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【信用調査について】債権回収のための備え1

Q1
これから取引をしたいと考えている候補があります。ただ、債権回収ができない事態は避けたいです。債権回収の観点からはどのような候補と取引をするのが良いですか。

A1
債権回収の観点からは、その候補に倒産リスクがある場合には取引を避けるのが望ましいです。この場面では、信用調査が非常に大切です。
この記事では信用調査の方法について解説します。
また、与信限度の設定も大切です。
与信限度の設定については、「【債権管理について】債権回収のための備え2」の記事で説明します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【信用調査について】債権回収のための備え1」
について、詳しくご解説します。

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信用調査の基本

法人と取引しようと考えている場合、信用調査で確認すべき大まかなポイントは、

①取引先の概要
②財政状態・経営成績
③生の情報
④詳細な信用情報を調査する

という4点です。

①取引先の概要の調査には、会社・法人の登記事項証明書を確認

②財政状態、経営成績の調査には、決算書の分析

③生の情報を知りたい場合には、実地調査・聞き取り調査

④詳細な信用情報は、信用調査会社の利用

調査の視点

主要な例として、8点挙げられます。

①業績
②資産
③規模
④歴史
⑤取引先
⑥資金繰り
⑦将来性
⑧経営者

という観点で調査します。

登記事項証明書-取引先の概要調査

登記事項証明書の種類

登記事項証明書には「履歴事項証明書」、「現在事項証明書」、「閉鎖事項証明書」または「代表者事項証明書」があります。
また、登記事項の種類の全部を記載した「全部事項証明書(謄本)」または一部のみを記載した「一部事項証明書(抄本)」を選択することもできます。

取引先の情報を多く得るために、まずは履歴事項全部証明書を取得するのが一般的です。
履歴事項証明書には、現在事項証明書の記載事項に加えて、当該証明書の交付の請求のあった3年前の日の属する年の1月1日から請求の日までの間に抹消された事項(職権による登記の更正により抹消する記号を記録された登記事項を除く。)等が記載されています。
これより前の事項を知りたい場合や、取引先の本店の所在地がその登記所の管轄区域外から移転してきた記録があるような場合には、「閉鎖事項証明書」を請求します。

登記事項証明書の取得方法

①登記所で直接交付を受ける方法、②郵送での交付請求、③インターネットでの閲覧サービスを利用する方法があります。

①登記所で交付を受ける場合
所定の申請書に必要事項を記載し、手数料分の収入印紙を貼付して提出します。
なお、登記所であればどこでも他の登記所管轄の会社・法人の登記事項証明書を取得できます。
手数料は、次の表のとおりです。

手数料 1通が50枚以内の場合 1通が50枚を超える場合
1通 600円 600円に枚数50枚ごとに100円加算

②郵送の場合
登記所に郵送するものは

・申請書
・手数料分の収入印紙
・切手を貼った返信用封筒

の3点です。
ただし、速達よりも登記所の窓口で交付を受ける方が速い場合が多いです。

③インターネットで閲覧する場合
登記情報提供サービス(有料)を利用します。
サービス利用には、利用登録をしてIDとパスワードの交付を受ける方法と、クレジットカードにより決済を行う一時利用の方法があります。
登録していれば即時に取引先の概要を知ることができ、便利です。
ただし、デメリットがあります。登記情報提供サービスではこれをプリントアウトしたものは、法的証明力がない点です。法的証明力があるのは登記事項証明書です。

確認のポイント

登記事項証明書には主に
①商号、②本店、③会社成立の年月日、④目的、⑤資本金の額、⑥役員に関する事項
が記載されています。
各欄から、どのようなことが分析できるか順にみていきましょう。

1 商号の欄で確認すべき点

商号の欄で確認すべき点(その1)

