澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。
本記事では、
「法律とメタバース②【メタバース上での取引で起こりうるトラブルと対策】」
について、詳しく解説します。
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メタバース内での「動産」取引について
しかし、その後、X社はそのZ世界を終了させることにしました。
Yは、仮想のサングラスの継続的な利用ができなくなり、価値が下落してしまうことを理由に、X社に補償を求めています。
X社は補償に応じる必要があるのでしょうか。
確かに、Z世界のサービス終了により仮想サングラスの継続的な利用が不可能となり、価値が下落する可能性がありますが、X社が十分な期間をおいて事前告知を行っていれば、Yに対して補償する義務はないと考えられます。
他方、X社が、十分な期間をおいて事前告知をしていない場合や、Z世界で購入したアイテムを他のサービスにも利用できる等と広告していた場合、実際に他のサービスでの利用ができなければ、損害賠償義務が生じる可能性があります。
《解説》
メタバースで取引される仮想サングラス等の仮想アイテムは、現実世界の「物」ではありません。そのため、法的な所有権の対象とはなりません。仮に、ブロックチェーン上に売買が記録されることで、あたかも「所有者」のように扱われても、民法上の所有権は存在しないのです。
では、メタバース上の仮想サングラスを購入したYが取得する権利はいったいどのようなものでしょうか。
Yが取得するのは、所有権ではなく、あくまで利用規約に基づく一定の仮想サングラスの利用権です。
なお、このような利用権の売買自体は有効です。
仮想サングラスなどの仮想アイテムを、対価を支払って購入した利用者は、メタバース内で継続的に利用する機会が得られることを期待して購入している場合が多く、そのような利用者の期待は法的保護が必要となると考えられます。
そこで、例えば、継続的な利用を前提に販売しているアイテムの購入があった直後に、事業者が、事前に告知をせずにサービスを終了させたような場合、当該仮想アイテムに関するサービス提供義務の債務不履行があるとして、利用者に対し、損害賠償責任を負う可能性があります。なお、その損害は、購入代金の全部又は一部に相当する金額と考えられます。
また、X社が、当該メタバース内で購入したアイテムを他のサービスにも利用できる等と広告していた場合、他のサービスでの利用が確保されなければ、損害賠償義務が生じる可能性があります。
従って、仮想アイテムを販売していた事業者がサービスの提供を終了する場合、十分な期間をおいて事前告知をするようにしましょう。
メタバース内での「不動産」取引について
Yは、その仮想土地を担保に提供するので、購入資金を貸してほしいと言ってきました。
仮想土地に担保を設定することは可能なのでしょうか?
そして、その利用権に対して担保を設定する合意も有効に成立します。ただし、担保設定が、利用規約に定められた利用権の範囲内であるか否か、確認するようにしましょう。 また、その仮想土地がZ世界でのみ使用できる仮想土地である場合、Z世界の人気や運営状況によって担保価値が大きく変動することもあります。そのため、担保価値の査定は十分な注意が必要です。
Yは賃貸借契約を解約できるでしょうか。
利用規約の範囲であれば、YはWに対し、仮想土地を賃貸することも可能であり、YW間の賃貸借契約も有効です。 民法上の建物所有目的で土地を賃貸した場合、借地借家法の保護を受けるため、地主からの解約は制限されています。
しかし、仮想土地は現実世界の「土地」「建物」ではないため、借地借家法の適用はありません。Y及びWの権利義務は、YW間の賃貸借契約に従うことになります。
YW間の賃貸借契約で、2カ月を超える賃料滞納がなければ契約を解約できないというような合意がない場合、Yは解約が可能です。
メタバース内での間違いによる商品の購入について
X社としては、どのように対応したらよいでしょうか。
しかし、例えば、
①あるボタンをクリックすることで申込みの意思表示となることを消費者が明らかに確認することができる画面を設定している場合や
②最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示し、そこで訂正できる機会を与える画面を設定するなど、予め、X社が、消費者が申込みを行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置をとっている場合、
Yの商品選択ミスがYの重過失によるものであれば、X社はYの購入取消しに応じる必要がありません。
メタバースを運営する事業者としては、予め、消費者が申込みを行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置を講じるようにしておきましょう。
《解説》
商品を間違って購入した者は、原則として取消しを主張できます。
民法上では重過失があれば錯誤無効を主張できません。
しかし、メタバース内での商品購入の場合に重過失があっても、取消しを主張できます。これは、電子商取引ではクリックミスや入力ミスが生じやすいため、電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律3条により、消費者側に重過失がある場合にも契約の取消しを認めているからです。
ただし、事業者が消費者の真意について確認を求める措置を講じている場合、又は、消費者が確認措置を要しない旨の意思表示を表明した場合、前述の民法の特例は適用されず、原則どおり重過失があれば錯誤無効を主張できません。
そのため、メタバースを運営する事業者としては、メタバース利用者が商品の選び間違えをしないよう、予め、利用者の購入が真意によるものか確認する措置や、利用者が確認措置を要するか否かを確認する措置を講じるようにしておくべきです。
例えば、次のような措置が考えられます。
- あるボタンをクリックすることで申込みの意思表示となることを、消費者が明らかに確認することができる画面を設定
- 最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示し、そこで訂正できる機会を与える画面を設定
(メモ)電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律とは?
