澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「IPO(上場)準備は事業計画が命!!~計画の策定方法を解説~」
について、詳しく説明します。
事業計画とは
意義
事業計画とは、事業目的を達成するための具体的な行動計画をいいます。
具体的には、通常は3~5年の目標と戦略・戦術を明らかにした計画をいいます。
事業計画を作る必要が出てくるのは、銀行から融資を受けることを検討した時や株式上場(IPO)を目指すことを決めた時などです。
一定の売上高の成長率を仮定したり、会社の実際の状況との整合性を詰めて検討したりすることが求められるため、簡単には作れません。
また、一度作ったとしても、その後会社や社会の状況の変動に応じて、見直しが必要となります。
経営者が現在の事業を始めたときには、「このサービスで人々の暮らしを豊かに」「この商品でたくさんの人に喜びを」などの動機があったはずです。
事業計画を効果的に活用するためには、この経営者の気持ちや熱意を整理し、計画に反映することが重要です。ということは、事業計画策定にあたっては管理部などにすべて任せるのではなく、経営者自身が直接関与することが大切になってきます。
②組織的な経営のツールとしての事業計画
会社の規模が大きくなっていくと、必然的に経営者がすべての業務を掌握、管理することが難しくなります。仮に、経営ビジョンや経営戦略が従業員の末端まで共有されていない場合、目指している事業活動の障害となってしまいます。
事業計画は、組織的な事業活動を継続するために、社内で目標を共有し、その達成度合いを管理する有用なツールの一つとしての役割もあります。
③資金調達のツールとしての事業計画
事業計画は銀行やベンチャーキャピタルなどの外部の第三者から支援を受けるときに、自社の現在の業績や、今後のビジネス展開を説明するために必要となります。
通常、外部の第三者から融資や出資などの支援を受ける場合、事業計画は、事業の収益性や成長性、計画の実行可能性などの観点からチェックを受けます。
そのため、競合他社の状況、今後の市場の見込み、自社の保有する経営資源などから十分な合理性をもった計画を策定する必要があります。
事業計画の内容は、その作成目的によって違ってきますが、上場審査で求められる事業計画は、前提となる経営環境を踏まえて策定される3年から5年程度の利益計画に加えて、それを支える経営理念や目標を達成するための経営戦略を含むものとなります。
前述の通り、事業計画は、経営戦略を経営陣と従業員が共有するツールともなるので、その策定には経営陣がしっかりコミットしなくてはいけません。
未上場企業では、年度ごとに予算を作成するものの、複数年度にわたる利益計画を含む事業計画は策定していない会社が少なくありません。しかし、事業計画は、自社の経営理念から導かれる成長戦略を具体化し明文化したものであり、従業員と目標を共有するという目的からも、上場の有無にかかわらず策定することが望ましいといえます。
上場会社は、投資家に対して、中長期的な経営戦略や成長戦略を示して将来的にめざす会社の姿を示すことが求められます。そのため、対外的に会社のあるべき姿を説明するためにも事業計画を適切に策定するのがよいでしょう。
上場審査のための事業計画の策定の詳細については後述します。
利用方法
この事業計画は、下図のように、利用者により利用方法が異なることが特徴です。
合理的な事業計画策定
事業計画の合理性
事業計画には以下の項目が含まれ、それぞれの整合性が重要です。
経営理念 | 企業の使命や普遍的な価値観 |
---|---|
経営ビジョン | 企業が中期的に目指す姿・方向性 |
ビジネスモデル | 事業の特徴(商品・サービスの流れ・収入構造) |
競合他社との差別化要因 | |
事業環境 | 将来の市場規模等の見込み |
競合他社の動向、新規参入、代替品等の見込み | |
経営戦略 | 経営ビジョンを実現するための具体的な施策 |
経営組織 | 経営戦略の実現に必要な組織体制 |
売上計画 | データに裏付けされた(セグメント別)売上目標 |
利益計画 | 売上計画をもとに経費計画を考慮して策定 |
設備投資計画 | 売上計画をもとにした設備投資時期および金額の計画 |
人員計画 | 売上計画をもとにした採用および育成の計画 |
資金計画 | 上記の各計画と整合した資金調達・返済の計画 |