☑取引先候補が法人であること

⑴確認すべき理由
⑴-1原則
取引先が法人の場合(株式会社、合同会社、有限会社など)は、原則として当該法人に対してしか債権回収をすることができず、代表取締役等の個人に対して債権回収することはできません。逆に、取引先が個人の場合は、個人が代表取締役を務める法人等に対して債権回収することができません。
実際の取引では、個人との取引なのか法人との取引なのか紛らわしい場面に遭遇することも少なくありません。
法人と取引するつもりだったのに個人との契約になっており想定どおりに債権回収ができない事態を招かないように注意すべきです。

⑴-2 例外
法人と取引する場合であっても、個人に対して債権回収をすることができる場合があります。例えば、法人が合名会社や合資会社である場合です。合資会社である場合は、無限責任社員と有限責任社員という2種類の構成員があり、無限責任社員に対しては債権回収をすることができる可能性があります。


商号の欄で確認すべき点(その2)

☑会社の商号と会社の名称が異なっているか
☑商号の変更を繰り返しの有無

⑴確認すべき理由
会社の商号と会社の名称が異なっている場合や商号の変更を繰り返している場合には、別会社を装い、会社の実態を隠していることがあります。チェックがつく場合は、理由を確認することが必要です。

2 本店の欄で確認すべき点

本店の欄で確認すべき点(その1)

☑会社が本店としている所在地が本店であるか

⑴確認すべき理由
本店とは会社の本店の所在地です。実際に本店として使用している場所と異なる場所を登記上の本店としている場合は注意すべきで、その理由を確認しましょう。代表者の自宅だからというような明確な理由がない場合は注意が必要です。


本店の欄で確認すべき点(その2)

☑会社の本店所在地の住所及びその変更履歴も確認
☑登記所の管轄区域内で本店が移転した場合は履歴事項証明書で確認
☑登記所の管轄区域外で本店が移転した場合は「登記記録に関する事項」欄を確認

⑴確認すべき理由
本店所在地が異なるのであれば、同じ商号の会社を作ることができます。そのため、同じ商号なので安心して取引したが、住所の細部が異なっており全く無関係の会社と取引をしていたという取込詐欺の被害にあわないように注意が必要です。
また、本店所在地が確認できれば、当該所在地の土地や土地上の建物について不動産登記を確認することで、取引先がその不動産を所有しているか否か、抵当権や根抵当権設定の有無を確認できます。抵当権や根抵当権が設定されていれば共同担保目録を確認することで、他に所有している不動産を知る手がかりとなります。

3 会社成立の年月日の欄で確認すべき点

☑会社の歴史

⑴確認すべき理由
会社の歴史が長いから信用できるとまでは言い切れませんが、会社の生い立ちを知る手がかりにはなります。

4 目的の欄で確認すべき点

☑その会社が行える活動の範囲

⑴確認すべき理由
これから行おうとする取引の内容が相手方の会社の目的と全くかけ離れていないかを確認します。
目的欄には、会社が定款に定めた事業目的が記載されています。会社は、定款に定めた目的の範囲でしか権利義務の主体になることができないのです。クライアントの会社との取引内容がその会社の目的の範囲外であった場合、その取引は無効となり、例えば代金の支払い義務がないと主張する可能性もあります。
ただ、判例上、会社の目的の範囲は広く解釈されています。そのため、取引内容が目的の範囲外で無効になるケースは多くはありません。とはいえ、これから行おうとする取引の内容が相手方の会社の目的と全くかけ離れている場合は無効となる法的リスクが否定できないため、取引に慎重になるべきです。
また、会社の目的に全く記載のない事業を会社が行おうとしている場合は、信頼できない会社なのではないかと疑うことも必要でしょう。きちんとした会社であれば、定款の変更や目的の修正・追加という対応をするのが通常です。

5 資本金の額の欄で確認すべき点

☑資本金の具体的な額

⑴確認すべき理由
資本金は、貸借対照表の純資産の部を構成する株主資本の部の項目の一つで、原則として、設立または株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込みまたは給付をした財産の額から構成されています。債権者を保護するために、資本金などを基準とする一定額以上の会社財産がない場合、会社が株主に財産の分配をすることは禁じられています。資本金の額を確認することで、会社の規模のおおよそがわかります。ただし、資本金の額の大きさが信用力を示すとまではいえませんから注意してください。会社が資本金の額として記載されている額を実際に保有していることを示しているわけではないからです。