インターネット通販等では、通常、事業者が設定した画面上で、消費者が申込みを行います。その際、消費者がマウスなどの機器の操作を誤って、意図しない申込みをしてしまうことが多々あります。
この場合、電子消費者契約特例法が施行される前は、事業者は、操作ミス=「重大な過失」であるとして、契約は有効に成立している、と主張することが可能でした。しかし、重大な過失の有無を巡り、トラブルが頻発しました。
そこで、電子消費者契約特例法が制定され、Y2C(事業者・消費者間)の電子契約では、消費者が申込みを行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置を事業者側が講じないと、要素の錯誤にあたる操作ミスによる消費者の申込みの意思表示は無効となることになりました。
未成年者が虚偽の年齢で登録して取引した場合
17歳のYは、生年月日と実年齢を偽り、20歳のYとしてZ世界の利用者登録をしました。そして、Yは、Z世界の店舗で高額な商品を購入しました。
その後、Yの親Wが、Yによる商品購入の取消しを求めてきました。
X社としては、どのように対応したらよいでしょうか。
「詐術を用いた」か否かは、単に年齢確認画面や生年月日記入画面に虚偽の年齢や生年月日を入力したという事実のみをもって断定できません。
他の事実も考慮に入れた個別の事実に沿った判断が必要で、未成年者の意図的な虚偽の入力が「人を欺くに足りる」行為といえるのか、事業者の設定した年齢確認や親の同意確認の措置が、容易にかいくぐることができるものであるかなど、他の要素も踏まえて総合的に判断されます。
そのため、未成年者が虚偽の年齢・生年月日を入力して行った取引について、契約の取消しができない場合もありますが、契約の取消しが可能な場合もあります。このような場合には、弁護士などの専門家に相談して対応するのがよいでしょう。
また、事業者は、事前措置として、アカウント登録時や、各取引の事前確認画面などで、利用者が認識・理解しやすい形で未成年ではないこと等を確認する措置や、利用者登録に際して本人確認書類などの提出を求める措置をとることなどを検討しましょう。
《解説》
未成年者は、成年者と比べて取引の知識や経験が不足し、判断能力も未熟なため、取引社会から未成年者を保護する必要があります。
そのため、未成年者が取引するためには法定代理人の同意が必要で、法定代理人の同意がない場合、原則として未成年者が行った契約を取消しすることができます(民法5条2項)。この原則は、インターネット上の取引であっても同様です。
しかし、未成年者が、成年であると取引の相手方に信じさせるため詐術を用いた場合、契約を取り消すことができません(民法21条)。
「詐術を用いたとき」について、判例は、制限行為能力者が、他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、又は誤信を強めたと認められるときは詐術に当たるというべきであるが、単に無能力者であることを黙秘していたことだけをもって、詐術に当たるとはいえないとしています。
経済産業省は、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和4年4月)で、「詐術を用いた」ものに当たるかは、
- 未成年者の年齢、商品・役務の性質は未成年者が取引に入ることが想定されるようなものか否か(未成年者を対象にしていたり訴求力があるものか、特に未成年者を取引に誘引するような勧誘・広告がなされているか等も含む)
- 取引をした価格の多寡、及びこれらの事情に対応して事業者が設定する未成年者か否かの確認のための画面上の表示が未成年者に対する警告の意味を認識させるに足りる内容の表示であるか、
- 未成年者が不実の入力により取引することを困難にする年齢確認や同意確認の仕組みとなっているか
等、個別具体的な事情を総合考慮した上で実質的な観点から判断されるものと解されるとしています。
すなわち、「未成年者の場合は親権者の同意が必要である」旨を申込み画面上で明確に表示・警告した上で、申込者に生年月日等の未成年者か否かを判断する項目の入力を求めているにもかかわらず未成年者が虚偽の生年月日等を入力したという事実だけでなく、更に未成年者の意図的な虚偽の入力が「人を欺くに足りる」行為といえるのかについて他の事情も含めた総合判断を要すると解されるとしています。
