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契約書の秘密保持条項とは?契約書作成・レビューにおけるポイントと最新実務対応

Q
企業間での契約書作成時、「秘密保持条項」はなぜこれほどまでに重視されているのでしょうか?具体的に、どのような点に注意して作成・レビューすべきですか?

A
企業活動では、製品情報、顧客情報、技術ノウハウなどの機密情報が契約相手に提供される場面が避けられません。こうした情報の漏洩や目的外利用を防ぐうえで、契約書における秘密保持条項は極めて重要な役割を果たします。


本記事では、秘密保持条項の基本構造から、開示者・受領者それぞれの視点での留意点、秘密情報の範囲設定、違反時のリスク管理対応、裁判例から得られる実務的教訓までを網羅的に解説します。

契約書の実務担当者が、秘密保持条項を適切に設計・レビューするためのチェックリストも掲載しており、日常業務で即活用いただける内容です。


澤田直彦

監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、「契約書の秘密保持条項とは?契約書作成・レビューにおけるポイントと最新実務対応」について、詳しくご説明します。

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はじめに

秘密保持条項とは何か

秘密保持条項とは、契約当事者の一方が他方に対して開示した情報のうち、一定の情報を相手方に秘密として保持させるための義務を課す条項です。契約締結に際して当事者が相互にまたは一方的に秘密情報を提供する場面では、この秘密保持条項が重要な役割を果たします。

契約上の秘密保持義務の対象となる情報は一般的に「秘密情報」と呼ばれ、典型的には「業務上、営業上または技術上の情報」といった抽象的な表現で規定されますが、具体的な事案に応じてより詳細な定義や例示がされる場合もあります。

秘密保持条項では通常、次のような内容が規定されます。

  • 第三者への開示・漏洩の禁止
  • 契約目的外の使用禁止
  • 秘密保持義務の例外事項(法令や裁判所命令による場合など)

秘密保持条項は作為ではなく不作為義務を定めるものであり、「何かをする」ことではなく、「秘密情報を漏らさない、使用しない」といった行動を控える義務を課すものです。

契約書における秘密保持条項の重要性

企業間で契約を締結する際、取引上の様々な情報が相手方に開示されるのは避けられません。特に取引が継続的であったり、技術的または営業的に重要な情報が提供されたりする場合、その情報が第三者へ漏洩したり目的外に利用されたりすると、企業に重大な損害を与える可能性があります。こうした情報の漏洩や目的外利用を防止するため、契約書に秘密保持条項を設けることが不可欠です。

秘密保持条項は、単に相手方が情報を漏洩した場合の損害賠償請求の根拠となるだけでなく、契約当事者に対して情報管理の重要性を明確に意識させる役割も果たします。特に実務上、情報漏洩が発覚した後の損害立証は非常に困難であるため、事前に秘密保持義務を明文化し、リスクを最小化することが重要となります。

秘密保持条項の基本理解

秘密保持義務の意義 ・ 役割

秘密保持義務とは、契約当事者の一方が相手方に提供した情報について、第三者への開示・漏洩や契約目的以外の使用を禁止する義務のことです。企業間の取引や共同事業を進めるにあたり、営業戦略や製品設計、技術ノウハウ、顧客情報など、秘匿性の高い情報を相手方に提供せざるを得ない場面は頻繁に生じます。しかし、こうした情報が無制限に第三者へ開示されたり、本来の取引目的以外で利用されたりすると、提供した側の企業は重大な損害を被る可能性があります。

秘密保持義務は、こうした情報の不適切な取り扱いを防ぐことで、企業活動における情報管理の徹底を促し、情報漏洩リスクを抑える役割を果たしています。特に近年は、情報の価値が企業の競争力に直結しているため、適切な情報管理が取引を進める上での基本的な条件となっています。

また、秘密保持義務を契約書で明確に規定することは、当事者間での情報の取り扱いに関する共通認識を生み出します。これにより、契約当事者間の情報管理の意識が高まり、結果として取引の信頼性や安全性が向上することになります。

さらに、不正競争防止法上の「営業秘密」として法的な保護を受けるためには、当該情報が「秘密として管理されている」ことが要件となります。この際に、契約書上の秘密保持条項によって明示的に管理義務が定められていることは、「秘密管理性」を満たすための積極的な要素として評価されます。この点においても、秘密保持義務を明文化しておくことには大きな意義があります。

秘密保持条項と秘密保持契約(NDA)の違い

「秘密保持条項」と「秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)」は、いずれも秘密情報の保護を目的としていますが、その位置づけや役割には重要な違いがあります。

秘密保持条項は、契約書内に他の条項と並んで規定される一般的な条項です。例えば、売買契約や業務委託契約、共同開発契約などの中で、取引に付随して交換される情報の保護を目的として設けられます。この場合、秘密保持条項はあくまでも契約書の一部分であり、契約全体の履行過程で開示される情報について適用されます。

一方、秘密保持契約(NDA)は、独立した契約書として締結されることが多く、一般的に契約交渉や取引開始前に締結されます。特にM&A取引や技術提携、共同研究など、価値の高い情報が相互に開示される可能性がある場面で、当事者が安心して情報を開示できる環境を整えるために利用されます。

つまり、秘密保持契約(NDA)は情報の提供そのものが主たる目的となる場合に利用され、独立した契約として締結されるのに対し、秘密保持条項は主となる取引や契約に付随して適用されるものです。
そのため、NDAでは情報保護に特化した詳細な規定(秘密情報の定義や返還義務、情報漏洩時の損害賠償・違約金など)が盛り込まれる傾向にありますが、秘密保持条項では取引の内容に応じて、比較的シンプルかつ簡潔な定めとなることが一般的です。

