澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「著作権譲渡契約とは? 締結のポイントも解説!」
について、詳しくご説明します。
著作権の譲渡一般
著作者人格権は一身専属性であることから譲渡ができませんが(著作権法59条)、著作権は財産権であるため、第三者に対して譲渡することができます(著作権法61条1項)。
また、著作権は、複製権や翻案権、上映権、演奏権等の個々の権利(これら権利はそれぞれ支分権といいます。)が束になっていることから、とある著作物についての著作権全部を譲渡するだけでなく、その一部の権利だけを譲渡することも可能です(同条同項)。
例えば、翻案権を譲渡人に留保して、複製権のみ譲渡したりすることがこれに当たります。
特定の支分権の一部のみを譲渡することも可能です。そのため、複製権について録音権と録画権に分けた上で、録音権のみを譲渡する、ということもできます。
加えて、期限を定めたり支分権を行使する地域を限定したりして、支分権を譲渡することも可能です。
例えば、「2020年10月31日まで」という期限付きで複製権を譲渡することがこれに当たります。この場合その期限が満了すれば複製権は著作権の譲受人から譲渡人に戻されることになります。
著作権譲渡契約とライセンス契約のどちらが良いか
著作権取引においては、著作権を有する著作者が、その著作権を譲渡してしまうことに対して抵抗を感じたり、あえて著作権を譲渡しなくとも著作物についての利用許諾でニーズが満たされたりすることも多いことから、著作権譲渡契約よりも著作権利用許諾契約(ライセンス契約)が締結されることも少なくありません。
では、著作物を利用したい場合には、著作権譲渡契約を締結した方が良いのか、それともライセンス契約の締結で済ませるべきかが悩みどころになります。
そもそも、ライセンス契約は著作物の利用許諾する契約であることから、当然のことながら著作権は著作権者(ライセンサー)が有したままとなります。
そして、著作権者(ライセンサー)に対して著作物を利用する側(ライセンシー)は、利用の対価として使用料を支払うことになります。
また、契約で特段の定めをしない限りは、ライセンサーは、複数の者に対して著作物の利用許諾が可能です。
このため、著作権の利用を検討している立場からすると、長期間、著作物を独占して利用したい場合には市場競争原理やコスト面等からライセンス契約は不向きであり、著作権譲渡契約を締結すべきといえます。
他方で、非独占的な短期間の利用を考えている場合にはライセンス契約で十分足りる場合が多いといえるでしょう。
なお、著作権譲渡契約を締結した場合には、著作物の著作権を譲り受けることになりますので、第三者が著作権侵害行為をした場合には、侵害差止訴訟等の原告になれるうえ、著作権登録をする際には名義人になることができるというメリットもあります。
著作権登録については、「著作権の登録制度とは?登録方法やメリットについても解説」をご参照ください。
ライセンス契約では、第三者による著作権侵害行為に対して、ライセンシー自らが警告文を侵害者に発することができず、迅速に対応ができないので、この点は注意が必要でしょう。
以上から、著作権譲渡契約を締結すべきか、それともライセンス契約で足りるか否かは、それぞれの著作物の利用ニーズに合わせて選択したいところです。
著作権を譲り受けるにあたっての注意点
著作物を利用するにあたり、ライセンス契約ではなく著作権譲渡契約を締結しようとした場合、具体的にはどういった点に注意しなければいけないのか、以下、事後的な紛争予防の観点から必ずチェックすべき事項を説明していきます。
著作権譲渡契約の対象となる著作物と権利の内容が特定されているか
そもそも著作権譲渡契約は、著作物や著作権を売買対象とする売買契約であることから、通常の売買契約と同様、売買の目的物が具体的に特定されていなければいけません。
特定されていないと、事後的に著作権の使用をめぐってトラブルになることがあるでしょう。特定の方法としては、著作物については、そのタイトル名や作者名等、著作物に関する情報を具体的に記載すること等が挙げられます。
他方で権利内容については、売買対象となる著作物についての著作権全部なのか、それとも、例えば複製権のみなのか、複製権のうち録音権だけなのか、譲渡対象となる権利の具体的内容を明らかにしなければいけません。
