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債権回収における担保権実行 ~抵当権・譲渡担保権についても解説~

Q 
債務者に対する担保権として、「抵当権」や「先取特権」、「譲渡担保権」があると聞きました。
これらの担保権と、債務者が債務を履行しなかった場合における、担保権の実行方法を教えてもらえますか?

A 
ご指摘のとおり、「抵当権」や「先取特権」、「譲渡担保権」は、債権回収の分野において、非常に重要な担保権とされています。

以下では、契約書においてどのようにこれらの担保権を設定しもらうのか、また、担保権を取得した後、実行方法に至るまで詳しく説明していきます。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「債権回収での担保権実行 ~抵当権・譲渡担保権についても解説~」
について、詳しく解説します。

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はじめに

債権保全・回収の観点から、重要性の高い物的担保について、詳しく説明していきます。

抵当権とは?

典型的な物的担保は、債務者の所有不動産に対して設定する抵当権です。

家を購入したり、家を建てたりする際に銀行に住宅ローンを申込むとします。
銀行は、その不動産に対して抵当権を設定します。これと同様に債務者と取引を行うに際して、債務者から所有不動産を担保として提供させるという方法があります。

例えば、債権者が債務者に対して2500万円の債権を有していて、債務者が1500万円相当の不動産を所有している場合、他の債権者が先に抵当権を設定していなければ、債権者が抵当権を設定しておくことで、仮に債務者が弁済をしなかった場合、債権者は優先的にこの不動産から債権回収を行うことができます

実際に抵当権を設定する際には、契約書を作成したり、抵当権設定の登記を行ったりしなければならないので、弁護士や司法書士に相談しながら進める必要があります。

抵当権を設定する際の注意点

抵当権は実際にもよく活用されますが、どのような不動産でもよいわけではありません。
担保にとる不動産を選定する際のコツがあるのです。

まずは、対象となる不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して権利関係を確認します。不動産登記事項証明書は必ず最新のものを法務局で取得するようにしてください。たまに、債務者から提出を受けた不動産登記事項証明書や以前に取得した不動産登記事項証明書で済ませようとする方がいます
しかし、最新の情報を確認しなければ、対象となる不動産に新たに抵当権が設定されていたり、仮差押えや差押えが入っていたりといった権利関係の変動を見落としてしまう可能性があります。

不動産登記事項証明書を確認した後は、固定資産評価証明書等を取得しておおよその価値を把握します。
この時、必ず、不動産業者に実勢価格がどの程度なのかを確認するようにしてください。

次に、現地に足を運んでみて、対象となる不動産の現況を確認します。
対象となる不動産の現況によって不動産の売却可能性は変わってきます。他人の土地に侵入する形で不動産が建てられていたり、登記されていない建物があったりといった現況を見落とさないようにする必要があります。
その際には、記録の保管用にデジタルカメラを持参して、写真撮影し、保管します。
忘れがちなのは、現地確認は晴れた日の日中に行うことです。日当たりの良さなども不動産の価格にはかかわってくるからです。

担保に適した不動産とは?

担保に適した不動産について説明します。

1つ目は、処分が容易な居宅であることです。マンションや戸建てをいいます。
理由としては、住宅購入を希望する一般の方が大勢いるからです。将来競売になっても、最近は不動産業者だけではなく、一般の方にも競売手続での不動産購入が認知されてきているので、入札率も高めになっています。

2つ目は、収益物件です。
最近では不動産業者だけではなく、利回りによる投資案件として一般の方からの需要も活発になっています。特に都市部の物権や、都市部の物権でなくても、立地、環境、景観、築年数によっては、多くの購入希望者を募ることも期待できます。

一方で、市街化調整区域の農地や山林は担保には適しません
これは、ご存知の通り、市街化調整区域では原則として建物の建築は禁止されていること、山林は境界が明確ではなく競売が進行しても固有希望者が現れないことも多いことが理由です。

債務者が所有不動産を担保として債権者に提供するといっても、担保価値を慎重に判断しながら担保権の設定を検討していく必要があります。

動産売買先取特権

動産売買先取特権とは?

