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先買権と共同売却権とは?株式譲渡を制限する契約条項の仕組みを解説

Q
創業したITスタートアップが成長し、ベンチャーキャピタルからの新株発行による資金調達を進めています。投資家から提示された株主間契約書案に「先買権」や「共同売却権」といった条項が含まれていました。

これらの条項は、自分が将来株式を売却したい場合やM&Aによるエグジットを目指す際に、どのような制約となるのでしょうか。投資家がこれらの権利を求める背景や、創業者にとっての影響を教えてください。


A
スタートアップの成長は、創業者などの人間関係や新規事業への熱意が重要な要素となります。そのため、投資家としては、創業者等が経営に従事し続けることを前提に投資をします。

しかし、創業者等が有する株式を第三者に売却してしまうと、創業者の会社経営に対するインセンティブが低下する恐れがあります。会社法上の譲渡制限だけでは創業者等の譲渡を完全に禁止できません。そこで、これを防止するべく、先買権や共同売却権といった条項が株主間契約に置かれることがあります。

「先買権」とは、創業者等が保有株式を第三者に譲渡しようとする場合に、投資家が同じ条件で優先的にその株式を買い取れる権利を指します。他方、「共同売却権(Co-Sale Right)」は、創業者等が株式を売却する際に、投資家も自身の株式を同一条件で一緒に売却するよう求めることができる権利のことです。

なお、M&A時には「ドラッグ・アロング(強制売却権)」という条項もあります。


この記事では、先買権や共同売却権の仕組みと手続きの流れ、ドラッグ・アロング・ライトとの関係、投資家間で適用されるその他の契約条項について、実務上の留意点を交えながら解説します。


澤田直彦

監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、「先買権と共同売却権とは?株式譲渡を制限する契約条項の仕組み」について、詳しくご説明します。

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創業者等の株式譲渡を制限する「先買権」と「共同売却権」

株主間契約においては、創業者など一定の株主が自由に株式を処分することを禁止する規定を置くことが多いです。その代表的な制度が「先買権」「共同売却権」であり、いずれも投資家の利益を守りつつ、創業者等の事業へのコミットメントを確保する目的で規定されます。

スタートアップが発行する株式は、会社法上の譲渡制限株式(株式の譲渡に株主総会や取締役会の承認を要する株式)であることが一般的です(会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)。

しかし、法律上の譲渡制限では、株式譲渡について会社の承認が得られなくても、会社または会社が指定する者に株式の買取りを請求できるため(同法第136条、第138条第1号ハ、第140条)、創業者等が株式を手放すこと自体を完全に阻止することはできません。

そこで、株主間契約で創業者等による株式の処分を直接的に禁止する旨を定め、違反した場合に契約責任を問えるようにすることも考えられます。しかし、創業者等にとっては、個人の財産である株式の処分を全面的に禁止されることには抵抗があります。

そのため、一定期間の譲渡禁止とする規定を設けたり、会社法上の譲渡制限を補完する仕組みが用いられます。「先買権」と「共同売却権」は、この補完を実現するための具体的な手続として位置づけられます。

経営者のモチベーション維持を図る制度の目的

スタートアップの成長は、創業者などの人間関係や新規事業への熱意が重要であるため、投資家がスタートアップに出資する際には、創業者等が経営に従事し続けることが前提とされています。しかし、創業者等が有する株式を第三者に売却してしまうと、創業者の会社経営に対するインセンティブが低下する恐れがあります。

こうした背景から、投資家は、創業者等が自社の株式を保有し続けることを重視します。先買権や共同売却権は、一定の手続を経なければ株式を譲渡できない仕組みであり、これらにより、創業者等の株式譲渡の意欲や機会を抑制し、事業発展へのコミットメントを促す効果が期待されます。

実際に、これらの手続を乗り越えて第三者に株式を譲渡することは困難な場合が多く、事実上の株式処分の抑止力として機能しています。

譲渡希望株式を優先的に買い受ける「先買権」

「先買権」とは、創業者等が自らの株式を第三者に譲渡しようとする際に、投資家がその株式を同一の条件で優先的に買い受けることができる権利を指します。英語ではright of first refusal(ROFR)と呼ばれます。

