澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「債権回収は事前の準備が大事!【契約書の作成と注意点】」
について、詳しく解説します。
契約書の確認のポイント
取引先との間で取引を開始するに当たっては、契約書を作成することが重要です。
その重要性として次の2点が挙げられます。
契約書の役割
契約は口頭の合意だけでも成立しますが、口頭の合意だけでは、後日、当事者間で認識の相違や言った・言わないという食い違いが起こり、紛争が生じる恐れがあります。
契約書を作成しておくことにより、契約の成立とその内容が明らかになるので、紛争を未然に防止できます。
②証拠としての機能
契約の相手方が契約で定められた義務を履行せず、訴訟や強制執行などの法的手続を行う必要が生じた場合、相手方に対する権利を証明するための証拠が必要となります。
契約書はその場合の証拠として利用することが可能です。
契約書がある場合は、債権関係をこれで立証できる有効な手段となります。
特に、相手方から文書の成立の真正が争われた時には、その文書が真正に成立したことを立証することが必要ですが、文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章(判子)によって顕出されたものであるときは、反証が無い限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出(押印)されたものと事実上認定されます。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定するという民事訴訟法の規定により、文書全体の成立の真正が法律上推定されます。
そのため、契約書の記載内容から、各契約類型に応じて債権の存在が認められるかどうか、争点となるべき点がないかを確認することが大事です。
契約書に記載された契約の法的性質は、民法の典型契約の分類によって整理するのが一つの目安となりますが、実務では、代理店契約、販売店契約、OEM契約など、民法で定められる典型契約に当てはまらない、複合的で複雑な契約となっていることが多いため、注意が必要です。
また、契約書のタイトルと内容が必ずしも一致していないという場合もありますので、契約内容から判断しましょう。
債権回収の依頼をする際に、裁判手続になった場合の債権者と債務者双方の主張と立証を予想して、取引継続時に当事者が想定していた法的構成のまま債務者に主張するかを検討し、場合によっては、取引継続時とは異なる法律構成で主張を予定し、当該主張を補強する資料の収集をすることがよいでしょう。
取引基本契約の締結
継続的な取引を行う場合には、取引基本契約書を締結することが大事です。
継続的な取引開始にあたり、個別の取引(1つ1つの取引)に共通する条件を定めておくのが取引基本契約です。
これを締結することで、個別の取引に共通な権利関係や特約条項を明確にしておくことができ、債権の保全や回収に有益な条項を盛り込むことができます。
リースや業務委託などの契約は長期間に渡ることはよくあり、反復継続して行われる場合、取引ごとに契約を結ぶのはあまりにも大変です。
そこで、実務上、個別の取引に共通する契約条件は取引基本契約に規定した上で、個々の取引は例えば買主が売主に発注書を交付し、売主が買主に請書を交付することにより契約を成立させるという方法がとられるのです。
前述の通り、取引基本契約は、平常時に備える有益なツールです。
通常、取引基本契約は「取引を解する前」、つまり、与信を開始する前に締結すべきものです。取引開始にあたって取引基本契約の締結を求めることは、合理的な要求であり、取引先も拒否する理由はありません。
また、取引先も、取引の開始を望んでいるのですから、その機運を利用して、債権の保全と回収に有益な条項を盛り込みます。
したがって、契約の締結にあたっては、十分内容を精査し、個別の取引先ごとに締結することが重要です。
その際、社内の既存のひな形を全面的に信用して利用するのではなく、個々の条項を綿密に見直し、何のための条項なのか、加筆・修正する必要性を考え、必要な条項が抜けていないかを確認しましょう。
また、取引基本契約を結んだものの、内容を十分把握できていなかったり、契約期間が切れていたり締結日が記載されていなかったり、という不備があるケースが少なくありません。
契約書を取り交わして安心してしまうのではなく、取引先の倒産に接した際に、わざわざ盛り込んだ条項を活かすことができるよう、平常時から契約内容を把握して、契約期間を管理するための体制を作っておくこと、担当者が当該条項の趣旨を十分理解しておくことが必要なのはいうまでもありません。