法的担保物権の1つの、動産売買の先取特権(以下「動産売買先取特権」といいます。)は、債権回収に大きな効果を発揮する可能性のある担保物件です。

売主が、買主に対して商品(動産)を売った場合、商品の対価(=売買代金)および利息について、その商品から他の債権者に優先して、弁済を受けられる特別の法定担保物件(民法311⑤、321、303条)であり、商品の売主なら誰もが有しているものです。
売却した「動産(商品など)」の上に、先取特権という担保物権がある、という構成になっているので、債務者との合意なくして、一定の要件を具備することで当然に成立するという特徴を持っています。

「先取特権」とは、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利であり、優先弁済を受ける権利ともいいます。

また、当該「動産」が売却、滅失、賃貸、損傷などされることによって、債務者(買主)が得られる金銭やその他の物(転売代金債権など)に対しても権利行使ができ、これを「物上代位権」といいます(民法304Ⅰ)。

先取特権にはたくさん種類があります。
ただ、事業会社における債権保全・回収の観点から最も重要視されているのは、この動産売買先取特権といえます。

成立条件

動産売買先取特権は、

  • ⅰ 動産の売買によって生じた債権(売買代金債権とその利息。内税、外税を問わず、消費税相当額を含む)が存在し、(民法311⑤、321)
  • ⅱ 当該動産売買により、債権者(売主)から債務者(買主)に対し、動産の所有権が移転すれば、

当該動産について成立します(民法303、321)。

上記ⅰの「動産によって生じた債権」は、売買契約による売買代金債権が典型例です。
いわゆる、製作物供給契約(供給者が自己の供する材料により、相手方の注文する者を製作、供給する契約)に基づく債権については、実質的に売買であるといえる場合(製作されるのが規格品、汎用品である場合など)は、先取特権が成立するケースと考えられます。
ただし、裁判例では、製作物供給契約について動産売買先取特権を否定したものがあります(大阪高決昭和63・4・7)(東京高決平成12・3・17)(東京高決平成15・6・19)。この点は要注意です。
契約が解除されると、売買代金請求権が消滅して、目的物返還請求権となるので、動産売買先取特権は生じません。

上記ⅱの動産の所有権移転に関しては、所有権の移転時期について特約がある場合について説明します。
代金完済まで所有権が移転しないとする所有権留保特約がある場合、特に問題となります。所有権留保特約があると、買主に引渡された動産は買主の所有物ではないことなどを理由として、動産売買先取特権の成立を否定するという考え方があります(森田修『債権回収法講義〔第2版〕』(有斐閣、2011)180頁など)。

しかし、所有権留保も、担保権の性質を持っているから、「留保所有権」は交換価値を把握するためのものにすぎません(最三判平成21・3・10)。
所有権留保特約がある場合、売主には、債権担保を目的とする留保所有権が、買主にはそれ以外の所有権(少なくとも転売されたときに所有権を承継取得させる権原)が移転しているといえます。
そうすると、買主が目的物を占有する場合であっても、転売された場合であっても、動産売買先取特権(または物上代位権)が成立すると考えてよいと考えられます。実務でも、取引基本契約書に所有権留保条項が明確に規定されているのに、動産売買先取特権(物上代位事案に限る)が肯定されたケースが複数あります。
では、売却した動産の保管場所については、他の債権者が集合動産譲渡担保を設定していた場合はどうなりそうでしょうか。

この場合は、動産売買先取特権は行使できなくなり、動産譲渡担保権者が優先するというのが裁判所の考え方です(最三判昭和62・11・10)。
民法333条は、「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない」と定めており、集合動産譲渡担保権者は、この「第三取得者」にあたり、譲渡担保設定時の占有改定の効力が及ぶことが「引渡し」にあたるのです。

実行方法

動産売買先取特権の実行方法は、動産の買主の手元にあるのか、それとも買主の手元を離れて第三者に転売されているのか、によって変わります。

動産が買主の手元(自社倉庫や、営業倉庫内での保管)にある場合、動産売買先取特権を実行するには、民事執行法により、当該動産に対する競売(差押え)が必要となります。動産競売(民執190条)によって売却し、売却代金から優先的に配当を受けるのです。

