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私的整理について解説② ~債務者が私的整理を申立てたらどう対応する?~


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「私的整理について解説② ~債務者が私的整理を申立てたらどう対応する?~」
について、詳しく解説します。

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私的整理への対応

Q
実際に債務者が私的整理を申し立てた場合どのように対応すべきでしょうか。


A
私的整理の段階に応じて、行うべき対応は異なります。
これから、私的整理の流れの中で、債権者が行うべき対応を
① 協議開始時
② 第1回債権者会議時
③ 私的整理の協議中

の三段階に分けて説明します。

私的整理のながれ

前提として、事業再生計画に基づいて行われる私的整理が、どのような過程を経て成立するかについて説明します。

  1. 債権者に対して事業再生計画案を提案し、協議期間中は債権の回収・担保権の設定または破産手続・再生手続・会社更生・特別清算開始の申立てをしないこと(これを一時停止といいます)を要請する。
  2. 計画案の概要や、提案の経緯、現状、今後の見通しを説明する会議(これを債権者会議といいます)を開催し、協議の枠組みについて合意をする。
  3. 中立的立場の専門家に計画案の検証を求め、債権者との質疑応答を通じ、必要があれば計画案を修正する。
  4. 計画案の採決のための会議を開催し、債権者全員の同意がある時点で私的整理が成立する。
  5. 計画の定めにしたがい、債務の減免や期限の猶予などの効果が生じ、組織再編や減増資などが行われる。

私的整理の協議開始時の対応

Q
私的整理の協議が開始されることになりました。どのように対応すべきでしょうか?


A
まずは、協議の枠組みに対する賛否と、事業再生計画そのものに対する賛否を決めましょう。
これから詳しく説明します。

債権者企業が私的整理の協議に入るタイミングは、各対象債権者に対する弁済日との関係、債務者企業の資金繰りの見込みからの逆算、週末・祝日との並び具合など、様々な要素を考慮して決められます。

私的整理の協議を開始するに当たり、 対象債権者として検討をしなければならないのは、

  • 協議の枠組みへの賛否(一時停止 を承認するか、債権者会議 に出席するか)という問題
  • 事業再生計画そのものへの賛否 (必要な金融支援額や保全評価額、債権者間での負担の妥当性、私的整理によることの合理性など)という問題

の2点です。

事業再生計画そのものの合理性を検証するためには、通常1ヶ月~2ヶ月を要します。検証を終えてから協議に参加するか否かを決定するのでは遅いです。
そこで、まずは債務者企業が私的整理を利用する適格性があるか検討します。

具体的には、以下のような事情を検討します。

  1. 経営困難な状況に陥っており自力再生は困難であっても、事業価値(技術、ブランド、人材などの事業基盤、収益性や将来性)に照らし、関係者の支援による再生の可能性があるか
  2. 法的整理によるのでは信用力が低下し事業価値が著しく毀損され、事業再生に支障が生じるおそれがあるか

私的整理を利用する適格性が認められるか否かによって、さしあたり一時停止に応じるか、債権者会議に出席するかなどの協議の枠組みへの賛否を決定することになります。

なお、事業再生ADRや支援協議会スキームなどの準則化された私的整理では、債務者企業が事業再生計画を立案している段階で、中立的な第三者が何らかの形で関与しています。
つまり、私的整理による事業再生が不相当でないことについて一定の所見を持った上で、 対外的な協議のステップに進む仕組みがとられており、事業再生計画そのものの合理性が検証されているため、債権者の負担が少ないといえます。

第1回債権者会議での対応

Q
第1回債権者会議に参加することになりました。どのように対応すべきでしょうか?


A
ここでは、一時停止の追認と延長への賛否、協議日程への賛否、中立専門家の選出への賛否を決めましょう。
これから詳しく説明します。

第1回債権者会議では、今後の私的整理の協議の枠組みが決定されます。

具体的には、

  • ①一時停止の追認と延長
  • ②協議日程の確認
  • ③事業再生計画の内容や私的整理の協議手続について検証する中立的専門家の選出

などについて決定することになります。

債務者企業としては、当面の事業経営を継続するために、これらの各事項について対象債権者間の相互承認を得られるよう、関係者の招集、議長の選任、議事の進行、債務者企業による説明、質疑応答などについて段取りをする必要があります。

対象債権者としては、あらかじめ債務者企業から提供された資料のほか、債務者企業による説明および質疑応答の結果ならびに、他の対象債権者の動向をうかがいつつ、上記の①~③ついて応じるか否かを決定することになります。

私的整理の協議中の対応

Q
私的整理の協議が本格化してきました。どのように対応すべきでしょうか?


