあります。

関係会社整備、グループ再編・M&A

一般に、未上場企業においては、その関連企業としてオーナーの個人所有会社があったり、目的の不明確な関係会社・赤字続きの関係会社がある場合が散見されたりします。
上場審査上、このような関係会社との資本関係・取引関係の整備が要請されることが多いです。

関係会社の整備は、合併や100%子会社化、株式の買取り等を伴うため、上場申請会社の株主構成や発行済株式数、利益水準等に影響を与えます。
このため、関係会社による影響を含めた資本政策を立案しないと、事後的に上場審査上の要請により大きく資本構成が変化し、資本政策の前提が狂います。

とすると、関係会社の整備は、資本政策立案において重要な前提となるため、早い段階で十分な検討を行うことが望ましいでしょう。

当然、上場審査上の要請とは別に、収益性の向上、効率的な組織運営のためにグループ内の再編を実施することも必要です。

株式数の調整

投資単位当たりの株価が高い場合、需要が減り、株式の流動性が低下する傾向があります。表面上1株あたりの株価の絶対額の高低が、その銘柄のイメージを左右して、円滑な価格形成を妨害することもあるといわれています。

東京証券取引所では、望ましい投資単価として、5~50万円という水準を明示し、上場企業に対してその維持に努めることを求めています。

一方、投資単価(株式売買の最低単位)は日本の場合一単元となっていますが、一単元の株式の数については上場審査基準上100株と規定されています。

よって、資本政策上の、上場時の想定株価及び投資単位の想定金額をシミュレートし、株式分割・併合により調整を行うことになるでしょう。

事業承継対策

資本政策における事業承継対策は、主としてオーナー経営者が保有する自社株の相続税評価額の引き下げや、後継者へのスムーズな経営権の移転が目的です。
新株予約権や財産保全会社の活用が代表的な対策法です。

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