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強制執行認諾文言付公正証書とは?【債権回収の備え】

Q
債務者が契約を守ってくれるか心配です。
債権回収の実効性を確保できるような手段はありますか?

A
口頭で約束しただけでは、債務者が後日約束を守らないおそれや合意した内容が不明確になる可能性があります。そのため、契約の合意内容を書面化しておくことが重要です。
特に、裁判をせずとも強制的に債務者から債権を回収できる「強制執行認諾文言付公正証書」は、債権者にとって非常に心強いものといえます。
今回は、契約の際に作成しておくべき様々な書面を見ていきましょう。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「強制執行認諾文言付公正証書とは?【債権回収の備え】」
について、詳しくご説明します。

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債務確認書

意義

債務確認書とは、債務者が相手方に対して負担している債務の額を確認する書面をいいます。

効果

  • 支払期限が過ぎても債務を支払わず、支払いを督促してもなかなか支払わない場合などに有効です。
  • 債務確認書を債務者と交わせば、債務者が債務を承認したといえ、消滅時効が更新(民法152条)されます。

債権は、一度取得すれば永久に行使できるわけではなく、債権者が当該債権を行使することができることを知ってから5年間又は当該債権を取得してから10年間、債務者に対し債権を行使しなかった場合、当該債権は消滅時効期間が経過し、債務者が消滅時効を援用すれば債務は消滅し、それ以後債務者に債権の支払を請求できなくなります(民法166条1項)。

もっとも、債務者が債務を承認すれば、その時点から新たに時効期間が起算されます。
これを、「時効の更新」といいます。
つまり、承認した時点から再度5年間又は10年間経過するまでは、時効により債権が消滅することはなく、債権を行使できる期間が延長されるというメリットがあります。

  • その他にも、債務確認書は、債務者を相手に法的手続を取る場合に、債務者に対する債権の存在を証明する有力な証拠となります。これにより債権者の立証の負担を減らすことができます。

記載すべき事項等

  • 債務の特定とその残額
  • 債務者の押印

特徴

債務確認書の特徴として、債務者から任意での取得が比較的容易であるにもかかわらず、上記(2)効果で述べたような得られる効果が大きいという点があります。
そのため、「最低限」、この債務確認書の取得を目指しましょう。
債務者が支払いに応じない際は、支払いを猶予する代わりに、債務確認書に押印してもらい、上記(3)記載すべき事項等で記載した事項を取り決め、支払を促すなど、交換条件を持ち掛けてみるのもよいでしょう。

【債務確認書 記載例】

債務確認書


株式会社〇〇 御中

弊社は、本日現在、貴社に対し、下記の債務(合計金〇円)を負担していることを確認いたします。


1 商品Aの売買代金(令和〇年〇月納入分) 金〇円
2 商品Bの売買代金(令和〇年〇月納入分) 金〇円
3 商品Cの売買代金(令和〇年〇月納入分) 金〇円

以上
令和 年 月 日
東京都〇区〇町1丁目2番3号
株式会社〇〇
代表取締役 甲野太郎 ㊞

債務弁済契約書

意義

債務弁済契約書とは、債務者が債務の存在を確認するとともに、その債務を分割し、いつ、いくら支払うのかを約束する書面をいいます。

効果

  • 債務者との間で分割払いの条件について合意に至った場合は、債務弁済契約書を交わします。
  • 債務確認書と同様、債務の承認により消滅時効が更新されます。
  • 訴訟等において、債務者に対する債権の存在のみならず、その支払方法についても証明する有力な証拠となります。

記載すべき事項等

債務弁済契約書には、次のような条項を定めます。

①債務の確認

債務者が債務を確認する条項です。
債務の発生原因、日付、金額等により債務を特定する必要があります。

②支払条件(支払期日等)

支払日と支払額が明確になるように定めます。 

例)「◯年◯月から◯年◯月まで、毎月末日限り50万円を支払う。」

③期限の利益喪失

まず、期限の利益とは、一定の期限が到来するまでは弁済(支払い)をしなくてもよいという債務者の利益をいいます。

債務の全額について支払期限が経過している場合でも、新たに分割払いの約束をした場合、債務者は分割払いの各支払期日が到来するまでは分割金の支払いをする必要がありません。
つまり、債務者は、新たな期限の利益を得たことになります。