したがって、契約担当者としては、契約締結の背景や取引の性質に応じて、秘密保持条項とNDAのいずれを用いるべきかを適切に判断する必要があります。
具体的には、取引前段階で情報交換が必要な場合には独立したNDAを締結し、取引成立後の情報保護については各種契約書の秘密保持条項で規定するといった使い分けが実務的には有効となります。

秘密保持条項を作成 ・ レビューする際の基本視点

秘密保持条項は、単に形式的に設ければよいというものではなく、具体的な取引状況や当事者の立場、契約目的を考慮して実効性のある内容に仕上げる必要があります。

この章では、開示者と受領者それぞれの視点からの留意点と、契約目的との関連性の重要性について解説します。

開示者と受領者、それぞれの立場からの留意点

秘密保持条項を検討するにあたり、最も重要なポイントは、自社が情報を主として開示する側(開示者)なのか、それとも主として情報を受領する側(受領者)なのか、立場を明確に意識することです。この立場の違いにより、秘密保持義務の内容や範囲の定め方が大きく変わります。

開示者側の留意点

開示者としては、自社の秘密情報が漏洩したり目的外利用されたりするリスクを最大限抑制することを目的とします。そのため、開示者は次のような点を特に重視して秘密保持条項を検討すべきです。

 秘密情報の範囲の広さ
開示した情報が広く保護されるよう、「業務上、営業上、技術上の一切の情報」といった抽象的かつ包括的な定義を用いるのが有利です。
重要な情報が漏れないよう、特定の情報(例:技術図面、顧客リスト等)を明確に例示することも検討すべきです。

 秘密保持義務の範囲・禁止事項の明確化
秘密情報の第三者への開示や漏洩禁止に加え、目的外利用の禁止も必ず明記します。
契約締結後は「秘密である旨を表示」する手続きなどを設けることで、受領者側に秘密情報としての認識を促す工夫も必要です。

 秘密保持義務の例外事項の制限
法令や裁判所命令など、やむを得ない開示の場合でも開示範囲を最小限に限定し、事前または事後すぐに通知を求める規定を設けておくべきです。
第三者(外部専門家)への開示を認める場合でも、開示先に秘密保持義務を課し、その義務違反を受領者の責任とする規定を明記すべきです。

 秘密保持義務の存続期間
契約終了後も一定期間(例えば、2〜3年間)は秘密保持義務が存続するよう規定し、情報が陳腐化するまでは保護されるようにします。

受領者側の留意点

受領者としては、秘密保持義務が過度に広範・過重にならないよう注意する必要があります。受領者側が意識すべき留意点は次のとおりです。

 秘密情報の明確化・限定化
広すぎる秘密情報の定義は、実務上、当該秘密情報に関する管理の負担を重くします。可能な限り具体的・限定的な情報範囲に限定し、明確な特定を求めるべきです。
「開示方法により特定」されること(例:「秘密である旨が表示された情報のみ」等)を規定し、範囲の明確化を図ることが重要です。

 例外事項の幅広い設定
すでに公知の情報や、自社が独自に開発した情報、正当な手続きで第三者から取得した情報など、受領者として秘密保持義務の対象外とすべき情報を明確に列挙すべきです。

 第三者への開示の柔軟化
特に実務上、役員や従業員、専門家以外の第三者(外部委託先や協力業者)への開示が必要な場合は、それらの第三者への開示を許容する規定を設けておくことが望ましいです。

 秘密保持義務の存続期間の短縮化
契約終了後の義務存続期間が過度に長い場合、管理負担が増大します。情報の性質に応じて短縮を求める交渉をすることも重要です。

契約目的との関連性の重要性

秘密保持条項の規定にあたっては、「契約目的」との関連性が極めて重要となります。契約目的とは、その契約を締結する際に当事者が合意した具体的な取引目的や業務遂行の範囲を指します。

秘密保持義務の範囲を定める際には、この契約目的を明確に意識し、「契約目的の達成に必要な範囲」を超えて情報が使用されないよう明記すべきです。なぜなら、目的外利用の禁止規定が曖昧だと、後に紛争が生じた場合、目的外利用であるか否かの解釈を巡ってトラブルになる可能性が高いからです。

また、裁判所での秘密保持義務違反の認定に際しても、契約目的に照らして義務違反か否かが判断されるため、目的条項は秘密保持条項の解釈を補完する重要な機能を持っています。

契約目的との関連性を明確に規定することは、以下の点において重要です。

  • 目的外利用の防止
    契約目的を明記することで、情報をどの範囲で使用可能かを明確にできます。
  • 紛争予防・解決の円滑化
    目的外利用を巡る紛争時に、裁判所が契約目的を基準として明確な判断を下しやすくなります。
  • 当事者間の認識統一
    契約目的を明確にすることで、当事者が秘密情報を取り扱う上での共通理解を促進し、紛争の芽を事前に摘み取ることにつながります。

澤田直彦

秘密保持条項を効果的なものにするためには、自社の立場(開示者/受領者)を明確にし、その視点に基づいた条項設計を行うこと、そして契約目的を明確に関連付けて規定することが不可欠です。

これらのポイントを押さえた秘密保持条項の作成とレビューは、契約実務の基礎として非常に重要となります。

秘密情報の範囲の設定

秘密保持条項においては、どのような情報を「秘密情報」として取り扱うかを明確に定めることが極めて重要です。秘密情報の範囲を適切に設定しないと、実務上の負担が増大したり、秘密保持義務違反のリスクが高まったりするためです。

