澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「債権回収の基本をおさえよう ~考え方・準備~」
について、詳しく解説します。
相談
はじめに
一般に債権回収のプロセスは以下のとおりです。
裁判に至らずに交渉段階で回収を実現できる場合もありますが、相手方の対応や状況によっては、十分な交渉を行わずにいきなり訴訟を提起せざるを得ず、または、相手方の資力がないことにより途中で債権回収を断念することもあります。
相手方との交渉、情報収集のための準備
相手方と最初に面談をする場合は、弁護士に立ち会ってもらう、もしくは交渉そのものを弁護士に依頼することで円滑にいくこともありますが、早期対応をすべき段階で弁護士に依頼する時間がない、弁護士を通すと相手方が警戒してしまうなどの事情があるなど、多くの場合、当初の面談では、当事者本人にて交渉を担当することになります。
面談の担当者は、面談を実施した内容を社内の関係者や顧問弁護士と情報共有し、交渉のポイントを確認して次の交渉に臨みます。最初の面談時には、情報量が少ないため、結論を出さず、相手方から情報や条件をできる限り多く出させたうえで、持ち帰って検討するのがよいでしょう。
また、
- ①債務者がどのような状況にあるのか
- ②債務者の資産の保有状況はどうか
- ③債務者の支払が滞った原因はどこにあるのか
- ④債務者の資産は保全されているのか
- ⑤債務者は営業を継続するのか
- ⑥債務者の支払意欲はどうか
について、ホームページ、Twitter、Facebook、法人登記・履歴事項全部証明書、不動産登記・不動産登記事項証明書、信用調査会社・探偵事務所・興信所、取引先・関係者等から情報を入手することが重要です。
時には、情報操作も検討します。情報を取得するのではなく、逆に情報を発信することで債権回収に役立てていく、という視点も必要です。
債権回収の場面では、債務者に対していかに粘り強く、しかも段階的にプレッシャーをかけていけるかが大切です。そして、債務者にプレッシャーをかけていく方法の1つとして、情報操作があります。
債権者から債務者に対して、間接的に、債権者の本気度を示す情報を伝えていき、プレッシャーをかけていくことで債権回収が功を奏する場合もあるのです。第三者が、債務者に対して、「債権者は何が何でも回収すると言っていた」「裁判する覚悟もあるようだ」というようなことを間接的に伝えることで、プレッシャーを与えるという手法です。第三者は債務者と関わりのある業者や友人を選ぶと効果的です。
取引条件の変更
取引継続中の相手方において信用不安が生じているときは、取引を中止または解除する方法が考えられますが、信用不安がそれほど高まっていない場合や、取引継続の必要性がある場合には、債権保全を考えながら取引を継続します。
この場合、債権保全の方法としては、
- ①できるだけ未払の債権を生じさせない形への取引条件の変更(変更、縮小、停止)を行う
- ②何らかの担保を得る
の2つがあります。
①条件の変更としては、以下の方法があります。
●一回の取引金額を少なくする
●手形での支払(裏書譲渡)の場合は手形割引を選ぶ
※手形割引とは、手形を現金化する方法の1つで、手形の支払期日(満期)に現金化する取立とは 違い、満期の前に裏書譲渡をして、手形金額から満期日までの利息相当額(=割引料)を差し引いた金額を受け取ることによって手形を現金化する方法です。
これを用いれば、満期を待たずに現金化が可能となります。(銀行法2条2項「割引」)
●代金完済まで売買目的物の所有権を留保する
●役員の保証や保証金を入れさせる
②担保の提供
相手方が信用不安を起こしている状況だとすると、優良な資産で担保権が設定されていないものがすでにないことが多いです。そのようなときは、相手方の在庫に対して動産譲渡担保権を設定したり、相手方が有する売掛金等に対して債権譲渡担保権を設定したりすることが考えられます。
商品を現金と交換に引き渡す現金決済であれば、債権保全は必要ないように見えます。しかし、継続的な商取引においては、そのたびにいちいち現金決済するというのは煩雑で、非現実的です。商品引渡後、一定期間ごとに締め切って請求書を送り、商品代金に支払いを受ける信用取引(与信取引、売掛取引)が通常です。商品を引き渡してから、支払われるまでの期間中、売買代金は「売掛債権」「受取手形」や「電子記録債権(でんさい)」という金銭債権となります。
