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契約書の譲渡制限条項とは?債権譲渡・債務引受・契約上の地位をめぐるリスク管理を解説

Q
契約書に「譲渡してはならない」と書かれていたのに、債権が第三者に譲渡されてしまいました。
これは違反ではないのでしょうか?契約で制限しても意味がないのですか?

A
譲渡制限条項とは、契約に基づく債権・債務、または契約上の地位について、譲渡や引受を制限するための条項です。
契約実務ではよく見かける一般条項の一つですが、実際には、民法改正(2020年4月施行)によって「譲渡禁止」と書かれていても、一定の条件下では債権譲渡が有効になるケースがあるなど、単純な理解では対応できない場面が増えています。


本記事では、譲渡制限条項の基礎から、契約上の地位・債権・債務のそれぞれに対する効力、民法改正による実務への影響、違反時の対応条項(違約金・解除・供託等)までを丁寧に整理し、最新の契約実務で押さえるべきポイントを解説します。
M&Aや再編時の地位移転、特許ライセンス契約など特殊契約における留意点にも触れ、貴社の契約リスク管理の質を高めるためのヒントを提供します。


澤田直彦

監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 
代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

本記事では、
「契約書の譲渡制限条項とは?債権譲渡・債務引受・契約上の地位をめぐるリスク管理」
について、詳しくご説明します。

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譲渡制限条項とは何か

譲渡制限条項の定義と目的

譲渡制限条項とは、契約に基づいて発生する債権・債務、または契約上の地位の譲渡・移転・担保供与等について、一定の制限または禁止を加える条項を指します。

民法上、原則として債権の譲渡は自由であるとされ(民法466条1項)、契約上の地位や債務の引受についても、合意および一定の要件を満たせば有効に行うことができます。しかし、契約実務においては、債務者側の事務負担の増加、二重払いリスク、相殺の可否の不安定化、反社会的勢力や競合他社への情報流出リスクなどを理由に、自由な譲渡を制限したいニーズが多く存在します。

このような背景から、譲渡制限条項は契約の安定的な履行関係当事者間の信頼関係維持を図るために、極めて重要な条項とされています。

譲渡制限が及ぶ範囲

譲渡制限条項が規律する対象は、大きく次の3点に分類されます。

  1. 契約上の地位の移転
    契約当事者としての立場そのものを他者に移転する行為です。これには契約から派生する全ての権利義務が含まれ、移転元は契約関係から脱退することになります(民法539条の2)。そのため、債権者(契約の相手方)の承諾が必要です。

  2. 契約に基づく権利(債権)の譲渡
    報酬請求権など個別の給付請求権を指します。原則として自由に譲渡可能ですが、契約書に譲渡制限特約を設けることで、契約の相手方に対して、第三者への移転を禁止し、又は制限するよう求めることができます。

  3. 契約に基づく義務(債務)の移転 (債務引受)
    併存的債務引受免責的債務引受のいずれであっても、債務者と引受人の合意だけでは足りず、債権者(契約の相手方)の承諾が必要です(民法470条〜472条)。そのため、譲渡制限条項はこれを確認的に明記する意味を持ちます。

澤田直彦

実務上は、これら3つのいずれか、またはすべてに対して譲渡制限を及ぼす条項が多く採用されますが、条文中での記載の明確さと範囲の調整が重要です。

譲渡制限条項の用語整理と典型条項

契約書における譲渡制限条項の代表的な記載例は以下のとおりです。

第〇条(契約上の地位または権利義務の譲渡等)
甲および乙は、相手方当事者の書面による事前の承諾を得ない限り、本契約上の地位または本契約に基づく権利義務の全部または一部を、譲渡し、もしくは引き受けさせ、または担保に供してはならない。

この条文には、以下のような要素が含まれます。

  • 契約上の地位の移転制限 : 契約関係そのものの移転を制限。
  • 権利の譲渡制限 : 報酬請求権等の債権譲渡を制限。
  • 義務の引受制限 : 業務履行義務等の引受を制限。