競売開始(差押え)の要件として、次のいずれかが必要となります(民執190条1項)。

  • ⅰ 執行官に目的物である当該動産を提出する。
  • ⅱ 動産の占有者が差押承諾証明文書を提出する。
  • ⅲ 動産競売開始許可決定書(民執190条2項)の謄本を執行官に提出し、債務者に送達される。

次に、動産が買主の手元を離れ、第三者に転売されているような場合があります。
担保権の「物上代位性」を活用する方法で、買主の第三者に対する転売代金債権に物上代位することができるのです。つまり、転売代金債権を差押えて、そこから優先的に弁済を受けることができます。

物上代位権を行使するには、裁判所に対して、動産売買先取得権に基づく債権差押え(物上代位)を申立てることになります。条件がうまく整えば、きわめて活用できる債権保全・回復手段の1つになります。

活用方法の事例

事例から考えてみましょう。

物的担保 図1

Yの本社倉庫からの回収

まず、売主Xとしては、買主Yの本社倉庫に急行し、Yの倉庫に残っているX商品を引揚げるということが考えられます。
Xが売却した商品は、原則、Yの所有物であり、Yの占有管理下にあります。これをXが無断で引揚げると、窃盗罪、不法行為が成立してしまうことがあることに注意が必要です。

Yが協力して、引揚げを承諾している場合には、法的な構成として、

  • ❶その場で売買契約を解除して商品の返還を受ける
  • ❷代物弁済(商品で払ってもらう方法)を受けて引揚げる
  • ❸XY間の取引基本契約書などに所有権留保特約が付されている場合は、留保した所有権に基づいて引揚げる

ということが考えられます。
このうち、❷については、該当する商品が動産売買先取特権の対象物件のとき、その物権の未払代金の支払いに充当したとして、引揚げが正当化されます。そのため、Yが法的倒産手続に入ったとしても、倒産法上の否認権の対象になりません。

また、Yの承諾のもと、事実上、動産売買先取特権の対象商品を引揚げることができれば、それを執行官に提出して、動産売買先取特権に基づく動産競売を開始することができるのです(民事執行法190条1項1号)。
Yが商品の引揚げを承諾しなくても、交渉によって、動産売買先取特権に基づく動産差押えを承諾する旨の文書(差押承諾証明文書)の差入れを受ければ、これを執行官に提出して動産競売を開始する、という方法もあります(同項2号)。

しかし、Yは、手形不渡りを出して実質的に倒産となっていれば、Yに対して、協力を求めることは困難なことが多いでしょう。
このような場合でも、Xが商品を引揚げることができなくても、「債権者が執行官に対し、許可証の謄本を提出し、捜索に先立ちまたは同時に当該許可の決定が債務者に送達されたとき」は、動産競売開始手続が開始されるのです。

具体的には、債権者が、執行裁判所に対し、担保権の存在を証明する文書を提出して、動産競売開始の許可を申立てることができるのです(民執190条2項)。
担保権の存在を証明する書面とは、債権者と債務者との間で特定の動産について売買がなされ、それに基づいて目的動産が引渡されたことを証明する文書をいいます。
売買基本契約書、注文書・請書、請求書などがこれにあたります。

営業倉庫を所有するAからの回収

Yが商品の保管契約を締結している営業倉庫について、当該営業倉庫を所有するAと交渉して引渡しを受けるというのが通常の流れとなります。
しかし、Yが実質倒産していれば、Aに対する保管料を支払っているということは考えにくいです。
ここで、Aは商事留置権を主張して、引渡しを拒絶することが考えられます。そうすると、Xとしてみたら、Aと交渉して、未払い保管料の全部または一部を支払うことにより、商品の引渡しを受け執行官に提出し、動産売買先取特権に基づく動産競売を申立てる、といった方法を選ぶしかないのです。