しかし、債権者が分割払いの条件を認めるのは、債務者がその条件通りに分割金を支払うことを約束したからです。債務者が約束した条件に従った分割金の支払いを怠った場合や債務者の信用状態が悪化した場合にまで、債権者が債務の全額の支払いを請求できないのは不都合です。

そこで、債権者は債務者の信用状態が悪化したとみられる事情が生じた場合には、債務者が期限の利益を喪失し、債務の残額を一括して支払わなければならない旨の条項を定めておく必要があるのです。

④債務の支払をしなかった場合の制裁条項

民法上、遅延損害金は原則として年3%(但し、市中金利の動向に合わせて3年毎に自動的に法定利率が変動します)とされていますが(民法404条)、債務の支払を促すために、法律以上の遅延損害金(又は違約金)を定め、支払をしなかった場合の制裁となる条項を設けることが有用です。

⑤担保・保証

一度支払期限を徒過した以上、債務者に対する信頼は一般的に低下するといえるでしょう。>br> そのため、分割払いを約束するに当たり、新たに担保や保証の差入れを要請し、この要請を債務者が承諾した場合には、担保や保証に関する条項を入れておきましょう。

⑥署名・捺印(記名・押印)

「契約書」であるため、債権者と債務者が押印するのが一般的です。
もっとも、債務者のみが押印し、債権者に差し入れるという形式でも差し支えありません。

※なお、書面のタイトルは「債務弁済契約書」でなく、「合意書」や「覚書」でもかまいません。

特徴

債務の存在のみならず、支払い条件等についても当事者間で合意したことの有力な証拠となる点で、債務確認書よりも強力な書面といえるでしょう。

必要な事項が書面に規定されていればよく、書面作成のハードルも高くありません。あとは債務者の応じやすい形式で速やかに書面化することが求められます。
債権回収の実効性を更に高めるためには、債務弁済契約書を後述する公正証書として作成することが考えられます。

準消費貸借契約書

意義

準消費貸借契約とは、金銭等を給付する義務を負う者が、相手方との間でその金銭等をもって消費貸借の目的とすることを約束する契約をいいます(民法588条)。

そもそも、消費貸借契約とは、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約束して、相手方から金銭等を受け取る契約のことです。

消費貸借契約の典型例が、いわゆる借金です。
つまり、金銭を受け取る代わりに、同額の金銭(当事者間で利息を付する特約を結んだ場合は利息も含む。)の返還を約束することが金銭消費貸借契約です。

そして、準消費貸借契約とは、既存の債務を、当事者の合意により、消費貸借契約の債務に変更することです。

例えば、甲が乙から50万円のテレビを買ったとします。これにより、売買契約(民法555条)が成立することとなります。

買主である甲は乙に対し代金50万円を支払う(給付する)義務を、売主である乙は甲に対しテレビを引き渡す義務を負います。
そして、当事者としては、両債務を同時に履行することを希望します。

もし、先に甲が乙へ代金を支払えば、乙はテレビを甲に引き渡さず、第三者に売却することによって、二重に利益を得ようとするおそれがあるからです。
しかし、甲の手元に50万円がなかった場合、甲は50万円が溜まるまでテレビを受け取り、使用することができません。

そこで、準消費貸借契約の締結を検討します。
甲と乙の間で、甲から乙に対し50万円を支払う義務を、実際には借りていないのに、乙から50万円を借りたことにし、それを返還する義務(金銭消費貸借契約の義務)へと変更する合意を準消費貸借契約といいます。
これによって、乙は先にテレビを甲に引き渡すことになり、甲は分割払い等により最終的に50万円を返還すれば良いことになります。
  • 準消費貸借契約を締結すれば、利息や弁済期日などを新たに決めて契約することができます。

