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交渉による債権回収【催告と貸倒処理・税務調査の対応】

Q 
支払いが滞っている取引先に対して、書面によって支払いを請求したいと思います。
内容証明郵便について教えて下さい。
また、このタイミングで貸倒処理をすることはできますか?

A
内容証明郵便は、相手に対して心理的な圧力をかけるとともに、郵便の内容について証拠となります。
配達証明をつければ受取人に到達した日時が明確になり、後日の訴訟において有力な証拠となります。
消滅時効の完成が間近であれば、「催告」として6か月間の消滅時効(*)の完成猶予が認められることになり、有益です。内容証明郵便の具体的な方法を説明します。

催告は、債権回収に向けて努力がなされたことを証明する一つの材料になり得ますが、法人税法上の貸倒(読み方:かしだおれ)処理の要件は厳格に規定されています。
どのような場合に貸倒処理をすることができるのか税法上の要件を検討します。

※用語の意味
貸倒とは:貸付金や売掛金が回収できず、損失になること
催告とは:相手方に対して、一定の行為を要求すること(債務者に対して債務の履行を請求するなど)
     


(*)「交渉による債権回収【方法、進め方とは?まず、何をするか?】」 1-(4)消滅時効の確認
内容証明で債権回収!内容証明郵便の書き方と出し方を解説

も参照ください。


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なお、こちらはあくまで一般的なものに限ります。複雑な内容証明を作成予定の方は、こちらよりお問い合わせ下さい。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「交渉による債権回収【催告と貸倒処理・税務調査の対応】」
について、わかりやすくご説明します。

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内容証明郵便

内容証明郵便とは、郵便物の内容と差出し日付を日本郵便株式会社が証明する制度です。

効果

(1)心理的圧力

内容証明郵便は、形式が定められており、特有の利用条件もあるため、見た目が通常の郵便と異なります。
訴訟においては、相手方に提出した文書の内容について、有力な証拠となることから訴訟提起も辞さない意向を有していることが相手に伝わり、心理的圧力を加える効果があるといえます。
電話、手紙、直接訪問等の方法による支払請求をしても相手が応じないような場合は、効果が期待できます。

(2)証拠保全

通常の郵便であれば、差出人の手元には文書が残りませんので、どのような郵便を差出したか否かを第三者に証明することは困難となります。
一方、内容証明郵便であれば、差出した郵便と同一内容の謄本に、いつ差出されたのかを証明する文言が日本郵便株式会社によって記載され、差出人の手元に残ります。
したがって、この謄本によって、いつ、どのような内容の郵便を差出したのかを証明することができます。

(3)配達証明

内容証明郵便に「配達証明」をつけることによって相手へ郵便物が到達したこととその日付けを証明することができます。
法律上、相手への意思表示は到達時点を原則とするため、到達したことを証明する必要があります。
相手方が郵便物など届いてない、知らない、など受取を争った場合に備えて配達証明付きで差出すことで到達を証明できます。

内容証明郵便の形式

(1)用紙

手書きの場合は内容証明郵便専用の用紙を使います。
パソコンなどで作成することもできますが、一枚あたりの字数制限に従い作成しなければなりません。
用紙に特に制限はありませんが、5年間の保存期間があることから、長期保存に適さない感熱紙などは謄本に使えません。

(2)書式

縦書きの場合は一行20字以内、一枚26行以内と定められています。横書きでも作成可能です。句読点も一字として数えます。
行の末尾に句読点や括弧が来る場合は、通常の文章と異なり、次の行の先頭に書きます。
文書の長さに制限はありませんが、内容証明郵便物を差し出す場合の加算料金は一枚当たりの料金が設定されているので、枚数によって料金が上がります。文書以外のもの(図面、返信用封筒等)は同封できません。

利用条件
字数制限
縦書き 1行20字以内、1枚26行以内
横書き1行20字以内、1枚26行以内
1行13字以内、1枚40行以内
1行26字以内、1枚20行以内

(3)使用文字

使用できる文字は下記のとおりです 。
・ 仮名
・ 漢字
・ 数字(算用数字及び漢数字)
・ 英字(固有名詞に限る)
・ 括弧
・ 句読点
・ その他の一般に記号として使用されるもの

