澤田直彦
監修
弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田直彦
2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
\初回30分無料/
【初回30分無料】お問い合わせはこちら労働法務サービスの詳細はこちら当事務所では、LINEでのお問い合わせも受け付けております。お気軽にご相談ください。
登録はこちらから
![]()
労使協定の基本知識と締結手続き
事業場外みなし労働時間制の適用や、時間外・休日労働を可能にするためには、労使協定の締結が必要です。適法に締結されていなければ、制度そのものが無効となり、未払いの残業代を請求されるなどの法的リスクに直結しかねません。
この章では、労使協定の法的な性質や正しい締結の手順、協定の当事者となる代表者の選出要件について解説します。
労使協定の定義と免罰的効果
労使協定とは、使用者と事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間で締結する協定です。過半数労働組合がない事業場では、労働者の過半数を代表する者が締結の当事者となります。
労使協定には、労働基準法の最低基準効を解除する効果があります。最低基準効とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)のように労働基準法で定められた最低ラインより不利な労働条件を無効とする効力のことです。
また、労使協定を締結すると「免罰的効果」が生じ、本来は労働基準法違反として刑事罰の対象となる行為でも、協定の範囲内であれば直ちに処罰の対象とはなりません。
例えば、36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)を締結して労働基準監督署に届け出れば、協定で定めた時間の範囲内で時間外労働を命じることが可能になります。
ただし、すべての労使協定に免罰的効果があるわけではありません。育児・介護休業法に基づき一定の労働者を制度の対象から除外する協定などは、制度の運用や適用範囲を定めるものであり、刑事罰の解除を目的とするものではありません。このような協定は、主として私法上の効力(労働者と企業の間の合意としての効力)を有するものと整理されます。
協定の単位となる「事業場」の判断基準
労使協定は、会社全体ではなく「事業場」単位で締結するのが原則です。
事業場は、原則として場所的観念によって判断されます。工場・事務所・店舗など同一の場所にまとまっていれば一つの事業場として扱われ、場所が分散していれば別個の事業場となります。
ただし、同一の場所でも例外があります。工場内の診療所や食堂のように、労働の態様が著しく異なり、労務管理が明確に区分されている場合は、それぞれが独立した事業場として扱われます。
一方、出張所や駐在所など場所的に分散していても規模が著しく小さく独立性がない拠点は、直近上位の機構(本社や支店)と一括して一つの事業場として扱います。また、テレワーク(在宅勤務)をする自宅も独立性が低いため、原則として所属する直近上位の事業場(本社や所属オフィス)の労働者として一括適用されるべきとされています。
過半数代表者の選出方法と適格性
過半数労働組合がない事業場では、適切な手続きによって「過半数代表者(労働者の過半数を代表する者)」を選出する必要があります。
過半数代表者は、以下の2つの要件を満たさなければなりません。
- 監督もしくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者でないこと
- 協定を締結する当事者の選出であると目的を明らかにし、投票や挙手などの民主的な手続きで選ばれた者であって、使用者の意向に基づいて選出された者でないこと
会社側による指名や親睦会の代表者を自動的に選任する方法は認められません。また、事業場の労働者の中から選出するものと解されるため、顧問の社労士など外部の第三者を当事者とすることもできません。仮にこうした方法で選出した場合、協定は無効となります。
また、「返信がない場合には特定の者を信任したものとみなす」とメールで通知する方法では、労働者の過半数が選任を支持していることが明確に確認できない場合があります。そのため、未回答者に電話や訪問などで個別に確認するなどの補完措置をとることが望ましいとされています。
なお、協定締結時に適法な手続きで選出されていれば、締結後に従業員が増減して労働組合員数が過半数を割ったり、代表者が転勤や昇進をしたりしても、協定の有効期間中は効力に影響しません。
過半数代表者に1年などの任期を定めることも可能です。任期制をとる場合には、任期中に締結を予定する協定(36協定やみなし労働時間制の協定など)をあらかじめ明示して選出します。
事業場外みなし労働時間制の要件と運用