投資家に対して会社の将来性をアピールするためには、明瞭かつ合理的な事業計画が必要となります。事業の収益性、成長性、今後の展望などを、客観的な根拠を用いて十分に説明することができれば、会社の魅力をアピールすることができます。
また、連結子会社がある場合には、企業グループの価値を判断するため、連結べースの事業計画を作成する必要があることに注意が必要です。
事業計画は、会社を取り巻く経済環境や事業活動を営む市場の状況、会社が所有する経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を考慮し、矛盾なく作成されることが重要です。
つまり、客観的なデータや根拠を収集して、できるだけ計数的に事業計画に紐づけなければなりません。また、実績あるビジネスの場合、売上高などの財務数値を売上と相関関係の高い財務項目以外のデータ(顧客数、客単価、リピート率など)を使って、その分析結果から導かれる将来予測を事業計画に反映することも有益です。
もし複数の事業を展開する場合、投資家にとって分かりやすく事業を区別されているか、ということが重要です。稼ぎ頭の事業や成長事業を区別することにより、会社の収益性や成長性が数値を伴って具体的にイメージできるようになります。
そしてまた、事業計画に基づいて策定される単年度予算について、上場後、業績予想と実績が大きく乖離した場合には、適時に業績予想を修正し、投資家に開示することが求められます。
予算の精度が上がれば、計画と実績の差異は縮小し、投資家の予算に対する信頼度を高めることができます。
事業計画の策定プロセス
ⅰ.経営理念の策定
初めに、企業の使命や普遍的な価値観を表す経営理念を策定します。
この経験理念は作り出すものではなく、「経営者の言動」を取りまとめたものともいえます。
そのため、創業からの経営者の考えや行動を羅列して精査していくとよいでしょう。
ⅱ.経営ビジョンの策定
経営ビジョンとは、経営理念に時間軸を設定し、企業が中期的に目指す姿・方向性を示すものです。
このビジョンを社内で共有することで、従業員と組織のベクトルを一致させ、全社一丸となって目標達成を目指すことが可能となります。
経営理念・経営ビジョン・全社戦略の関係
※1 全社戦略:複数事業(地域)を展開している場合、事業の取捨選択、事業ポートフォリオ(組合せ)、事業間での経営資源の分配など、企業全体に関わる戦略
※2 事業戦略:特定の事業において、いかに持続的な競争優位性を発揮するかについての具体的な施策
※3 機能戦略:事業遂行上、必要な個別の機能において実施する具体的な施策
経営理念・経営ビジョンの有用性
『ビジョナリー・カンパニー』の著者のジェームズ・コリンズ氏は、同一業種で経営理念・経営ビジョンが明確な会社と不明確な会社の業績の比較調査を実施しました。
それにより、今では企業の成長と発展にはビジョンが不可欠であるという認識が一般的になりました。同氏は、著書の中で、「達成したいと思わせるようなビジョンには、音が聞こえんばかりの吸引力がある」と言っています。
ⅲ.環境分析
環境分析は、企業を取り巻く外部環境と企業の活用できる経営資源などの内部環境の2つを対象とします。
外部環境分析には、PEST分析や業界を分析するファイブフォース分析といった手法があります。
また、内部環境分析では、バリューチェーン分析などがあり、他に、外部環境と内部環境とをあわせて分析する3C分析があります。
これらを通じて競合他社と比較して自社の「強み」「弱み」を明らかにします。なお、いずれも有用なツールですが、環境変化が激しい昨今、適宜更新することが必要です。
ⅳ.戦略策定
上記の環境分析の結果をSWOT分析、クロスSWOT分析を使って整理します。
これらを踏まえ事業戦略・全社戦略を策定します。戦略は経営ビジョンを実現するための具体的な施策であるとともに現場の方向性を示すものといえます。
ⅴ.事業計画の策定・年度予算の策定
経営ビジョンを達成するための中長期的な実行計画である事業計画を策定します。その初年度を年度予算とし、月次に展開することにより進捗状況をモニタリングします。
SWOT分析
SWOT分析というものを聞いたことはあるでしょうか。
これは、「Strengths Weaknesses Opportunities Threats」のそれぞれの頭文字を組み合わせた名前の分析方法です。