著作権法27条・28条所定の権利を譲渡する場合、そのことが記載されているか
著作権法27条は翻訳権、翻案権等を規定しており、著作権法28条は二次的著作物利用に関する原著作者の権利を定めています。
そして、著作権法61条2項は、「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する」としています。
これにより、著作権譲渡契約を締結する際に、著作権譲渡契約書に「著作物に関する一切の著作権を譲渡する。」と規定をしたとしても、上記の特掲がなければ著作権法27条及び28条所定の権利は譲渡人に留保されてしまう結果となります。
そのため、著作権法27条、28条所定の権利を含む一切の権利を譲り受けたい場合には、契約条項に、「著作物に関する一切の著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む。)を譲渡する。」という記載や、「著作物についての翻訳権、翻案権等及び二次的著作物利用に関する原著作者の権利等、著作権法に規定する一切の著作権を譲渡する。」という 記載をして、著作権法61条2項の「特掲」の要件を満たさなければいけない点に注意が必要です。
なお、著作権法61条2項は「推定する」としていることから、著作権法27条、28条所定の権利も含めて譲渡する予定であったことを立証することができれば、その推定を覆すことも可能ではあります。
しかし、推定を覆すことが困難な場合もありますし、このような無用なトラブルを回避することが契約書作成の目的の1つですから、著作権譲渡契約書を作成する際には、上記について留意することは必須といえるでしょう。
著作者人格権不行使特約が規定されているか
著作権は譲渡することができますが、著作者人格権(※1)は著作者に認められる一身専属的な権利であるため譲渡ができません。
そのため、著作権を譲渡した後であってもなお、著作者は著作者人格権を有することになります。
これにより、例えば、ある小説の翻案権を著作権譲渡契約により取得した場合において、その小説の翻案制作物になるアニメの制作をしようとした際、その小説の著作者(原著作者)が小説と異なる内容の制作を止めるよう、同一性保持権(※2)侵害を主張することが考えられます。
そこで、著作権譲渡の場面において、著作者による同一性保持権行使をどのように防ぐかが焦点となるところ、実務上、主に用いられている方法としては、著作権譲渡契約において著作者人格権不行使特約の規定を設けることが挙げられます。
なお、少々踏み込んだ議論になりますが、著作者人格権不行使特約は、著作者と著作権の譲受人との間で取り交わされる特約であることから、著作物を第三者に依頼して修正をしてもらったり、第三者へ著作権を譲渡したりする場合、その第三者は著作者に対して特約の存在を主張できるかが問題になります。
このような問題にも備えて、著作権の譲受人のみならず第三者まで含めて不行使対象として記載することで、著作者が著作権の譲受人のみならず 譲受人と当該著作物・著作権に関する取引をした第三者に対しても同一性保持権侵害等の主張をできないと規定をすることが望ましいでしょう。
以上を踏まえると、著作物の制作者に委託料を支払って、著作物の制作を発注する場合には、契約書に「制作者は注文者及び注文者指定の第三者に対して著作者人格権を一切行使しない。」というような記載をすべきだと考えられます。
ただし、著作者人格権不行使特約について、多くの学説は有効としており、実務上も有効であることを前提に契約書を作成することが多いのですが、司法の確定的判断はありません。
特に著作者の名誉・声望を害するような改変について、著作者人格権不行使とする特約は公序良俗に反し無効となるという議論もあります。
そのため、仮に特約が無効であっても著作者人格権の侵害とならないよう、著作物の取扱いには注意をしたほうがよいでしょう。
著作者人格権については、別記事「著作者人格権とは?著作者死後の人格的利益の保護についても解説」で説明しています。
名誉声望保持権(著作権法113条7項)を含めて4つと数えることもあります。
