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契約書の解除条項とは?実務上の要点や信義則・倒産・損害賠償を解説

Q
取引先が支払遅延を繰り返しています。
契約書には解除条項がありますが、通知なしに即時解除して問題ないのでしょうか?また、どのような条項設計が実務上適切でしょうか?

A
契約解除には法的なルール(民法541条等)がありますが、契約条項に基づき「催告なしの即時解除」を可能とすることもできます。

ただし、解除条項の構成次第では、信義則違反・権利濫用とされるおそれがあるため、解除事由の具体性や通知・催告要否、損害賠償との関係など、バランスの取れた条文設計が必要です。
また、包括条項や倒産条項など特殊な条項を設ける場合も、適法性や実効性に注意が必要です。

契約書における「解除条項」は、契約関係を安全かつ円滑に終了させるための「出口設計」として、法務実務の中核を成す条項です。
取引先の債務不履行、信用不安、倒産、名誉毀損、信頼関係の喪失など、契約を継続できない事態に備えて、解除事由や手続きを具体的に定めておくことは、紛争予防・リスク管理の観点からも不可欠です。


本記事では、民法上の法定解除との違い、無催告解除条項の活用、倒産時の対応、包括条項の限界、通知・催告の実務運用、そして解除後の損害賠償まで、契約解除条項の設計・運用に必要な知識を体系的に解説します。契約書レビューにおいて条項の有効性とリスクを適切に判断できるよう、豊富な条文例と実務上の注意点を交えてご紹介します。


澤田直彦

監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、「契約解除条項の実務と契約書レビューの要点」について、詳しくご説明します。

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はじめに

契約解除条項の意義

契約書における「解除条項」は、契約当事者の一方に一定の事情が生じた場合に、他方当事者が契約関係を終了させることを可能とする条項です。

ビジネス上の契約は、当事者間の取引関係に法的拘束力を持たせ、双方の利益とリスクを明確化することが目的ですが、現実の取引においては、契約期間中に信用不安や債務不履行、倒産手続の申立てなど、契約の継続が適切でなくなる状況が発生し得ます。こうした場面に備え、契約の終了事由と手続きをあらかじめ定めておくことにより、契約当事者は迅速かつ合理的にリスク対応を行うことが可能となります。

契約書における解除条項は、特に継続的契約や高額の取引契約において、その必要性と実効性が高く、契約全体の「出口戦略」を整備するという点でも、契約実務上不可欠な条項です。

なぜ契約書に解除条項を設けるのか

契約書に解除条項を設ける理由は主に以下のとおりです。

第1に、法定解除権の限界を補完するためです。民法においても債務不履行等に基づく解除制度(民法541条以下)は規定されていますが、あくまで任意規定であり、事案によっては要件を満たさず、解除が認められないリスクもあります。
特に、催告(相当期間を定めた履行の催促)が必要な場合や、解除事由が軽微な違反に該当する場合など、契約の早期終了を図るうえで法定解除権のみでは障壁となることがあります。

第2に、当事者が合意により解除事由・手続きを柔軟に設計できる点です。解除条項は任意規定に基づくものであるため、解除事由を広範に設定したり、催告や通知を不要とすることが可能です。
例えば、「支払停止」「営業許可取消」「仮差押・仮処分の申立て」「信用状態の悪化」など、法定の解除事由には該当しないが実務上は重大な事由を解除原因として規定することにより、早期の契約終了と損害回避を図ることができます。

第3に、紛争予防の観点があります。あらかじめ解除権の有無や行使要件を契約上明確にしておくことで、解除の正当性を巡る法的争いを予防できます。
とりわけ、包括条項(バスケット条項)を併用することで、想定外の事態に柔軟に対応できる仕組みを構築することも可能です。

民法上の解除との違い

民法上の契約解除(いわゆる「法定解除」)と、契約上の解除条項(いわゆる「約定解除」)には、以下のような実務上の違いがあります。

比較項目 法定解除(民法) 約定解除(契約条項)
根拠法 民法541条~543条等 契約書に明記された解除条項
催告の要否 原則として催告要(541条) 合意により催告不要とすることも可能
解除事由の範囲 法定事由に限定 任意に設定可能(信用不安、営業許可取消等)
契約終了の効果 原則、契約の遡及的消滅 契約条項により将来効とすることも可能
紛争リスク 要件の解釈を巡り争いになりやすい 条項の明確化により紛争予防可能

実務においては、法定解除のみに頼るのではなく、当事者の契約関係や取引の内容に応じて、より機動的・予測可能な契約終了の仕組みを構築するため、解除条項を適切に整備することが望ましいといえます。

解除条項の基本構造

契約における解除条項は、契約関係を終了させるメカニズムを事前に整備する条項であり、取引の安定性と予測可能性の確保に資する重要な規定です。

この章では、実務における典型的な解除条項の条文例を紹介したうえで、契約当事者間の解除権のバランスや解除の範囲について解説します。

解除条項の記載例

解除条項の基本形は、以下のように「解除事由」と「手続き」を明示する形式で定められることが一般的です。

【記載例】
第〇条(解除)
甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当した場合には、何らの催告を要せず、書面による通知により、直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
(1) 本契約に違反し、相当の期間を定めた催告にもかかわらず、当該違反が是正されないとき
(2) 支払停止または支払不能の状態に陥ったとき
(3) 手形交換所において取引停止処分を受けたとき
(4) 破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続の申立てを受け、または自ら申立てたとき
(5) その他、相手方との信頼関係が著しく損なわれたと合理的に判断されるとき

2 前項に基づき本契約が解除された場合であっても、当事者は、解除によって生じた損害の賠償を請求することを妨げられない。

このような条項は、「解除事由の列挙」「催告の要否」「解除の効果(損害賠償との関係)」をバランスよく盛り込むことで、実務上のトラブル防止に有効です。

双方解除権か片側解除権の選択

契約実務では、解除権をどちらの当事者に認めるかという点も重要な設計ポイントです。

双方解除権の付与

もっとも一般的なのは、契約当事者の「双方」に解除権を認める形式です。上記の記載例もこれに該当します。

【メリット】
・ 対等な立場での契約であり、公平性が高い
・ どちらの当事者にとってもリスクヘッジになる

【注意点】
・ 双方に解除権を認める以上、自社側に不測のリスクが発生する可能性もあるため、解除事由の明確化が重要です。

片側解除権の付与 (アンバランス型)

