澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「著作者人格権とは?弁護士がわかりやすく解説!」
について、わかりやすくご説明します。
本記事の更新日:令和5年6月28日
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著作者人格権とは
著作権法は、複製権や翻案権といった著作権(著作権法21条以下参照)以外にも、著作物(写真やイラストなどです)を作り上げた著作者の人格的利益を保護するために、公表権、氏名表示権、同一性保持権といった著作者人格権(著作権法18条~20条参照)を著作者に認めています。
そして、著作者人格権は一身専属の権利であり、譲渡ができず(著作権法59条)、相続もできません。
その著作者人格権という名前からして、著作者が法人の場合にも同様に権利が認められるのか問題になりますが、著作権法は、職務著作(具体的内容は職務著作とは?業務に基づき作成した動画の著作権は誰にあるのか?の記事をご覧ください。)の場合において、「著作者は…法人等とする」と定めている(著作権法15条)ことから、法人にも著作者人格権が認められます。また、「この法律にいう『法人』には、法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含む」(著作権法2条6項)とされていることから、権利能力なき社団又は財団であっても同様に著作者人格権が認められています。
また、著作者人格権がいつまで適用されるのか、保護期間が問題となります。
この点、著作権については原則、著作者の死後70年を経過するまで著作権法によって保護されます(著作権法51条2項)が、著作者人格権はその一身専属性故に著作者の生存中に限って権利を有することになります。
ただし、著作者死後も、著作権法60条においてある種の保護を認めています。この点は、「(2 著作者死後の人格的利益の保護について」で説明します。
また、著作者人格権が侵害された場合の効果として、差止請求や、謝罪広告や訂正といった名誉回復措置請求、損害賠償請求をすることができます(著作権法112条・115条・民法709条)。なお、著作者人格権侵害は、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはその両方の刑事罰の定めがあり(著作権法119条2項1号)、親告罪となっています(著作権法123条1項)。
以下に、著作者人格権の内容4つについて解説します。
公表権とは
著作権法18条1項によれば、著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む)を公衆に提供し、又は提示する権利を有しており、これを公表権といいます。
この公衆に提供・提示するとは、具体的には書籍を発行したり、音楽の演奏やミュージカル、映画の上演をすることがこれに当たります。
その公衆とは、著作権法においては不特定の者だけでなく、特定かつ多数の者までを含みます(著作権法2条5項)。そのため、著作物を自分の身近な特定の団体に配布した場合であっても、その団体に属する人が多数であれば公衆に含まれてしまいます。
ただ、すでに公表された著作物に対しては、著作者は公表権を行使することができないことから、その著作物が「公表」に当たるか否かについて注意が必要です。
ここでいう公表とは、著作物につき、著作物の性質に応じて公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が複製権者若しくはその許諾を得た者によって作成・頒布された場合(発行)又は著作権者の許諾を得て上演、演奏、上映、公衆送信、口述等によって公衆に提示された場合をいいます(著作権法4条1項)。
なお、頒布とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」をいいます(著作権法2条1項19号)。
では、本件Q1のように未公表の著作権を譲渡した場合には、著作者は公表権を行使できるでしょうか。
この場合、著作者は、著作権の行使により公表することについて同意したものと推定されます(著作権法18条2項1号)。そのほかにも、著作権法18条2項各号には著作者がその公表に同意したと推定される場合が規定されており、各号のいずれかに該当してしまえば著作者は公表権を行使できません。
氏名表示権とは
著作権法19条1項によれば、著作者はその著作物の原作品に対して、又は著作物を公衆へ提供又は提示するに際して、その実名や変名を著作者名として表示させるか否かを決めることができる権利を有するとされており、これが著作者人格権の一つである氏名表示権です。
著作物の原作品に対して著作者名を表示する場合というと、例えば絵画に自身のサインを記載する場合が挙げられます。
また、著作物を公衆へ提供提示する場合における著作者名表示については、テレビや映画におけるクレジットに対してスタッフとして名前を表示する場合が挙げられます。
ここで、著作者の特段の意思表示がない場合において著作物につき、すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示する場合は、その著作者の同意を得なくとも氏名表示権侵害とはなりません(著作権法19条2項)。
その上、著作物の利用目的・態様に照らして著作者が創作者であることを主張する利益を害する恐れがないと認められる場合において、公正な慣行に反しなければ、著作者の氏名の表示を省略できます(著作権法19条3項)。
同一性保持権とは
著作権法20条1項によれば、著作者はその著作物及びそのタイトル等の題号の同一性を保持する権利を有し、その著作者の意に反してこれらに対する変更や切除、その他の改変を受けないとされています。これが著作者人格権の一つである同一性保持権です。
例えば、ゲームや小説のストーリー展開をその著作者の同意を得ずに勝手に改変した場合には、この同一性保持権侵害となります。
なお、著作権法20条2項各号に該当する場合には、著作物の改変がやむを得ないとして同一性保持権侵害となりません。
みなし著作者人格権侵害の存在
これまで見てきた通り、著作者人格権は公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つですが、著作権法113条7項はその著作者人格権の侵害に当たらない行為であっても、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす」としています。
ここでの「著作者の名誉又は声望」とは、その著作者の人格的価値に対する客観的評価を指します。そのため、著作者自身の主観的名誉感情はこれに当たりません。