すなわち、企業内部の環境要因である自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)と企業外部の環境要因である事業拡大の機会(Opportunities)、その事業を遂行するうえでの脅威(Threats)という4つの要素を分析して、現在の会社・事業の置かれた事業環境を把握するとともに、事業戦略の方向性を検討するための手法です。
前者の内部環境の分析では、自社の「強み」と「弱み」を整理します。
また、後者の外部環境分析は、会社全体または事業別を単位とし、マクロとミクロのそれぞれの環境要因の変化から市場における機会と脅威を把握します。
上場をめざすなら、このSWOT分析の活用が必須といわれます。
なぜなら、厳しい基準を持つ上場審査に耐えられる事業計画を策定するためには、この分析が十分なされているかで明暗を分けるからです。
事業計画が企業の事業環境を十分反映した合理的なものでなければ、目標達成はかなわず、投資家に不測の損失が生じかねません。
上場審査では、そのような事態をできる限り避けるために、上場申請企業が策定した事業計画が、展開するビジネスモデルの強み・弱み、業界の環境など、事業展開していくにあたり考慮すべき要素と齟齬がないかという観点から厳しくチェックされます。
そのため、SWOT分析は必要不可欠といえます。
内部環境
内部環境を分析する主だったツールはいくつかあります。今回は、バリューチェーン分析について説明します。
バリューチェーン分析は、顧客に価値を提供するための一連の活動を「バリューチェーン」と定義します。そして、バリューチェーンを企業内部の各機能の流れとつながりを意識して洗い出しを行い、競合他社と比較して自社の強みと弱みを把握するためのアプローチを行う方法です。
バリューチェーン分析では、バリューチェーンを「主活動」と「支援活動」に分けて整理します。
「主活動」は、製品・サービスが顧客に到達するまでの流れと直接関係する活動です。
「支援活動」は、主活動を支える活動をいいます。
この分析では、自社が属する業界の一般的なビジネスモデルにおけるバリューチェーンを知ることがはじめの作業となります。その後、自社のバリューチェーンを分析して、業界モデルと比較し、同業他社との違いを検討します。
ここで、同じ活動について、他社と比較してより少ないコストで同等以上の価値を出せているか、異なった活動について、コスト以上の価値を作り出せているかを検討します。バリューチェーンを分析するとは、自社の強みを見出してより強化し、他社よりも遅れている点をあぶりだして改善をするための戦略的ツールです。
外部環境
企業外部の環境要因を把握するためには、マクロ環境と、ミクロ環境のそれぞれを分析することが必要となります。
前者は、業界内の個々の企業の行動とは無関係に生ずるもの、後者は、業界内の個々の企業によって変化し得るものです。
マクロの観点から行う分析に「PEST分析」という手法があります。
これは、
- ⓐ政治的環境要因(Politics)
- ⓑ経済的環境要因(Economic)
- ⓒ社会的環境要因(Society)
- ⓓ技術的環境要因(Technology)
という、ビジネスを取り巻く4つのマクロ環境を、現在または将来において自社が属する業界にいかなる影響を与えるものかを分析し、戦略策定を行うものです。
世の中の流れを捉える、ということが重要です。
具体的には、下記表をご覧ください。
外部環境の分析には、もう1つ、ミクロ的にとらえる「ファイブフォース分析」というものがあります。
これは、もともと、業界の競争環境を判断するものとして用いられていました。
一方で、これを個別企業に置きなおすと、業界の構造変化や、自社への影響などを把握することができるのです。
ファイブフォースという名の通り、企業を取り巻く5つの競争要因があります。
この5つによって、業界・事業の収益性を理解し、自社の業界内での立ち位置を把握することができるのです。
ここまで、様々な分析が出てきましたが、全てを完璧に行うことは大変難しいです。情報量が多すぎると、重視すべき情報がぼやけてしまい、却って意思決定を遅らせたり誤らせたりすることがあります。
そのため、抽出した多くの情報を適切に取捨選択していくことが大切です。
具体的には、事業に対する影響の大小と、想定した事象の発生可能性から情報をフィルタリングすることです。
