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在宅勤務(テレワーク)導入のポイントは?【労務管理の重要性】


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「在宅勤務(テレワーク)導入のポイントは?【労務管理の重要性】」
について、詳しく解説します。

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在宅勤務について

ここ最近、多くの企業で推進されている「在宅勤務」。この定義について説明します。

在宅勤務とは、テレワークの1つの形態であり、テレワークは在宅勤務よりも広い概念です。最近では、テレワークのことをリモート(=遠隔)ワークと呼ぶこともありますが、同意義と考えてよいでしょう。

本来、テレワークとは「tele=離れた所」と「work=働く」とを掛け合わせた造語です。
ICTを活用した、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をさします。

※ICT=Information and Communication Technology(情報通信技術)

テレワークには大きく3つあり、
・従業員の自宅で仕事を行う「在宅勤務
・取引先のオフィスや移動途中の駅、カフェなどで仕事を行う「モバイルワーク
・専門の事業者が提供するサテライトオフィスやコワーキングスペース、自社で整備した専用施設などで仕事を行う「サードプレイスオフィス勤務
が含まれます。

在宅勤務 モバイルワーク サードプレイスオフィス勤務
従業員の自宅 電車、バス、飛行機
ホテルのラウンジカフェ
シェアオフィス
コワーキングスペース
レンタルオフィス

在宅勤務のメリット・デメリット

在宅勤務は、育児や介護、家事といった家庭の事情に柔軟に対応できるというメリットがあり、企業としても人材不足を専業主婦(夫)やシニアなどの潜在的な労働力で確保する1つの策として注目されています。

従業員側にとっては、電車通勤から解放されること、移動時間の削減、これらに伴う生活の質の工場や生産性の向上などのメリットがあります。

一方で、在宅勤務は「仕事のオン・オフが切り替えづらい」「長時間労働になりやすい」という懸念もあります。セキュリティの観点からもリスクもあります。

在宅勤務に関する法的問題点

新型コロナウイルス対策を機に、在宅勤務は広がりを見せており、会社において制度の整備が進められています。在宅勤務は、感染症対策となるだけでなく、多様な働き方を後押しするものである一方で、制度の設計や運用に気をつけなければ、法的問題を引き起こす一因となります。

例えば、在宅勤務であっても、使用者は労働者の労働時間を把握し、所定労働時間外の労働が生じれば割り増し賃金を支払う義務が生じます。

しかし、在宅勤務は労働時間の算定が難しく、一定の労働時間働いたものとみなして取り扱う例が散見されます。
確かに、「労働時間を算定し難いとき」には「所定労働時間労働したものとみなす」ことは法律上定められた取り扱いです(労働基準法38条の2第1項)。

メールや電話等で容易に連絡が取れ、使用者の指揮命令が及びやすい現代において、「労働時間を算定し難い」場面は限られているため、かかる取り扱いが違法となる場合があるのです。

また、在宅勤務では、職場での勤務に比べ、使用者の監督の目が届きにくいことから、インターネットの閲覧記録等のモニタリングが行われることがあります。

従業員のモニタリングを行う場合には、以下の方法であることが求められます。
(個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A」)

  • ①モニタリングの目的をあらかじめ特定した上で、社内規程等に定め、従業員に明示すること
  • ②モニタリングの実施に関する責任者及びその権限を定めること
  • ③あらかじめモニタリングの実施に関するルールを策定し、その内容を運用者に徹底すること
  • ④モニタリングをあらかじめ定めたルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと

こうした点の考慮に欠くモニタリングは、従業員のプライバシー侵害となるおそれがあるのです。

IPO準備段階における労務管理の重要性

株式上場を意識する前の会社は、概して組織が小さく1人ひとりの社員の顔が見えており、さほど労務管理に気を遣うことは必要なかったと思います。

また、小規模であれば、社長を中心とした創業メンバーに共感して集まった従業員が多かったため、会社を大きくしていくことそのものが楽しく、会社に拘束される時間もいとわずに働くことも苦ではないということもあります。