また、一定のケース(例:親会社・子会社間の譲渡等)について例外を設けるケースや、譲渡の承諾を不合理に拒絶できない旨の追記条項(精神条項)を設ける事例もあります。

譲渡制限条項は一見すると「一般条項」に見えますが、紛争時に重要な効力を発揮する条項であり、契約内容や相手方との関係性に応じた慎重な設計が求められます。

現行民法との関係

平成29年民法改正による債権譲渡の自由化と例外

平成29年の民法改正(2020年4月施行)により、債権譲渡に関する実務は大きく転換しました。改正前の旧民法下では、譲渡制限条項に反する債権譲渡は原則として無効と解されていましたが、現行民法(466条2項)はこの考え方を改め、「譲渡制限特約のある債権であっても、譲渡は有効である」と明文化しました。

すなわち、債権譲渡の可否について、契約当事者間で譲渡を禁止する合意があっても、法的には譲渡が有効であるというルールが採用されたのです。これにより、金融機関等による債権の流動化・担保化が容易になる一方、債務者としては見知らぬ第三者から履行請求を受ける可能性が高まり、実務上のリスク管理が求められるようになりました。

ただし、債務者保護の観点から、民法466条3項では、債務者は譲渡制限条項について「悪意または善意重過失」の譲受人に対しては、履行を拒絶できるとされており、一定の歯止めが残されています。

契約上の地位移転と債務引受に関する規定

改正民法では、契約に基づく地位の移転および債務の引受けについても、明文で規律されるようになりました(民法539条の2、470条〜472条)。

契約上の地位の移転

契約当事者の一方が、自らの契約上の立場(地位)全体を他者に移転するためには、相手方の承諾が必要とされました(民法539条の2)。
この規定により、契約上の地位を一方的に第三者へ譲渡することができないことが明確にされ、譲渡制限条項が確認的意味を持つに留まる場合もあると整理されます。

債務の引受け

債務引受には、以下の2種類があり、いずれも債権者の承諾が必要とされます。

  • 併存的債務引受(民法470条): 引受人が元の債務者と並んで履行責任を負う。
  • 免責的債務引受(民法472条): 引受人が元の債務者に代わって単独で責任を負い、元の債務者は免責される。

このように、債務者と引受人との合意だけで引受が完了するわけではなく、必ず債権者の承諾が必要です。このため、契約書において債務の譲渡制限を記載しておく意義は、依然として実務上重要とされています。

譲渡制限条項と供託制度

現行民法では、譲渡制限条項が設けられていたにもかかわらず債権譲渡が行われた場合に、債務者が選択できる対応として供託制度が整備されました(民法466条の2~4)。

債権が譲渡された際、債務者が履行先を巡って混乱しないように、以下のような対応が可能です。

  1. 譲渡制限に「悪意」または「善意重過失」の譲受人に対しては履行を拒絶し、譲渡人に支払う(民法466条3項)
  2. 善意の譲受人であっても、債務者は債権額を供託することができる(民法466条の2)
  3. 将来債権については、譲渡制限の意思表示がされていれば、譲受人は悪意とみなされる(民法466条の6第3項)

また、供託後は、譲受人だけが還付請求できる(民法466条の2第3項)ことから、債務者としては支払義務を一時的に停止し、後の紛争リスクを軽減することができます。

この制度の実務的活用により、契約書においては「譲渡制限特約の存在の通知義務」「通知により違反を免責する」などの条項を追加する工夫も見られるようになっています。

澤田直彦

現行民法は、契約自由の原則をより広く保障する方向に進化した一方で、債務者の事務負担・リスクへの対処が契約書レベルで求められる時代となっています。

譲渡制限条項の定め方と記載例

譲渡先に関する例外規定の記載

譲渡制限条項を設定する際、すべての譲渡を無条件に禁止するのではなく、一定の例外を認めることで契約の柔軟性を確保することが可能です。

特に、以下のようなケースでは、実務上しばしば例外として許容されますので、契約条項に明記しておくことが重要です。

  • 契約当事者の親会社・子会社またはグループ企業への譲渡
  • 契約締結時点で譲渡が予定されている特定の第三者への譲渡
  • 金融機関等への担保目的の譲渡(融資取引やファクタリング取引)

たとえば、以下のような条文例が考えられます。

第〇条(契約上の地位または権利義務の譲渡等)
甲および乙は、相手方の書面による事前の承諾を得ない限り、本契約に基づく契約上の地位ならびに権利および義務の全部または一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ、または担保に供してはならない。 ただし、親会社・子会社または親会社の子会社に対する譲渡の場合は、この限りではない。