取り消すことができる(詐術に当たらない)と解される例
- 単に「成年ですか」との問いに「はい」のボタンをクリックさせる場合
- 利用規約の一部に「未成年者の場合は法定代理人の同意が必要です」と記載してあるのみである場合
このように、少なくとも、単に年齢確認画面や生年月日記入画面に虚偽の年齢や生年月日を入力したという事実のみをもって「詐術を用いた」とは断定できません。事業者の設定した年齢確認や親の同意確認の措置が、容易にかいくぐることができるものであるかなど、他の要素も踏まえて総合的に判断されるのです。
従って、未成年者が虚偽の年齢・生年月日を入力した場合でも、「詐術を用いたとき」に該当せず、契約の取消しができない場合もあります。このような場合には、弁護士などの専門家に相談して対応するのがよいでしょう。
事業者がとるべき事前の対策としては、アカウント登録時や、各取引の事前確認画面などで、利用者が認識・理解しやすい形で未成年ではないこと等を確認する措置や、利用者登録に際して本人確認書類などの提出を求める措置をとることなどを検討しましょう。
なお、未成年者取消しがなされると、取り消された法律行為は、遡及的に無効となります(民法121条)。
これにより、取引が未履行の場合、未成年者及び事業者双方の義務は消滅します。取引が既に履行されている場合、事業者は支払われた代金の返還義務を負いますが、未成年者の返還義務の範囲は、現存利益の範囲にとどまります(同条ただし書)。
そして、未成年者が購入したメタバース内で使える仮想アイテム等は、取消後は使用できなくなります。経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和4年4月)によれば、未成年者が既に利用した分は、現存利益がないと評価され、サービス利用料金相当額の返還義務を負わない場合が多いとの解釈が示されています。
メタバース内でのAIスピーカーを通じた取引
利用者Yは、アバター店員に対して、口頭で仮想の瓶ビール1本を注文しました。 そして、X社からYに配信されたのは、仮想ピンヒールパンプス10足で、高額な請求をされています。 利用者Yは、請求を拒んでいます。
X社としては、どのように対応したらよいでしょうか。
そのため、原則として、契約は成立しておらず、X社は利用者Yに対して仮想アイテムの購入代金を請求できません。
X社としては、契約が成立しない事態を防ぐため、アバター店員を通じてAIが認識した注文内容を利用者に通知し、利用者から確認が得られた場合に注文を確定するという確認措置を講じること等を検討しましょう。
通知方法としては、 アバター店員が注文内容を読み上げさせるか、文字化した内容を表示して通知したり、連動するウェブサイトやアプリ、電子メールなどを通じて通知する方法などが考えられます。
《解説》
アバター店員を操作しているのがAIであるか否かは、利用者側からは、わからないことが多いと思われます。
AIが、注文を誤って認識してしまった場合、どのようになるのでしょうか。
この点、本問のようなAIを通じた取引について、経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和4年4月)144頁から150頁がAIスピーカーを通じた取引について検討しており、参考になります。
AIを介したサービスを提供する事業者は、多くの場合、利用者が利用を開始する際に、利用規約に基づく基本契約を利用者との間で締結するものと思われます。そのため、利用者と事業者の法律関係は利用規約の定めに委ねられます。
事業者は、契約が成立しない事態を防ぐために、AIが認識した注文内容を利用者に通知し、利用者から確認が得られた場合に注文を確定するという確認措置の導入を検討するとよいでしょう。このような確認措置により、AIの誤認識による発注ミスのほか、利用者の言い間違いに基づく発注ミスも防止できると考えられます。
なお、発注が無効になるのを防止する契約上の仕組みとして、AIが認識した注文内容を利用者に通知し、「一定期間内に回答がない場合に有効な注文とみなす」という形の条項を利用規約に置くということも考えられます。
