澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「人事にAIを利用するには?個人情報・プライバシー保護の注意点を解説!」
について、詳しくご説明します。
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人事におけるAIの活用について
AIとは
AI(人工知能)には様々な定義がありますが、大まかにいえば「人間の知的活動をコンピュータ上で実現したもの」です。
現在のところ、人間のようにあらゆる問題に対応できるAIは存在しません。しかし特定の領域においては、人間のレベルに匹敵する、あるいは凌駕するAIも登場しています。
技術の進歩とともにAIの活用範囲は年々拡大しており、以下はすべてAIを活用したものです。
- 音声アシスタント(Siri、Alexa、Googleアシスタントなど)
- 掃除ロボット(ルンバなど)
- 車の自動運転
- 医療における画像診断
- クレジットカードの不正検知
いまやAIは生活に広く浸透しており、なくてはならない存在ともいえるでしょう。
人事におけるAIの利用例
労働力減少による人手不足を背景として、企業の人事労務分野にもAIの活用が広がっています。
以下が人事におけるAIの利用例です。
- 履歴書・エントリーシートの読み取り・傾向の分析
- 動画面接の分析
- 離職しやすい社員の傾向の把握
- 人事評価・人事異動のサポート
- チャットボットによる社内問い合わせの自動化
これだけ見ても、人事においてAIの様々な活用方法があるとおわかりいただけるでしょう。
近年、HRテックという言葉が話題になっています。
HRテックとは、人事(ヒューマン・リソース)と技術(テクノロジー)をかけあわせた造語です。
テクノロジーを利用して企業の人事業務を効率化するHRテックにおいて、ビッグデータやクラウドと並んで、AIの活用は不可欠な要素といえます。
人事にAIを利用するメリット・デメリット
人事にAIを利用する際には、メリット・デメリットの両面に目を向けなければなりません。
メリットとしては、まず業務の効率化が挙げられます。
たとえば、履歴書・エントリーシートは膨大な数が提出されるため、人の目で確認するのは大変な手間です。AIに読み取り、分析をさせれば社員の業務負担を大幅に削減できます。
また、公正な評価が可能になる点もメリットです。
人に任せるとどうしても評価者によるぶれや恣意的な判断が生じますが、AIを利用すれば防げます。
他には、優秀な社員の特徴を分析できる、モチベーションが低下している社員を見抜けるといった点がメリットとして挙げられます。
デメリットは、評価がブラックボックス化する点です。
AIが示した結果を人が説明できなければ、採用や人事評価が不透明になります。そうなれば社員の理解を得られず、反発が生じてしまうかもしれません。
加えて、個人情報・プライバシーの保護が損なわれるおそれがある点もデメリットです。
評価を受ける側にとっては、知られたくない情報を取得されたり、思わぬ形で情報を利用されたりするリスクが否定できません。
人事へのAIの導入を進めるには、これらのメリット・デメリットを踏まえて、十分な検討・対策が必要です。
採用にAIを利用する際の注意点
では、AIの利用にあたって具体的にどういったポイントに気をつける必要があるのでしょうか?
まずは、採用の場面における注意点を解説します。
採用の自由は無制限ではない
一般的に、企業には採用の自由が認められています。採用の自由により、どの応募者といかなる条件で労働契約を結ぶかを決められます。採用基準は自由であるため、採用にAIを活用すること自体は基本的に問題ありません。
しかし、採用の自由に一切制限がないわけではありません。特に、内々定・内定・試用期間と段階が進むにつれて、企業が本採用を拒否するハードルは高くなります。
たとえば、AIによる評価を信用して内定まで出した後に、AIの誤りが判明して入社を取り消そうとしても、法律上認められない可能性があります。
AIだけで決めるのではなく、最終的には人間が判断する体制をとらなければなりません。
取得できる情報は限られる
採用の自由のひとつの内容として、調査の自由があります。企業は採用にあたって、必要な範囲で応募者から情報の取得が可能です。
もっとも、個人情報・プライバシー保護の観点から、取得できる情報には制限があります。
まず、個人情報保護法における「要配慮個人情報」については、同意がなければ取得できません(個人情報保護法20条2項)。
「要配慮個人情報」の定義は以下の通りです。
個人情報保護法
第2条第3項
加えて採用の場面においては、職業安定法による規制も問題になります。
職業安定法
第5条の5第1項
簡単にいえば、企業は応募者の個人情報について、必要な範囲内において、目的を明らかにしたうえで収集・保管・使用しなければなりません。
職業安定法を具体化した指針によると、以下の事項の収集は原則として禁止されています。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
これらの事項について、エントリーシートや面接で尋ねるのは避けてください。
AIによる面接を実施する場合には、AIが勝手に禁止事項を質問する可能性がゼロではありません。AIが上記事項を聞くことのないように設計されている必要があります。
その他、リファレンスチェックで応募者の個人情報を取得する場合の注意点は、「【企業向け】リファレンスチェックで違法にならないためには?法律上の注意点を弁護士が解説!」をご参照ください。
利用目的を明示する
採用のために個人情報を取得する際には「選考のため」「連絡のため」といった利用目的を明示しなければなりません。
より詳しくいうと、個人情報保護法においては、利用目的について以下が求められています。
- 利用目的を特定すること(17条)
- 原則として目的の範囲内で利用すること(18条)
- 利用目的を明示すること(21条)
企業が採用基準を公表する義務はなく、一般的には「AIで分析するため」と利用目的に明示しない場合でも、違法とはならないと考えられています。
しかし、説明をせずにAIを用いるのは採用の透明性を欠いており、発覚時に炎上して会社の評価が下がるリスクが否定できません。