つまり、ビジネスへの影響が大きいのであれば、その情報は十分に考慮しなければなりませんし、小さいと思われるのであれば考慮の必要性は乏しいのです。
SWOT分析の4つの要素(強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)、事業拡大の機会(Opportunities)、脅威(Threats))に情報を整理できたら、内部環境と外部環境の2つのアプローチを組み合わせて事業方向性を決めていきます。
これをクロスSWOT分析といいます。
「機会」と「強み」が一致するとき、強みを生かしていかにチャンスを取り込むことができるかといった観点から、事業戦略の判断を行います。
上場審査のための事業計画
位置づけ
上場審査上、事業計画書の提出が求められており、IPOを目指すうえでも事業計画書の作成は不可欠です。
上場企業となり一般投資家から資金を集めるためには、安定した経営基盤のうえに一定以上の利益を継続的に上げることが求められます。そのため、客観的なデータに基づく合理的な事業計画の策定が必要です。
上場後に業績予想を下方修正し、企業価値を大きく毀損するようなケースがある一方で、継続的な業績予想の達成を通じて投資家の信頼を得た結果、企業価値が向上するケースもあります。
このような状況を考慮すると、上場準備作業を通じてより精度の高い予算制度の構築が不可欠と考えられます。
対象範囲・期間
また、上場後も業績予想として売上高、経常利益などの数値を開示するため、予想と実績が大きく乖離した場合には、適時に業績予想を修正し、投資家に開示することが求められます。
具体的には、売上高が業績予想と10%以上乖離した場合、あるいは利益(営業利益、経常利益、当期純利益のいずれか)が業績予想と30%以上乖離した場合には、速やかに業績予想を修正することが求められます。
求められる合理性
前述のとおり、事業計画は、上場前の投資情報につながる開示書類であり、上場後に投資者に対して行う様々な情報開示における基礎的資料となるものです。
したがって、当該事業計画(上場時における調達予定資金の使途及びその投資回収計画を含みます。)が、上場申請予定会社の内的・外的環境に対する客観的分析に基づいて作成されていることが必要です。
また、作成された事業計画を遂行するために必要な事業基盤が整備されていること(現時点で整備されていない場合は上場後に整備される合理的な見込みがあること)が必要です。
申請会社の企業グループの事業計画は、ビジネスモデルの特徴や外部環境を踏まえ、相応に合理的に策定しなくてはなりません。
したがって、事業計画に成長戦略及び具体的な施策の内容が、そのコストや効果を含めて適切に織り込まれているかといった点について、十分な検討を行わなければなりません。
短期的な黒字化実現は必要ないですが、上場の時点で赤字を計上する計画の場合は、販売計画(売上)、投資計画(費用)、資金計画という観点からも事業計画の合理性について確認がなされます。
上場の実質審査基準は下記のとおりです。
(有価証券上場規程第207条、213条)
1.企業の継続性及び収益性 |
(1)事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて、適切に策定されていると認められること |
---|---|
2.経営の健全性 |
(1)関連当事者その他の特定の者との間で、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与又は享受していないこと |
3.企業のコーポレート・ガバナンス内及び内部管理体制の有効性 |
(1)役員の適正な職務の執行を確保するための体制が、適切に整備、運用されている状況にあること |
4.企業内容等の開示の適正性 |
(1)経営に重大な影響を与える事実等の会社情報を管理し、当該会社情報を適時、適切に開示することができる状況にあること及び内部者取引等の未然防止体制が適切に整備、運用されていること |
5.その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
(1)株主の権利内容及びその行使の状況が公益又は投資者保護の観点で適当と認められること |
市場との対話ツール
上場会社は、投資家に向けて財務情報や業界動向に関する情報などの幅広い情報を自発的に提供する活動(Investors Relations:IR)を継続して行うことになります。