この章では、秘密情報の定義方法や含めるべき情報の具体例、営業秘密との関係性、秘密情報の特定方法について詳しく解説します。

「秘密情報」の定義方法 (広義 ・ 狭義)

秘密情報の定義は、大きく分けて「広義」「狭義」の二つの方法があります。それぞれの方法には、メリットとデメリットがあるため、自社の立場や情報の性質を考慮し、適切に選択する必要があります。

広義の定義方法

広義の定義方法とは、秘密情報の範囲を広く包括的に設定する方法 です。
典型的な表現としては、「業務上、営業上または技術上の一切の情報」といった文言を用います。

【メリット】
・ 自社が開示する情報が広範に保護されるため、漏洩リスクを抑えられます。
・ 後から情報を追加的に指定する手間が省けます。

【デメリット】
・ 範囲が曖昧すぎると、受領者が何を秘密情報として扱うべきかが不明確になり、秘密保持の実効性が下がる可能性があります。
・ 裁判で争われた場合、秘密情報の範囲が「営業秘密」(不正競争防止法)に限定的に解釈されるリスクもあります。

【参考事例】
契約書の秘密保持条項で秘密情報を「技術上および業務上の秘密」と抽象的に定めていたケースにおいて、後日、秘密情報の目的外利用が生じて争いになったが、裁判所は当該秘密情報の範囲を不正競争防止法上の「営業秘密」と同義と解釈しました(大阪地裁平成24年12月6日判決、裁判所ウェブサイト)。
この判決から、ケースによっては、秘密情報の範囲を広く抽象的に規定すると、裁判で解釈が限定的になる可能性があるため、重要情報は可能な限り明示的に特定・列挙することも検討するべきといえます。

狭義の定義方法

狭義の定義方法は、秘密情報の範囲を具体的・限定的に設定する方法です。例えば、「技術図面、製品仕様書、顧客リスト」など、具体的な情報を明示的に特定して規定します。

【メリット】
・ 秘密情報が明確に特定されるため、秘密情報の管理・遵守が容易になり、秘密保持義務の実効性が向上します。
・ 秘密保持義務違反時の紛争において、立証が容易になります。

【デメリット】
・ 情報の追加や変更があった場合に再度条項を修正する必要があり、事務処理上の手間が増える可能性があります。
・ 規定された範囲外の情報が漏洩した場合、保護されないリスクがあります。

実務的には、重要性や取引の性質に応じて広義の規定をベースとしつつ、特に重要な情報については狭義の規定を併記するハイブリッド型が用いられることが多くあります。

秘密情報に含めるべき情報 ・ 含めない方がよい情報の具体例

次のような情報は、一般的に秘密情報として定めるべき情報です。

・ 技術ノウハウ、設計図、仕様書
・ 新製品の開発計画・スケジュール
・ 顧客リスト、価格情報、販売戦略
・ 財務情報、経営計画、予算資料
・ 取引先との交渉内容、契約条件等の非公開情報


一方、以下のような情報は秘密情報から除外しておくことが望ましいです。

・ 一般に公知である情報(すでに一般公開されている情報)
・ 受領者が既に独自に保有している情報
・ 第三者から合法的に取得した情報
・ 契約とは無関係に自社が独自開発した情報
・ 些末で重要性が乏しく、秘密として管理する実益が乏しい情報

秘密情報から除外すべき情報を明記することで、受領者側の管理負担を軽減し、秘密保持義務の遵守を促すことができます。

「営業秘密」との関係性 (不正競争防止法との関連)

秘密情報を設定する際には、不正競争防止法上の「営業秘密」との関係性を考慮する必要があります。
営業秘密とは、不正競争防止法第2条第6項において、以下の3つの要件を満たす情報と定められています。

  1. 秘密として管理されていること (秘密管理性)
  2. 生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること (有用性)
  3. 公然と知られていないこと (非公知性)

契約書の秘密保持条項は、この営業秘密を保護するための「秘密管理性」を充足するための重要な要素として機能します。そのため、秘密保持条項を明確に設けることにより、自社の重要な情報が営業秘密として法的に保護される可能性を高めることができます。

一方で、秘密保持条項で広く「秘密情報」として定めても、必ずしもその全てが営業秘密として法的保護を受けるわけではありません。営業秘密としての保護を受けるためには、実務上の適切な情報管理(アクセス制限、管理簿作成など)も並行して行うことが必要です。

秘密情報の特定方法 (明示的特定、開示方法による限定)

秘密情報を実効的に管理するためには、特定方法を明確化することが重要です。代表的な特定方法として、以下のようなものがあります。

(1)明示的特定

開示する際に、「秘密情報である旨」を書面または電子的方法で明示する方法です。

・ 開示時に「Confidential」「秘密」と表示した文書を秘密情報とする規定。
・ 開示時に秘密である旨を明確に伝えた口頭情報については、一定期間内(例えば14日以内)に書面または電子メール等で追って明示する方法。

(2)開示方法による限定

特定の開示方法や媒体を使用して開示された情報のみを秘密情報として限定する方法です。

・ 「パスワード等によりアクセス制限された電子媒体に記録された情報」
・ 「指定されたフォルダに格納され、アクセス制限が施された情報のみ」

これらの特定方法を適切に組み合わせることで、秘密情報の範囲を明確にし、当事者間での誤解を避け、秘密保持義務の実効性を高めることができます。

澤田直彦

以上のポイントを踏まえ、自社が秘密保持条項を作成・レビューする際には、取引内容や情報の重要性を具体的に検討し、適切な範囲設定と明確な定義を行うことが極めて重要です。