6 役員に関する事項の欄で確認すべき点

役員に関する事項の欄で確認すべき点(その1)

☑社長などの会社の代表者を名のる者が代表取締役として登記されているか
☑専務取締役や常務取締役と名のっている場合、取締役として登記されているか
☑代表取締役や取締役の多くが同時に入れ替わっているか

⑴確認すべき理由
会社が乗っ取られている可能性がわかるからです。また、登記することが不都合だから、登記していないという可能性もあります。事情を注意深く確認する必要があります。ただ、健全な理由の場合もあるので、理由を確認することが重要です。
代表取締役や取締役の多くが同時に入れ替わっている理由には、健全な企業買収目的もありますが、古い休眠会社を買い取ることで社歴の長い歴史ある企業と偽る目的がある場合もあります。他にも、会社が乗っ取られたことを示している場合もあります。そのため、代表取締役と取締役が同時に入れ替わっていることが判明した場合は、理由を伺うことを推奨します。
なお、過去約3年の役員を確認するには「履歴事項証明書」を確認します。おおよそ3年以上前の役員を確認するには、「閉鎖事項証明書」を確認します。


役員に関する事項の欄で確認すべき点(その2)

☑代表者の住所地の確認

⑴確認すべき理由
会社代表者は氏名に加えて住所地も登記事項となっています。自宅の住所地を確認し、当該所在地にある不動産の不動産登記簿を調査すれば、当該不動産の所有者を知ることができます。取引に際して代表者の保証を求めるような場合など、個人資産調査の目安になります。他方、自宅の住所地に実際に居住してないことが判明した場合など、取引に慎重になるべきです。

決算書

決算書は、財務諸表や計算書類とも呼ばれ、企業の財政状態および経営成績を利害関係者に報告するために作成される書類のことをいいます。

入手方法

株主や債権者は決算書の閲覧請求をすること、謄本または抄本の交付請求をすることができます。上場会社等では、開示された有価証券報告書を確認することもできます。
しかし、これから取引をする相手の決算書を入手するには、取引先から任意に開示してもらうのが一般的です。

貸借対照表からわかること

☑事業年度末日における会社の財政状況

貸借対照表はB/S(Balance Sheet)とも呼ばれ、事業年度末における資産・負債・純資産について確認することができます。また、担保として取得できそうな財産に関する情報や、仮差押などの保全手続きを行う場合の対象財産に関する情報が得られることもあります。

損益計算書からわかること

☑一事業年度の会社の経営成績

損益計算書は一事業年度に発生した収益とそれに対応する経費が記載されています。利益がなく、損失がある場合は経営成績が悪いと評価できます。

信用を詳細に分析したい場合

☑財務分析を行う

財務分析の方法

①安全性、②収益性、③成長性などの種類に分類し、財務分析をします。

1 安全性

安全性分析は、支払能力の有無・程度という企業の健全性を判断するために行います。安全性分析の手法として、以下の4つを紹介します。


安全性 種類
短期的 流動比率、当座比率
長期的 固定比率、固定長期適合率

流動比率とは、1年以内に支払期限の到来する負債(流動負債)を、1年以内に現金化できる売掛金などの資産(流動資産)によって支払うことができるかという短期的な支払能力を示す指標のことをいいます。日本の場合は通常120%以上あればよいといわれています。したがって、流動比率が次の計算式を満たす場合には通常よいと考えられます。

流動比率=流動資産/流動負債×100(%)≧120(%)
※ 流動資産は1年以内に現金化できる資産(当座資産のほか、棚卸し資産,その他の流動資産も含まれます。)。
※ 流動負債は1年以内に支払わなければならない負債(買掛金など)。
ただし、不良債権が多い場合には注意すべきです。

当座比率とは、支払期限が1年以内に到来する流動負債を短期間で換金性の高い現金預金、売掛金、受取手形、有価証券、未収金などのある程度すぐにお金に変えられる資産(当座資産)によって支払うことができるかという短期的な支払能力を示す指標のことをいいます。

