澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を運営し、各種法律相談を承っております。
本記事では、
「法律とメタバース①【メタバースとは?法的な注意点について解説】」
について、詳しく解説します。
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メタバースとは
「メタバース」という言葉を、最近、よく耳にします。CMなどでも使われていますね。では、「メタバース」とは一体、何なのでしょうか。
メタバース(metaverse)は、「meta」という「高次の、~を超えて」という意味の接頭辞とuniverse(宇宙)の「verse」が組み合わさった造語で、1992年に発売されたアメリカのSF小説作家ニール・スティーヴンスンの『スノウ・クラッシュ』で、初めて用いられたと言われています。
ちなみに、アバターという概念も、この小説が作り出したと言われています。そして、近年、Facebook社が、Meta社に社名を変更したことから、「メタバース」に対する注目が高まってきています。
しかし、メタバースという用語は、まだ一義的に定義できるほど固まった定義はありません。ただ、一般には、自分自身を投影するアバターを操作して自由に行動でき、複数の参加者によるアバターと交流可能なインターネット上の仮想的な三次元空間、というようなイメージで語られることが多いです。
現在は、他のアバターとの交流や、展示、ゲーム等で利用されることが多いようですが、今後、メタバース内での経済活動も活発化してくると予想されます。
メタバースと法律
メタバース内での経済活動やアバターを通じた人々の交流が活発化してくると、当然、トラブルも増加することが予想されます。そのようなトラブルを防止し、人々が安全・安心な経済活動や交流を行うには、法規制が不可欠です。
しかし、法規制は基本的には現実世界に即して設定されています。
そこで、メタバースではどのような法規制が及ぶのか、問題となります。
メタバースでの経済活動の中には、現実世界の経済活動や現在多く行われているインターネットを介した取引とほぼ同様に考えることが可能な場面も多くあります。
しかし、メタバースの経済活動や交流には、現実世界の経済活動と異なる、次のような特徴があります。
デジタル上の価値(無体物)を取扱うこと
国境を越えた取引が頻繁に行われること
- 非対面の取引が行われること
- アバターを介するため匿名性が高いこと
- 個人の視線や動作等の情報が取扱われること
- NFT、暗号資産、電子マネー等が用いられること
このようなメタバースの経済活動等の特徴から、法令をどのように適用すべきか、わかりづらい場面もあります。また、法が想定していない場面など、今後の議論が必要な場合もあります。
そこで、このようなメタバースの経済活動の特徴から生じやすい法的問題を検討していくことが必要となってくるのです。
特に問題となる場面
前述のようなメタバースでの経済活動の特徴にかんがみ、人々の取引に関する法規制、また個人情報等保護を初めとする情報管理に関する法規制、知的財産に関する法規制、税務上の問題、金融規制など、幅広い範囲で法的問題を検討する必要があります。
そこで、以下のように分類し、それぞれ別記事で詳細について説明しています。
メタバース上での取引
現実世界では人と人が対面で有体物を取引するのが中心でした。そこからインターネット上の取引も頻繁となり、非対面での取引が増加しました。そして、取引の対象は有体物の他、デジタルコンテンツなどの無体物も増加しています。
メタバース上でも、取引対象は無体物が中心となると考えられます。
しかし、非対面取引以外にも、アバター店員を通じて音声で取引をする場合など対面と類似するような形での取引も予想されます。非対面取引の場合の消費者保護のための法令などが、アバター店員との音声のやり取りで行われる取引にも適用されるのかなど、法的検討が必要となります。
このように取引方法や取引対象が多様化してくることに伴い、生じる問題や注意点も多様化します。
そこで、メタバース上での取引に生じる問題で特に注意すべき点は、別記事「法律とメタバース②【メタバース上での取引で起こりうるトラブルと対策】」で説明しています。
メタバース上のアイテムやアバター等を巡る知的財産権
仮想空間上に作り出されるアバター、景観、アイテムなどは、現実世界の個人、景観、アイテムと同様に考えるべき点もありますが、実用性や機能性が全く異なるなど、仮想のものであるがゆえに同様の扱いができない場合も多いです。