(4)文字の数え方

文字は、濁点及び半濁点についても一文字と数えます。記号も一文字として数えます。
ただし、括弧は上下一組で一文字とします。上括弧の属する文字の行の字数に算入します。
文字や数字を丸や四角で囲んだものは枠を1文字と数えます。
ただし、文中の序列を示す文字として使用されている場合は全体として1文字として数えます。 

字数
1文字
2文字
平日(火曜日以外。)9文字
2文字
(1)郵便物4文字

(5)訂正・契印

訂正・挿入・削除がある場合は、訂正等が読みうるように元の字体を残し、余白に字数、箇所を記載し、差出人の印を押印します。
文書が2枚以上にわたる場合は、綴り目に契印を押します。
契印とは、文書の抜き取りや差し替えを防ぐために押印されるものです。
謄本のつづり目に押印する印章は、差出人の印章に限られます。
ただし、差出人が1名のみの場合(複数でない場合)は、差出人の印章に代えて、「契印」等つづり目を明確に示すことができる印章を用いることが認められています。

(6)住所氏名

郵便物の差出人及び受取人の住所氏名を文書の末尾余白に付記します。
ただし、その住所氏名が内容文書に記載されたものと同一であるときは、原則として、その記載を省略することができます。

(7)作成例

内容証明郵便による催告の例: 横書き20字、26行

請求書

前略 当社が貴社に対し、令和〇年〇月〇日
から令和〇年〇月〇日までの間に販売した商
品代金〇,〇〇〇,〇〇〇円につきましては
令和〇年〇月〇日限り、お支払い頂くこと
になっておりました。
しかし、当社が再三に渡り支払いをお願い
したにもかかわらず、本日に至るまで、貴社
からはお支払いいただいておりません。
つきましては、上記金〇,〇〇〇,〇〇〇
円を本催告到達後7日以内に、下記銀行口
座に振込んでお支払い頂くよう催告致しま
す。
上記期限までにお支払いがない場合には、
当社は貴社に対し、法的措置を採らざるを得
ないことを申し添えます。
草々


(振込先)
〇〇銀行〇支店 普通預金
口座番号 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義 〇〇株式会社

令和〇年〇月〇日


----------------------改ページ---------------------


〒〇〇〇―〇〇〇〇
東京都千代田区〇〇
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇印

〒〇〇〇―〇〇〇〇
東京都千代田区〇〇
株式会社〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇殿
 内容証明自動作成サービス 
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差出し方法

(1)準備するもの

内容証明郵便は全ての郵便局で取扱いがあるとは限らないため、取扱いのある郵便局であることを確認して、差出します。
上記のとおり作成した文書を3通作成し、それぞれ押印します。
3通の用途は下記の通りです。

用途
受取人に送付用(1通) ・ 受取人に送付されます。
郵便局保管用(1通) ・ 郵便局において保存されます。差出人は、差出日から5年以内に限り、謄本を閲覧することを請求できます。
差出人の手元保存用(1通) ・ 差出日から5年以内であれば、差出謄本を郵便局に提出することにより再度証明を受けることができます。


上記に加え、送付用の封筒、郵便料金、不備があった場合は訂正印が必要となるので印鑑、を準備します。

(2)手続き

郵便局窓口で差出す際、郵便局員が文書の内容を確認し、

「この郵便物は令和〇年〇月〇日第〇〇号書留内容証明郵便物として差し出したことを証明します。日本郵便株式会社」

というスタンプを押し、受け付けた日時のスタンプを押します。
内容証明郵便は、「一般書留」で送付します。「書留郵便物受領証」の用紙に差出人住所氏名、受取人の氏名を記入し、窓口に提出します。スタンプ済のものを受け取り、保管します。
配達されたこと及びその日付を証明できるようにするためには、「配達証明付き」で差出すことが必要です。
後日、受取人の氏名・書留の引受番号・届けた郵便局、日付の入った印が押されたはがきが差出人に届きます。証拠書面となるため、争いに備えて保管しましょう 。

