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賃料増額請求書の書き方と内容証明郵便の活用についてわかりやすく解説

Q
不動産オーナーをしています。5年前に購入した賃貸マンションの賃料が周辺相場と比べても、だいぶ低くなっています。
適正額まで賃料を増額したいと考えていますが、賃借人のことを思うと、なかなか言い出しにくいです。関係を壊さないように増額を求めることはできるのでしょうか。

いきなり裁判で争うことはしないで、まずは話し合いや書面のやり取りなどにより、穏便に済ませたいと考えています。法的に有効な増額請求のやり方、万が一裁判になったときの対処法を教えてください。

A
賃料増額請求は民法と借地借家法により、貸主にも権利として認められています。
しかし、賃料は本来、協議により決めるものですので、まずは賃料増額について賃借人に打診してみましょう。

固定資産税等の経費増加により修繕に必要な費用が十分に出せないなどの理由を伝えれば、納得してくれる場合もあります。
賃借人が納得してくれた場合には合意書面を作成して賃料増額をします。

しかし、協議によって納得してくれない場合や協議が難しい状況であれば、配達証明付内容証明郵便で賃料増額請求の意思表示をします。内容証明郵便は、いつどのような請求をしたかについて、調停や裁判で証拠としやすい書類の送り方です。


本記事では、賃料増額請求を考えるオーナー様に向けて、法的な手続き方法、内容証明郵便の活用方法やメリット、効果的に伝わる請求書の書き方、交渉のテクニックなどについて、分かりやすく解説します。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「賃料増減額請求書の書き方と内容証明郵便の活用について解説」
について、詳しくご説明します。

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「相場より安くなったけど、賃料を上げられないでいる」
「増額請求に借主がなかなか応じてくれない」

このように悩む不動産オーナーは多いです。借主の立場からすれば、毎月の負担が大きくなりますので、簡単には増額請求に応じてもらえないのは当然です。
ですが、交渉に成功するオーナーに共通して言えるのは以下の2つです。

  • スムーズな増額請求や交渉のやり方が分かっている。
  • 借主に賃料増額の根拠やメリットを上手に伝えることができる。


この2点をしっかりと押さえて、スムーズな賃料増額請求ができるようにしましょう。

賃料増減額請求の法的性質と手続き方法


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賃料の増減額請求については、民法第611条、借地借家法第32条で規定されています。
特に借地借家法第32条では「経済状況や物価の変動・周辺相場との乖離」などの事情変動を理由とした賃料増額請求を認めています。

賃料増減額請求は、意思表示が相手に到達した時から将来に向かって、相当額の増額または減額の効果が生じます。

そのため、最初は口頭や書面、できれば配達証明付き内容証明郵便で賃料増額請求の意思を伝えましょう。配達証明付き内容証明郵便によって、賃貸人が賃料増額請求した事実と相手にこれが到達した年月日を証明することができます。自分で作成することができ、費用も低額であるため、最初の対応としておすすめします。

それでも借主が賃料増額に納得しなければ、調停手続きを経て、最終的に裁判による解決を目指します。

賃料増減額請求の法的位置づけ

賃料増減額請求は、法律上「形成権」と呼ばれる性質を持っています。

賃貸人の一方的な意思表示によって法律上の効果(相当額の賃料増額)を発生させることができます。このとき、相手方の承諾の有無は関係なく、将来に向かって増減額の効果が生じます。

意思表示の到達を明確に示す方法の1つとして、内容証明郵便が有効です。

内容証明郵便を活用する意義

内容証明郵便とは、日本郵便株式会社が提供している特殊な郵送方法です。

書き方には、以下のような特殊なルールがあります。

  • 差出人と受取人の住所及び氏名を文書に記載する
  • 字数や行数に制限がある(横書きの場合は1行26字以内で1枚に20行以内等)
  • 複数枚に続く場合は割り印をする
  • 封筒の差出人の欄に押印する


同じ文書を3通用意する必要があります。

1通を手書きしてあと2通はコピー、あるいはパソコンで作成して3通分プリントアウトするのでも問題ありません。3通のうち、賃貸人自身と日本郵便が1通ずつ保管し、1通が賃借人に届きます。

日本郵便が「いつ、誰から誰に、どんな内容の文書を送った」事実を証明してくれます。調停や裁判となった場合に紛争解決のために向き合い、行動を起こした証拠として有利に働く場合があります。

ただし、内容証明のみでは、相手が受け取ったことは証明できません。
そのため、相手が受け取ったことを証明するために、別途、配達証明を追加しておく必要があります。ただし、配達証明は、賃借人の住所に届いたという証明に過ぎず、実際の受取人が賃借人本人であるかまでは証明できません。

そもそも受け取らないという選択をされることもありますので、その場合には発送した日時や事実について証明してもらえる特定記録郵便にて、同一の書面を郵送する方法を採るようにしましょう。

近年では電子内容証明によって簡単に安く何通でも送れるようになりました。書面を作成して押印等する手間、郵便局で並び書面の内容を確認してもらう手間等を無くすことが可能になりましたので、有効な手段といえるでしょう。

