澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
記事では、
「債権回収のための資産調査とは? ~意義・具体的な調査方法を解説~」
について、わかりやすくご説明します。
資産調査の意義・目的とは
資産調査とは、取引先の資産を調査し、把握することを指します。これは、最終的に債権回収という目的を達するために必要不可欠です。
仮に、取引先から支払が受けられない場合に、裁判所へ(売掛金の)支払請求訴訟を提起したとします。そこで勝訴判決を得ても、取引先の支払能力がなければ、判決は絵に描いた餅になりかねません。
そのため、新規取引の段階で、取引先の資産を把握して、取引を開始するかどうか支払能力はありそうかといった判断を行う必要があります。
具体的には、担保を設定することが可能な財産を明らかにするという意味もあります。
資産調査の方法とは~具体的に何を、どう確認すればよいのか?~
確認事項としてどのようなものがあるか
確認方法とともに見ていきましょう。
ア.株式会社の保有資料から確認するもの
【計算書類(賃借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)、付属明細書、法人税確定申告書及び添付書類】
➔これらの資料からは、取引先の財産関係を把握することができます。
【会社案内、商業登記簿謄本、会社経歴書(ホームページから確認できることが多いです)】
➔これらの資料からは、法人の種別、経営形態、機関設計、役員、資本金、事業目的、役員構成、経営組織図等を確認することができます。
会社法429条は、役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。上記の情報を取得することで、役員が職務を懈怠していたときには、会社のみならず、役員に対して責任追及をすることで債権を回収出来る場合があるのです。
イ.第三者からの情報取得
- 信用情報機関(帝国データバンク、東京商工リサーチなど)の利用
- 知人等の関係者からの情報提供
➔上記の第三者からは、取引先、預貯金額等を確認することができます。
ウ.債務者からヒアリングするべき事項
弁護士は、債務者の資産を把握するために、依頼者(債権者)からは以下のようなことをヒアリングします。
従って、取引を開始しようとする企業からは予め以下の情報を聞いておけるとよいでしょう。
- (債務者が自然人のとき)
債務者の住所、性別、年齢、職業、出身地、親族関係、交友関係 - (債務者が株式会社のとき)
沿革、業種、資本金、事業内容、取扱品、仕入先、販売先、取引銀行及び支店
また、このような客観的な情報以外に、「資金繰りが悪化しているらしい」、「パワハラが蔓延していて従業員の退社が後を絶たないらしい」などといった不確かな情報、噂レベルの情報を耳にすることもあるかもしれません。
企業の信頼性はそれ自体に重要な価値があり、仮に噂が事実であった場合にはその会社の信用、ひいては取引継続の判断に関わることですから、噂レベルの情報であっても取引を開始又は継続するか、一つの判断材料になるといえます。裏付ける資料がないかなどの観点から一定の検討を行うなど、柔軟に対応することが望ましいです。
なお、こちらはあくまで一般的なものに限ります。複雑な内容証明を作成予定の方は、お問い合わせよりご連絡下さい。
決算書調査
取引先の決算書から、取引先の様々な資産を把握することできます。
例えば、「決算書」の「貸借対照表」を見ることで、資産の内訳が明らかになります。
「貸借対照表」には、「現金」・「預金」・「売掛金」・「商品」・「原材料」・「機械設備」・「土地」・「建物」・「有価証券」などの勘定科目ごとに、各資産の帳簿価額が記載されているので、おおよその資産が分かります。
さらに、「決算書」の「勘定科目内訳書」を見ると、上記の資産の具体的な内容を知ることができます。
例えば、「預金」であれば、金融機関名・種類・口座番号・残高が、「売掛金」であれば、各売掛先の名称・住所・残高が、「有価証券」であれば、区分・種類・銘柄・金額が、「土地」・「建物」であれば、種類・構造・用途・面積・物件の所在地などの具体的な内容を知ることができます。
会計帳簿を併せ見ることで上記決算書の内容の信ぴょう性も判断できますので、場合によっては会計帳簿も確認するとよいでしょう。
不動産登記事項証明書
不動産は高額な資産となることが多く、そのため、取引先が保有する不動産を確認することは債権回収の観点から重要です。
