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損害賠償条項を制する者は契約リスクを制す!契約書レビューで押さえるべき重要ポイント【企業法務部門必見】

Q
契約書の損害賠償条項、どこまで細かく設計すべきか悩んでいます。
過剰に厳しくすると相手方に嫌がられますし、甘すぎると会社を守れない気もして…。
実務では、どのような視点でバランスを取ればよいのでしょうか?

A
損害賠償条項は、「どの範囲の損害まで ・ どの金額まで ・ どの条件で」責任を負うのかを、契約ごとのリスク特性や交渉力バランスに応じて設計することが不可欠です。
テンプレートのコピペや一般論では不十分であり、取引実態に即した条文調整がリスク最小化につながります。


この記事では、企業法務部門の皆様に向けて、契約書レビューにおける損害賠償条項の押さえるべき重要ポイントを、民法の基本から、実務での条文カスタマイズ例、さらに注意すべきリスク管理策まで、体系的に解説します。
契約トラブル発生時に自社を守れる契約書を作るために、ぜひご活用ください!


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「契約書レビューにおける損害賠償条項の押さえるべき重要ポイント」
について、詳しくご説明します。

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はじめに

損害賠償条項の重要性

企業間取引において、契約書は取引内容や権利義務関係を明確に定めるとともに、万一トラブルが発生した場合のリスクを管理する重要なツールです。

なかでも損害賠償条項は、契約違反があった場合に、どのような損害について、どの範囲・金額まで賠償責任を負うのかを定めるものであり、契約リスク管理の中核を成します。

実務上、債務不履行があった場合でも、すべての損害が自動的に賠償されるわけではありません。
民法上(民法415条、416条等)、損害賠償が認められるためには、以下のような複数の要件を満たす必要があり、賠償範囲も「通常損害」または「特別損害(予見可能な範囲)」に限定されます。

  • 債務不履行の事実(履行遅滞、不完全履行、履行不能)
  • 債務者に帰責性があること
  • 損害の発生および損害額の証明
  • 債務不履行と損害との因果関係

また、損害額の立証負担が大きいことや、賠償対象となる費目 (例:人件費、弁護士費用、営業損失等) の解釈を巡って紛争が生じやすいこともあり、契約締結時にあらかじめ明確な損害賠償条項を整備することが、トラブル発生時の負担軽減とリスク最小化につながります。

特に近時の裁判例でも、契約書上の損害賠償条項の文言が、賠償責任の有無や範囲を左右するケースが増えており、条文設計の重要性は一層高まっています。

契約書レビュー依頼を活用する意義

こうした状況を踏まえると、契約実務においては、自社が不必要に広い損害賠償リスクを負わないこと、他社に対して適切な賠償請求を確保できることを両立させるため、契約締結前に専門的な視点から損害賠償条項をレビューすることが不可欠です。

特に、損害賠償条項は契約類型・取引内容ごとに適切な設計が求められるため、画一的な条文テンプレートでは不十分です。以下の点については、慎重な検討が求められます。

  • 賠償対象を「合理的な弁護士費用を含む」と明記するかどうか
  • 金銭債務不履行に対する遅延損害金率を法定利率以上に設定するかどうか
  • 非金銭債務不履行に備え、違約金や賠償額予定条項を設けるかどうか
  • 賠償額の上限を設けるかどうか

さらに、英文契約(damage, loss, expenseなど)や外資系企業との交渉においては、日本法の損害賠償概念との違いにも留意しなければなりません。

企業法務部門として、自社のリスク許容度や取引先との力関係を踏まえた柔軟な条文修正案を検討できる体制を整えるためにも、専門家による契約書レビューの活用が極めて有効です。
実際に、損害賠償条項を適切に設計・交渉できたことで、訴訟や紛争に発展した場合でも、有利な和解や迅速な問題解決につながった事例も多く報告されています。

損害賠償条項の基本構造

民法415条に基づく債務不履行責任

契約における損害賠償請求は、原則として民法415条に基づいて行われます。

同条は次のように規定しています。

【民法415条】
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償をすることができる。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

