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詐害行為取消権とは?~要件や行使する際の注意点を解説~

Q
債務者である取引先の会社が債務を弁済しないまま、他者に対して、金銭債務の弁済・資産の譲渡・債務の代物弁済・新たな担保供与など財産の処分(詐害行為)をしてしまい、弁済できない状況にあるようです。
どうにかして、債権を回収できないでしょうか?

A
一定の要件のもとで、「詐害行為取消権」を行使すれば、他者に対する財産の処分を取り消し、自身の債権回収を図ることができます。
この際、処分された財産が動産・金銭であれば、処分を受けた他者に対して直接引き渡すように請求でき、結果として、事実上優先的に弁済を受け、債権を回収することができます。

令和2年(2020年)4月1日、改正民法(債権法)が施行されました。
この民法改正により、上記の詐害行為取消権の内容についても、これまでの判例法理や破産法との関係を整理しています。

以下では、詐害行為取消権を行使するための要件や行使する際の注意点などについて、改正民法の内容に沿って、わかりやすくご説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「詐害行為取消権とは?~要件や行使する際の注意点を解説~」
について、わかりやすくご説明します。

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詐害行為取消権とは

詐害行為取消権については、民法424条から同法426条までに規定されています(以下では、法名を省略します)。

詐害行為取消権とは、通常、他人同士の債権債務関係については、口出しをすることはできませんが、債権者を保護するため、一定の要件の下で債務者がした行為を取り消すことができる権利をいいます。

例えば、自社の債務者である取引先会社が自社に対して1000万円の代金債務を負っており、現状では、これを弁済する資力を有さないにもかかわらず、他者に対して負っている別の代金債務を弁済してしまったり(偏頗弁済)、所有する不動産を譲渡してしまったり、所有する不動産を新たに担保として供与してしまった場合に、詐害行為取消権を行使することにより、これらの行為の取消を請求することができます。

なお、債権を回収するには、上記の行為をされる前に弁済を促したり、債務者が持つ責任財産(金銭債権を強制的に回収する際に、差押えの対象となる債務者の財産をいいます)の差押えを申立てたりする方法がありますが、本記事では、主として既に上記の行為がされてしまった場合を想定しています。

行使のための成立要件

被保全債権

詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全して、債権者が債権を回収できる状態にする目的で行使する権利ですから、行使する債権者は、金銭債権を有している必要があります。
このような金銭債権を被保全債権といいます。

なお、判例(最判昭36・7・19民集15巻7号1875頁)によれば、取消の対象となる行為が動産や不動産の引き渡しを求める債権であっても、詐害行為取消権を行使する時点で、目的物が滅失している場合や他者に譲渡されてしまった場合など、履行不能となり損害賠償債権に転化していれば、詐害行為取消権を行使することができるとされています。損害賠償債権も単なる金銭債権に他ならないからです。

また、被保全債権は、詐害行為前の原因に基づいて生じていたものでなければなりません(424条3項)。
これは、原則として、詐害行為後に発生した債権は、詐害行為によって、その回収が困難になったとはいえず、保護に値しないからです。

したがって、詐害行為時に被保全債権が既に発生していれば、履行期の到来は問題となりません(大判大9・12・29民録26輯2096頁)。

また、取引状況に応じて代金額が変動する債権であっても、被保全債権となりますので、債権額が確定している必要もありません(大判昭3・5・9民集7巻329頁)。

そして、すでに債務者から抵当権など担保権の設定を受けている場合には、担保割れが生じているときに、その超過している範囲についてのみ、詐害行為取消権を行使することができます。

さらに、詐害行為取消権は、詐害行為を取消すことで、債務者の責任財産を保全し、後に強制執行によって、債権を回収するための権利であるため、強制執行の対象とならない債権(例えば、夫婦の同居義務に基づく債権等)は被保全債権となりません(民法424条4項)。

債務者の無資力

上述のように、詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全して、債権者が債権を回収できる状態にする目的で行使する権利ですから、詐害行為というためには、原則として、債務者が無資力(財産より債務が超過している状態をいいます。)であることが必要です。財産が残っているのであれば、そこから債権を回収することになります。

保証人がいる場合や物上保証人が要る場合には、保証人の財産や担保財産が債務者の責任財産のように考えられるため、無資力とは言えないように思われますが、保証人や担保財産から債権回収ができても、保証人が債務者に対して求償権を行使した場合(民法459条465条)、結局は債務者の責任財産が減少することになります。
そこで、この場合にも無資力であるといえ、詐害行為取消権を行使できます。

詐害行為

詐害行為取消の対象となるのは、債権者への債務の返済が困難になる詐害行為です。
そして、詐害行為は、財産権を目的とする行為に限られます(民法424条2項)。
また、全体としては債務者の財産が減少しない行為であっても、以下の3類型は、詐害行為にあたる行為として対象になります(民法424条の2、同424条の3、同424条の4)。

①相当の対価を得てした財産の処分行為について(相当価格処分行為、民法424条の2)

