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IPOに伴う監査法人について解説!


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「IPOに伴う監査法人について解説!」
について、詳しくご解説します。

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株式上場(IPO)に伴う外部専門家については、(IPOにおける外部専門家とは?)で述べているため、そちらを先にお読み下さい。

IPOをするには、証券取引所の上場審査に通る必要があり、そのためには非常に多くの準備が必要となります。しかし、その作業量は膨大かつ高度な専門性が要求されるものである上に、上場を目指している企業は、上場後を見据えた事業の拡大を準備行為と平行して行っていかなければなりません。したがって、社内でIPOに向けたプロジェクトチームを組成した上で、このプロジェクトチームの部門ごとに、それぞれの外部の専門家と業務委託契約を締結し、適宜連携することがIPOを迅速かつ効率的に成功させる上で必須となってきます。

そこで、本記事では、外部専門家の中でも特に重要な役割を果たす監査法人について説明していきたいと思います。

監査法人の意義・種類

監査法人とは、公認会計士法に基づいて設立される法人であり、企業の財務報告に対して監査証明業務を組織的に行うことを目的としています。
IPOを達成するにあたっては、後述のように、上場申請直前々期(N⁻2)・直前期(N⁻1)の財務諸表について監査を受けなければならず、上場後においても四半期レビューと期末審査を受けなければならないため、監査法人の選定は非常に重要な決定事項といえます。

もっとも、近年、監査法人による監査受託の審査が厳しくなっていることから、IPOの準備を進めていきたいにもかかわらず、監査法人と契約を締結することのできない会社(監査難民)が生じるという事態が生じています。したがって、予定していた上場スケジュールを狂わせることなく、迅速にIPOを実現しようとするのであれば、準備期間の初期段階で、監査法人と関係を築いておくことが重要になってくるのではないでしょうか。

監査法人は全国で258社(公認会計士・監査審査会「令和3年版モニタリングレポート」)あり、大手監査法人(上場国内会社を概ね 100 社以上被監査会社として有し、かつ常勤の監査実施者が 1,000 名以上いる監査法人をいう)と中小監査法人(大手監査法人及び準大手監査法人以外の監査法人をいう)に大別されますが、その中でIPOの監査を扱っている大手監査法人は59社、中小監査法人が9社であるため、大手監査法人が9割弱を占めている状態です。

したがって、企業はIPOを行うと決定した場合、準備を始める初期の段階で、企業の規模等に合わせてどの監査法人と監査契約を締結するか検討し始めるべきでしょう。
監査法人を選ぶポイントについては、後述しているので、是非参考にしてみて下さい。

監査法人の役割

監査法人は財務報告の監査証明業務を目的とするため、企業の財務諸表の監査についてのみ携わるように思えるかもしれません。
しかし、財務諸表の監査を行う際には、企業の財務状況や体制をも合わせて監査するため、以下列挙するように、監査法人は想定されるよりも幅広い業務を行っています。

そして、監査法人はあくまで企業を“監査”する立場であることから、これらの業務は企業から独立した立場で遂行されなければなりません。

また、公認会計士法には、大会社等に対する監査証明業務と非監査業務の同時提供の禁止が規定されており、この趣旨は、自己監査の防止、経営判断に関わることの防止及び外見的独立性を確保して監査の社会的信頼性を高めることにあります。
加えて、日本公認会計士協会の倫理規定にも自主規制をするよう記されているため、企業が監査法人に委託する際には、業務内容について十分に留意する必要があります。

そうすると、以下に列挙する業務は非監査業務にあたり、監査証明業務と同時に行うことは許されないようにも思われるかもしれませんが、監査証明業務の一環として実施される業務及び監査証明業務と直接的関連性を有する業務は非監査業務にあたらないとされており、これらの業務の提供をすることは認められています。
どの業務が非監査業務にあたるかについては、事前にその可否、方法、時期等について、契約を締結した監査法人と十分に協議してから遂行するようにして下さい。

株式上場準備としてのショートレビュー(短期調査)

迅速かつ効率的な株式上場準備が実現されるよう、監査法人は、まず企業の課題抽出を目的としたショートレビュー(短期調査)を行います。
数日間にわたるヒアリングや資料レビュー等の実地調査をし、報告書の作成をしたら、その結果を踏まえた上で、会計計画を中心とした体制整備についてのアドバイスを行うこととなります。

