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取引先が破産手続を開始した場合に債権を最大限回収する方法とは?

Q
 会社の取引先について、破産手続が開始されたとの知らせが届きました。
当社が有している債権はどのように扱われるのか、債権を最大限回収するためには何をしたらよいでしょうか?

A
 破産手続が開始された場合、まずは債権の届出を行う必要があります。また、債権回収のために使われることの多い手段である相殺と担保権の実行について説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「取引先が破産手続を開始した場合に債権を最大限回収する方法とは?」
について、詳しくご解説します。

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破産手続開始後の債権の取扱いと届出

債権の取扱い

取引先について破産手続きが開始された場合、取引先に対する債権は破産債権となります。
破産債権は、原則として取引先から任意に弁済を受けることはできません。加えて、取引先の財産の差押え等の強制執行の申立て、仮差押えや仮処分といった保全処分を申し立てることもできません。

そして、取引先の事業は原則として停止し、取引先の有する財産の管理処分権はすべて破産管財人に移ります。破産管財人は、取引先の全ての財産を処分・換価し、換価した資金により、破産債権者に対して、配当という形で公平に按分弁済をします。

破産債権は、破産手続きによってのみ権利を行使できます。ただし、担保権の行使や反対債権と相殺は可能です(後述します。)。

破産手続において破産債権を行使するためには、
まず、破産債権届出書を提出して破産手続に参加することが必要です。届出のあった債権について、破産管財人が確認し、認否をします。
そして、破産債権と認められた債権は、配当可能資金があれば配当を受けることができます。
また、債権届をすることにより、債権者集会において議決権を行使し、一定の事項につき異議を述べ、配当を受け取ることができます。

まとめると、
開始決定→債権届出書の届出→破産債権の確定→配当→終結
という流れで破産手続きは進められます。

債権の届出

債権者は、原則として、破産債権の届出を行い破産手続の中で権利行使をする以外、債権回収の方法がありません(取引先に対し債務を負担しており相殺ができる場合と、担保権を有しており債権回収を図ることができる場合を除きます)。

では、債権の届出の方法についてみてみましょう。

(1)一般的な手続きの場合の届出

破産手続き開始決定があると、裁判所から破産手続開始の通知が送られてきます。
通知には、破産事件の事件番号、いつ破産開始決定があったか、破産管財人とその連絡先、第一回債権者集会の日時、場所が記載されています。また、債権届出の提出期間や、債権調査のための期日(または期間)も記載されています。さらに、債権届の用紙と書き方の説明も同封されているので、それを用いて届出を行います。

定められた期間内に破産債権の届出をすることで、配当を受けることが可能となります。また、債権を届け出ることによって、他の届出債権者の破産債権の存否や額に異議を述べ、配当表に異議を申し立てることもできるようになります。

もし、取引先が破産したと聞いたにもかかわらず、破産手続き開始の通知が送付されない場合は、取引先が正確に債権者を申告していない可能性があります。ネット検索や、他の債権者に問い合わせるなどして取引先の破産管財人または破産申立代理人を探し、債権者である旨を申し入れ、通知を送ってもらうようにしましょう。

(2)留保型の場合の届出

債務者の財産に比べ、公租公課(税金・社会保険料等)や従業員に対する未払給料が多い場合、これら債権に対する配当は、破産債権者に対する配当より優先されるため、破産債権者にまで配当できないと予想されます。このような場合には、破産債権の届出と調査に関する指定を留保したまま破産手続きが進められることがあります。そして、配当が可能な状態にならない場合、配当がないまま破産手続きは終了します。これを「異時廃止」といいます。

他方、開始決定後に、多額の資金が形成されるか、破産債権者に配当できる見込みが生じた場合には、留保されていた手続が始まり、裁判所から債権届に関する通知が送られてくることになります。

破産法では、債務者の財産状況に不審な点があれば、破産手続開始申立書その他の文書を閲覧謄写し自ら調査する、もしくは債権者集会に出席して意見を述べるなどの手段が規定されています。

実務では、破産管財人に問い合わせ、不審な点を申し入れ、破産管財人に調査を依頼するという対応が多くとられています。

(3)別除権の記載

別除権とは、「破産手続き開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有するものがこれらの権利の目的である財産につき、破産手続きによらないで行使することができる権利」のことを言いますが、債権の届出をする際、別除権について記載が求められます。
その際のポイントは以下の通りです。

