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改正民法~売買取引に影響を与える改正点~

Q
 当社は、ベンチャー企業ですが取引先から商品を購入して、製品を販売しています。
 改正民法で売買取引について改正があった点を教えてください。

A
 契約不適合責任、危険負担について現実の売買取引実務に影響を与える改正がなされています。その点に焦点を当ててご説明しましょう。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「改正民法~売買取引に影響を与える改正点~」
について、詳しくご解説します。

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瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更

旧民法は、瑕疵担保責任は、特定物(例えば、中古の車など、対象物の個性に着目した物)に適用されるものとされてきました。

これに対して、改正民法は、特定物か不特定物かを問わず、種類・品質・数量に関して契約の内容に適合する目的物を給付する義務を負うとの考え方を前提に、売主の担保責任は、特定物売買か不特定物売買かを問わず適用される契約責任として整理されました。

上記の整理により、改正民法では、売買に関する規定から「瑕疵」という用語は削除され、「契約の内容に適合しない」(契約内容不適合)という用語が使用されるようになりました。

また、瑕疵担保責任では、「隠れた」瑕疵であることが要件とされていましたが、改正民法では、契約内容不適合が「隠れた」ものであることは、買主の救済手段の要件とはされていません。

契約の内容に適合するか否かは、売主が買主に対して引き渡した目的物の種類・品質・数量が契約の内容に適合していたか否かによって判断されますが、ここにいう「契約の内容」とは、 契約の文言だけではなく、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まるもの」と解されています。

そのため、契約書を締結する際には、第1条で契約の目的を定めることが多いと思いますが、契約不適合責任の有無を判断するにあたって、この目的条項は重要な役目を果たすことになります。

契約不適合責任の内容

 旧法では、瑕疵ある物品を購入した者は、損害賠償請求や契約の解除を主張できましたが、改正民法では、①追完請求、②代金減額請求、③損害賠償請求、④契約の解除という4種類の救済手段があると規定されました。

①追完請求(改正民法562条)

買主は、引き渡された物が契約内容に適合しなかった場合、 売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完請求をすることができます(改正民法562条1項)。
ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものではないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができるとされている点は留意が必要です(同項ただし書)。
以上にかかわらず、契約内容不適合が買主の帰責事由による場合は、追完請求をすることはできません(同条2項)。

②代金減額請求(改正民法563条)

買主は、引き渡された目的物が契約内容不適合である場合、相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(改正民法563条1項)。
もっとも、次の4点の場合には、追完の催告をしないで代金減額請求が可能です(改正民法563条2項)。

  1. 履行の追完が不能であるとき、
  2. 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき、
  3. 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
  4. その他買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき


なお、契約内容不適合が買主の帰責事由による場合は、代金減額請求をすることはできません(改正民法563条3項)。

③損害賠償請求

改正民法においては、引き渡された目的物が契約内容不適合である場合、買主は、債務不履行の一般的な規律(改正民法415条、541条、542条)に従って損害賠償請求ができます。
この場合、旧民法と異なって、売主の規制事由が必要となりますが、損害賠償の範囲は履行利益にまで拡大されました。
及び契約の解除をするものとされた(新法564条)。これにより、損害賠償請求には売主の帰責事由が必要となり、損害賠償の範囲は履行利益に及び得ることになる。

④契約の解除

改正民法においては、引き渡された目的物が契約内容不適合である場合、買主は、債務不履行の一般的な規律(改正民法415条、541条、542条)に従って、契約の解除を主張できます。

契約不適合責任ができる期間

旧民法では、瑕疵担保責任は、買主が瑕疵を知った時から1年以内に契約の解除又は損害賠償の請求をしなければなりませんでした(旧民法570条、566条3項)。
そして、判例(最判平4年10月20日民集46巻7号1129頁)は、瑕疵担保責任にかかる買主の権利を保存するためには、「具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要がある」としていました。

これに対して、改正民法は、買主が目的物の種類又は品質の不適合を知った時から1年以内に売主にその旨を通知しないときは、買主は、その不適合を理由として担保責任の追及(追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び契約の解除)をすることができないものとされました(改正民法566条本文)。

ただし、売主が引渡しの時にその不適合について悪意又は重過失であったときは、この期間制限は適用されません(同条ただし書)。

ここで注意しなければならないのは、期間制限の対象とされているのは、種類又は品質の不適合のみであり、数量や権利に関する不適合は対象外とされている点です。

また、売主がなすべき通知は、不適合の内容を把握することが可能な程度に不具合の種類・範囲を伝えれば足り、上記で述べました判例のように「請求する損害額の算定の根拠を示す」ことまでの必要はないと考えられています。

なお、買主が上記通知をした場合、期間制限の適用は免れますが、買主の権利が時効消滅することはあり得る点は、旧民法と同様です。

危険負担

改正民法567条1項において、売主が買主に目的物を引き渡した場合には、買主は、それ以後に当事者双方の帰責事由なく目的物が滅失又は損傷したことを理由として、担保責任の追及(追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び契約の解除)をすることができないものとされました。
つまり、この場合、買主は、危険負担に関する新法536条1項に基づき代金の支払を拒絶することもできません。

現実の取引実務でも目的物の引渡しを危険負担の移転時期とすることが多かったので、実務に沿った改正といえるでしょう。

ただし、買主の受領遅滞の場合には、それ以後に当事者双方の帰責事由なく目的物が滅失又は損傷したとしても、買主は担保責任を追及することができず、代金の支払を拒むこともできないものとされている点は、ご留意ください(新法567条2項)。


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