澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「PFI契約におけるリスク分担とは?法的基礎・実務ルール・契約条項のポイントを解説」
について、詳しくご説明します。
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PFIにおける事業契約とリスク分担の意義
PFI事業における事業契約の基本構造
PFI(Private Finance Initiative)事業は、公共施設の整備・運営等に民間の資金やノウハウを活用することで、公共サービスの質的向上と効率化を図るスキームです。この枠組みにおいて、公共と民間との間で締結される「事業契約」は、プロジェクトの根幹をなす法的基盤であり、複数年にわたる長期契約となるのが通常です。
PFI事業では、単なる建設工事の請負契約や維持管理の委託契約にとどまらず、設計、施工、工事監理、施設の維持管理、さらには運営に至るまでを一体的に担うという特徴があります。これらの複数の業務を包括的に規定するのがPFIにおける「事業契約」であり、その性質上、契約には多岐にわたる義務と権利が盛り込まれます。
また、PFIでは、民間事業者が資金を調達し、事業を遂行することが前提となるため、資金調達機関(金融機関等)や出資者(スポンサー)、保険会社など、多数の関係当事者が関与します。
したがって、事業契約の構造には、こうした利害関係者間の関係調整の視点も不可欠です。
事業契約とリスク分担の関係性
PFI事業では、長期にわたり多様な工程が発生するため、事業の過程で様々なリスクが生じる可能性があります。
たとえば、設計・施工段階における予期せぬ地盤条件、運営段階における利用者数の減少、天災や法令変更といった外的要因などが典型です。これらのリスクが現実化した場合に、どちらの当事者(公共または民間)がその影響を負担するのかについて、あらかじめ事業契約上で定めておくことが、円滑な事業遂行と紛争防止の観点から極めて重要です。
この「リスク分担」の仕組みは、PFI事業の安定運営を実現する鍵とも言えるものであり、事業契約における核心的要素です。
実務においては、原則として「リスクを最も適切に管理・制御できる当事者がリスクを負担すべきである」という考え方(いわゆる「リスク分担の原則」)に基づき、個別のリスクごとに負担主体を明確にすることが推奨されています。
この考え方を踏まえ、事業契約ではリスクの類型ごとに条項を設け、具体的な分担方法が詳細に規定されるのが通例です。
契約における役割分担の明確化とその法的根拠(PFI法第14条の意義)
PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)第14条第1項では、選定された事業は基本方針および実施方針に基づき、事業契約に従って事業を実施しなければならないと規定されています。すなわち、PFI事業においては、単に契約の一部に従えばよいというものではなく、事業全体が契約によって規律されるという前提が法律上明文化されています。
また、同条第3項では、選定事業者が国や地方公共団体の出資法人である場合、責任の所在が不明確とならないように、公共側と選定事業者の任務や責任の分担について、事業契約において明確に定める必要がある旨が示されています。この点も、リスク分担の実効性を高めるうえでの法的根拠として重要です。
つまり、PFI法第14条は、事業契約を通じて役割分担とリスク分担を明確にする必要性を法的に裏付けるものであり、契約実務における設計の根拠条文となります。特に、公共施設の所有権や維持管理責任の所在が錯綜しがちなPFI事業においては、このような法的規定が役割の明確化と責任の明示に資する点で重要な意味を持ちます。
リスク分担の基本原則と民法上の位置づけ
リスク分担の必要性と民法の原則