これは、投資家に自社の価値を十分に理解してもらい、会社が目指す将来像とそれを実現するための戦略を理解しやすい形で示すものです。
事業計画は、目標とする財務指標、採用した戦略に対する投資額を示すなど、投資家へ具体的に説明する対話ツールとしての役割を担います。
策定におけるポイント
次に、事業計画書を作るときのポイントを、項目ごとに追っていきましょう。
作成ソフトは、WordよりもPowerPointの方がおすすめです。
なぜなら、PowerPointの方がページの追加、入れ替えが簡単にでき、プレゼンテーションの資料としてもそのまま使えるためです。
全体で30ページ程度におさまるようにポイントを押さえ、簡潔に書くことを意識するのがよいでしょう。
目次は、このようなイメージです。
❶エグゼクティブサマリー
❷全社概要
❸主要経営陣の略歴
❹事業ビジョン
❺製品・サービスの特長とビジネスモデル
❻ターゲット市場と市場規模
❼顧客・ユーザー特性
❽勝ち続けるための独自の優位性
❾戦略的提携
❿事業戦略のまとめ
⓫全体スケジュール
⓬社内組織:開発・調達・生産・営業体制
⓭実行計画
⓮数値計画
⓯事業リスクの整理と対応
この1ページで、自分の会社が行う本事業はいかに素晴らしいものであるか、誰が聞いてもすぐに納得できるように書きます。特に「勝ち続けるための独自の優位性」がはっきりイメージできるように書きます。
決してひとりよがりではなく、ターゲット市場が明確で、顧客特性と切実なニーズをよく把握し、競合状況も十分押さえた上で、非常に賢く事業を立ち上げようとしていることがありありと目に浮かぶように書きます。
❷全社概要
会社の基本的情報がひと目でわかるように、簡潔に書きます。
❸主要経営陣の略歴
これはすごい、こういう創業メンバーがやっているのなら大丈夫そうだ、と思ってもらえるよう、これまでの実績や強み、今回の事業への関連性などをわかりやすく書きます。
この創業メンバーが会社に対しどういう特別なものを持ち込むのか、聞き手(投資家)がわくわくするように表現することを意識しましょう。
学生での起業や、特に実績がない場合も、なぜ自分たちがこの事業を成功させる自信があるのか、ソフトウェア開発の経験等、第三者にある程度共感できるように書きます。
❹事業ビジョン
自分自身がわくわくするよう、また聞いた人(多くの場合、相当の疑いを持って聞いています)がはっきりとイメージを持ち、共感できるよう、簡潔明瞭かつ具体的に書きます。
大きな事業機会に対し、明確な存在意義があり、こんな素晴らしい事業はぜひ応援したい、と思えるように書きます。小手先の作文ではだめで、社長が本心から思っていることを書くことが必要です。
事業ビジョンをどう実現していくか、納得感、現実味のあるステップを示していきます。
ビジョンが壮大であればあるほど、第1ステップが確実に踏み出せるものであること、しかもその延長線上に多いなるビジョンがはっきり見えていることが重要です。
製品・技術ロードマップ等もわかりやすく示します。
事業の成長に大きく影響する2軸(例えば「ブロードバンド普及度」と「オープンソース化の進展」等)を縦軸、横軸にとり、事業ビジョンをどう実現していくか示します。
❺製品・サービスの特長とビジネスモデル
製品・サービスの特長を、図表等を使ってわかりやすく書きます。
動作原理、使い方、情報のやり取り等、全体像が第三者にひと目でわかるよう、従来製品、従来サービスとの差がはっきり示します。
特に、説明を受けたこの分野の素人が「なるほどこれはすごい」と直感的にわかり、同僚等にわかりやすく説明できるかを留意します。
なぜこのビジネスが急成長し、十分儲かるのか、どこで収入を得るのかがこの分野の素人でもわかるように書きます。
技術がどれほど優位かではなく、この事業で大きな利益を上げられると考えている明確な根拠、メカニズムを図でわかりやすく書きます。
❻ターゲット市場と市場規模
本事業のターゲット市場がどこなのか、できるだけ具体的に書きます。
ネット通販、ルーターといったあいまいな表現ではなく、その中の特にどの分野をターゲットにしているのか、そこがどのくらい大きな市場でどのくらい成長しているのか、分かりやすく書きます。
例えば、広告収入を基にしたビジネスモデルの場合は、どれだけのネットユーザーをどうやって獲得するのか、競合サイト等と競争してどのように獲得するのかを納得できるように書きます。
❼顧客・ユーザー特性