すなわち、契約違反が発生した場合には、原則として債務者が損害賠償責任を負うことになります。

この責任を免れるためには、債務者側が「責めに帰することができない事由」(たとえば不可抗力等)が存在することを主張・立証しなければなりません。

民法415条に基づく損害賠償請求には、次のような要件が必要です。

  • 債務の存在
  • 債務不履行の事実(履行遅滞、不完全履行、履行不能)
  • 損害の発生
  • 債務不履行と損害との因果関係
  • 債務者の帰責事由(過失または故意)

また、損害賠償の範囲は、通常損害(民法416条1項)と、当事者が予見可能であった特別損害(同2項)に限定されます。

標準的な損害賠償条項のサンプル紹介

契約書においては、こうした民法上の原則を踏まえつつ、さらに実務上の明確化・リスクコントロールを図るために、標準的な損害賠償条項を規定することが一般的です。

たとえば、以下のようなシンプルな条文がよく用いられます。

【サンプル条項】
(損害賠償)
相手方が本契約に違反したときは、当事者は、これによって生じた損害(合理的な弁護士費用を含む。)の賠償を相手方に請求することができる。

このような損害賠償条項を設けることによって、実務上は以下の効果が期待されます。

• 契約違反に基づく損害賠償請求権の存在を明確化できる
(※民法上当然に請求できるものでも、条文で明記することにより後日の紛争防止に役立つ)
• 損害の範囲に「合理的な弁護士費用」を含めることを事前に明示できる
• 損害賠償請求を行う際の交渉ベースを契約上確保できる

なお、サンプル条項は民法415条の原則に沿ったものですが、実務ではさらに次のような修正・補充が加えられるケースが多く見られます。

▸ 損害賠償責任の上限額を定める (例 : 「契約金額を上限とする」など)
▸ 金銭債務不履行について遅延損害金を別途定める
▸ 非金銭債務不履行に備え、違約金条項や損害賠償予定条項を設ける
▸ 通常損害 ・ 特別損害の範囲を明確に制限する

これらの点を検討せずに、画一的なサンプル条項をそのまま使用してしまうと、必要以上に広い損害賠償責任を負うリスクや、逆に自社の損害回収が難しくなるリスクが生じかねません。

したがって、契約ごとの取引内容・リスクに応じて、損害賠償条項を柔軟にカスタマイズすることが極めて重要です。
そのためにも、契約締結前に専門家によるレビューを受け、適切なリスクコントロールを図ることが望まれます。

契約実務における損害賠償条項の修正パターン

契約実務においては、単に民法415条をなぞっただけの損害賠償条項では、トラブル発生時に対応しきれないリスクが存在します。
そのため、取引の内容・リスク特性に応じて、損害賠償条項をさらに具体的・明確に修正・補強することが重要です。

ここでは、特に実務上よく問題となる2つの修正パターンを紹介します。

① 損害賠償範囲の明確化 : 「損害 ・ 損失 ・ 費用」 列挙型条項の活用

損害賠償請求の際に、実際に対象となる損害の範囲が争われるケースは少なくありません。
たとえば、以下のような費目が問題となることがあります。

• 事故対応に要した人件費や出張費
• 裁判対応のための弁護士費用
• 営業機会の逸失による売上損失

これらを契約締結時点で明確にしておくために、「損害、損失、費用」を列挙する形で条項を設計することが一つの方法です。

【列挙型条項例】
(損害賠償)
相手方が本契約に違反したときは、当事者は、これによって生じた損害、損失又は費用(合理的な弁護士費用を含む。)について、相手方に賠償を請求できる。

このような列挙型とすることにより、以下の点をあらかじめ明確にすることができます。

• 「損害」だけではなく、「損失」(逸失利益等)や「費用」(人件費・調査費等)まで請求可能であること
• 弁護士費用も明示的に含めること

ただし注意点もあります。
上記の「損害、損失又は費用」という表現は、もともと英文契約(damage, loss or expense)を直訳したものであり、日本法の文脈では「損害」のみで足りるとする見解も有力です。そのため、和文契約では冗長な表現を避け、より整理された表現とすることも一案です。

