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【2026年10月1日施行】カスハラ対策が義務化|企業に求められる措置と実務対応を解説

「うちはBtoBだからカスハラは関係ない」「クレーム対応は現場がうまくやってくれている」――そう考えている企業も、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法への対応が必要です。

今回の改正により、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます)対策は、従業員を1人でも雇用するすべての事業主の法律上の義務となります。対象となる「顧客等」には一般消費者だけでなく取引先の担当者等も含まれるため、BtoB企業も無関係ではありません。

本記事では、企業法務・人事労務のご担当者に向けて、以下の点を整理して解説します。

▸ 改正の全体像(何が・いつから・誰に義務づけられるのか)
▸ カスハラ該当性を判断する3つの要素と具体例
▸ 事業主が講ずべき措置の内容
▸ カスハラ対策に特有の「抑止のための措置」(悪質事案への対処)
▸ BtoB取引において自社が加害側になるリスク
▸ 対応を怠った場合に何が起こり得るか


澤田直彦

監修
弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田直彦

2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

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カスハラ対策義務化の全体像|施工日・対象・措置内容

「望ましい配慮」から「法律上の義務」へ

カスハラへの対応は、これまで法律上の義務として正面から定められていたわけではありません。

パワーハラスメントに関する指針において、顧客等からの著しい迷惑行為により労働者の就業環境が害されることのないよう、雇用管理上の配慮を行うことが「望ましい」とされていたにとどまります。その後、厚生労働省が2022年2月に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し、2024年10月には東京都がカスハラの禁止等を内容とする条例を制定(2025年4月施行)するなど、社会的な取組みが急速に進んできました。

こうした流れを受けて、2025年6月4日に労働施策総合推進法等の一部を改正する法律が可決され、同月11日に公布されました(令和7年法律第63号)。

この改正により、事業主は、カスハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう、相談体制の整備、カスハラ抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられました(改正労働施策総合推進法33条1項)。

すでに措置義務の対象とされてきたセクハラ・パワハラ・妊娠出産等に関するハラスメントに、カスハラが新たに加わった形です。

施行日は2026年10月1日、対象はすべての事業主

カスハラ対策の義務化に関する部分の施行日は、2026年10月1日です。

適用対象は、労働者を雇用するすべての事業主であり、企業規模や業種による適用除外・猶予措置はありません。

守られる側の「雇用する労働者」には、正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者や、受け入れている派遣労働者も含まれます。従業員数名のスタートアップであっても、施行日以降は義務の対象となることに注意が必要です。

具体的な措置内容は「カスハラ指針」に

事業主が講じるべき措置の具体的な内容は、法律の委任に基づき指針で定めることとされており(同法33条4項)、2026年2月26日に「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号。以下「カスハラ指針」といいます)が公表されました。

法改正の経緯や指針の内容は、厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」の特設ページでも確認できます。

カスハラの定義と3つの判断要素

カスハラ該当性を判断する3つの要素

カスハラ指針では、カスハラを「職場において行われる顧客等の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と位置づけています。

分解すると、以下の3つの要素をすべて満たすものがカスハラに該当します。

  1. 顧客等の言動であること
  2. 社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されること

「顧客等」はBtoCの客に限らない

実務上まず押さえるべきは、行為主体である「顧客等」の広さです。

顧客等には、BtoC取引の顧客のみならず、BtoB取引の相手方、さらには潜在的な取引の相手方も含まれます。今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある者、事業に関する問合せを行う者、施設・サービスの利用者やその家族、施設の近隣住民等も対象となり得ます。

「取引先の担当者から、自社の従業員が繰り返し暴言を受けている」という場面は、まさに本改正の射程内です。消費者向けの店舗を持たない企業も、決して他人事ではありません。

正当なクレームはカスハラではない

一方で、顧客等からの苦情であっても、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであり、カスハラには該当しません。商品に不具合があった場合の交換要求のように、要求に正当な理由があり、その要求の仕方も常識的な範囲にとどまるものは、企業として真摯に対応すべきクレームです。

カスハラ対策の義務化は、「顧客の声を封じることを目的とするものではない」という基本認識が重要です。

また、障害のあるお客様が、障害者差別解消法で禁止されている不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明することは、カスハラには当たりません。実施に伴う負担が過重でないときは、事業者側に必要かつ合理的な配慮が求められます。

