澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【破産手続きについて】取引先の会社が倒産?」
について、わかりやすく解説します。
倒産手続の種類
債務を負った人や企業が経済的に苦しい状況になり、債権者に対する返済が事実上できなくなったときに、債務者が立ち直るための倒産手続としては、法的整理と私的(任意)整理があります。
そして、法的整理には、清算型手続と再生型手続があります。
以下、解説していきます。
法的整理
法的整理とは、法律に定められた手続に基づき、裁判所を利用して債務を整理する方法です。
法的整理の特徴は、法律に基づく制度であるため、すべての債権者を強制的に手続に巻き込むことができるという非常に強い効力があることです。
また、裁判所が関与するため、平等性・公正性も担保されます。
もっとも、裁判所を利用する制度であるためコストがかかります。
法的整理には、
② 会社法に基づく特別清算
③ 民事再生法に基づく民事再生
④ 会社更生法に基づく会社更生
の4種類があります。
これらは、清算型手続と再生型手続に分類されます。
そして、
破産手続、特別清算は清算型手続にあたり、
民事再生、会社更生は再生型手続にあたります。
(1)清算型手続
清算型手続は対象となる企業を清算・解体するものであり、当該企業の保有財産がすべて債務の弁済に回されることになります。
もっとも、債権者の立場からすると、当初の債権額より回収額が少なくなることが多いというデメリットがあります。
清算型手続には、破産手続と特別清算手続があります。
ア 破産手続
破産手続とは、破産法に基づき、裁判所により選任された破産管財人(※1)が支払不能(※2)または債務超過(※3)に陥った破産者の財産を管理処分し、それによって得た金銭を各債権者に弁済または配当することです。
※1 破産者の財産(これを「破産財団」といいます)を金銭に変え、破産法に定める優先順位に従って、債権者に配当する事務を行う者のこと
※2 支払い期の到来し債務を一般的、継続的に支払うことができないこと
※3 債務の総額が資産の総額より大きいこと
イ 特別清算手続
特別清算手続とは、会社法に基づき、清算中の株式会社に清算の遂行に著しい支障をきたす事情がある場合または債務超過の疑いがある場合に、裁判所の監督下において行われる清算手続のことです。
破産手続との違いは、株主総会での特別決議が必要という点と、債権者の同意が必要な点です。
また、手続の主体は特別清算手続においては清算人となりますが、破産手続においては裁判所が選出した破産管財人となります。
(2)再生型手続
これに対し、再生型手続は、対象となる企業の再生・再建をするものであるから、当該企業の有する継続事業価値を活かすことになるため、清算型手続よりも多くの弁済を受けることが可能となることが多いです 。
再生型手続には、民事再生手続と会社更生手続があります。
ア 民事再生手続
民事再生手続とは、民事再生法に基づき、再生計画に基づいて債務の一部の免除を受け、債務者の事業又は再生を図る裁判所の手続のことです。
民事再生手続の最大の特徴は、経営者自身が退任することなく、手続を進められることです。手続が開始されると、裁判所によって監督委員が選ばれ、その監督の下、経営者は引き続き経営を担いながら再生手続を進めることとなります。
基本的には債務の大幅なカットを求めることになりますから、会社を破産させる以上に多くのお金を債権者が回収できることを再生計画で示さなければなりません。
再生計画が債権者の頭数の過半数かつ債権額の二分の一以上の同意で承認され、裁判所が認めれば、実行に移っていくことになります。
再生手続に着手してから再生計画が認可されるまでおよそ半年ほどで、比較的迅速に手続きを進めることができます。
イ 会社更生手続
会社更生手続とは、会社更生法に基づき、更生計画に基づいて債務の一部の免除を受け、その株式会社の事業の維持、更生を図るための裁判所の手続です。
民事再生手続との違いは、株式会社のみが利用できる制度である点にあります。個人や株式会社以外の合同会社・合資会社には利用が認められません。したがって、事実上、大規模な株式会社に利用が限られます。