  • 滞納した売買代金に利息をつけて支払ってもらう等、債権者にもメリットがある契約です。

効果

準消費貸借契約の効果を、以下の2つのメリットの観点から確認していきましょう。

①債権の管理・回収の観点からのメリット

債務者に対して多数の債権を有する場合、債権ごとに消滅時効が進行するため、例えば、消滅時効にかからないように請求を怠らないようにする等、債権を管理する必要があり、債権者に多大な負担がかかります。

また、多数の債権について複数の弁済が繰り返されている場合、それぞれの弁済がどの債権に対してなされたという弁済の充当関係も把握しなければなりません。

そこで、多数の債権を準消費貸借により一本の金銭消費貸借とできれば、その時点で債務の承認により時効が更新されるとともに、その後は一つの債権について、管理すれば足りるので、負担は大きく軽減します(新たに時効も進行します)。

②訴訟における立証の負担の観点からのメリット

訴訟になった場合、多数の債権を有している場合には、その各債権の発生原因となる証拠が全て必要になります。特に継続的に取引を繰り返しているような場合、その取引ごとに注文書、納品書、請求書などの書類が必要になる結果、証拠書類が膨大になることもあります。

これに対し、準消費貸借契約を締結しておけば、債権の存在を証明するために、準消費貸借契約書を証拠として提出すれば足ります。

記載すべき事項等

  • 債務弁済契約書と同様、債務の確認、支払期日・方法(支払条件)、期限の利益喪失、制裁条項、担保・保証の条項を入れておきましょう。

それに加え、準消費貸借契約を締結したことも契約書に明示しておく必要があります。

また、利息を請求する場合は、その旨も条項に必ず入れておきます(利息制限法の制限を超過する利息は無効なものですので、これを消費貸借の目的としても有効なものとなるわけではないので、注意しましょう)。

  • 双方の合意を要する「契約」であるため、債権者・債務者の署名捺印または記名押印が必要です。

特徴

  • 準消費貸借については、もとの旧債務との関係が問題となります。

前述の例によると、甲が乙に50万円の代金を支払う義務が旧債務、甲が乙に50万円を返還する義務が新債務に当たります。

まず、旧債務が無効であれば準消費貸借も無効です。他方、準消費貸借が無効であれば、旧債務は消滅しないこととなります。

さらに、旧債務に付いていた担保や保証の取扱いも問題となります。
この点、旧債務に付いていた担保や保証が存続するかどうかは、当事者が準消費貸借を行った趣旨によります。通常は、旧債務に付いていた担保や保証は存続するというのが当事者の意思ですので、特段の事情がない限り、担保や保証についても存続することになるでしょう。

もっとも、旧債務の担保や保証の取扱いについては、準消費貸借契約において明示して定めることが望ましいといえます。

  • 準消費貸借契約書についても、公正証書として作成することができれば、後述の通り、債権回収の実効性は格段に高まります。

公正証書

意義

公正証書とは、一定の有資格者の中から法務大臣により任命される公証人が、当事者間に一定の法律関係が存在することを認めた上で、これを公的に証するために作成する公文書をいいます(公証人法1条1号)。

効果

債務弁済契約書や準消費貸借契約書を公正証書にすれば、債権回収の局面で大きなメリットがあります。

以下では、公正証書の3つのメリットを見ていきましょう。

①高い証拠力

前述した通り、債務者との間で債務弁済契約書や準消費貸借契約書を締結することができれば、合意内容が明確になり、また、訴訟において契約書を証拠として使用することができます。

しかし、債務弁済契約書や準消費貸借契約書を締結したとしても、後に債務者が「そんな契約書を交わした覚えはない」としらを切るかもしれません。
その場合、債権者としては、契約書に債務者の署名・押印がなされていることを主張するでしょう。

それに対して、債務者が、誰かが勝手に押したのだと自らが押印したことを否定するおそれがあります。
また、債権者に脅迫されて押印したのだから、自分の意思に反しており、契約は無効であると主張される可能性があります。

これに対し、公正証書は公的な立場にある公証人が作成した公文書として、高い証拠力が認められます

通常の契約書では、訴訟において証拠とするためには、証拠を提出する側が、その契約書が当事者の真意に基づいて作成されたことを証明する必要があります。
そのため、訴訟において債務者から上記のような主張がなされた場合、契約書が当事者の真意に基づいて作成されたということを証明しなければなりません。