具体例としては、漫画家が依頼人に対して描いた似顔絵が、その漫画家が一定の政治的傾向・思想的立場に強く共鳴・賛同しているとの評価を受けるような形で利用されてしまった事例において、その漫画家の名誉又は声望を害する方法によって似顔絵を利用したとして著作者人格権侵害とみなされた裁判例があります(知財高判平成25年12月11日判決)。
著作者死後の人格的利益の保護について
著作者はその生存中に限って著作者人格権を有することになり、著作者が死亡すればその権利も消滅することになります。
しかし、死後であっても著作者の人格的利益を保護する観点から、著作権法60条本文は「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない」と定めています。
つまり、その著作者が生きていたとすれば著作者人格権侵害となるような行為はしてはいけないということになります。
なお、みなし著作者人格権侵害であっても「著作者人格権の侵害となるべき行為」に当たる点は注意が必要です。
ただ、著作権法60条但し書に、「その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない」と規定しています。そのため、著作者が生きていれば著作者人格権侵害となるような行為であっても、その著作者の意を害しないと認められれば、著作権法60条には反しないことになります。
なお、著作者の死後に大学内の建造物を移築した場合において、その著作者の同一性保持権の侵害に当たるとしても、公共目的のために必要な建物建築のための工事であって、著作物を可能な限り復元するものであるとの理由で、その工事は「著作者の意を害しない」ものとして、著作権法60条但し書の適用を受けるとした裁判例があります(東京地判平成15年6月11日 ノグチルーム移築事件)。
著作権法60条違反の効果について
例えば、著作者の死後数十年が経過した後、その著作者が生前書いた手紙が発見され、その手紙を公表しようとする場合、死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹(又は遺言によって指定された者(※1))が、その著作者が生きていたとすれば公表権の侵害となるべき行為(著作権法60条)について、著作権法112条による差止請求等(※2)ができます。
この場合において、その手紙の公表が「著作者の意を害しない」(著作権法60条但し書)と認められるのであれば、その著作者が生きていたとすれば公表権侵害となるべき行為に当たらないことから、上記請求はできません。
なお、死亡した著作者個人ではなく、その遺族の外部的名誉が害されたと認められる場合には、民法上の不法行為として遺族には損害賠償請求権が認められることになります。
※1 著作権法116条3項前段によれば、著作者は遺言によって、上記遺族に代えて請求できる者を指定することができるとしています。その遺言によって指定を受けた者は、死亡した著作者の死亡翌年から70年後は請求ができなくなります(著作権法116条3項後段参照)。
※2 侵害行為に対する停止やその予防、そしてその侵害行為を組成した物の廃棄等の侵害停止や予防につき必要な措置について請求をすることができます。
著作者が法人の場合はどうか
著作者が法人であっても著作者人格権が認められ、法人解散後の清算登記の結了により法人が消滅することによって著作者人格権が消滅します。そして、著作権法60条は「著作物の著作者が存しなくなつた後においても」という規定をあえてしていることから、法人の場合も同じく著作権法60条は適用されます。
しかし、法人が消滅してしまえば、その消滅後の法人の人格的利益を主張する者もいないことから、著作権法116条による請求は実質的にはできないことになります。この場合は侵害者に対する後述の著作権法120条に基づく刑事罰のみが与えられることになります。
刑事責任について
著作権法120条によれば、著作権法60条に違反した場合には500万円以下の罰金が科せられることになります。
著作権法119条2項では著作者人格権を侵害した場合の処罰が規定されていますが、その違いは、自由刑(※1)が含まれるか否か、そして親告罪(※2)か否かという点が挙げられます。
※1 懲役や禁固、拘留を指します。
※2 被害者による告訴(捜査機関に対して犯罪事実を申し出て訴追を求めること)がなければ検察官による起訴ができない罪を指します。
著作者人格権不行使特約について
著作者は著作者人格権を有することは前述のとおりですが、著作者は著作物の使用者に対して、公表や氏名表示、改変行為について、それぞれ同意をすることもできます。ただ、実務上はそれぞれ使用者に対して同意をする方法よりも、著作者人格権の不行使特約が用いられることが多いです。
契約書においては、「乙は、甲又は甲が指定する第三者に対し、本件制作物に関する著作者人格権を行使しないことに同意する。」といった形の条項が見受けられることがあります。これを、「不行使条項」といいます。
この著作者人格権不行使特約を用いることで、著作者から著作者人格権を行使されることを防ぐことができます。
ここで、その特約が用いられた時点において著作者が想定していなかった著作物の利用行為がなされてしまい、その結果、著作者の名誉・声望が害されてしまった場合はどうしたらよいのかが問題となります。
この点につき裁判例は、その著作物の当初の利用目的にかなう限度内においては著作者人格権不行使特約の有効性を認めているものの、その当初の想定の範囲内を超える利用については認めていません。
そのため、著作者とその著作物の利用者との間で著作者人格権不行使特約が締結されていたとしても、個別事情によっては、なお著作者人格権を行使できる場合があります。
なお、著作者人格権不行使特約について、多くの学説は有効としており、実務上の有効であることを前提に契約書を作成することが多いのですが、司法の確定的判断はありません。特に著作者の名誉・声望を害するような改変について、著作者人格権不行使とする特約は公序良俗に反し無効となるという議論もあります。
そのため、トラブルが発生しないよう、仮に特約が無効であっても著作者人格権の侵害とならないよう注意をしたほうがよいでしょう。
まとめ
著作者人格権は著作権と異なり、著作者に一身専属する権利であることから、たとえ著作物の著作権を相手方に譲渡してしまったとしても、著作者人格権はなお著作者側が有していることを忘れてはいけません。
また、著作者が存しなくなった後であっても、その人格的利益保護の観点から、その著作物についてはなお著作権法による保護が及んでいる点も注意したいところです。
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