一部の契約(特に売買契約やOEM契約など)では、どちらか一方にのみ解除権を認める「片側解除型」も見受けられます。例えば、ライセンサーがライセンシーに対してのみ解除権を持つなどのケースです。

【メリット】
・ 契約交渉上優位な当事者が自社に有利な条項を確保できる

【注意点】
・ 不当条項と評価されるおそれがある(消費者契約法や独占禁止法、下請法の適用に注意)
・ 契約書交渉において相手方の強い反発を招く可能性がある

澤田直彦

解除権のバランスが偏っている場合は、「片側にしか解除権がない」旨を明示的に確認し、交渉記録(議事録・メール等)も保存しておくことがリスク管理上有効です。

契約の全部解除と一部解除の扱い

契約解除が成立した場合に、契約全体を終了させるか、それとも部分的な解除にとどめるかという点も、実務上の設計項目です。

契約の全部解除

通常、契約解除というと、契約の全体を終了させる「全部解除」が想定されることが多いですが、例えば、記載例にもある「本契約の全部または一部を解除することができる」という文言により、包括的解除が可能になります。

【注意点】
・ 契約関係が完全に終了するため、未履行部分の履行請求や以後の履行は一切認められなくなる
・ すでに履行された部分については、原則として原状回復が求められる(ただし継続契約では将来効となることも多い)

契約の一部解除

特に「基本契約+個別契約」のようなスキームでは、問題のある「個別契約のみを解除」し、他の契約は継続させたいというニーズもあります。

【実務対応例】
・ 「本契約または個別契約の全部または一部を解除することができる」との条文を明記
・ 個別契約ごとの解除可能性を契約構造上明確にしておく

【注意点】
・ 一部解除が可能か否かは、契約の構造(個別契約と一体性があるか等)や条文の明記に依存するため、契約書上の整理が必須

澤田直彦

解除条項は、単に「解除できるかどうか」を定めるだけでなく、「誰が」「どの範囲で」「どのような事由で」解除できるのかを明確に設計する必要があります。

特に、実務においては解除条項が契約終了に直結するだけに、条文一つひとつの意味を正確に理解し、想定されるリスクとバランスを踏まえたうえで構成することが重要です。

契約解除の法的根拠

契約書の「解除条項」は、しばしば民法上の解除制度と混同されがちですが、実務においては両者を明確に理解・区別することが重要です。

この章では、民法上の解除事由とその限界を確認するとともに、契約当事者間での合意により法定ルールを修正することが可能である点を解説します。

民法上の解除事由とその限界 (民法541条~543条)

民法における契約解除は、主に以下の条文に基づいて規定されています。これらに該当する場合には、当事者の一方的意思表示により契約を終了させることが可能です(いわゆる「法定解除」)。

民法541条 : 催告による解除

民法541条により、債務者が債務を履行しない場合において、債権者が相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がなければ契約を解除することができます。

【ポイント】
・ 原則として解除の前提には「相当の期間を定めた催告」が必要。
・ 催告後に是正がなければ解除可能。
・ ただし、債務不履行が社会通念上「軽微」な場合は解除不可(同条ただし書)。

民法542条 : 催告によらない解除 (無催告解除)

次のいずれかの場合には、催告なしで直ちに解除可能です。

  • 債務の履行が「全部不能」であるとき(1号)
  • 債務者が履行を明確に拒絶したとき(2号)
  • 一部履行不能で契約目的を達成できないとき(3号)
  • 履行期限の到来後も履行しない場合(定期行為等)(4号)
  • 催告しても履行の見込みがないことが明らかなとき(5号)

【ポイント】
・ 状況により、迅速に契約を終了させることが可能。
・ 実務上は、これらに該当するか否かの判断が争点となることが多い。

民法543条 : 履行不能に帰責性がない場合

履行不能が債務者の責に帰すべき事由によらない場合でも解除可能とされ、2020年の民法改正により明文化されました。

【ポイント】
・ 従来のように債務者の「過失」があることが解除要件ではなくなった。
・ 債権者保護の観点から、解除のハードルは下がっている。

任意規定としての性質と当事者合意による修正の可否

民法上の解除制度(上記各条文)は「任意規定」であり、契約当事者はこれと異なる内容を合意によって自由に定めることができます。これを「約定解除」といいます。

任意規定とは何か?

任意規定とは、法律上の基本的なルールではあるが、それに反する合意をしても無効とされない規定のことです。

【ポイント】
・ 「催告なしで解除できる」と合意すれば、民法541条の催告要件を外せる
・ 「債務不履行であっても、軽微であれば解除できない」とする合意も可能

約定解除の活用例

契約書の中で、民法の規律に代わって具体的に次のような解除条件を設定することができます。

条項例 実務上の意図
「相手方が支払停止状態に陥った場合」 倒産リスクの兆候への即応
「監督官庁より許認可取消の処分を受けた場合」 ライセンス型ビジネスの破綻リスク対策
「名誉や信用を毀損する行為があった場合」 レピュテーションリスクへの予防措置
「信頼関係が著しく損なわれたと合理的に判断される場合」 総合判断による出口の確保(包括条項)

これらは民法に定められていない「独自の解除事由」であり、あくまで契約に明記されていることが有効性の前提です。

澤田直彦

契約の解除については、民法上も一定のルールが整備されていますが、これらは任意規定であり、実務上は契約条項によって内容を柔軟にカスタマイズすることが重要です。

特に、解除のタイミング・要件・手続きを明文化することで、紛争の予防や早期対応が可能となります。

契約書で定める解除事由の類型とポイント

契約解除条項においては、どのような事由を解除の原因とするかが重要です。民法の法定解除に加え、契約書では当事者の合理的意思に基づき、多様な解除事由をあらかじめ定めることが一般的です。