一方、公正証書は、法律上、真正な文書と推定するものとされる(公証人法2条)ので、原則として特に証明を要しないで証拠とすることができます。

また、公正証書は、公証人が当事者双方立会の下、当事者双方に内容を確認した上で作成されるものであるため、契約書の内容についても、一般的に高い証拠力があると考えられます。

②執行力

債務者との間で、債務弁済契約書や準消費貸借契約書を締結したとしても、その合意内容を債務者が任意に履行しない場合、その合意内容を強制的に実現するためには、裁判所の強制執行の手続による必要があります。

そのためには、通常の契約書だけでは足りず、債務名義が必要となり、例えば、訴訟を提起して勝訴判決を得た上で、その判決書を裁判所に提出することが必要です(また、裁判所において裁判上の和解を行った場合も、その和解調書に基づいて強制執行を行うことが可能です)。
このように強制執行を行うことができる効力を「執行力」といいます。通常の契約書には執行力が認められませんが、判決書や和解調書には認められるといえます。

これに対し、公正証書は、一定の要件を満たせば債務名義となります
すなわち、公正証書のうち、

  1. 「金銭の一定の額の支払いまたはその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」について、
  2. 「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの」

は、その公正証書に基づいて強制執行を行うことができるとされています(執行証書 民事執行法22条5号)。

「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述」は、「強制執行認諾文言」あるいは「強制執行認諾約款」と呼ばれます。
この2つの要件を備えた公正証書を、「強制執行認諾文言付公正証書」といいます。

判決書や和解調書のような他の債務名義と異なり、紛争となる前に作成できる、債権者・債務者の双方が公証役場に赴けば直ちに作成できる、費用も訴訟より一般的に安価というメリットがあります。

強制執行認諾文言付公正証書については、後で詳述いたします。

③心理的効果

上記のような高い証拠力や執行力ゆえに、公正証書は債権回収の局面で債権者の強い味方となります。
裏を返せば、債務者にとっては、債務の支払いを怠った場合に、直ちに強制執行を受ける可能性のある状態に置かれることを意味します。

したがって、公正証書は、このような心理的プレッシャーから債務者に任意の支払いを促すという効果が期待できます。

公正証書の作成方法

ア 総説

(ア)嘱託
公正証書は、公証人が、公正証書の作成を希望する者(嘱託人)の嘱託に基づき、嘱託人から聴取した陳述の内容、あるいは目撃した状況や実験した事実(実験の方法を含む)を録取して作成します(公証人法35条)。

契約当事者双方又はその代理人が公証役場に出頭する必要があります。

(イ)公証人の確認
公証人は法令に違反する事項や無効と判断される法律行為、あるいは行為能力の制限を理由に取り消し得る法律行為については証書を作成してはならず(公証人法26条)、法律行為の有効性や行為能力の有無について疑義がある場合には、嘱託人等の関係人に注意し、必要な説明をさせなければならないとされています(公証人法規則13条1項)。

(ウ)通訳・立会
公正証書作成に際しては嘱託人またはその代理人が公証役場に出頭するが、嘱託人が日本語を理解できず、あるいは目が見えない場合等一定の場合には通訳や立会人の立会が必要とされます(公証人法29条、30条)。

(エ)作成方法等
まず、嘱託人は公正証書にしてもらう契約書やその案文を用意します。
公正証書は、公証人に対して口頭で契約内容を説明して作成してもらうこともできますが、あらかじめ債務者との間で合意している契約書があれば、 それを用意したほうが効率的です。
また、事前に公証役場に連絡をして、ファックス等により公証人に契約書やその案文を示しておくとスムーズでしょう。

公証人は、嘱託人その他列席者に公正証書の内容を読み聞かせ、あるいは閲覧させて確認を求め、その承認を得なければならず(公証人法39条1項)、公証人及び列席者は各自公正証書に署名押印しなりません(公証人法39条3項)。
嘱託人は、契約書の内容と公正証書の内容が一致するかを慎重に確認しましょう。