当座比率=当座資産/流動負債×100(%)
※当座資産は換金が容易な資産(現金預金、売掛金、受取手形、有価証券、未収金など)

固定比率は、会社が長期にわたって保有する固定資産が、どれほどの割合で、返済期限のない株主資本(自己資本)で取得できているかを確認するために用いられ、長期的な安全性の指標となっています。比率は100%以下が望ましいと考えられています。ただ、業種によって望ましい比率は異なるので、同業他社との比較が必要です。固定比率は、次の計算式により求めることができます。

固定比率=固定資産/(株主資本(自己資本))×100(%)

固定長期適合率は、長期的に運用する資産を長期資産(長期的な負債と返済期限のない株主資本〔自己資本〕)でどれだけ取得できているかという長期的な安全性の指標です。固定比率が100%を超えていたとしても、固定長期適合率が100%を下回っていれば、財務状況は安全と判断することが多いです。

固定長期適合率=固定資産/(固定負債+株主資本)×100(%)
※固定負債は返済の期限が1年間を超える負債(長期借入金、社債、退職給付引当金など)

2 収益性

収益性の分析は、どの程度の利益を獲得したかを判断するために行います。この分析で主に用いられるのは損益計算書です。

3 成長性

成長性分析は、企業の将来の成長可能性を判断するために行います。売上高などの対前期比較を行う手法によって分析します。

実地調査の方法

会社の実態を把握の視点

以下の点を、業績の良い会社と違う点はないかという視点で調査します。

☑会社の施設が会社の規模と釣り合っているかの確認
-釣り合っていないことは、問題を抱えている会社に見られる傾向です。

☑職場の整理整頓・掃除の有無確認
-社内の職場環境が悪いことは問題を抱えている会社に見られる傾向です。

☑工場・倉庫内に大量の在庫の有無、不良在庫の多さを確認

☑店舗の来客数、売れ残り数、欠品数の確認

☑社員の対応確認
-社員の対応や待遇が悪いことは、問題を抱えている会社によく見られる傾向です。

☑反社と疑われる者の立ち入りの有無確認

経営者へのヒアリング事項

経営者というポジションは会社の命運を左右する上で非常に重要です。そのため、取引開始について検討する場合は、以下の点を確認し、経営者としての器があるかなど信頼できる人物かを直接確認すべきでしょう。

☑経営者としての才覚、信頼性、性格
☑会社・事業への深い理解の有無
☑取引内容への深い理解の有無
☑取引の動機

関係先へのヒアリング事項

相手方の取引先は、既に取引関係に入っているので、取引先の信用調査を既にしていることが考えられ、情報を持っていることが多いです。そのため、以下の点をヒアリングし、取引先に未払いリスクなどがないかを確認します。
同業者も、同業他社の情報を保有していることが期待できるため、以下の点をヒアリングし、信用の有無を調査することが期待できます。

対象:相手方の取引先
☑相手先への評価、代金支払状況、製品供給状況など

対象:同業者
☑相手先の業績・評価、業界での位置、競合状況など
なお、銀行を対象とするヒアリングも選択肢の1つですが、守秘義務があるので、功を奏しない場合があります。

信用調査会社を利用する目的

☑信用調査会社の利用

取引先から決算書を開示してもらえない場合など、信用調査会社に依頼して、調査報告書を入手することも考えられます。
調査報告書には、一般的に、会社の概要、登記された情報の内容、経営者に関する情報及び評価、仕入及び販売に関する情報、決算書(貸借対照表及び損益計算書)に関する情報などが記載されています。

なお、信用調査だけでは回避できないリスクもあります。契約条項でリスク回避を図ることや、保証人、担保等を設定することも重要となります。これらの記事については近日公開予定です。

与信管理

取引開始前に、様々な調査に基づき与信限度を設定することが望ましいです。
詳しくは【債権管理について】債権回収のための備え2で説明します。


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