実務上、契約書を取り交わしたはいいものの、契約の有効期間が切れているといったケースもありますので、契約管理は法務担当者が怠ってはならない事項です。
法改正の際にも、必ず現在使用している契約書が法改正に対応しているのか確認することも重要です。
契約書レビューや契約書作成を見直したい場合には、弊所までお問い合わせください。
30分無料での契約書審査も行っております。
基本的な視点
債権保全・回収に役立つ条項とはどのようなものでしょうか。
まず、基本的な条項を10個紹介します。
①債権債務の発生事由
②履行に関する条項(履行期、履行方法、履行場所、費用等)
③期限の利益喪失条項
④損害金条項
⑤契約解除条項
⑥表明保証
⑦誓約条項
⑧みなし到達条項
⑨裁判管轄条項
⑩暴力団(反社会的勢力)排除条項
これらの条項は、よく見かけることがあるでしょう。
債権保全・回収は、「時間」が決め手となります。
取引先の一般財産から、他の債権者に先駆けていち早く回収するためには「すぐに動ける」ことが必要です。
また、相殺する場合でも、担保物権を実行する場合でも、今すぐに債権を行使できる状態にしなければ出遅れてしまいます。
このような場面で問題となるのが「期限の利益」です。
商取引では、商品を納入した後、当月末で締め切って、翌月末現金払などと、商品を先に渡すのに、支払は翌月末まで待たなければならない、という取引条件にしていることがよくあります。
これを取引先から見ると、翌月末まで払わなくていい(その間、資金を他の用途に使える)ということなので、「利益」なのです。
債権回収の際、それを一方的に無視することはできないので、工夫が必要となります(「機動的債権回収への備え」)。
期限の利益については後述します。
取引先の信用不安の情報、例えば手形不渡りなどの情報が入ってきたとき、すでに約定済みの注文がある場合にはどうなるでしょう。
このまま通常通り商品を納入した場合、債権が焦げ付くおそれがあります。
契約解除、もしくは少し様子見をしたいところです。
しかし、単に信用不安の情報があるということのみでは、取引先は何ら契約違反をしていないため、契約解除は難しいのです。この場合はどうするのがよいのでしょうか(「焦げ付き債権回避への備え」)。
取引先の手元に、先日納入した商品が在庫としてあることが分かっている時、その在庫を何とかして引き揚げたいと考えます。
しかし、商品を納入して引渡したら、原則として所有権も占有権も取引先に移ります。この場合も工夫が必要でしょう(「商品引揚げへの備え」)。
また、いざというときのために、取引先の一般財産を仮差押えするなど、他の債権者に先駆けた回収をするためには、取引先の最新の情報が必要です。
その内容は、取引先の売掛債権や預貯、その他財産などです。
動産売買先取特権などの法定担保権を行使する場合にも「情報」が不可欠です。このような情報を平常時から手に入れられるような仕掛けもあるとよいでしょう(「情報収集への備え」)。
さらに、取引先が危機的状態に陥った後、制度によって債権保全・回収や相殺が制限されてしまうことがあります(「否認権」制度、「相殺禁止」制度)。
このような不都合な状況に立ち向かうために、基本契約で備えることができないでしょうか(「否認リスク、相殺禁止リスクへの備え」)。
加えて、
- ⅰ仕入れ先からの調達不能リスク(デリバリーリスク)、運送リスク
- ⅱ被災などによる「自社の債務不履行リスク」
- ⅲ取引先の受領不能リスク
- ⅳ担保価値の変動リスク
などの様々な有事に対応する条項も盛り込んでおくと安心です。
契約書に入れてあると回収に有利な条項
- ①期限の利益喪失条項
- ②契約解除条項等(期限の利益の喪失等所定の事由で契約を解除できる又は当然終了する旨の条項)
- ③保証金条項
- ④所有権留保
- ⑤人的、物的担保に関する条項(増担保条項など)
- ⑥合意管轄など
ここでは、①期限の利益喪失条項について詳しく説明します。
契約の当事者が代金の支払期限を決めた場合、債務者はその支払期限が到来した場合に初めて代金を支払えばよいことになります。
つまり、債務者は支払期限の到来までは支払をしなくてよいという利益が与えられていることになります。
このように、債務の弁済期まで履行を拒むことができる利益を「期限の利益」といいます。
しかし、債務者に信頼関係を壊すような行為があった場合や、債務者が信用不安に陥った場合にまで、債務者に期限の利益を与えるのは非合理です。
そのため、民法は、債務者が破産手続開始決定を受けたり、担保を滅失させたり、担保を提供する義務があるのにこれを提供しなかったりした場合、債務者は期限の利益を主張できないと定めています(民法137条)。