この章では、代表的な11類型の解除事由を取り上げ、契約実務上のポイントを解説します。

契約違反

これは、ほぼ全ての契約書に含まれる標準的な内容です。

実務上は、段階的措置として「催告→是正期間→解除」とする構造が一般的ですが、例外的に催告不要で即時解除を可能とする場合は、信義則上の制約や権利濫用と評価されるリスクを考慮し、慎重に条項設計をする必要があります。

【記載例】
「相手方が本契約の条項に違反し、催告したにもかかわらず相当期間内に是正されないとき」

営業許可取消 ・ 停止等

この条項例は、特に規制業種(建設業、医療業、派遣業、製造業など)において重要になります。許認可の喪失によって、契約目的の達成が不可能となることに備えるための条項です。

実務上は、単なる「取消」だけでなく、「取消処分の通知を受けたとき」「告知を受けた時点」など、解除を発動するタイミングを明確に定めておくことが求められます。

【記載例】
「監督官庁より営業許可の取消または停止処分を受けたとき」

支払不能 ・ 支払停止

この条項例は、商取引において信用不安が表面化した初期段階で契約終了を可能とするための条項です。

「支払不能」とは、破産法2条11項に定義されるように、債務の弁済が一般的かつ継続的に困難な状態を指します。一方で、「支払停止」とは、外部に対し債務履行を明示的または黙示的に拒絶した状態をいいます。いずれも相手方の信用低下に迅速に対応するための典型的条項です。

【記載例】
「相手方が支払不能もしくは支払停止の状態に陥ったとき」

手形 ・ 小切手不渡り/電子記録債権の支払不能

近年では、1回目の不渡りで即時解除を可能とする例が増えつつあります。これは、1回目でも重大な信用失墜とみなされるためです。

また、「でんさい(電子記録債権)」の利用拡大に伴い、これを明示的に対象に含める実務が定着しつつあります。支払期日に履行されないことを即解除事由とする条項もありますが、信義則上の濫用と評価されないように注意が必要です。

【記載例】
「手形・小切手の不渡り、または電子記録債権の支払不能が発生したとき」

強制執行 ・ 仮差押 ・ 担保権実行 ・ 公租公課滞納

この条項例は、財務状況の著しい悪化の兆候を契約終了の原因とするものです。特に税金や社会保険料の滞納は、取引先としての信用に直結するため、解除事由として有効です。

また、「申立てがなされたとき」といった早期解除を可能とする文言も併せて検討されます。

【記載例】
「相手方が強制執行、仮差押、担保権実行、または公租公課の滞納処分を受けたとき」

法的倒産手続の申立て

倒産解除条項は、特に債権保全上重要な意味を持ちます。

ただし、最高裁平成20年判決が示すとおり、倒産手続中の契約解除が権利濫用とされるリスクがあるため、条項の発動時点(申立時点か決定時点か)を慎重に選定する必要があります。

また、再建型手続(民事再生・更生)では、解除が制限される可能性がある点も考慮しなければなりません。

【記載例】
「破産、民事再生、会社更生、特別清算の申立てがなされたとき」

解散

この条項例は、相手方が事業継続を予定していないと認められる場合に対応するものです。

合併については、通常、存続会社が契約を承継するため、解除事由から除外されるのが通例です。
条項には、解散に関する事前通知や相手方との合意を求める文言を併記する例もあります。

【記載例】
「解散(合併による場合を除く)の決議をしたとき」

信用状態の悪化

近年では、「信用状態の著しい悪化」も解除事由として用いられるケースが増えています。支払停止や差押などの明確な事象に至らない場合でも、信用調査会社のレーティングの急落や風評リスクの顕在化を契機として、契約関係の見直しを行う際に有用です。

ただし、この表現は抽象的であるため、濫用的な行使と評価されないよう、解除理由を裏付ける具体的な事実を具体的の提示が不可欠です。

【記載例】
「資産または信用状態が著しく悪化し、またはそのおそれがあると認められるとき」

名誉 ・ 信用 ・ ブランドの毀損 、 背信的行為

この条項例は、近年のコンプライアンス・ESG意識の高まりを背景に増加傾向にあります。不祥事や報道、内部通報などにより契約継続が困難になる事態に備えるものです。

「著しく」といった限定的な文言により、濫用的な適用を回避する工夫がなされるのが一般的です。

【記載例】
「相手方が名誉、信用またはブランドを著しく毀損し、または詐術その他の背信的行為があったとき」

信頼関係の破壊

この条項例は、賃貸借契約における「信頼関係破壊の法理」を汎用契約にも応用したものです。

ただし、極めて抽象度が高く、条項の発動に際しては濫用と評価されるリスクも高いため、他の解除条項と併せて適用する実務運用が求められます。

【記載例】
「当事者間の信頼関係が著しく損なわれたとき」

包括条項 ・ バスケット条項

この条項例は、契約書における「バスケット条項」「包括条項」と呼ばれ、列挙型の解除事由でカバーできない想定外の重大事態に対応するためのものです。もっとも、抽象的であるがゆえに、適用可否が争点となるリスクもあります。

実務上は「前各号に準ずる」という文言により、限定的かつ合理的な範囲に解釈されるように設計することが望まれます。

【記載例】
「その他、前各号に準ずるやむを得ない事由が生じたとき」

澤田直彦

解除条項における解除事由の設定は、契約リスクをコントロールするための重要な戦略要素です。

解除の濫用を避けつつ、適切なタイミングで契約を終了させるためには、「具体性」と「合理性」を両立させた解除事由の定め方が求められます。

通知 ・ 催告に関する実務対応

契約書において「解除条項」を定める場合、解除の要件として「通知」や「催告」を行う必要があるか否かは、法的効力に直結する重要な論点です。

この章では、民法上の催告制度を踏まえつつ、契約条項で「通知・催告不要」と定めることの意味、実務上の注意点、そして裁判例の傾向について解説します。

「何らの通知・催告なく解除」 とは

多くの契約書では、以下のような文言が解除条項に用いられています。

「甲または乙は、相手方が以下の各号のいずれかに該当した場合には、何らの通知または催告を要せず、本契約を解除することができる。」

この「何らの通知・催告なく解除できる」という表現は、民法上の催告解除(541条)の手続きを契約で排除することを意味します。すなわち、債務不履行等の解除事由が発生した場合に、相手方に履行を求める猶予期間(相当の期間)を与えることなく、一方的に契約解除の意思表示をすれば契約が終了するという取り扱いです。