たとえば、次のように記載することも考えられます。

【整理型条項例】
(損害賠償)
相手方が本契約に違反したときは、当事者は、これによって被った一切の損害(合理的な弁護士費用を含む。)について賠償を請求できる。

このように、損害賠償範囲の表現方法も、取引の性質、相手方との交渉力バランス、日本法に適合した文言整理の必要性を踏まえた選択が求められます。

② 弁護士費用の損害への含め方

もう一つ、実務で特に重要となるのが弁護士費用を損害の範囲に含めるかどうかという点です。

通常、民法上の原則では、債務不履行に基づく弁護士費用は損害賠償の対象とならないとされています(不法行為とは異なり、契約違反では自己負担が原則)。
そのため、契約書上で明示的に「合理的な弁護士費用を含む」旨を規定しておかないと、後から弁護士費用を請求することができないリスクがあります。

特に、企業間トラブルでは、「契約違反対応のために弁護士を起用するコスト」や「訴訟対応・差止請求対応に要する費用」が相当額に上ることも珍しくありません。

このため、損害賠償条項に次のような文言を加えることが実務上非常に重要です。

【弁護士費用を含める条項例】
(損害賠償)
相手方が本契約に違反したときは、当事者は、これによって被った損害(合理的な弁護士費用を含む。)について、相手方に賠償を請求できる。

ここで留意すべきは、「合理的な」との限定を付す点です。

過剰な弁護士費用(たとえば無駄に高額なフィーを支払った場合など)についてまで賠償請求が認められるわけではないため、相当性を契約書上であらかじめ枠付けしておくことが重要です。

このように、損害賠償条項の範囲を明確にし、弁護士費用を含めるかどうかを契約段階でしっかり設計することは、いざトラブルが発生したときに備えた実務的なリスクマネジメントに直結します。

また、これらの検討を行う際には、単なる文言の調整にとどまらず、取引の具体的内容や、潜在的な紛争リスクを踏まえた専門的なレビューが不可欠であることも、あわせて認識しておくべきでしょう。

遅延損害金条項の設計

金銭債務不履行における遅延損害金

契約において金銭の支払義務(売買代金、報酬、請負代金など)が定められている場合、相手方が支払期日を過ぎても履行しないときには、遅延損害金の支払請求が問題となります。

この点について、民法419条1項本文は、金銭債務の不履行による損害賠償は「遅延損害金に限られる」と明記しており、金銭債務に関する限り、特段の事情がない限り、損害賠償額は遅延損害金の範囲に限定されます。

つまり、金銭債務の場合には、通常の債務不履行のように実損害の立証をすることなく、あらかじめ定めた利率に基づく損害賠償(利息相当額)の支払を請求できる制度設計となっています。
遅延損害金の設定は、「債務者に対する支払遅延の抑止力」「損害立証負担の軽減」という観点からも、非常に重要な条項となります。

特に、支払遅延による自社のキャッシュフロー悪化や資金コストの負担を防ぐためにも、契約書に明確な遅延損害金条項を設けておくことが望ましいといえます。

法定利率と約定利率設定の実務ポイント

遅延損害金の利率について、民法は以下のように定めています。

  • 原則として法定利率年3%(民法404条2項、2023年4月1日現在)
  • ただし、当事者の合意により、法定利率を超える約定利率を定めることも可能(民法419条1項ただし書)

このため、契約書上に遅延損害金の利率を定めていない場合には、自動的に法定利率(現時点では年3%)が適用されることになります。

しかし、法定利率は3年ごとに変動する仕組み(民法404条3項~5項)が採用されており、将来的に利率が変わる可能性があるため、安定的・予測可能な運用を図るためには、契約書で約定利率を定めることが実務上推奨されます。

【遅延損害金条項例】
(遅延損害金)
乙が本契約に基づく金銭債務の支払を遅滞したときは、甲は、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年14.6%の割合による遅延損害金を請求できるものとする。