なお、最初に投資家に購入意思の有無を確認する必要がある形で規定される場合はright of first offer(ROFO)と呼ばれます。

先買権の手続きは、以下のとおりです。

  1. 創業者等による事前通知
    創業者等は、第三者に株式を譲渡する前に、その内容(譲渡予定先・譲渡対象株式の数・譲渡価格その他の条件)を投資家に対して事前に通知しなければなりません。
  2. 投資家による先買権の行使
    通知を受けた投資家は、所定の期間内に申し出ることで、通知された条件と同一の条件で譲渡対象の株式を優先的に買い受けることができます。
  3. 行使されなかった場合・複数行使の場合の取扱い
    投資家が先買権を行使しなかった場合に限り、創業者等は当初の譲渡予定先である第三者への譲渡が可能となります。
    また、複数の投資家が先買権を行使した場合には、各投資家の持株比率に応じた按分処理がなされるのが一般的です。

投資家も同一条件で売却に参加する「共同売却権」

「共同売却権(Co-Sale Right)」とは、創業者等が株式を第三者に譲渡する際に、投資家が自身の保有株式も一緒に同じ条件で売却するよう請求できる権利のことです。多くの場合、先買権により株式の全部が買い取られなかった場面を前提として規定されます。

共同売却権が行使された場合、創業者等と投資家の持株比率に応じて売却可能な株式数の上限が按分されます。その結果、創業者等が当初売却を予定していた株式数が減少する結果となるのが通常です。

さらに、投資家が共同売却権を行使した場合、創業者等は買受人である第三者に対して買い受ける株式の総数を増やすよう交渉することもあります。この交渉が成立しなければ、創業者等の売却可能数が減少し、売却できなかった株式について再度譲渡を試みるには先買権の手続きからやり直す必要があるとされることも多く、譲渡のハードルは一段と高くなります。

M&Aでのエグジットを確実にする「強制売却権」 (ドラッグ ・ アロング ・ ライト)

投資家にとって適切なタイミングでエグジット(投資回収)を実現することは最も重要な関心事の一つです。特に、全株式を譲渡する方法で会社の経営権を丸ごと第三者に売却するM&Aの場面では、一部の少数株主が反対するだけで案件が破談になりかねません。

このような事態を回避するための仕組みが「強制売却権(ドラッグ・アロング・ライト/Drag-Along Right)」です。会社法のルールでは、一部の例外を除き、株主にその保有する株式を第三者へ譲渡することを強制する規定はありません。

そのため、契約によってあらかじめ手当てをしておく必要があります。

全株式売却によるM&Aを実現する機能

ドラッグ・アロング・ライトとは、一定の要件を満たした株主がその所有する株式を第三者に譲渡する際に、他の株主に対しても保有株式を合わせて売却するよう請求できる権利です。全株式の譲渡による会社売却の局面で効果を発揮します。

買収を希望する第三者(買収者)は、通常、スタートアップの一部株式のみを取得するメリットがあまりない場合が多いです。完全子会社化した方が税務上の利点もあり得ることから、株式譲渡によるM&Aでは全株式の取得が前提となるケースが多いのが実情です。

例えば、大半の株主がM&Aに賛同しているにもかかわらず、一部の少数株主がこれに応じないケースを想定してみましょう。ドラッグ・アロング条項があれば、権利の発動要件が適切に設計されている限り、反対する少数株主にも売却を強制することが可能となり、M&Aの実現可能性が高まります。

発動条件や対価を巡り創業者と調整するポイント

ドラッグ・アロング・ライトは、権利行使者の設定次第では、創業者等が自らの意思に基づかずに株式を第三者に売却しなければならないケースを生じさせます。そのため、適切に設計されていない条項に対しては創業者等から強い反発が出ることも珍しくありません。

実務上は、トリガー事由(発動要件)として行使条件や期間制限を設けることや、創業者等の承諾を条件とするなど、創業者と投資家のニーズのバランスをとる工夫が行われています。