したがって、監査法人によるアドバイスを受けてから改善事項に取り組むため、取組みが非効率的であると、上場準備期間が想定外に長くなり、上場スケジュールの延期や無駄なコストが発生してしまうリスクが高まることから、ショートレビューはIPO準備のなるべく早い段階で受けておくべきでしょう。

ショートレビューの内容としては、会社の規模が小さい場合、比較的短期間の日程でおおまかな調査をすることになりますが、基本的には以下の項目について調査をします。

経営管理体制の整備状況

  • 財務報告に係る内部統制の評価制度
    内部統制の有効性の評価方針の策定から、経営者による内部統制の有効性の評価をするまでのスケジュールや、方針策定について

  • 社内諸規定の整備・運用状況
    社内規定の整備状況の調査を受け、直前期までに必要な整備上の課題や対応方針について

  • コーポレートガバナンス
    現状の機関設計の状況、稟議制度の整備状況、役員報酬の決定方針、監査役監査や内部監査の設計といったコーポレートガバナンスの状況の評価や対応方針について

予算管理体制統制・事業計画

  • 予算選定方針及び組織体制
    予算立案・決定に至る社内手続の整備と予算策定の方針について状況の評価、対応方針について

  • 予算実績差異分析の体制
    予算管理単位の組織体制との整合から内部管理目的の月次決算、予算実績比較分析の体制についての状況の評価、対応方針について

内部管理状況

  • 重要な業務プロセスの基幹業務の流れと管理状況
    販売・購買・在庫管理等の需要なプロセスについて基幹業務の流れと管理状況の評価、対応方針について

  • 財務・労務・法務などの管理状況
    財務・労務・法務等の管理状況について、特に会社固有の審査上の課題事項を洗い出した上での対応方針について

会計制度の整備状況

  • 期首残高調査
    期首残高について主要な勘定科目の調査を受けて、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した財務諸表の作成を検討するにあたって、必要な課題事項の洗い出しをした上での対応方針について

  • 会計方針
    現状採用している会計処理基準の調査を受けて、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した財務諸表の作成のための会計方針の策定について

資本政策

  • 資本政策の立案
    IPOまでの資本政策における留意点について

  • 資本政策上の規制
    IPOにあたり、第三者割当増資や新株予約権・新株予約権付社債の発行の規制、資本取引の開示義務等、資本政策に関連して受ける規制の留意点について

関係会社や特別利害関係人の状況

  • 関係会社等の状況
    現状の会社や経営者との人的関係、資本関係を有する会社の特定、その会社との取引等の関係に関する調査を受け、上場に向けて必要な整理について

  • 役員等との取引等に関する検討
    会社と役員との関係で特別利害関係にあたる者の特定、会社との取引等の関係に関する調査を受け、上場に向けて取引の解消等必要な整理について

内部管理統制の構築

金融商品取引所に上場している会社は、金融商品取引法に基づいて、内部統制報告書と有価証券報告書を事業年度ごとに内閣総理大臣に提出しなければなりません。

この内部統制報告書は、「会社の属する企業集団および当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要な体制について評価した報告書」(法第24条の4の4)をいい、公認会計士または監査法人の監査を受けなければなりません。

そして、この内部統制報告書は上場申請書類にこそ含まれませんが、上場審査において内部統制報告制度への対応の準備状況が確認されます。
したがって、監査法人は、内部統制報告制度を含めた内部管理体制の整備に関する助言・指導をします。

なお、内部統制報告制度は、上場後最初に到来する事業年度末(通常、上場申請期)から適用されることになりますが、新規上場会社は、一定規模以上の会社を除き、上場後3年間、内部統制報告書に係る監査証明の免除が選択可能となります。
もっとも、この場合においても、内部統制報告書の提出自体が免除されるわけではないので注意して下さい。

財務諸表監査

IPOを達成する際は、金融商品取引法第193条の2第1項に準じて、原則、上場申請直前々期(N⁻2)・直前期(N⁻1)の2期にわたって、監査法人による監査証明が必要となります。この2期間についての財務諸表の監査は、監査報告書として申請時に一括して提出されます。

未上場の場合、会社の会計処理は主に税法ベースの税務会計となりますが、上場企業の財務諸表は企業会計の基準で作成することが求められます。
税務会計は、国や地方公共団体に対して、企業の活動の成果をもとに課税所得の計算をして報告することを目的としますが、企業会計は企業や株主といった特別利害関係人に対して財務状況を報告することを目的とするため、両者の目的は大きく異なり、計上項目も異なってきます。