この間、相手に信用を供与(与信)していることになります。このように、現代の商取引では、信用取引は避けることができません。
しかし、信用調査や与信管理には限界があります。「ヒト・モノ・カネ」のすべてを正確に把握することは不可能だからです。このことから、債権回収には担保が中心的な役割を果たします。
しかし、担保といっても万能ではなく、担保を設定した財産の価値が下がることや、保証人の資力に問題が生じることもあり得ます。一方で、担保を取得しているか否かで、債権保全・回収の確実性には雲泥の差があるといっても過言ではありません。
ただし、信用不安が生じている取引先から担保を取得する際のリスクとして、取引先が破産した場合に、事後的に担保取得の効果が否認され、覆されるリスクが挙げられます。
具体的には、担保を取得した時点で取引先が「支払不能」の状態にあり、かつ、取引先が「支払不能」の状態にあることを債権者が知っていた場合には、破産管財人は、破産手続開始後、担保権設定の法的効果を覆すことができるものとされています(破産法162条)。
「支払不能」とは、破産法上「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」をいうものとされており(同法2条11項)、具体的には、「財産や信用の状況を踏まえると、弁済期が到来した債務を弁済する資力がないと判断される状態にあること」を指します。
ですので、めぼしい資産がない債務者であっても、その信用により弁済原資を調達できるのであれば、その会社は「支払不能」の状態にはないことになります。また、ごく一部の債務について弁済ができないにすぎない場合(「一般的に」弁済することができないものではない場合)や、一時的な資金不足により債務の弁済ができないにすぎない状態(「継続的に」弁済することができないものではない場合)も、「支払不能」の状態にあるとは判断されません。
なお、事後的な否認リスクは過度に恐れることはないといえます。明確な基準がなく、支払不能であったことの立証は容易ではないからです。
ただ、2点注意すべき点があります。
1点目は、取引先に担保権を設定する義務がないにもかかわらず、取引先が支払不能になる前30日以内に行われた担保権設定は、債権者が当該行為により他の債権者を害する事実を知らなかった場合を除き、否認の対象となる点です(同法162条1項2号)。
2点目は、否認の対象となる担保権設定は「既存の債務についてされた担保の供与」に限られる点です(同法162条1項)。
すなわち、新たに発生する債務に対する担保権の設定、例えば、新たに貸付けを行うに際して担保を設定する場合や、今後の取引により生じる売掛債権を対象として担保を設定することは、そもそも否認の対象にはならないのです。
弁護士へ相談
面談担当者による協議によって債権回収が実現できなかった場合、担保権実行や訴訟提起等の法的対応を含めた債権回収策を実施することになるため、それに備えて、相手方との協議は弁護士に依頼することになります。
弁護士に債権回収について初めて相談する際、当該事案において
・どこに問題点があり、どの回収手段が有効であるかを把握し、
・債権回収を行うためにどの手続を選択するべきなのか、債権回収の方針を選択し
・その選択について、メリットとデメリットを理解すること
が必要です。
リスクを踏まえて、納得できるまで相談をするのがよいでしょう。
方針選択に当たり、権利内容が明確になっているか、回収手段として執行手続によるのかの2点が特に大きな判断材料です。
権利内容について争いがある場合、訴訟による判決を取得するためには、証拠によってこれを立証する必要があります。取引の当事者の陳述や関係者の証言も証拠となりますが、契約書等の書面がない場合は、勝訴できる可能性は低くなり、敗訴リスクも踏まえて適切な手段の検討をします。
一方、契約書等の書面があり、また債務者が債務を承認しているなど権利が明確である場合は、勝訴の可能性は高いですが、債務者に差押えるべき財産が無い場合、せっかく判決を取得したとして効果を期待できません。
