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私的整理について解説① ~手続きの種類~

Q 
債務者から私的整理を申し立てた旨の通知がきました。
私的整理とは、どのようなものでしょうか?

A
私的整理とは、法的な倒産手続を用いずに、当事者との合意に基づいて債務の整理を行う手続きのことをいいます。
一概に私的整理といっても様々な種類がありますので、まずは私的整理の種類について、ご説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「私的整理について解説① ~手続きの種類~」
について、詳しく解説します。

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私的整理の種類

私的整理と準則型私的整理

私的整理とは、法的な倒産手続を用いずに、当事者との合意に基づいて債務の整理を行う手続きです。
私的整理においては、どの債権者を対象とするかについて定めはありません。したがって、どの債権者を対象とするかは自由です。

もっとも、私的整理は金銭債務の整理が主な目的となります。そのため、対象となる債権者は、債権放棄がなければ債務者が破産せざるを得ないような大口の金融債権者となる場合が多いです。
そして、私的整理のなかには、一定の枠組みに基づかない場合と枠組みに基づく場合(これを準則型私的整理といいます。)があります。

一定の枠組みに基づかない場合には、債務者企業が各債権者と個別に交渉をするうえ、債権者から突然差押えがなされる恐れもあるため、合意の成立が難しくなります。

他方で、一定の枠組みに基づく準則型私的整理の場合、公平・公正に手続きを進めるために、一定のルールのもと、中立な立場の専門家が関与することとなります。債務者企業は各債権者と一括して交渉することができるので、合意の成立が比較的容易になります。

準則型私的整理には、次にあげるような種類があります。

私的整理ガイドライン

私的整理ガイドラインは、2001年に策定された「私的整理に関するガイドライン」に基づく整理です。
金融債務に関する免除や猶予を含む事業再生ADRができたことにより、現在ではほとんど使われていません。

私的整理に関するガイドラインでは、金融機関を対象に、3年以内に債務超過状態の解消と黒字化を目標としています。もっとも、3年以内の黒字化という目標は達成困難の場合も多く、債務者に大きな負担となってしまいます。
そのため、実際の利用は大企業に限られており、利用件数は非常に少ないです。
中小企業は利用できないといってもよいでしょう。

事業再生ADR

事業再生ADR(正式名称は「特定認証紛争解決手続」)は、事業再生実務家協会という機関が法律(「裁判外紛争解決の手続き利用の促進に関する法律」、通称「ADR法」)に基づく認証紛争解決事業者として経済産業省から認定を受け、私的整理に関する協議及び和解を行う私的整理です。

経済産業省令で具体的な手続きの内容が規定されています。

事業再生ADRを利用しようとする会社は、事業再生実務家協会に利用の申請をします。事業再生実務家協会は、再生の見込みがあると判断した場合、弁護士と会計士を手続実施者として選任し、その後は手続実施者により手続きが行われます
手続実施者は債務者が作成した事業再生計画及び金融支援の内容を検証し、計画の相当性や金融支援の相当性の有無を判断します。債権者はこの検証結果を踏まえて、債務者の再生計画及び金融支援の内容に同意するかを検討します。

全ての対象債権者が同意した場合、事業再生ADRが成立し、債務者の作成した再生計画や金融支援の内容が有効になります。

対象債権者の全て若しくは一部が同意しなかった場合には、事業再生ADRは不成立となります。 その場合にはさらに裁判所の特定調停手続きが利用され、債権者との協議を進める場合もありますが、債権者との協議が整わない場合には、原則として法的倒産手続に移行することになります。

このように事業再生ADRは、手続きが複雑なことに加え、費用が高額であるため、相当の大企業でなければ利用できません
中小企業の利用はほとんどないのが現状です。

中小企業再生支援協議会

中小企業再生支援協議会は、各都道府県に設置されている公正中立な公的機関が、中小企業の再生に向けた取り組みを支援するために再生支援にあたる私的整理です。
中小企業からの事業の再生相談に対し、支援協議会が適切な助言を行います。

