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【2023年6月施行!】改正消費者契約法はどう変わる?弁護士が解説

2022年5月25日に成立した消費者契約法(以下「消費者契約法」といいます)および消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「特例法」といいます)の一部改正がありました。
消費者契約法では取消権、不当条項、事業者の努力義務に関する改正が2023年6月1日から施行されます。
特例法では制度の対象範囲拡大、和解の早期柔軟化、消費者への情報提供方法の充実に関する改正が、2022年6月1日から1年半を超えない範囲で政令で定める日から施行されます。

この記事では、消費者契約法の改正概要について解説し、IT企業の利用規約にどのような影響があるのか、説明していきたいと思います。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「【2023年6月施行!】改正消費者契約法はどう変わる?弁護士が解説」
と題して、詳しく解説します。

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消費者契約法改正の概要

不当な勧誘行為の追加

1. 消費者を任意に退去困難な場所に同行し勧誘

消費者契約法改正により、勧誘を告げずに消費者を任意に退去困難な場所に連れて行って勧誘した場合の取消権が追加されました。
具体的な場合としては、事業者が消費者を人里離れた場所や身体的障害により退去困難な場所に連れて行って勧誘するケースが該当します。

2. 契約締結の相談を行うための連絡を威迫する言動を交えて妨害

消費者契約法改正により、消費者が契約締結について相談するために電話などで連絡することを、威迫する言動を交えて妨害した場合の取消権が追加されました。
具体的には、消費者が親や子供に相談したい旨を伝えた際に、事業者が威迫し、相談を妨害するケースが該当します。

3. 契約目的物の現状変更

消費者契約法改正により、契約締結前に目的物の現状を変更し、原状の回復が著しく困難になった場合の取消権が追加されました。

解約料説明の努力義務

消費者契約法の改正により、事業者は解約料の支払いを請求する際に、消費者から説明を求められた場合、解約料の算定根拠の概要を説明する努力義務が設けられました。
解約料の算定根拠は、事業者が解約料を定める際に考慮した事項や理由、算定式、金額が適正であると考えた根拠などを含みます。
ただし、具体的な費用の数字まで説明する必要はありません。

また、適格消費者団体は、事業者の解約料が平均的な損害額を超えると疑うに足りる理由がある場合、その理由を示して解約料の算定根拠の説明を要請できます。
この場合、事業者の説明義務は努力義務ではありますが、適格消費者団体による差止請求をするかどうかの判断材料とされるため、事業者は具体的な数字を含めて解約料の算定根拠を説明する必要があります。
ただし、営業秘密が含まれる場合は、説明を免れることができます。

サルベージ条項

消費者契約法改正により、不当条項規制の一類型として、いわゆるサルベージ条項を無効とする条項(8条3項)が追加されました。
サルベージ条項とは、「関連法令に反しない限り」などと規定することにより、本来であれば,ある契約条項が強行法規に反しすべて無効となる場合に、その契約条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の条項を意味します。

しかし、このサルベージ条項は、有効とされる契約条項の範囲が明示されていないため、消費者が不利益を受けるおそれがあります。
従って、今回の改正では、損害賠償責任の一部免除条項は、事業者の軽過失による場合にのみ適用されることを明らかにしていないときには無効とされました。

この改正を受けて、事業者は「法律上許される限り」等の留保文言を用いることなく、以下のような記載を行うことが求められます。

「当社に軽過失がある場合に限り、1万円を限度として損害賠償責任を負います。」


事業者の努力義務の拡充

改正された消費者契約法では、事業者の努力義務がいくつかの点で拡充されています。
主な拡充点は以下の通りです。

1. 情報提供の考慮要素

現行法では、消費者契約の内容についての必要な情報を提供する努力義務が規定されています。
改正では、個々の消費者の「年齢」と「心身の状態」が考慮事項として追加されました。
事業者は、これらの事情を知ることができた場合には、その事情を考慮して情報提供を行うことが期待されます。

