澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人運営し、各種法律相談を承っています。
本記事では、
「株式上場(IPO)のメリットとデメリットを把握しよう!」
について、詳しくご説明します。
本記事は株式上場(IPO)のメリット・デメリットについて記載しているため、まずはIPO(株式上場)とはについて解説している株式上場(IPO)とは~市場について~をお読みください。
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株式上場(IPO)のメリットとは
知名度や社会的信用度の向上
企業は株式上場することで、テレビや新聞、雑誌等のメディア媒体に取り上げられる機会が多くなり、知名度は大幅に上がります。
IPOに関するメディアの取り上げは、上場する前からなされることが多く、まずは上場日の約1か月前に取引所から公表される上場承認の日に世間から注目を集めることになります。
取引所のホームページで新規上場会社の欄に企業概要欄等が掲載され、企業側からも募集株式発行や業績予想のプレスリリースがされます。
そうすると、早ければ、上場承認当日の夕方には、金融情報ベンダーにIPO関連の記事が掲載され始めます。
そして、翌朝の日本経済新聞といった一般紙の企業金融欄に、上場承認された旨の記事が掲載されるため、これらを見た金融関係のマスコミによる取材が増え、企業の知名度は飛躍的にあがるといえます。
また、同時期に企業側は、主幹事証券会社がセットする機関投資家向けの「ロードショー」と呼ばれる説明会を行い、主幹事証券会社等の引受証券会社は、ブックビルディングの際に国内投資家もしくは海外投資家に対してブックビルディングへの参加を呼び掛けることから、投資家の間でもその名が知れ渡ることとなります。
そして、上場日には、様々な媒体で最初の株価とその後の株価動向が記事となり、上場日以降は取引所が開いていた日の翌日の新聞の株式欄に株価が日々掲載されるため、日常的にその企業名が多くの人の目に留まります。
このようにして、企業の知名度が向上すると、その信用度もまた上がると言えます。
なぜなら、株式上場をするには厳格な上場基準をクリアしなければならず、その過程で、
- 会社内での不正や違法行為を抑制する内部統制組織や内部けん制機能を構築している
- 安定的な利益を計上し、持続的な成長を目指す組織体制の強化をしている
- 監査法人による財政状況の開示の適切さが担保されている
といえるからです。
以上のように、企業の知名度や社会的信用度が向上することによって、営業や今後の事業展開にも良い影響与えるだけでなく、優秀な人材の確保や維持をすることができるといえます。
資金調達機能の向上、財務内容の充実
未上場の際は、借入やシンジケートローン、私募債といった銀行からの資金調達がメインとなっており、これらはバランスシート上では負債の部に記載されるデットファイナンスとして返済が必要となるものでしたが、IPOをすることで、これらの資金調達に加えて資本市場からの様々な資金調達が可能となります。
例えば、公募増資や新株予約権付社債の発行が可能になり、これらは純資産の部に記載されるエクイティファイナンスとして返済不要な資金となります。企業が発展していき、一定の格付機関によって格付の取得が可能な財務状態になれば、公募による社債発行も可能と言えるでしょう。
また、デットファイナンスについても、上場企業として企業の信用度も向上しているため、限度額や融資条件等の借入条件も緩和されて容易に資金を借り入れることができます。
他にも、直接的な資金調達能力の向上ではありませんが、金銭消費貸借契約やリース契約を締結する際に、未上場であれば経営者が連帯保証を求められることが多くありますが、IPOをするにあたって経営者の連帯保証契約は特別利害関係取引としてみなされてしまうため、解消をすることになります。
経営者が負担することで、潜在的に企業に対して求償をする関係があると、経営者と企業の利害が相反する可能性があるといえるからです。
上場することができれば、上場によって財政基盤が強化されて貸倒れしてしまうリスクが減少するため、上場申請前に金融機関は上場を条件として連帯保証を解消します。
資金調達機能が向上することで、自己資本比率が上がるため、財務体質はより強化されることとなります。
もっとも、上場したからといって、上場後の株価動向が堅調である、今後の業績の見通しが良好であると評価されなければ、このような市場での資金調達を行うことは難しいため、株式上場計画の中で資本政策として上場時及び上場後のファイナンス計画をしっかりと立てておく必要があります。
社内管理体制の強化
上場企業となると企業はパブリックカンパニーとして組織的な会社運営をしなければなりませんが、上場準備を進めていく過程で、必然的に組織構成の整備や内部管理体制の構築をしなければならず、未上場の段階と比べて優良な組織体制になっているといえます。
企業の不祥事や業績の低迷といった事情で一瞬にして企業が消滅することのないように、上場準備をする中で、組織規程や組織図の作成や整備を行い、組織における機能の重複や不要な機能の洗い出しをすることが最優先となります。
また、業務を円滑に遂行できるよう、
- 重要意思決定経路や各職位の職務権限と責任の明確化
- 職務分掌規程や職務権限規程、稟議規定の作成・整備
をすることも必要となります。
インセンティブプランの充実強化
IPOによって、株式が市場価値を有するようになるため、役員や従業員に対して、ストックオプションや従業員持株制度といったインセンティブプランを用意することができるようになります。
報酬が自社株式であれば追加コストはかからず、さらに株価の上昇に向けて従業員の職務意欲が向上するといったことも考えられるので、経営者と従業員のそれぞれにメリットをもたらすといえます。
また、充実した報酬体制や福利厚生は、優秀な人材を確保する上で非常に有効な手段と言えるでしょう。
株式交換制度等の活用可能性
M&Aや組織再編、事業締結等を行う際、対価として現金を使用する場合、一度に多額の現金が流出してしまうことにより、一時的ではあっても自己資本比率が低下してしまうことになります。