再生の相談のうち、事業再生は可能であっても抜本的な財務体質や経営改善が必要な会社には、支援協議会の責任者自らが個別企業の取り組みを支援し、必要に応じ、中小企業診断士や弁護士に依頼し、その会社と共同で再生計画の作成支援を実施します。

作成された再生計画をもとに、その会社の金融機関債権者との間で協議のうえ、適切な金融支援を求めていくこととなります。

中小企業再生支援会は、中小企業が私的整理を行う場合にはもっとも利用しやすい私的整理です。それでも、小規模事業者には費用や手続面で利用が容易でないのが現状です。

地域経済活性化支援機構

地域経済活性化支援機構(REVICと略します)は、有用な経営資源を有しているのに過大な債務を負う事業者の事業の再生支援や、地域経済の活性化に資する事業活動の支援を行う私的整理です。

REVICの支援を受けようとする会社は、メインバンクなどの主要債権者とともに支援の申し込みをし、REVICが支援可能と判断した場合には支援決定が出されます。

REVICは事業再生計画を前提に、金融機関から、適正な金額で債権の買取、債務者に対する出資などをおこない、債務者の事業の再生を支援します。
もっとも、REVICも年商数十億単位の企業の利用が中心となっています。

RCC企業再生スキーム

RCC企業再生スキームとは、公的な機関である整理回収機構(RCC)が、債務者企業の事業再生に関与する際に依拠すべき手続準則として定められたものです。

RCCが主要債務者として、あるいは他の主要債権者からの委託を受けて、事業再生の可能性のある債務者企業のデューデリジェンスや事業再生計画の策定を行います。そして、対象債権者の利害調整を行い、合意形成を主導します。

RCC企業再生スキームは、債権者間の合意のもとに事業の再生を行わせることによって、事業収益から最大限の回収を図ることを目的として行われます。そのため、事業を清算した場合の回収額よりも、当該事業を再生継続した場合の回収額が債権者にとって上回ると見込まれる場合に限定して行われるとされています。

基本的には私的整理ガイドラインに類似しており、RCC企業再生スキームにおいては、RCC社長の諮問機関である企業再生検討委員会が中立の第三者として手続きに関与することとなります。
RCC自身が債権者としての立場を有している点で、他の私的整理と異なります。

特定調停

特定調停とは、債務の返済ができなくなる恐れのある債務者(特定債務者)の経済的再生を図るため、債務者が負っている金銭債権の利害関係を調制することを目的とした、特定調停法に定められた裁判所の調停手続です。

特定調停の手続きは、債務者が裁判所に申立てをすることにより開始します。

まず、第1回期日において、提案された事業再生計画について意見交換し、手続の進行と調査すべき事項について確認します。
次に、第2回期日以降において、倒産実務の専門家から任命された調査委員から調査報告をうけ、計画修正などにつき協議がなされます。特定調停において作成される事業再生計画が調書に記載された場合、債務の支払いについて確定判決と同じ効力が生じることとなります。

さらに、2013年に特定調停スキームという制度が作られました。
特定調停スキームは中小企業について、弁護士が、税理士、公認会計士、中小企業診断士などの専門家と協力して再生計画案を策定し、金融機関である債権者と事前調整のうえ、合意の見込みのある事案について特定調停手続きを得ることにより、一定の要件の下で債務援助に伴う税務処理などを実現し、その事業再生を推進するものです。
通常、調停の申し立て前に債務者が弁護士や公認会計士に依頼し、事業再生計画を作成し、任意に金融機関債権者に対してバンクミーティングなどを通じて説明を行います。

そして、おおむね再生計画に対して理解を得て、債務者の提示する金融支援の内容にも同意が得られる見込みとなってから、特定調停の申立てを行います。
そして、特定調停の手続のなかで、金融債権者が債務者の作成した再生計画や金融支援に同意をすれば、調停が成立し、調停調書が作成されます。

特定調停は中小企業・小規模事業者が利用可能な私的整理であるといえます。


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