以上のように、当該事案に即して、最大限の効果を上げるためには、権利の内容についての勝訴する可能性と、回収手段について、強制執行の可能性を適切に判断することが必要で、最初の段階の相談において、これらの事情のすり合わせが重要となります。
消滅時効
消滅時効期間が経過すると債権者による時効の援用があれば(民法145)、当該権利が消滅し、債権回収ができなくなってしまいます。そのため、相談するときに消滅時効にかかっているかどうか確認する必要があります。
消滅時効は、権利を行使することができるときから進行し(民法166条1項)、債権は10年間で消滅するとされています。また、判決などによって確定した権利は10年となります(民法174条の2)。
また、短期消滅時効(1年~5年)が定められているものもあるため、適用がある債権なのかを確認することが重要です。
消滅時効は、「請求」、「差押え、又は仮処分」、「承認」により中断します(民法147条)。
請求は、裁判上の請求のことをいい、裁判外の請求は、催告としての暫定的な措置として6か月の期間内に他の裁判上の手続を行わない場合に時効中断を生じないとされる点に気を付けなければいけません(民法153条)。
相談に行く時点で、消滅時効の期間が差し迫っていた場合、裁判上の手続をとるか、暫定的な催告を行ってから裁判上の手続を行うか、相手方への通知の到達の可能性を踏まえて選択する必要があります。
中断により、消滅時効との関係でそれまでに経過した期間の意味がなくなり、再度時効は進行します(民法157条)。
判例によると、消滅時効の完成後、債務の承認などの自認行為を債務者が行った場合、信義則を理由に時効を援用することはできません(最大判昭和41・4・20)。
消滅時効期間が経過していても、債務者の態度次第で上記判例により債権を回収できる場面があるので、消滅時効のリスクを聞き、自認行為を行う可能性を踏まえて相談することが大事です。
時効の完成の間際に時効の中断を困難にする一定の停止事由が存在する場合、その事情の消滅後一定期間が経過するまで時効の完成を延期する時効の停止(民法158条~161条)もあり、このような事由の有無、適用の可能性を検討する必要もあります。
基本原則
回収の第一歩は債務者の有形、無形の財産調査からはじめます。
貸金や売掛金の集金に出向いていっても、支払えないと言われて帰るわけにはいきません。相手が「無い」と言ったからといって、本当に「無い」とは限りません。相手方の言い分を正しいものと鵜呑みにしていては、債権回収はおぼつきません。差押さえる可能性のある財産がある場合は、強制執行によって回収する可能性が高まります。
債権回収、特に不良債権の回収の場合は、債権者と債務者との間では、虚々実々の駆け引きが行われるのが常道であって、一種の戦いともいえるでしょう。
債権者はあなた一人とは限りませんから、回収に向けて作戦の立案、緻密な実行プランが鍵となります。
回収のポイントは、まず債務者の支払能力を見極めることです。支払能力は、目に見えるものばかりではなく、 材料、商品、自動車、電話、事務用品
など顕在的な財産であれば、どの債権者もチェックするところです。
一方で、見落としがちなのが、 店頭や倉庫にある商品や工場にある仕掛品などです。これらの品物を債権の代わりに持ち去ると債務者は倒産するかもしれませんが、出入りのあるこれらの品物を担保とすることはできるのです。これを「集合物」ととらえて、譲渡担保としてとることができます。これを「集合譲渡担保」といいます。
潜在的な支払能力を知りたいのですから、その典型である「隠し財産」は必ずチェックすることが必要です。債務者は、債権者からの差押えを逃れるために、不動産を他人名義にしたり、動産を隠したりすることが少なくありません。資産のほとんどが社長の個人名義になっていたり、家族の名義にしていたりする場合もあるのです。
わざと他人名義にしている、強制執行の回避のための贈与であれば、詐害行為取消権(債務者が債権者を害することを知った上でなしたる法律行為は取消を請求できる)により、差押えることができます(民法424条)。
また、社長の親戚、友人からの借金能力も潜在的な支払能力といえます。