  1. 複数の債権の一部に対して別除権がある場合、どの債権に対するものか、明確になるように記載する。
  2. 全部の債権に対して別除権がある場合、「上記債権につき」とまとめて記載する。
  3. 別除権になるのは、破産した取引先の所有する財産に担保権を有している場合に限られる。第三者から物上保証を受けていても、取引先の破産の影響を受けないため、取引先に対する別除権にはならない。
  4. 債権の届出として提出は求められていなくても、登記または登録がある場合は、その写しを添付する。

(4)届出期間

破産債権の届出は、裁判所が定めた破産手続き開始の通知に記載された届出期間内にする必要があります。
しかし、何らかの事情で、債権届出期間を過ぎてしまっても、以下の場合には権利行使が認められる余地がありますので、期間経過後であっても債権の届出をするべきです。

  1. 一般調査期間が定められた場合、破産管財人が提出する債権認否書に自社の債権の全部または一部について認否が記載されたとき。
  2. 一般調査期日が定められたときは、一般調査期日まで届け出て、破産管財人からも破産債権者からも異議がないとき。
    →破産管財人の債権認否書の提出期限は一般調査期間前なので、破産管財人が債権認否書を提出するまでに債権の届出を行っておけば、破産管財人がこれを認める場合が多いと考えられます。
  3. 一般調査期間経過後または、一般調査期日の終了後であっても、それまでに債権届出ができなかった理由が、自社の「責めに帰することができない事由」によるとき。
    →その事由が消滅してから一月以内に届出をすることができます。
    ただし「責めに帰することができない事由」とは、破産手続開始決定があったことは官報によって広く周知されているため、否認権の行使や相殺が否定されたりしたような場合以外、限定的にしか認められません。

上記1乃至3の場合でも必ずしも権利行使が認められるとは限らないため、届出期間を徒過しないように、十分に注意する必要があります。

(5)特殊な債権の取り扱いと届出

ア 期限付債権
たとえば、1月1日に破産手続きが開始された会社に、7月末日が支払期日の債権を有していたとします。その場合、債権の届出期間の終期までにこの債権の期限は到来しないかもしれません。このときの債権の扱いはどうなるでしょうか。
破産手続きでは、債権の弁済期が破産手続開始の時より後の場合でも、破産手続き開始のときに期限が到来したものと扱われます。つまり、このケースでは1月1日に期限が到来したものと扱われます。
ただし、無利息の債権で破産手続開始決定から1年上経過してから期限が到来する金銭債権について、その債権のうち年単位で法定利息によって計算される中間利息相当額が劣後的破産債権とされるという取り扱いとなっていますので、注意が必要です。

イ 非金銭債権、金額不確定の金銭債権
破産者に対する金銭債権以外の債権や破産手続き開始の時に金額が確定しない金銭債権については、金銭に評価して、その額で債権届出をすることで権利行使できます。

ウ 停止条件付債権
一定の条件が満たされれば、債権が発生する権利を有しており、破産手続き開始の時には条件が満たされるか否かを確定していないような停止条件付の債権の場合でも、その全額について破産債権の届出をして権利行使することができます。ただ、最後配当の除斥期間内に条件が成就しないときは配当されません。

(6)担保付き債権を有する場合

破産者に対する債権について、破産者が所有する財産に担保権を有する場合には、債権届出の際、「担保権を行使しても弁済を受けられないと見込まれる額」を届け出る必要があります。

破産手続き開始決定があっても、担保権は原則として破産手続きに制約されないため、破産手続外で担保権を行使し、優先弁済を受けることができます。これを別除権と呼びます。破産法上、担保権を行使しても弁済を受けられない債権の額についてだけ配当をうけ、議決権を行使できると規定されています。

そこで、①別除権の種類、②目的物、③別除権を行使しても弁済が受けられないと見込まれる債権の額(予定不足額)を明らかにする必要があります。

なお、最後配当を受けるためには不足額の証明(=競売実行又は任意売却)又は破産手続の開始後に被担保債権である破産債権の全部又は一部につき担保されないこととなったことの証明が必要となります。(ただし、根抵当権の場合の特則もあります。)

