澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「プラットフォームとキャッシュレス決済3~割賦販売法~」
について、詳しくご解説します。
はじめに
後払いや立替払い型の決済サービス、クレジットカードに関する決済サービスなどを提供する場合は、割賦販売法の適用を検討する必要があります。割賦販売法は、割賦販売、ローン提携販売、信用購入あっせん、前払式特定取引を規制対象としています。
クレジットカード決済において特に問題となるのは、信用購入あっせんの類型です。
割賦販売法における信用購入あっせんの概要
信用購入あっせんの定義
割賦販売法では、信用購入あっせんとして2種類を定義しています。
①包括信用購入あっせんと②個別信用購入あっせんです。
【包括信用購入あっせん】
包括信用購入あっせんとは、次のものをいいます。
- 特定の販売業者やサービス提供事業者から、有償で商品・サービスの提供を受けることができるカードなどが交付され、
- そのカードなどを提示し、または通知して、またはそれと引き換えに、商品・サービスの提供が行われたときは、
・事業者から販売業者やサービス提供事業者に、商品代金やサービスの対価に相当する額が交付されるとともに、
・利用者からあらかじめ定められた時期までに代金または対価に相当する額が支払われるもの(割賦販売法2条3項)
いわゆるクレジットカードの発行は、包括信用購入あっせんに該当します。また、クレジットカードなどの有体物を交付しない場合でも、会員ごとに付与され、会員の与信資格を証明するために使われる番号や記号(例えばID番号やパスワードなど)が発行されるものは包括信用購入あっせんに該当する可能性があります。
【個別信用購入あっせん】
一方、個別信用購入あっせんとは、次のものをいいます。
- カードなどを利用することなく、
- 商品の販売やサービスの提供を条件として、事業者から販売業者やサービス提供事業者に、
・商品代金やサービスの対価に相当する額が交付されるとともに、
・利用者からあらかじめ定められた時期までに代金または対価に相当する額が支払われるもの(割賦販売法2条4項)
クレジットカードなどを利用することなく、個別の商品やサービスの購入ごとに与信が行われるものは、個別信用購入あっせんに該当する可能性があります。
包括信用購入あっせんと個別信用購入あっせんはともに、いわゆるマンスリークリアを規制の対象外としています。
マンスリークリアとは、利用者が販売業者やサービス提供事業者との間で商品やサービスの提供を受ける契約を締結してから2カ月を超えない範囲内で、与信を行った事業者と利用者との清算が完了するものをいいます。
信用購入あっせん業者の登録要件
サービス提供事業者が包括信用購入あっせんや個別信用購入あっせんを行うときは、経済産業局に備える包括信用購入あっせん業者登録簿や個別信用購入あっせん業者登録簿にあらかじめ登録しなければなりません(割賦販売法31条、35条の3の23)。
いずれも法人である必要があります(割賦販売法33条の2第1項1号)。
割賦販売法は、財産的要件について次のように定めています。
・資本金または出資の最低額:2000万円(割賦販売法33条の2第1項2号)
・純資産額:資本金または出資額の90%以上(割賦販売法33条の2第1項3号)
●個別信用購入あっせん事業者
・最低純資産額:5000万円(割賦販売法35条の3の26第1項2号)
行為規制について
調査・書面交付義務があります
割賦販売法は、包括信用購入あっせん事業者や個別信用購入あっせん事業者に対して、以下を義務づけています。
②包括支払可能見込額を調査し、その見込額を超える場合にはカードの交付などを禁止する
③契約締結時や支払請求時に書面を交付する
加えて、契約の解除などに関する制限や、契約の解除などに伴う損害賠償などの額に関する制限を定めており、利用者があっせん事業者に対抗できるよう規定を設けています。
あっせん事業者に対しては、情報の適正な取り扱いに加えて、第三者に委託する場合の業務の的確な遂行、利用者からの苦情を適切かつ迅速に処理するために必要な措置を講じることなどを義務づけています(割賦販売法30条〜30条の5の2、35条の3の2〜35条の3の20)。
営業保証金の供託が義務付けられています
登録済みの包括信用購入あっせん業者は、主たる営業所につき10万円、その他の営業所につき5万円の営業保証金を、営業を開始する際と営業所を増設する際に供託しなければなりません(割賦販売法35条の3、16〜18条)。
包括信用購入あっせんに関する契約を締結した販売業者などには、供託した営業保証金について優先弁済権(他の債権者に先駆けて弁済を受けられる権利)を与えられます。個別信用購入あっせんについては、営業保証金に関する規定を設けていません。
クレジットカード番号等の適切な管理をしなければなりません
アクワイアラ(加盟店=カード利用できる店舗を獲得する業務を行っているクレジットカード会社などの金融会社)や決済代行サービス事業者など、クレジットカード番号などの取扱いを認める契約を締結する事業者は、クレジットカード番号について適切に管理する必要があります(割賦販売法35条の16)。