また、民事再生は従来の経営者が引き続き経営にあたり、事業を継続することが基本ですが、会社更生においては、従来の経営陣は退陣し、裁判所が更生手続きの開始決定をするのと同時に管財人を選任します。
管財人は、会社の業務および財産の管理を行うとともに更生計画案を作成し、債権者多数の同意を得たうえで裁判所が認可すると、管財人がその更生計画の遂行にあたります。
一般的には、今後も継続事業価値を活かすべきと見込まれる場合には再生型手続によって処理され、そのような見込みがない場合には清算型手続によって処理される傾向があります。
私的(任意)整理
私的整理とは、法律に定められた手続に基づかず、裁判所を利用せずに債権者と債務者の協議によって債務の整理する方法をさします。
私的整理の特徴は、債権者と債務者の協議に基づくため、必要な範囲内で低コストかつ柔軟な対応が可能なことです。
私的整理には、任意交渉・私的整理に関するガイドライン、事業再生ADRなどがあります。
詳しくは、「私的整理への対応」の記事(※近日掲載予定です。)で解説します。
倒産処理手続のまとめ
以上の内容を整理すると以下のとおりになります。
法的整理 |
清算型 | 破産 特別清算 |
---|---|---|
再生型 | 民事再生 会社再生 |
私的整理 |
任意交渉 私的整理に関するガイドライン 事業再生ADR 中小企業再生支援協議会スキーム RCC企業再生スキーム 地域経済活性化支援機構スキーム 特定調停 |
民事再生手続の概要
ここでは、破産手続に次いで実務上利用の多い民事再生手続の概要について説明します(破産手続については次章で説明します)。
民事再生手続は
または
② 無理をすれば支払えなくはないが、その結果事業の継続が難しくなってしまうような場合
は申立棄却事由(民事再生法(以下略)25条)がない限り開始されます(33条1項)。
民事再生手続開始決定後も、再生債務者には財産の管理処分権が認められますが、再生債務者は債権者に対し公平かつ誠実に業務執行権および管理処分権を行使し、再生手続を追行すべき義務を負うことになります。
通常は、裁判所により監督委員が選任され、債務者を監督しながら手続を進めます。
再生手続開始決定後には、再生債権の届出・調査・確定手続がなされ、並行して再生債務者の財産を調査・確保する手続が行われます。再生計画案が作成・認可されると、再生債務者は再生計画を遂行することとなります。
そして、監督委員が選任されている場合において、再生計画が遂行されたとき、または再生計画認可の決定確定後3年を経過したときは、裁判所は、再生手続終結の決定を行います。
破産手続の流れ
ここでは、もっとも実務上利用の多い破産手続の流れについて詳しく説明します。
破産手続開始申立・破産手続開始決定
支払い不能の状態あるいは債務超過の状態に陥った債務者が裁判所に対して破産手続開始の申立てを行うか(これを「自己破産」といいます。)、もしくは、債権者が裁判所に対して債務者の破産手続開始の申立てを行います(これを「債権者破産」といいます。)。
そして、裁判所が、債務者が支払不能の状態にあると認める場合には破産手続開始決定をします。
破産管財人選任
裁判所は、原則として、破産手続開始決定と同時に破産管財人を選任します。
債務者に全く資力がなく、破産手続の費用をまかなうことができないことが明らかな場合は破産管財人を選任せず、破産開始決定と同時に破産手続終結決定をします(これを「同時廃止」といいます)。
破産した場合の債権者の対応
では、実際に取引先が倒産し、破産手続が開始した場合に、債権者であるあなたはどのような対応をとるべきでしょうか。
(1)破産手続開始通知書の確認
裁判所から破産手続き開始決定を受けると、記録上判明している債権者に対しては破産手続開始通知書が送付されます。破産手続開始通知書には、破産手続開始決定の主文、管財人の氏名、破産債権届出(次節で詳述します。)の期限、債権者集会の期日など、破産手続に関する重要な情報が記載されているため注意して確認してください。
(2)破産債権届出の提出
破産債権届出とは、債権者が破産手続開始通知書に記載された届出期間内に自己の有する破産債権を届け出ることで破産手続に参加できるようにするものです。
届出期間内に届出をしなければ破産債権として認められず、配当を受けることもできなくなるため、重要な書類といえます。
