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コーポレートガバナンスとは?機関設計の基本について【IPOとコーポレートガバナンス1】

Q
弊社が上場するにあたり、コーポレートガバナンス(企業統治)を強化するために、会社の機関設計について変更する必要があると指摘されました。現在、弊社には取締役と株主総会のみ設置されており、機関を新たに設置する必要が生じています。
どのような機関を設置すればよいのでしょうか。まずは、機関設計の基本について教えてください。

A
上場申請会社が、投資家を中心としたステークホルダーに対して責任を果たすためには、経営者の経営効率を高め、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るコーポレート・ガバナンス(企業統治)を確立し、それを支える経営管理組織を適切に整備・運用することで「企業の存続および収益性」を確保する必要があります。
機関設計については、会社法にルールが定められています。それらの規定を確認した上で、機関の新たな設置を行いましょう。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「コーポレートガバナンスとは?機関設計の基本について【IPOとコーポレートガバナンス1】」
について、詳しくご解説します。

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コーポレートガバナンスとは(企業統治とは)

コーポレートガバナンス(企業統治)とは、企業経営を統制し、監視・監督する仕組みをいいます。

株式会社は、原則として所有と経営が分離しており、株主は直接経営を行わず、経営者である取締役に代理人として経営を委任しています。両者の利害が必ずしも一致しないことから、経営者が株主の利益を無視して自己の利益を追求することが起こる可能性があります。
そこで、株主の利益が守られるように、経営者を監視・監督するための制度としてコーポレートガバナンスが必要となります。
企業の不正行為の防止と持続的成長および中長期的な企業価値の向上のため、独立した社外取締役・社外監査役の登用や経営の情報開示などによるチェック機能を充実させ、健全かつ効率的な経営を図ることが求められているのです。

コーポレートガバナンスを強化するため、経営体制を監視・監督する社外取締役・社外監査役を中心とした、企業内部の機関設計が重要となります。
以下、詳しく見ていきましょう。

会社法上の機関設計ルール

必ず設置しなければならない機関

どの株式会社においても、必ず設置しなければならない機関は、株主総会(会社法295条1項)と取締役(会社法326条1項)です。

株主総会は、出資者である株主によって構成される会議体で、会社の基本的な事項をはじめとする様々な事項について決定する権限を持ちます。

取締役は、会社の業務の決定や執行をする機関です。

さらに、ある会社が、株主総会と取締役以外にどのような機関を設置しなければならないかは、会社が「公開会社」「大会社」に該当するかどうかにより異なります。

会社法上の「公開会社」にあたる場合

「公開会社」とは、「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」(会社法2条5号)をいいます。

つまり、発行する株式のどれか一部についてでも譲渡制限を定めていない会社の場合には、「公開会社」にあたります。
そのうち、「上場会社」とは、その発行する株式が東京証券取引所その他の金融商品取引所の開設する市場で取引されている会社をいいます。
自社の株式を市場で取引していないものの株式の譲渡制限がない会社は、「公開会社」ではありますが「上場会社」というわけではないので注意が必要です。

ただし、上場を行った場合には、自社の株式を株式市場において、売買が可能な状態となり(譲渡制限がなくなりますので)「公開会社」に該当することになります。
つまり、「上場会社」であれば、「公開会社」にあたるということです。

ある会社が公開会社に該当すると
①取締役会を設置しなければなりません(会社法327条1項1号)

②取締役会を設置すると、指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社でない限り、監査役を設置しなければなりません(会社法327条2項本文)

公開会社では、株主に代わって経営に継続的に関与し、経営者を監督する仕組みを要します。
そのため、まずは重要な経営上の意思決定と経営者の監督を行う取締役会の設置が要求されています。さらに、取締役・取締役会の職務執行を監督する監査役の設置が必要です(327条2項本文)。
監査役を設置する以外の選択肢としては、いずれも社外取締役が過半数を占める委員会を擁する監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社があります。
こちらについては、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社の特徴と違い【IPOとコーポレートガバナンス2】の記事で詳しく説明します。