ところが、株式上場を控えると、会社の発展に伴って、創業時のメンバーとは異なる意識を持つ従業員が増えてきます。

そこで、会社の成長と発展に合わせて、人材を仕組みにより管理していく、労務について経営管理体制の整備を図ることが求められます。

上場審査の重要項目としての労務管理

上場審査における重要な項目として、「労務管理」が示されています。

具体的には、残業時間の管理、未払残業代、管理監督者の範囲などをいいます。IPO準備の過程において、人の管理について重要視されているのです。

その理由は、労働に係る法令を遵守していない会社は継続性や健全性が不安定であり、上場会社としてふさわしくないと考えられるからです。

上場審査において、労務管理に係る問題が発見されると、この点について、弁護士が作成した意見書を提出することが求められることもあります。

IPOからみた労務ストラテジー

IPOにより、会社の知名度が高まるとともに、厳格な上場審査を経たことで、会社の労務管理体制や従業員の福利厚生の適切な構築が確保されて、優秀な人材からの応募が増え、会社の人材採用力が強化されます。

対して、IPO準備は、上場審査のためにIPOの準備を担当する特定の従業員の業務量が増加することがあります。
この業務量増加によって、当該従業員に長時間労働などの負荷がかかり、ストレスや不満がたまり、その結果精神病になって退職したり、労働組合などを通じて待遇の改善を目的とした争議の提起を行ったりすることがあります。
このようなトラブルが、上場申請時までの解消できていない場合、IPOにとって大きな障害となりかねません。

また、このようなトラブルは、IPO後もいわゆる「ブラック企業」として会社やブランディングに少なからぬ悪影響を受けた例もあります。

最近では、SNSなどでネガティブな情報を書き込む人も多く、それが拡散されるとマスコミで報道されるなど、会社の評判に深刻なダメージを与えることもあり、IPOを達成したにもかかわらず、人材の確保が困難となるケースもあります。

そのため、IPOを検討するにあたっては、適切な労務管理がなされていることが極めて重要となります。

そして、在宅勤務となると前述のとおり、長時間労働になることや、労働の可視化が難しいことから、適切なサポート、制度の確立が求められます。

労務管理を行うにあたっては、多数の法律が存在し、会社はそのすべてを遵守しなければならず、遺漏のないようにするためにも、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談しつつ慎重に対応すべきです

不適切な労務管理に基づく労務問題

では、適切な労務管理がなされないと、会社ではどのような労務問題が発生するのでしょうか。具体的に説明します。

労働基準監督署による、是正勧告の典型的な項目は以下の通りです。

労働時間
・労働時間の適正把握 
・法定労働時間の超過

割増賃金
・残業代の不払い
・割増率の間違い
・管理職への深夜割増不払い
・割増賃金の計算ベースからの諸手当除外

時間外・休日協定
・時間外、休日労働の協定不締結 
・代表者の選任方法が不適切
・36協定の周知不徹底 
・協定時間の超過

法定帳簿
・法定帳簿(労働者名簿、賃金台帳の不備) 
・労働者名簿の記載漏れ 
・賃金台帳の記載漏れ 
・帳簿保存期間の不備

健康診断
・雇い入れ時の健康診断未実施 
・定期健康診断の未実施 
・パート社員の健康診断未実施

就業規則
・就業規則の未作成 
・変更届の未提出 
・法改正への未対応 
・従業員への周知不徹底

これらは、在宅勤務に限らず問題となるものですが、在宅勤務という、同じ場所で見える状態での業務遂行でないという特殊性から、より一層注視が必要です。

従業員との間における紛争など

不適切な労務管理の結果、従業員が会社に対し、クレーム・苦情申立てを行い、最悪の場合、紛争に発展することがあります。

代表的なケースは以下のとおりです。

未払賃金

・割増賃金の支払い
割増賃金の適用範囲及びその割増率の最低基準は、労働基準法により定められており、これを下回る任意の定めは無効となります。
従業員が、時間外労働、休日労働、または深夜労働をした場合には、割増賃金率に従った、所定の割増賃金を支払わなければなりません。

しかし、労働時間に係る法規については、誤った解釈がなされることが多く、それにより未払賃金が発生し、従業員から当該未払賃金を後になって請求されることはめずらしいことではありません。

さらに、未払賃金請求訴訟が提起され、認容されれば、未払賃金はもちろん、付加金(未払賃金と同一額)を支払わなければならない可能性があり(労働基準法114条)、その金額は多額となる傾向になります。
賃金に係る請求権は2年で消滅時効となりますので(同法115条)、過去の未払賃金につき、最長で2年間は支払請求を受ける可能性があることに注意が必要です。