では、動産競売開始の許可を申立てる方法は今回使えないのでしょうか。
残念ながら、このようなケースでは、目的動産を債務者ではない第三者(倉庫業者等)が占有しているため、動産競売開始の許可申立ては使えないのです(民執190条2項但書)「ただし、当該動産が第123条2項に規定する場所又は容器(債務者の住居その他債務者の占有する場所)にない場合は、この限りでない。」)。

したがって、動産売買先取特権を活用するには、なんとか、Aから商品の引渡しを受けるか、Aから目的動産の差押えを承諾することを証明する文書をとりつけ、執行官に提出する必要があります。
つまり、Aの協力が必要不可欠なので、現実には難しいといえるでしょう。

動産売買先取特権(物上代位)に基づく債権差押え

もし、YがXから購入した商品をZに転売していた場合、Zに転売された商品については、もはやYの手元にはなく、Zの所有物としてZの占有管理下にあります。
いわば、YのZに対する転売代金債権に転化しています。こうなると、動産競売申立てによる回収はできません。

この場合、Xとしては、「物上代位性」を活用する方法があります。
動産売買先取特権は、転売代金債権に物上代位できますから、転売代金債権を差押えて、優先的に弁済を受けられます。
手続きとしては、裁判所に対して動産売買先取特権に基づく債権差押え(物上代位)の申立てを行い、差押命令を発令してもらい、転売代金債権を差押えて回収する流れとなります。


この、動産売買先取特権の物上代位に基づく差押えの「強み」は、転売代金債権を一般債権者が差押えや仮差押えをした場合であっても、一般債権者が取立権に基づいて現実に取り立ててしまう、又は、転付命令が効力を発生するまでは、先取特権者が優先して物上代位権を行使できるということです。
さらに、動産売買先取特権に基づく債権差押えに併せて、「添付命令」の申立てをしているとき、他の一般債権者が差押えをしてきたとしても、転付命令の効力は生じる点でも有利といえます。

物上代位権を行使するためには、

  • ❶XからYに売買され、Yが商品を受領したことに加え、
  • ❷YがZに商品を転売し、Zが当該商品を受領したこと(転売の事実)

を書面によって立証しなくてはなりません。
転売の事実の立証には、Y(債務者・買主)とZ(第三債務者)の間の売買契約に関する書証、X(債権者・売主)が売り渡した動産とZ(第三債務者)に売り渡された動産の同一性を示す書証、Z(第三債務者)による受領書、貨物受領書が必要です。

抵当権

抵当権・根抵当権とは?

普通抵当権とは

「抵当権」は、不動産を目的として、当事者の合意によって設定する約定担保物権です。
抵当権者は、担保の目的となった不動産の占有・管理は行いません。通常、抵当権を設定した者(「抵当権設定者」)が、抵当権が実行されるまで、そのまま占有・管理を続けます。
抵当権は、不動産の「交換価値」を担保にとる制度であり、優先弁済的効力が担保としての重要な効力です。

抵当権のうち、「普通抵当権」(何もつけない「抵当権」は、通常、「普通抵当権」を指します。)は、「特定の債権」を担保するものです(担保される債権のことを「被担保債権」といいます)。

物的担保 図2

この図の場合、「債務者」が所有する不動産に抵当権を設定する「抵当権設定者」です(「債務者兼所有者」が抵当権設定者)。
これ以外に、債務者以外の第三者が所有する不動産に抵当権を設定することがあり、その場合の「抵当権設定者」を「物上保証人」といいます。(「債務者≢所有者」)。

上記の図の「債権5,000万円」というのが「特定の債権」であり、普通抵当権はこれを被担保債権として成立するものです。したがって、この「特定の債権」が消滅すれば、普通抵当権も消滅します(付従性)。

普通抵当権を設定する場合の条項例は次のとおりです。

●普通抵当権設定の条項例

 乙は、甲に対し、甲と乙が令和〇年〇月〇日付で締結した金銭消費賃貸借契約(以下「原契約」という。)に基づいて乙が甲に対して負担する下記の借入金債務およびこれに付帯する一切の債務を担保するため、乙の所有にかかる本契約書末尾記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に順位〇番の抵当権を設定する。

1 契約日 令和〇年〇月〇日
2 債権額 金 円
3 弁済期 令和〇年〇月〇日
4 利 息 年 %
5 損害金 年 %

根抵当権とは?