しかし、利用者が消費者の場合には、このような定め方は、消費者契約法第10条の「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」といえ、さらには「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」(10条の前段要件)又は「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」(10条の後段要件)に該当して無効となる可能性がありますので、注意が必要です。
ここでもう一つの場面を考えてみましょう。
利用者Yが本当は瓶ビール1本が欲しいのにピンヒール10本と言い間違えて注文した場合はどうなるでしょうか。
この点、音声での説明や案内と消費者からの音声での発注で完結する仕組みのAIスピーカーによる取引の場合、消費者である発注者は、重過失がある場合でも錯誤無効による取消しを主張できるとする電子契約法が適用されないと考えられます(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和4年4月)150頁)。
では、メタバース内でのアバター店員を通じて口頭で行った取引の場合も、AIスピーカーによる取引と同様に電子契約法が適用されないのでしょうか。
まず、民法に従えば、売買契約は錯誤により無効であり、取消すことができるのが原則です(民法第95条第1項第1号)。ただし、利用者Yに重過失があるときには、一定の場合を除き、発注者から錯誤を主張することはできません(民法第95条第3項)。
次に、発注者が消費者の場合、電子契約法による規律が及ぶのかを検討します。
電子契約法が適用される「電子消費者契約」は、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 「映像面を介して締結される契約」
- 「当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うもの」
メタバース内でのアバター店員を通じた取引の場合も、消費者が、事業者等が設定した契約の申込み等に使用するための電子計算機の映像面の表示を利用せずに意思表示を行い契約が成立しているとも考え得るため、「電子消費者契約」に該当しないという考え方もあります。しかし、事業者は、画面上の仮想店舗にアバター店員を置いていることから、店員を介して口頭による意思表示のための手続を設定しているとも解され、①②の要件を満たしているとも考えられます。この考え方によれば、「電子消費者契約」に該当するため、消費者である発注者に重過失があった場合でも、錯誤取消しを主張できる可能性があります。
そのため、事業者としては電子契約法が適用される可能性があることを前提に対応するようにしましょう。その場合の対応については、3.【メタバース内での間違いによる商品の購入について】をご参照ください。
メタバース内での国境を越えた取引Case1(国外の事業者vs日本の消費者)
日本に住む利用者Yは、その店舗で仮想アイテムを購入し、代金を支払い済みです。しかし、仮想アイテムが配信されません。 そのため、利用者Yは、日本の裁判所に訴えを提起しました。
このような場合、どこの国の裁判所に管轄が認められ、また、どの国の法令又は消費者保護法規の適用を受け、どのように紛争を解決することができるのでしょうか。
そして、日本の消費者が国外の事業者から物品を購入したような場合、原則として、消費者の常居所地の消費者保護法規が適用されます。
ただし、消費者が常居所地以外の地の法を準拠法として選択していた場合、消費者側で、自らの常居所地の消費者保護法規の強行規定の適用を主張しなければなりません。
≪解説≫
(1)国際裁判管轄
日本に住む利用者が国外の事業者に訴えを提起する場合、まず、日本の裁判所に訴えを提起しようと考えると思われますが、日本の裁判所が裁判することはできるのでしょうか。
まず、仲裁合意がある場合、合意した裁判管轄に従って紛争解決地が決まります。
しかし、消費者は、仮に仲裁合意が成立していても、仲裁合意を解除することができます(仲裁法附則第3条)。
次に、仲裁合意がない場合又は仲裁合意が解除された場合、消費者契約締結時の消費者の住所又は訴え提起時の消費者の住所が日本国内にあれば、日本の裁判所が管轄権を有します(民事訴訟法第3条の4第1項)。