澤田直彦

【実務上のポイント】
• 遅延損害金の利率は、年利14.6%(国税通則法等に倣った水準)を基準とする例が多い。
 (14.6%は1年365日で割り切れるため、日割計算が容易という実務上の利点もあります。)

• 利率設定が高すぎる場合には、暴利行為として無効とされるリスクがあるため注意。

• 金銭債務者側(買主、委託者側)で契約する場合には、逆に高利率設定が不利に働くため、交渉段階で引き下げを求める対応が必要。

このように、遅延損害金条項は、契約類型や自社の立場(売主側か買主側か)を踏まえた適切な設計が求められます。
また、取引額が大きい案件や、支払サイトが長期にわたる案件では、支払遅延がもたらす経済的影響も大きくなるため、遅延損害金条項の整備は特に重要です。

契約書レビュー時には、単にサンプル文言を流用するのではなく、「適切な利率設定」「適用範囲の明確化」「支払期日との整合性確認」など、専門的観点からのチェックとカスタマイズが不可欠です。

違約金 ・ 損害賠償額の予定条項

民法420条に基づく活用

契約実務においては、損害賠償請求を行う際に、「実際に損害が発生したこと」「損害額がいくらであるか」を立証する負担が非常に大きな問題となることがあります。

とりわけ、非金銭債務(例:物品の引渡債務、業務提供債務など)の不履行では、損害の内容や金額を一から立証することが難しいケースが少なくありません。

このような場面で有効となるのが、民法420条に基づく「損害賠償額の予定」条項の活用です。

【民法420条1項】
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。

損害賠償額を予定しておくことにより、債権者は、損害の発生や損害額の具体的立証を要することなく、予定された金額を請求することができます。

また、予定額の範囲内であれば、実際に発生した損害が少額であっても、予定額を請求できるため、損害回収の確実性を高めることができるというメリットもあります。

【損害賠償額の予定を定めたサンプル条項】
(損害賠償)
相手方が本契約に違反したときは、当事者は、これによって被った損害(合理的な弁護士費用を含む。)について賠償請求できる。
ただし、乙が甲に対して負う損害賠償責任については、違約金として金〇〇万円とするものとし、甲は損害の有無または額を問わず、当該違約金の支払いを請求できる。

このように、「違約金」として定めることによって、損害発生・損害額の立証を不要にし、早期回収を図ることが可能となります。

特に、業務委託契約や売買契約など、履行遅滞・履行不能のリスクがある取引では、あらかじめ違約金条項を設けておく意義が大きいといえるでしょう。

違約罰条項との違いと注意点

一方で、「違約金」と似た概念として「違約罰」というものも存在します。
違約金と違約罰は契約実務上しばしば混同されますが、次の点で大きな違いがあります。

項目 違約金(損害賠償額の予定) 違約罰
法的性質 損害賠償額の予定(民法420条) 制裁的意味を持つ金銭負担
損害発生要件 損害の有無にかかわらず予定額を請求可能 損害発生にかかわらず課される
実損害超過の請求 不可(実損害が予定額を超えても、予定額までしか請求できない) 実損害とは別に請求できる場合がある
判例上の取扱い 通常は有効(公序良俗に反しない限り) 極めて慎重に判断、無効となるリスク高い

実務では、違約金条項を設ける場合でも、基本的には「損害賠償額の予定」として取り扱われると理解されます。

民法420条3項も、違約金は損害賠償額の予定と推定すると定めています。
つまり、契約上「違約金」と書いてあっても、実際には損害賠償額の予定とみなされ、予定額を超える損害の追加請求や、別途の制裁的賠償は原則として認められないことになります。

仮に、違約罰(違反に対する制裁金)として本当に別途損害請求を行いたい場合は、条項文言で明確に次のように規定する必要があります。

【違約罰を明示した例】
(違約金)
相手方が本契約に違反した場合には、違約金として金〇〇万円を支払うものとする。
なお、甲は、当該違約金とは別に、実際に発生した損害額の賠償を請求できるものとする。