そこで、監査法人は、売上、仕入、費用の計上基準や棚卸資産の評価方法等の会計処理を修正するための助言・指導を行います。

この場合、企業は事前に、従前の税務会計基準から企業会計基準に移行することで生じる決算処理上の差異及びそれによる企業への影響について確認しておくと、監査法人による助言・指導もスムーズに進めることが出来るといえます。

もっとも、前述のように、監査法人は企業とは独立の存在でなければならないため、監査法人が財務諸表の作成業務に直接携わることはできず、あくまで企業内部の者に対する助言・指導をするにすぎないことになります。

引受事務幹事会社への書簡の作成

監査法人が引受事務幹事会社に提出することを目的として作成する書簡とは、株券や社債券等についての調査報告書をいい、“コンフォートレター”と呼ばれます。

株券や社債といった新規証券の発行等について引受契約を締結した金融商品取引業者は、引受責任を果たすための手段の一つとして、元引受会社のうち発行会社の財務情報についての直接調査及び事務を行う引受事務幹事会社を窓口として、発行会社が作成する有価証券届出書等に記載された財務情報及びその後の変動について把握する必要があります。
そこで、発行会社及び引受事務幹事会社は、発行会社の監査法人にその調査を依頼することが 通例となっており、その際にコンフォートレターが作成されます。

このコンフォートレターの記載事項、内容等は、「監査人から引受事務幹事会社への書簡」要綱(日本公認会計士協会、日本証券業協会)に準拠して作成されます。

株式上場後

監査法人は、監査人として、有価証券報告書・四半期報告書等の開示書類について、監査証明やレビューを行います。
したがって、冒頭でも述べましたが、監査法人の選定は上場後も見据えて行わなければなりません。

選定ポイント

大手監査法人と中小監査法人

監査法人については、通常、IPO準備期間の中でも比較的初期の段階で検討することがため、監査法人を選択する時間を十分に設けることは難しいかと思います。

しかし、審査基準を満たすことや事業の拡大にばかり注力してしまい、企業の体質や現状に即した監査法人かどうか特に検討することなく契約締結してしまった状態で株式を上場させることは避けなければなりません。
なぜなら、迅速かつ円滑な上場を実現するためには監査法人の協力が不可欠であるだけでなく、2.監査法人の役割_(5)株式上場後でも述べた様に、企業が上場を果たした後も、監査法人には開示書類についての監査証明を行ってもらう必要があり、その存在は企業が健全な状態を保つ上で非常に重要であるからです。

そこで、特に慎重な検討を要する監査法人の選定ポイントについて説明していきたいと思います。

監査法人は、いわゆる大手監査法人と中小監査法人と呼ばれるものに分けることができます。
まずは、大手と中小どちらの監査法人と契約を締結すべきか判断する必要があるため、両者の違いをメリット・デメリットにわけて比較していきます。

大手監査法人は、グローバルファームで開発された品質管理フォームや監査ツールを有しているため、組織的な監査の実施や高水準な品質管理が可能といえます。また、IPOに関するナレッジや経験が豊富なことから、組織内でそれらの情報が蓄積・共有されており、外部からの信用性も高いです。

一方で、大手監査法人は、監査法人自体の規模が大きい故、企業に沿った具体的な指摘を受けることができないリスクも存在します。
その点、中小監査法人は、会社の状況を理解した上で、それに応じた柔軟な対応や指導をもらうことができるといえます。

ただし、中小監査法人で留意しなければならない点として、あえて大手監査法人と契約をしないような問題の多い企業を多く監査していたり、IPOの実績や上場企業の監査契約数があまりにも少なかったりする監査法人の場合、証券会社の方から監査法人を交替するよう迫られる可能性がある、という点が挙げられます。

したがって、以上のメリット・デメリットを検討した上で、大手監査法人にするか中小監査法人にするか選択して下さい。

監査法人を選ぶ際のポイント

次に、大手監査法人と中小監査法人、それぞれの中で、どの監査法人にするか決定しなければなりません。
そこで、監査法人を選ぶ際に、押さえておくべきポイントを4つ紹介していきたいと思います。

