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【債権管理について】債権回収のための備え2

Q
取引開始後に債権回収に備えて何をすべきですか?

A
取引先に信用不安などの事態に備えて、適切な債権管理を行うことが望ましいです。
債権管理の方法を解説します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【債権管理について】債権回収のための備え2」
について、詳しくご解説します。

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債権管理のポイント

信用調査を経て取引が開始された場合であっても、取引先が支払いを怠たる、取引先の信用力の低下、債権の消滅という事情により、債権回収が困難になることがあります。

債権を確実に回収するためには、日ごろから債権額、債務額、契約残高(発注残(仕入先へ発注したものの、いまだ自社に納品されていない発注のことをいいます)や受注残(取引先から注文を受けた商品等のうち、未だ納品や出荷ができていない商品のことをいいます)のことをいいます)、直近で支払のあった日などをしっかりと把握することが重要です。

確実な債権回収に備えるために、債権管理にあたっては、①契約書などの管理、②与信管理、③時効の3点がポイントになります。

契約書などの管理

契約書などの管理の目的は

①債権・債務がいくら発生しているか把握すること
②商品が確実に納品されているかを確認すること
③請求額と入金額が一致しているかを確認すること
④将来の訴訟に備えること
⑤与信限度が守られているか確認すること

にあります。

③請求額と入金額とが一致しない場合は、請求書の一部を提出し忘れていたなどの事情が考えられるので、事情を確認します。

④債権回収の手段として仮差押えや訴訟を提起する場合には、債権の存在を明らかにする証拠が必要です。

この場合の証拠として重要なのが契約書類です。契約書類が作成されていない場合や、作成していたとしても紛失しているような場合には、十分な訴訟活動ができない可能性がありますので、しっかりと保管する必要があります。

管理が必要な書類

以下の書類は、すぐに取り出せるように取引先ごとに整理しておくとよいです。

□契約書
取引先との契約締結時には、①商品②数量③金額などの契約条件を記載した契約書を締結することが通常です。

□取引基本契約書
継続的な取引が予定されている場合には、取引基本契約書を締結することがあります。
取引基本契約書では、個別の取引に共通する詳細な契約条件を定めます。そして、個別の契約書に最低限の契約条件や基本契約書と異なる契約条件の特則を定めます。
例えば、最低限の契約条件として、「納品後ただちに受領書を発行することを義務づける」という条項を定めます。この受領書を受け取ることにより、納品の有無に関するトラブルを回避することができます。

個別の契約条件すべてを1つの契約書に記載すると煩雑になってしまうため、取引基本契約書を作成することでそのような煩雑さを回避する狙いがあります。

□注文書(発注書)・注文請書
注文書(発注書)・注文請書は、個別の取引において、事務処理上の便宜から、双方が契約書という形式をとらずに取り交わされるものです。
債権・債務の額を確実に把握するために作成すべき書類です。
注文書・注文請書は、「契約書」という記載はありませんが、契約の成立を証明する証拠になるため、契約書と同等に重要な書類です。しかし、注文書・注文請書の取り扱いがずさんなケースもあり、争いとなることも少なくありません。そうならないように適切な管理が必要です。
なお、注文請書を用いず、注文書のみ用いる場合もあります。このような場合、後日、発注した、しないの争いを避けるため、できる限り相手が注文書を受領したことをメールやFAXなどで確認するようにしましょう。

□納品書・商品受領書
納品書は、商品売買契約等において、売主が買主に商品を引き渡した際に、売主が買主に交付される書類です。他方、商品受領書は、売主が買主に商品を引き渡した際に、買主が売主に交付する書類です。
通常、商品売買契約を根拠に売買代金の支払請求をするためには、売買契約の成立後に売主が買主に商品を引き渡す必要があります。納品書・商品受領書は、商品を引き渡したことを示す証拠として重要な書類となります。

□請求書
請求書は、支払いを催告した事実を示す重要な書類です。これは後述する時効や期限の到来を示す証拠となる場合もあります。
商品売買契約の場合、売主が買主に請求書を交付するタイミングは、売主が買主に商品を引き渡し、買主が売主に商品受領書の交付した後であることが多いです。