なお、利用者と事業者間で国際裁判管轄の合意を書面でしている場合でも、消費者契約に関する紛争を対象とする事前の国際裁判管轄の合意は、原則として無効とされています(民事訴訟法第3条の7第5項)。
(2)準拠法
当事者の営業所が異なる国にある場合、契約は国際的取引とみなされウィーン売買条約が適用されます。
しかし、買主が消費者である場合、ウィーン売買条約第2条に規定する「個人用、家族用又は家庭用に購入された物品の売買」に当たると考えられ、原則としてウィーン売買条約は適用されません。
日本の消費者と国外の事業者の間又は国外の消費者と日本の事業者の間でインターネットを介した取引が行われ、日本で裁判をする場合、当事者が準拠法を選択していなかった場合、消費者の常居所地法が準拠法となります(通則法第11条第2項)。
当事者間で準拠法を選択していた場合には、原則として、選択した地の法が準拠法となり、消費者は、当事者間で選択していた準拠法の消費者保護法規の保護を受けます(通則法第11条第1項)。加えて、当該消費者が自らの常居所地の消費者保護法規中の強行規定に基づく特定の効果を主張した場合、その強行規定による保護も受けます(通則法第11条第1項)。
したがって、準拠法について、当事者間の選択がなければ、日本で裁判を行う場合は日本法が準拠法となり、日本の消費者保護法規による保護を受けます。また、当事者間で準拠法として日本以外の地の法を選択していた場合、当該地の法が準拠法となり、日本の消費者は当該地の消費者保護法規による保護を受け、さらに、消費者が主張した場合には、日本の消費者保護法規の保護も受けることができます。
つまり、いずれにせよ、日本に住む消費者は、国外の事業者から物品を購入した場合、日本の消費者保護法規による保護を受けることができます。
メタバース内での国境を越えた取引Case2(日本の事業者vs国外の消費者)
外国に住む利用者Yは、その店舗で仮想アイテムを購入し、代金を支払っていますが、仮想アイテムが配信されません。 そのため、利用者Yは、外国の裁判所に訴えを提起しました。
このような場合、どこの国の裁判所に管轄が認められ、また、どの国の消費者保護法規の適用を受け、どのように紛争を解決することができるのでしょうか。
また、事業者が利用規約等で、準拠法を日本国法と定めていても、国外の消費者が自らの常居所地法の適用を主張した場合、当該法令が適用される場合が多いです。
≪解説≫
国際裁判管轄や国際的な法の適用関係は、訴えが提起された国の法令に従って決定されます。
そのため、本事例については、具体的にどの国で裁判が提起されるかによって、結論が異なる可能性があります。
このように一概に言えませんが、一ここでは般的な傾向を説明します。
(1)国際裁判管轄
まず、どこの国の裁判所で裁判されるのか、国際裁判管轄について検討しましょう。
事業者・消費者間の取引に関する紛争について、法令で、消費者の住所地の裁判所に国際裁判管轄があるとする国が多いです。
そのため、利用規約等で、日本の裁判所が専属的管轄を有する旨の規定を置いていても、国外の消費者が消費者の住所地の裁判所で訴えを提起した場合、その国外の裁判所に国際裁判管轄が認められる可能性が高いです。
(2)準拠法
次に、どの国の法令が適用されるのか問題となりますので、準拠法について検討しましょう。
事業者・消費者間の取引に関する紛争について、多くの国は、消費者の常居所地の法が適用されるとしています。
そのため、事業者が利用規約等で、準拠法を日本国法と定めていても、国外の消費者が自らの常居所地法の適用を主張した場合、当該法令が適用される可能性があります。
(3)今後について
このように、国際裁判管轄や準拠法が利用者の居住地に左右されることから、より迅速かつ柔軟なオンラインでの紛争解決(Online Dispute Resolution)が期待されています。
・経済産業省・商務情報政策局情報経済課「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律逐条解説」(平成13年12月)
・AMTメタバース法務研究会「メタバースと法(第2回)メタバースと電子商取引」NBL1227号(2022年)56-64頁
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