一つ目のポイントは、監査法人が取り扱ってきた過去の実績です。

上場審査を行う際の確認の事項には、監査法人の品質管理体制も含まれます。
そのため、企業側が監査法人の品質管理体制について把握した上で監査契約を締結すべきですが、品質管理体制について外部の者が確認することは困難といえます。
そこで、高度な品質管理体制が構築されていない可能性のある中小監査法人を検討する際には、特に監査法人におけるIPOの過去の実績と金融商品取引法監査の契約先の実績は、一つのメルクマールになるといえるでしょう。
そして、そのような実績が十分認められる監査法人であれば、品質管理体制だけでなく、その他の点についても組織化されている可能性が高く、必然的にスムーズな上場のサポートを得ることが出来るでしょう。
また、実績の内容としては、当該会社が目指す市場において、過去5年間に上場実績があることが望ましいといえます。
したがって、監査法人がこれまでどのような企業のIPOに携わってきたのか、その企業中に、目指している市場において上場したものが含まれているか確認する必要があります。
二つ目のポイントは、会社の属する業界やビジネスモデルについて、監査法人が十分に理解しているかという点です。

一般的なIPOについての知識が豊富であったり、上場のサポート体制が整っていたりしたとしても、監査法人の担当者がその企業の業界に対する理解をしていなければ、企業の経営者や担当者との話し合いをスムーズに進めることは難しく、迅速なIPOの実現は見込めないでしょう。

したがって、監査法人の行ってきた過去の実績を前提とした上で、当該担当者に業界やビジネスモデルに対する理解があるかどうかという点に着目しましょう。
三つ目のポイントは、監査法人と上場準備会社との相性です。

IPOの準備期間は少なくとも3年はかかるため、その間、監査法人と上場準備会社は密接に関わることになります。
上場する際も、決算日後45日以内の決算短信の発表といった決算業務をしなければならず、新しい取引や重要な会計論点等の事前の合意や、監査スケジュールの事前交渉といったことを監査チームは行わなければならないため、密なコミュニケーションをとることになります。
したがって、監査法人のパートナーやマネージャー、現場主任(インチャージ)との相性は重要になります。
四つ目のポイントは、担当の公認会計士と上場準備会社との相性です。

監査法人は組織的に監査を実施するものの、実際に上場準備を進めていくのは、上場準備会社の経営者や担当者、監査法人の担当パートナー、マネージャーといった人々であり、その人々の間で話が進むことから、IPOの実現は、監査法人に属する個人の公認会計士に大きく依存するといえます。


したがって、上場担当の公認会計士との相性も確認しておくべきでしょう。

以上、4つのポイントを押さえておけば、客観的に適切な解決策を提言することのできる監査法人を選定することができ、その監査法人と共に効率的なIPOを実現することできるかと思います。

監査契約締結について

監査契約締結時期について

上場申請しようとする企業は、原則として上場申請直前々期(N⁻1)・直前期(N⁻2)の2事業年度の財務諸表等の開示が求められます。
したがって、原則、直前期(N⁻2)の期首までに、監査契約を締結しておくべきでしょう。
IPOに際して、遡及監査自体は禁止されていませんが、監査が初めて実施される場合には、監査対象事業年度の期首残高(対象事業年度の前事業年度末の期末残高)についての監査が必要とされています。
監査契約の締結が遅れてしまったり、棚卸資産や有価証券といった内部保管の現物資産が多額に存在するために監査手続が十分に実施できなかったりする場合は、直前々期の期首残高の監査手続が不十分なものとなり、それによって直前々期の監査意見が意見不表明となってしまうリスクが生じる可能性があるため、直前期の期首の時点で締結しておく必要があるといえます。

ただし、監査法人によっては、直前々期に監査契約の締結を認めているところもあるため、監査法人に事前の確認をしておくべきでしょう。

事前準備について

【監査契約締結までにしておくべきこと】
次に、監査契約を締結するまでに、企業がしておくべきことについて説明したいと思います。
上述のように、上場準備会社のほとんどは、元々会社法監査を受けている企業等でない限り、IPOの準備段階においては税務上の決裁処理を行っているため、税務会計基準から企業会計基準に移行しなければならず、監査法人はその会計処理を修正するための助言・指導を行います。
この財務諸表監査がなされる前、すなわち監査法人の選定の前の段階で、企業会計基準を適用した決算を実施した場合に、従前の税務上の決算処理とどのような差異が生じ、その影響はどの程度なものなのか、企業は把握しておくべきでしょう。
仮に、資産除去債務の計上や引当金の積増し等が求められて追加の費用計上が必要となったとしても、事前に決算処理の変化を把握しておいた場合、突然利益への影響が生じるといった予期せぬ事態を避けることができます。