与信管理のポイント

信用調査を経て取引を開始するに至ったとしても、債権回収が困難になる場合があります。債権回収に支障が生じないようにするためには与信管理が非常に重要です。
与信管理の手法の一つに与信限度があります。
与信限度とは、取引先との間で一定期間内に信用取引を行うことが許される取引金額の限度額のことをいいます。継続的な取引が予定されている場合、取引の都度、取引先の信用力を調査・判断するのは現実的でありません。そのため、取引先ごとに与信限度を設定することが大切です。

与信限度の設定方法

(主要例)

与信限度の設定方法 与信限度の基準となるもの
仕入債務残高基準法 取引先の仕入債務の残高の一定割合
自己資本基準法 取引先の自己資本の一定割合
月商基準法 取引先の月商の一定割合

与信限度の設定は、

□上記の基準によって算出した数値を基本にして
□取引先の規模
□資力
□信用度
□取引先との取引の規模
□決済条件(例:納入月末締め翌月末現金払い)
□取引先の営業の実態把握の程度
□担保・保証の有無・取得の見込み

などを総合的に考慮して決定します。

与信限度設定の際の留意点

□取引の限度額
□決済条件
□担保・保証
□与信限度の有効期限

を決めておくとよいです。信用力は時間の経過により変化するからです。
例えば有効期限を1年と定めた場合には、1年後に与信限度の金額を見直すことになります。
なお、決済条件を決めると、取引先からの代金回収の時期が明確になり、債権回収の際に確認が容易になります。
よって、決済条件は決めておくことが望ましいです。

与信限度の管理

総論

取引が開始された後に行う必要があるのは、実際の取引金額が与信限度の範囲内に収まっているかをチェックすることです。
そのためには、

□会社全体において与信管理システムの構築をすること

が望ましいでしょう。

通常、取引金額の実態に関する第一次情報は営業部門が持っています。営業部門が取引金額の実態を把握すべきことは否定できませんが、営業部門は、売上げを伸ばすために大きな金額の取引を増やしていこうという意向があり、新規の営業活動に追われ、継続的な取引の推移を把握することを怠る可能性もあります。
そのため、会社としては、システムを構築し、取引金額を把握し、与信限度の範囲内に収まっているのか監視することが重要です。
また、与信管理システムが確実に機能するために、

□与信管理の手続きを定めた内部規定の作成
□与信管理について営業部門への周知・教育

を行うことも望ましいです。

与信管理の手続きを定めた内部規定として例えば次のようなものが考えられます。
①営業部門は信用取引の実態を常時把握すること
②営業部門は、①で得ている情報を与信管理の部門に報告すること
③与信部門は、限度額を超過しそうな場合は、営業部門に通知すること
という内部手続です。

営業部門における債権管理

□帳簿管理
取引先ごとに債権残高を管理することが基本です。取引先ごとに帳簿をつけて管理するようにします。

□限度管理
現時点での取引先ごとの債権残高が与信限度を超過しないように管理をします。

□受注管理
将来、債権残高が与信限度を超過しないように、受注を管理します。

□回収管理
債権の回収状況を管理します。回収管理は時効の管理にもつながります。

与信限度の見直し

与信限度を見直す必要がある場合があります。取引先の信用力は時間の経過とともに変化するという理由や、特別な事情が生じる場合があるからです。
与信限度の見直しに関する判断手法はさまざまですが、ここでは、主要な例を紹介します。

□営業部門が収集した情報
営業部門が取引の継続中に収集した情報を分析する方法です。

□実際に行った取引先との受発注
-取引先の営業状況を正確に把握できます。

□取引先の本社、営業所、工場などに出向く
-取引先の経営の実態について情報を得ることができるかもしれません。事前の情報と比較すると経営実態の変化も把握できる可能性があります。

また、支払状況に関する情報は会社の信用力に直結する情報なので
□取引先に対する売掛金支払いの遅れの有無
□支払条件の変更の有無
などの情報もあわせて確認することが望ましいです。

