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手形・小切手訴訟とは?早く簡単に手形・小切手を回収する方法をご紹介

Q.
 振出人や裏書人に手形・小切手の支払いを請求しても払ってもらえません。どのようにして債権を回収すればよいでしょうか。

A.
 不渡りになってしまった手形・小切手は訴訟により債権を回収することができます。
もっとも、通常訴訟では費用や時間がかかってしまいます。
今回は通常訴訟よりも簡易かつ迅速な手形・小切手訴訟による請求について基礎知識を学んでいきましょう。


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「手形・小切手訴訟とは?早く簡単に手形・小切手を回収する方法をご紹介」
について、わかりやすくまとめました。解説していきます。

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手形と小切手の違いとは

手形(約束手形、為替手形)と小切手は、いずれも専用の用紙に自分の名前と金額、日付等の必要事項を記入し相手に渡し(振り出し)、支払いをするという点では共通しています。
もっとも、小切手は、受取った人がすぐにそれを現金化することができるのに対し、手形の場合は、原則として記載された支払期日にならないと現金化することができないという点が大きな違いとしてあります。

手形・小切手訴訟とは

総説

手形・小切手訴訟は、手続が簡略化されることによって、通常の訴訟よりも簡易迅速に債務名義(手形・小切手判決)を取得することを目的とする特別の訴訟手続です。

債務名義とは、債務者に給付義務を強制的に履行させる手続き(強制執行)を行う際に、その前提として必要となる公的機関が作成した文書をいいます。

手形・小切手を有する債権者は、債務名義があれば、振出人が支払いを拒絶し、また、裏書人も遡求に応じないようなときでも、手形・小切手債権を強制的に回収することができるようになります。
債務名義は通常訴訟においても取得できますが、手形・小切手訴訟では通常訴訟より簡易迅速に債務名義を取得し、債権回収が見込める制度設計がなされています。

●対象:手形・小切手による金銭支払いの請求 及び これに伴う法定利率による損害賠償の請求(民事訴訟法350条1項・367条1項)

「手形・小切手による金銭支払いの請求」には、
手形金債権だけでなく、手形保証人に対する支払い請求権や裏書人に対する手形金償還請求権なども含まれます。
ちなみに、振出人とは、手形を初めに作成した者であり、裏書人とは、振出人やその後の裏書人から手形債務を譲渡された者を指します。
そして、手形保証人は手形債務者(振出人・裏書人)の信用を補うために、その者の義務を担保した者をいいます。

「これに伴う法定利率による損害賠償の請求」とは利息の請求のことです。


つまり、手形・小切手訴訟は、手形に記載された金銭債権を振出人・裏書人・手形保証人等に請求することを目的とした訴訟を指します。

通常訴訟との違い

では、手形・小切手訴訟の特徴、通常訴訟との違いを学んでみましょう。

【手形・小切手訴訟の特徴】
① 証拠は原則として書証(手形や契約書といった書面の証拠)のみに限られます(民事訴訟法352条1項)。
また、証拠調べの対象となる文書は立証者が所持する文書に限られ、訴訟の相手方や第三者の有する文書を証拠として使用することはできません(民事訴訟法352条2項)。これは、即時に取調べ可能な文書に限定することで、審理判断の迅速性を確保するためです。

② 通常訴訟では、証人尋問や当事者尋問のように人を対象とした証拠調べができますが、手形・小切手訴訟では原則として認められません。
もっとも、例外的に文書の成立の真否と手形・小切手の提示の立証のための当事者尋問は許されます(民事訴訟法352条1項、3項・367条2項)。「当事者」とあることから、原告・被告以外の第三者を証人として裁判所で取り調べることはできません。

③ 反訴の禁止(民事訴訟法351条・367条2項)
被告は、手形・小切手訴訟において原告に対し他の新たな請求をすることはできません。

④ 一期日審理の原則(民事訴訟法規則214条)
これは、最初の口頭弁論期日の審理で終了するという原則です。
通常訴訟のように何度も足を運ぶ必要はなく、すぐに判決が出るため、この点は大きなメリットといえるでしょう。

