澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「上場に向けた社内規程(社内規定)の整備1 総論」
について、詳しくご解説します。
上場に向けて整備すべき社内規程の種類
はじめに、上場に向けて整備すべき社内規程を確認することにしましょう。整備すべき社内規程は大きく分けますと、基本規程・組織関係規程・経理関係規程・業務管理規程・総務関係規程・人事関係規程・コンプライアンス規程の7グループに分けることができます。
各グループの規程をまとめますと、下記の表になります。
基本規程 | 定款、取締役会規程、監査役会規程、株式取扱規程 |
---|---|
組織関係規程 | 組織規程、職務分掌規程、職務権限規程、稟議規程、関係会社管理規程 |
経理関係規程 | 経理規程、原価計算規程、予算管理規程、棚卸資産管理規程 |
業務管理規程 | 購買管理規程、生産管理規程、販売管理規程、外注管理規程、与信管理規程、内部監査規程 |
総務関係規程 | 固定資産管理規程、印章管理規程、規程管理規程、文書管理規程、車両管理規程 |
人事関係規程 | 就業規則、給与規程、人事考課規程、従業員持株会規程、旅費規程、慶弔見舞金規程 |
コンプライアンス規程 | コンプライアンス管理規程、リスク管理規程、内部通報規程、倫理規程、個人情報管理規程、インサイダー取引防止規程 |
したがいまして、上場に向けてこれらの社内規程を整備していく必要があります。
社内規程を定めるにあたってとくに注意が必要なものについては上場に向けた社内規程の整備2 各論で解説することにしまして、ここでは社内規程の作成プロセスを概観したうえで、その際に注意すべきポイントについて解説していきたいと思います。
※就業規則に関して詳しく知りたい場合にはページ下部に就業関連記事のリンクをはっておりますので、そちらをご参照ください。
社内規程を整備するにあたってのポイント
社内規程を作成するプロセス
まず、社内規程をどのようなプロセスで作成するかを説明します。社内規程の作成プロセスを図示しますと、次の図になります。
はじめに着手しなければならない作業として、必要な社内規程の洗い出しがあげられます。
最低限の社内規程として定款・就業規則・給与規程等は定めていると思いますが、上述の表からも明らかなように、上場に向けては他にも多くの社内規程を整備する必要があります。
そのため、現時点で必要な社内規程のうちのどの規程を整備していないかを確認しなければなりません。とくに、基本規程・組織関係規程・人事関係規程は会社の基本となるものですので、これらの規程を優先的に整備していく必要があります。
また、業務運営の基礎となる職務分掌規程と職務権限規程も最初の段階で整備することが求められます。このような作業を通じて、必要な社内規程を洗い出し、必要な規程を順次作成していきます。
必要な社内規程を作成したら、次は社内規程の内容や運用状況を確認することになります。
そして、実際の運用によって生じた問題点や改善点を洗い出し、社内規程の改訂や本格運用へと進んでいきます。この段階では、会社実情への適合性や明確性に留意しなければなりません。
すなわち、会社実情への適合性という観点からは、単に他社の規程をそのまま流用するのではなく、社内規程の内容を自社の実情を踏まえたものにすることが重要になります。
なぜなら、会社の業種・規模・組織構成が異なれば妥当するルールも異なるからです。社内規程は自社の実情に適合してはじめて有効に機能しますので、会社実情への適合性という観点から社内規程を改定・整備してください。
また、社内規程は会社の基本ルールですから、その内容は明確なものでなければなりません。
そのため、規定する内容が一義的に明白なものとなるようにしましょう。
もっとも、社内規程の多くは基本方針を定めたものですから、改定には取締役会の決議が必要となることが多いです。この場合、頻繁に変更が想定される詳細な事項まで規程で定めてしまいますと、会社の現状にあわせた柔軟な対応ができなくなり、実際の運用に支障をきたすことになります。
そこで、当該事項については、細則やマニュアル等の形で定めておき、必ずしも取締役会の決議がなくても改定できるようにしておく必要があります。
規程の作成にあたって注意すべきポイント
上述のような作成プロセスを経て社内規程を整備することになりますが、ここでは社内規程を作成するにあたって注意すべきポイントを解説したいと思います。
なお、上場審査との関係で留意すべき点については上場に向けた社内規程の整備2 各論の記事で説明しておりますので、そちらをご参照ください。
まず、社内規程の種類によっては各種の法律や規則等で制約を受ける場合があります。
そのため、規程を作成するにあたっては当該法律や規則を遵守する必要があります。
また、当該法律や規則が改正された場合には当該改正に対応した内容に社内規程を改訂しなければなりません。
したがいまして、関連法令の改正にも注意する必要があります。
具体的に問題となる社内規程と法律の例をあげれば、下記の表になります。
基本規程・組織関係規程 | 民法、会社法、独占禁止法等 |
---|---|
人事関係規程 | 民法、会社法、労働基準法等 |
経理関係規程 | 会社法、税法、金融商品取引法等 |
また、社内規程の内容は簡潔明瞭なものでなければなりません。
とくに、社内規程は業務を遂行する際のルールを定めていますから、業務の運用を前提に文章化して実際に業務を担当する者が当該ルールを理解できるように簡潔明瞭なものとする必要があります。
さらに、規程相互に矛盾があったり、およそ会社の実情に合ってなくて運用可能性がなかったりした場合、実際の業務の遂行にあたって使用に耐えるルールとは言い難いので、規程相互間の整合性や運用可能性にも留意する必要があります。
加えて、特定の部門の要求のみを取り入れた規程ではなく、全社的に意見を取り入れて規程をまとめていくことも重要です。
特定の部門の要求のみを取り入れた規程では他の部門の実情と乖離して運用されなくなるおそれが出てくるからです。
また、実際の運用を確保するという観点からは、社内規程の内容を教育したり、誰でも閲覧できるようにしたりする必要もあります。
社内規程の内容を理解し、いつでもその内容を参照できるようにすることで、従業員が業務の際に社内規程を遵守できるようになるからです。
同様に、会社の業務処理方法を分析して改善点を洗い出し、会社の現状に合った規程内容とすることも、会社の実情を踏まえた業務遂行を可能とするという観点から重要になります。
会社の実情と乖離した規程は徐々に運用されなくなるので、社内規程の運用可能性という点で現状の業務を分析・改善して規程の内容に反映していく必要があるからです。
まとめ
以上を踏まえて、社内規程の整備にあたって注意すべきポイントをまとめます。
上場にあたっては、基本規程・組織関係規程・経理関係規程・業務管理規程・総務関係規程・人事関係規程・コンプライアンス規程に関する社内規程を整備する必要があります(上記1)。
社内規程の整備にあたっては、
①必要な社内規程の洗い出し→②必要な社内規程の作成→③社内規程の内容・運用状況の確認→④社内規程の問題点や改善点の洗い出し→⑤社内規程の改定・本格運用というプロセスで行うと効率的に社内規程の整備が進められます(上記2(1))。
また、社内規程を定める際には、社内規程が法令に適合したものであることのほか、社内規程は業務の遂行にあたってのルールを定めたものであるため、実際の業務の遂行にあたって参照するに値するような内容にする必要があります。
具体的には、会社の実情に適合するものであって、その内容が簡潔明瞭であること等が求められます(上記2(2))。
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