これに対して「非公開会社」とは、発行する株式全てについて譲渡制限のある会社をいいます。
非公開会社は、所有と経営が分離しておらず、取締役会の設置が原則任意とされていたり(会社法326条)、株主総会招集通知の発送期限が公開会社の場合よりも短縮されているなど、定款自治が広範に認められ、所有者である株主による経営への関与が柔軟に認められているという違いがあります。

会社法上の「大会社」にあたる場合

「大会社」とは、①資本金(最終事業年度に係る貸借対照表上の資本金)が5億円以上である会社、または②負債(最終事業年度に係る貸借対照表上の負債資)が200億円以上である会社をいいます(会社法2条6号)。

ある会社が大会社(会社法2条6号)に該当すると
①会計監査人を設置しなければなりません(会社法328条1項・2項)

②会計監査人を設置すると、監査等委員会設置会社/指名委員会等設置会社でない限り、監査役を設置しなければなりません(会社法327条3項)

③さらに、大会社であり、かつ公開会社にも該当する場合は、監査等委員会設置会社/指名委員会等設置会社でない限り、監査役会も設置しなければなりません(会社法328条1項)

大会社は、規模が大きいため、債権者などの利害関係人が多く、財務情報を開示させる必要性があります。その開示させる財務情報の信頼性確保のため、公認会計士・監査法人を会計監査人とし、会社が作成する計算書類をチェックさせることによって、会社が虚偽の財務情報を作成・公表することを抑止しようとしています。

また、会計監査人と取締役の癒着を防止するため、会計監査人を設置した会社は、監査等委員会設置会社/指名委員会等設置会社でない限り、監査役を設置しなければなりません(会社法328条1項)。

任意に設置した機関

設置義務を負わない機関についても、定款に規定した上で任意に設置することができます。(会社法326条2項)。
ただし、ある期間を任意で設置した結果、他の機関も併せて設置すべき義務が生じる場合があります。

ある会社が大会社(会社法2条6号)に該当すると
①任意に取締役会を設置した場合は、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社でない限り、監査役を設置しなければなりません(会社法327条2項本文)。ただし、会計参与を設置した場合には、監査役設置義務を免れることができます。(会社法327条2項ただし書)

②任意に会計監査役を設置した場合は、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社でない限り、監査役を設置する必要があります(会社法389条1項)。

③任意に監査役会を設置した場合、取締役会も設置する必要があります(会社法327条1項)。)

まとめ

会社法上に規定された機関選択につき、表にまとめると以下の通りです。

公開会社 非公開会社
大会社 取締役会+監査役会+会計監査人
指名委員会等設置会社
監査等委員会設置会社
取締役+監査役+会計監査人
取締役会+監査役+会計監査人
取締役会+監査役会+会計監査人
指名委員会等設置会社
監査等委員会設置会社
非大会社 取締役会+監査役
取締役+監査役会
取締役会+監査役+会計監査人
取締役会+監査役会+会計監査人
指名委員会等設置会社
監査等委員会設置会社
取締役
取締役+監査役
取締役+監査役+会計監査人
取締役+会計参与
取締役会+監査役
取締役会+監査役会
取締役会+監査役+会計監査人
取締役会+監査役+会計監査人
指名委員会等設置会社
監査等委員会設置会社

上場準備中の会社の多くは、株式譲渡制限会社であり非公開会社に該当するものと考えられます。 株式の上場に伴い、多くは会社法に定義される公開大会社(又は非大会社)にあたることとなります。

なお、上場する取引所の上場審査基準も別途確認が必要です。
例えば、東京証券取引所は、上場会社に対して「(1)取締役会、(2)監査役会または委員会、(3)会計監査人」の機関を置くものとするとしており、遅くとも上場申請期に当該機関の設置に関する株主総会決議(定款変更決議)が必要です。

したがって、上場準備会社は、最終的に①監査役会設置会社(会社法上は、非大会社であれば監査役のみの設置も可能ですが、上場審査基準により監査役会の設置が求められているのが通常です)、②監査等委員会設置会社または③指名委員会等設置会社の3つの機関設計のいずれかを選択することになります。


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