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【所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法】問題と改正点について解説

本記事では、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(本記事では以下「本法」といいます)の一部改正の背景、経緯、および概要について検討します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「【所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法】問題と改正点について解説」
について、詳しく解説します。

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所有者不明土地の増加とその背景

所有者不明土地とは、 登記されていない土地や所有者に連絡が取れない土地を指します(※)。
日本では、人口減少や少子高齢化の進行に伴い、土地利用のニーズや土地所有意識が低下しており、所有者不明土地や管理不全土地、低未利用土地が増加しています。これらの土地は、公共事業の円滑な実施を阻害し、土地の利活用を阻害する要因となっています。

※本法における所有者不明土地は、相当な努力が払われたと認められる方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地としています。

所有者不明土地の増加による経済的損失

有識者で構成される所有者不明土地問題研究会の最終報告によれば、所有者不明土地の総面積は、2016年時点で約410万ヘクタールから、2040年には約720万ヘクタールまで増加すると予測されています。
また、所有者不明土地の利用・管理に要するコスト等を踏まえた経済的損失は、2016年時点の単年当たり約1,800億円から、2040年時点では単年当たり約3,100億円まで増加するとされています。

このような所有者不明土地の増加は、国民経済の損失と直結する問題であると言えます。

法改正の背景と経緯

このような所有者不明土地の増加を受けて、本法の改正が求められました。本法は、第208回国会において審議され、2022年4月27日に成立、同年5月9日に公布されました。
改正の目的は、所有者不明土地の問題に対処し、土地の利活用を円滑に進めるためです。

【旧法】

所有者不明土地問題への対策の一環として、2018年に旧法が制定されました。この法律は、所有者不明土地の利用を円滑に進め、土地所有者を効果的に見つけ出すことを目的としています。旧法は、公共事業における土地収用手続きの合理化や、一定期間の所有者不明土地に対する使用権を設定することで、所有者不明土地の利用を促進する地域福利増進事業を創設するなどの措置を導入しました。
また、旧法の附則には、法律施行後3年経過後に施行状況を検討し、必要に応じて適切な措置を講じるという見直し規定が設けられていました(旧法附則2項)。

この旧法の制定により、所有者不明土地問題に対する初期対策が打ち出されました。

本法(旧法)の主な内容について
① 土地使用権の設定
域福利増進事業(地域住民その他の者の共同の福祉又は利便の増進を図るための公園、広場等の整備に関する公共的事業)を実施するため、特定所有者不明土地(簡易な構造で小規模なものを除いて建築物が存在せず、現に利用されていない所有者不明土地)であって反対する権利者がいないものについては、都道府県知事の裁定により、一定期間(上限10年間)の土地使用権等の設定を可能とする制度が創設されました。

② 土地の収用・使用
特定所有者不明土地で反対する権利者がいないものについて、土地収用法の収用手続の合理化を行うこととし、収用委員会ではなく、都道府県知事の裁定により土地の収用又は使用ができます。

③ 新登記
登記官は、公共の利益となる事業を実施しようとする者からの求めに応じ、土地の所有権の登記名義人に係る死亡事実の有無を調査した場合において、当該土地が特定登記未了土地に該当し、かつ登記名義人の死亡後10年以上30年以内において政令で定める期間(30年)を超えて相続登記等がされていないと認めるときは、登記名義人となり得る者を探索した上、職権で、登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記等がされていない土地である旨等を登記に付記することができます。

④ 管理
地方公共団体の長等は、所有者不明土地の適切な管理を図るため、家庭裁判所に対し、民法の規定による不在者の財産の管理についての必要な処分の命令又は相続財産の管理人の選任の請求をすることができます。

【改正後の本法の概要】

本法の改正により、所有者不明土地の利用を円滑化するための新たな制度が導入されました。
具体的には、所有者不明土地を利用するための手続きが簡素化され、利用を促進することが期待されています。
本法の改正は、所有者不明土地の利用を円滑化し、土地利活用を促進することを目的としています。
具体的には、旧法において「地域福利増進事業」(※)は、所有者不明土地を利用して地域住民の福祉や利便性を高める公益性の高い事業を行う事業者に対し、最長10年間の使用権を設定する制度となっていました。
これに対して、本法では対象事業の拡充事業期間の延長措置等が講じられています。

※地域福利増進事業について
所有者不明土地の利用に際しては、不明者の権利を制約する可能性があることを踏まえると、一定の公益性を有する事業である必要があると考えられています。
本法では、この公共的な事業のため一定期間の使用権を設定することを可能とする地域福利増進事業を創設することとしています。
地域福利増進事業は、公的主体のみならず、民間事業者、NPO、地域コミュニティ等の幅広い主体が事業主体となることから、国は、制度の普及啓発を図るとともに、効果的かつ適切・円滑な運用のため、事業の実施や公告、裁定等の各種事務の実施に当たっての留意事項等を明らかにするガイドラインの整備、先進事例のノウハウの共有等の情報提供等を行っています。