取引先の保有する不動産を確認する方法としては、まず、取引先が保有する不動産の「不動産登記事項証明書」(不動産登記簿謄本)をチェックする必要があります。
「不動産登記事項証明書」(不動産登記簿謄本)とは、登記記録の内容を記載した書類のことで、コンピュータで処理したデータを専用用紙に印刷したものです。
そして、不動産登記記録とは、不動産に関する権利者やその権利内容等を公示するものです。当該不動産の所在地を管轄する登記所で誰でも閲覧・取得することが可能です。
他には、郵送で交付を請求する方法や、インターネット上で登記情報を閲覧する「登記情報提供サービス」(※1)もあるので、ぜひ活用してみてください。
なお、不動産登記事項証明書の請求の際には、請求用紙に当該不動産の「地番」・「家屋番号」を記載する必要があります。
この「地番」・「家屋番号」は、一般的に住所を表示するときに使われる「〇番〇号」とは異なるので注意が必要です。仮に住所(住居表示)の「〇番〇号」しか分からない場合には、登記所で、備付けの公図・住宅地図・住居表示新旧対照表などと照らし合わせて、土地の「地番」を調べることができます。
不動産は一般に価値が大きく、換価がしやすいので、金融機関等への借入金の担保に入っている場合が多いといえます。
この場合は、当該不動産の「剰余価値」の調査も行いましょう。まず、不動産の時価を調べて、その金額を前提に、「乙区」(以下で解説しています。)記載の被担保債権額から、借入日から現在までの返済額を差し引いたものが残債務額となります。この残債務額と不動産の時価との差額が「剰余価値」となります。
この、「時価」は、画一的に決定されるものではないことに注意が必要です。
固定資産評価(※2)、路線価(※3)、基準地価・公示価格(※4)等を手がかりに算出しましょう。
会計帳簿閲覧請求又は計算書類閲覧請求は可能か
「会計帳簿」とは、計算書類およびその付属明細書作成の基礎となる帳簿(仕訳帳、総勘定元帳および現金出納簿等各種補助簿)のことをいいます。
「計算書類」とは、株式会社の場合、事業年度ごとに作成を要求される貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を指します。
会計帳簿閲覧請求権は、会社の株主等に認められるもの(会社法433条1項)です。債権者には、営業秘密保護の要請などから、会計帳簿閲覧請求権は認められていません。そのため、取引先の株主であるならば、株主として会計帳簿の閲覧請求をするとよいでしょう。
一方で、債権者には、計算書類閲覧請求権(会社法442条3項など)が認められていますので、この法的権利に基づいて計算書類の閲覧を請求するとよいでしょう。
なお、会社法第440条第1項では、「株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならない」と定められています(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の大会社にあっては、貸借対照表に加えて損益計算書の公告も必要です)。
しかし、現実にこのような措置を取っていない会社も少なくないため、基本的には任意の交渉において、上記で説明した法的権利に基づき計算書類や会計帳簿を開示してもらうことになるでしょう。
弁護士への委任
なお、弁護士は、弁護士会照会(弁護士法23条の2)という手段を始め、取引先の資産を調査できる各種の法的手段を利用できます。
本記事で説明した方法を用いても、資産調査が功を奏しない場合には、弁護士に相談をされるとよいでしょう。
※1
一般財団法人 民事法務協会「登記情報提供サービス」
※2
「固定資産評価証明書」は、市・区役所で取得できます。東京都の場合は、都税事務所となり、23区内の不動産であれば、どこの都税事務所でも取得することができます。
ただし、請求者には、固定資産税の納税義務者及び相続人であること等の制限があります。利用目的の記載は必要ですが、弁護士が申請することも可能です。
※3
路線価格は国税庁のウェブサイトで公開されています。
国税庁「路線価図・評価倍率表」
※4
基準地価と公示価格は国土交通省のウェブサイトで公開されています。
国土交通省「国土交通省地価公示・都道府県地価調査」
なお、こちらはあくまで一般的なものに限ります。複雑な内容証明を作成予定の方は、お問い合わせよりご連絡下さい。
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