債権届出に対する認否を争う方法

債権届出に基づき破産管財人が債権の認否を行います。届出債権額の全部または一部が認められなかった場合、その債権額について配当を受ける権利が認められません。そのまま何もしなければ破産管財人の認否の通りで確定してしまいます。そこで、破産管財人によってなされた認否を争う必要があります。

まずは、認否書記載の認否結果を確認する必要があります。破産管財人等から認否結果が通知される場合もありますが、法律上の義務ではないため、通知がない場合には、裁判所書記官に認否書の閲覧や謄写を請求するか、破産管財人に認否結果を問い合わせるとよいでしょう。

(1)認否の内容に異議がある場合

破産管財人の認否の内容に異議がある場合、破産管財人に、認否を変更してもらうよう交渉すべきです。

破産管財人との交渉で変更されなかった場合、裁判所に「査定の申立て」を行いましょう。査定申立ては、債権額等を確定するための裁判を求める申立をいい、一般調査期間の末日から1月以内に行う必要があります。裁判所は、査定申立ての内容が正しいか否かを判断し、査定決定をします。

そして、査定決定に不服がある場合には、異議の訴えを提起することができます。異議の訴えの結果、査定決定を認める判決がなされた場合には、査定決定の内容通りに届出債権が確定します。また、査定決定を変更する判決がなされた場合には、判決の内容の通りに届出債権の認否結果が変更されます。

(2)他の債権者の債権額などに異議がある場合

他の債権者の債権の認否結果に異議がある場合、債権者は裁判所に対し、書面で異議を述べることができます。異議を述べることができるのは一般調査期間内(債権届出がされた債権について調査する期間)だけです。

破産手続開始後の債権回収の方法

では、債権者はどのように債権回収を行うことができるのでしょうか。回収の方法についてみてみましょう。

相殺

(1)相殺の方法

破産債権は弁済が禁止され、配当手続によってしか弁済を受けられないのが原則です。
もっとも、相殺の方法によれば、反対債権の額相当額の弁済を受けたのと同じ状況になります。相殺をしなければ、債権は弁済を受けれないのにもかかわらず、債務の支払義務を負うことになります。

相殺は相手に対する意思表示が必要です。通常、内容証明郵便によって行います。意思表示は、債権債務それぞれ(自動債権及び受働債権)について、具体的に債権の発生原因、発生日、金額、弁済期を記載して、相手方に通知するようにしましょう。

破産手続では相殺の期限は定められていません。解釈上では、最後配当に関する除斥期間の満了までに相殺の意思表示をすれば、相殺が可能であるとされています。
「最後配当に関する除斥期間」とは、配当についての公告または債権者あて通知があった日から2週間をさします。

そして、相手方に通知が届いたときに相殺の効果が発生します。

(2)相殺禁止

債権や債務を負担した時期によって、相殺が禁止される場合があるため注意が必要です。

自社が取引先の債権者であり、その後、取引先への債務を負担した場合で相殺禁止となるケース
債権者は破産手続が開始された後に取引先に対する債務を負担したときは相殺できません。
また、取引先が支払不能(債務者がすでに弁済期が到来している債務について継続的に弁済できない状態にあること)に陥ったことを知って、売掛金と相殺する目的で債務を負担したときにも相殺が禁止されます。
さらに、取引先の支払停止後(取引先が支払不能の状態にあることを外部に表示する行為)または破産開始手続開始の申立てがあった後、債権者がそのことを知りながら負担した取引先に対する債務をもって相殺することも禁止されます。

(3)相殺禁止の例外

相殺禁止の場合であっても次のように、例外的に相殺が許される場合がありますので、どのような場合に相殺禁止の例外となるのか、把握しておきましょう。

自社が取引先の債権者であり、その後、取引先への債務を負担した場合
自社が取引先の債権者であり、その後、取引先への債務を負担した場合で、相殺禁止に該当する場合でも、次の場合は相殺が認められます。