改正法の内容

地域福利増進事業について

地域福利増進事業の対象事業の拡充について

自然災害の激甚化や頻発化、大規模災害発生の切迫化を受け、地域防災力の向上が重要となっています。
そのため、防災用の備蓄倉庫や通信設備、再生可能エネルギー発電施設を含む非常用発電施設など、地域の災害対策に役立つ施設の整備を地域福利増進事業の対象に追加しました。

地域福利増進事業の事業期間の延長について

本法では、民間事業者が購買施設や再生可能エネルギー発電設備等を整備する場合、土地の使用権の上限期間を現行の10年から20年に延長できることとされました。また、事業計画書等の縦覧期間を6月から2月に短縮しました。

これらの改善策により、所有者不明土地の利用の円滑化が促進されることが期待されています。本法の改正により、地域福利増進事業の対象事業が拡充されることで、多様な事業が実現可能となり、より多くの市町村が活用を検討しやすくなることが予想されます。また、事業期間の延長や縦覧期間の短縮により、事業者の負担が軽減され、事業実施のハードルが低くなることが期待されます。

さらに、これらの改善策が本法の目的である、所有者不明土地の利用の円滑化や地域住民の福祉・利便性の向上に貢献することが期待されます。特に、防災施設の整備や再生可能エネルギー発電施設の設置など、災害対策や環境対策に直結する事業の実現が、地域社会の持続可能な発展に寄与するでしょう。

また、本法の改正により、所有者不明土地が適切に利用されることで、空き地や空き家が放置されることによる街の荒廃や治安悪化の防止にも繋がります。これにより、地域全体の活性化や魅力向上が図られることが期待されます。

総じて、本法の改正による所有者不明土地の利用の円滑化は、地域住民の福祉や利便性の向上、地域防災力の強化、環境対策の推進、地域の活性化や魅力向上など、多面的な効果が期待されるものであり、今後の取り組みの進展が注目されています。

その他の改正

所有者不明土地の拡大

本法改正では、地域福利増進事業の対象となる特定所有者不明土地が拡大されました。従来、対象となる土地は建築物が存在しないものに限定されていましたが、これは補償金の算定が複雑化することを避けるためでした。
しかし、実際に自治体が整備を予定していた区域に20㎡以上の建築物が存在し、事業の対象から除外される事例が報告され、建築物が存在する土地も対象にすることを求める声が高まりました。

そのため、改正では、簡易建築物と同程度に補償金の算定が簡易であると認められる建築物(例:損傷や腐食等で崩壊寸前の空き家など)が存在する所有者不明土地も対象に含まれることになりました。

所有者不明土地の管理の適正化

近年、土地の管理不全により災害などの周辺地域への悪影響が懸念されています。実際に、国土交通省が実施したアンケート調査では、約6割の市町村で管理不全土地に関する住民からの苦情が発生していることが明らかになっています。
2021年の民事基本法制の見直しでは、相続土地国庫帰属制度や所有者不明土地管理制度、管理不全土地管理制度などの民事的手法が整備されました。しかしながら、行政的対応では限界があったため、本法改正により、以下のような措置が講じられています。

  1. 簡易建築物と同程度の補償金の算出が可能な建築物が存在する土地を地域福利増進事業の対象に追加。
  2. 既存の行政指導等の措置を補完する新たな制度の整備。

これらの改正により、所有者不明土地の利用の円滑化と管理の適正化が図られることが期待されます。

今後の展望

本法改正は、所有者不明土地の問題解決に向けた大きな一歩ですが、今後も継続的な取り組みが必要です。例えば、さらなる対策が求められる課題として、以下の点が挙げられます。

予防策の強化

登記制度の改善や相続手続きの簡素化など、所有者不明土地が発生する前に予防策を講じることが重要です。

土地の適正な利用・管理

所有者不明土地や管理不全土地、低未利用土地を適切に利用・管理する仕組みの整備が必要です。地域住民や自治体が連携して、土地の有効活用を促す取り組みが望まれます。

土地情報の整備

所有者不明土地の特定や利用にあたっては、正確かつ詳細な土地情報が不可欠です。土地情報の整備や共有を促進するシステムの構築が求められます。

継続的な取り組み

所有者不明土地問題は、長期的な視点で対策を実施する必要があります。政策や法制度の見直しを継続的に行い、状況の変化に対応していくことが重要です。

まとめ

所有者不明土地問題は、国民経済や地域社会に影響を与える深刻な課題です。本法の改正を契機に、国や地方自治体、地域住民が協力し、総合的な対策を進めることが求められます。
これにより、所有者不明土地の問題を解決し、土地資源を適切に利用・管理していくことが、持続可能な社会の実現につながるでしょう。


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