このような「無催告解除条項」は、法的には有効とされるのが通説ですが、信義則や権利濫用の観点から、その行使が制限される場合がある点には注意が必要です。

実務上は通知 ・ 催告を行うべきか

結論から言えば、契約条項上は「通知・催告不要」とされていても、実務上は可能な限り通知や催告を行う方が望ましいのが現実です。

その理由としては、以下のとおりです。

  • 信義則違反・権利濫用のリスク回避
    無催告での解除が、相手方にとって不意打ちとなり、社会通念上相当でないと評価されると、裁判所が解除を無効と判断する可能性があります(例:東京地判平成18年2月21日、東京高判平成11年12月15日など)。
  • 交渉・是正の機会を与える
    取引関係を維持する選択肢を残すことで、契約解消による損失や対立の激化を回避できる。
  • 証拠確保の観点
    催告書や警告書により、相手方の違反状態や自社の対応履歴を文書として記録に残すことができる。

「相当の期間」 設定の考え方と裁判例の傾向

民法541条は、催告解除の前提として「相当の期間」を定めることを求めています。

「債務者が債務を履行しない場合において、債権者が相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がないときは、契約を解除することができる。」

「相当の期間」とは ?

「相当の期間」は一律に何日とは定められておらず、契約内容、履行の難易度、履行場所との距離、違反の程度などを総合考慮して判断されます。

裁判例でも柔軟に判断されており、以下の傾向があります。

・ 単純な金銭債務であれば、3日~1週間程度が相当とされた例が多い。
・ 複雑な役務提供契約などでは、2週間~1か月程度が妥当とされる場合もある。
・ 催告文に期間が明示されていなくても、事実上「相当の期間」が経過すれば足りるとする裁判例も存在します(最判昭和36年11月21日など)。

契約書にあらかじめ「相当の期間=〇日」と定めることも可能ですが、状況に応じて柔軟に対応できるよう、明記しない運用もあります。

軽微な違反と解除不可のリスク (民法541条ただし書)

民法541条ただし書には、以下のように定められています。

「ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」

すなわち、違反内容が軽微であれば、たとえ催告して履行されなかったとしても、解除は認められないというルールです。裁判例において、納期の1日遅れ、事務的な連絡漏れなどは「軽微」と判断される傾向がありますが、一方、納品遅延がビジネスに重大な影響を及ぼすようなケースでは、「軽微」とはされません。

そのため、契約条項に「軽微であっても解除可能」とする文言(ただし書排除条項)を追記することがあります。

【記載例】
「本条による解除にあたっては、債務不履行の軽重を問わないものとする。」

ただし、このような文言を入れても、なお信義則により解除が制限されるリスクが残る点には注意が必要です。

実務上の推奨対応

契約条項上は「通知・催告なく解除できる」と定めることができたとしても、実務においては以下のような観点から、慎重な対応が求められます。

対応項目 実務上の推奨対応
催告の必要性 無催告解除条項があっても、原則として催告すべき
催告期間 相手方の義務内容に応じた「相当な期間」を設定
通知手段 内容証明郵便またはメール記録など証拠を残す方法
軽微な違反 契約書に軽微な違反であっても解除できる旨の条項を設けるか、
軽微ではないことを証明するために違反に基づく個別の実害を主張できるよう準備

解除の手続きと意思表示の方法

契約書に解除条項を盛り込むことにより、法的には解除の要件が整いますが、それだけでは契約が当然に終了するわけではありません。解除は「一方当事者による明確な意思表示」によって初めて効力が発生するため、手続き面の適切な対応が不可欠です。

この章では、契約解除の場面において実務上留意すべき通知方法や、停止条件付き解除の取り扱いについて解説します。

書面通知/内容証明郵便による意思表示

書面による通知が原則

契約の解除は法律行為であり、口頭ではなく、書面で行うことが原則です。
契約書において「書面による解除通知により効力を生ずる」と定めている場合も多く、これに従わなければ解除の効力が認められないおそれがあります。

以下のような点が、実務上のポイントとなります。

  • 契約書に「書面通知」と明記されていない場合でも、証拠性確保の観点から書面化する
  • メールでの通知は法的に無効とまではいえませんが、真正性や到達の証明に弱みがあるため、トラブル防止の観点からは書面が安全

内容証明郵便による解除通知

解除の意思表示は、相手方に到達した時点で効力を生じます(民法97条1項)。したがって、到達の事実を明確に証明できる方法で通知を行うことが極めて重要です。

最も確実なのは、内容証明郵便+配達証明付き(日本郵便によるサービス)によることです。この場合のメリットとしては、通知内容と送付日を証拠化できること、また、実際の配達完了日が「配達証明書」により確認可能なことが挙げられます。

【記載例】
「本書面をもって、貴社との間の●●契約を、契約書第〇条に基づき解除いたします。解除事由は以下のとおりです。」

なお、解除の意思表示が曖昧な場合(催告か警告か明確でない場合)には、法的効力が否定されるリスクがあるため、「解除の意思を明確に示す」文言が不可欠です。

停止条件付き解除の可否と注意点

停止条件付き解除とは ?