契約に関する公正証書の場合、原本、正本及び謄本の3通が作成され、原本は公証役場に保存されます。他方で、正本及び謄本が当事者に交付されるのが通例です。

ちなみに、原本とは初めに作成されるオリジナルの文書です。
そして、謄本は、原本に記載された全ての内容をコピーした文書です。
また、正本は、謄本の一種であり、公証権限のある者が作成した原本の写しで、法令上、原本と同じ効力が与えられたものをいいます。

なお、公正証書の原本は、印鑑証明書や委任状等の附属書類が綴られたうえで(公証人法41条1項)、公証役場に原則として20年間保存されます(公証人法規則27条1項1号)。

(オ)費用
公証人手数料令に定める費用及び印紙税法に定める印紙税が必要となります。
手数料については、詳しくは後述いたします。

イ 嘱託人本人による公正証書の作成

(ア)嘱託
公正証書は、法律行為その他私権に関する事実の、当事者その他の関係人が嘱託することにより作成されます(公証1条)。

一般には、嘱託人が突如公証役場を訪れるのではなく、あらかじめ弁護士や司法書士等の専門家に相談して、作成したい公正証書の内容について検討し、事前に電話等で公証役場にも照会したうえで出頭して嘱託するのが通例といえるでしょう。

(イ)嘱託人の本人確認
公証人が公正証書を作成するには、嘱託人の氏名を知り、かつ嘱託人と面識を有することが必要とされ(公証人法28条1項)、仮に嘱託人の氏名を知らずまたは嘱託人と面識がない場合には、嘱託人に官公署の作成する印鑑証明やそれに準ずる確実な方法で人違いでないことを証明させなければなりません(同条2項)。

この証明方法については、印鑑登録証明書の提出のみならず、旅券や運転免許証等の写真付身分証明書の提示の方法によることもできます。

法人の場合、法人の実在に関する確認と代表者に関する本人確認が必要となり、
具体的には登記事項証明書 (資格証明書) および代表者の印鑑登録証明書と同証明書に登録された印鑑を用いて行います。

(ウ)必要書類

○当事者が個人の場合○ 以下の①〜④ののうちのいずれかの書類
① 運転免許証と認印
②パスポートと認印
③住民基本台朝帳カード(顔写真付き)と認印
④ 印鑑証明書と実印
○当事者が法人の場合○ 以下の①、②のうちのいずれかの書類
①代表者の資格証明書と代表者印およびその印鑑証明書
②法人の登記簿膿本と代表者印およびその印鑑証明書

ウ 嘱託人代理人による公正証書の作成

(ア)手続の概要
公正証書の作成にかかる嘱託は代理人によって行うこともできます(公証人法31条、32条)。
代理人から公正証書の作成の嘱託を受けた場合、公証人は、代理人の権限を証すべき証書(委任状)を提出させてその権限を証明させ(公証人法32条1項頂)、かつ、当該委任状について、公文書である場合や認証がある場合を除き、官公署の作成した印鑑または署名に関する証明書を提出させて真正であることを証明させなければなりません(公証人法32条2項本文)。

委任状の様式に関して法律上特段の定めはありませんが、 委任者、受任者、委任の範囲(契約公正証書作成に関する嘱託の場合には具体的な条項の内容)等が明確に記載されていることが必要です。

(イ)代理人の資格等
代理人の資格には公証人法上の制限はなく、意思能力があれば足りると解されています(民法102条)。意思能力とは、自己の行為の結果を理解するに足りる精神的な能力をいいます。
他方、本人と代理人の間で利害が衝突する場合に、法律上代理人の選任が制限される場合があります(民法826条、860条)。

(ウ)必要書類
以下の①〜③のすべての書類

①本人作成の委任状
※委任状には本人の実印(法人の場合は代表者印)を押します。委任状には、契約内容が記載されていることが必要です。 委任内容が別の書面に記載されているときは、その書面を添付して契印します。
白紙委任状は認められません。

②本人の印鑑証明書
※本人の印鑑証明書(法人の場合は代表者印の印鑑証明書)は、委任状に押された印が実印であることを示すものです。なお、法人の場合は、代表者の資格証明書か法人の登記簿験本を添えます。