PFI事業は、10年〜30年に及ぶ長期プロジェクトであり、設計・建設から運営・維持管理まで幅広い業務を含む複合的な事業形態をとります。その過程においては、天災、法令変更、需要の変動、地盤や土壌の問題など、想定外の事象が多く発生しうるため、関係者間でこれらのリスクをどのように分担するかが重要な論点となります。
こうしたリスク分担にあたっての出発点は、民法における契約の基本原則です。
たとえば、建設業務は請負契約に分類され、民法第633条により「仕事の完成」と「その引渡し」をもって報酬が支払われるのが原則です。つまり、従前は、たとえ不可抗力によって完成できなかった場合でも、請負人は原則として報酬を受け取ることができません。
ただし、改正民法(令和2年施行)では、天災など不可抗力によって仕事の完成が不能になった場合でも、注文者が完成済みの成果物から利益を得ているときは、その部分に応じて報酬請求が可能である旨(民法634条)が明文化されました。この点は、リスクの一部を注文者が負担するという考え方につながり、PFI事業の契約設計にも影響を与えています。
民法の修正と公共契約における実務対応(公共工事標準請負契約約款との関係)
建設工事等の分野では、民法の原則のみでは業界実務にそぐわないとされ、中央建設業審議会が策定した「公共工事標準請負契約約款」によって補完されています。この約款では、不可抗力による損害のうち、請負代金額の100分の1までは請負人が負担し、それを超える部分は発注者が負担するというルールが採用されています。
この「100分の1ルール」は、建設業界全体で広く受け入れられており、PFI事業における事業契約でも、整備段階や運営段階で同様のルールが適用されることが多くなっています。すなわち、民間事業者が最小限のリスクを負担しつつ、それを超える異常事態については公共が支えるという合理的な分担構造です。
このように、PFIにおけるリスク分担設計は、従来型の民法や公共事業の実務ルールをベースにしつつ、事業の特性に応じた修正が加えられています。
PFI特有のリスク分担構造(従来型公共事業との違い)
従来の公共事業では、設計・建設・運営・維持管理がそれぞれ別個に発注され、契約も分離されていました。したがって、各契約の範囲内で生じたリスクは、基本的にその業務を担う事業者が単独で負担することが多かったといえます。
これに対して、PFIでは、事業全体を一括して民間事業者に委ねる点に特徴があります。契約当事者が1社またはSPC(特別目的会社)となるため、リスクもその民間側に一括して集中しがちです。
しかし、SPC自体はリスクを直接的に吸収する能力が限定されることが多く、実際には出資者、請負人、下請事業者、融資銀行、保険会社などにリスクが再配分(パススルー)される必要があります。
このような仕組みのもとでは、従来型よりも綿密なリスク分析と契約条項の設計が必要とされます。リスク分担は、「リスクを最も管理できる主体に負担させる」という原則に従いながら、プロジェクト・ファイナンスを前提とする構造との整合性も求められるため、契約実務の複雑性は高いと言えます。
澤田直彦
PFIにおけるリスク分担は、単なる契約条項上の合意事項ではなく、プロジェクト全体の安定運営と金融スキームの成立を左右する重要要素です。
民法の原則、従来型の実務対応、PFI特有の契約構造という三層構造を踏まえたうえで、合理的かつ柔軟なリスク配分を構築することが、成功するPFIの前提となるのです。
リスク分担の具体的類型と対応(リスク分担各論)
PFI事業におけるリスク分担は、契約当事者間の公平性と予見可能性を確保するために、リスクの内容ごとに詳細に設計される必要があります。
本章では、PFI事業における代表的なリスクの類型と、それぞれのリスクに対する実務上の分担の在り方について解説します。
不可抗力リスク
(1)不可抗力の定義と範囲
不可抗力とは、「契約当事者双方の行為とは無関係に外部から生じ、通常必要とされる注意や予防措置を講じてもなお回避不可能な障害」をいいます。自然災害(地震・洪水・台風・落雷など)や人為災害(戦争・テロ・暴動・ストライキなど)が代表的です。