(3)料金(令和3年8月1日現在)

内容証明郵便は、通常の郵便料金に加えて、文書1枚ごとに内容証明郵便加算料金が設定されています。
1枚目は440円、2枚目以降は260円づつ加算されます。
さらに、一般書留料金(435円から)が発生し、
配達証明を希望する場合は配達証明料金(320円)が発生します。

(例)謄本が2枚の定形郵便を内容証明郵便として配達証明付きで送付する場合:
郵便料金(84円)+ 内容証明加算料金(440円+260円)+ 一般書留料金(435円)+ 配達証明加算料金(320円)= 1539円

(4)まとめ

差出し手続が終了し、無事、内容証明郵便が受取人に受領されたのであれば、下記書類が手元に残ります。
訴訟に備えて有力な証拠となるため、紛失しないよう保管しましょう 。

  • 内容証明郵便文書(差出人の手元保存用)1通
  • 書留郵便物受領証
  • 配達証明書

電子内容証明郵便(「e内容証明」)

インターネットを通じて内容証明郵便を差出すことも可能です。
ワードで作成した文書を日本郵便株式会社の専用ウェブサイトにアップロードすると、内容証明文書を日本郵便において印刷・照合・封入封かんし、内容証明郵便として発送されます。
受取人には文書の正本が一般書留で配達され、差出人宛てに謄本が送付されるしくみです。
差出しの時点は、「差出」のボタンを押した時点の日付となります。
電子内容証明郵便として定められた書式を利用しなければならない、予め利用者の登録が必要となるなど一定の制約はありますが、24時間いつでも差出し可能、封筒や用紙の準備が不用、郵便局に出向く手間がない、などのメリットがあります。

内容証明郵便が届かなかった場合

内容証明郵便は債務者に対する確実な連絡方法として利用されていますが、届かない場合もあります。
その理由としては、受取人が不在である、受取人が受取を拒絶している、配達されなかった場合等が考えられます。 

(1)受取人不在

受取人が不在である場合は、不在配達通知書が届けられ、留置期間中に受領が試みられます。
留置期間(原則として七日間)を経過すると郵便物は差出人に返還されます。
ただし、留置期間中であれば差出人から再配達を依頼することもできます。

(2)受取拒絶

受取人は郵便の受取を拒絶することができます。
内容証明郵便は一般書留で配達されるため郵便受けに投函されることはなく、受取人のサインまたは押印によって受取の確認がなければ配達されることはありません。
受取人が在宅であってもサイン押印を拒否することによって受取を拒絶している場合は配達されず、郵便物は差出人に返還されます。
この場合には、「受取拒否」という理由が付記され、返還されます。

(3)その他の理由で配達されなかった場合

住所に誤りがある場合又は受取人が届出なしに転居しているような場合は配達されず差出人に返還されます。この場合には、「あて所に尋ねあらず」または「転居先不明」という理由になります。こうした場合は、所在不明の証拠書類になり、後述する公示送達のための必要書類になり得るため、返還物を保管しておきましょう。

郵便が届かなかった場合の対処

(1)民法上の原則

内容証明郵便を使う主な理由は、相手方から「支払い請求を受けてない」「どの債権についての請求であるのかわからなかった」などの言い逃れを封じる点にあります。内容証明郵便であれば、文書の内容において債権を特定し支払を請求すれば、内容を含めて相手に請求した事実が証明できるため、強力な証拠となり得るのです。
民法上、意思表示は相手に到達した時点ではじめて効力を生じるとすることが原則であるため(民法97条1項)、催告を単に発信しただけでは足りず、相手に到達することが必要です。
「到達」といえるためには、相手が実際に意思表示を了知することまでは要求されておらず、了知可能性があればよいとされています。
具体的には、相手方の勢力範囲内に置かれること、例えば郵便受箱への投函でも足りるとされています 。