継続的に商取引を行う場合や、金融機関などが融資先に複数の融資をする場合など、その度に抵当権を設定するのは手間がかかります。
そのため、継続的に発生し、変動する複数の「不特定の債権」を同時に1つの不動産で担保できれば便利です。こういったニーズを満たす担保を「根担保」といいます。

つまり、抵当権の根担保バージョンが「根抵当権」です。
普通抵当権のように被担保債権を特定の債権としないで、同じ当事者間の不特定の債権を、1つの抵当権によって担保の対象とするものです。根抵当権が担保する被担保債権は、平時において変動することを想定しています。

根抵当権は普通抵当権と異なって、「付従性」がありません
そのため、すべての被担保債権が弁済により消滅しても、取引が継続していれば根抵当権は消滅しません。不動産の交換価値をいわば「枠」(=「極度額」)として把握し、極度額の範囲内で増減する複数の債権を担保しようとする制度です。

このように、根抵当権は複数の債権を担保の対象にすることができます。
注意が必要なのは、その金額を無制限とすることはできない点です。必ず、極度額を設けることになっています
仮に、根抵当権を実行しようとする時点の被担保債権の総額が極度額を超えていても、極度額の範囲においてのみ優先弁済を受けることができるという仕組みです。

根抵当権の「被担保債権」に関して、極度額という上限があるほか、「被担保債権」そのものについても一定の制限が設けられています。
被担保債権になるのは、
債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるもの」(民398条の2第2項)
特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権」(取引以外の原因を想定)
手形上若しくは小切手上の請求権」(同条3項)
に限定しています。
包括根抵当はできないことに注意しましょう。不特定といっても、債権の発生原因を特定するなどをして、被担保債権の範囲を画することが必要です。

●根抵当権設定の条項例

 乙は、甲に対し、乙が甲に対して負担する債務を担保するため、乙の所有にかかる本契約書末尾記載の不動産(以下「本件不動産」という。)に書き条件による順位〇番の根抵当権を設定する。

1 極度額 金1000万円
2 被担保債権の範囲
①甲乙間の下記取引による一切の甲の乙に対する債権売買取引、業務委託取引
②甲の乙に対する手形、小切手上の請求権、電子記録債権
3 確定期日 定めない

効力

抵当権の効力は、抵当権の目的となる「不動産」だけでなく、不動産の「不可一体物」にも及びます(民法370条)。
動産が不動産に付着し、物理的・社会経済的に見て分離不可能な程度に結合している「付合物」(民法242条。門、雨戸、エレベーター等)と、主物と別個独立する、主物の常用に供するために主物を附属させた「従物」(民法87条。畳、建具類、庭石等)がこれに当たります。

ただ、抵当権設定者が所有していない物には効力は生じません。
普通抵当の場合は、

  • ❶元本
  • ❷利息・損害金の最後の2年分

に効力が及びます。

根抵当権の場合は、一定の範囲に属する債権であれば、極度額の範囲まで、元本、利息・損害金の優先弁済権を受けることができます。

実行方法

実行方法は、普通抵当権・根抵当権どちらも、「競売」(交換価値を直接換価する方法)の他、担保不動産競売(民執180条1号)、担保不動産収益執行(同条2号)、賃料債権等に対する物上代位(民法372条、304条1項)があります。

抵当権を設定する不動産についての留意する点

抵当権を設定するにあたり、不動産をちゃんと知る必要があります。

  • ① 流動性(換金性)の高い物件(所在地、区画などで判断)
  • ② 評価額が安定している物件(土地、特に更地が安定)
  • ③ 管理が容易な物件

を選ぶといいでしょう。

普通抵当権・根抵当権設定時の留意する点

まず、目的物について実査することが重要です。登記簿や地図だけでなく、実際に足を運びましょう。

  • ① 登記の表示と現況の相違の有無
  • ② 現況の利用状況・占有状況
  • ③ 市場における処分可能性・実勢価格の調査
  • ④ 今後、建物の価値を維持するために要する費用

などを調べることは不可欠です。

さらに、担保権設定契約を締結する際には、第三者対抗要件を具備すること、登記完了後も定期・継続的に担保目的物の現地確認を行うこと、は忘れてはいけません。

譲渡担保

譲渡担保とは?