PFI契約では、不可抗力の範囲を具体的に列挙して定義しておくことが一般的です。定義が不明確であると、発生した事象が不可抗力に該当するか否かで紛争が生じるおそれがあります。
澤田直彦
弊所では、このようなリスク分配が適切になされているか否かを契約書レビューする機会が多いです。
(2)不可抗力による増加費用・損害の内容
不可抗力により発生する費用・損害には、以下のようなものが含まれます。
▸ 運営段階 : 施設の損壊による営業停止、来館者数の減少による収入減、復旧のための追加費用など
これらの損害は、通常、保険によって一定程度カバーされる一方、保険適用外の損害も存在するため、契約における分担の明確化が不可欠です。
(3)リスク分担の実務ルール(100分の1ルール)
多くのPFI契約では、以下のようなルールに基づいてリスクを分担します。
▸ 運営 ・ 維持管理段階 : 同様に、当該年度の維持管理費または運営費の100分の1までを事業者が負担し、超過部分は公共負担。
このルールは、公共工事標準請負契約約款に基づいた考え方で、PFIでも広く踏襲されています。
土地・地盤等の瑕疵リスク
事業契約締結前には発覚しなかった地中障害物や土壌汚染、湧水、埋蔵文化財の存在などは、施設整備に重大な影響を及ぼすリスクです。
このような瑕疵は、公共側が提供する情報に基づいて民間事業者が入札価格を設定することから、民間側が管理・予見できる範囲を超えている場合が多く、原則として公共側がそのリスクを負担すべきとされています。
ただし、民間事業者が明らかに調査を怠っていた場合などは、過失の有無を踏まえて分担が調整されることもあります。
不可抗力による契約解除リスク
天災や長期にわたる社会的混乱等により、PFI事業の継続が困難となる場合、契約を解除せざるを得ないケースもあります。
(1)整備段階における解除
解除時点で完成していた施設部分(出来形)について、公共側が検査・引渡しを受けた上で、相当額のサービス対価または買取価格を支払うスキームが多く採用されています。
損害額については、整備費の100分の1までは事業者負担とされ、それを超える部分を公共が負担する例が多数です。
(2)運営段階における解除
維持管理・運営業務が継続困難となった場合には、それまでに実施した業務分のサービス対価を支払った上で、損害の一部(原則として100分の1以内)を事業者が、超過分を公共が負担するケースが多くなっています。
独立採算型事業と不可抗力
一部のPFI事業では、事業者が利用者からの料金収入を唯一の収益源とする「独立採算型」のスキームが採用されています。
この場合、サービス対価の支払いがないため、不可抗力による損害も全額事業者負担とされるケースが多い傾向にあります。もっとも、同じ独立採算型であっても、一部の事業では100分の1ルールに基づいて公共が負担する例も存在します。
したがって、事業の性質や規模、公共性の程度に応じて、個別にリスク分担スキームを検討する必要があります。
新型コロナウイルスとリスク分担の課題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、多くのPFI事業が影響を受けました。
感染症自体は不可抗力に該当するものの、各種影響(来客減少・営業中断等)が債務者の「履行不能」に該当するかは契約文言や解釈により異なります。
また、国や自治体からの「営業自粛要請」や「休業指導」が「法令変更等」に該当するか否かも議論の対象となります。たとえば、行政指導指針や計画変更が伴う場合には、契約上の法令変更として整理され、公共負担が発生しうるケースもあります。
澤田直彦
PFI事業におけるリスク分担は、単なる理論的枠組みにとどまらず、個別の事象ごとに具体的な設計が求められます。
不可抗力、瑕疵、契約解除、独立採算、感染症など多様なリスクを想定し、「誰が最も適切にリスクを管理できるか」という原則に則って、契約条項を構築することがPFI成功の鍵となります。
PFIにおけるリスクの再配分構造とプロジェクト・ファイナンス