もっとも、この民法の規定している場合以外にも、債務者の経営状態が悪化して手形不渡りとなったり、他の債権者の差押えを受けたりという事態が生じた場合には、債権者としては、一刻も早く債権の全額を回収したい、あるいは、相殺や担保実行などの手続に入りたいと考えるでしょう。
そこで、債務者にそのような一定の事由が生じた場合に、期限の利益を失わせる条項を契約書に定めておくのです。これが、期限の利益の喪失条項です。
この条項があれば、債務者に一定の信用不安の事由が生じた場合に、債権者は支払期限の到来の有無にかかわらず、債権の全額を請求することができるようになります。
具体的には、
●債権の全額の支払を請求することができるようになる
●仮差押え、訴訟提起などの法的手続もとることができる
ということです。
強制執行認諾約款のついた公正証書(後述)を作成している場合は、直ちに強制執行を行うこともできます。
また、抵当権その他の担保権を設定しているのであれば、競売手続や担保権の実行手続を始めることもできます。 さらに、相手方に対する反対債務があるときは、自社の債権と相殺もできます。
民事訴訟では、原則として、訴えを提起した側(原告)が請求内容を立証しなければなりません。
そのため、日頃から債権の立証を容易にしておくことは債権を強化する(支払をしてもらえる可能性を高める)ことにもつながります。
債務者が債務の履行を怠り、債権者が損害を被ったとき、債権者はその損害を立証しなければなりません。
しかし、損害が発生したことや発生した損害の額を証明するのが難しい場合もあります。
そのようなとき、あらかじめ債務者と合意しておくことで、損害の額を証明することが不要になります。
民法420条1項は、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」と規定しています。
損害額を予め決めるためには、債務者と取引を開始する際に締結する契約書に「違約金」や「損害賠償額の予定額」といった項目を設け、「本契約において債務者に債務不履行が生じた場合には金●●●万円を債権者に生じた損害とする」などの文言を明確に規定しておけば足ります。
債権を強化するために有効な方法の1つが、債務名義を手に入れることです。
債権者は、債務者が保有している財産から強制的に回収したいと考えても、債務名義がなければできないからです。
強制執行は、債務者の保有している財産から債権者が強制的に回収することを認める強力な制度であることが理由です。
債務名義とは、債権者に執行機関(執行裁判所または執行官)の強制執行によって実現されるべき債権の存在および範囲を公的に証明した文書です。民事執行法22条各号に定められています。
以下のような方法で債務名義を取得して債権を強化することで、効果的な債権回収を行うように備えておくと安心です。
債務名義のほとんどは裁判上の手続を経なければ取得できません。
ただし、例外的に、民事執行法22条5号に規定されている公正証書があります。
公正証書とは、公証人が公証人法に従って作成する公文書です。公文書なので、高い証明力を持っており、債務者が金銭債務の支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続に移ることができます。
すなわち、金銭の貸借や養育費の支払など、金銭の支払を内容とする契約の場合、債務者が支払をしないときには、訴訟を提起して裁判所の判決等を得なければ強制執行することができませんが、公正証書を作成しておけば、すぐに執行手続に入ることができるのです。
裁判上の手続を行って債務名義を取得するのは、債務者の滞納がある程度続いている状況になってからです。
債権回収の時系列で考えると、末期的状況の時です。任意の交渉を行っても債務者が支払わず、やむを得ずに行うといった状況です。
一方で、公正証書の場合は、もっと早い段階で作成できます。
債務者からお金を貸してほしいという申出があったが、その人が信用性に欠けるとか、債務者に対して請求しているにも関わらず支払をしないので、債務者と合意のもとで万が一の備えを強化したい、これまでの売掛金債権を準金銭消費貸借契約に巻きなおすといったような場合に利用します。
手続としては、公証役場のHPに分かり易く記載されていますので、ご参考にしてみてください。
②即決和解の申立て
債権者と債務者との間で債務の内容・支払方法等について争いがある場合には、債権者と債務者が相互に譲歩することで和解することになるでしょう。
この場合、債権者と債務者が裁判官の前で合意内容を確認し和解調書を作成することで、債務名義を取得できます(民事執行法22条7号)。
このような方法を即決和解といいます。
即決和解には当事者による申立てが必要で、和解調書が作成されれば、判決と同じ効力を有することになります。