このように例外を定めることによって、グループ内再編や金融取引への影響を最小限に抑えることができます。

承諾拒否に合理的理由が必要とする条項の有効性と限界

譲渡制限条項の文言の工夫として、「合理的な理由がない限り、承諾を拒否できない」といった条項を加えるケースがあります。これは、契約当事者が譲渡を希望した際、相手方の一方的な拒否によって不当に制限されることを防ぐ趣旨で設けられます。

第〇条(契約上の地位または権利義務の譲渡等)
甲または乙が、相手方に対し譲渡を申し出た場合において、相手方は合理的な理由がない限り、承諾を拒否しないものとする。

もっとも、実務的にはこの条項が「精神的条項」にとどまるとされることが多く、実際に譲渡の効力が承諾の有無に左右される点は変わりません。つまり、承諾を拒否したとしても、「合理的理由の不存在」を理由に一方的に譲渡を有効とすることはできず、承諾がなければ譲渡制限条項違反となる可能性が残ります。

そのため、この種の条項を入れる場合は、契約交渉時に譲渡想定先を明確にしておくこと、または「みなし承諾条項」「通知義務免責条項」を併用するなどの工夫が求められます。

契約書に盛り込む典型的な文言と実務的解釈

譲渡制限条項は、以下の3つの要素を網羅しているのが一般的です。

  1. 契約上の地位の譲渡禁止
  2. 債権(契約に基づく権利)の譲渡禁止
  3. 債務(契約に基づく義務)の引受禁止

この3点を明示的に盛り込んだ典型的な条項例は次のとおりです。

第〇条(契約上の地位または権利義務の譲渡等)
甲または乙は、あらかじめ相手方の書面による事前の承諾を得ずに、本契約に基づく契約上の地位ならびに権利および義務の全部または一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ、担保に供し、またはその他の処分をしてはならない。

この条項は、以下のような意義を持ちます。

  • 契約上の地位移転 : 民法539条の2により相手方の承諾が必須であり、確認的意義を持つ。
  • 債権譲渡 : 民法466条の下では有効だが、譲渡人・譲受人への制約や供託を通じた履行拒絶が可能。
  • 債務引受 : 併存的・免責的いずれも、民法470条・472条により承諾が必須であり、条項に明記することで誤解・争いを回避できる。

また、特に取引基本契約+個別契約が存在する構成では、「個別契約に基づく地位・債権・債務も譲渡制限の対象に含める」ことを明記する必要があります。

澤田直彦

契約書作成・レビュー実務では、単に雛形を転記するのではなく、事案の背景・再編の可能性・取引相手の性質を踏まえて、譲渡制限条項を「調整」する視点が求められます。

リスク対応と修正例の実務

譲渡制限違反に対する違約金条項 ・ 解除条項の検討

現行民法下では、譲渡制限特約に反する債権譲渡も原則として有効とされるため、譲渡制限の実効性を高めるには、契約違反に対する制裁条項の設定が重要です。

特に有効な手段としては、以下の2点が挙げられます。

違約金条項の追加

譲渡制限に違反した場合に一定額の違約金を請求できる旨を明記することで、抑止力を強化します。実際に損害が立証されなくても、違反に基づく契約違反責任の追及を可能にします。

第〇条(譲渡制限)
…(略)…
2 甲または乙が前項に違反した場合には、相手方に対し、違約罰として金○○万円の違約金を支払うものとする。

解除条項の追加

譲渡制限違反が重大な信頼関係の破壊と評価される場合、無催告での契約解除を可能とする条項を設けることで、迅速な契約終了が可能となります。

第〇条(譲渡制限)
…(略)…
2 甲または乙が第1項に違反した場合、相手方は催告なく本契約を解除することができる。

※ただし、これらの条項の実効性については、信義則違反・権利濫用とされないよう、解除・違約金請求の合理性(不利益の程度等)に留意する必要があります。

通知義務と免責条項の追加例 (債務者保護の観点)

譲渡制限特約は債務者保護の役割を持ちますが、それでも第三者に債権が譲渡されてしまう可能性があります。そのような場合に備え、譲渡制限の存在をあらかじめ通知し、違反時の責任を限定する条項を設ける方法があります。