PFI事業は、単なる契約関係の枠を超え、金融スキームとの一体運用を前提とした高度に制度化された公共民間連携(PPP)モデルです。
本章では、PFI事業におけるリスクの再配分(リスク・パススルー)の仕組みと、それを支えるプロジェクト・ファイナンスの構造について解説します。
SPCとその法的特徴
多くのPFI事業では、民間事業者が事業専用の特別目的会社(SPC : Special Purpose Company)を設立し、事業契約の当事者となります。
SPCは、PFI事業の遂行のみを目的として設立される法人であり、それ以外の資産や事業を持たず、事業完了後には清算されることを前提としています。
このようなSPCは、以下のような法的・実務的特徴を持ちます。
- 有限責任性 : 出資者(スポンサー)は出資額の範囲で責任を負う。
- 資産隔離性 : プロジェクト関連資産はSPCに帰属し、他の事業体との混在がない。
- 担保対象性 : SPCの保有する権利(事業契約上の地位 ・ 資産等)は融資の担保対象となる。
このような構造は、資金調達の透明性と債権者保護を両立させるために不可欠な枠組みです。
リスク分担の再配分(パススルー)
PFI契約において、「SPCが負担する」とされているリスクの多くは、実質的にはSPC単独での負担が困難であり、そのリスクは以下の関係者に再配分されます。
【リスクの再配分先とその関与形態】
関係者 | 主な関与内容 | 再配分されるリスク例 |
---|---|---|
スポンサー | SPCへの出資 、 取締役派遣 、 保証契約など | 初期設計 ・ 施工リスク 、 オペレーション失敗リスク |
設計 ・ 施工業者 | SPCとの請負契約により施設整備を担当 | 工期遅延 、 設計不具合による損害 、 原価超過リスクなど |
運営事業者 | SPCからの委託により運営 ・ 維持管理を担当 | サービス水準未達成 、 需要変動 、 運営停止リスクなど |
金融機関 | SPCに対するプロジェクト ・ ファイナンスの提供 | 債務不履行 ・ 契約終了時の残債処理リスク(L/Cなどで限定) |
保険会社 | リスクヘッジのための各種保険(建設保険 、 損害保険など)を提供 | 不可抗力リスク 、 災害による物的損害リスクなど |
このように、表面的には「SPCがリスクを負う」とされる契約構造であっても、実質的にはSPCの関係者間で、契約を通じてリスクが「パススルー」される構造となっているのがPFIの特徴です。
プロジェクト・ファイナンスの仕組みと契約関係
PFI事業の資金調達には、プロジェクト・ファイナンスが多く用いられます。これは、SPCが将来に得るキャッシュフロー(例:サービス対価や利用料)を返済原資とし、SPC自身が担保提供主体となって金融機関から資金を調達する方式です。
この仕組みにおいては、リスクの所在が資金調達可否に直結するため、各契約において「どのリスクを誰が負担するか」を厳密に整理する必要があります。
たとえば、不可抗力リスクに対して保険の手当てがあるか、運営失敗時に公共からの最低保証があるか等が、ファイナンスの成立に大きく影響します。
「リスクを最もよく管理できる者が負担する」原則の再確認
PFI契約実務においては、内閣府の「リスクガイドライン」でも明示されているとおり、リスクは「最もよく管理できる者」が負担すべきとされています。これは、単なる理論ではなく、再配分・パススルーを行ううえでの現実的な判断基準となっています。
この原則を前提に、契約実務では以下のような判断がなされます。
・ 工期遅延 : 設計 ・ 施工業者が負担
・ 需要不足 : 運営事業者またはスポンサーが一定程度負担
・ 法令変更 : 公共が負担(内容次第で一部事業者負担もあり)
つまり、「契約上SPCが負担する」ではなく、「SPCの背後で最も合理的に対応可能な主体が、どのような契約構造でリスクを負担するか」を設計することが、PFI契約実務の肝となります。
澤田直彦