事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)は、事業場外で労働し、労働時間の算定が困難な場合に限り、所定労働時間または通常必要とされる時間を労働時間とみなす制度です。
適用されるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 労働者が事業場外で労働に従事したこと
- その事業場外での労働時間を算定し難いこと
営業職やテレワークなどで活用される制度ですが、近年はIT機器の発達により労働時間の算定が困難という要件を満たすことが難しくなっています。単にオフィスの外で働いているだけでは適用できず、労働基準法上の要件を厳密に満たした運用が求められます。
労働時間を「算定し難いとき」の認定基準
事業場外みなし労働時間制を適用するためには、使用者の具体的な指揮監督が及ばず「労働時間を算定し難い」ことが必要です。単に事業場外で働いているだけでは適用できません。
認定にあたっては、業務の進め方や時間の配分について具体的な指示を受けず、労働者自身の裁量に委ねられている実態が必要となります。
携帯電話やスマートフォンを所持しているというだけで、直ちに適用が否定されることはありません。ただし、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされている場合や、随時指示を受けたり詳細な報告を求められたりする場合は「指揮監督下にある」とみなされ、制度の適用外になるとされています。
近年は、勤怠管理システムやGPS機能などの進歩により、客観的に労働時間を把握しやすくなっています。そのため、裁判所は労働時間の算定困難性をより厳格に判断する傾向にあります。
内勤と外勤が混在する場合の労働時間算定
1日の中で内勤と外勤が混在する場合は、「内勤の実労働時間」と「外勤のみなし労働時間」を合算して、その日の総労働時間を算出します。
総労働時間が所定労働時間以内であれば「所定労働時間」、所定労働時間を超える場合は「総労働時間」をその日の労働時間とします。
外勤については、「通常必要とされる時間」を労働したものとみなしますが、労使協定で時間を定めている場合はその時間が適用されます。一方、内勤は実際の労働時間で計算する必要があり、1日全体をみなし労働とすることはできません。
例えば、内勤が4時間・外勤のみなし時間が5時間であれば、合計9時間の労働となります。法定労働時間(8時間)を超える1時間分は時間外労働(残業)として扱います。
合算した時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合には、超過分に対する割増賃金の支払いが必要です。また、休日労働や深夜労働(22時〜翌5時)についても、みなし労働時間制の適用下であっても別途割増賃金を支払わなければなりません。
労使協定で定めるべき「通常必要時間」
事業場外での業務遂行に、通常、法定労働時間を超える時間が必要となる場合は、労使協定で「通常必要とされる時間」を定めることができます。その場合、実際の労働時間にかかわらず、協定で定めた時間を労働したものとみなします。
労使協定で定める時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合には、所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。
また、労使協定で定める時間は、実態から大きく乖離しないよう注意が必要です。その業務に通常必要とされる時間より短く設定すると、労働者から未払い残業代を請求されるリスクが高まります。
労使協定・みなし制度に関する裁判例とトラブル防止策
労使協定の不備や運用上の誤りがあると、みなし労働時間制が無効と判断される場合があります。制度が無効と判断されると、過去にさかのぼって未払い残業代を請求されたり、刑事罰の対象になったりするおそれがあります。
この章では、以下の観点から裁判例と実務上のトラブル防止策を解説します。
- 労働者の過半数を代表する者の選出において選出目的を明示しなかった場合
- GPSや日報による管理と「算定困難性」の有無
- 制度無効時の未払い残業代リスク
過半数代表者の選出不備による協定無効事例
過半数代表者の選出方法に不備があると、労使協定そのものが無効と判断され、免罰的効果が認められない場合があります。その結果、労働基準法違反として刑事罰の対象となる可能性があります。
例えば、トーコロ事件(最判平成13年6月22日)は36協定に関する事案です。社内の親睦会である「友の会」の代表者が自動的に36協定の締結当事者となっていましたが、裁判所はその人物が労働組合の代表者でも労働者の過半数を代表する者でないため、36協定は無効であると判断しました。
また、サンフリード事件(長崎地判平成29年9月14日)では、選出目的を明らかにしたうえでの投票や挙手などによる手続きが行われておらず、従業員の過半数が支持していることを確認する手続きがなかったとして、1年単位の変形労働時間制に関する協定が無効と判断されました。