このことから、従業員の労働時間の管理には、最大限の配慮が必要なのです。

・固定額の支払いによる場合
前述のとおり、解釈上、未払賃金の問題が発生しやすいのが、固定額の支払いによる場合です。

労働時間の煩雑さを回避するため、割増賃金を毎月定額で支払う方法を採用する会社は少なくありません。このような割増賃金の支払い方法は、当該固定額が、実際の時間外労働時間を基に労働基準法に基づいて計算された割増賃金を上回っていれば問題ありません。

しかし、同法に基づく割増賃金について十分検証せずに当該固定額を決めた場合、従業員が実際に勤務した時間に基づいて計算した割増賃金の方が、当該固定額よりも高額となることがあるのです。

このような場合、当該固定額に加え、その超過分の割増賃金の支払いが必要です。

・管理監督者の場合
労働基準法上、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)は、時間外・休日労働をした場合でも、割増賃金を支払う必要はありません(同法41条)。

ただし、深夜労働の場合は、一般の従業員と同様、割増賃金が発生することに注意が必要です。

多くの会社では、課長、部長といった役職者を管理監督者としています。そのため、そのような役職者が、管理監督者にあたるのかが問題となります。いわゆる「名ばかり管理職」となるのでは、という問題です。

この点、行政通達や裁判例では、管理監督者は「部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず実態で判断すべき」としています。
【昭和63・3・14】【日本マクドナルド事件 東京地判平成20・1・28】

管理監督者の該当性、すなわち経営者と一体的な立場にある者であるか否かは、

  • ㋐労務管理について経営者と一体的な立場にあるといえるか
  • ㋑勤務態様が労働時間の規制になじむものか
  • ㋒その地位にふさわしい待遇がなされているか否か

の3点が考慮されます。

そのため、管理職の肩書があっても、管理監督者には該当しないことが当然あり得るのです。その結果、十分に実態について考慮しないまま、課長や部長について肩書のみによって形式的に管理監督者として扱ってしまった場合、後々、管理監督者に該当しないと判断され、時間外・休日労働に係る未払いの割増賃金を支払わなければならないという事態となり得ます。

・年俸制の場合
年俸制とは、年単位で賃金を支払う制度で、年俸の金額は、従業員の前年度の実績などをふまえて決定されることが多いです。

年俸制では割増賃金はすでに含まれているとして、支払い不要と解釈されることがありますが、これは誤った解釈です。同制度においても、時間外労働などに係る割増賃金の支払いは必要です。

また、残業代を年俸に含む形式で、労働契約を締結することは可能ですが、この場合、少なくとも、本来の年俸額と法定労働時間を超えた労働時間に対する残業代を明確に区分する必要があります。
この場合、毎月定額で支給している残業代が、実際に働いた時間外労働の時間に基づく割増賃金よりも低額であれば、不足分の支払いをしなければいけません。

従業員の退職

解雇には、大きく分けて、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の類型があり、各解雇を行うには、それぞれ要件などが異なります。

従業員のうつ病などが業務に起因するものと判断されると、その治療期間中および当該期間後の30日間は原則として普通解雇することができません(労働基準法19条1項本文)。
このような規制についての理解が不十分なまま、会社が一方的に解雇を行い、従業員から解雇の無効を主張されるケースがあります。仮に解雇が無効となった場合、当該従業員に対して解雇日からの未払い賃金を支払う必要があり、また、解雇権を濫用する会社として報道されてレビュテーションリスクを負うおそれもあります。

懲戒解雇については、厳格な手続を要しますが、その内容について十分理解されていないことが多いため、紛争が起こりやすいといえます。
懲戒解雇を行うためには、まず、就業規則に懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が明記されていなければなりません。すなわち、経歴詐称や職務懈怠、業務命令違背、業務妨害や職場規律違反といったことが懲戒事由に該当すること、および、それらの事由が認められた際には会社は懲戒解雇を行い得ることが就業規則に記載されていることが必要です。
在宅勤務という新しい業務形態を導入したのであれば、それに対する禁止事項を盛り込むなど、就業規則の改定も視野に入れるといいでしょう。

次に、懲戒解雇の相当性が求められます。懲戒処分には、懲戒解雇のほかに、戒告減給降格出勤停止などの処分があります。懲戒事由や被処分者に関する事情を適切に酌量しても懲戒解雇は重きに失し相当でない、と認められる場合には懲戒権濫用として、懲戒処分が無効となります。また、手続きの面でも本人に弁解の機会を与えるなどの配慮が必要です。
懲戒解雇にあたっては、退職金の全部または一部が支給されない、ということが多く見受けられますが、このような措置も、退職金規定などに明記があって初めて行えるものであることに注意が必要です。