もっとも、会社を売却する際には創業者も投資家も「高い価格で売りたい」という点で利害が一致します。創業者と投資家の意向が食い違うケースは実際には限定的であるとも指摘されており、誰がトリガーを持つべきかについては、各会社の事情に応じて判断することになります。

投資家の地位と持分を守るその他の契約条項

株主間契約には、創業者等の株式譲渡を制限する条項のほかにも、投資家の地位や持分比率を保全するための規定が置かれるのが通例です。

この章では、投資家間で適用される先買権・創業者退任時の株式の取扱い・持株比率の希釈化を防止する新株等引受権について解説します。

投資家間の株式譲渡に適用される先買権

投資家が複数存在する場合、一部の投資家が保有株式を第三者に譲渡すると、他の投資家は見ず知らずの第三者を「投資家株主」の一員として迎え入れなければならなくなります。このような事態を避ける機会を与えるため、投資家間でも先買権が規定されるケースも少なくありません。

手続きの流れは創業者等の場合と同様であり、株式譲渡を希望する投資家は他の投資家に事前通知を行い、同一条件で買い取る機会を提供する必要があります。

一方で、投資家間の共同売却権も規定されることもありますが、先買権と比較すると少ない傾向にあります。売却機会を得た投資家が結果的に意図したエグジットを実現できなくなるリスクが生じ得るためであり、投資家としても規定を望まないのが一般的です。

創業者退任時に株式を手放させる取り決め

投資家にとって、創業者等に株式の保有を認める趣旨は、あくまでスタートアップの成長に対するインセンティブを確保するためです。したがって、創業者が経営から退く場合には、株式を保有し続ける必要性が低下することになります。

このため、実務上は株主間契約において、創業者等が経営者の地位を退く場合に保有株式を手放す(投資家や後任の経営陣等に売却する)旨の取り決めが設けられることがあります。ストックオプションにおけるベスティング条項と同様に、退任の時期に応じて手放す株式数が変動する仕組みとすることも少なくありません。

また、創業株主間契約(共同創業者同士で別途締結する契約)にこうした規定が設けられている場合には、そちらに従うケースもあります。創業者側としては、在任期間中の貢献度に見合った株式保有を認めてもらえるよう交渉を行うことが一般的です。

既存株主の持株比率維持を図る新株等引受権

スタートアップが新規の資金調達ラウンドを重ねると、新たに発行される株式によって既存投資家の持株比率が低下(希釈化)していきます。持株比率が下がると、株主総会での議決権の影響力が弱まるだけでなく、株主間契約上の権利にも影響が及ぶ可能性があります。

こうした事態を予防・緩和するために規定されるのが「新株等引受権」です。新たに株式が発行される場合に、既存投資家がその時点の持株比率に応じた割合で新規株式を優先的に引き受けることを認めるもので、これにより持株比率の維持が可能になります。

例えば、発行済株式数1万株の会社に対し20%(2000株)を保有する株主Aにこの権利が付与されていると仮定しましょう。会社が新たに1,000株を発行する場合、株主Aは1,000株の20%に相当する200株を優先的に引き受けることができ、増資後も持株比率を20%に維持できます。

この権利は株式の発行だけでなく、新株予約権の発行にも適用されることが多い点にも留意が必要です。

弁護士に相談すべきタイミング

株主間契約は、創業者の経営や株式処分に長期的な影響を及ぼす重要な契約です。

以下のようなタイミングでは、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。

投資家との条件交渉を開始したとき

まず、新株発行による投資を受ける交渉を開始する時点が相談すべきタイミングです。

投資条件などを定める投資契約や株式の発行要項、投資後の条件などを定める株主間契約は、とても複雑な内容であり、相互に絡み合う関係もあることから、交渉慣れしているVCなどの言いなりになってしまいがちです。通常はタームシートなどで条件についての交渉を開始しますが、その時点で、創業者側に立って助言をし、契約内容を確認・修正してくれる弁護士に相談することが大切です。