もっとも、日本の裁判例は、違約罰について非常に慎重な立場を取っており、制裁的条項は公序良俗違反(民法90条)により無効とされるリスクもあるため、実務上は「違約罰的性格をできる限り薄める」方向で条項設計を行うべきです。

澤田直彦

以下のように違約金については検討するとよいでしょう。

• 基本方針 : 違約金はあくまで損害賠償額の予定と位置付け、無用なリスクを避ける

• 契約書表現 : 「別途実損害の賠償も可能」と書く場合でも、相手方との交渉感度に注意(強い反発を招くことも)

• 条項設計時 : 予定額が高すぎる場合は、公序良俗違反リスク(例:暴利的違約金)にも配慮する

契約書レビュー・作成の際には、単に「違約金」と記載するだけでなく、条項の意図や、予定額の適切性、将来の争いリスクも総合的に検討すべきです。

賠償額の上限設定

上限規定の意義

契約実務において、損害賠償条項を定める際には、損害賠償責任に上限を設けることが重要なリスク管理手段となります。

債務不履行が発生した場合、契約上明確な制限がないと、以下のような重大なリスクが現実化する可能性があります。

  • 予想外に大きな損害賠償請求を受ける
  • 紛争発生時に損害額の評価を巡って泥沼化する

特に、非金銭債務(たとえば、成果物の引渡債務や、システム開発業務の遂行義務等)の不履行に関しては、以下のようなリスクが存在するため、あらかじめ賠償額に上限を設定しておくことは、企業防衛の観点から極めて重要です。

  • 損害額が際限なく膨らむおそれ
  • 派生的損害(間接損害、拡大損害)まで賠償対象とされるリスク

また、非金銭債務における不履行では、損害発生・因果関係の立証が容易ではない反面、実際に生じる損害が予測しにくい場合もあるため、上限設定によって、契約当事者間のリスク配分を明確にすることが、双方にとってメリットとなり得ます。

想定される条文例

賠償額の上限を設定する際には、「どの範囲の損害賠償責任を」「どの金額で制限するか」を明確に定める必要があります。

以下に、実務でよく用いられる条文例を示します。

【賠償額上限設定のサンプル条項】
(損害賠償の制限)
当事者は、本契約に関連して相手方に生じた損害について賠償責任を負う場合であっても、その賠償額の総額は、当該損害発生時点における本契約に基づき支払われた対価の総額を上限とする。
ただし、故意または重過失による損害についてはこの限りではない。

このような条項設計により、以下のような合理的なリスクバランスを図ることが可能になります。

• 損害賠償責任を「契約対価相当額」までに限定
• 故意 ・ 重過失の場合には上限適用を除外

特に、売買契約・業務委託契約・システム開発契約など、履行内容に応じて損害額が大きく変動しうる取引では、こうした上限設定が不可欠です。

澤田直彦

実務上の注意点は以下のような事項が挙げられます。

・ 上限設定の対象範囲を明確にする : 「契約違反に基づくすべての損害賠償」か、それとも「特定の義務違反に限定」するか

・ 故意 ・ 重過失を除外するか検討 : 故意 ・ 重過失まで免責すると、消費者契約法違反リスクや公序良俗違反リスクが高まるため、通常は除外しておく

・ 逸失利益や間接損害も対象とするか検討 : 「直接損害のみ対象」と明記する例もあるが、解釈論争を避けるため慎重に設計

このように、賠償額の上限条項は、適切に設計すれば、想定外の損害請求リスクを大きく抑制できる一方で、条文の表現次第では、思わぬ紛争の火種となるリスクもあるため、契約書レビュー時には専門的視点からの精査が不可欠となります。

損害賠償の範囲に関する留意点

損害賠償条項を検討するにあたり、単に「損害が発生したら賠償する」という抽象的な規定だけでは不十分です。
実務上は、どの範囲までの損害が賠償対象となるかを慎重に整理し、契約書上明確にしておくことが重要です。

ここでは、損害賠償の範囲に関して特に留意すべき分類を整理します。

通常損害 ・ 特別損害 (民法416条)