⑤ 認容及び棄却判決に対して控訴することはできず(民事訴訟法356条本文)、異議申立てのみが認められます(民事訴訟法357条本文・367条2項)
異議申立ては判決がなされてから、2週間以内にしなければなりません。
※もっとも、却下判決に対しては控訴が可能です(民事訴訟法356条但書)。

⑥ 請求認容判決には職権で必ず仮執行宣言がつく(民事訴訟法259条2項)ため、判決に従った手続きを行わない場合は強制執行の手続による回収ができることとなります。
 通常 、判決正本が送達された日(現実に受け取った日とは限りません。)の翌日から起算して2週間以内は上訴の可能性があり、判決は未確定な状態といえますが、仮執行宣言付判決はその確定を待たずに債務名義となるため、債務名義取得に要する期間は通常訴訟と比較して短くなります。
 被告側が強制執行を阻止するためには、執行停止の仮処分を申し立て、仮執行停止命令の決定がなされなければなりません(民事訴訟法403条1項5号)。被告が手形・小切手訴訟の判決に対して、異議申し立てをするのみでは、もし被告になった場合には、執行の効力は停止されないため注意しましょう。

手続の流れ

次に、訴訟手続きの流れを見ながら、訴状の作成や訴えを提起する際のポイントを確認しましょう。

手続きの流れ
① 原告は訴状及び証拠書類を裁判所に提出
② 裁判所は訴状を審査、審理期日を指定、被告に訴状や期日呼出状を送付
③ 受領した被告は答弁書及び証拠書類を準備して裁判所及び原告へ提出
④ 原告・被告は審理期日までに追加して提出すべき証拠の準備
※手形・小切手訴訟を提起しても、原告と被告とで和解が可能であれば、判決手続を経ることなく和解によって訴訟を終わらせることもできます。

訴状の作成
通常訴訟と同様に、訴えの提起に際しては原告側が訴状を作成する必要があります。
訴状には、
(a) 当事者及び法定代理人の表示と、(b)請求の趣旨を記載しなければなりません(必要的記載事項民事訴訟法133条2項)
(b) の請求の趣旨とは、訴えによって求める判決内容の結論的・確定的な表示のことです。
手形・小切手訴訟における訴状作成において最も重要なことは、訴状の請求の趣旨に「本件は手形訴訟による審理・判決を求める」などの記載をすることです(民事訴訟法350条2項・367条2項)。当該記載がないと通常の訴訟として受理されてしまうため注意しましょう。

【訴状(請求の趣旨) 記載例】

請求の趣旨

1 被告は原告に対し、金〇万円及びこれに対する〇〇年〇〇月〇〇日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
本件は手形訴訟による審理・裁判を求める。

【管轄】
●民事裁判においては、事件の内容や当事者の居住地、請求額、当事者の合意等によってどの裁判所が当該事件を処理するかが決まります。このように、事件をどのように裁判所に配分するかの基準を管轄といいます。

●まず、どこに所在する裁判所へ提起するか(土地管轄といいます)については、手形・小切手に記載されている支払地(民事訴訟法5条2号)又は被告の住所地等(民事訴訟法4条)を管轄する裁判所のいずれかに提起することになります。
1通の手形の複数の被告(振出人、手形保証人、裏書人等)を共同被告として1通の訴状で手形金請求する場合、支払地又は共同被告のいずれかの住所地で訴えを提起できます。

●また、手形金の額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に提起することになります(事物管轄といいます)。

例)
①支払地が東京である140万円の手形を静岡に住む振出人に請求する場合
→東京簡易裁判所又は静岡簡易裁判所のいずれかに提起できます
(解説)
簡易裁判所は訴訟の目的の価額(訴額)が140万円以下の請求につき管轄権を有するので、140万円までは簡易裁判所に訴状を提出することになります。