内容証明郵便は郵便受箱に投函されず受取人の受領を要するため、受取拒絶されると「到達」したといえるかが問題となります。
判例は、内容証明郵便に意思表示が含まれていることが十分に推知することができ、かつ、内容証明郵便を容易に受領することができた場合は遅くとも留置期間が満了した時点で到達したといえる、としています。
また、改正民法は「正当な理由なく」「到達することを妨げたとき」は到達すべきときに到達したとみなす、と規定しています(97条2項)。
したがって、判例のように債務者が言い逃れのために内容証明郵便の受取を拒絶している場合は、留置期間の満了をもって「到達」したと認められる可能性が高いといえます。

(2)公示送達

受取人が受領拒絶をしているのではなく、宛先の住所に所在していないため郵便物が届かなかった場合には代替の送達方法が必要となります。
公示送達とは、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が不明である場合など、書類を実際に到達させることが不可能な場合に、一定の公示手続を執り、公示後一定期間が経過したときは、送達の効力が生ずることとする制度〈民事訴訟法110条〉です 。
公示送達の流れとしては、まず、裁判所HPに記載されている公示送達に必要な書類を取寄せ、債務者の最後の住所を現実に調査して、調査報告書を作成します。その後、受取人の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に対して、意思表示の公示を申立てることになります。その際には、戻ってきた郵便物も裁判所に提出することとなります。
そうすると、 裁判所は、公示送達の要件(※)を審査し、要件を満たすと判断した場合には、裁判所の掲示板に文書を一定期間掲示し、併せて、官報に掲載するまたは市役所などの掲示板に掲示します。
2週間の掲示期間が経過した後に意思表示の到達が擬制されます。
申立ての際には住所、居所その他送達すべき場所が知れない場合であることを主張しなければなりませんが、受取人への郵便が「あて所に尋ねあらず」「転居先不明」として返還された場合は、これを証明する証拠となり得ます。
実務においては、申立てから意思表示の擬制まで3週間から1か月程度かかるため留意が必要です。

※公示送達の要件

以下のいずれかに該当することが公示送達の要件とされています。

①当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合(民事訴訟法110条1項1号)

②第107条第1 項の規定により送達をすることができない場合(同条項2号)

③外国においてすべき送達について、第108条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合 (同条項3号)

④第108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合(同条項4号)

貸倒処理の要件

内容証明郵便により債務者に催告することは、債権回収に向けて努力していることを示す行為の一つであるといえます。しかし、この段階で債権について貸倒損失として貸倒処理が認められることは多くありません。貸倒損失を計上できるのは債権が回収不能と認められる場合であり、法人税基本通達(以下「法基通」と略する。)に記載されている場合に限られます。
貸倒損失計上の要件は、法人税基本通達において下記の通り規定されています。

① 金銭債権が切り捨てられた場合(法基通9-6-1)→ 法律上の貸倒れ

② 金銭債権の全額が回収不能となった場合(法基通9-6-2)→ 事実上の貸倒

③ 売掛債権の特例: 一定期間取引停止後弁済がない場合等(法基通9-6-3)

①の場合は法律上の貸倒れとされるものであり(※)、債務者に支払いの催告をした段階では、通常該当していることはないと思われるため、以下では、②③の場合のみを詳細にみます。
※ 法律上の貸倒(金銭債権の切り捨て)

次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます。

(1) 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額

(2) 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額

(3) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

金銭債権の全額が回収不能となった場合

(1)要件

全額が回収不能とは、「債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」とされています。
「債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。」とされています 。

下記の通り、担保と保証については留意点があります。

(1)担保 ・ 法基通9-6-2においては、「当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。」とあるため、担保が存在する場合にはまず担保となっている物を処分して回収を試みなければなりません。