「○日以内に違反状態が是正されない場合には、契約を解除する」といった形で、将来の不確定な事実の成否によって契約解除の効力が発生する」旨の意思表示をすることを、「停止条件付き解除」といいます。

【記載例】
「貴社が本書到達後10日以内に本件違反を是正しない場合、本契約を解除するものとします。」

このような形式は、解除の猶予を与えつつ、解除の意思をあらかじめ表明しておくという点で、非常に実務的です。

法的な有効性

判例・通説上、停止条件付き解除の意思表示は有効とされており、実務でも頻繁に利用されています(最判明治43年12月9日など)。

民法は、解除に「条件または期限を付すことはできない」としていません。ただし、発動条件があいまいな場合や、解除の時期が長期間にわたって不確定となる場合には、解除の意思表示としての効力に疑義が生じる可能性があります。

以下のような点が、実務上のポイントとなります。

  • 「〇日以内」「違反状態が継続している場合」など、明確かつ一定期間内に特定される条件とする
  • 停止条件が成就した場合、改めて解除通知を送付するかどうか、契約条項上の定めや実務運用を確認する
  • 相手方が条件成就を否定する可能性もあるため、違反の継続を立証できる証拠(催告文・対応記録等)を用意する

まとめ

契約解除の手続きでは、形式的な「解除事由の存在」だけでなく、解除の「意思表示の到達」と「証拠化」が不可欠です。

さらに、事前に是正の猶予を与える場合でも、解除の効果が法的に生じるように適切な文言や通知方法を選ぶ必要があります。

項目 実務的な対応策
解除通知の方法 書面化 (メールは原則避ける)
配送手段 内容証明郵便 + 配達証明が望ましい
解除文言 「契約を解除します」と明示的に記載
停止条件付き解除 条件は明確かつ一定期間に限定する

解除条項の限界と無効の可能性

契約書において解除条項を定めることは、当事者の権利として広く認められていますが、その有効性が無制限に認められるわけではありません。解除権の行使が不当と判断されたり、特定の法律に抵触することで条項自体が無効とされるケースも存在します。

この章では、解除条項に関する法的制限の典型パターンを整理します。

信義則や権利濫用法理との関係

民法は当事者の契約自由を原則としていますが、その行使が著しく不当である場合には「信義則(民法1条2項)」や「権利濫用の禁止(同条3項)」により制限されることがあります。

信義則に基づく制限

「信義則に反する」とは、契約関係や取引の経緯から見て、形式的には契約条件に合致していたとしても、社会的に著しく不合理な解除行為であると評価される場合を指します。

東京高判平成11年12月15日では、フランチャイズ契約において、契約条項に基づく解除は有効とされつつも、「実際の解除の態様や経緯が信義則に反する」として無効と判断されました。

権利濫用と判断される例は以下の通りです。

  • 形式的には解除要件に該当するものの、実質的には相手方を不当に不利益な地位に追いやる目的で行われた解除
  • ごく軽微な違反に基づく即時解除
  • 違反是正の機会を一切与えない態様の解除

実務上の注意点

実務においては、こうした信義則違反・権利濫用と評価されるリスクを回避するために、以下のような配慮が求められます。

  1. 解除の前提となる契約違反があった場合には、相手方に対して是正の機会を与えることが原則(催告や書面での通知等)
  2. 解除の正当性を担保するために、解除理由やその背景事情について、社内稟議書や社内協議の記録等を残しておくことが有効
  3. 解除に至るまでの過程において、相手方との協議や調整の経緯を適切に文書化しておくことが、後の紛争予防の観点からも極めて重要

倒産解除条項の有効性と制限 (最判平成20年等)

倒産解除条項とは ?

契約当事者が、相手方に破産・民事再生・会社更生等の法的倒産手続の申立てがあった場合に契約を解除できる旨を定めた条項を指します。

しかし、これらの条項については、倒産法制上の手続きと競合するため、その有効性が裁判上問題とされることがあります。

重要判例 : 最判平成20年12月16日 (民集62巻10号2561頁)

最高裁平成20年12月16日判決(民集62巻10号2561頁)は、契約実務上極めて重要な指針を示しました。
この事件では、ファイナンス・リース契約のユーザーが民事再生手続を申し立てたことをもってリース契約を解除した事案において、当該解除条項の適用は「民事再生手続の趣旨・目的に反する」として無効と判断されました。特にリース物件が債務者の事業継続に不可欠であり、その使用を失うことが再生計画の遂行に重大な影響を及ぼす場面では、倒産条項の適用が認められない可能性が高くなります。

清算型手続 (破産等) では ?

清算型の場合も、契約解除が債権者間の公平や管財人の処理権限に支障を及ぼす場合には無効とされることがあります(例:東京地判平成10年12月8日など)。

こうした法的制限を踏まえた上で、契約書における倒産条項の設計にあたっては、以下のような工夫が求められます。

  1. 「申立てがあったとき」を解除のトリガーとするか、「手続開始決定がなされたとき」に限定するかは、倒産手続の性質やリスク評価に応じて慎重に判断する必要があります。

  2. 明示的な倒産条項を設ける代わりに、「支払不能」や「信用状態の著しい悪化」といった一般的な信用不安条項の一類型として織り込む方法も検討されます。

  3. 契約解除によって損害が顕在化する場面を想定し、債権回収や物品の返還確保のために、別途担保契約(保証・留保所有権・質権・譲渡担保など)を設けておくことも、リスクヘッジの観点から極めて有効です。

包括条項の曖昧さと争点化のリスク

解除条項の末尾にしばしば記載される「包括条項」(バスケット条項)は次のような形で規定されます。

【規定例】
「その他、前各号に準ずる重大な事由が生じたとき」

この条項により、想定外の重大事由にも解除を拡張できる利点がある一方で、その文言の曖昧さから、後日の紛争の原因となるリスクもあり、以下のようなリスクが想定されます。

  • 「前各号に準ずるか否か」の判断が主観的となり、相手方から解除無効を主張される
  • 認識の相違や事実関係の評価が対立し、訴訟・調停に発展する

まとめ

まず、包括条項の濫用を避けるためにも、解除事由はできる限り具体的に列挙し、包括条項の出番が限定的になるよう条文設計を行うことが望まれます。
想定しうるリスクはできるだけ個別の解除条項として書き出し、包括条項はあくまでも「予備的」な位置づけとするのが妥当です。

また、包括条項に「合理的に判断されるとき」や「当事者間で重大と合理的に認識される事由がある場合」など、一定の客観的評価基準を付すことで、恣意的な適用を防止する工夫も有効です。
契約当事者の一方的な判断で解除が認められるのではなく、第三者の目から見ても妥当と評価されるような条文構成が求められます。

さらに、実際に包括条項に基づいて契約解除を行う場面では、当該事由が「前各号と同程度の重大性を有する」ことを論理的かつ具体的に説明できるよう、内部稟議書や経緯説明書、議事録等の文書を準備しておくことが望まれます。
これにより、後日相手方から解除無効を主張された場合に備えた防御策となります。