また、加盟店である販売店やサービス提供者についても、かかる規制の適用を受けることになる点で留意が必要です。
信用購入あっせん業者に対する監督がされます
経済産業局長は信用購入あっせん業者に対して、改善命令、カードの交付などの禁止、登録の取消を行う権限を有しています(割賦販売法33条の5、34条、34条の2、35条の3の31〜32条)。
割賦販売法の法改正(2018年6月1日施行)
改正の背景
割賦販売法は、2018年6月1日施行の法改正により、クレジットカード取引に関する規制をより強化しました。
近年の、クレジットカードを取り扱う加盟店におけるクレジット番号等の漏えい事件や不正使用被害を踏まえて、安全・安心・クレジットカード利用環境を実現するための改正となっています。
主な改正内容(クレジットカード番号等取扱契約締結事業者の登録など)
①加盟店にセキュリティ対策義務が課されます
クレジット取引セキュリティ対策協議会において策定された「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」に掲げられた措置又はこれと同等以上の措置を講じている場合には、「必要かつ適切な措置」が講じているものと認められます。
では、実行計画ではどのようなことが求められているのでしょうか。
■クレジットカード番号等の適切な管理(改正法第35条の16)
カード情報保護対策
・加盟店におけるカード情報の「非保持化」
・カード情報を保持する事業者のPCIDSS準拠(国際ブランドが共同で策定したカード情報に関するセキュリティ規格)
■クレジットカード番号等の不正利用の防止(改正法第35条の17の15)
偽造カードによる不正利用対策
・決済端末の「100%IC対応」の実現
ネット取引等における不正利用対策
・リスクに応じた多面的・重層的な不正使用対策の導入(パスワードによる本人認証、属性・行動分析等)
②「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」が新設されました
●カード会社(アクワイアラー)
・アクワイアラーとして加盟店契約業務を行う場合には、本制度での登録が必要です。
・外国法人が日本国内で業務を行う場合には、国内営業所の登録が必要です。
●決済代行業者(PSP:Payment Service Provider)について
・決済代行業者が加盟店との契約締結について、アクワイアラーから包括的に授権され、実質的な最終決定権限を有し、加盟店管理を行う場合には、本制度における登録が必要です。
・決済代行業者の業務が一次審査を行うにとどまり、最終決定権限はアクワイアラーが留保している(登録アクワイアラーの下で加盟店管理業務の一部を行う)場合には、本制度の登録は不要です。
※クレジットカード番号等取扱契約締結事業者とは、販売業者に対してクレジットカード番号等を取扱うことを認める契約(加盟店契約)を締結することを業とする事業者をいいます。
③「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」に加盟店調査義務が課されます
■初期審査(加盟店契約時)
・加盟店の所在地・代表者、商材・役務内容、販売方法等
・セキュリティ対策(クレジットカード番号等の適切な管理及び不正利用の防止)の実施内容
■途上審査(加盟店契約締結後)
・セキュリティ対策の実施状況(情報漏えい、不正使用の発生状況等)
・悪質取引の有無(消費者トラブルの発生状況等)。
■加盟店調査の結果に基づく必要な措置
・法令で定める基準に適合しない加盟店に対する必要な措置
例えば
◇合理的な期間内に基準に適合するよう指導すること
◇指導に従わないとき又は適合することが見込まれない場合、加盟店契約を解除すること
●業務改善命令、登録の取消し
・クレジットカード番号等取扱契約締結事業者がこの義務を履行していないと認められるとき、経済産業大臣は当該事業者に対し業務改善命令や登録の取消しを行うことができます。
改正の詳細
割賦販売法の法改正の詳細については、経済産業省のホームページをご覧ください。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/consumer/credit/11kappuhanbaihou.html
※経済産業省のホームページには割賦販売法に基づく登録申請に必要な書類の一覧や事務チェックシートなども掲載されていますので、ご覧いただくと参考になるかと思います。
関連記事
プラットフォームとキャッシュレス決済1~クレジットカード決済~
プラットフォームとキャッシュレス決済2~電子マネーと資金決済法~
プラットフォームビジネスのよくある法務トラブルとは?
直法律事務所では、プラットフォーム、クラウド、SaaSビジネスについて、ビジネスモデルが適法なのか(法規制に抵触しないか)迅速に審査の上、アドバイスいたします。
ご面談でのアドバイスは当事務所のクライアントからのご紹介の場合には無料となっておりますが、別途レポート(有料)をご希望の場合は面談時にお見積り致します。