もっとも、対価として株式を支払うことができれば、現金の流出を防いだ状態で買収等を行うことができ、IPOをしている企業であれば、市場で高い株価がついていることが多いため、現実に実行することができると言えるでしょう。
こうして株式交換制度を利用することができれば、企業の財務状態に多大な影響を与えなくて済む上、スムーズに買収を遂行することができます。
株式は市場において換金性を持つことになるため、一般株主は好きなタイミングで株式を売却することで資産形成を図ることができます。
また、自社株式を有しているオーナー経営者の場合、IPOに伴って保有株式を売り出すことで、創業者利潤を獲得することができます。オーナーの相続対策としても、相続対象が相対的取引でしか評価されない株式よりも、市場価格のある株式となれば、トラブルを防ぐことができるため有効な手段といえます。
従業員は上述したインセンティブプランによって株式を保有している場合、市場で売却することで、資産を形成することができるだけでなく、上場準備の過程で退職金制度や賞与制度が創設されていれば、さらに金銭を取得することができます。
また、IPOをすることで、会社の知名度や社会的信用が向上するだけでなく、企業イメージやブランド力も飛躍的に上昇するといえるため、従業員のモチベ―ジョンや定着率も上昇することが考えられます。
株式上場(IPO)のデメリットとは
会社情報の開示義務、開示の対応コスト
上場会社となれば、パブリックカンパニーとしての社会的な責任を果たすと共に、不特定多数の投資家や株主の期待に応えなければならず、このようなステークホルダーに対して、適示・適切に企業情報を開示しなければなりません。
また、金融商品取引法に基づく開示義務および証券取引所の要請によって、有価証券報告書・四半期報告書の提出義務、四半期ごとの決算発表・適示開示情報等の公表といったディスクロージャー義務を果たす必要があります。
さらに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」により、経営者は財務報告に係る内部統制について自ら評価し、その結果を外部報告し、公認会計士等による監査も受けなければなりません(新規上場後3年以内の企業で監査免除を採用する企業は除く)。
これらの報告書の作成にかかる人件費や労力、対応することのできる社員の人材育成といったことが必要となります。
経営権を奪われるリスク、買収対策コスト
不特定多数の株主が保有株式を市場で売却できることから、敵対的買収や株式買い占めがなされ、経営権を奪われる可能性が生じます。
各取引所の上場基準では、流通株式数を一定数以上に確保しなければならない上、広く株主から出資を募って売買を活発化させなければならないため、市場に流出させる株式の数を自社の都合に応じて抑えるということはできません。
そのため、株式の流動性を確保ししつつも、安定株主を確保していかなくてはならなくなります。
もっとも、時価総額の多寡と買収リスクは反比例するため、同じ流通株式数であっても、時価総額が大きい会社であれば、買収や買い占めをされるリスクは比較的小さくなるといえるため、企業価値を正確に反映させることも重要となってきます。
株主への対応によるコスト
IPO後は経営に直接携わることのできない不特定多数の株主のために、会社法に基づき、年に1回株主総会を開催しなければなりません。
株主総会を開催するには、株主宛ての招集通知や同封する事業報告書、計算書類等の印刷費・郵送費、会場費、人件費といったコストがかかります。
また、将来にわたる継続的な投資をしてもらうためにも、株主向けのIR活動を行っていく必要があり、IRコンサルティング会社に支払う報酬費用等も発生します。
株主総会資料の電子提供制度とは、定款で定めていれば、株主総会資料を自社のホームページなどのウェブサイトに掲載したうえで、株主に対し、そのサイトのアドレス等の通知をもって、株主総会資料を提供したとみなすことができる制度です(会社法325条の2以下)。
詳しくは、「株主総会の省略と議事録作成法【ひな形付】~改正法「株主総会資料の電子提供制度」も~」記事をご参照ください。
上場維持のためのコスト
上場したことによって、知名度はある程度向上しますが、新聞の株式欄に日々掲載される株価だけでは、新規株主の増加は見込めません。
広報部やIR部、経営企画部といった部門が会社の製造部や営業部門のブレイン的役割を果たし、収益部門が最大限その能力を発揮することができるよう、効果的な広告を打つ、多少コストがかかるようなものであっても経営戦略を練って公表していく、といったことをしていかなければなりません。
自社株の管理にかかる労力
自社株の株価が適切に企業価値を反映しているか、日々確認しなければなりません。
株価は過大評価も過小評価もされてはならないですが、近年インターネットで真偽にかかわらず、企業情報が駆け巡るため、広報部はホームページの管理や広告といった業務だけではなく、風説の流布がなされていないか確認することが必要となっています。
もし、適切でない自社の評価がなされていると判断された場合には、経営者はIR等を通じて適切な説明をしなければなりません。
また、インサイダー取引については特に注意しなければなりません。
管理部門の役員だけでなく、一般の従業員に対しても、日頃より概要や注意事項を周知させる必要があります。
まとめ
IPOによるメリット・デメリットについて解説しました。
デメリットもありますが、やはりIPOを行うことによって得られるメリットは、他の企業戦略と比べても非常に大きく、近年の株式市場は、新興市場の規制緩和や違法行為の予防を目的とした市場の整備等によって、より成長途中の企業が上場しやすい環境が整っていると言えます。
直法律事務所はこれまで、数多くの各種法律相談を受け、企業IPOも積極的に支援してきました。
幅広い業種の企業の顧問をつとめており、各種業界に精通する弁護士が在籍しています。IPOについて検討している、悩みがある企業様、ご担当者様は、お気軽にお問い合わせください。
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