なお、増減額後の賃料を明記して郵送する場合には、その額が消費税込みかどうかも明記するようにしましょう。
消費税を含めない金額で請求したために裁判に発展したケースもありますので、書き方に不安がある場合には弁護士へ作成の依頼をおすすめします。

内容証明郵便に関する記事はこちら : 徹底解説!内容証明郵便の書き方・出し方・注意点

更新のご案内との相違点

不動産事業者(不動産仲介業者など)は、賃貸借契約の契約期間終了時に「更新のご案内」を送付することがあります。

このタイミングで契約更新に伴う賃料増額のお願いが記載されていることがあるのですが、この「更新のご案内」をもって、法的な「賃料増額請求」をしたと主張することは困難です。
あくまで「提案」や「お願い」の性質を持っているだけであり、賃料増額「請求」の法的な性質を持っているとは言えません。そのため、案内をしただけでは賃料増額の効果が発生することはありません。

ただ、「提案」や「案内」「お願い」によって、賃借人との協議のきっかけにすることはできます。
賃借人と協議可能な場合には、いきなり賃料増額請求をするより、賃料増額の提案やお願いをすることで、協議をするほうがよい場合も多いです。

その場合、賃料増額が必要な事情を説明し、合意できない場合には賃料増額請求をするつもりであること、その後の流れなどを説明することにより、合意に至る可能性が高まります。

そのためには、賃料増額請求が認められるための要件を十分に調査し、資料を収集したうえで交渉に臨む必要があり、この段階から弁護士等の専門家に相談することが有益といえます。



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賃料増減額請求書の記載事項と文例


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賃貸人本人が書いた場合の例として記載しています。
弁護士に依頼する場合や、契約の内容によって文言が変わる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

記載事項

記載事項 文言例
当事者名
(賃貸人 ・ 賃借人の氏名)
賃貸人 : 通知人〇〇(以下「通知人」)
賃借人 : 貴殿、貴社など
目的物の所在地 東京都〇〇区〇丁目〇番〇号(以下「本件建物」「本件ビル」など)
※家屋番号、種類、構造、床面積等まで登記簿または契約書上の記載に従って記載することで、目的物を特定しやすくなります。
契約期間 令和〇年〇月〇日から令和×年×月×日までの△年間
※契約内容を特定するために必要であれば記載しましょう。
現行賃料 ・ 月額〇〇円(消費税別)
・ 月額〇〇円(消費税込)
増減額後の賃料(税込か税別かを明示)と発効希望日 同年〇月分以降の賃料額を月額〇〇円(消費税別)
根拠となる事情
(近隣相場の上昇など)
本件建物の賃料額は、本件賃貸借契約締結後の(土地若しくは建物の上昇若しくは低下または租税公課の増加)などの経済事情の変動により、近傍相場と比較して著しく低い(または高い)賃料となっています。
意思表示の文言 通知人は、本書面をもって本件建物の同年〇月分以降の賃料額を月額〇〇円(消費税別)に増額(または減額)改定する旨の意思表示をします。
一定期間内の回答要請と交渉の意志表示 本書面の受領から〇日以内に通知人宛にご連絡ください。


※増減額後の賃料や改訂の根拠となる事情などは、明示しなければならないわけではありませんが、記載したほうがスムーズに賃料増額ができる可能性があります。

具体的な記載例

冒頭部分、本文、結びの3つのパートに分けて解説します。
※一般的な記載例であり、すべての事項が必須というわけではありません。


1. 冒頭部分

まずは、真ん中上部に「通知書」「通告書」などとタイトルを付けます。

そして記入日を記入し、賃借人の住所と名前自身の住所(本籍)と名前を記入し、氏名の横に押印します。


2. 本文

本文には、先述の記載事項と文言例を参考にして文章を書いていきます。

文章力の巧拙よりも、住所や日付は一字一句間違いのないように正確に書き上げるようにしてください。

特にいつからいつまでの何年間になるかの期間の特定、賃料をいくら増額するのか、記載された賃料は消費税を含めた金額か否かに加え、賃料改定の理由を添えて「本書面をもって、本件建物の同年〇月分以降の賃料額を月額〇円(消費税別途)に増額(または減額)改定する旨の意思表示をする」ということを明確に示してください。


3. 結び

最後に、賃借人がこの書類を受け取り、内容を確認したら連絡をするように要請する一文を追加するのが、実務的には有効です。

受け取った側としては、次の行動として何をすればよいか困惑してしまうため、冒頭部分に記載した住所に加え、差し支えなければ電話番号等の連絡先を記載して、今後の交渉がスムーズ進められるような一言を添えるようにしましょう。

内容証明郵便に関する記事はこちら : 徹底解説!内容証明郵便の書き方・出し方・注意点

【実務ポイント】内容証明の送付後、どう対応するか?