※2 著作権法20条1項に規定されており、著作物及びそのタイトルの同一性を保持する権利であって、著作者の意に反して変更や切除、その他の改変を受けないことを保護する権利です。
著作権が二重譲渡されていないか
そもそも、著作権は当事者の意思表示のみによって譲渡されますので、例えば、不動産の二重譲渡のように、著作権も原著作権者によって二重に譲渡されるといったことがあります。
このように、著作権の二重譲渡が問題になった場合には、著作権に関する譲受人間の優劣が問題となり、文化庁への登録がなければ第三者に対抗することができません(著作権法77条1号)。(ただし、プログラムの著作物に関しては、財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)が指定登録機関として登録事務を行っています。)
例えば、Xが著作権をAとB両者に譲渡した場合において、Aが文化庁へ登録してしまえば、BはAに対して対抗できないということです 。
なお、知財高判平成20年3月27日の判例法理に基づけば、Aが、XからBへの著作権譲渡の事実を知っているのみならず、Bへの加害目的でAがXから著作権を譲り受けたというような背信的事情がある場合には、Aは第三者に当たらないことによってBはAに対して対抗できるため、Bが著作権者となります。
しかし、実際上は文化庁への登録制度はほぼ利用されておらず、特に音楽の著作物に関してはJASRACの登録のみで済まされているのが現状です。
もっとも、トラブル予防・トラブル発生時のコストを抑える観点からすれば、上記登録制度を利用するか、少なくとも契約書に「著作権譲渡と矛盾する契約を他の第三者と現在締結しておらず、今後も締結しない旨」を表明保証させることによって、二重譲渡を未然に防ぐことが重要と考えられます。
そして、表明保証に違反した場合に生じた損害については、適切な違約金を定める等、制裁条項を契約書に盛り込むことが最善と考えられます。
契約時に想定されていない権利は譲渡対象となるのか
著作権譲渡契約書には、売買対象となる著作物や著作権の内容を具体的に特定するべきと解説をしてきました。
それでは、具体的に特定しなかった場合には、どのようなトラブルが発生し、そのトラブルに対して司法はどのような判断をするのか、判例に触れつつ少しだけ見ていきましょう。
例えば、東京地判平成19年4月27日 HEAT WAVE事件では、アーティストとレコード会社との間で締結された専属実演家契約において、「一切の権利」を譲渡するとされていたところ、契約締結当時の著作権法には定められていなかった実演家の送信可能化権(著作権法92条の2)についてもその「一切の権利」に含まれるか問題となりました。
結果的には、契約の文言や契約締結当時の音楽配信に関する状況、その当時の著作権法の規定や業界の慣行、対価の相当性等の諸事情を総合考慮して、実演家の送信可能化権も「一切の権利」に含まれるとされました。
また、東京高判平成15年8月7日「怪傑ライオン丸」事件では、テレビ番組の放送権についての譲渡契約で定めた放送権に、契約締結時に存在しなかった有線放送権及び衛星放送権を含むかが問題になりました。
結果として、交渉過程における著作権の譲受人と譲渡人の立場を踏まえ、有線放送については契約締結時にあえて譲渡対象として明記しなかった点や、衛星放送についても契約締結時に「将来発生する放送形態も含む」と規定できたのに明記しなかった点をとらえて、それら権利は放送権に含まれないとしました。
これら裁判例においては、契約当事者間の合理的意思や交渉過程等を考慮するのみならず、対象となる著作権がどのような業界に属する権利なのか(例えば音楽業界に属しているのか、映像関連業界に属しているのか)、その業界の慣行はどうなのかといった点も、譲渡契約の対象となる権利の確定に影響を及ぼしていると考えられます。
まとめ
著作権譲渡契約は、著作権という権利を売買対象とする売買契約ではありますが、不動産といった有体物を売買対象とする売買契約とは異なる、著作権法が絡む独自の注意点が数多く存在します。
特に、著作者との間で生じる事後的なトラブルを防止する観点から、著作権を譲り受ける際には、これら注意点をしっかりと踏まえた契約書の作成を心掛けるべきです。
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