秘密保持義務の内容 ・ 禁止事項

秘密保持条項は、単に秘密情報を定めるだけではなく、具体的にどのような行為を禁止するかを明確に規定することで実効性を持ちます。

この章では、秘密保持義務の具体的な内容や禁止事項、さらに実務でよく用いられる例外事項について詳しく解説します。

第三者への開示 ・ 漏洩の禁止 (一般的な禁止条項)

秘密保持義務の中核をなすのが「第三者への開示・漏洩の禁止」です。一般的に、契約書の秘密保持条項には次のような禁止条項が設けられます。

【規定例】
「受領者は、開示者の事前の書面による承諾なく、秘密情報を第三者に開示または漏洩してはならない。」

このような規定を置くことで、開示した情報が意図せず第三者に伝わることを防ぎ、開示者側のリスクを低減することが可能です。

ただし、第三者への開示禁止に際して注意すべきポイントとして、以下に記載する事項があります。

役職員 ・ 専門家への開示許容の範囲と規定方法

企業間取引では、自社内の役職員(役員や従業員)や外部の専門家(弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタント等)への秘密情報の開示が必要となるケースが頻繁にあります。そのため、役職員や専門家への開示を許容しつつ、その範囲を適切に制限することが重要です。

具体的には、次のような規定が一般的に用いられます。

【規定例】
「前条の規定にかかわらず、受領者は、本契約の履行上合理的に必要な範囲で、自己の役職員または弁護士、公認会計士、税理士その他法令上の守秘義務を負う専門家に対し、秘密情報を開示することができる。」

ポイントとしては、「契約の履行に必要な範囲に限定」することで、過度に広範な開示を防ぎ、秘密情報の漏洩リスクを抑えることができます。
また、外部専門家については、一般に法令上の守秘義務が課されている場合もありますが、契約に明記することで紛争予防に資するため、専門家を含めた規定が推奨されます。

グループ会社等への開示の許容範囲と規定方法

特に多国籍企業や国内に複数の関連会社を有する企業グループにおいては、親会社・子会社・関連会社等のグループ内に秘密情報を共有する必要が生じることがあります。こうした場合、第三者への開示禁止条項において「グループ会社」を例外として明確に規定することが望ましいです。

【規定例】
「前条の規定にかかわらず、受領者は、本契約の履行に合理的に必要な範囲において、受領者の親会社、子会社、関連会社(以下「グループ会社」という。)およびその役職員に対して秘密情報を開示することができる。」

規定にあたって留意すべき点は次のとおりです。

 「グループ会社」の定義を明確に定めること(親会社、子会社、関連会社の具体的範囲など)
 開示を「本契約の履行に必要な範囲」に明確に限定することにより、不必要な範囲への情報拡散を防止すること

また、グループ会社に対して開示を許容する場合でも、後述するように、開示を受けるグループ会社にも秘密保持義務を遵守させるよう規定することが必須です。

開示先の秘密保持義務遵守の確保方法

秘密情報を第三者(役職員・専門家・グループ会社など)に開示する場合、受領者だけでなく、開示を受ける第三者に対しても秘密保持義務を確実に遵守させる仕組みを構築することが重要です。

具体的な遵守確保方法としては、以下のような規定が一般的に用いられます。

(1) 秘密保持義務の同等性規定
開示を受ける第三者に対して、本契約の秘密保持条項と同等の義務を課すことを義務付ける規定です。

【規定例】
「受領者は、本条に基づき秘密情報を開示する第三者(法令上の守秘義務を負う専門家を除く。)に対して、本契約に規定する秘密保持義務と同等の義務を遵守させなければならない。」

(2) 受領者の責任明確化規定
第三者の秘密保持義務違反が生じた場合に、その責任を開示を行った受領者に帰属させることを明確に規定する方法です。これにより、開示者は直接の契約関係がない第三者ではなく、受領者に対して義務違反の責任を追及できます。

【規定例】
「受領者は、前項により秘密情報を開示した第三者が本条に定める秘密保持義務に違反した場合、当該違反は受領者の違反とみなされるものとし、受領者はその違反に起因する損害について開示者に対して責任を負う。」

(3) 契約締結や誓約書の差入れによる方法
特に重要な情報を開示する場合には、第三者との間で個別の秘密保持契約(NDA)を締結したり、誓約書の差入れを受けたりする方法を採ることもあります。これにより、第三者が直接的な契約上の義務を負い、秘密保持義務の遵守がより確実になります。

実務における推奨ポイント

実務においては、第三者への開示を許容する際、以下のようなポイントを押さえることが推奨されます。

  • 第三者への開示許容範囲を必要最小限に限定すること
  • 開示を受ける第三者を可能な限り特定し、秘密保持義務を明示的に負わせること
  • 秘密情報の管理状況を定期的に確認し、第三者の遵守状況についてもモニタリングを行うこと

澤田直彦

以上のように、第三者への秘密情報の開示を許容する場合には、その範囲を明確に定めるとともに、第三者にも秘密保持義務を確実に遵守させるための具体的な仕組みを整備することが極めて重要です。

特に、開示を許容する第三者に秘密保持義務を負わせる規定や、第三者の違反を受領者の責任として明確にする規定を契約書に盛り込むことにより、秘密保持義務の実効性をより一層高めることが可能となります。

目的外利用の禁止の必要性と規定方法

秘密保持義務は単に漏洩を防止するだけでなく、受領した秘密情報を契約の目的以外に使用することを禁止することも極めて重要です。目的外利用の禁止を明確に規定することで、秘密情報が受領者の利益のために意図せず使用されるリスクを防ぐことができます。