もちろん、債務者に将来入ることが確実な収入も支払能力です。自分が認識していない財産がある場合は、弁護士の側から調査を働きかけられることもあります。
債務者が法人である場合に確認が必要な主な検討項目は、次の通りです。
検討対象 | 調査方法 | 留意点 |
---|---|---|
不動産(本社、工場、支店、営業所、寮、保養所など) | 不動産登記事項証明書 住宅地図 現場確認等 |
所有名義が法人であるか、未登記不動産がないか、抵当権等の担保の有無など。他人名義である場合は敷金、保証金等の名目で財産を差入れている可能性も検討する。 |
設備、機械、器具、什器、備品等 | 工場抵当法の機械・器具目録、現地での現物確認 | 高価に売却できるものはないか、所有物件か、リース物件かどうか、譲渡担保等の担保の可能性など |
商品、原材料、仕掛品、半製品、製品等 | 店頭、工場、倉庫などの現地での確認 | 保管・管理の状況、他の債権者の動きなどにも注意する。 |
預金等 | 帳簿、債務者の金融機関に対する入金先照会、弁護士法23条の2照会、ホームページの取引先銀行の記載、カレンダー等の記念品等の調査 | 銀行の支店名までを調査する。当該金融機関からの貸付けがある場合、相殺に供される可能性がある。 |
売掛金等の債権 | 帳簿、普段の取引についての聴取、手形小切手の振出人のチェック等 |
債務者の代表者が連帯保証契約をしている場合、検討している場合等は、個人の財産からの差押えの検討も必要となります。
法人とは違って、対象財産の検討についての情報は限られてしまうことが多いです。
主な検討対象と留意点は以下の通りです。
検討対象 | 留意点 |
---|---|
自宅不動産 | 商業登記時効証明書に記載された会社代表者の住所から不動産登記事項証明書、住宅地図、現地確認などで調査をする。 ※調査する中で、本人だけでなく、親族等の所有の不動産も含めて調査することも新たな保証人や担保提供の方法として有効 |
預金、証券 | 銀行又は証券会社からのカレンダーなどの記念品、自宅付近の銀行の確認など。 |
家財道具・事業用の動産 | 差押え禁止財産に当たることが多いため、訪問等の手段で、高価な美術品等の財産があるかどうかを中心に調査する。 |
月給、年金、家賃収入など | 関係者からの聴き取りなどで情報を収集する。 |
ゴルフ会員権など | 同業者、交友関係から判明することもある。 |
自動車 | 自動車登録原簿の調査には、登録番号を判明させる必要がある。 |
支払能力と支払意思
支払能力を調べるには、調査・情報収集が必要不可欠です。
(1) 債務の履行には2つの基本的な要素があります。
1つは債務者の債務を履行する「能力」であり、もう1つは債務者が債務を履行しようとする「意思」です。
債務者が債務を履行しようとしても能力がなければ履行できません。能力のない者に履行を迫っても実益はないのです。そこで、相手の能力の有無、能力が無いなら作らせることはできないか、またあればどうして発見、確保し、または維持させるかが、債権回収では重要な問題になります。
第二に、債務履行の能力があっても、債務者に債務を履行しようという意思がなければ債務の履行は行われません。
債務者の中には、ある程度の圧力により初めて債務履行の意思を起こす者もいます。そのような場合に、どのような圧力が有効となるのでしょうか。
要するに、債務履行の能力と意思を総合したものが「信用」です。信用というのは、債権回収の見込みのことであり、相手の客観的な要素である支払能力と、主観的な要素である支払意思の2つが総合されて、債権回収の予測が行われているのです。
この2つの要素は日々変動するため、債権の回収見込みは動的といえます。したがって、債権者側の債権回収の対策も変化させなくてはならないのです。
債権回収はタイミングが命です。
つまり、債権回収の可能性は時間の経過に比例して確実に悪化していきます。それまで保有していた資産の処分を始めたり、金融機関へのリスケジュールを行い始めたり、支払に対する意欲も徐々に乏しくなっていきます。債権者への支払が滞ってしまい、負債の金額も膨らんできた債務者の信用力は悪化の一途をたどり始めています。処分しつくして処分すべき資産もなくなり、資金繰りも赤字が続き、支払への意欲どころか、逃亡のおそれすらでてくるのです。このように、債権回収の可能性は時間の経過とともに確実に悪化していくのです。