③ 代理人について、以下のi~ivのいずれかの書類
i 運転免許証と認印
ii パスポートと認印
iii 住民基本台帳カード(顔写真付き)と認印
iv 印鑑証明書と実印

エ 手数料

公証人に公正証書の作成を嘱託した場合の手数料は、公証人手数料令に定められています。

(ア) 法律行為に関する証書
「法律行為の目的の価額」 (以下、「目的価額」という)に応じて手数料額が定められます(公証人手数料令9条)。

目的価額は公証人が公正証書の作成に着手した時点の時価をもって算定され(公証人手数料令10条)、当事者双方が給付義務を負う場合には双方が負担する給付の価額の合計が、一方のみが給付義務を負う場合にはその額が、それぞれ目的価額とされます(公証人手数料令11条)。
そして、目的価額の算定が不能である場合の目的価額は500万円とされます(公証人手数料令16条)。

また、法律行為に関する公正証書を作成した場合に、証書の枚数が4枚を超えた場合には、超過枚数1枚毎に250円が加算されます(公証人手数料令25条)。

(イ) 法律行為でない事実に関する証書
法律行為でない事実にかかる証書の作成に関する手数料は、事実の実験並びにその録取およびその実験の方法の記載に要した時間に基づいて、1時間あたり1万1000円とされ(公証人手数料令26条)、事実実験が休日や午後7時から翌日の午前7時までの間に行われた場合には、手数料の10分の5が加算されます(公証人手数料令30条)。

執行方法

では、公正証書を用いた強制執行はどのようにして行われるか学んでいきましょう。

ア 総論

強制執行認諾文言付公正証書のように、債務名義となる公正証書を「執行証書」といいます。
強制執行認諾文言付公正証書は、判決書や和解調書等に比して、簡易な方法で取得できる債務名義として、金銭債権に関する強制執行に広く用いられています。
金銭等に関する紛争でまだ合意ができる段階であれば、その合意を反故にされた場合に備えて、将来の訴訟に要する期間や費用を回避すべく、強制執行認諾文言付の公正証書を作成しておくべきでしょう。

イ 要件

まず、執行証書といえるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

要件① 金銭支払等の請求権に関するものであること
まず「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」に関して作成された公正証書であることが必要とされます。
例えば、債務弁済契約書や準消費貸借契約書は、「金銭の一定の額の支払いを目的とする請求」ですので、公正証書により強制執行を行うことが可能です。

他方、不動産の明渡しを目的とする請求や担保権の設定登記等を目的とする請求に関する公正証書は、公正証書にしても強制執行を行うことはできません。 
また、金銭債権であっても「一定の額」の支払いを目的とするものでなければなりませんので、例えば、継続的商品取引契約に基づく将来の金額不確定の金銭債権について公正証書を作っても、執行力は認められません。

請求権は、当事者、発生原因や給付の内容を明示して特定しておきましょう。
また、執行証書により行われる強制執行の範囲を明確にするため、証書に請求権の金額が明示されているか、証書の記載から一義的に請求権の金額を算出·確定できることが必要とされます。

要件② 強制執行認諾文言(執行受諾文言)
次に、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述」が記載されている公正証書であることが求められます。
すなわち、訴訟手続等を経ずに作成された公正証書たる執行証書によって強制執行を受けても異議を述べない旨 (例えば、 「第○○条 乙は、 本証書上の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨を陳述した」という条項を挿入する)が公正証書に記載されている必要があります。

ウ 執行文

(ア)執行文の機能
執行証書に基づく執行を開始するに際し、執行開始要件として執行文の付与を受ける必要があります(民事執行法25条)。

執行文とは、債務名義の執行力の存在と範囲(客観的範囲及び主観的範囲)を公証する文書です。すなわち、債務名義に執行文が付与されることによって、当該債務名義に基づく強制執行の当事者(主観的範囲)及び給付請求権の範囲(客観的範囲)が確定されることになります。

給付請求とは、相手方に行為の作為又は不作為を求める請求を指します。
強制執行を行うための要件を満たしている否かは、執行文を付与する公証人が審査し、その審査結果が実際に執行する機関である裁判所又は執行官に伝達されます。