破産手続開始通知書と一緒に送付されてくる届出の用紙に、破産債権の額および原因、破産債権者の名称、住所、電話番号等を記載して裁判所に提出します。
また、証拠書類の添付が求められます。具体的には、契約書、請求書、納品書、給与明細などが証拠書類に該当します。
(3)債権認否
管財人は、債権者による債権届出を受けて債権者が届け出た債権を調査して債権額を確定し、破産債権の有無を判断します。この判断を債権認否といいます。
債権認否がなされた際には、
② 他の破産債権者が自分の債権に異議を述べていないか
を確認してください。
この2点に問題がある場合には、債権確定手続において破産債権の有無と内容を確定させるか、管財人と交渉を行い他の破産債権者に異議を撤回させる必要があります。
(4)相殺
破産手続において、債権者から破産債権を相殺することも認められています。そこで、取引先と買掛金がある場合には、売掛金との相殺ができないか確認しましょう。
ア 相殺の条件
相殺が認められるためには、
② 対立する債権の弁済期が到来していること、
③ 相殺禁止特約がなく、法律上も相殺禁止となっていないこと、
の3つの条件を満たす必要があります。
条件を満たし、売掛金と買掛金を相殺できる場合には、債権者は相殺通知を送付します。この通知は、後の争いを避けるため、内容証明郵便で発送しましょう。送付先は、破産手続開始決定後は管財人、破産手続開始決定前は代表取締役または申立代理人弁護士を宛先にします。
イ 相殺が制限される場合
3つの条件を満たしたうえでも、相殺が制限される場合があります。
① 相殺の意思表示の時期の制限
相殺ができるのにもかかわらず、放置している場合には管財人が処理を進めることができなくなるため、管財人には催告権が認められています。
管財人から相殺をするかどうかの催告を受けた場合に期間内に相殺をしないでいると期間経過後には相殺をすることができなくなります。相殺をしたいのであれば、早めにするに越したことはありません。
② 債権債務の取得時期による制限
取引先が支払不能に陥ったあとに、売掛金との相殺を目的に債務を負担したり、買受金がある場合に、取引先が支払不能にあるのにあることを知って、取引先に対する債権を取得した場合には相殺は制限されます。
つまり、取引先の倒産状態を知り、相殺によって自社だけ負担を軽くすることを目的に債権を取得した場合や、債務を負担した場合には相殺は認められません。
(5)担保権の実行
破産の場合、破産手続とは別に担保権を実行でき、破産債権の回収を図ることができます。この担保権のことを「別除権」と呼びます。
例えば、破産者の不動産に抵当権を有している場合、その不動産を対象に担保不動産の競売を申し立てることで、担保権を実行することができます。しかし、時間と費用がかかるうえ市場価格より低く落札されることが多いため、通常は破産管財人に不動産の売却を依頼することとなります。
破産手続において破産管財人がすること
破産管財人は、破産者が破産手続開始決定前に債権者を害するような行為を行っていた場合には、否認権(破産管財人がその行為を否認して、その効力を失わせる権利のこと)を行使して財産を取り戻します。
また、債権者が提出した債権届出書に記載された債権の有無・額に間違いがないかどうか、破産管財人が認否します。
債権者集会
債権者集会では、破産管財人から状況の説明と、届出債権の認否について説明がされます。債権者集会に参加するかしないかで配当の額に違いは生じません。そのため、破産管財人から直接説明を聞きたい、債権者集会で意見を言いたいといった事情がなければ、債権者集会に出席する必要はありません。
配当
破産管財人による換価が終了し、債権者に配当できるだけの金銭が集まったら、債権者の債権額に応じて、配当が実施されます。
まとめ
倒産手続の概要について説明をしました。
破産手続開始決定通知が裁判所から届いた場合に、まずは破産債権届出を期間内に提出してください。そして、配当を受けるために、相殺が可能か、担保権の有無を確認してください。
具体的な段階に応じて何を行うべきかについては、
取引先が倒産?初期段階で対応すべき情報収集や損害拡大防止の方法
「担保権の実行」(※近日掲載予定です。)
の記事も参考にしてください。
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