(2) 債務者に関する怪しい情報(経営的に厳しい、多額の債権が滞った、資金ショートしそうだ等)を耳にしたら、まず債務者に会いに行きましょう。
債務者に会って、状況を確認して、できるだけ多くの情報を集めることが先決です。
ここで、社長や担当者に会えれば回収の可能性があります。
一方で、債務者が現場にいると思われるのに、債務者に居留守を使われた場合は要注意です。債務者が開き直っている可能性があるので、このような場合には少し強硬な方法を講じなければならないかもしれません。
回収の手段
先取特権
①動産売買先取特権の行使の検討
動産売買先取特権は、売主が買主に対して、動産を売買したことによって対価である売買代金や利息について、当該動産から他の債権者に優先して弁済を受けることができる法定担保物権です(民法311条5号、321条)。
約定が不要である点、倒産時にも回収を図ることができる担保権である点で、強力な手段となるため、相談時においてはその可能性を検討することが必要となります。②動産売買先取特権の実行方法
㋐買主の手物に商品がある時
㋑買主から第三者に転売され、引渡しがされた時
で方法が異なることに注意が必要です。
㋐・・・動産売買先取特権に基づき、対象物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して、動産競売の申し立てを行う方法で実行します。
㋑・・・転売代金が第三者から買主にまだ支払われていない場合、動産売買先取特権に基づく物上代位をすることができ、転売代金債権を差押えて、回収することができます。
相殺の検討
相殺は、互いに同種の目的を有する債務を負担する場合で、双方の債務が弁済期にあるとき、各債務者が対当額において債務を免れるために行うものです(民法505条1項)。
相手方の債権回収が困難となったときにも、債権と債務を相殺することで実質的に債権回収を図るものです。なお、相殺をすることについての禁止特約がある場合や、差押え禁止債権や不法行為等の法律上相殺が禁止されている債権である場合は、相殺できませんので、注意してください(同条但書)。
相殺の要件を満たす場合は、一方的に意思表示すれば相殺をすることができ、内容証明郵便で相殺通知書を送ることでこれを行います。
相殺の条件がそろわなくても、相殺の合意ができれば相殺はできますので、相殺契約書等を作成して、合意相殺をします。
債権回収時に債務者への債務がない場合でも、次の手段により債権を取得し、相対立する債権とすることで債権回収を図ることも可能です。
- ①債務者からの商品購入(相殺後、転売等により代金回収)
- ②第三者の債務をひきうける
- ③グループ会社等で、三角相殺契約をする
2020年(令和2年)4月1日施行の改正民法では、債権譲渡された場合に債務者が譲渡人に対して有する反対債権が
ⓑ 債務者対抗要件の具備より前の原因に基づいて債務者が取得した債権
ⓒ 譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて債務者が取得した債権
のいずれかに該当するとき、債務者は、当該債権による相殺の抗弁を譲受人に対抗することができるとして、相殺できる範囲の明確化とその拡充がなされました(民法469条1項2項)。
また、差押え後に他人の債権を取得した場合を除き、第三債務者が差押え前に取得した債権であれば相殺できると規定しています(民法511条1項)。
さらに、差押え後に取得した債権であっても、差押えの前の原因に基づいて生じたものであれば、第三債務者が当該債権による相殺をもって差押債権者に対応できることになりました(民法511条2項)。
相殺の際には、上記改正民法の改正点にもご留意いただければと思います。
所有物件の引揚げ、代物弁済の検討
取引先の在庫商品がめぼしい財産として残っている場合は、この商品からの回収を検討するのがいいでしょう。