損害賠償請求においては、まず民法416条に基づく「通常損害」「特別損害」の区別が基本となります。

【民法416条】
1. 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2. 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

つまり、以下のように整理されます。

  • 通常損害 : 一般にその種の債務不履行によって通常発生すると考えられる損害
  • 特別損害 : 特別な事情によって生じた損害(予見可能性が必要)

通常損害については、債務者の予見可能性を問わず賠償請求が認められるのに対し、特別損害については、契約締結時にその特別事情を予見し得た場合に限り、賠償請求が認められる点に注意が必要です。

【具体例】
• 通常損害 : 売買契約における目的物未引渡しによる代金返還・通常利息
• 特別損害 : 目的物未引渡しにより別契約の履行ができず損害を被った場合の逸失利益

なお、裁判実務では、「相当因果関係の範囲内」かどうかという観点からも損害賠償の範囲が限定されています。

積極損害 ・ 消極損害の具体例

損害はさらに、その性質に応じて「積極損害」「消極損害」に分類されます。

  • 積極損害 : 債務不履行によって現実に生じた財産の減少(支出)
  • 消極損害(逸失利益) : 債務不履行がなければ得られたはずの利益の喪失

【具体例】

分類 具体例
積極損害 ・ 修理費用 、 再調達費用
・ 回収 、 検査 、 廃棄費用
・ 出張旅費 、 超過勤務手当
消極損害 ・ 営業停止による売上損失
・ 利益率に基づく将来利益の喪失

たとえば、製造機械の不具合によって工場の稼働が停止した場合、以下の両方が問題となることがあります。

• 機械修理費用(積極損害)
• 営業停止による利益損失(消極損害)

実務上は、消極損害(逸失利益)の立証が難しく、金額も争点化しやすいため、契約書において、積極損害に限定するのか、消極損害も含めるのかを整理しておくことが重要です。

間接損害 ・ 拡大損害の取扱い

さらに、契約実務では両方が問題となることがあります。「間接損害」「拡大損害」という表現にも注意が必要です。

  • 間接損害 : 債務者以外の第三者に発生した損害や、債務不履行の結果として派生的に生じた損害
  • 拡大損害 : 直接的な損害にとどまらず、その波及的影響でさらに広がった損害

澤田直彦

実務上の懸念点として、「間接損害」という用語には明確な法的定義がない、また、当事者間で、どの範囲が「間接」か「直接」かを巡り、解釈が対立しやすい点があります。

たとえば、システム開発契約において、開発遅延による自社の営業機会損失(消極損害)、その結果、取引先に支払った違約金(間接損害)が争われることがありえます。

このため、契約書上、間接損害や拡大損害について、以下のように明示的に規定を設けることが実務上有効です。

【間接損害除外例】
(損害賠償の範囲) 当事者は、本契約に関連して生じた直接かつ通常の損害についてのみ賠償責任を負い、間接的損害、拡大損害、逸失利益については責任を負わないものとする。

まとめ

損害賠償範囲を整理する際には、以下の点を意識した条項設計が不可欠です。

  • 通常損害 ・ 特別損害の区別
  • 積極損害 ・ 消極損害の認識
  • 間接損害 ・ 拡大損害への明確な対応

トラブル発生後に賠償範囲を巡って紛争が拡大しないよう、契約締結時点で明確かつ合理的な整理をしておくことが、企業リスクを抑える最善策となります。

契約書レビュー・作成の際には、これら損害賠償範囲の整理を意識したプロフェッショナルのサポートを受けることが有効です。

過失相殺 ・ 損益相殺の調整条項

契約実務では、損害賠償条項を定める際、単に「債務不履行があれば賠償する」という一方向的な規定にとどまらず、損害賠償額を適切に調整する規定を設けることが、紛争防止・リスク管理上非常に重要です。
特に実務で重要となるのが、過失相殺と損益相殺の考慮です。

以下、それぞれの制度と条項への落とし込み方を解説します。

過失相殺(民法418条)