通知義務 + 免責条項の例

第〇条(譲渡制限)
…(略)…
2 本契約に基づく権利を第三者に譲渡する場合には、当該第三者に対して本条に定める譲渡制限の存在および内容を事前に通知し、かつその書面を相手方に提出するものとする。 3 前項の通知がなされた場合には、本条の違反とはみなさない。

このような規定により、債務者が自己の責任を果たしていたことを主張しやすくなり、後のトラブル回避に資します。

包括承継 (合併 ・ 会社分割) への対応とCOC条項の併用

譲渡制限条項は、原則として特定承継(個別の譲渡)を対象としていますが、包括承継(合併・会社分割・株式移転など)によって契約上の地位が移転する場合にも、契約関係の継続可否が問題となることがあります。

このような場面では、Change of Control(COC)条項と呼ばれる契約当事者の支配権変動時に契約を解除できる条項を併用することが有効です。

COC条項の例

第〇条(支配権の変動)
甲または乙に、合併、会社分割、株式移転、株式交換、または全議決権の過半数の取得等による支配権の実質的な変動があった場合、相手方は本契約を解除することができる。

実務上の留意点

 包括承継において譲渡制限条項の効力を及ぼすには、契約条項上に「合併・会社分割等をも制限の対象とする」という明文化しておく必要があります。

 ただし、自社が再編の当事者となる可能性もあるため、一方的に制限的すぎる条項は柔軟性を欠くおそれがあることにも注意が必要です。

澤田直彦

譲渡制限条項は、単に「禁止する」だけでなく、違反時の対応策を明確に設計することで、契約リスクを管理するツールとしての機能を発揮します。

契約類型別の留意点

基本契約と個別契約の関係(包括的適用か限定適用か)

取引基本契約においては、個別契約に基づく取引が継続的に発生するため、譲渡制限条項の適用範囲を明確化することが実務上不可欠です。
特に重要なのは、「基本契約だけに譲渡制限が及ぶのか、それとも個別契約にも及ぶのか」という点です。

実務では以下のいずれかのパターンが見られます。

  • 基本契約のみに譲渡制限を定めている場合
    → 個別契約に明示がないと、個別契約の債権譲渡は制限されない可能性あり。

  • 基本契約の譲渡制限条項で「本契約およびこれに基づく個別契約」と明記している場合
    → 包括的に適用され、個別契約も制限の対象となる。

【記載例】

甲および乙は、相手方の書面による事前の承諾を得ない限り、本契約およびこれに基づく各個別契約に関する契約上の地位または権利義務の全部または一部を第三者に譲渡し、担保に供し、または引き受けさせてはならない。

このように、「個別契約も対象とする」旨を条文に明記することで、契約の一貫性と法的安定性が確保されます。

M&A・再編時の譲渡制限条項の取り扱い

M&A(合併・会社分割・事業譲渡等)の実施時には、契約関係の承継が法的・実務的に大きな問題となります。
とりわけ「譲渡制限条項が包括承継(会社分割や合併)にも適用されるのかどうか」が論点となります。

民法上、包括承継(合併・分割等)では契約上の地位や債権債務が原則として自動的に移転します。ただし、契約当事者としては反社会的勢力や競合への移転を防ぐ目的で、包括承継も制限対象に含めたい場合があります。

【修正条項例】

甲および乙は、相手方の書面による事前の承諾を得ない限り、合併・会社分割・株式移転その他包括承継による契約上の地位または権利義務の移転を行ってはならない。

加えて、前述したCOC(Change of Control)条項を併用することで、会社の支配権に実質的な変動があった場合にも契約解除の選択肢を持つことができます。

特許ライセンス契約における効力と限界

特許ライセンス契約においても、譲渡制限条項はしばしば導入されますが、特許法上の特則との関係に注意が必要です。

特許法第99条は、以下のように定めています。
「通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。」

つまり、特許権が譲渡されたとしても、ライセンス契約の存在をもって譲受人に対しても通常実施権の効力を主張できることになります。
したがって、譲渡制限条項を定めたとしても、特許の譲渡自体を無効にすることはできず、あくまで契約上の制限にとどまる点に留意すべきです。

