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【企業向け】リファラル採用とは?~メリットやリスクをおさえよう~

Q 
弊社では、リファラル採用を検討しています。
モチベーションアップのため、採用に至った場合には紹介者にボーナスを支給しようと思いますが、問題や留意点はありますか?
リファラル採用や、社員紹介制度を採用する場合の注意点を教えてください。

A
従業員を通じてリファラル採用を行う場合には、

①当該従業員の雇用契約上の業務として行ってもらい、
 かつ、
②賃金や賞与としてリファラル採用の報酬を支払う必要がある点

に注意をしてください。

(解説)
リファラル採用は、第三者を介さず、直接、会社が候補者に対して、アプローチをかけ、募集活動を行うもので、自社の風土とマッチした人材を見つけやすく、通常の中途採用より早期離職を抑えられるという効果が期待できるといわれています。

今回は、このリファラル採用を行う場合の問題点について解説していきます。


澤田直彦

執筆:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。

本記事では、
「【企業向け】リファラル採用とは?~メリットやリスクをおさえよう~」
について、詳しく解説します。

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リファラル採用(社員紹介採用)とは
従業員を採用する方法の1つで、企業が自社の社員から人材の紹介を受ける手法をいいます。

職業安定法(職安法)の問題

許可や届出の要否

ご質問の例における、自社の社員によるリファラル採用が、職安法で規定される「労働者の募集」や「職業紹介」に該当すれば、許可や届出が必要となる可能性がありますので、この点について確認していきましょう。

ア 「労働者の募集」に該当するか否か

職安法では、「労働者の募集」に関して、職安法4条5項により、以下のように定義し、「労働者の募集」のうち委託募集に関して、その規律を設けています。

~職業安定法4条5項~
この法律において「労働者の募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。
~職業安定法36条~
労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとするときは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。

そして、この「労働者の募集」は募集・求人業務取扱要領によれば、次の3種類に分類されます。

  1. 文書募集……新聞,雑誌その他の刊行物に掲載する広告または文書の掲出もしくはその頒布による労働者の募集
  2. 直接募集……労働者を雇用しようとする者が,文書募集以外の方法で、自らまたはその被用者をして行う労働者の募集
  3. 委託募集……労働者を雇用しようとする者(募集主)が、その被用者以外の者をして労働者の募集に従事させる形態で行われる労働者の募集(職安法36条)

このうち企業は、①文書募集(インターネットを利用して行う募集も含む)と、②直接募集については、原則として自由に行うことができます。

これに対し、③委託募集については、上記で説明したように、被用者以外の者に報酬を与えて行わせる場合には厚生労働大臣の許可を得る必要があり、無報酬の場合でも厚生労働大臣に届け出ることが必要とされています。

ご質問のケースでは、自社の社員によって、リファラル採用を行うものであり、上記②の直接募集に当たり、職安法の「労働者の募集」としての規律は受けないことになります。

※ そもそも、厚生労働省は「労働者の募集」に該当するかどうかの1つの判断基準として、労働条件などの明示義務について定めた職安法5条の3に規定される内容を明示しているかどうかをあげています。

これは、職安法42条が「募集内容」として同法5条の3に規定される労働条件などを掲げていることを理由としています。そのため、社員が自社を紹介するだけで、労働条件などが示されていない場合には、それは単なる情報提供にすぎず、「労働者の募集」に該当しないと判断される余地もあります。


なお、同じ企業グループ内において、ある会社の社員が別の会社の企業から委託を受けてリファラル採用を行う場合には、上記③委託募集に該当する可能性があり、その結果、職安法上許可又は届出が必要になる可能性があるので、この点は注意して下さい(労働者募集業務取扱要領参照)。

イ 職業紹介について

職安法に規定される職業紹介に該当する場合には、一般企業が行う場合においては、無料であっても有料であっても厚生労働大臣の許可が必要となります(職安法30条、33条等)。
そして、職業紹介とは、職安法4条1項で以下のように規定されています。

~職安法4条1項~
この法律において「職業紹介」とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。

ここにいう「雇用」とは、「広く社会通念上被用者が有形無形の経済的利益を得て一定の条件の下に使用者に対し肉体的、精神的労務を供給する関係にあれば足りる」と解されています(最一小判昭和29年3月11日刑集8巻3号240頁)。

よって、形式上「業務委託契約」と記載されていても、上記職安法にいう「雇用」に該当する例も実際には多く存在するでしょう。

また、判例は、中間搾取防止の観点から「職業紹介」を広く解しており、職業紹介におけるあっせんとは、「求人および求職の申込を受けて求人者と求職者の間に介在し、両者間における雇用関係成立のための便宜をはかり、その成立を容易ならしめる行為」として広く定義されています(最決昭和30・10・4刑集9巻11号2150頁)。