2. 定型約款の表示請求権に係る情報提供

消費者は定型約款の内容を示すよう請求することができますが、多くの消費者はその権利を知らないことが多いため、努力義務として必要な情報を提供することが規定されました。
ただし、事業者が定型約款の内容を消費者が容易に知り得る状態に置いている場合には、情報提供の必要はありません。

3. 解除権の行使に関する情報提供

改正により、契約締結後でも消費者の求めに応じて解除権の行使に必要な情報を提供する努力義務が拡充されました。
事業者は、消費者の求めに応じて、解除をするために必要な具体的な手順等について情報提供するよう努めることが求められます。
例えば、解除の方法について紹介しているホームページの表記を分かりやすくすることや、解除を行うためのページへのリンクを分かりやすく表示することが求められます。

4. 適格消費者団体による契約条項等の開示要請への対応

適格消費者団体が差止請求をする際、事業者に対して任意の開示を求めて契約条項を確認することができますが、開示に応じない事業者もいます。
改正法では、適格消費者団体が契約条項の開示を要請した場合、事業者はこれに応じる努力義務を負うことが規定されました。
また、差止請求権の行使により行為の停止等の義務を負う事業者に対して、適格消費者団体が義務履行のために講じた措置の内容の開示を要請した場合、事業者はこれに応じる努力義務を負うこととされました。
これにより、事業者が契約条項の改善を約束した後も、適格消費者団体からの開示請求を拒絶し、不当な契約条項が実際に是正されたかどうかが明らかになるようになります。

利用規約のチェック

消費者契約法は、BtoCのビジネスについて適用されるため、今回の改正は、BtoCビジネスを行っている事業者において関連があります。
BtoCのビジネスを行っている企業において、改正消費者契約法に対応するために、利用規約において修正するべき点は以下の2点となるでしょう。

①事業者の責任を一部免除する条項の見直し
上記(3)サルベージ条項で説明しましたように、損害賠償の免責条項に関して、消費者契約法の改正において、新たな規律が定められることになりました。

改正法では,事業者の債務不履行または不法行為による賠償責任を一部免除する条項で、「重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない」ものは無効にするとの規定が新設されています(改正法8条3項)。
そのため、たとえば、「軽過失の場合はサービス利用料金を上限として賠償する」との免責規定を置いている場合は問題ありませんが、「法令に反しない限り、サービス利用料金を上限として賠償します」との規定は無効になります。

その結果、本来であれば消費者契約法上も認められている「軽過失の場合の事業者の一部免責」の効果も得られないこととなる重大な改正です。
上記規定が利用規約に盛り込まれている場合には、

「当社に軽過失がある場合に限り、1万円を限度として損害賠償責任を負います。」

との規定に修正することをぜひご検討ください。

コラム ~消費者契約法における免責条項~
消費者契約法上、債務不履行または不法行為による賠償責任について、事業者に故意または重過失があるときは、一部であっても免除することが認められず、事業者に軽過失があるときは一部免除のみ認められています(消費者契約法8条)。

消費者契約法8条1項1号~4号によれば、
・サービス提供者の債務不履行または不法行為による賠償責任の全部を免除する条項
・サービス提供者に上記の責任の有無を決定する権限を付与する条項
・サービス提供者の故意または重過失による債務不履行または不法行為による賠償責任の一部を免除する条項
・サービス提供者に上記の責任の限度を決定する権限を付与する条項
も無効となります。

そのため、「サービス提供者の故意又は重過失を問わず,サービス提供者は一切の責任を負わない」というような条項は、無効となります。
また、サービス提供者の「軽過失」による損害賠償責任を全て免責する条項が消費者契約法第8条第1項1号および3号に該当し、無効となるかどうかは問題となりますが、裁判例では、「事業者の故意または重過失に起因しない場合、損害について責任を負わない」という条項が同法第8条第1項3号に該当し、無効と判断されています。