したがって、監査法人が監査契約を締結し、財務諸表監査に取り掛かる前に、企業は企業会計基準の適用が与える影響を分析・検証しておいて下さい。

【監査対象に入る前にしておくべきこと】
また、監査対象に入る前にしておくべきことについても説明したいと思います。
経理業務を税理士事務所等に委託している場合等は、会社において組織的・人員的に作成能力が不足していることが多く、監査手続を受けようとしても、その実施に制約が生じてしまうことがあります。
そのため、そのような制約を受けることがないよう、監査法人から決算体制や監査受入体制について、事前にアドバイスを受けておくことも一つの手といえます。
その場合、監査対象期間に入る前から業務契約等により、監査法人のアドバイスを受けることが考えられます。

監査報酬

一般的に、監査報酬と監査スケジュールについては、監査契約締結時に監査法人の方から提案があります。
しかし、監査契約締結時よりも後の段階である、ショートレビュー実施時に監査契約に関する提案を行う監査法人もあるため、ショートレビュー前に監査提案を依頼するという手もあります。

監査報酬は、監査の作業内容ごとに工数を見積もり計算されますが、会社の状況により作業内容は変化するため、その計算自体も変動していきますが、情報収集をする際に開示書類からある程度の金額を予測し、確認することができます。

報酬水準を決める重要な要素としては、財務数値(売上高、各種利益、総資産等)、業種、連結会社の有無、子会社数、拠点数、人員数といったものが挙げられますが、個々の事情によって加味されるものもあるため、監査法人の担当者に逐一チェックするといいでしょう。

終わりに

IPOをするにあたって必要不可欠な存在である監査法人の役割や企業との関係性について十分に理解した上で、適切な監査法人の選択をすることが上場を成功させる秘訣の一つであると言えます。

それだけでなく、仮に適切な監査法人を選択することができず、会社に損害を与えてしまった場合、経営者の経営判断やその業務執行行為に問題があると判断されれば、株主や取引先といった第三者から損害賠償を請求されてしまう可能性があるため、そのような事態を避けるためにも監査法人の選択は慎重に行わなければなりません。

ただし、当たり前のことではありますが、経営には一定のリスクが存在します。
それにもかかわらず、経営者の選択が、結果的に会社に対して損害を与えてしまった場合に、善管注意義務違反を問われて損害賠償を請求されるとなると、経営者に過度な委縮効果がもたらされてしまいます。
そこで、経営者の判断が善管注意義務を十分に尽くしたと判断される場合には、その判断は法的に保護される意思決定となり、損害賠償責任といった法的な責任を問われません。
このように、発生した結果がどうであれ、当時の経営者の判断が法的に正しいものとして判断されれば責任が追及されないことを、“経営判断原則”といいます。
経営者であれば、監査法人を選択する場合にも、この経営判断原則を理解しておくことが重要といえます。

経営判断原則が適用される否かは、

➀会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、事実の認識に不注意な点がなかったか、

➁その事実に基づく行為選択の過程・内容に著しく不合理な点がなかったか否か、

という二点によって判断されます。

➀は、意思決定のためのプロセスの中で、情報を合理的に収集したかどうか、がポイントとなります。
経営判断の中には、複雑な事象を対象とした専門性を要するものもあるため、自ら判断を下す前にきちんと専門家に確認を取ったか、経営者として出来る限り下調べをしたかどうか、といった事情が必要となります。監査法人を選択する場合であれば、監査契約を締結しようとしている監査法人の品質管理体制や過去の取引先といった実績などを事前に確認しているかどうかが重要となってきます。

➁は、意思決定の内容が著しく不合理でないか、がポイントとなります。
監査法人について事前に確認をした上で、監査法人の選択が適切でないと判明したにもかかわらず、それでもなおその監査法人と契約した場合には、意思決定の内容は著しく不合理であると判断されることになります。
したがって、経営者の判断における過程と内容のどちらについても、妥当性があると判断されれば、経営判断原則が適用され、損害賠償責任を負わないこととなります。会社経営を行っていく中で、いつ不測の事態が生じて損害が発生するかは分かりません。
そうだとすれば、経営判断原則を理解した上で、契約を締結しようとしている監査法人についての事前の確認と慎重な判断をすることは非常に重要となってきます。

上記では、IPOの準備行為時から上場を果たした後まで、企業にとって監査法人がどのような役割を果たすのか、どのような監査法人を選定すればよいか、監査契約を締結する際に注意すべき点は何か、契約の前にあらかじめ企業がしておくべきことは何か、経営判断原則と何か、という点について述べてきました。
これらの点については是非押さえた上で、IPOを進めてみて下さい。


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