  • 目的外利用が禁止されていないと、秘密情報を漏洩しない範囲内で自社の利益のために流用される可能性があります。
  • 契約上の目的を明確に定義することで、受領者が秘密情報をどの範囲まで使用可能か明示できます。

ここで注意すべき点は、「契約目的」を条項内または契約の冒頭で明確に規定しておくことです。契約目的を具体的に記載することで、目的外利用の判断基準が明確になり、紛争予防に役立ちます。

【規定例】
「受領者は、開示者の事前の書面による承諾なく、本契約に定める目的以外のために秘密情報を使用してはならない。」

秘密保持義務の例外事項 (法令 ・ 裁判所命令による開示など)

秘密保持条項には、例外事項を設けることが実務上一般的です。例外事項を定める理由としては、法令遵守や司法命令への対応の必要性が挙げられます。

特に法令や裁判所の命令等によって開示が義務付けられた場合、秘密保持義務違反に問われることなく、必要最小限の範囲で秘密情報を開示できるよう、明確に規定する必要があります。

【規定例】
「前各項の規定にかかわらず、受領者は、法令、金融商品取引所規則、行政機関もしくは裁判所その他受領者を規制する権限を有する公的機関の裁判、規則または命令によって秘密情報の開示を義務付けられた場合は、その義務付けられた範囲に限り秘密情報を開示することができる。この場合、受領者は可能な限り事前に(やむを得ない場合は開示後直ちに)開示者に対して書面または電子的方法により通知し、かつ開示の範囲を必要最小限度とするものとする。」

このように例外事項を設けることで、受領者側の現実的な対応を可能にしつつも、開示者に対して事前または事後の通知義務を課すことで、情報開示が無制限に行われることを防止できます。

澤田直彦

以上のように、秘密保持義務の具体的内容や禁止事項を明確に規定することが、秘密保持条項の実効性を高めるためには不可欠です。

特に「第三者への開示禁止」「目的外利用の禁止」「法令による開示などの例外事項」は、漏れなく明確に定めることが重要です。

秘密保持義務の存続期間の設定方法

秘密保持条項を定めるにあたって重要となるのが、秘密保持義務をいつまで存続させるかという点です。契約が終了した後も一定期間秘密保持義務を継続する必要がありますが、その期間をどの程度とするかについては、具体的な事案や情報の特性を考慮して適切に定める必要があります。

この章では、契約終了後の秘密保持義務の一般的な設定方法と、永久的な秘密保持義務を設ける場合の妥当性や留意点を解説します。

契約終了後の義務存続期間の設定方法 (1~3年が多い理由)

実務において、秘密保持義務の存続期間として最も一般的なのは、契約終了後1~3年間と程度とする設定です。その主な理由は以下のとおりです。

情報の陳腐化・有効性の喪失時期との関係性

秘密情報には、時間が経つにつれて価値が失われたり、情報としての有効性が減少したりする特性があります。特に、技術情報や営業戦略などは、市場環境や競争環境の変化によって数年後には情報としての価値が大きく低下する場合が多くあります。

そのため、契約終了後の秘密保持期間として1~3年を設定することが、情報の実際的な有効期間と整合すると考えられています。

管理コストとのバランス

秘密保持義務を定める場合、受領者側には情報を管理する負担が継続的に発生します。情報管理のための人的・物的リソースの負担を考慮すると、数年間という限定的な期間を設けることが双方にとって実務的に妥当とされるため、1~3年という期間設定が実務上よく採用される傾向にあります。

紛争防止の観点

秘密保持義務を過度に長期間にわたって設定すると、義務違反のリスクが長期間にわたり続くため、契約当事者間で将来的な紛争を誘発しやすくなる可能性があります。一定期間を明確に区切ることで、当事者双方の将来の法的リスクを明確化し、紛争予防につながります。

【規定例】
「本契約に定める秘密保持義務は、本契約の終了後においても、その後3年間存続するものとする。」

このように、契約終了後も一定期間、秘密保持義務が存続することを明記することで、情報の漏洩や目的外利用のリスクを防ぎます。

永久的な秘密保持義務の規定の妥当性と留意点

一方で、秘密情報の中には、技術ノウハウや特許性のない独自技術、顧客情報など、時間が経ってもその価値が完全には失われない情報も存在します。このような情報については、永久的(無期限)な秘密保持義務を課す場合もありますが、その妥当性や設定にあたっての留意点を十分に考慮する必要があります。

永久的な秘密保持義務の妥当性

主に以下のような場合に、永久的な秘密保持義務が妥当とされます。

▸ 企業にとっての競争優位性が極めて高く、時間の経過によっても情報の価値が著しく減少しない場合(例えば、長期的な企業秘密、秘伝の製法、特許化しない重要技術ノウハウなど)

▸ 顧客情報などの個人情報で、保護すべき法的義務が恒常的に課されている場合

永久的な秘密保持義務を設定する際の留意点

永久的な秘密保持義務を規定する際は、以下のようなポイントを十分に留意する必要があります。

 合理性の確保
あまりに広範囲で曖昧な情報を永久的に秘密情報とすると、後の紛争で裁判所から合理性を欠くとして効力が否定される可能性があります。永久的に秘密保持する情報の範囲は、特定・限定することが望ましいです。

 情報管理負担の増加
受領者側に永久的な管理義務を課すことは、その管理コストが非常に大きくなるため、実務上は抵抗感が強くなる可能性があります。双方が負担を認識したうえで、限定された情報範囲についてのみ永久義務を設定することが現実的です。