消費者契約法 ・ 下請法等による制限

消費者契約法による制限 (消契法8条の2・8条の3)

消費者契約においては、契約の当事者間に情報・交渉力の格差が存在することを前提に、消費者に一方的に不利となる契約条項については、法律によって当然に無効とされるルールが設けられています。

例えば、「消費者の解除権を一方的に放棄させる条項」は、消費者契約法第8条の2により無効とされます。また、消費者が後見・保佐・補助開始の審判を受けたことのみを理由として契約を解除できるとする条項も、同法第8条の3に基づき無効とされることになります。これらはいずれも、消費者の人格的尊厳や自己決定権を不当に制限するものとして法が保護する対象です。

実務上、契約相手が「消費者」に該当するかどうかを適切に判断した上で、解除条項の内容を精査する必要があります。特に、「事業者のみが解除可能」とするような一方的すぎる条項は、無効リスクが高く、契約書の修正・見直しが求められます。

下請代金支払遅延等防止法 (下請法) による制限

下請法は、中小企業等の取引上の地位を保護するため、親事業者による不当な取扱いを禁止しています。そのため、親事業者が下請事業者との契約を一方的かつ正当な理由なく解除することは、違法行為とみなされる可能性があります。

具体的には、正当な理由がないにもかかわらず契約を解除する行為は、下請法第4条第1項第3号が禁止する「不当な給付内容の変更及びやり直し」に該当する場合があります。
また、解除の根拠として契約書に「包括条項(例:その他、当社が不適当と判断したとき)」を設けていたとしても、実態として解除が不当であれば、違反と判断されることもあります。

したがって、契約実務においては、まず当該契約関係が下請法の適用対象(業種・取引金額等)に該当するかを事前に確認することが重要です。その上で、親事業者が一方的な解除を予定する場合には、解除理由が法的に正当と評価されるものであることを説明できるよう準備し、必要に応じて文書での事前説明や協議の機会を設けるなど、慎重な対応が求められます。

まとめ

契約書における解除条項は、当事者の契約自由に基づいて広く認められています。

しかし、以下のような法的限界や社会的制約により無効とされるリスクがあることを常に意識する必要があります。

リスク要因 対応策
信義則 ・ 権利濫用 是正の機会を与える、手続き履歴の文書化
倒産手続との抵触 条文設計の工夫 + 補完的な回収手段の併用
包括条項の曖昧性 できる限り具体的な解除事由を設定
消費者契約法 ・ 下請法 相手方属性に応じた法令遵守 ・ 条項精査

その他の特殊な解除条項

契約解除条項には、一般的な債務不履行や倒産などの事由に加え、特定の契約類型や取引リスクを想定した特殊な解除条項が設けられることがあります。

この章では、実務上ニーズの高い代表的な特殊条項として、①チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項、②私的整理・ADR手続等に関する条項、③反社会的勢力排除条項との関係、④契約不適合・瑕疵担保責任との違いを解説します。

チェンジ ・ オブ ・ コントロール (COC) 条項

COC条項とは、契約当事者の株主構成や支配権に重大な変更(経営権の異動等)が生じた場合に、相手方が契約を解除できるようにする条項です。M&Aや親会社の交代などによって、契約相手が実質的に別の法人に変わってしまうリスクに備えるものです。

【記載例】
「乙の議決権の過半数を支配する株主が変更された場合、甲は書面による通知をもって本契約を解除することができる。」

実務上の注意点

実務上、COC条項の導入にあたっては、いくつかの重要な論点があります。

まず、支配権の変更によって、契約当事者に不測の事態が生じる可能性がある点が挙げられます。
例えば、経営方針の急激な変更、秘密情報の流出、競合との取引発生などです。そのため、特に機密情報を取り扱う契約や長期にわたる業務提携契約などにおいて、COC条項は非常に有効です。

しかしその一方で、COC条項は自社にも適用されるリスクがある点に注意が必要です。
つまり、自社がM&Aの対象となった場合、相手方から契約を解除されてしまう可能性があります。したがって、導入には慎重な検討が求められます。

また、COC条項の存在は、M&A取引そのものの障害になることもあるため、状況によっては、「解除」ではなく「通知義務型」や「事前協議義務型」にとどめる設計も有効です。
このようにすることで、M&A時に契約の円滑な継続や条件交渉の余地を残すことができます。

私的整理 ・ ADR手続等に関する条項

債務者が裁判所外の再建型倒産処理手続(例:中小企業活性化協議会による再生支援、特定調停、特定認証ADRなど)を利用する場合、契約上の解除リスクが問題となります。

そのため、私的整理手続の開始申請や一時停止通知を解除事由とする条項を設けることで、早期に契約関係を整理できるようにする運用があります。

【記載例】
「相手方が特定調停、私的整理、その他これに準ずる再建型手続の申請を行った場合には、通知することなく本契約を解除することができる。」

実務上の注意点

私的整理手続は、民事再生や破産といった法的手続とは異なり、法的拘束力を有する手続きではありません。そのため、私的整理の開始自体が契約関係に法的な影響を当然に及ぼすわけではなく、その効力や解除条項の有効性については、慎重な検討が必要です。

他方で、私的整理の申請は、通常、深刻な資金繰りや経営不安の兆候であるため、それを解除事由とすることには一定の合理性があります。
実務的にも、経営状態の悪化を早期に察知し、契約相手を選別するための実効的なツールとして評価されています。

しかしながら、相手方の真摯な再建努力を妨げるような過剰な解除権の行使は、信義則(民法第1条第2項)に反するとして、その有効性が制限される可能性があることにも注意が必要です。
例えば、再建の初期段階であっても、債権者側が一方的に契約を打ち切ることで、かえって再生の妨げになるようなケースでは、裁判所から解除の無効が主張されるリスクがあります。

反社会的勢力排除条項との関係

近年の契約実務においては、反社会的勢力との関係を遮断するための「反社会的勢力排除条項」が標準化されており、その違反時に当然に解除・契約無効とする旨の規定が設けられることが一般的です。