ターゲットとする顧客の切実なニーズは何か、どういうことにどのくらいお金を使っておりそれを置き換えることができるのか、できるだけ具体的に書きます。
あればいい、程度では購入につながらないので、なぜ飛びついてくれるのか、顧客の購買決定プロセスまで踏み込んで顧客特性を説明します。
ネット系ビジネスの場合は、ネットのユーザーが何を求めていて、どういうサービスに飛びつくのか、あまたある同業サービスとどう違うからそれらのユーザーを取り込むことができるのか、ひとりよがりにならないよう説明します。
❽勝ち続けるための独自の優位性
なるほど、これなら勝つな、手ごわい相手にも十分勝てそうだ、とこの分野の素人が聞いて納得できるように書きます。「技術が素晴らしい」という説明では不十分です。
必要に応じ、競合製品・サービスとのスペック比較をわかりやすく提示します。
この1ページで誰の目にも、自社製品・サービスが最も優れていることがわかるよう、比較がひとりよがりにならないように書きます。
試験条件の違い等、わかる範囲で漏れなく示し、後で突っ込まれて弁明し信頼を傷つけたりしないよう留意します。 従来の導入プロセスに比べどのくらいの時間短縮が可能か示します。
知的財産についても十分考え、押さえているな、競合他社の参入を防ぐ的確な戦略を取っているな、と納得できるように書きます。特許ポートフォリオはどの部分をどう押さえているのか、わかりやすく示します。 特許ポートフォリオは、関連技術の全体像を示し、どの部分をどう押さえているのか、どのように競合の参入を阻止するのか、わかりやすく示します。
❾戦略的提携
なるほどこういう会社とこんなにうまく提携してやっていくのか、これなら人の力もうまく活用し、自社の強みに集中して事業を立ち上げることができるな、とこの分野の素人にも一目で理解できるように書きます。
戦略的提携で自社の弱みをどう補完できるのか、全体としてどれほどすごい戦闘力を発揮できるのか明示することが大事です。
メーカーの場合の生産機能の外部委託等、ビジネスを成り立たせる主要構成要素は漏れなく書きます。
❿事業戦略のまとめ
この1ページでSWOT分析(強み、弱み、脅威、事業機会)やそれに基づく事業成功のポイントがわかりやすく説明できるように書きます。規制等も書きましょう。
⓫全体スケジュール
製品・サービスの速やかな事業化に向けてのスケジュールを、重要なマイルストーンで表現します。
近未来については少し細かくします。
例えば、
・仕様決定
・開発
・基本コンセプトの実証
・αサイト立ち上げ、評価、認定
・市場参入
・新製品ロードマップ
資金調達に関しても、上記のマイルストーンと連動し、安全を見越しながらどういう手順で進めていくのかを書きます。
⓬社内組織:開発・調達・生産・営業体制
開発・調達・生産・マーケティング・営業に対しどういう体制で取り組んでいるのか、人材確保の状況がどうなるのか等、会社の状況に応じてわかりやすく説明します。(場合により数ページ)
⓭実行計画
製品・サービスの速やかな事業化に向け、主要な実行課題が何で、誰がいつまでにどこまで実行するのか、わかりやすく説明します。
⓮数値計画
売上・利益計画の試算条件を整理します。
通常、ベースケースとその上下のケースを想定すると、ある程度納得感を得やすいです。厳密な数字にはあまり意味がなく、ふれ幅を大きく押さえられるように表現することが鍵です。
⓯事業リスクの整理と対応
考えうる主な事業リスクをきちんと把握し、対応策も含めて十分考えているな、安心できる経営陣だなと思えるように書きます。
上場日までのスケジュール
IPOのステージを、おおまかに区分すると、以下に分けられます。
IPO目標時期の設定について
IPOの準備作業を進めるにあたって、基本的に、下記の5つの観点から上場時期の検討をし、作業スケジュールを仮決めして、内部管理体制の整備対応や、申請書類作成等の準備作業を完遂できるかどうかについて、綿密なデューデリジェンスを行うことが重要です。
デューデリジェンスとは、資産や企業の価値、収益力、リスクなどを詳細かつ多角的に調査・評価することをいいます。
ここで、上場審査基準や審査上の観点、上場会社としての企業運営に求められる内部管理体制の水準等に照らして、自社の改善点、整備すべき点をあげ、それらに対応する時間と人を合理的に確保することが求められます。
