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CtoCマッチング型プラットフォームサービス ユーザー住所氏名の表示義務は?


わが社は、CtoCマッチング型プラットフォームビジネスを展開している会社です。当社のサービスを利用して出品しているユーザーは、住所や氏名を表示する義務はあるのでしょうか。

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ユーザーによっては、特定商取引法が適用され、更に、住所や氏名を表示する義務が生じる場合があります。
たしかに、住所や氏名の表示を義務付けることは、個人情報保護の観点から問題なのではないか、と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。

そもそも、住所や氏名の表示を義務付ける法的根拠は、「特定商取引に関する法律」(以下、単に「特定商取引法」といいます)にあります。
仮に、今回問題となっているユーザーに特定商取引法が適用されなければ、同法に基づいて氏名や住所の表示義務が課される事もありません。
では、ご相談の事例において、この特定商取引法が適用されるのでしょうか。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「CtoCマッチング型プラットフォームサービス ユーザー住所氏名の表示義務は?」
について、詳しくご解説します。

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まずはじめに、 CtoC取引とは、Consumer to Consumer の略称であり、消費者個人間の取引を言います。
現在、このCtoCは非常に巨大なマーケットを形成しつつあり、多方面で注目されています。経済産業省の「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によれば、ネットオークションにおけるCtoC市場規模は3,569億円とのことです。
メルカリ等におけるユーザー間の売買契約がその例です。

特定商取引法 定義

特定商取引法の定義規定である2条は、次のように定めています。
※読みやすいように、条文の文言は多少書き換えています

第2条
2 …「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者(以下、単に「販売業者等」といいます)が、郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により、売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であって、電話勧誘販売に該当しないものをいう。

そして、上記の「主務省令」である「特定商取引に関する法律施行規則」第2条は、次のように定めています。
※読みやすいように、条文の文言は多少書き換えています

第2条
法第2条第2項の主務省令で定める方法は、次の各号に掲げるものとする。
1 郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第6項に規定する一般信書便事業者、若しくは同条第9項に規定する特定信書便事業者による同条第2項に規定する信書便
2 電話機、ファクシミリ装置、その他の通信機器又は情報処理の用に供する機器を利用する方法
3 電報
4 預金又は貯金の口座に対する払込み

「販売業者等」に今回問題となっているユーザーが該当すれば、特定商取引法が適用されるといえます。

「販売業者等」とは物品の販売又は役務(サービス)の提供を、営利の意思をもって、反復継続して行う者、と解釈されます。
営利の意思の有無や反復継続性は、当該プラットフォーム以外の場における取引も含めて総合的・客観的に判断されます。
例えば、転売目的で商品の仕入れ等を行う場合は、営利の意思があると判断されます。
また、例えば、個人事業者が事業で取り扱う商品を単発的にプラットフォームを利用して出品する場合には、販売業者による取引にあたることになります。

具体的に如何なる場合に、「販売事業者等」に該当するのかについて、詳しくは、
平成25年2月20日付けの消費者庁次長・経済産業省大臣官房商務流通保安審議官通達「特定商取引に関する法律等の施行について」の別添1 「インターネット・オークションにおける『販売業者』に係るガイドライン」
を参照することになります。
上記ガイドラインは、直接的にはインターネット・オークションについてのガイドラインです。しかし、CtoCマッチング型プラットフォームビジネスでは、フリマサービス(個人間電子商取引)のようなものが考えられますが、このサービスについては、基本的に商品の販売のみである点でインターネット・オークションと同じと考えることができるので、オークション・ガイドラインの類推適用が可能であると一般に解されています。

~オークション・ガイドラインにおける販売業者の考え方~
特商法の販売業者等とは、「営利の意思をもって、反復継続して取引を行う」者とされることから、これに該当しない場合には、特定商取引法の通信販売規制の対象とはならないと考えられています。