過失相殺とは

過失相殺とは、債権者(損害賠償請求をする側)の過失が、損害の発生または拡大に寄与している場合に、損害賠償額を減額する仕組みをいいます。

【民法418条】
債務不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

たとえば、以下のような場合では、買主(債権者)側にも過失があるため、賠償額が減額される可能性があります。

• 注文者がシステム開発プロジェクトの管理を怠り、遅延に一因をなした場合
• 売主が提供した商品に問題があったが、買主も保管管理を怠った結果、損害が拡大した場合

過失相殺条項の活用方法

契約書には、以下のような条項を設けて、過失相殺の適用を明示しておくことが推奨されます。

【過失相殺条項例】
(過失相殺) 当事者は、相手方に対して損害賠償責任を負う場合であっても、当該損害の発生または拡大について相手方に過失があったときは、その過失の程度に応じて損害賠償額を減額できるものとする。

このように明示しておくことで、「債務者側の防御手段を確保できる」「交渉時に減額主張がしやすくなる」といった実務的メリットが得られます。

損益相殺

損益相殺とは

損益相殺とは、債務不履行により損害が発生した一方で、その事象により債権者が何らかの利益を得た場合に、得られた利益分を損害額から控除する仕組みをいいます。

民法上明文の規定はありませんが、判例実務上、公平の見地から認められています。

【典型例】
• 売買契約が解除された結果、売主が在庫商品を他に高値で売却できた場合
• 業務委託契約が解除され、委託者側で他社とより有利な条件で再契約できた場合

このような場合、本来負担すべき損害が結果的に縮小しているため、得られた利益分について賠償請求が否定または減額されます。

損益相殺条項の活用方法

損益相殺についても、契約書上、調整条項を明記しておくことが有効です。

【損益相殺条項例】
(損益相殺)
当事者は、相手方に対して損害賠償責任を負う場合であっても、相手方が当該損害の発生に関連して利益を得たときは、当該利益分を控除した金額のみを損害賠償額とするものとする。

このように明示しておくことで、「不当に過大な損害賠償請求を防止できる」「紛争発生時の損害額算定を合理化できる」といった効果が期待されます。

まとめ

過失相殺・損益相殺の条項をあらかじめ契約書に組み込んでおくことにより、損害賠償額に関する紛争リスクを大幅に低減することができます。

特に、以下のような契約や取引では、これらの調整条項が実務上大きな意味を持ちます。

• 双方に管理責任が分散しているプロジェクト型契約
• 損害発生後に市場変動やリカバリー策が講じられる取引

契約書レビューの際には、単なる損害賠償義務の有無だけでなく、過失相殺・損益相殺による損害額調整の視点を取り入れることが、実務的なリスクコントロールの鍵となるでしょう。

よくある検討ポイントと契約レビュー上の注意事項

損害賠償条項は、契約リスク管理の要ともいえる条項ですが、実務では単に「損害が発生したら賠償する」と規定しているだけでは十分ではありません。
トラブル防止とリスクヘッジのためには、損害賠償条項の構成要素一つ一つを丁寧に検討することが不可欠です。

ここでは、契約書作成・レビュー時によく問題となるポイントと注意事項を整理します。

賠償責任範囲のバランス

まず最も基本的な検討ポイントは、賠償責任の範囲をどの程度広げるか、または制限するかというバランスです。

  • 「通常損害」のみに限定するか、特別損害(逸失利益等)も対象に含めるか
  • 積極損害のみを対象とし、消極損害(逸失利益)や拡大損害は除外するか
  • 賠償責任の上限(例:契約金額相当額)を設けるか
  • 弁護士費用・対応人件費等も賠償範囲に含めるか

一方的に広範な賠償責任を認めてしまうと、予期せぬ大規模な損害請求を受けるリスクが生じます。

逆に、過度に賠償範囲を限定しすぎると、相手方から契約締結交渉時に強い反発を受けることもあるため、取引の重要性、リスク、交渉力関係を踏まえて適切なバランスを検討する必要があります。