反社会的勢力排除条項は通常、次のように構成されます。

  1. 表明保証条項(契約締結時点で反社でない旨の表明)
  2. 継続義務条項(契約期間中も反社に該当しないこと)
  3. 違反時の解除・損害賠償条項
【記載例】
「甲または乙が暴力団その他反社会的勢力に該当することが判明した場合、相手方は催告なく直ちに本契約を解除できる。」

実務上の注意点

実務上は、反社会的勢力排除条項を「契約解除条項」の中に組み込むのではなく、独立した条項として別途設けることが多く見られます。
これは、反社会的勢力の排除が解除条項以上に重要な法的・社会的意味を有するためであり、契約全体の中で特別に扱う必要があるからです。

また、反社会的勢力排除条項の効果として「当然解除(自動解除)」を定めるか、それとも「解除通知による解除」とするかは、契約の性質や取引リスクに応じて慎重に検討すべきです。
例えば、当然解除とした場合には、解除の効果が通知不要で一方的に発生しますが、その判断が不正確であった場合には、相手方から契約解除の無効を争われるリスクがあります。

さらに、実際に相手方が反社会的勢力に該当するか否かの判断は、必ずしも明白であるとは限りません。そのため、不確かな情報や告発に基づいて契約解除を行うことによって、名誉毀損や不当解除の紛争につながるリスクも想定されます。
これを回避するために、「反社会的勢力に該当することが合理的な根拠に基づいて判断された場合」という文言を追加し、解除の客観性や正当性を担保する設計が推奨されます。

契約不適合・瑕疵担保責任との違い

売買契約などでは、目的物に瑕疵(欠陥や不備)がある場合に契約を解除することがあり、これは「契約不適合責任(民法562条・564条)」による解除とされます。

ただし、契約不適合に基づく解除と、解除条項に基づく契約違反解除は別の制度であり、両者を区別して理解する必要があります。

実務上の注意点

契約不適合責任を想定した条項を設計する際には、単に「解除」に関する条項を定めるだけでは足りず、瑕疵修補請求や代替品引渡請求、減額請求といった他の法的救済手段との関係性を整理した、包括的な条文設計が必要になります。
例えば、修補請求を行わずに直ちに解除ができるか、解除の前に是正機会を与える必要があるか、といった論点は事前に調整しておくべきです。

また、契約書においては、「解除の手段は本契約に定めるものに限る」「民法上の解除権は排除する」といった排他的規定(除外条項)を設けるか否かも検討課題となります。
売主や受注者の立場からは、法定解除権を制限するメリットがありますが、買主や注文者の立場からすると、民法上の救済手段を残しておく方が有利であるため、当事者の立場に応じた設計が求められます。

さらに、契約実務の現場では、民法による契約不適合責任による解除と、契約上の違反条項による解除とが競合し得るように設計することが望ましい場合もあります。
すなわち、買主や注文者としては、契約違反に該当する場合には契約条項に基づく解除を行い、そうでない場合でも法定責任に基づいて解除を主張できるように、二重の解除権を確保しておくことがリスク管理上有益です。

まとめ

契約解除条項は、標準的な債務不履行や倒産だけでなく、近年のビジネス環境に即したさまざまな特殊条項を設けることが求められています。

COC条項や反社排除、私的整理への対応などは、リスクを事前に想定し、契約終了の選択肢を確保しておくための「出口設計」の一環といえます。

特殊条項 目的 留意点
COC条項 経営権移転リスクへの対応 双方適用の可否/M&Aへの影響
私的整理条項 倒産兆候への早期対応 信義則とのバランス
反社排除条項 レピュテーションリスク管理 通知 ・ 証拠基準の明確化
契約不適合責任との区別 適切な救済手段の使い分け 民法との関係整理が必要

解除後の効果と損害賠償

契約を解除した後、契約関係がどのように整理されるかは、法的責任や経済的影響に直結する重要な論点です。

この章では、契約解除の効果としての「遡及効」の原則、継続的契約における例外的な「将来効」、および解除に伴う損害賠償条項や違約金条項の設計上の実務ポイントについて解説します。

原則としての遡及的消滅と原状回復義務

契約を解除した場合、民法上はその契約が初めから存在しなかったものとみなされる(遡及効)とされており、各当事者は受け取ったものを返還し、互いに原状回復義務を負うのが原則です。これは民法545条1項に明記されています。

民法545条1項
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。 ただし、第三者の権利を害することはできない。

例えば売買契約において、契約が解除された場合には、売主は受領した代金を買主に返還し、買主は商品を元の状態で返還することになります。返還が物理的に困難な場合には、その代金相当額を金銭で返す義務が発生します。

もっとも、契約の一部が既に履行されている場合には、返還不能な履行については金銭的に評価し、損害賠償の対象とされることもあります。
また、原状回復が実質的に不可能または著しく困難である場合には、信義則の観点から解除自体が制限されることもあるため、契約解除に伴う影響と制約は慎重に検討する必要があります。

継続的契約における将来効の特約

売買契約などの瞬間的契約とは異なり、委任契約、賃貸借契約、フランチャイズ契約、ライセンス契約など、一定期間にわたり継続することを前提とした契約類型では、解除の効果を契約締結時点に遡らせるのではなく、将来に向けて効力を失わせる(将来効)ことが原則となります。

民法においても以下のように明文化されています。

民法620条
賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。

民法652条
第六百二十条の規定は、委任について準用する。

そのため、契約書においても、「本契約の解除は、将来に向かってのみその効力を生じ、既に履行された義務については影響を与えないものとする。」といった将来効を前提とした条項を記載することで、過去の履行関係は維持しつつ、今後の契約関係のみを解消する設計が可能となります。

ただし、解除が将来効であったとしても、過去の債務不履行に基づく損害賠償請求の余地は当然に残されており、解除通知の文言や契約の性質によっては、将来効か遡及効かが争点化するリスクもあるため、通知書面にその旨を明記しておくことが望まれます。