□決算書
決算書は、取引先から毎年提出してもらい入手します。決算書は財務内容を表す資料です。複数年分を比較することで詳細な分析が可能になります。

□登記事項証明書
定期的に新しいものを入手し、

□知らない間に代表者や役員が変更になっていないか(商業登記)

□本店の移転の有無(商業登記)

□不動産の所有権の帰属先(不動産登記)

□担保設定状況の変化(不動産登記)
を確認し、変化があれば状況を確認して対応を検討します。

□信用調査会社の調査
信用調査会社へ依頼するか否かは、依頼する金銭的コストと取引先の業種、規模、取引形態、自社との取引規模、取引期間等とを考慮して決定をすることが望ましいです。
また、調査の方法・タイミングについて、自社内であらかじめ決めておくことを推奨します。

消滅時効

債権を一定期間行使しないと時効によって消滅します(消滅時効)。債権が時効消滅すると、債権の回収ができなくなります。少しずつでも支払がされている債権の場合、利息の支払は元本の承認となり、債務の一部弁済は残債務についての承認となり、時効が更新されるので、直ちに時効によって債権が消滅することはありません。しかし、支払遅滞が生じている債権については、消滅時効を回避するために

□定期的に残高確認書を送り、記名捺印を求める

等の手段を採ることを推奨します。

このような措置は、消滅時効の完成を阻止する以外にも、債権額の確認ができ、また、訴訟の際には取引先がその金額の債務の存在を認めていたという証拠にもなるというメリットがあります。
ただ、取引先に警戒されないために、あくまでも自社の内部監査のためというような名目で取引先に説明するにとどめておくべきでしょう。
(時効の完成猶予・更新事由(四宮和夫「民法総則(9版)」弘文堂460頁参照)

事由
事由終了時まで時効の完成猶予及び確定判決・判決と同一の効力を有する権利の確定により更新
(時効の更新=従前の時効期間の進行が確定的に解消され、新たな時効期間が進行を始めること)
裁判上の請求
支払督促
和解・民事調停・家事調停
破産手続参加等
強制執行・担保権実行等
事由終了時から6か月間の時効の完成猶予(暫定的権利行使の場合) 仮差押え・仮処分
催告時から6か月間の時効の完成猶予 催告
①合意から1年、②合意で定めた協議期間の経過、③協議の続行拒絶通知から6か月、のいずれかまで時効の完成猶予 協議を行う旨の合意
時効の更新 承認
障害の消滅時から3か月間の時効の完成猶予 天災等の事変による権利行使が困難な状況発生の場合

・消滅時効の制度については、次のURLを参照してみてください。改正民法で変わる実務1 ~消滅時効~

手形

手形・小切手はこれを受け取った側に有利になるように制度設計されています。
たとえば、資金不足が原因で6か月以内に手形・小切手が2回不渡りになると、その振出人はその日から2年間銀行取引停止処分を受け、事実上倒産します。また、手形・小切手が不渡りとなっても、裏書人がいれば、その裏書人に遡求することが可能です。さらに、通常の約束手形の場合、支払期日とこれに続く2取引日に支払呈示することになります。通常の小切手の場合は、支払呈示期間は振出の日付から10日間と定められています。

そのため、通常の訴訟より簡易迅速な手形訴訟を利用し支払いを求めることができます。

訴訟について、有効に支払呈示したにもかかわらず、振出人・裏書人が支払ってくれないときには簡易迅速に債権回収が可能な手形訴訟を利用することができます。

そのため、債権回収の観点からは、単に売掛債権を有するより、手形・小切手を発行してもらう方がよい選択といえます。

なお、最近では手形・小切手ではなく、電子記録債権も普及してきています。電子記録債権は、手形債権とは異なる新たな金銭債権です。
電子記録債権は手形・小切手ではありませんが、手形と同様に、取引の安全を確保するための工夫がされています。
事業者は、企業間取引などで発生した債権の支払に関し、パソコンやFAXなどで電子記録をすることで、安全・簡易・迅速に電子記録債権の発生・譲渡等を行うことができます。
詳しくは、https://www.fsa.go.jp/ordinary/densi02.pdf を参照してみてください。


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