債務者が、自己の財産を処分しても、相当の対価を得ているのであれば、財産が金銭に替わっただけですので、責任財産が減少したとはいえません。
しかし、以下の3つの要件が備わる場合には、詐害行為取消しの対象となります。

● 債務者による財産処分行為が、財産の隠匿や無償の供与その他の債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさるものであること(民法424条の2第1号)

● 債務者が行為時に得た金銭その他の財産を、隠匿などの処分をする意思を有していたこと(民法424条の2第2号)

● 受益者(債務者の財産処分を受け、利益を得た者をいいます。)が行為時に債務者がその意思を有していることを知っていたこと(民法424条の2第3号)、

不動産よりも金銭の方が隠匿しやいため、一見単なる不動産売買と思われる取引であっても、債務を逃れるために行われる場合があり、これに対応するための条文です。

②特定の債権者に対する担保の供与や債務の消滅に関する行為について(偏頗行為、民法424条の3)

債務者が、自己の財産を担保として供与したり、債務を弁済しても債務者の責任財産が減少したとはいえません。

しかし、これらの行為が、債務者が支払不能(同条においては、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます。)の時に行われ(424条の3第1項1号)、その行為が債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものである場合には(民法424条の3第1項2号)、詐害行為取消しの対象となります。

また、これらの行為(偏頗行為)が債務者の義務ではない又はその行為の時期が債務者の義務ではない場合には、悪質な行為であるため、支払不能になっていなかったとしても、債務者が支払不能になる前30日以内に行われ(民法424条の3第2項1号)、債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものである場合には(民法424条の3第2項2号)、詐害行為取消しの対象となります。

同じ債務者に複数の債権者がいる場合、その債権が最終的に金銭債権となる債権であれば、責任財産を担保としていることになります。そうであれば、債権の発生原因や履行期、債権額の多少にかかわらず、債権者は平等に取り扱われるべきという債権者平等原則が同条の根拠です。

③過大な代物弁済等について(民法424条の4)

代物弁済とは、弁済しようとする者が債権者との間で、既存の債務に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をして、その給付により弁済と同様の効果を生じさせる行為をいいます(民法482条)。

受益者の受けた給付の価額が元の債務の額より過大である場合には、民法424条に従って、その過大である部分については、詐害行為取消しの対象となります。過大な代物弁済によって、過大部分について、責任財産が減少するからです。

債務者の詐害意思

債務者が債権者を害することを知ってした行為でなければ(主観的要件)詐害行為とはいえず、取消しの対象とはなりません(民法424条1項本文)。
詐害意思の有無は、債務者の主観と行為の客観(客観的要件)から総合的に判断されるため(最判昭35・4・26民集14巻6号1046頁、最判昭39・11・17民集18巻9号1851頁)、例えば、債務者が特定の債権者の債権を害する意図で行為に及んでいなくとも、処分された財産額が多額であるなど行為自体の態様に詐害性が強く認められれば、詐害意思も認められやすくなります。

受益者・転得者の悪意

受益者が債務者の行為によって債権者を害することを知っている必要があります(424条1項ただし書き)。これを受益者が悪意であるといいます。
また、転得者(受益者の財産処分を受け、利益を得た者をいいます。例えば、債務者から不動産を譲り受けた受益者が、その不動産を第三者に譲り渡した場合の第三者をいいます。)に対して詐害行為取消権を行使する場合には、受益者の悪意に加えて、転得者が受益者から財産を転得する際に、債務者の行為が債権者を害することを知っていることが必要です(民法424条の5第1号)。
さらに、転得者が他の転得者から転得したものである場合には、すべて転得者悪意である必要があります(民法424条の5第2号)

このように受益者・転得者悪意を要件としているのは、受益者・転得者も何らかの法律上の原因によって利益を得ているので、事情を知らない受益者・転得者から得た利益をはく奪してまで、債権者を保護する必要はないからです。

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効果

詐害行為取消請求が裁判上認容されると、債務者およびそのすべての債権者に対してもその効力を生じます(民法425条)。

詐害行為取消権は、債務者の責任財産保全が目的なので、処分された財産は債務者の下に戻すのが一番目的に沿います。

そこで、詐害行為の目的財産が不動産であれば、債務者の意思に関係なく、登記を債務者名義に戻すことで、責任財産が保全されます。
他方で、詐害行為の目的財産が動産・金銭であれば、債権者は、詐害行為取消請求の相手方となった受益者・転得者に対して、移転した財産の返還もしくはその価額の返還を直接請求できます(民法424条の6、424条の9)。
この理由は、動産・金銭の場合、債務者に返還されたとしても債権者に対して弁済を再度拒絶したり、消費するなどして、債権を回収することが困難になってしまうからです。