損害賠償条項・違約金条項とのセット規定の重要性

契約解除がなされたとしても、解除の原因が相手方の契約違反等によるものであれば、解除とは別に損害賠償請求を行うことが可能です(民法415条、545条2項)。

民法545条4項
解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

したがって、実務上は契約書において、「解除条項」と「損害賠償条項」はセットで規定することが基本とされます。例えば、以下のような条文が典型的です。

【記載例】
「解除により本契約が終了した場合であっても、解除の原因となった事由により相手方に損害が生じたときは、当該損害の賠償を請求できるものとする。」

加えて、「違約金条項」を設けておくことで、損害賠償請求に際し、損害の立証や金額の算定を省略できるという実務的な利点があります。これは民法420条以下において、あらかじめ損害賠償額を定めておく「損害賠償額の予定」としての効力が認められています。

【記載例】
「甲または乙が本契約第○条に違反して解除された場合、違反当事者は○○万円の違約金を支払うものとする。」

ただし、違約金の金額が著しく高額または不相当に低額である場合には、裁判所により減額(または無効)と判断される可能性があります(民法420条3項)。そのため、契約実務においては、違約金が損害賠償の予定額であるのか、制裁的な意味合いを持つペナルティ条項であるのか、その性質を明確化しておくことが求められます。

契約書全体の整合性を高めるためには、解除条項、損害賠償条項、違約金条項を一体的かつ論理的に設計することが、リスク管理上きわめて重要となります。

まとめ

契約の解除は、法的には「関係を切る」ことにとどまらず、解除の効果とその後の責任整理まで一貫して規定・運用することが不可欠です。

解除後の対応を明確にしておくことで、後日の損害賠償請求や契約残務処理において不要なトラブルを防止できます。

項目 実務対応のポイント
遡及効の原則 原状回復義務を前提とした条項設計が必要
継続契約の将来効 条文上に「将来効」を明記することで安定処理
損害賠償条項 契約違反による解除後の責任追及に備える
違約金条項 損害立証リスクを回避しつつ、一定額を担保

まとめとチェックリスト

契約解除条項は、取引における「出口戦略」の中核を担う重要条項であり、契約書レビュー時における法務の責任は極めて大きいと言えます。

この章では、これまでの章の要点を整理したうえで、契約書レビューの実務に役立つチェックリストとともに、トラブル予防のための表現の工夫や文言例を紹介します。

契約書レビュー時の確認ポイント

契約解除条項をチェックする際には、以下の観点からバランスのとれた設計となっているかを確認することが重要です。

項目 確認内容
解除事由の具体性 債務不履行、倒産、信用不安など、客観的・定量的に判定可能な記載となっているか? 抽象的・主観的すぎないか?
解除権のバランス 双方に解除権が付与されているか? 一方的に解除を許容する不公平な構成になっていないか?
無催告解除の妥当性 「何らの催告なく解除」などの表現が、信義則違反・濫用と評価されるリスクを回避しているか? 是正機会や協議条項の設計はあるか?
倒産・私的整理との関係 民事再生・破産・特定調停・私的整理等の開始が解除事由とされている場合、再建手続への過度な妨害になっていないか? 条文設計に配慮はあるか?
反社会的勢力排除との連携 反社条項が解除条項と整合的に構成されているか? 「当然解除」ではなく「通知解除」とするなど、紛争予防の工夫はあるか?
損害賠償・違約金の整備 解除に伴う損害賠償請求・違約金請求の条文が併設されているか? 損害額立証や合理的金額設定の観点から妥当か?
契約類型との整合性 売買・業務委託・賃貸借等、契約類型に応じて、将来効(民法620条等)/遡及効(民法545条)の整理がなされているか?
解除後の効果整理 解除後の債務整理・清算条項(損害賠償・精算義務・秘密保持・再委託返還等)まで規定されているか?

事前協議・是正機会を設ける記載例

解除条項は一方的に契約関係を終了させる強い効力を持つため、実務上はトラブル防止の観点から「事前協議」や「是正猶予期間」を明示しておくことが推奨されます。

【事前協議義務を明記する記載例】
「契約当事者は、本契約の解除を検討するにあたり、速やかに誠実に協議を行うものとし、解決の可能性を探るものとする。」
【是正機会を設ける記載例】
「甲または乙が本契約の各条項に違反した場合であって、相当の期間を定めて書面により是正を催告したにもかかわらず、当該違反が是正されないときは、相手方は本契約を解除することができる。」

澤田直彦

このような文言を記載することで、以下のような効果があります。

• 信義則違反や解除無効とされるリスクの低減
• 相手方との関係維持、円満な契約終了への配慮

誤解・紛争を避けるための表現上の工夫

契約書において曖昧な表現や断定的すぎる言い回しは、後日の紛争を引き起こす火種となります。

以下の点に注意しながら、表現の調整を行うことが肝要です。

◆ 曖昧さを避ける

・ 「著しい信用不安」などの表現は、定量的・客観的な指標(例:支払遅延〇回、手形不渡りなど)を伴って記載する
・ 「信頼関係が損なわれたとき」など主観的要素の強い表現は、他の解除事由との併記や協議条項の併設が有効

◆ 表現の緩急をつける

誤解・対立を生みやすい表現 修正例
「直ちに解除できる」 「書面通知により解除できる」
「合理的な判断に基づき解除できる」
「相手方の一切の債務不履行を理由に解除できる」 「相手方による重大な債務不履行があり、相当期間内に是正されない場合」

◆ 解除後の処理を整理する記載例

【記載例】
「解除により本契約が終了した場合であっても、当該解除に起因する損害賠償請求その他の権利義務の存否には影響を与えないものとする。」

まとめ

契約解除条項の検討は、単なる「契約終了の手段」ではありません。万一に備えた防御策であると同時に、ビジネス関係を円満に整理するための設計でもあります。

実務担当者としては、以下の3点を意識して解除条項の設計・レビューを行うことが求められます。

  1. 解除要件は明確かつ限定的に定めること
    (曖昧な表現は避け、客観的基準と手続的前提を明記する)
  2. 是正や協議の機会を事前に設計すること
    (信義則・契約安定性の観点から、突然の解除を避ける工夫)
  3. 解除後の損害賠償・義務処理の整理も忘れないこと
    (終了後の清算関係や補償責任まで視野に入れた条文設計)

解除条項は契約トラブルの「最後の防波堤」であると同時に、「ソフトランディングの鍵」ともなります。単に法的効力だけでなく、契約関係の終わり方まで設計する視点が、現代の契約実務には求められています。

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