営利の意思の有無については客観的に判断されますが、個々の事案に応じて認定されることになります。

そして、プラットフォームが介在することにより、個人間取引が拡大していますが、インターネット・オークションにおける出品者の場合には、オークション・ガイドラインにおいて、「通常、当該出品者は販売業者に該当すると考えられる」場合として、具体的な数量及び考え方が示されています。

 事業者か消費者かは、本記事で取り上げる特定商取引法の他、消費者契約法、電子消費者契約法、景品表示法等の消費者保護規定の適用について問題となります。
CtoC取引には、基本的にはこれら法律ないし消費者に関する特則条項が適用されませんが、個人ではあっても事業者と判断されればこれらの法令が適用される可能性がありますのでご注意ください。

特定商取引法 表示義務

特定商取引法11条は、表示義務について、次のように定めています。
※読みやすいように、条文の文言は多少書き換えています

第11条
販売業者等は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。
ただし…これらの事項の一部を表示しないことができる。
1 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)
2 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
3 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
4 商品若しくは特定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(第15条の3第1項ただし書に規定する特約がある場合にはその内容を、第26条第2項の規定の適用がある場合には同項の規定に関する事項を含む。)
5 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

特定商取引に関する法律施行規則

第8条
法第11条第5号の主務省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
1 販売業者等の氏名又は名称、住所及び電話番号
2 販売業者等が法人であって、電子情報処理組織を使用する方法により広告をする場合には、当該販売業者等の代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名

10 通信販売電子メール広告(法第12条の3第1項第1号の通信販売電子メール広告をいう。以下同じ。)をするときは、販売業者等の電子メールアドレス

そうすると、法11条但し書きに当たらない限り、「販売業者等」に該当したユーザーは、自身の氏名や住所をプラットフォームサイト上に表示する義務を負います。
ところが、特にクラウドソーシングのようなCtoCの役務提供をマッチングするプラットフォーム(シェアリングエコノミー)においては、提供側ユーザーの氏名・住所・電話番号等の表示はなされないのが通常です。また、そもそも、通信販売における販売業者等の表示義務は、今日のCtoCプラットフォームを想定したものではなく、CtoCプラットフォームを直接の対象とした法の執行もなされていない状況にあります。
此の点、特定商取引法11条但し書きによれば、販売業者等は、氏名や電話番号について、表示を省略することが可能となります。「電磁的記録を遅滞なく提供する旨の表示」をプラットフォームサイト上に分かりやすく表示した上で、特定商取引法11条但し書きにいう「請求」を受けたプラットフォーム事業者が販売業者等を代行して電磁的記録を提供すれば足りるといえます。

更に、氏名や電話番号の提供はプライバシーの点から好ましくないことから、プラットフォーム事業者が保険制度・補償制度を充実させたり、予め出品者が事業者か個人かの属性を明らかにするなどして、出品者の氏名や電話番号の請求に至る前に早期に紛争を解決するといった努力も求められるでしょう。

また、消費者安全法等において、国民生活センターや消費生活センターは、プラットフォームが介在する取引に関する消費者相談に対応することが可能とされています。消費生活相談員等は、相談があった場合に、プラットフォーム事業者を通じて、取引の相手方に関する情報を確認することができます。したがって、紛争解決に消費生活センター等を介在させることにより、より早期かつ適切な紛争解決を試みる事も重要です。

特定商取引法11条は、表示義務について、次のように定めています。
※読みやすいように、条文の文言は多少書き換えています

第11条 
…ただし、当該広告に、請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式、その他人の知覚によっては認識できない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には、販売業者等は、主務省令で定めるところにより、これらの事項の一部を表示しないことができる。

特定商取引に関する法律施行規則

第10条
⑴ 法第11条ただし書により同条第1号及び第8条第1項第4号に定める購入者又は役務の提供を受ける者(以下、単に「購入者等」といいます)の負担すべき金銭を表示しないことができる場合は、その金銭を全部表示しない場合とし、この場合、法第11条各号に定める事項(第8条第3号及び第6号から第10号までに掲げる事項…を除く。)の一部を表示しないことができる。