②支払地が東京である160万円の手形を静岡に住む振出人甲と大阪に住む裏書人乙を共同被告として請求する場合
→東京地方裁判所、静岡地方裁判所又は大阪地方裁判所のいずれかに提起できます
(解説)
被告の住所地等を管轄する裁判所が管轄権を有するため、振出人だけでなく裏書人の居住地を管轄する裁判所も管轄権を有します。

③一つの訴えで支払地が東京である100万円の手形αと支払地が横浜である50万円の手形βを静岡に住む振出人甲に請求する場合
→東京地方裁判所、横浜地方裁判所又は静岡地方裁判所のいずれかに提起できます。
(解説)
一つの訴えで複数の請求をする場合、すべての請求額を合算した額を基準に、事物管轄を考えます(民事訴訟法9条1項)。そのため、手形αと手形βを合算すると、140万円を超えるので地方裁判所に提起することになります。

【相手方(被告)の選択】
振出人だけを被告とすることも、また、裏書人だけを被告とすることも、さらには、その両方を被告とすることも選択できます。債権を回収できそうな人を被告とすると良いでしょう。

【裁判所に納付する手数料】
●請求額に応じて定められており、通常訴訟を提起する場合と同一の基準で手数料を支払う必要があります。

●複数の手形・小切手を併せて請求する場合、原則として各請求の価額を合算した額を基準として算定します。

●1通の訴状で、複数かつ同一の手形・小切手の振出人、裏書人等に対してそれぞれ請求する場合には、そのうちの最も高い金額を基準として算定します。
※上記手数料の他に、被告に訴状の副本等を送達するために必要となる、数千円分の郵便切手を納める必要があります(当事者の人数により金額が異なる)。

通常訴訟への移行方法

手形・小切手訴訟を提起した後においても、通常訴訟に移行することができます。その方法について見ていきましょう。

方法① 原告の申述
原告は口頭弁論の終結に至るまでに、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができ、直ちに移行の効果が生じます(民事訴訟法353条)
その際、被告(債務者)の承諾は不要です。
一度通常訴訟への移行の申述をすると、その後申述を撤回して手形・小切手訴訟に戻すことはできないため申述は慎重に行いましょう。

方法② 判決に対する異議申立て
当事者から請求認容又は棄却判決に異議があった場合、原告の請求の当否を判断する通常訴訟としての手形・小切手異議訴訟に移行します(民事訴訟法361条・367条2項)
※通常訴訟手続に移行すると、訴訟は弁論終結前の状態に戻ります。異議後の審理の結果が手形判決と一致する場合は手形判決を認可し、一致しない場合は手形判決を取り消して、新たな判決がなされることになります(民事訴訟法362条、民事訴訟法規則219条)

相談事例

Q.手形・小切手訴訟を提起する前にするべきことはありますか。

A. 不渡りの理由を特定し、それに応じた対策をしましょう。
→不渡りには3つの理由が考えられます。

〇1号不渡り:振出人の資金不足
→この場合、振出人が決済資金すら用意できなかったことを意味するので、倒産状態の可能性があります。そのため、すぐに債権回収することが必要です。特に振出人から直接手形の振出しを受けていた(=裏書人がいない)場合には、迅速な対応が求められます。
裏書人がいる場合は、裏書人から債権を回収する方法を考えます。裏書人も連鎖倒産する危険性があるため、自社と裏書人との債権債務関係を調査しておくなど、裏書人が連鎖倒産した場合の債権回収の準備もしておくべきでしょう。

〇2号不渡り:偽造盗難など
→まず、振出人に対し詳細な説明を求め、不渡りにした理由を直接確認しましょう。
 また、取引銀行を通じて支払銀行が異議申立てをしているかどうかを調査し、異議申立てしていれば、振出人は異議申立預託金を預託しているはずなので、その預託金からの債権回収を検討します。