解雇または退職勧奨(任意での退職を促す方法)のいずれの方法をとるにしても、企業は慎重に対応する必要があり、この対応を誤ると、従業員との間で紛争が発生し、会社が多額の金銭的負担を負うことにもなりかねません。
そのほか、円満に会社を辞める場合でも、営業秘密の管理やインサイダー情報の管理などにも注意が必要です。
そのため、従業員の退社(特に解雇・退職勧奨による退社)について検討するにあたっては、そのスキームを含め、労働法に精通した弁護士などの専門家に相談しつつ、手続を進めましょう。

労働時間

会社は、労働時間の適正な把握および労働者の健康管理のため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録し、これを3年間保存しなければなりません。

労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認・記録する方法としては、原則、使用者の現認に基づく記録、または、タイムカード、ICカード等の客観的記録のいずれかによるべきものとされています。
ただし、これらの方法に拠ることができない場合、例外的に労働者の自己申告制に基づく労働時間の確認・記録も認められています。

労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。労働時間に当たるか否かは、「労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できるか否か」を基準に判断されます。必ずしも、契約や就業規則等の定めにより決定されるものではないことに注意が必要です。

労働時間に当たるか否かについて、問題となるのは、以下の通りです。

労働時間にあたる例
・休憩中において、電話番や顧客対応をしている時間
・参加義務のある勉強会、会議、委員会等に参加している時間
・会社所定の場所(更衣室等)において会社所定の作業着に着替えることが就業規則等により義務づけられ、これに従うことを余儀なくされている場合における、更衣時間

労働時間にあたらない例
・出張旅行時間、事業場間の移動時間
・参加義務のない勉強会、会議、委員会等に参加している時間
・労働者が、(会社の黙認や許可なく)自発的に持ち帰り残業

在宅勤務の場合、休憩時間や、持ち帰り残業というような概念が曖昧になってしまうことが少なくありませんので、注意が必要です。

法定労働時間は、原則、1日8時間、週40時間 です。
この法定労働時間を超える労働、または法定休日の労働について労働基準法違反の責を免れるためには、あらかじめ、従業員の過半数代表者と「時間外および休日労働に関する協定書(以下「36協定」といいます。)」を締結し、これを所轄労働基準監督署に届け出ることが必要です。
この手続きを踏まない限り、たとえ、就業規則で時間外・休日労働に関する定めを設けていたとしても、時間外・休日労働自体が違法となってしまうので、注意してください。

労働時間の原則と、36協定については、前述のとおりですが、そのほか、業務・職種の特性や働き方に応じて、1日または1週間の労働時間を延長または短縮する制度(変形労働時間制)や、就業時間の把握が困難な場合に一定時間労働したものとみなす制度(みなし労働時間制)も労働基準法上、認められています。
業務の実態やニーズに応じて、利用を検討することも有益です。

変形労働時間制」とは、一定の変形期間内における週平均所定労働時間が法定労働時間内(40時間)に収まる限度において、変形期間内の1日または1週間の所定労働時間を法定労働時間超に設定することができる、という制度です。
その趣旨は、柔軟な労働時間の配分を認めることにより、総労働時間を短縮するところにあります。

本制度は、従来、業務の繋閑への対応や年間休日数の増加を目的としています。近年では、働き方の多様化への対応策(週3勤務制度の導入、リモートワークなど)としても利用されるようになってきています。
今後、さらなる労働力不足と働き方の多様化が予想されるため、優秀な人材の確保・定着のための施策の一環として、変形労働時間制を戦略的に導入することは、十分に検討する価値があると思われます。

変形労働時間制には、以下の4種類があります。

  • 1週間単位の変形労働時間制
  • 1か月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • フレックスタイム制

これらは、労働時間決定のイニシアティブ(決定権、主導権)が「会社側」にあるか、「労働者側」にあるか、という切り口で、2種類に大別することができます。

「会社側」がイニシアティブを持つものは、最初の3つで、「労働者側」がイニシアティブを持つものは、「フレックスタイム制」のみです。
「労働者側」に労働時間決定のイニシアティブを与えることで、労働者の日々の都合に併せて労働時間を柔軟にすることを認めることができます。