PFI事業におけるリスク分担は、単なる発注者と受注者間の問題ではなく、SPCを中心とした複数関係者による「再配分構造」を前提としています。この再配分を可能とするのが、プロジェクト・ファイナンスであり、各契約の整合性と補完性が不可欠です。
リスクを「契約上誰が負うか」だけでなく、「実質的に誰が負えるか」を見極め、制度的・契約的に適切な配置を行うことが、事業成功の鍵を握ります。
リスク分担を設計する際の実務的留意点
PFI事業におけるリスク分担は、単に契約条文に落とし込めばよいというものではありません。長期かつ多主体が関与するPFIにおいては、リスク分担のあり方が事業の成否や財務安定性に直結します。
本章では、実務的な観点からリスク分担設計時に特に注意すべきポイントを整理します。
原則の徹底 : 「最もリスクを管理できる者が負担する」
PFIにおけるリスク分担の基本原則は、「リスクを最もよく管理できる者が、そのリスクを負b担する」という考え方です。これは、効率的なリスク管理と、インセンティブの整合性確保という2つの観点から合理性があります。
この原則を形式的に捉えるのではなく、実際に「誰がリスクの発生を予防し、発生時に影響を最小限に抑えられるか」という視点から、個別リスクごとに検討することが重要です。
• 地中障害物 : 発注者が調査可能性高 ➡ 公共負担
• 天災による工期延長 : 保険加入者または発注者負担
契約条項の明確化 : 定義、範囲、通知、協議のプロセス
リスク分担の設計において、契約条項の「書き方」は極めて重要です。不明確な条文は後の紛争の火種となります。
【検討すべき契約構造の要素】
要素 | 留意点 |
---|---|
用語の定義 | 「不可抗力」「法令変更」「履行不能」など、定義を曖昧にしない。 |
費用の範囲 | 損害賠償の対象が「直接損害」か「間接損害」も含むかを明確にする。 |
損害額の上限 | 事業者側の資金調達リスクを緩和可能にするために上限を設けておく。 |
通知義務と協議 | リスク発生後の初動手続(通知期限 ・ 協議期間)を明確にする。 |
証拠書類の要件 | 請求にあたり 、 何を証拠として認めるかを合意しておく。 |
収益モデルとの整合 : 独立採算型とサービス購入型の違い
PFIには大きく分けて「サービス購入型」と「独立採算型」の2つのモデルがあります。リスク分担の設計は、これらのモデルに応じて変化します。
▸ 独立採算型 : 料金収入等を事業者が直接得る。リスクも事業者に集中しがちだが、合理的な負担限度を超えない設計が求められる。
たとえば、公共側からの利用制限(コロナ禍による施設使用停止など)が発生する可能性を想定し、「最低限の収益補償」条項を設けることで、事業者の過度な収益変動リスクを緩和することができます。
保険活用とリスク移転の手段
リスクを直接契約当事者が負担するのではなく、保険によってリスクを第三者に移転することも重要な手段です。
【よく用いられる保険の種類】
• PL保険 : サービスによる第三者損害に対応
• 経済的損失保険 : 中断 ・ 休業に備える
• 土壌汚染保険、地中障害物保険 等
契約上、「保険により補填される分は当該保険によりカバーされ、それ以外を発注者または事業者が分担する」といった整理を行うことにより、過剰な負担を回避し、効率的なリスクヘッジが可能となります。
モニタリング体制とリスクの事後対応
リスク分担は契約締結時だけでなく、運用フェーズでの事後管理も極めて重要です。
✓ SPCによる報告義務 、公共側の監視権限
✓ 想定外の事態における柔軟な協議条項(force majeure条項の再検討等)
特にコロナ禍のような「前提が大きく変わる事象」が発生した際には、契約の見直しや実務上の協議が避けられないため、誠実協議義務の条項整備が有効です。
まとめ
PFIにおけるリスク分担設計は、「誰が負うべきか」という原則論に基づきつつも、実際には契約構造、収益モデル、保険活用、運用体制といった複数の視点を組み合わせて構築する必要があります。