A
ここでは、金融支援への賛否と事業再生計画への賛否を決めましょう。その判断には様々な検証が必要になります。
これから詳しく説明します。

対象債権者としては、第1回債権者会議において協議の枠組みが決定された後、その枠組みに沿って債務者企業の提案した事業再生計画の内容を検証することになります。

まずは、債務者企業から提出された現状の資金繰り、近時の業績など、現実の財務情報をもとに、金融支援が不可欠かどうかについて検証します。債務者企業から提出された現実の財務情報が、従前の決算報告の内容から想定できない内容である場合もあるため、注意が必要です。

次に、債務者企業の事業再生に必要な金融支援の総額 (実質債務超過額)、個別の支援額に影響する保全評価、それに基づく支援内容(負担の分配)などに係る合理性、その根本にある事業計画の実現可能性について検証を進めます。
もっとも、事業再生計画の検証には一定の時間的限界があるため、基本的には対象債務者について法的整理が開始された場合との比較で検証を進めることになります。

具体的には、法的整理で懸念される事業価値の毀損、商取引債権者に何らかの影響を及ぼすことによる悪影響の度合い、メインバンクとの支援負担額の差異等を総合的に考慮したうえで、各対象債権者における経済合理性について判断することになります。その際には、中立な立場の専門家による事業再生計画の合理性の検証結果も参考になります。

第1回債権者会議を経て私的整理の協議を継続するための枠組みが整うと、債務者企業は事業再生計画に対する同意を得るために、本格的な資料の提供や質疑への応答に取り組むことになります。対象債権者に対する個別の訪問に加え、必要に応じて説明会が開催されます。対象債権者としては、これらの債務者企業からの資料提供や質疑応答を受けて、事業再生計画に対する賛否を決定します。

私的整理で協議の対象とされる事業再生計画には、金融支援の要請事項として、対象債権者の有する対象債権について、債務の免除、期限の猶予、債務の株式化など、債権者の同意なく実現することができない、権利の内容に変更を加える事項が盛り込まれています。
そのため、対象債権者のうち1人でも負担に応じないとすれば、特別な事情がない限り、事業再生計画が立ちいかなくなってしまいます。各対象債権者は、互いに他の債権者の同意のあることを条件として事業再生計画に同意をすることになるため、全員の同意が揃っているか否かが非常に重要となります。
そこで、債務者企業としては、事業再生計画に反対しそうな対象債権者について、その賛成できない理由を特定し、何らかの処置をすることになります。

そして、対象債権者全員から事業再生計画に対する同意が得られる見込みとなったら、私的整理の協議の最後の詰めとして、おおむね協議の開始から3か月程度してから、事業再生計画案の決議のための債権者会議が開催されます。
そこで、対象債権者全員による同意が確認され、私的整理が成立します。

なお、私的整理成立後、事業再生計画のみでは事後の権利義務関係の詳細が明確にならず不都合である場合には、債権者間協定を締結することもあります。

私的整理が不成立となった場合

通常、私的整理が不成立となった場合には、法的整理に移行します。私的整理が不成立となった場合には、再生型の法的整理である民事再生、会社更生、特定調停に移行することになります。

事業再生ADRなど、準則化された私的整理から法的整理に移行した場合、私的整理手続中に実行された融資について、法律上一定の要件を満たせば、法的整理においても優先的に取り扱うことができます。
また、特定調停に移行した場合には、裁判官が単独で調停することと定められています。

このように準則化された私的整理においては、私的整理手続中の行為が、移行後の法的整理の段階で一定の範囲で保護されているため、私的整理手続が利用しやすくなっています。

私的整理の対象とならなかった債権者の対応

Q
私的整理の対象債権者とならず何らの通知も受けていないのですが、その場合にとるべき手段はあるのでしょうか?


A
私的整理が成立しなかった場合、原則として法的倒産手続に移行することになります。その場合には倒産債権となり、任意の処分が不可能となります。法的倒産手続がなされることを見越した対応をとるべきです。
これから詳しく説明します。

私的整理は、支援を要請する対象債権者を金融機関のみとして、仕入先などの商取引債権者は対象とならず、従前の取引が継続されるのが一般的です。
対象となった債権者は私的整理開始の通知がなされ、債権者会議に参加することができます。

もっとも、対象債権者とならなかった商取引債権者に対しては、通知がなされることはありません。上場会社の場合、私的整理に入っていることが会社の重要情報として開示されることがありますが、開示制度のない非上場会社の場合、私的整理に入っているという情報が入ってきにくいと考えられます。

私的整理によって金融支援を要請していることは、会社の経営状態が相当悪化していることを意味します。さらに、私的整理が成立しない場合には、法的倒産手続きに移行することになります。その場合には、商取引債権者の債権も倒産債権となり、任意の弁済は受けられなくなります。

そこで、取引先が私的整理に入った場合には、対象債権者ではなくとも取引を打ち切り、商品を引き揚げるなどの対応をとるべきです(「取引先が破産手続を開始した場合に債権を最大限回収する方法とは?」の記事でも詳しく説明しているので、参考にしてください)。

まとめ

私的整理は、当事者間の合意によって行うことができるため、事業価値を毀損することなく柔軟に手続きを進めることができます。

私的整理の申立てがあった場合には、まずは、

  • ①協議の枠組みに賛成できるか
  • ②再生計画に賛成できるか

という2つの点から検討しましょう。

ポイントは、私的整理を利用する適格性の有無です。

その判断には中立の立場の第三者の意見を参考にし、弁護士に相談するのがよいでしょう。


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