譲渡担保」は、

  • ⅰ 債権を担保する目的で、
  • ⅱ 目的物を債権者に「譲渡」し、
  • ⅲ 被担保債権が弁済されれば債権者は目的物を「返還」するが(「受け戻し」)、
  • ⅳ 被担保債権について債務不履行が生じれば、債権者は目的物から優先弁済を受ける

という仕組みの非典型の約定担保です(「譲渡担保権」)。

民法に規定はなく、民法の根抵当権に関する規程などを準用もしくは類推適用されます。
そのため、何かもめごとがあれば、契約内容と判例法理(長期にわたって形成・確立されつつある)が勝負になります。

譲渡担保の目的物は、財産的価値があり、譲渡性があれば問題ありません。不動産に限らず、動産や、動産の集まりとしての「集合物」、債権、将来債権、有価証券、知的財産権なども対象になります。

なお、「営業」や「事業」も、「営業譲渡」(商15条、16条)、「事業譲渡」(会467条)の対象となります。
したがって、譲渡担保が設定できるように思われます(営業・事業の譲渡担保)。
ただ、「営業」や「事業」の譲渡といっても、これを構成する個々の財産(不動産、動産、売掛債権など)や取引契約上の地位の移転については、譲渡担保の設定および実行のいずれについても、多くの困難があり、むしろ個々の財産についてそれぞれ譲渡担保を設定した方が効果的といえます。

なお、債権者(譲渡担保権設定者)は、譲渡担保権者が譲渡担保権の実行を完結するまでの間は、「弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利」(最二判平成8・11・22)があります。

もっとも、たとえば、目的物の価値が被担保債権額を下回っているとき(オーバーローン)であっても、目的物の価値を払うだけでは受戻権は発生しません。被担保債権全額の支払いが必要です(被担保債権の一部弁済を受けたとしても、譲渡担保を解除する必要はないということです)。
また、譲渡担保権の実行が完結(終了)した後は、受戻権は行使できないことになっています。

実行手続

債務者が被担保債務を履行しないとき(債務不履行)は、債権者(譲渡担保権者)は、裁判所の公的な手続(競売申立てなど)を経ることなく、私的に譲渡担保を実行することができます。これが「私的実行」であり、譲渡担保権者の特徴です。

「私的実行」は、目的物の所有権などの権利は、債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ、譲渡担保権者に帰属していますので、そのままでは完全な権利者として目的物の引渡しを求めたりできません。
そこで、譲渡担保権設定者の残されている(留保されている)権利(「設定者留保権」)を消滅させる必要があります。
これが譲渡担保権の「実行手続」です。

具体的にどうやって実行するかは、目的物の種類や「清算金」の有無によって異なります。
「清算金」とは、目的物の価額が被担保債権額を上回る場合のその差額をいいます。これを債権者(譲渡担保権者)が取りきってしまうと、回収しすぎとなるため、債権者から債務者(譲渡担保設定者)に返還しなければなりません。
これが「清算金」であり、債権者の負う義務を「清算義務」といいます。

譲渡担保の実行方法として、「帰属清算」と「処分清算」があります。
判例は、不動産譲渡担保に関し、譲渡担保権設定契約で処分清算・帰属清算のいずれかを定めていようとも、弁済期が到来したのに債務が履行されないときは、譲渡担保権者は目的物を処分する権能を取得するとします(最三判平成6・2・22)。
つまり、帰属清算・処分清算どちらを使ってもいいのです。
不動産以外を目的物とする譲渡担保でも、契約書で、どちらの実行方法を使うこともできるようにしておけばよい、ということになります。