このことから、BtoC(対消費者)ビジネスにおいて利用規約でサービス提供者の軽過失による損害賠償責任を全て免責する条項を定めても、それは無効となると考えられます。事業者は、消費者保護の観点から、賠償責任に関する条項に注意を払い、適切な規定を設けることが求められます。
事業者は、消費者契約法に則った利用規約を設定し、消費者の権利を尊重し、適切な賠償責任を負うことが重要です。利用規約における賠償責任に関する条項は、事業者の信頼性やサービスの品質にも関連しており、消費者からの信頼を獲得するために、適切な対応が不可欠です。
また、事業者は、利用規約の変更や更新が必要になった場合には、消費者に対して適切な通知を行い、理解を得ることが望まれます。消費者が変更された利用規約に同意しない場合には、その旨を尊重し、サービスの提供を中止することが適切となる場合もあります。

②ユーザーの違約金条項
サービス提供者が利用規約に違反した利用者に対して損害賠償責任を追求する場合、違約金条項を設定して立証負担を軽減することが考えられます。

例えば、「お客様が利用規約に違反した場合には違約金として一律〇円をお支払いいただきます」「お客様が利用規約に違反した場合でも、すでに支払い済みの対価は返還しません」という条項があるとします。
このような条項は、契約自由の原則に基づき、当事者間の合意によって、債務不履行時の損害賠償額を事前に定めることができます(民法420条)。
上記の違約金条項は、サービス提供者にとって損害の発生の有無や金額の立証負担を軽減し、あらかじめ定めた金額で損害賠償を請求できるメリットがあります。

ただし、BtoC取引において、違約金の合算額が同種の消費者契約の解除に伴う平均的な損害額を超える場合、その部分は無効となります(消費者契約法9条1項)。
従って、BtoC取引において違約金条項を設定する際には、当該取引における平均的な損害額を検証することが求められます。

改正消費者契約法9条2項では、違約金条項に関する事業者の努力義務が規定されており、事業者は違約金の支払い請求時に消費者から求められれば、算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません。また、解約に伴う損害賠償額の予定についても、事業者の努力義務が規定されています。
事業者は違約金を定める際、自らが定める金額の合理性を説明できるよう、違約金を定めるにあたって考慮した要素や業態・ビジネスモデルに基づく違約金の考え方を整理しておく必要があります。

「平均的な損害」については、同一事業者が締結する多数の同種契約について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害額ですが、逸失利益の含有や具体的に考慮すべき要素は明確でなく、一義的に定まるものではありません。
実務上は、契約の対象となる商品・権利・サービスの対価や契約の性質・代替可能性などを考慮して「平均的な損害」の額を検証することになります。「平均的な損害」の判断時期は、契約時に判断できる計算上の損害額を基準とするべきです。
また、違約金条項が消費者の利益を一方的に害する不当条項(消費者契約法10条)にあたる場合、条項そのものが無効となるリスクがあります。

なお、利用者による義務違反を前提としない利用者による中途解約についても、それに伴う違約金条項を定めることは有効であり、サービス提供者は、利用者による中途解約によって損害が発生したことや損害額を立証することなく、違約金条項に基づいて損害賠償を請求することができます。
ただし、契約当事者間で合意した違約金額が過大な場合、利用者による中途解約を事実上困難にしたり、抑制したりする結果となります。そのため、過大な違約金条項は合意をしなかったものとみなされたり、消費者契約法10条に基づき無効とされる可能性があることも注意が必要でしょう。

法律相談は直法律事務所までお気軽に

以上のように、今般の消費者契約法改正にともない、まずは事業者の責任を免責する条項、そして、ユーザーに対して違約金の支払いを求める条項を利用規約に設けている場合には、改正法に対応しているか確認が必須となります。
なお、弁護士として、我々は、今般の消費者契約法改正に限らず、BtoCの取引をしているSaaS企業の利用規約において、ユーザーの権利を不当に制限していて裁判になった場合には無効と判断される規定をよく目にすることがあります。

今般の改正を機にして、自社の利用規約が法律に則った規程になっているか、今一度、専門家の確認を経ることが法務リスクを減らす結果となるでしょう。


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