ただ、債権者であるといっても、無断で商品の引揚げを行うと建造物侵入罪(刑法130条)や窃盗罪(刑法235条)になりかねないため、債務者との間で、代金の支払がなされていない商品について売買契約を合意解除し、引揚げについて同意書をとってから自社の占有に置くのが無難な方法です。
また、代物弁済という回収方法もあります。
これは、本来の給付である債務の弁済に代えて、他の給付をすることによって債務の支払とすることです(民法482条)。
債務者が同意すれば、代物弁済と構成することで、他社が納入した商品を引揚げ、債権の回収をすることができることとなります。代物弁済の目的物を特定し、商品の価格を評価し、その額が債務の全額に満たないのであれば、全ての債務が消滅するということにならないように、いくらの支払に代えるのかを記載しておくことが肝要です。
債権譲渡の検討
債務者が有する債権の譲渡を受けると、第三債務者から直接支払を受けることができるので、債権の回収手段とすることも可能です(民法466条1項)。
債権に債権譲渡禁止特約があると、債権譲渡は無効との規定がありますが、特約があることについて善意・無重過失の譲受人には、譲渡禁止特約の効果が及びません(民法466条2項但書)(最判昭和48・7・19)。
※2020年(令和2年)4月1日の改正民法では債権譲渡禁止特約付きの債権譲渡は原則として有効になりました。詳しくは「改正民法~債権譲渡について~」の記事をご参照ください。
債権譲渡による回収を行う際には、譲渡禁止特約がないことを確認の上、債権譲渡契約を締結します。元の債権に付着した抗弁などを引き継ぐことになるため、譲渡債権の事項や相殺の可能性について債務者に聞くとともに、対抗し得る事情がないことを保証させておくことが有効です。
債権譲渡について第三者に対する対抗要件を備えておくことも必要です。
債務者からの確定日付のある通知又は第三債務者の承諾が必要となっています。
- 債権者が通知書を用意して債務者に押印してもらい内容証明郵便で通知書を発送する方法
- 債権譲渡契約書に第三債務者の承諾欄を設けて、そこに記名押印してもらい公証役場で確定日付をもらう方法
などがあります。
なお、第三債務者が異議なく承諾した場合、譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗できなくなります(民法468条1項)。このような効果を期待するケースでは、承諾書の方法で対抗要件を備える方が有利といえます。
前述のとおり、改正民法では、譲渡制限特約は当事者間で効力を有する債権的効力にとどまり、特約に反する債権譲渡を有効としています(預金債権の特則を除く)(民法466条2項)。
ただし、債権譲渡後も、債務者は特約につき悪意・重過失の譲受人に対して債務の履行を拒絶でき、債務者は譲渡人に対して行った弁済等の効力を悪意・重過失の譲受人に主張できるとしています。
債務者が、譲渡人にも譲受人にも支払わないということもできますが、これに対しては、譲受人が債務者に対して譲渡人への履行について相当期間を定めて催告しても期間内に履行が無い場合に、譲受人が債務者に対して履行を請求できます(民法466条2項)。
さらに、異議をとどめない承諾の制度が廃止されたことにより、債務者は、譲受人が債務者対抗要件を備えるまでに譲受人に対抗することができた事由について異議をとどめない承諾をした場合であっても、譲受人に対抗できるようになりました(民法468条)。
【代理受領の検討】
譲渡禁止特約があって、債権譲渡により債権を取得できない場合には、代理受領という方法をとることを検討します。
この方法は具体的に、
- 第三債務者からの支払先を債権者の口座に指定をして、振り込まれた金員を債権に充当できる振込指定の方法
- 第三債務者からの支払いを受ける権限を債権者が取得して、代金を回収し、回収した代金を債権に充当する代理受領の方法
があります。
代理受領は、委任契約書を締結し、債務者が作成した委任状で第三債務者に債権者が回収する、という過程を踏みます。
これら、債権回収の基本的な考え方・視点をご理解いただいた上で、実際に債務者に債務弁済の遅滞等があった場合には各種の措置を検討することが肝要です。
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