また、詐害行為の目的が可分である場合には、被保全債権の債権額の限度においてのみ、取消すことができます(民法424条の8)。
たとえば、債権者の被保全債権が700万円である場合において、債務者が受益者に対して1000万円の代金債務を弁済したときには、債権者はその弁済の700万円の限度においてのみ詐害行為取消権を行使することができます。
そして、債務者は、債権者の下へ返還された目的財産を引き渡すように請求してくることが考えられますが、債権者は、被保全債権をもって対等額を相殺することで事実上の優先弁済を受けることになり、債権を回収しできたことになります。

相手方・方法・時期

詐害行為取消権の行使は、裁判所に請求する(訴訟を提起する)方法によらなければなりません(民法424条1項本文)。

また、詐害行為取消権行使の相手方(被告)は、受益者または転得者です(民法424条の7第1項)。

例えば、転得者がいる場合には、受益者を相手方とし、詐害行為の対象となった目的財産の価額である転得者から得た金銭を返還するように請求することもできますし、転得者(さらに転得させた場合は受益者を相手方とする場合と同様です。)を相手方とし、詐害行為の対象となった目的財産を返還するように請求することもできます。

そして、訴訟を提起した場合には、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければなりません(民法424条の7第2項)。詐害行為取消しを認容する又は棄却するという確定判決の効果の及ぶ債務者にも取消すべきか否かを争う機会を与える(結果として、訴訟参加しなかったとしても問題ありません。)ことで、債務者を納得させるためです。

さらに、債務者の詐害行為を債権者が知った時から2年を経過したときおよび債権者が知らなかったとしても詐害行為の時から10年を経過したときには、権利行使ができなくなります。これは、消滅時効ではなく、上訴期間ないし出訴期間であると考えられているため、時効に関する条文の適用はありません。あまりにも長い期間が経過したにもかかわらず、権利行使を許したのでは、債務者や受益者、転得者にとって酷であり、早期の安定を図るためです。

注意点

権利行使前の注意点①

詐害行為取消権の行使は、訴訟を提起する方法によらなければならないため、証拠を提出するなどして、認容の確定判決を得なければなりません。
そこで、日頃から、取引先会社の貸借対照表や勘定科目明細の提出を受け、あるいは、法務局で不動産登記謄本を確認するなどして、財政状況を把握し、責任財産がなくなりそうな場合には、弁済を促したり、差押えたり、新たに担保供与をしてもらうなど債権回収のために準備をすることをお勧めします。
また、財産が処分された場合には、売買であれば、公正な市場価格で取引されたか否か、処分によって得た対価を無駄に消費しようとしていないか、を確認することもお勧めします。

権利行使前の注意点②

これまでは、金銭債務の弁済や動産・不動産の売買、担保供与など、行為自体から責任財産の減少のおそれをイメージすることが容易でしたが、会社の組織再編行為や事業譲渡によっても責任財産が減少または隠匿されるおそれがあります。

会社分割等の組織再編行為は会社債権者において、与信状況に悪影響を及ぼすことがあるため、行為前に債権者に異議申し立ての機会を与え、反対された場合には、組織再編行為の効力が生じないとする制度(債権者保護手続)が設けられています。
しかし、会社分割では、分割会社に対して債務の履行を請求できる債権者は、分割会社が会社分割の対象となる権利義務に見合った承継会社等の株式を取得することで責任財産が減少しないからとして、異議を述べられません(会社法789条1項)。
また、会社同士の取引であれば「知れている債権者」にあたることが多いため各別に催告しなければなりません(会社法789条2項、799条2項、810条2項)が、取引先会社の定款に新聞広告または電子公告をする旨の定めがあれば、知れている債権者に対して各別の催告は必要ありません(会社法789条3項、799条3項、810条3項)。
このように、必ずしも組織再編行為をあらかじめ知ることができる機会が法的に与えられているとは限らないため、十分に注意して取引先の動向を把握するべきです。
なお、会社分割行為を詐害行為として取消すことができるかが争われた判例(東京高判平22・10・27金法1910号77頁)では、当該事案に限って会社分割行為を取消すことができると判示していますが、およそ会社分割一般について、これを認めたものではありません。

権利行使時の注意点

詐害行為取消権の行使は、訴訟を提起する方法によらなければならないため、確定判決を得るまでに相当の時間を要しますが、その間に、詐害行為の目的財産がさらに処分され、確定判決を得ても返還請求することができないおそれがあります。
そこで、あらかじめ、当該財産について処分禁止の仮処分を申し立て、その発令を受けておくことが有用です。これは、価額賠償を請求する場合にも同様です。

まとめ

以上に述べたように、債務者である取引先の会社が債務を弁済しないまま、他者に対して、金銭債務の弁済、資産の譲渡、債務の代物弁済、新たな担保供与など財産の処分(詐害行為)をしてしまい、弁済できない状況になってしまった場合には、一定の要件のもとで、詐害行為取消権を行使すれば、他者に対する財産の処分を取り消し、自身の債権回収を図ることができます。

もっとも、権利行使は訴訟を提起する方法によるしかないため、法律上の専門的な知識が必要です。弁護士にご相談されることをお勧めいたします。


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