(1) 具体的付与手続
1 単純執行文
単純執行文とは、執行証書作成時以降、権利関係(当事者及び権利義務の内容)に変動がなく、執行証書に表示された内容をそのまま公証すれば足りる場合に作成・付与される執行文をいいます。
まず、執行証書正本を所持する債権者が、執行証書原本を保存する公証人に対して執行文付与を書面で申し立てます(民事執行法26条1項、民事執行法規則16条1項)。
申立てを受けた公証人は、債務名義としての有効性や執行力の存否等を調査した上で、執行文を付与することとなります。

【単純執行文 記載例】

執行文

債権者〇〇は、債務者△△に対し、この公正証書によって、強制執行することができる。

令和〇年〇月〇日

東京都〇区〇町×丁目×番×号
東京法務局所属 公証人 虎門 太郎 職印


2 特殊執行文
特殊執行文とは、執行証書に示された請求が債権者の証明すべき事実の到来にかかる場合、又は、執行証書作成以降に当事者に変動がある場合に作成・付与される執行文であり、前者を条件成就執行文(民事執行法27条1項)、後者を承継執行文(民事執行法27条2項)といいます。
いずれも、当該事実(債権者の先履行義務の給付、契約解除の意思表示、債権・債務の承継の事実等)を証する文書を提出して付与を申し立てる必要があります。また、当該文書の謄本が債権者に送達されることが執行開始の要件とされます(民事執行法29条後段)。

【特殊執行文 記載例】

執行文

債務者〇〇は、この公正証書第×条第×項記載の事実が到来したことを、文書により証明したので、債権者△△に対し、この公正証書によって、強制執行することができる。

令和〇年〇月〇日

東京都〇区〇町×丁目×番×号
東京法務局所属 公証人 虎門 太郎 職印


【承継執行文 記載例】

執行文

株式会社□□は、文書により、債権者〇〇の承継人であることを証明したので、債権者△△に対し、この公正証書によって、強制執行することができる。

令和〇年〇月〇日

東京都〇区〇町×丁目×番×号
東京法務局所属 公証人 虎門 太郎 職印


エ 送達証明書

執行証書による強制執行開始の要件として、執行証書の正本又は謄本があらかじめ、又は同時に債務者に送達されることが必要となります(民事執行法29条)。

執行証書については、公証人が公証役場に出頭した当事者に面前で公正証書謄本を手渡す交付送達、書留郵便に付する送達、あるいは郵便業務従事者に実施させる特別送達の方法で送達するのが通例です(公証人法57条の2、民事執行法規則20条)。

公証役場での執行文付与手続は

  1. 公正証書の送達

  2. 執行文の付与

という流れで行われます。

交付送達の場合、すでに執行証書が送達なされているものとしてすぐに執行文の付与を受けることができます。
送達完了の事実については、公証人が作成する送達証明書を執行機関に提出することによって証明します。

オ 申立て

執行文が付与された執行証書正本は「執行力のある債務名義の正本」として、強制執行の申立書に添付しなければなりません(民事執行法規則21条柱書)。

カ 小括

  • 強制執行認諾文言付公正証書を使用して強制執行を行うには、公正証書が当事者に送達され、かつ、公証人から公正証書に執行文の付与を受ける必要があります。
  • 強制執行の申し立てをするには、公正証書の送達証明書と執行文の付与を受けた公正証書が必要があります。

※執行証書では財産開示手続(民事執行法196条以下)の利用はできないため、同手続を利用したい場合には、やはり訴訟を提起して判決や和解調書を取得する必要があります。

まとめ

今回は、債権の回収の実効性を高めるための様々な書面について見ていきました。

強制執行認諾文言付公正証書は、非常に強力な実効性を有する一方、対象は限定的で、当事者のみでは作成できないため、書面の作成のハードルが高いです

強制執行認諾文言付公正証書が作成できない場合でも、債務確認書債務弁済契約書準消費貸借契約書を作成すれば、ある程度債権回収の実効性が確保できます。

今回ご説明した書面を、上手に活用してみてください。


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