採用応募ページにAIで分析する旨をわかりやすく記載する、場合によっては同意を求めるといった配慮が求められるでしょう。
必要なくなったら破棄する
採用活動が終わり、取得した情報が必要なくなれば、消去するよう努めなければなりません(個人情報保護法22条)。
採用者については入社まで情報を利用するケースが多いでしょうから、その旨を利用目的に定めておいてください。
不採用の応募者の情報を次回以降の採用に活用したい場合にも、利用目的に別途規定をおくべきです。
第三者に提供する場合には別途同意が必要
以上は、得た情報を社内でのみ利用するケースを想定した解説になります。
もし情報の分析を社外に任せる場合には注意が必要です。
個人データを第三者に提供するには、原則として本人の同意を得なければなりません(個人情報保護法27条)。
もっとも、利用目的に沿ってAIによるデータ分析の委託を行うだけであれば、同意は不要です。委託の範囲を超える利用がなされないように注意してください。
関連する事例として、大手就活ポータルサイトにおいて、自社サイトの閲覧履歴を元にAIで内定を辞退する確率を計算し、企業に提供したケースがあります。このケースでは、第三者提供に関する同意が適切にとれていなかったとして、個人情報保護法に基づく勧告がなされました。
採用のために得た情報を、同意なく第三者に提供するのは違法になりうることを頭に入れておきましょう。
人事評価にAIを利用する際の注意点
続いて、既存の従業員について、昇進・昇級などに関わる人事評価にAIを利用する際の注意点を解説します。
裁量を逸脱した制度にすると違法
従業員の評価制度をどう構築するかについては、会社側に裁量が認められています。
もっとも、裁量を逸脱・濫用した場合には違法です。たとえば、性別や国籍を理由に評価において差別してはなりません。
AIを利用して人事評価を行った場合、学習に用いたデータに問題があると誤った結果をもたらす危険があります。従来男性が優位であった会社で、過去のデータを元にAIで人事評価を行えば、女性が低く評価されてしまうかもしれません。
AIの活用により不当な制度が構築されないよう、制度設計には注意を払う必要があります。
事前に説明する
従業員に対しては事前の説明が欠かせません。
AIに抵抗のある従業員もいると考えられます。意向を聞かずにAIの利用を進めようとすれば、不信感を抱かれてしまうでしょう。
なお、成果主義に変更するなど、評価制度そのものを根本的に変えるのであれば、従業員の同意を得て変更するか、又は、就業規則などの変更が必要です。
利用目的を検討する
評価のために情報を取得・利用する際には、採用の場面と同様に、個人情報保護法にしたがって以下の点を守る必要があります。
- 利用目的の特定(17条)
- 目的の範囲内での利用(18条)
- 利用目的の明示(21条)
評価にAIを導入する際には、従来定めていた目的に含まれるかどうか検討してください。
従来の目的にあてはめるのが難しければ、利用目的の変更が必要です。ただし、変更前の目的と関連性を有する範囲でなければなりません。関連性がないのであれば、本人である労働者の同意が必要です。
AIだけで判断しない
評価にAIを活用するとしても、最終的な決定は人間がするべきです。AIの判断を説明できずに評価がブラックボックス化すれば、違法と判断されるリスクが高まります。
また、導入にあたっては、最初は一部の社員だけを対象に試行するなど、部分的に始めるのもひとつの方法です。
違法となったり従業員の反発が生じたりしないように、慎重な制度構築を心がけてください。
マッチングサービスにAIを利用する際の注意点
職業安定法の適用範囲が拡大された
人材マッチングサービス業者が求職者から情報を取得・利用する際にも、個人情報保護法は適用されます。したがって、以下のルールを守らなければなりません。
- 利用目的の特定(17条)
- 目的の範囲内での利用(18条)
- 「要配慮個人情報」を取得する際の同意(20条)
- 利用目的の明示(21条)
マッチングにAIを利用する場合には、求職者にわかるようにサイトに掲載し、必要に応じて同意をとっておくべきです。
加えて、2022年に職業安定法が改正され、適用範囲が拡大された点にも注意してください。
従来、職業安定法における求職者の個人情報取扱いに関する規定は、雇用関係の成立をあっせんする「職業紹介事業者」に該当する場合に限り適用されていました。
しかし、法改正により「特定募集情報等提供事業者」にも適用範囲が拡大されています(職業安定法第5条の5)。募集情報等提供事業者のうち、求職者に関する情報を収集して行うのが「特定募集情報等提供事業者」です。
あっせんをせずに求人情報を提供するだけの事業者であっても、求職者に関する情報を収集する場合には、職業安定法に沿った個人情報の取扱いを求められます。
したがって、人材マッチングサービス運営業者も、求職者の個人情報について、必要な範囲内において、目的を明らかにしたうえで収集・保管・使用しなければなりません。
職業安定法の指針で禁止された以下の事項を収集してはならない点も、企業の採用活動と同様です。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
人材マッチングサービスを運営する際には、個人情報保護法のみならず職業安定法にも注意を払ってください。
おさえるべき重要な事項が複数ありますので、詳しくは、【令和4年10月施行!】改正職業安定法のポイントをおさえようの記事をご参照ください。
第三者提供について同意が必要
人材マッチングサービスの運営にあたっては、求人企業に求職者の情報を提供することが予定されています。したがって、個人情報の第三者提供について求職者の同意を得なければなりません。
まとめ
ここまで、人事におけるAIの利用について、個人情報・プライバシー保護との関係を中心に解説しました。
AIは便利な反面、情報を利用される側の権利を侵害するリスクがあります。人事に用いる場合にも、法律面の問題がないか慎重に確認するようにしましょう。
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