単に「負担する・しない」といった二元的な整理ではなく、契約による配分・再配分・移転・緩和という多層的なアプローチをとることで、事業全体の安定性と公民双方の納得性を確保することができるのです。
まとめと実務チェックリスト
PFI事業におけるリスク分担のあり方は、単なる契約条文上の作業ではなく、事業の持続性、財務の健全性、公共サービスの安定提供に直結する極めて重要な設計要素です。
本章では、これまでの議論を総括するとともに、実務対応におけるチェックリストを提示し、実際にPFI契約を設計・検討する際に役立てていただけるよう整理します。
リスク分担の全体的ポイント
これまでの章で見てきたように、PFIのリスク分担には以下の特徴があります。
(1)制度的・契約的な複層構造
• 事業契約とともに、EPC契約、O&M契約、融資契約、保険契約、株主間契約などが有機的に連携。
• SPC単体ではリスクを負えず、パススルー(再配分)が必須。
(2)原則と柔軟性のバランス
• 最もよく管理できる者がリスクを負担する」という原則が重要。
• ただし、実態に即した柔軟な協議・調整ルールも必要(コロナ禍対応に顕著)。
(3)民法・公共工事契約からの発展形
• 民法の原則(請負・準委任)を基礎に、公共工事標準請負契約やPFI標準契約の実務が発展。
• 特に不可抗力リスクについては、「100分の1ルール」が実務の基軸。
PFI契約におけるリスク分担 実務チェックリスト
以下は、PFIの契約検討・ドラフティングにおいて、特に確認・整理しておくべき項目の一覧です。
区分 | チェックポイント | 備考 |
---|---|---|
1. リスクの同定 | 事業固有のリスクを網羅的に洗い出しているか | 土壌汚染、地中障害物、需要変動、法令変更等 |
2. 負担主体の整理 | 各リスクについて誰が最も管理可能か判断しているか | リスク分担原則に照らした実態判断が必要 |
3. 契約条項の明確性 | リスクの定義・損害範囲・手続の明示がされているか | 「不可抗力」「履行不能」「損害」の定義が鍵 |
4. 保険の活用状況 | リスク移転手段として適切な保険に加入しているか | 補償限度額・保険免責・保険料負担の明確化 |
5. パススルー構造 | リスクがSPC背後で適切に再配分されているか | EPC/O&M/融資等の契約と整合しているか |
6. モニタリング体制 | リスク発生後の対応フロー(通知・協議)が整備されているか | 実効性ある協議義務・報告体制が重要 |
7. 財務的影響分析 | リスク顕在化時の収支影響を事前に試算しているか | サービス対価減額・中断期間等も考慮 |
8. 関係者間の合意形成 | リスク設計が融資機関・スポンサー等の同意を得ているか | 契約外の覚書・合意書等の整理も含む |
法務・事業担当者へのアドバイス10選
2. リスクの顕在化シナリオを複数想定し、分担案を比較検討する。
3. 関係契約(EPC/O&M/融資契約)と整合した契約構造を設計する。
4. 不可抗力リスクの定義と対象範囲(例:新型感染症)を明確にする。
5. 行政指導等も「法令変更」に含むか、明記しておく。
6. 事業用地や施設に起因するリスクは原則公共負担とすべき。
7. 保険による補填範囲と契約上の損害請求との関係を整理する。
8. リスク分担の考え方は、金融機関とも共有し、同意を得る。
9. リスク発生時の協議プロセスは、期限・手続・合意優先順位まで明文化する。
10. 全体設計にあたり、法務・財務・技術部門の横断的な協議を怠らない。
PFIにおけるリスク分担は、契約書の中に閉じたテクニカルな作業ではありません。
公共サービスの質の確保、民間事業者の持続的な参画、金融機関からの信頼性の確保、そして何より予期せぬ事態にも耐えられる事業体制を実現するための骨格です。
予防・整理・分担・移転・回避という5つの視点で、複雑なリスクを設計していくことこそが、PFIにおけるリーガル・エンジニアリングの真価であるといえるでしょう。
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