さらに、株式上場を踏まえた中長期的な事業展開・成長戦略等を描いたうえで、堅固な管理基盤ができた、“すべてのステークホルダーから評価される骨太な成長企業”を作り上げることを目標にして、時期の設定をしていくのです。
①経営目標、経営戦略(経営計画)の観点からの検討
株式上場を行う最大の目的は、市場からの資金調達を行い、その後の成長に向けた投資資金の獲得といえます。
ただ、なかには、特定株主の保有株式の激動化が第一の目的としているような場合や“人材の確保や社会的知名度の向上のために早く上場したい”というような思いを持っている企業もあります。どちらにしても、企業の成長戦略の遂行や、経営目標の達成に向けた手段といえるでしょう。
したがって、IPOスケジュールを考えるうえでは、ます第一に申請会社の中長期的な経営戦略において、
- 「どのタイミングで株式上場(資金調達)を行うことが、事業戦略を実行する上で最も効率的か」
ということを十分に見極めなければなりません。
一例として、すでに一定の経営基盤を確立し、これからボリュームの拡大を図りたい企業では、株式上場により、新たな資金を調達することによって経営基盤の拡張が図られ、更に広範な販売チャネルへの情宣効果が期待されることから、高い確率で上場による企業価値の拡大が期待できます。
一方で、未だビジネスモデルや経営基盤が不安定な企業では、仮に取引所から上場承認がおりたとしても、市場からの評価が十分得られず、想定していた資金調達ができないばかりか、上場準備とに伴う実務負荷やコスト増大によって、企業の根本的な運営に支障が生じることもあり得ます。
したがって、ここでは申請会社の経営体制が上場会社としての運用に耐えられるレベルまで整備し、また事業成績が市場から相応の評価を得たうえで、上場によって、より経営拡大が期待できるタイミングはどこか、ということを、合理的・客観的な根拠から見つけ出すことが極めて重要といえるでしょう。
②上場審査基準を充足するタイミング
上場審査では「形式要件」と「実質基準」の2つの基準を充足することが必要となります。
形式要件の充足については、業績の絶対水準、株主数、株式の流動性の確保、監査法人からの監査意見の表明等が求められています。これらを充足するうえで、業績の確保は当然、資本政策の実施や、法令規則に沿った会計処理体制の整備が必要です。
また、実質基準の充足においては、申請会社のコーポレート・ガバナンス、内部管理体制、適時開示にかかる体制等が十分に整備され、実際に上場企業と同等の水準で運用されていることが求められます。
ここで大切なのは、こうした状況が客観的な証跡に基づいて確認できることです。
具体的には、各種議事録や監査調書、経営管理資料等からこうした状況と確認され、更にそれら複数の根拠が多面的に整合するものでなければならないことに留意する必要があります。
複数の上場基準のうち、株主構成や会計処理面の整備等については、かなり時間を要する可能性もありえます。内部管理体制についても、運用の十分制を確認するうえでは、一定の期間運用実績を積み上げておく必要がでてきます。
従って、上場までの計画を考えるには、上場審査基準に照らして対応が必要な課題を抽出し、それらの整備の難易度や負荷(時間及び費用等)といった状況を慎重に見極めることが必要です。特に、実質基準にかかる運用期間の確保については注意しましょう。
③投資者等が期待する収益基盤・成長基盤の確立タイミング
上場を達成するには、証券会社や取引所による審査において基準を充足することが必要であることはいうまでもありません。
それとともに、上場時の公募・売出しが、投資家の投資意欲をくすぐるものかどうかが、上場時の初値形成からその後の株価推移において重要なポイントです。
これらに注意しながら、スケジュールの判断を行うことが重要です。
ファイナンスにおける実務対応について若干触れておきます。
公募・売出しにかかる株価の決定に際しては、上場承認後に証券会社が機関投資家等の市場関係者に対して需要調査(プレマーケティング)を行い、ここで得られた評価や投資意向をもとに、想定される適正株価(フェアバリュー)について総合的な判断を行い、そこから更に一定割合のディスカウント(IPOディスカウント)を行ったうえでブックビルディングの仮条件を設定することになります。