譲渡担保の目的物ごとの実行方法の概要は、次のようになります。

(a)不動産・動産・集合物・有価証券・知的財産権の場合
ア 客観的に清算金がない場合(被担保債権額>目的物の価額)
(ア)清算金が生じない旨を通知する。
これで実行手続は終了するので、目的物の引渡しを求めます。

(イ)第三者に目的物を処分する。
これで実行手続は終了します。
売買契約締結時をもって実行手続が終了する旨、契約で明定しておくとよいです。

イ 客観的に清算金が生じる場合(被担保債権額<目的物の価額)
(ア)帰属清算方式:清算金の支払いまたは提供をする。
これで譲渡担保権者が確定的に権利を取得し、実行手続は終了しますので、目的物の引渡しを求めることができます。

(イ)処分清算方式:第三者に処分し、清算金を支払う。
譲渡担保権者が目的物を第三者に売却して、売却代金から債権の満足を得て、売却代金と債権額の差額を精算することで実行手続は終了します。

(b)指名債権の場合
基本的には、契約書の定めに従って実行することになります。
譲渡担保権者が目的債権の完全な権利者になり、取り立てて、清算金があれば、設定者に返還する、というのが流れです。

集合動産譲渡担保

集合動産譲渡担保とは?

譲渡担保は、動産を債務者または担保設定者の手元に置いたままで担保にとるものです。
つまり、動産を担保目的で譲り受け、その時点では動産は債務者または担保設定者の手元にとどめておき、被担保債権の弁済がなかった場合に、運び出して自分の占有下に置き、そのまま自分のものにしてしまう、または売却して売却代金を債権に充てる、というものです。

動産譲渡担保は、はじめは資産価値のある金型や機械設備など(特定の動産)に用いられていました。しかし、1つ1つの資産価値は小さくともそれが集まると価値が高まる在庫商品や原材料、仕掛品などの動産の「集合動産」(集合物)にも対象が広げられてきました

このように、個別の動産ではなく、動産の「集合物」を目的とするのが「集合動産譲渡担保」(「集合物譲渡担保」、「流動動産の譲渡担保」)です。
特定の倉庫にある取扱商品全部というように、「集合動産」の所有権(集合物全体に対する支配権)を、担保の目的で債権者(被保険者)に移転し、もし被担保債権の支払いができなくなれば、債権者(被担保者)が所有者として目的物を売却して債務弁済に充てるというものです。近年、特に中小企業を対象に重要性を増しています。

集合動産譲渡担保は、債権者が、平時は「通常の営業の範囲内」で自由に個々の動産の処分を行うことができます。
一方で、処分した動産に見合うだけの動産を補充しなければならず、補充された動産も集合物に加わった時点で譲渡担保の対象となる点が特徴です。譲渡担保の対象である「集合動産」は、個別の動産ではなく、在庫商品等の動産の集合体であり、その構成が日々変動し、まったく同一の動産がずっとそこにあるわけではありません。在庫商品を例にとってみても、日々仕入れがあり、一方で日々販売されて出荷されていくのです。
個々の動産の流動性は失われないので、債務者(譲渡担保権設定者)の営業に特段の不利益を生じさせることなく、債権の保全を図ることが可能になります

集合動産譲渡担保は、このような集合物の流動性を保ったままの状態で担保にとることのできる唯一の手段です。
こうした特徴から、いくつかの留意点があります。

設定時の注意点・工夫

大事なのは、目的となる在庫などの動産類を実査で確認し、保管場所の状況をしっかり把握することです。在庫などの動産については、第三者の権利が付着している(留置権等)かどうかは、見た目では分かりません。競合担保権などの不存在を表明保証させる条項を加えることも方法のひとつです。

また、集合動産譲渡担保は、前述の通り約定担保なので、設定には債権者(譲渡担保権者)と債務者(譲渡担保設定者)とが集合動産譲渡担保権設定契約を締結します。
その際、目的物として「集合動産」を記載しますが、目的物は「特定」されていなければなりません。