こうしたリスクを避けるには、選出目的(例:36協定や事業場外労働に関する協定の締結)を明示し、候補者を募ったうえで投票や挙手などにより過半数代表者を適切に選出し、その一連の選考プロセスを記録に残しておくようにしましょう。
事業場外みなし労働時間制の適用が否定された事例
添乗員や営業職などの事業場外で働く職種であっても、会社が具体的な業務状況を把握できる場合は、事業場外みなし労働時間制の適用が否定されることがあります。
例えば、阪急トラベルサポート事件(最判平成26年1月24日)では、添乗員の業務についてあらかじめ詳細な旅行日程が決められており、会社への日報による報告の義務づけられていました。そのため、裁判所は会社が業務状況を具体的に把握できる状態にあったとして「労働時間の算定が困難」とは認められないと判断しました。
また、MR(医薬情報担当者)の労働時間管理が争われたセルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京高判令和4年11月16日)でも、算定困難性が否定されています。日報の提出や週報の様式改定、貸与されたスマートフォンを用いた業務遂行状況の報告や上司による確認により、労働時間の管理が可能であったと判断されました。
実態として労働時間を管理できる場合には、安易にみなし制度を適用せず、実労働時間を管理する必要があります。裁判例でも、労働時間を客観的に把握できる状況にあるかどうかが重視されています。
弁護士に相談すべきタイミング
みなし労働時間制の導入や運用で判断に迷う場合や、従業員との間でトラブルが起きた場合は、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。みなし労働時間制の手続きや運用に関するルールは厳格に定められており、わずかな誤りでも将来の未払い残業代請求などの問題に発展しかねません。
この章では、制度を新たに導入するときや変更するとき、勤務実態とのズレに気づいたときに分けて、弁護士に相談するメリットを解説します。
事業場外みなし労働時間制を導入・変更したいとき
みなし労働時間制を新たに導入するときや、既存の制度を変更するときは、弁護士に相談して法的な要件を確認することが重要です。みなし労働時間制には複数の種類があり、それぞれ必要な要件・労使協定の内容・手続きが厳格に定められているためです。
みなし労働時間制には、事業場外みなし労働時間制のほかに、専門業務型裁量労働制(同法第38条の3)や企画業務型裁量労働制(同法第38条の4)があります。
- 専門業務型裁量労働制
業務の性質上、進め方を労働者の裁量に委ねる必要がある特定の業務に適用する制度。研究開発やデザイナーなどの法律で定められた20業務が対象 - 企画業務型裁量労働制
企業の運営に関する企画や立案、調査や分析を行う業務に適用する制度
専門業務型裁量労働制は、労使協定の締結と労働基準監督署への届出に加え、労働者本人の同意が必要です。
企画業務型裁量労働制は、労使委員会を設置して所定の事項(対象とする業務・労働者の範囲・みなし労働時間など)を決議し、労働基準監督署へ届け出たうえで、労働者本人の個別同意を得る必要があります。
法律で定められた要件を満たさずに運用を始めたことにより、制度自体が無効と判断された結果、未払い残業代の支払い義務が発生するだけでなく、労働基準監督署からの行政指導や是正勧告を受ける可能性もあります。
制度の導入・変更段階で弁護士による法的な確認を受けることで、将来的なトラブルやリスクを未然に防ぐ効果が期待できます。
勤務実態と制度内容が整合していない可能性があるとき
みなし労働時間制のルールと実際の働き方が合っていない可能性がある場合も、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。みなし労働時間制では、実際の働き方が法律上の要件を満たしているかどうかが重視されます。
以下のようなケースでは、事業場外みなし労働時間制を適用していても、実態と制度に乖離が生じ、後から適用が認められなくなる可能性があります。
・ テレワークの従業員が働く時間を会社が把握できる状態にある
・ 裁量があるはずの従業員に対して、業務内容を細かく指示している
実際の裁判例でも、事業場外みなし労働時間制の適用が認められず、実際の労働時間をもとに残業代を計算するよう命じられたケースは少なくありません。
早い段階で弁護士に確認を依頼すれば、実際の働き方が法律上の要件を満たしているか確認し、必要に応じて問題が深刻化する前に対応できます。
\初回30分無料/
【初回30分無料】お問い合わせはこちらよくある質問(Q&A)

労使協定とみなし労働時間制について、よく寄せられる質問をQ&A形式で解説します。
Q1. 労使協定の有効期間中に過半数代表者が退職したら?