そのため、債務者が和解調書に規定された内容で支払を怠った場合、和解調書を債務名義として強制執行手続を行うことができるのです。
即決和解手続は簡易裁判所に申立てを行いますが、手続も簡単で費用も安いため、和解出来る可能性があるのであれば、おすすめです。
債権保全・回収に関する事項
取引先に信用不安が生じている場合、債務確認等の書面を作成するときにどのような点に留意したらよいか解説します。
債務確認
相手方と債権回収について協議し、書面を作成する場合、債務の内容を具体的に明記し、相手方において確認したという形をとる必要があります。
これは、承認による消滅時効の更新(民法152条)により消滅時効を完成させないことのほか、譲渡債権の債務者である場合は抗弁(民法468条)を放棄させる等の効果があるためです。
また、訴訟等で請求する際、多数の債権の存在を証明するには、多くの書面(契約書や覚書等)を集める必要があり、場合によっては証人を用意することになります。
これにはコストと時間がかかります。
そのような場面でも、比較的簡便に複数の債権を証明できるため役立ちます。
さらに、面倒な裁判手続をせず、すぐに強制執行をできるようにするために、公証役場において、強制執行認諾文言(強制執行を受けることを承諾する文言)を入れた内容の公正証書を作成しておくことも債権回収に有効です。
他には、契約において催告解除が条件とされていて即時に解除できないような場合、何らかの条件があって後々不利になる事情があるときには、交渉によって当該事情を払拭し(上記の場合は無催告解除とする旨を合意する)、その内容を書面により明確化しておくことがいいでしょう。
保証人
相手方代表者やその他の役員に対して、連帯保証を求めることは実務上よくあり、債権回収の有効な手段の1つとなります。
実際にこれらの保証人に対して保証債務の履行を求める場合もありますが、何よりも、債務者が保証人に迷惑をかけないために、誠実に弁済するよう努めることが期待できるのです。
担保権の設定
取引開始の時点で担保を取得していない場合には、債務確認等の交渉の際は、債権保全のため新たに担保を取得する絶好のチャンスです。
取引開始の時点で担保権を取得するための唯一の機会となることもあるため、相手方の資産関係を慎重に調査して、交渉の上、実効性のある担保権の設定を受け、その内容を書面にする必要があります。
納品した商品の引揚げ
債権回収のため、一旦納品した商品を相手方の手元から引揚げる場合には、原則として、相手方の同意が必要です。
たとえ契約書面で事前に引揚げることができる旨を規定していたとしても、自力救済とみなされ(最判昭和40・12・7)、相手方の占有を侵害した窃盗罪が成立するリスクがあります(最決平成1・7・7)。また、勝手に相手方の建物に侵入した場合には、建造物侵入罪に該当するおそれもあります。
したがって、引揚げ時において、相手方がこれに同意し協力するような条件を設定しておき、これを根拠に改めて引渡しを求める方が実務では効果的です。
例えば、無催告解除事由により契約を解除した場合、相手方は即時の商品返還義務を負うほか、遅延損害金が日々発生する旨を規定することで、返還を促すことができます。
その他の事項
契約の解除
債権回収の段階に至った時点でも、いまだ取引を継続していて、当事者双方ともなすべき債務が残っている状況で、債務者が取引継続を希望していない場合があります。
その場合は自らの履行義務を消滅させる必要があり、契約を解除するか、当方の履行義務を免除する旨の承認を、相手から書面で得ておく必要があります。
契約の解除においては、相手方に明確な債務不履行があれば、債務不履行解除の通知を相手方に対して送ればよいですが、契約上又は法律上催告が必要とされて即時に解除ができない場合、相手方において即時解除することを承認した旨を書面で明らかにしておくと有利です。
また、まだ履行期限が到来していない場合など、相手方の債務不履行が未だ明らかでない状況においては、相手方に著しい信用不安が生じたような場合、相手方との確認書面にて債務不履行解除がなされたことを明確にしておくことが肝要です。
取引上の有利な条件の設定
相手方から支払猶予の要請がある場合、交渉によって有利な条件を引き出せる場合があります。
例えば、取引上重要な知的財産権を相手方が有していれば、既存債務の支払猶予の条件として、または猶予した支払期限を次に徒過した場合の条件として、当該知的財産権等を債権者に譲渡する旨の合意を締結することが考えられます。
具体的な条項例
以下、具体的に債権保全・回収に役立つ条項の例を紹介します。
こうした条項は、前述の基本的な視点に基づき、あくまで、取得した担保を有効に活かしたり、すみやかな債権回収・保全の手段に講じるための一助としたり、取引を終了させて信用リスクを回避する手段にしたりするものです。