一方的な免責条項のリスク

特に注意すべきなのが、一方的な免責条項の存在です。

たとえば、「当社はいかなる場合も損害賠償責任を負わない」、「契約違反があっても、責任の全部を免除する」といった条項は、たしかにリスク回避の観点では魅力的に見えるかもしれませんが、実務上は以下のような重大なリスクを伴います。

  • 交渉上、相手方から強い修正要求を受ける
  • 公序良俗(民法90条)違反として無効と判断されるリスク
  • 消費者相手の取引では消費者契約法違反となる可能性
  • BtoB取引でも、著しく不合理な条項は裁判所で制限される可能性

特に、故意・重過失による損害についてまで免責する条項は、原則無効とされることが確立しています。

そこで、実務対応としては、次の点を意識するとよいでしょう。

 故意・重過失による損害については免責しない旨を明記
 通常の過失による損害賠償範囲のみを合理的に限定する
 上限額設定や特別損害排除によって、責任をコントロールする

損害額立証負担への配慮

さらに、損害賠償条項を設計する際には、損害額立証の負担軽減も意識することが重要です。

たとえば、以下のような工夫をすることで、トラブル発生時に迅速かつ効率的に損害回収を図ることができます。

  • 違約金(損害賠償額の予定)条項を設ける
  • 遅延損害金率をあらかじめ定めておく
  • 一定の費目(合理的な弁護士費用、人件費等)の請求を明示的に認める

まとめ

損害賠償条項におけるよくある検討ポイントは、以下の通りです。

  • 賠償責任範囲のバランス調整
  • 一方的免責条項の回避
  • 損害額立証負担の軽減

これらを意識せずに契約書を締結してしまうと、トラブル発生時に深刻な損害を被るリスクが高まります。

契約書レビューの段階で、損害賠償条項の設計意図とリスクバランスを徹底的に検討し、専門家のチェックを受けることが、企業防衛の観点から不可欠だといえるでしょう。

まとめ : 損害賠償条項を巡るリスク管理のために

損害賠償条項は、契約リスク管理における極めて重要な要素です。

債務不履行が発生した場合、単に民法の一般規定に頼るだけでは、想定外の損害賠償請求を受けたり、逆に自社の損害回収が困難になったりするリスクがあります。

本稿で見てきたように、契約実務において損害賠償条項を設計する際には、以下のような多角的な観点からの検討が不可欠です。

損害賠償条項チェックリスト

項目
契約不履行があった場合に負う賠償責任の範囲(通常損害・特別損害)
賠償対象とする損害の種類 (積極損害 ・ 消極損害 ・ 間接損害)
賠償額の上限設定の有無とその金額
弁護士費用や対応費用を損害に含めるか
遅延損害金の利率設定 (法定利率と約定利率の比較)
損害賠償額の予定 (違約金) 条項の要否
過失相殺 ・ 損益相殺による賠償額調整条項の整備
一方的な免責条項が存在しないか
故意 ・ 重過失についての免責除外規定の有無
間接損害 ・ 拡大損害の排除条項の設計

損害賠償条項レビューを専門家に依頼する意義

損害賠償条項の設計は、単なるテンプレートのコピペでは適切に対応できません。取引の内容、規模、リスク特性、交渉力関係などに応じて、個別具体的にカスタマイズされた条項設計が求められます。

また、表現方法の違い (例:「損害、損失、費用」の列挙可否)、条項間の整合性 (例:解除条項、責任制限条項との関係) にも高度な注意が必要です。

さらに、近時の裁判例では、契約書文言の曖昧さや、損害賠償範囲の不明確さがトラブルの拡大要因となるケースが多数見受けられます。

したがって、契約締結前に専門家による契約書レビューを受けることが、実際の損害発生時に自社を守る最大の防御線となります。

澤田直彦

損害賠償条項は、契約リスクの「最後の砦」です。

トラブルが起きたときに「契約書にこう書いてあるから」と自信を持って主張できるか否かは、まさに契約締結段階での条項設計にかかっています。

契約書レビューや条項設計に不安がある場合は、ぜひ早めに企業法務に精通した専門家へご相談いただき、盤石な契約リスク管理体制を築いていただければと思います。

契約書レビューに関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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