実務上の留意点

 ライセンス契約の譲渡を制限することはできても、特許そのものの譲渡は制限できない。

 そのため、実務では、特許権の譲渡を行う場合には「譲受人がライセンス契約を承継・尊重する」旨の合意を別途取得しておくのが望ましい。

澤田直彦

このように、契約の種類によって、譲渡制限条項の効力・適用範囲・記載方法は異なるため、契約類型ごとに精緻な検討と条文設計が求められます。

譲渡制限条項をめぐる実務のトレンドと今後の留意点

実務で見られる条項修正の傾向

平成29年の民法改正(2020年4月施行)により、譲渡制限特約に反した債権譲渡も法的に有効とされるようになったことを受け、譲渡制限条項の制限の「実効性」の確保を図る修正例が増加しています。

特に見られる傾向としては以下のようなものがあります。

  • 違約金条項の追加
    → 特約違反を経済的に抑止する手段。実損の立証が困難な場合でも適用可能とする工夫が見られる。

  • 無催告解除条項の導入
    → 契約上の重大違反として、即時解除を可能とする条項を明記。

  • 合理的理由なき承諾拒否禁止条項の追加
    → 相手方の不合理な拒否を抑制する精神条項として活用(ただし効力は限定的)。

  • 包括承継(合併・会社分割等)も対象とする明記
    → 実務上のリスクを防ぐため、包括承継への言及がある条項が増加。

  • 通知義務+免責条項の導入
    → 譲渡の際に債務者が違反とみなされないようにするためのセーフティネット。

これらの工夫は、譲渡制限条項を実効的に機能させるための手段として、契約書の標準化が進む中でも個別交渉やカスタマイズが求められる部分といえます。

契約書レビューで見落としやすいポイント

契約書のレビューにおいて、譲渡制限条項は一般条項として末尾に定型的に置かれることが多いため、見落としがちな論点も少なくありません。

以下は実務で特に見落とされやすいポイントです。

  • 譲渡制限の適用範囲の曖昧さ
    → 基本契約にのみ制限を設けており、個別契約には及んでいない場合。

  • 包括承継への対応の欠落
    → 合併・分割・株式交換等による地位移転が対象外となってしまうリスク。

  • 債権譲渡のみを制限し、契約上の地位や債務の引受けが漏れている条文構成
    → 地位移転・債務引受けも制限対象とすべきかを判断しないまま条文が定型化されていることがある。

  • 譲渡制限条項の例外規定の曖昧さ
    → グループ内譲渡や金融機関への担保譲渡を想定しないまま包括的に禁止している場合、事後的な修正や同意取得が煩雑になる。

契約審査担当者としては、条文の機能面・運用面に着目してレビューする視点が不可欠です。特に再編や資金調達が予定される取引においては、譲渡制限条項が大きな障害となる可能性があるため、早期のリスク評価が求められます。

今後想定される判例の蓄積と契約書への影響

改正民法が施行されてから5年ほどが経過し、譲渡制限条項に関する新たな訴訟も徐々に見られるようになってきています。

今後、以下のような点について実務指針となる判例の蓄積が期待されます。

  • 譲渡制限条項違反と損害賠償の認容可否
    → 実損の立証なく違約金条項が有効とされる範囲はどこまでか。

  • 包括承継への譲渡制限の適用解釈
    → 「譲渡」の定義に包括承継が含まれるか、明示なき場合の裁判所の判断。

  • 承諾拒否に合理的理由が求められる条項の実効性
    → 「合理性」が争点となった場合、裁判所がどのように解釈・判断するか。

  • 通知義務・みなし承諾条項の有効性
    → 異議申立がなければ承諾とみなす条項が有効とされるかどうか。

これらの裁判例が出そろうことにより、企業の契約実務もさらに洗練されていくと考えられます。現時点ではまだ不透明な領域も多いため、契約書上の定型的条項の「再検討」と「修正の選択肢提示」が、法務担当者の重要な役割の一つといえるでしょう。

澤田直彦

譲渡制限条項は、形式的な合意にとどまらず、法的リスクと事業戦略の両面をつなぐ「橋渡し条項」です。民法改正以降の実務変化を正確に捉え、より柔軟かつ精緻な契約設計が求められています。

本記事がその一助となれば幸いです。必要に応じて、チェックリストや条文雛形の提供も可能ですので、お気軽にご依頼ください。

契約書レビューに関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

直法律事務所においても、ご相談は随時受けつけておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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