⑵ 購入者等の負担すべき金銭の全部を表示する場合は、法第11条第2号から第5号までに定める事項(第8条第3号、第4号及び第6号から第10号までに掲げる事項…を除く。)の一部を表示しないことができる。…

⑶ 販売業者等は、電子情報処理組織を使用する方法により広告をする場合であって、次に掲げる方法により、法第11条各号に掲げる事項の一部を提供する旨の表示をするときは、当該事項の一部を表示しないことができる。
1 販売業者等の使用に係る電子計算機と顧客の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
2 販売業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された書面に記載すべき事項を電気通信回線を通じて顧客の閲覧に供し、当該顧客の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記録する方法
3 顧客の使用に係る電子計算機に書面に記載すべき事項を記録するためのファイルが備えられていない場合に、販売業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(専ら当該顧客の用に供するものに限る。次項第2号において「顧客ファイル」という。)に記録された当該事項を電気通信回線を通じて顧客の閲覧に供する方法

⑷ 前項に掲げる方法は、次に掲げる技術的基準に適合するものでなければならない。
1 前項第1号又は第2号に掲げる方法:顧客がファイルへの記録を出力することによる書面を作成できるものであること。
2 前項第3号に掲げる方法:顧客ファイルへの記録がされた書面に記載すべき事項を、当該顧客ファイルに記録された時から起算して六月間、消去や改変ができないこと。

「遅滞なく」とは、具体的にどの程度のスピードであれば許されるのでしょうか。
そもそも特定商取引法11条が表示義務を規定した趣旨は、販売条件等についての情報が、広告を通じてのみ提供されることから、契約を締結する意思決定をする上で必要な情報が十分確保されなければならないことにあります。その為、原則として、取引の実態に即して申込の意思決定に先立って十分時間的余裕をもって提供されることが求められます。

なお、特定商取引法12条・特定商取引に関する法律施行規則11条が定めるように、当然ながら、虚偽の氏名などを記載することは、許されません。
ユーザーが虚偽の氏名で会員登録をしていたことが発覚した場合にはサービスの利用停止など、何らかの措置を取ることを予め告知し、正しい名前で会員登録をしてもらうようにすることが効果的です。

特定商取引法
第12条 販売業者等は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、当該商品の性能又は当該権利若しくは当該役務の内容、当該商品若しくは当該権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(第15条の3第1項ただし書に規定する特約がある場合には、その内容を含む。)その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

特定商取引に関する法律施行規則

第11条
法第12条の主務省令で定める事項は次のとおりとする。
1 商品の種類、性能、品質若しくは効能、役務の種類、内容若しくは効果又は権利の種類、内容若しくはその権利に係る役務の種類、内容若しくは効果
2 商品、権利若しくは役務、販売業者等又は販売業者等の営む事業についての国、地方公共団体、通信販売協会その他著名な法人その他の団体又は著名な個人の関与
3 商品の原産地若しくは製造地、商標又は製造者名
4 法第11条各号に掲げる事項

まとめ

CtoCの取引は事業者が相手の取引と異なり、商取引のルールを踏まえた対応がなされるとは限らず、トラブルが起きた場合には当事者間で解決することが困難なことも多いのが特徴です。
事業者としての責任追及が難しい個人であるからこそ、取引の対象、条件等について十分に注意して取り引きすべきです。
そのためCtoCプラットフォームにおいては、販売業者等の行う広告や表示の箇所・スペース等は、プラットフォーム事業者によってフォーマット化されているのが通常であり、商品やサービスを提供する方は、プラットフォーム事業者の用意したフォーマットを利用して表示義務を履行することになります。
したがって、予め利用規約などにおいて、規制の仕組みについて分かりやすく説明した上で、上記のようなフォーマットを用意しておきましょう。 ユーザーとしてサービスを利用する為には会員登録が必要な仕組みを作るなどして、いざという時にはユーザーの名前などを販売業者等に代わって表示できるようにしておきましょう。


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