例えば、現実世界の意匠登録されたハンドバッグが現実世界で模倣された場合には、当然、意匠法違反として差止や損害賠償請求が可能となります。しかし、メタバース上で、仮想のデジタルアイテムとしてハンドバッグが販売されている場合、仮想アイテムのデザインは、現実世界のハンドバッグと用法が異なるため、意匠法により保護されるのか問題となります。
そこで、知的財産権の観点から注意すべき点や問題点を、別記事「法律とメタバース③【知的財産権の観点から解説!】」で説明します。
メタバースにおける情報(個人情報やプライバシー)と想定されるトラブル
既存のインターネット上のサービスでも、個人情報の保護に関する法律(以下、「個人情報保護法」といいます。)やプライバシーへ配慮すべき課題があります。
この点、メタバースにおいても、個人情報やプライバシーの観点から配慮すべき点は大きく変わるわけではありません。
しかし、メタバースでは、アバターの外観や発言、VRゴーグルを通じた視線情報や身体の動作情報等もあり、扱われる情報量がとても多くなります。そのため、より慎重に個人情報を取扱い、プライバシーへ配慮する必要があります。
また、メタバースでは利用者間での交流が前提となっていることから、現実世界と同様に、利用者間でのトラブルも増加することが予想されます。
さらに、メタバースは国境を越えて利用されるため、場合によっては外国の法令が適用されますが、どこの国の法令が適用されるのか、わかりづらいところもあります。
そこで、個人情報保護法に関して問題となる点、プライバシー保護の観点から注意すべき点、また、想定される犯罪行為や不法行為等のトラブルについて検討しておく必要があります。詳しくは、別記事「法律とメタバース④【情報(個人情報やプライバシー)と犯罪・不法行為について】」で説明していきます。
メタバースと税務
メタバース上の取引について、税務面からみると次のような特徴があります。
- デジタル上の価値(無体物)を取扱う
- 国境を越えた取引
- 匿名性が高いこと
- NFTが用いられる
このNFTに関して、令和5年1月に国税庁が「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」を公表しました。そこで、この見解等をもとに、メタバース上での税務について、別記事「メタバースと税務」(近日公開)で説明していきます。
メタバース上の取引と資金決済法等の金融規制
資金決済法や金融商品取引法などの金融規制は、基本的には現実世界の経済活動を前提としています。しかし、インターネット上での取引や新しい決済方法に対応するような改正や規制の追加もされています。
メタバース上の経済活動についても、現実世界の経済活動と同様に解して規制すべき場合もあり、また、新たな規制に対応する必要がある場合もあります。
電子マネーや暗号資産等の決済手段の取扱い、仮想のデジタルアイテムや仮想の土地・建物、またはそれを紐付けたNFTなどの取扱いに際し、それぞれ規制対象となるのか否かを個々に検討していく必要があります。
さらに、メタバース上での金融サービスの提供に当たっては、アバターを通じて活動するというメタバースの匿名性が問題となってきます。
このような点については、別記事「メタバース上の取引と資金決済法等の金融規制」(近日公開)で詳しく説明します。
最後に
メタバース内での経済活動やアバターを通じた人々の交流は、今後活発化することが予想されますが、メタバースに没入する人や企業が増加すればするほど、トラブル防止のためには法規制が不可欠です。
しかし、国境を越えて人々が交流し経済活動が行われることが想定されるため、裁判管轄や準拠法の検討が個々に必要になる状況では、交流や経済活動の活発化を阻害する要因となりかねません。将来的には、国境を越えてオンライン上での紛争解決や秩序の形成が期待されるところですが、発展途上段階の現在では多くの課題を解決していく必要がありそうです。
参考文献
・AMTメタバース法務研究会「メタバースと法(第1回)総論-メタバースと法」NBL1223号(2022年)15-23頁
・増田雅史・山本龍彦・駒村圭吾「〔座談会〕メタバースを語る」法学セミナー817号(2023年)4-19頁
・増田雅史・北山昇「メタバースで取得される個人情報の取扱い」ビジネス法務2022年12月号(2022年)50頁-53頁
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