 情報の陳腐化リスク
永久義務を設定しても、現実には時間と共に情報が陳腐化し、実際の紛争において秘密保持義務違反の主張が困難になる可能性があります。定期的な見直し条項を設けるなどの対応も検討すべきです。


以下のように、永久義務を設定する情報を具体的に限定しておくことで、妥当性を高め、紛争リスクを低減することが可能になります。

【規定例】
「本契約の終了後も、次の各号に掲げる情報に限り、本契約に定める秘密保持義務は期間の定めなく永久的に存続するものとする。
① 特許化されていない重要な技術ノウハウ
② 顧客の個人情報に関するデータ」

実務における推奨ポイント

  • 通常の取引では、契約終了後の秘密保持義務期間は1~3年程度が妥当です。
  • 情報の価値が長期的に維持される特定の情報のみ、永久的な秘密保持義務を設定する場合は、その情報の範囲を明確に限定して記載しましょう。
  • 永久義務を設定する場合は、双方の負担を明確にし、実務上の管理体制を整える必要があります。

澤田直彦

秘密保持義務の存続期間を適切に設定することは、契約当事者間のリスク管理や紛争予防にとって極めて重要です。

情報の価値や特性、管理負担を総合的に考慮し、実務的かつ合理的な期間設定を行うことが推奨されます。

秘密情報の返還 ・ 破棄の取扱い

秘密保持義務の一環として、契約終了時または取引が終了した時点において、秘密情報を受領者がどのように取り扱うかを明確に定めておく必要があります。秘密情報の適切な返還・破棄が行われないと、その後の情報漏洩や目的外利用のリスクが生じるため、契約書上明確に規定し、実務的な運用を徹底することが重要です。

この章では、秘密情報の返還・破棄に関する条項例および実務上の運用方法とトラブル防止のポイントについて詳しく解説します。

契約終了時等における秘密情報の返還・破棄の条項例

秘密情報の返還・破棄義務を規定する際には、以下のようなポイントを含めて、具体的で明確な条項とすることが推奨されます。

返還・破棄義務

【規定例】
「受領者は、本契約が終了または解除された場合、あるいは開示者から要求があった場合には、速やかに開示者の指示に従い、受領した全ての秘密情報(複写物、複製物を含む)を返還または破棄しなければならない。」

ここでの留意すべき点は以下のとおりです。

 「返還または破棄」の義務を明確に規定すること
 契約終了時以外にも、「開示者の要求により」返還・破棄義務を履行する旨を規定すること
 秘密情報の複写物や複製物(電子データを含む)も明確に対象とすること

破棄後の証明義務(破棄証明書)

受領者が秘密情報を破棄したことを開示者に証明することを義務付ける条項を規定することも実務上有効です。

【規定例】
「受領者は秘密情報を破棄した場合、破棄した日から○○日以内に、開示者に対して破棄した旨を証明する書面を提出するものとする。」

こうした証明義務を規定することにより、秘密情報の破棄が確実に行われたかを開示者が把握しやすくなり、情報管理の透明性が高まります。

実務上の運用方法とトラブル防止のポイント

秘密情報の返還・破棄義務を契約書で規定するだけでなく、実務上の運用をしっかりと整えることが重要です。

以下のポイントを押さえることで、トラブルの予防や対応がスムーズになります。

返還・破棄手続の具体化・事前共有

契約書に返還・破棄義務を規定したら、実際に返還・破棄を行う際の具体的な手続き(情報の引渡し方法、破棄方法、破棄証明書の内容や書式など)を事前に双方で確認しておくことが重要です。

特に電子データの破棄については、削除方法(物理的削除・上書き・廃棄ソフト利用など)や記録媒体の破壊方法など、詳細な取り決めを共有しておくと、破棄の実効性が向上します。

返還・破棄証明書の運用徹底

秘密情報を破棄した場合には、破棄証明書を提出する運用を徹底することが望ましいです。

証明書には最低限以下の内容を記載します。

  • 破棄した情報の具体的な内容・範囲
  • 破棄を実施した日時
  • 破棄方法の具体的な内容(電子データ削除方法・媒体廃棄方法など)
  • 破棄を実施した担当者名・責任者署名

これにより、破棄状況を双方で客観的に確認でき、紛争リスクが軽減されます。

実務的なモニタリング ・ フォローアップの実施

開示者側では、返還・破棄の状況について適宜確認を行い、受領者に対して履行状況を適時に確認することが有効です。受領者側でも、社内管理体制を整え、契約終了時に適切に対応できるよう準備しておくことが必要です。

特に以下の点に注意しましょう。

▸ 返還・破棄期限を過ぎても対応がなされない場合には速やかにフォローアップを実施する
▸ 返還・破棄後も万一漏洩事故が生じた際に備えて、証明書や履行記録を一定期間保存しておくことが望ましい

トラブル防止のための明確な期限設定

秘密情報の返還・破棄義務については、「契約終了後○○日以内」など、明確な履行期限を設定することがトラブル防止に役立ちます。

【規定例】
「受領者は本契約が終了した場合、本契約の終了日から30日以内に開示者の指示に従い、秘密情報の返還または破棄を完了させ、破棄した場合は速やかに破棄証明書を提出するものとする。」

実務における推奨ポイント

  • 契約書で秘密情報の返還・破棄義務を明確かつ具体的に規定すること
  • 実際の返還・破棄方法を事前に取り決め、双方で共有すること
  • 返還・破棄の実施に際して、破棄証明書の運用を徹底すること
  • モニタリングやフォローアップを通じて、返還・破棄が確実に実施される体制を整えること
  • トラブル防止のため、返還・破棄の履行期限を明確に設定すること