〇0号不渡り:形式上の不備や振出人の会社更生、民事再生等により裁判所から保全処分・命令を受けたことによる不渡り
→形式に不備があった場合:支払呈示期間内に不備を補正して再度支払呈示する
→振出人が裁判所の保全処分を受けた場合
 :振出人からの支払を受けることができないため、自社が振出人から直接手形の振出しを受けていた場合には、債権届出の準備をします。裏書人がいる場合には、裏書人から債権を回収する方法を考えます。


Q. 振出人に手形金の請求をせずに、裏書人に対して請求することはできますか。

A. できません。

→まず、手形債権について、裏書人に請求することを遡求といいます。遡求するためには、原則として支払呈示期間内に振出人に対し支払呈示したにもかかわらず、支払いを拒絶されたことが必要となります。
振出人に手形金の支払いを拒絶されたら、直ちに裏書人に対して、①手形金の支払いが拒絶されたこと、②裏書人に対して支払いを請求すること、を内容とする通知書を送りましょう。
通知書はその内容及び裏書人にいつ通知書が届いたかを証明するために、配達証明付きの内容証明郵便で送ると良いでしょう。


Q. 裏書人に遡求する場合に注意すべきことを教えてください。

A. ●裏書人から分割払いを求められた場合:裏書人自身が連鎖倒産の危機に瀕している場合があり、分割払いを認める代わりに担保の提供を求めるなど、柔軟に対応した方が良い結果を生むこともあります。相手も支払いに応じる意思はあるといえるので、無理に一括での支払いを命じるのは避けた方がいいかもしれません。

●裏書人から手形金全額の支払いを受けた場合:手形を裏書人に返却することを忘れないようにしましょう。分割払いのときは、最後の支払いの時に返却します。

●裏書人が遡求に一切応じない場合:手形訴訟を提起して債権を回収しましょう。


Q. 訴訟による債権回収を求める場合、通常訴訟と手形・小切手訴訟のどちらを選択すればよいでしょうか。

A. 被告による有効な反論が行われないと予想されるときには、手形・小切手訴訟を選択するとよいでしょう。

→例えば、予想に反して被告が手形に押印されている印影が自分のものではない等の事情を具体的に反論した場合に、書証のみでは立証することが困難です。しかしながら、上でも述べた通り、手形・小切手訴訟では原則として書証しか提出できないため、手形の成立の真正(手形を被告が振出し・裏書きしたこと)を立証できなければ、原告が敗訴してしまいます。

その他にも、債務者(被告)が手形の振出しや裏書を否認し、債権者(原告)が債務者の印鑑登録証明書や銀行取引印との同一性を証する書面を提出できず、債権者本人尋問によっても債務者の振出や裏書の事実を証明することが難しい場合も同様です。

このように、勝訴判決を得られる見込みがないようなときなどには原告が敗訴するよりも、たとえ審理期間が長くなってしまっても、通常訴訟により充実した審理をする方が原告にとって有利に働く場合がありますので、参考にしてみてください。

チェックリスト

手形・小切手訴訟において注意すべきことを再度確認しましょう。

(訴訟提起時・・・原告) 
□不渡りの理由を特定しているか

□訴状の請求の趣旨に「本件は手形訴訟による審理・判決を求める」などの記載をしているか

□必要書類を揃えているか
①訴状
②手形・小切手
③登記事項証明書(当事者が法人の場合)
④訴状副本(債務者(被告)の人数分)
⑤証拠説明書
⑥証拠書類一式
⑦訴訟委任状(訴訟代理人に委任する場合)

□正しい管轄の裁判所に提起しているか

□適切な相手を被告としているか

□手数料を支払っているか


(審理段階) 
□通常訴訟に移行したい場合、口頭弁論終結時までにその旨を申述しているか(原告)


(判決後)
□判決に不服がある場合、2週間以内に異議申立てをしているか

□仮執行宣言判決に不服がある場合、仮執行停止の申立てをしているか(被告)

まとめ

今回は手形・小切手訴訟について学んできました。ポイントは「簡易・迅速」です。
手形・小切手訴訟の選択に際して、この記事がお役に立てば幸いです。


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