※ そのため、いわゆる人材スカウト(ヘッドハンティング)も職業紹介に当たると考えられます。
人材スカウトは、求人者の依頼を受けて労働者を探し出し、求人者に紹介して就職させることをいい、求人者の募集活動の代行という側面が強く、一般の民営有料職業紹介とは異なる面がありますが、判例は、職業紹介におけるあっせんを広く考える立場から、人材スカウトもあっせんとして職業紹介に含まれると判断しているのです。


以上のような観点から、ご質問の例にあるリファラル採用ついても、職業紹介に該当するのではないか一応問題になり得るかと思います。

しかし、ご質問の例においては自社の社員が業務上、行うのであれば、社員の行うリファラル行為は、求人者の行為といえ、第三者が「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんする」行為にはならないと考えられるでしょう。
そのため、職業紹介に該当しないと結論づけることができます。

ウ 許可や届出の必要性について

以上により、ご質問の事例においては、職安法上の許可や届出は必要ないということになります。

令和4年10月に、改正職業安定法が施行されました
おさえるべき重要な事項が複数ありますので、詳しくは、【令和4年10月施行!】改正職業安定法のポイントをおさえようの記事をご参照ください。

報酬額について

職安法上の規制

職安法40条は、以下のように規定しています。

労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。

そのため、ご質問の例によると、リファラル採用や社員紹介制度に基づいて社員に報酬を支払うことが、職安法40条に供与が禁止されている「報酬」に当たらないかが問題となります。

もっとも、職安法40条では、「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合・・・を除き」と規定されているので、紹介料という形で支払うのではなく、「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合」として金銭を給付すれば、同条には抵触しないと考えることができるでしょう。

従って、リファラル採用や社員紹介制度に基づく報酬を賃金規程に定めること、また、具体的に支給基準や支給額を明確にしておくことが重要と考えられています。

例)従業員から紹介を受けた人材を会社が採用したときは被紹介者1名につき、5万円を上限として、人材紹介手当を支給する。

労基法上の規制

ア 中間搾取の廃除について

労働基準法6条は、以下のように規定し、法律に基づいて許される場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならないと規定しています。

~労働基準法6条~
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

第三者が労働者の就業に介入して中間搾取や人身売買的な就業斡旋を行い、労働者を継続的に支配することを防止するための規定です。

上記の「業として」とは、営利を目的として同種の行為を反復継続することをいい(1回の行為であっても反復継続して利益を得る意思があれば足ります)、「他人の就業に介入」とは、労働者・使用者の間に介入し、労働関係の開始や存続について媒介・斡旋を行うなど、何らかの因果関係を有する関与を行うことをいうとされています。

法律に基づいて許される場合」としては厚生労働大臣の許可を得て行う有料職業紹介(職安法30条)、委託募集(職安法36条)等があります。
設問の事例のように、直接募集を行う場合、「法律に基づいて許される場合」に準じると考えることもできるでしょうし、また、会社の社員が会社の業務として行うからこそ、職業紹介に該当しないという立て付けですから、他人の就業に介入するという関係にもないという理屈も可能だと考えられます。

いずれにしても、ご質問の事例が労働基準法6条に違反するものとは考えられないのではないかと思います。

イ 残業代の基礎単価

労働基準法施行規則21条4号では、「臨時に支払われた賃金」は、残業代(割増賃金)計算の基礎となる賃金から除外されます。
リファラル採用や社員紹介制度に基づく報酬が、上記「臨時に支払われた賃金」に該当するとすれば、残業代の基礎単価にはならないでしょう。

もっとも、上記「臨時に支払われた賃金」とは、労基法12条4項と同義であり、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」をいいます(昭22.9.13発基17号)。例えば、私傷病手当、加療見舞金、結婚手当等が該当します。

そのため、リファラル採用や社員紹介制度に基づき支払う報酬の頻度が多い場合には、上記「臨時に支払われた賃金」に該当せず、結果として、リファラル採用に基づき支払う報酬が割増賃金の基礎に入れられてしまうようなケースもあるでしょう。
このようなケース避けたいのであれば、リファラル採用の実績を賞与として支給することがよいと思われます。

ウ 金員以外の支払

リファラル採用や社員紹介制度を採用して、金員ではなく現物(例えば腕時計等)を支給したいと思うかもしれません。

しかし、労働基準法24条1項では、「賃金は、通貨で、...支払わなければならない。」と規定されていることから金員以外を「賃金、給料その他これらに準ずるもの」として支払うことは同条に違反するものとして認められません。

そのため、社員の紹介に対する報酬として金員以外の支払をすることは、労働基準法24条1項に抵触するおそれがありますので、ご注意ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

リファラル採用や社員紹介制度は、社内の事情をよく知っている社員が会社に合うと思える人を積極的に推薦してくれるようになれば、会社にフィットする人材を見つけやすいというメリットがあります。

企業において、このような制度の採用を検討される際には、本記事を参考にしていただき、職安法や労働基準法に準拠した賃金規程の策定、そして、運用を心掛けていただければと思います。


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