澤田直彦

秘密情報の返還・破棄の取扱いについて具体的に規定し、実務的な運用を整えることで、情報漏洩リスクを抑制し、契約終了後のトラブルを効果的に防止することが可能になります。

秘密保持条項違反に対する対応方法

秘密保持条項を契約書に定めても、実際に義務違反が生じるリスクを完全に排除することはできません。そのため、万が一、秘密保持義務違反が発生した場合に備えて、実務上効果的な対応方法を検討し、契約書に具体的な規定を設けておくことが重要です。

この章では、違約金条項を設定する場合の留意点および秘密保持義務違反が生じた際の損害立証の難しさと、それに対する実務的対策を解説します。

違約金条項を定める場合の留意点 (設定額の問題)

秘密保持条項違反に対する対応方法として、実務的に最も一般的なのは、違約金条項を定めることです。
違約金条項とは、秘密保持義務に違反した場合に支払うべき損害賠償額をあらかじめ契約書に規定しておく条項であり、損害立証の負担を軽減し、違反の抑止力を高める役割があります。

違約金設定のメリット

・ 損害立証の負担軽減
秘密保持義務違反による実際の損害額を算定し立証するのは極めて難しいため、あらかじめ違約金を規定することによって、損害額の証明が不要または簡易化されます。

・ 抑止効果の向上
明確な違約金規定は受領者に対して心理的なプレッシャーとなり、違反行為の抑止につながります。

設定額に関する留意点

一方、違約金を設定する際には以下のような留意点が存在します。

 妥当性・合理性のある額の設定
あまりに高額な違約金を設定すると、裁判所から「公序良俗に反する」「過度な負担」として無効と判断される可能性があります。違約金の設定額は合理的な損害想定に基づき、過度にならないよう注意が必要です。

 具体的基準に基づいた設定
実務上は、違約金額の設定に際して、取引の規模、秘密情報の重要性、漏洩した場合に想定される損害(売上減少、信用毀損等)を総合的に考慮し、妥当な金額を設定することが推奨されます。

 「損害賠償額の予定」と「違約金」の区別を意識すること
「損害賠償額の予定」と規定した場合は、実際の損害の証明が不要で、原則として契約書に記載された額がそのまま損害賠償額となります。一方で、「違約金」とのみ規定した場合には、違約金額に加えて実際に発生した損害の超過額を別途請求できる可能性もあります。
【規定例】
「受領者が本契約の秘密保持条項に違反した場合、受領者は開示者に対し、違反1回につき金○○万円を違約金として支払うものとする。なお、本違約金の支払いは、開示者が実際に被った損害が違約金の額を超える場合、開示者がその超過額を請求することを妨げない。」

秘密保持条項違反時の損害立証の難しさと実務的対策

秘密保持義務違反が発生した場合、開示者側が損害賠償を請求するには、原則として損害の発生やその金額、違反行為との因果関係を立証する必要があります。
しかし、秘密情報の漏洩や目的外利用による損害は、多くの場合、定量的な算定や立証が非常に難しいのが現実です。

損害立証が難しい理由

・ 因果関係の証明困難性
秘密情報の漏洩と具体的な損害(売上減少、競争力低下等)との因果関係を明確に立証することは、多くの場合非常に困難です。

・ 損害額の算定の難しさ
信用毀損や競争力低下といった間接的損害を具体的な金額として算定することは極めて難しく、裁判でも認定が困難です。

実務的な対策方法

損害立証の困難性を克服するために、実務では次のような対応策が検討されます。

・ 損害賠償額の予定を規定すること
前述の違約金条項(損害賠償額の予定)を規定しておけば、実際の損害の証明が不要または簡易化されます。

・ 合理的な推定条項の活用
秘密保持義務違反があった場合、一定の事実をもって損害が推定される旨を契約書に明記する方法もあります。例えば、「秘密情報が競合他社に漏洩した場合、○○万円の損害が発生したものと推定する」などの規定を設ける方法があります。

・ 証拠保全体制の構築
秘密情報の管理状況、開示履歴、漏洩時の状況(漏洩ルートや漏洩した情報の範囲)を具体的かつ客観的に記録し、証拠として残しておくことで、紛争時の証拠能力を高めることが可能です。

・ 迅速な初動対応
秘密情報の漏洩が判明した場合、迅速な対応(弁護士への相談、証拠保全措置、調査委員会の設置など)を行い、早期に状況把握を進めることが、 後に紛争が深刻化した際の立証を容易にします。

実務における推奨ポイント

  • 違約金条項や損害賠償額の予定を合理的な金額で設定すること
  • 違約金の規定により損害立証負担を軽減すること
  • 秘密情報漏洩時の証拠保全や迅速な対応体制をあらかじめ整備しておくこと
  • 秘密情報管理の履歴を詳細かつ適切に記録し、漏洩時の証拠として活用可能にすること