・ なお、国税庁の質疑応答事例においては 、担保物に上位抵当権者が存在する場合などにおいて、担保物の適正な評価額からみて、劣後抵当権は名目的なものであり、実質的に担保されていないことが明らかな場合は、担保がないものと取り扱って差し支えないとされています。 → 例えば、債権者は債務者の不動産に抵当権を設定しているものの抵当順位は低く、上位抵当権者が不動産の評価額に比して多額の抵当権を設定しており、仮に不動産を処分しても配当が得られる可能性のないような名目的な担保権の場合が該当します。劣後抵当権が名目的なものであり、実質的に債権の全額が回収不能と判断される場合には、担保の処分を待たずに貸倒処理をすることが認められる場合もあります。
(2)保証 ・ 保証については、「保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する」とあるため、保証人が存在する場合にはまず保証人に履行請求し、弁済が得られない場合においてはじめて全額回収ができないことが明らかになったといえることになります 。
→ ただし、保証人が生活保護と同程度の収入しかなく、差押禁止財産しか有しない場合は履行請求をせずとも実質的には保証人から回収できないとして扱われた例もあります 。

・ 連帯保証人が存在する場合は、債務の返済において連帯保証人は債務者と同等の立場の者であると解されるため、その者の資産状況、支払能力も併せて債務者側の事情として回収の可能性を検討しなければなりません。

要件に該当する場合は、債権の全額の回収ができないことが明らかになった事業年度に損金計上することができます。

売掛債権の特例

法人税基本通達9-6-3においては、二つの場合において貸倒処理が認められています。
期間の経過、又は回収額と取立費用の費用対効果に着目して判断をする規定となっています。

(1)期間の経過で判断 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したためその債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時のうち最も遅い時から1年以上経過したとき
(2)費用対効果で判断 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

いずれかに該当する事実がある場合は、貸倒処理が認められることになります。該当事実が発生した事業年度に売掛債権の額から備忘価額(通常は1円とする)を控除した残額を貸倒として損金経理をすることができます。

参考:法人税基本通達

第6節 貸倒損失
第1款 金銭債権の貸倒れ
(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)

9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)
(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
(回収不能の金銭債権の貸倒れ)

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」により改正)
(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。
(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)

9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46年直審(法)20「6」、昭55年直法2-15「十五」により改正)
(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

税務調査の準備

貸倒処理をして損失計上することで課税所得を減らすことができることになるため、恣意的な計上は排除されなければなりません。
貸倒れの要件は厳格に設けられており、損失計上をした場合には税務調査において確認されることになります。
税務調査に対応するためには、通達に定められた要件を満たしているか客観的な証拠書類を準備しておかなければなりません。
特に留意すべき点は下記です。

(1)経理処理

貸倒損失として税務上損金算 入するためには、損金経理をしたことが前提となっています。
したがって、経理処理を忘れず行います。

(2)日付の記録

回収不能となった日付、取引停止の日付、など具体的事実がいつ生じたのかについて客観的に分る経理記録を残します。

・ 債権の全額が回収不可能となることが明らかになった日(法基通9-6-2)

・ 取引停止の時(又は最後の弁済の日)から1年以上経過したときの1年以上を示す日(法基通9-6-3)

いつ損金経理を行い、いつの事業年度の損金経理が正しいのか、という観点から税務調査はなされます。
当該事由が発生した事業年度においてのみ損金処理が認められるため、失念したからといって翌事業年度に処理することは認められませんので注意が必要です。

(3)備忘価額の計上

売掛債権の特例(法基通9-6-3)の処理においては、備忘価額を残して経理処理をします。
備忘価額は通常1円です。

(4)要件の確認

通達に規定されている要件に該当しているか、いまいちど確認しましょう 。
事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)については、貸倒損失の処理が安易であり、回収努力を行っていないと判断されると、法人税法上、債権の放棄であると扱われ、債務者に対する寄付または贈与とみなされることになり課税対象となる可能性がありますので注意してください。

まとめ

内容証明郵便で催告をしたら、次は債権回収に向けて債務者との交渉が始まります。
この時点で貸倒処理が認められることは多くなく、法人税基本通達の要件に該当するか慎重に債権の回収状況を見極めなければなりません。

該当すると判断し、貸倒処理がなされた場合には、税務調査に対応するために十分に客観的資料を準備することが重要です。


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