これにより、最終投資家がブックビルディングに応募する価格水準(仮条件レンジ)は、機関投資家等の平均的な評価により幾分か低位に設定されることになるため、投資家の需要喚起が図られることになるわけです。一方、寄付き後の株価が順調に推移するためには、本来の会社自身の成長性が投資家から十分に評価され、初値後の市場価格を基準にした場合にもなお、将来の株価上昇が期待できるものでなければならないのです。これが得られない場合には、新規上場の“初物買い人気”による売買高の剥落とともに、株価は下落の一途をたどることになりかねないことに留意する必要があります。
このため、上場の時期を考えるうえでは申請期(上場事業年度)意向の業績が、株式上場による資金調達を通じて更に拡大することが期待でき、またその水準が他の既存銘柄群と比較しても遜色ない(あるいは凌駕する)状況にあることが望まれます。このため、仮に成長を担う収益基盤が未だ不安定な状態で上場しようとしても、募集時の株価算定において会社側が意図するような資金調達が行えないばかりか、上場後も株価が低迷し、既存株主をはじめIPOの公募・売出株式を購入した、いわば“会社のファンである投資家”に対しても迷惑をかけてしまうということに十分留意しておかなければなりません。
④資本政策実行の観点
前述の通り、上場準備を始めるにあたっては、形式要件への充足を含め、上場時点での資金調達や株主構成を見据えた合理的な資本政策を策定・実施していくことが必要です。
上場後の流動性や安定株主の確保、一方で社内の役職員に対するインセンティブ等といった種々の事情に配慮しながら、必要な株主移動や新株予約権の付与等を進めることがのぞましいといえます。
また、上場前の増資等については取引所のルールにより一定の制限(各取引所の定める「上場前の公募又は売出し等に関する規則」、東証「有価証券上場規程施行規則第255条~263条」等を参照)が課されており、更に上場審査においても、申請直前期以降の株移動や資本政策の実施については、“IPOに伴う短期利得”や“特定の者による株集め”等の行為が行われていないか、といった点が確認されることから、こうした事項について慎重な配慮を行う必要があります。
⑤社内管理体制整備の時間的猶予
こちらも前述の通り、上場審査基準(実質基準)の充足に関しては、申請会社のコーポレート・ガバナンス体制や内部管理体制が整備されたうえで、一定の期間において上場企業と同様の水準で運用されていることが求められます。
この“一定の期間”の考え方については、企業の規模や業態等によって一概に規定はできないものの、“申請直前期1期間”という考え方が一般的です。
そのため、上場準備スケジュールを策定するうえでは、申請直前期の期初までに基本的な社内体制の整備作業が完了し、その後の1年間(申請直前事業年度)について良好な運用実績が確保できるような時間軸の設定が必要と考えられます。
グロース事前チェックリスト
参考までに、グロース上場にあたってチェックしておくべきものを以下に示します。
株式会社東京証券取引所が解説しているものです。
※市場区分の見直しをおこなった東京証券取引所により、2022年4月4日に、「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」の3つの市場区分がスタートしました。
詳しくはこちらをご覧ください。
⑵.経営管理組織は有効に機能していますか
①取締役会について
②監査役について
③独立役員について
④会計参与について
⑤内部監査について
⑥内部統制・社内規程について
⑦業績管理について
⑧その他経営管理上の留意点について
⑶.企業内容の適時・適切な開示に向けた準備は進んでいますか
①社内体制について
②開示書類について
③業績等の開示について
④会計処理について
⑤事業年度(決算期)の変更について
⑥会計情報管理について
⑷.会社関係者等との取引により、企業経営の健全性が損なわれていませんか
⑸.上場申請にあたり、その他の留意すべき点への対応は図られていますか
①親会社等について
②その他について
⑹.ヒアリングに向けた準備は進んでいますか
①事業内容に関する詳細
②事業計画
③上場時における調達資金の使途
④上場申請期の業績見通しなどの将来予測情報の公表について
⑤経営管理体制の整備・運用状況、内部管理体制
⑥適時開示体制等の整備状況
⑦親会社等との関係、企業グループの状況
⑧関連当事者等との取引等
⑨係争・紛争事件、法令違反
⑭その他
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