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【テレワークと下請法】押印作業や郵送作業を省略(電子化)できるか


 当社は、現在テレワークを推進しています。

当社はソフトウェアを販売するベンチャー企業ではありますが、当社よりも資本金が小さい企業や個人事業者に対して、
ソフトウェアの顧客サポートサービスを委託(発注)することがあり、資本金区分の要件を満たせば、役務提供委託として下請法の適用がある取引があります。

このような下請法の適用がある取引に対しては、
今まで下請法で要請される取引条件に関する事項を記載した書面を発注書や契約書という形で作成してきました。

ただ、テレワークを行うと、どうしても書面でのやり取りが委託(発注)先と取りづらい面があります。

下請法で要請される書面の取り交わしは、メール等で代替できないでしょうか。



 現在、貴社が発行している契約書や発注書面は、
下請代金支払遅延等防止法第3条の書面、通称「下請法3条書面」と言われる書面と思われます。下請取引の内容を記載した書類は、下請事業者が役務の提供をした日付から2年間保管する義務があります。

親事業者は、下請事業者の承諾を得た場合には、3条書面の交付に代えて、情報通信の技術を利用する方法により提供することが許されています(下請法3条2項)。

そこで、3条書面の交付に代えて、情報通信の技術を利用する方法と下請事業者の承諾を得る方法について、ご説明します


澤田直彦

監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所 代表弁護士

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「【テレワークと下請法】押印作業や郵送作業を省略(電子化)できるか」
について、詳しくご解説します。

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概要

3条書面の交付に代えて、情報通信の技術を利用する方法として、次のような方法があげられます。

① 電子メール、EDIで送付する等の方法
② ウェブ上のホームページに公開して閲覧させる等の方法
③ CD-ROM等を交付する等の方法


情報通信の技術を利用する場合にも、3条書面として取り扱われるためには、下請法で3条書面の要件とされている下請代金や役務提供期間等の必要項目を記載する必要があります。

記載事項について詳しくは「下請法(下請代金支払遅延等防止法)を守る業務委託の方法~コンプライアンス~」3.適用された親事業者に対する規制

ただし、以下に述べるような注意点があります。

留意事項

公正取引委員会の「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」によれば、書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合、「下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず、下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。例えば、通常の電子メールであれば、少なくとも、下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。また、携帯電話に電子メールを送信する方法は、電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので、下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。」と記載されています。

また、書面の交付に代えてウェブのホームページを閲覧させる場合は、「下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは、下請事業者のファイルに記録したことにはならず、下請事業者が閲覧した事項について、別途、電子メールで送信するか、ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。」と記載してあります。

このように、3条書面に代える提供と言えるためには、当該提供内容が下請事業者のコンピュータに記録される方法をとる必要があります。

①電子メール、EDIで送付する等の方法

3条書面の交付に代えて電子メールで提供した場合、一般的なメールソフトを使って下請事業者が当該メールを受信していれば、下請事業者のコンピュータにメールが記録されたと考えられますが、ウェブメールをブラウザ上で受信するだけでは、下請事業者のコンピュータにメールが記録されないため、3条書面の交付に代わる提供となりません。

そこで、下請事業者がコンピュータ上で一般的なメールソフトを使ってメールを受信するよう、確認する必要があります。

たとえば、押印の印影を合成した書式(エクセル)で発注書を作成し、PDFにしたものをメールで下請事業者に送り、下請事業者からも発注請書をメールで戻してもらうという方法については、承諾を得る際に、下請事業者が一般的なメールソフトを使って受信することと定めておけば問題ないと考えられます。

なお、3条書面において押印は必須ではないため、必要事項を記載したメールまたはファイルを添付したメールを下請事業者が受信し、コンピュータに記録できる状態にすれば足りますので、印影の合成は必須ではありません。

ただ、押印した書面と比べると、どの内容で合意をしたのか、いつ合意が成立したのか等について不明確となる問題があります。

この点、電子署名・タイムスタンプの両方が付されるサービスを利用することで、紙面で押印していたときと同様に当事者間の合意内容や合意時期が確定されるので、トラブル発生時の対応がしやすくなります。

メールでのやりとりだけでは不安という場合には検討してみるとよいでしょう。

②ホームページ上で公開して閲覧させる場合

下請事業者がブラウザ上で閲覧できるというだけでは足りません。

下請事業者が閲覧した事項についてダウンロード機能を持たせ、下請事業者のファイルに記録できるような方策をとる必要があります。

下請事業者の承諾を得る方法

下請法3条書面を電子メールやウェブ等で提供する場合には、あらかじめ、下請事業者の承諾が必要となります。

書面または電磁的記録による方法でこの承諾を取得すればよいので、メール等で取得することも可能です。

「6月分発行の発注書より電子発注書といたします。問題がある場合は6月〇日迄にご連絡ください。ご連絡がない場合はご承諾していただけたものとさせていただきます。」等、承諾とみなす取り扱いについては、法令上禁止されてはいないものの、下請法の下請事業者を保護するという趣旨から考えて無効とされる恐れもありますので、積極的な承諾を取り付けるべきです。

この点、承諾についても押印は必須ではないため、下請事業者から、必要事項と承諾する旨が記載されたファイルを添付または直接記載したメールを送信してもらい、親事業者のコンピュータに記録できる状態にすれば足ります。

その承諾を取得する際、下請法3条書面を下請事業者のコンピュータに記録できる状態にするために、使用する電磁的方法の種類及び内容(電子メール、ウェブ等、word20○○、一太郎バージョン○○以上などのファイルへの記録方法)を明記して確認してください(法第3条第2項、施行令第2条第1項、3条規則第3条、下請取引適正化推進講習会テキストP112)。

また、親事業者が下請事業者に対して、承諾しない場合には、取引の数量を減じ、取引を停止し、取引の条件又は実施について不利益な取扱いをすること等を示唆するなど承諾を余儀なくさせる場合には、本法及び独占禁止法上の問題が生じ得ることから、下請事業者の承諾を得るに当たっては、費用負担の内容、電磁的記録の提供を受けない旨の申出を行うことができることも併せて提示することが必要となります(公正取引委員会「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」、下請取引適正化推進講習会テキストP112)。

次の書面サンプル(フォーマット)は「下請取引適正化推進講習会テキスト」P146に掲載されているものですので、下請事業者にこれを踏襲した内容を記載したファイルを添付した又は直接書き込んだメールを送信してもらうなどしていただければ安心です。ファイルを添付する場合には、承諾の意思が確実に確認できるよう、押印かサインのある書面のPDF等にしてもらうか、メール本文にも「添付ファイルの内容について承諾します。」等の文言をいれておきましょう。

承諾書 (書式)

※下請法3条書面を電子メールやウェブ等で提供するために、下請事業者に正当な理由なくソフト等を指定して購入させる等の場合は、下請法第4条第1項第6号(購入強制の禁止)又は独占禁止法第19条(同法第2条第9項第5号優越的地位の濫用)に違反するおそれがありますので、ご注意ください(公正取引委員会「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」)。

※下請法3条書面を電子メールやウェブ等で提供することを下請事業者が拒んだことにより、不利益的な取り扱いをした場合は、独占禁止法第19条(同法第2条第9項第5号優越的地位の濫用)に違反するおそれがありますので、ご注意ください(公正取引委員会「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」)。

電子契約と印紙

電子契約では印紙税が不要となります。

下請事業者と受注書や承諾書を取り交わした場合も、印紙税は不要です。

https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/02.htm


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