労働組合との間における紛争など

労働組合

労働組合とは、労働者が団結して、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るために作る団体で、労働組合法上、団体交渉権(6条)およびストライキなどの争議行為(労働者がその主張を貫徹するために行う行為およびこれに対抗する行為、1条2項・8条)を行う権利が保障されています。

労働組合には、会社ごとに組織される会社別労働組合と、より大きな単位である地域や産業別に組織される労働組合(合同労組、ユニオン)が存在します。近年では、IPOをめざす企業やポストIPO企業では、会社別労働組合が存在しないことの方が多いです。

会社に労働組合が存在しなくとも、従業員が合同労組に加入したうえで、会社に対し突然団体交渉などを申込むことができますし、また、紛争が先鋭化することがあるため、注意が必要です。

実務上のポイント

会社は、労働組合からの団体交渉などの申入れがあった場合、これに対し慎重に対応することが必要で、また、労働争議が生じた場合、最終的な解決に至るまでに労働委員会による介入を受けるなど、解決には相当な期間が必要となるおそれがあります。

そして、労働組合との紛争が長期化すれば労使関係が悪化するだけでなく、会社の営業活動などに支障を来し、ひいては業績への悪影響が生じるおそれがあります。

迅速な対応が想起解決につながるので、労働法に精通した弁護士に早期に相談のうえ対応すべきです。

株式上場に関する局面での人材戦略

上場企業としての責任を果たしていくためには、当然、対外的に発表した経営計画の達成が求められます。

そのために、経営計画のうち、「モノ・カネ・情報」をつかさどる「ヒト」が重要です。ここでは、 「ヒト」の計画の策定・達成の方法について言及します。

上場準備や上場以後の局面においては、具体的には「経営計画に沿った人材計画」の策定のみならず、「計画達成のための人材戦略」が必要となるので、それぞれの重要性を解説します。

経営計画に沿った人材計画

株式上場に際しては、中長期利益計画をたてることになりますが、売上・費用面の計画にとどまらず、社員数に関する数値ベースの計画を明確に策定することが重要です。

上場準備の局面では、同時に企業規模拡大を意図するケースが多く、単年度辺り20~30%といった速いスピードでの成長モデルを立てる経営者もめずらしくありません。あわせて人員規模も2、3年の間に現状の2倍以上とする計画を立てるケースも見受けられました。

一方で、往々にしてみられるのは、人員計画が、トータルでの人員数にとどまっているものです。
中長期利益計画実現のための具体的な戦略策定につなげるために、1段階詳細化(見える化)して、職種別・改装(役職・等級)別で数値を分解することがおすすめです。社員の担当業務や能力によって、1人当たりの売り上げ・費用の数値が異なることも理由のひとつです。

人員計画により中長期利益計画達成が担保されているかは、上場におけるチェックポイントといえるでしょう。

計画達成のための人材戦略

人員数の計画が定まったら、その実現に向けた人事施策を行う必要があります。
特に重要なのが、人材の調達・育成・処遇面の施策です。

●調達
採用活動において、マネージャーを必要数確保できるかを検討する必要があります。採用は、即戦力が確保できるメリットがありますが、採用したマネージャーが他社の色に染まってしまっていて自社文化を受け入れられないことにより、活躍できないという危険もあります。
よって、*新人を採用*し、自社で一から育てる選択肢を検討するのが現実的でしょう。

●育成
マネージャーの社内調達においては、育成の重要性はいくら強調してもしすぎることはありません。しかし、計画は実現可能性を考えて策定する必要があります。
難易度が高い計画でも達成していく覚悟があるのであれば、より戦略的な育成の仕組みと運用(例:教育研修体系の構築、それに沿った研修・OJTの推進等)が必要となります。

●処遇
上場に向けた人材確保を成功させるためには、*人事制度*(等級・報酬・評価)を中心とした、処遇の仕組みが確立されている必要があります。優秀な人材であるほど、高い処遇や、会社で実現できるキャリアパスを重視する場合も多いです。
「当社に入社することにより、このようなメリットがあり、このようなキャリアがある」ことを応募者に具体的に説明することで、優秀な人材の確保につなげ、ひいては計画の実現につなげていくことが重要です。
また、人材の引き留めの観点では、金銭的報酬や福利厚生制度を整えることはもちろん、やりがいの提供、ワークライフバランスを考慮した働きやすい職場の環境づくりを通じて、非金銭的な報酬の提供も行うことが求められます。

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