また、投資家が提示する条件に対して疑問や違和感を覚えた場合も、相談すべきタイミングです。

例えば、ドラッグ・アロングの発動要件に創業者の承諾が含まれていない場合や、先買権の通知期間が著しく短い場合など、創業者側に不利な設計になっている可能性がある条項については、修正の交渉余地があるかどうかを弁護士に確認することが望ましいでしょう。

投資契約書案や株主間契約書案を受け取ったとき

投資家から投資契約書や株主間契約書の案を初めて受け取った段階も、弁護士に相談するタイミングとして挙げられます。

通常は簡易なタームシートなどで大まかな条件交渉をスタートし、その後、契約書案が作成されます。そのため、契約書案を受け取った時点では交渉がすでに終盤となっているため、条件の変更が困難な場合もあります。

しかし、まだ契約締結前であるため、交渉の余地はあります。この段階で契約内容を十分に理解することで、内容を理解しないまま署名してしまうリスクの回避につながります。

弁護士に依頼することで、「先買権」「共同売却権」「ドラッグ・アロング」などの各条項が自社の状況に照らしてどのような影響を持つのかを正確に把握することができます。特に、これらは契約書のドラフト上のミスが生じやすい類型の規定であり、条項が実際に機能する内容になっているか、専門家の目で確認することが重要です。

将来的に株式売却やM&Aを検討し始めたとき

創業者自身が株式を売却したい場合や、M&Aによるエグジットを検討し始めた段階も、弁護士への相談が有効です。

先買権の通知手続きの進め方、共同売却権が行使された場合のシミュレーション、ドラッグ・アロング条項の発動要件の確認など、具体的な手続きに落とし込むための助言を受けることができます。

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よくある質問 (Q&A)

Q&A Sign on Miniature Blackboard on Wooden Table for Questions and Answers Concept

先買権と共同売却権について、実務上よく寄せられる質問をQ&A形式で整理します。

Q1. 先買権を行使するとどうなりますか?

先買権が行使されると、投資家は創業者等が第三者に提示した条件と同一の条件で、譲渡対象の株式を優先的に買い受けることができます。複数の投資家が行使した場合は持株比率に応じて按分される仕組みです。

先買権の行使により譲渡予定の株式が全部買い取られた場合、創業者等は第三者への譲渡を行うことができなくなります。逆に、投資家が行使しなかった場合は、創業者等は当初の予定どおり第三者に株式を譲渡することが可能です。

Q2. 共同売却権を行使すると売却数はどうなりますか?

共同売却権が行使されると、創業者等と投資家の持株比率に応じて売却可能な株式数が按分されます。

その結果、創業者等が単独で売却できる株式数は減少する仕組みです。第三者である買い手が購入総数を増やさない限り、創業者等の売却分が圧縮される形となるため、創業者等にとっては株式の現金化が制限される効果が生じます。

Q3. 先買権は投資家の株式譲渡にも適用されますか?

投資家間で先買権が規定されている場合は適用されます。一部の投資家が第三者に株式を譲渡しようとする際、他の投資家に事前通知を行い、同一条件で買い取る機会を提供しなければなりません。

ただし、投資家間の共同売却権は、先買権と比較すると規定されるケースが少ないとされています。基本的に、投資家による株式の譲渡は創業者等の場合ほど制限されないのが通常であり、エグジットの機会を確保する観点から一定の自由度が保たれています。

投資契約 ・ 資金調達に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

先買権・共同売却権をはじめとする条項は、スタートアップの創業者と投資家の利害を調整する重要なものです。一方で、条項の設計次第では、創業者の経営判断やエグジットの自由度に大きな影響を及ぼします。

これらの条項を適切に理解し、自社の状況や今後の事業展開と照らし合わせて判断することが重要となりますが、その内容は専門的であり、適切な交渉を行うことは容易ではありません。「先買権や共同売却権の内容が分かりにくい」「ドラッグ・アロングの発動要件が適切か判断できない」などの疑問が生じる場合には、早い段階で弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

直法律事務所においても、ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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