澤田直彦

秘密保持条項違反に対して、契約書上の違約金条項や損害賠償額の予定を合理的に設定することは、紛争予防やリスク管理の観点から極めて有効な手法です。

さらに、日頃から証拠保全や迅速対応の体制を整備しておくことによって、実際に違反が起きた際にも、迅速かつ効果的に対応することが可能になります。

秘密保持条項をめぐるトラブル事例と実務的教訓

秘密保持条項は契約実務上極めて重要ですが、実際に秘密保持義務違反を巡って裁判や紛争が起きるケースも多くあります。

この章では、実務でよく見られるトラブル事例を取り上げ、それらから導き出される実務的なポイントや教訓について解説します。

トラブル事例① : 退職社員による情報漏洩

【事例の概要】
退職した元従業員が競合企業に転職した際、自社の顧客リストや営業ノウハウを転職先で利用したケース。

【実務的教訓】
・ 秘密保持義務条項を従業員との間で明確に締結することが必要です。
・ 退職時に秘密情報の返還・破棄を確実に実施させ、退職後の秘密保持義務の継続を誓約書等で再確認することが効果的です。
・ 営業秘密の管理体制(アクセス制限・ログ管理など)を整え、違反時の証拠を明確に残しておくことが重要です。

トラブル事例② : 第三者(グループ会社や外部業者)からの漏洩

【事例の概要】
契約上許容されていたグループ会社や外部委託業者への秘密情報の開示後、その第三者が情報管理を怠り、秘密情報が外部に漏洩したケース。

【実務的教訓】
・ 第三者への開示を許容する場合、第三者にも秘密保持義務を明示的に課し、その違反を自社に帰属させることを明確に規定しましょう。
・ 第三者との個別の秘密保持契約(NDA)を締結することで、第三者に直接的な責任を追及可能な体制を作ることが望ましいです。
・ 第三者の情報管理状況を定期的にモニタリングする仕組みを整備することが必要です。

トラブル事例③ : 秘密情報の範囲・定義をめぐる紛争

【事例の概要】
秘密保持契約締結後、開示された情報が秘密情報に該当するか否かで紛争が生じたケース。

【実務的教訓】
・ 秘密情報を可能な限り明示的・具体的に定義・特定することにより、紛争の芽を摘むことが重要です。
・ 口頭での情報開示に対しては、事後的に書面・電子メール等で秘密情報として通知するなど、具体的な特定手続きを定めましょう。

トラブル事例④ : 損害賠償請求時の立証困難

【事例の概要】
秘密保持義務違反が判明したものの、開示者側が損害の発生や金額、因果関係を十分に立証できず、実質的な賠償請求が困難になったケース。

【実務的教訓】
・ 違約金条項や損害賠償額の予定を契約書に規定することで、損害立証負担を軽減できます。
・ 秘密情報管理履歴、漏洩ルートの記録、競合他社への流出状況など、証拠保全を普段から徹底しておくことで、違反発生時に有効な証拠を提示できるようにします。

実務における推奨ポイント

  • 秘密情報の定義は具体的・明示的に規定し、紛争予防を徹底しましょう。
  • 第三者や退職者に対する秘密保持義務を個別の誓約書やNDAで明確にし、実効性を高める仕組みを整えましょう。
  • 違約金条項や損害賠償額の予定を設け、立証負担を軽減しましょう。
  • 普段から情報管理体制を強化し、証拠保全や迅速対応が可能な仕組みを構築しましょう。

澤田直彦

これらの実務事例から得られる教訓を踏まえ、秘密保持条項の設計・運用を行うことで、紛争リスクを軽減し、より安全かつ円滑な企業間取引を進めることが可能となります。

実務担当者のための簡易チェックリスト

これまでのポイントを踏まえ、実務担当者が簡単に活用できる簡易チェックリストを作成いたしました。
秘密保持条項やNDAを作成・レビューをする際に、ご活用いただけますと幸いです。

【秘密情報の範囲・定義】
☐ 秘密情報が明確に定義され、範囲が具体的に限定されているか?
☐ 特に重要な情報は明示的に例示・特定されているか?
☐ 公知情報や自社で独自に開発・取得した情報は秘密情報から明確に除外されているか?

【秘密保持義務の内容と禁止事項】
☐ 第三者への開示・漏洩禁止が明確に規定されているか?
☐ 契約目的外利用の禁止が明記されているか?目的は明確か?
☐ 違反時の対応(違約金・損害賠償額)が明確かつ合理的に規定又は検討されているか?

【第三者への開示の取扱い】
☐ 専門家への開示許容範囲が明確に定められているか?
☐ グループ会社や外部委託先への開示を許容する場合、第三者にも秘密保持義務が課されているか?
☐ 第三者が義務違反した際の受領者の責任が明確に規定されているか?

【秘密保持義務の存続期間】
☐ 契約終了後の義務存続期間が具体的に規定されているか?(通常1~3年程度)
☐ 永久的な秘密保持義務を設定する場合、その範囲と対象(例:個人情報)が合理的かつ明確であるか?

【秘密情報の返還・破棄手続】
☐ 契約終了時・要求時の秘密情報の返還または破棄義務が規定されているか?
☐ 返還・破棄の期限が明確に設定されているか?
☐ 破棄証明書等の証明手続きが明記されているか?

【違約金条項・損害賠償の規定】
☐ 違約金や損害賠償額の予定が合理的な範囲で設定されているか?
☐ 損害立証が困難な場合を想定し、損害賠償額の予定が明確に規定又は検討されているか?

【紛争予防のための規定の明確化】
☐ 契約目的が明確に記載されているか?
☐ 禁止事項や秘密情報の範囲について解釈に曖昧性がないか?
☐ 紛争時に有効な証拠を残すため、秘密情報の開示方法・記録手続きが具体的に規定されているか?

契約書レビューに関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

秘密保持条項を適切に設計・運用することは、企業間の取引において非常に重要なリスク管理手法です。
秘密保持義務違反による紛争やトラブルを未然に防止することで、安定的で円滑な企業活動を実現することが可能となります。

直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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