  1. 法定の原因に基づいて債務を負担したとき
    たとえば、相続や合併の場合は法律上当然に権利義務を包括的に承継することとなり、債権者が相殺を行う目的で意図的に債務を負担した場合にはあたりません。他の債権者の利益が不当に害されることもないため、相殺禁止の例外として相殺が認められます。
  2. 支払不能・支払停止・倒産手続開始申立があったことを知る前に生じた原因によって債務を負担したとき
  3. 倒産手続開始申立てより1年以上前に生じた原因によって債務を負担したとき

担保権

破産手続が開始された場合に債権者が担保権を有している場合にはそこから回収を図ることができます。担保権の種類によって、担保の取り扱い・効果に違いが生じます。
ここでは簡単に説明しますが、詳しくは別記事(近日掲載予定です。)をご参照ください。(別記事では所有権留保、動産売買先取特権などにも触れています。)

(1)抵当権

抵当権を有している債権者は、破産手続きと無関係に抵当権を自由に行使することができます。
抵当権者は目的不動産の競売を申し立てることも、不動産の売買代金に物上代位することも可能です。
別除権者が別除権を行使して債権全額が回収できなかった場合は、回収できなかった不足額について破産債権者として破産手続きに参加することになります。
このように、抵当権者は自由に抵当権を実行できますが、現実では管財人が抵当権者の同意を得たうえで、任意に物件の購入希望者に対して売却するという任意売却の方法で処理されることも多いです。

(2)根抵当権

根抵当権とは普通の抵当権と異なり、極度額の限度で発生と消滅を繰り返す債権を担保とすることを目的としています。そして、元本確定がなされると、その時点で存在する被担保債権が根抵当権の対象とされ、それ以降に発生した債権は根抵当権の対象となりません。
破産手続が開始されると同時に元本は確定され、債権者は根抵当権の行使が可能となります。

(3)質権

質権は破産手続上、別除権として扱われます。
質権には、建物の火災保険金や定期預金などを対象とする債権質もあります。この債権質も、破産手続上、別除権として扱われるので、別除権者である債権質の質権者は破産手続開始決定後も質権の目的である債権を第三債務者から直接取り立てることができます。

(4)譲渡担保

譲渡担保は、債務者の財産の所有権などを担保目的で債権者に移転させておくものです。破産手続きでは別除権として扱われます。ここでは譲渡担保の中でも特に多く使われる、集合動産譲渡担保について説明します。

譲渡担保権者は債務者に対し実行の通知を行うことにより、集合動産譲渡担保を実行します。

通知がなされると、その時点で集合物を構成する個々の動産が確定し、以後債務者はその動産を処分することができなくなります(これを「集合物の固定化」といいます。)。
譲渡担保権者は集合物を自ら売却できる見込みがあれば、債務者から引き渡しを受けて売却のうえ、必要に応じて清算を行います。

売却先を確保できない場合は管財人に依頼し、管財人に売却してもらい、売却代金のうち一部を破産財団に組み入れ、残りを被担保債権の弁済に充てることが考えられます。

(5)留置権・商事留置権

留置権は、債権者が被担保債権全額の弁済を受けるまで、他人の物を自分の手元にとどめおいて返還を拒むことができる担保物権です。目的物を返還してもらうには、被担保債権を弁済しなくてはならないので、留置権には間接的に被担保債権の弁済を強制する効果があります。

留置権の種類としては、民法上認められた民事留置権と商法または会社法上認められた商事留置権があります。

破産手続上、民事留置権は破産開始決定後失効します。すると、留置的効力も失われるため、留置権者は破産管財人の求めに応じて目的物を返還することになります。

一方、商事留置権は特別の先取特権とみなされ、その結果、別除権となります。特別の先取特権の効果として、留置している目的物の競売権があります。したがって、商事留置権者は破産手続後も競売を申し立てることができます。

まとめ

破産手続きが開始された場合、まずは期間内に債権届出書を提出することが最優先です。届出提出後は、届出た債権の内容が破産管財人に認められたか確認することも重要です。破産管財人の判断に納得がいかない場合は破産管財人と交渉しましょう。その後は、少しでも自社の債権を回収できるように弁護士と 相談の上、相殺が可能か、自社が担保権を有している場合のどのように実行すべきか等、慎重に検討しましょう。

なお、「担保権」の記事でも担保権の種類・実行方法について説明していますので、そちらも参考にしてください。(近日掲載予定です。)


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