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内容証明郵便を送った後、相手が無視してきた場合と反論してきた場合では、対応方法が少し異なります。

まず、相手が話し合いに応じず、内容証明郵便も受け取らないなど、無視をしている場合について解説します。
内容証明郵便を相手が受け取らない場合、発送した日時や事実について証明してもらえる特定記録郵便にて、同一の書面を郵送する方法を採るようにしましょう。

また、内容証明郵便を相手が受け取ったとしても、受取人が何らかの行動を起こすように義務付ける法律はありません。そのため、何度送っても何の連絡もなく、また、増額した賃料を支払ってくれないままというケースも考えられます。

その場合、通常、民事調停を申し立てます。裁判の前にまずは民事調停を起こして解決を図るべきであるという調停前置主義に従う必要があるためです。調停では話がまとまらない場合になって初めて民事訴訟を提起するようにしましょう。

また、内容証明郵便を受け取った相手が反論をしてきた場合、反論の内容によって対応も代わりますが、協議の余地がある場合には資料等を添えて賃料増額が必要な理由を説明し、賃借人の納得を得ることも考えられます。ただ、利害が大きく対立しているため、協議が進まない場合も多いです。

その場合には、やはり民事調停を申立てることになります。
なお、賃借人側は、送られてきた内容証明郵便の内容を把握した上で回答をしてきているため、既に弁護士などの専門家に相談するなどして反論の準備ができている可能性があります。安易に回答をしてしまうと、不当な要求を呑んでしまうなどの不本意な結果になる恐れもあります。

反論があった場合や賃借人の代理人弁護士から連絡があった場合は、速やかに弁護士に相談し、慎重に交渉を始めるようにしましょう。

賃貸人からのよくある質問


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多くの賃貸人から寄せられる質問について回答いたします。特に多いのが内容証明に関する質問です。
普通に暮らしていれば聞き慣れない郵送方法ですので、どのような効力があるものなのか浸透していないというのが実務上よくあることです。

賃料の増額については客観的な資料や根拠、法令に基づいて納得してもらう必要性があります。

Q1.内容証明を送っただけで家賃は上がりますか?

内容証明郵便を送っただけでは、増額請求した金額の賃料を支払ってくれないことも多いです。
もちろん、賃借人から合意が得られればよいのですが、賃借人としては従前の賃料を支払っていれば債務不履行として賃貸借契約を解除されることは避けられるため、簡単には合意が得られないのです。

内容証明郵便で日本郵便が証明してくれるのは、いつ誰から誰に何の請求をしたという書面が郵送された事実だけです。書面の請求内容が法的に正しいか否かまで証明してくれるわけではないため、送っただけで増額した家賃を支払ってくれることは期待できないのです。

Q2.増額の理由をどうやって説明すればよい?

賃料増減額請求について借地借家法32条では、以下の3点を事情変更の要素として例示しています。

  • 「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減」
  • 「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下」
  • 「近傍同種の建物の借賃との比較」


この3点のうち1点以上を原因とした「経済的な事情の変化により、現在の賃料と今後の適正額とされる賃料に乖離が生じている」ことが増額の理由になっていれば、スムーズな交渉が期待できます。

一般的には、現在の賃料と適正額とされる賃料の乖離率が少なくとも10~20%の差がなければ、認められないものと考えられています。ほかにも、ビルの修繕積立金の増額を「その他の負担の増減」に該当するとして増額請求が認められた裁判例もあります。

客観的な根拠、資料を示しながら説明していきましょう。

Q3.内容証明を送ると関係が悪くなりませんか?

結論から申し上げると、関係が悪くなるケースは多々あります。

内容証明郵便は、文言・書き方・頻度によっては、脅迫や恐喝に近い圧力を感じせてしまうこともあります。これにより硬直的な態度を取られるなど余計に関係悪化に繋がる恐れもあります。
特に弁護士に依頼して送った場合には、弁護士ならではの高い信憑性や安心を感じてくれる人もいれば、非常に強い心理的圧迫を感じてしまう人もいます。

賃借人との関係が良好であるならば、事前に協議をしたほうがよいでしょう。
そのうえで、協議がなかなかまとまらないような場合に、「書類で請求したという形を記録で残しておくために、内容証明郵便を送ります」「穏便に解決したいので、間違いのない弁護士に依頼しました」という事前に連絡をしておくと丁寧で誠実な印象を与えやすく、関係悪化を回避できます。

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賃料増額請求の流れとしては、まずは協議をすること、協議がまとまらない場合には内容証明郵便によって増額請求の意思表示をします。

賃料増額請求を成功させるためには、増額する理由を資料等をもとに客観的に説明できることに加え、内容証明郵便について知識を得て効果的な書き方をすることがポイントであることを解説しました。

しかし、内容証明郵便は一般的には心理的なハードルが高く、安易に送ると賃借人との信頼関係が壊れ、賃料増額に応じてくれないという結果に繋がりかねません。

特に賃料の高い物件や複雑な契約内容の物件の借主に対して賃料の増額請求をする場合には、交渉に対して正確な知識と経験を持つ弁護士などの専門家への相談をおすすめします。

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