ただ何となく入れてみた、以前に入れたから、というような理由では意味をなさず、どのような状況でこの条項が活きてくるのかを具体的にイメージしながら作ることが必要です。
以下の例の条項に限らず、契約書の作成にあたっては、具体的な実際の取引の流れを念頭に、実際にどんなトラブルや問題が想定されるかを考えましょう。
万が一トラブルや問題が発生した場合、自社がとるべき対応は何か、そのためにはどのような条項が必要かを考えることが大切です。
書式集やかつての契約書を持ち出して写すだけでは不十分であることを忘れてはいけません。
1 甲または乙について、次の各号の一に該当する事由が生じた場合は、相手方からの通知催告等がなくとも、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。
(1)第三者から差押え・仮差押え・仮処分、その他強制執行若しくは競売の申立て、または公租公課の滞納処分を受けたとき
(2)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始、特定調停の申立てをし、もしくはこれらの申立てを受けたとき、または、特定認証ADR手続に基づく事業再生手続の利用申請その他これに類する私的整理手続の申請をし、もしくはこれらに基づく一時停止の通知をしたとき
(3)解散決議のための手続を開始したとき
(4)支払停止もしくは支払不能に陥ったとき、自ら振出しまたは引受けた手形もしくは小切手が不渡りとなったとき、または手形交換所から取引停止処分を受けたとき(電子記録債権につき、不渡りと同等の事態となったとき、または取引停止処分と同等の処分を受けたときを含む。)
2 甲または乙について、次の各号に一に該当する事由が生じた場合は、相手方の請求によって、相手方に対する一切の債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。
(1)本契約および本契約に基づき締結される個別契約、その他甲乙間で別途締結される契約等の条項の一に違反したとき
(2)財産状態が著しく悪化し、またはそのおそれがあると認められる相当の事由があるとき
(3)保証人が前項または本項の各号の一にでも該当したとき
(4)その他本契約の円滑な履行が困難になったとき、または信用不安が生じるなど債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき
3 前項の場合において、甲または乙が住所変更の届出を怠る、あるいは相手方からの請求を受領しないなど一方当事者の責めに帰すべき事由により、請求が延着しまたは到着しなかった場合は、通常到達すべき時に期限の利益が失われたものとする。
具体的な対応 -準金銭消費貸借契約に切り替える―
債務者と債権者が合意することで、売買代金債権を貸付金債権に変更することができます。これを準金銭消費貸借契約(民法588条)といいます。
この契約を締結することで、債権回収を容易にするというメリットがあります。
1月には30万円、2月には50万円、3月には70万円の商品を売ったけれど、債務者は一切支払おうとしない
→このような場合、債権者は、債務者に対して、
①30万円(1月分)
②50万円(2月分)
③70万円(3月分)
という3つの債権を持っていることになります。
しかし、債権管理上、複数の債権はまとめておいた方が簡便です。
そのため、これら3つの小口債権を1本にまとめて、お金の貸し借りがない150万円1本の準消費貸借契約に切り替えておくのです。
裁判になった場合の立証が楽になるという利点があります。
準消費貸借契約への切り替えは、債権管理や裁判時の立証の便宜の他、短期の消滅時効を防ぐという重要な意味もあります。
旧民法における、小売商人の売買代金債権の消滅時効は2年間でしたが、準消費貸借契約に切り替えれば、5年間もしくは10年間に延ばすことができるのです。
※2020年(令和2年)4月1日に施行された民法では、短期消滅時効は廃止されました。
先ほどの例は、3つの債権でしたが、債権が数十にも及ぶことも少なくありません。
いざというときのために、準消費貸借契約に切り替えておくことで、日頃の債権管理も楽になり、万が一裁判になったときも手続が簡便になるので、債権を強化する一つの手法として利用することがおすすめです。
この切り替えは、債務者と新たに準金銭消費貸借契約書を締結すればよいだけですので、弁護士や司法書士に契約書の内容を確認してもらい、債務者から署名押印をしてもらえば完了するため、難なくできるでしょう。
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