労使協定の有効期間中に過半数代表者が退職しても、協定の効力には影響せず、期間満了まで有効です。
協定締結時に適正な手続きで過半数代表者が選任されていれば、その後に代表者が転勤・昇進・退職・死亡しても、協定を締結し直す必要はありません。
ただし、協定の当事者である過半数労働組合が解散した場合は、締結の当事者が不在となるため、協定の効力は失われます。
Q2. 在宅勤務(テレワーク)にみなし労働時間制は使えますか?
原則として、以下の3点をいずれも満たす場合は、事業場外みなし労働時間制を適用することができます。
- 起居寝食など私生活を営む自宅で業務が行われること
- 情報通信機器(パソコンやスマートフォンなど)が、会社の指示により「常時通信可能な状態」におくこととされていないこと
- 随時、会社の具体的な指示にもとづいて業務が行われていないこと
「常時通信可能な状態」とは、会社からの呼び出しに即座に応答する義務を負っている状態をいいます。通信を自身の意思で切断できる場合や、応答のタイミングを自身で判断できる場合などは該当しません。
一方、メールやチャットで具体的にスケジュールを管理されている場合や、常時指示を受けて作業している場合などは、原則として制度の適用は認められません。
Q3. 営業職に携帯電話を持たせると制度は無効となりますか?
営業職に携帯電話やスマートフォンを持たせているだけで、事業場外みなし労働時間制が無効(適用外)になるわけではありません。重要なのは、使用者の具体的な指揮監督が及び、労働時間を把握できる状態にあるかどうかが可能かです。
以下のような場合は、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難と認められるとされています。
・ 通常は事業所と営業社員間での連絡は行わず、営業社員の裁量で事業場外の業務を行っている
一方、携帯電話などを通じて上司から随時指示を受けながら勤務している場合は、指揮監督が及んでいるとして制度が適用されないとされています。
みなし労働時間制に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
みなし労働時間制を適用するためには、過半数労働組合がない場合、選出目的を明らかにして過半数代表者を適切に選出し、勤務実態に基づいたルールを定めたうえで、必要な労使協定を締結しなければなりません。
過半数代表者の選出方法に不備があった場合や、実態として労働時間を把握できる場合は、制度の適用が認められず、未払い残業代を請求されるおそれがあります。制度の導入・拡大・見直しを検討する際は、トラブルを未然に防ぐためにも早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
直法律事務所においても、ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
\初回30分無料/
【初回30分無料】お問い合わせはこちら労働法務サービスの詳細はこちら【関連記事】
専門業務型裁量労働制とは?導入の要件や残業代の扱いを解説
変形労働時間制とは?導入から運用まで弁護士がわかりやすく解説
限定正社員とは?ジョブ型雇用との違いや導入時の注意点を解説
顧問弁護士とは?法律顧問契約を結ぶメリットや費用・相場について解説!【企業向け】
直法律事務所では、IPO(上場準備)、上場後のサポートを行っております。
その他、プラットフォーム、クラウド、SaaSビジネスについて、ビジネスモデルが適法なのか(法規制に抵触しないか)迅速に審査の上、アドバイスいたします。お気軽にご相談ください。
ご面談でのアドバイスは当事務所のクライアントからのご紹介の場合には無料となっておりますが、別途レポート(有料)をご希望の場合は面談時にお見積り致します。
アカウントをお持ちの方は、当事務所のFacebookページもぜひご覧ください。記事掲載等のお知らせをアップしております。