  • ⅰ 動産の種類
  • ⅱ 動産の所在場所
  • ⅲ 量的範囲

などを指定し、個々の動産が目的となる「集合動産」に含まれるのか否かの判断が可能となる程度に、特定する必要があるのです。

これが不十分だと、譲渡担保が無効となりますので、注意してください。

実行

集合動産譲渡担保の被担保債権が弁済されないなど、譲渡担保権設定契約に定める実行事由が発生し、譲渡担保を実行する際には、通常、債権者(譲渡担保権者)は、債務者(譲渡担保権設定者)に対し、実行通知を送付します(通常の営業の範囲内の処分権限を剥奪するために実行通知は重要です)。

実行通知が債務者(譲渡担保権設定者)に届くと、集合物はその時点で「固定化」し、債務者(譲渡担保権設定者)は、通常の営業の範囲内であっても一切の処分をすることができなくなります。
もし処分してしまった場合は、担保権の侵害となり、損害賠償請求の対象となります。

実行通知を送付した後は、債務者(譲渡担保権設定者)に勝手に処分されたり、隠匿されたり、第三者に持ち去られたりしないよう、すみやかに自分の管理する保管場所に現実に移す必要があります。
移す算段をしている間にも、債務者(譲渡担保権設定者)が目的動産を処分、隠匿するおそれがある場合には、占有移転禁止や処分禁止の仮処分の申立てを行い、目的動産の引渡請求権を守りましょう
このとき、対象となる目的動産を特定するにあたり、譲渡担保権設定時の目的物の特定と同様の検討が必要です。

首尾よく目的動産を自分の管理する保管場所に移すことができた後は、譲渡担保権設定契約に定めた方法に従って、処分清算または帰属清算をすることになります。
なお、集合動産について担保権を実行する場合に備えて、たとえば次の条項例のような実行方法などを譲渡担保権設定契約書であらかじめ定めておくとスムーズです。


●担保権実行に関する条項例

1 甲が期限の利益を喪失した場合は、乙はいつでも甲から本件動産の現実の引渡しを受け、または乙の指定する第三者に本件動産の現実の引渡しをさせることができ、甲はこれに協力しなければならない。引渡しに要する費用は甲の負担とする。

2 甲が期限の利益を喪失した場合は、乙は目的動産の実査を行い、また、甲に対し、期限の利益喪失時における本件動産の内容、数量および価格、ならびに保管状況を報告させることができるものとする。

3 甲は、期限の利益を喪失した後も、本件動産を占有している間は、本件動産を善良なる管理者の注意をもって保管しなければならない。また、本件動産が本件保管場所から現実に搬出されるまでの間、甲は、乙に対し、本件保管場所を無償で使用貸借することとし、本件保管場所に乙が立ち入ることのできるような措置を講じなければならない。

集合動産譲渡担保を実行する場合、通常、大量の在庫品や原材料を売却するということになります。
売却できるまでの新たな保管先の確保や売却先の確定に一定の時間が必要となります。
もし、譲渡担保権設定者が勝手に担保目的物を処分したりする懸念がない場合(協力者である場合は、弁護士に委任のうえ、弁護士管理のもとにある場合など)、もともとの保管場所での保管を継続することも考慮に値します。
新たな保管先がすぐに見つからない場合に備えて、引き続き、譲渡担保権設定者の倉庫などで、無償での保管を継続できることなどを規定しておくことが考えられます。

上記条項例の3項下線部はそれを意識したものです。

債権譲渡担保権

売掛債権などの債権にも、譲渡担保を設定することができます。
債権は、「人が人に一定の行為を請求する権利」ですので、目に見えません。では、譲渡はどのように行うのでしょうか。

債権を譲渡しようとする者と譲り受けようとする者との契約で行います。債権の同一性を変えることなく、契約によって債権を第三者に移転する契約を締結するのです(民法466条1項)。

譲渡された債権は元々の債権者が有していたものと同じものです。もし、その債権を担保する連帯保証契約や抵当権などの担保権があるのなら、その権利も譲渡債権と一緒に譲渡される人に移転します(随伴性)。


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