カスハラ対応の名の下に、こうした正当な意思表明まで排除してしまわないよう、現場への周知の際には注意が必要です。

「社会通念上許容される範囲を超える」とは

「社会通念上許容される範囲を超えた」かどうかは、「顧客等の『言動の内容』が契約内容等に照らして相当性を欠くか」「『手段や態様』が相当でないか」という2つの側面から判断されます。

判断にあたっては、言動の目的、言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合考慮するとされています。

重要なのは、内容と態様のいずれか一方のみが範囲を超える場合でも、カスハラに該当し得るという点です。要求内容自体には理由があっても、その通し方が度を超えていれば該当し得ます。

「言動の内容」が範囲を超える例としては、そもそも要求に理由がないもの、商品・サービスと全く関係のない要求(性的な要求や労働者のプライバシーに関わる要求など)、契約内容を著しく超えるサービスの要求、対応が著しく困難・不可能な要求(契約金額の著しい減額要求など)、商品・サービスと無関係な不当な損害賠償要求が挙げられています。

「手段や態様」が範囲を超える例としては、物を投げる・わざとぶつかるなどの身体的な攻撃、脅迫・中傷・侮辱・暴言・土下座の強要・SNSへの悪評投稿をほのめかす発言やプライバシー情報の投稿などの精神的な攻撃、大声をあげて威圧する言動、同様の質問や要求を執拗に繰り返す言動、長時間にわたる居座りや電話での拘束といった拘束的な言動が挙げられています。

カスハラの具体例や企業側の留意事項は、政府広報オンラインの解説記事にもまとめられています。

「就業環境が害される」とは

「労働者の就業環境が害される」とは、言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」を基準とする点はパワハラと同様ですが、言動の頻度や継続性は考慮されるものの、強い苦痛を与える態様の言動であれば1回でも該当し得るとされています。

「1回だけだから問題ない」という整理は通用しないため、注意が必要です。

カスハラ対策で事業主が講ずべき措置

カスハラ指針が事業主に求める雇用管理上の措置は、以下の5つの項目に整理できます。

  1. 事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発
  2. 相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
  3. カスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. カスハラへの対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置
  5. これらとあわせて講ずべき措置(相談者のプライバシー保護、相談等を理由とする不利益取扱いをされない旨の周知・啓発)

パワハラ指針と同様の内容も少なくない一方、カスハラに特有の内容も新たに定められており、特に④の抑止のための措置はパワハラ指針にはないカスハラ対策独自の項目です(詳細は第5章で解説します)。

あわせて、事業主は、労働者がカスハラに関して相談を行ったことや、相談への対応に協力して事実を述べたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(同法33条2項)。

総論として押さえていただきたいのは、「5項目は相互に連動しており、方針だけ・窓口だけといった部分対応では義務を満たせない」という点です。

カスハラが発生した後に企業が講ずべき措置

前述した5つの措置のうち、「カスハラに係る事後の迅速かつ適切な対応」として、事業主には、事実関係の確認、被害者への配慮、再発防止に向けた措置が求められます。

以下、それぞれの具体的な対応について解説します。

迅速かつ正確な事実確認

カスハラに係る相談の申出があった場合、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められます。相談窓口の担当者や関係部門が相談者から事実関係を確認し、必要に応じて周囲の労働者からも聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりする措置が考えられます。

パワハラの場合と異なり、管理監督者等がその場で事実関係を確認して対処することも可能とされている点は、発生現場での即応が求められるカスハラの特性を踏まえたものです。加えて、必要かつ可能な場合には行為者からも事実関係を聴取することとされています。

なお、行為者が他の事業主の雇用する労働者である場合には、必要に応じてその事業主に事実関係の確認への協力を求めることも措置の内容に含まれます。

被害者への配慮のための措置

カスハラの事実が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う必要があります。

具体例としては、「管理監督者等が被害者に代わって対応すること」「被害者と行為者を引き離すための措置」「犯罪に該当し得る言動についての警察への通報」「行為者に対応する担当者の変更や複数人での対応」「被害者のメンタルヘルス不調への相談対応」などが挙げられています。

ポイントは、被害者の安全確保とメンタルヘルス不調の回避です。

再発防止に向けた措置

カスハラへの対応は、個別の事案への対処だけでなく、再発防止につなげることも重要です。

そのため、あらためてカスハラに関する方針を周知・啓発し、再発防止に向けた措置を講じることが求められます。注意すべきは、カスハラの事実が確認できなかった場合であっても、同様の措置を講じるとされている点です。

また、カスハラの発生原因や背景となった商品・サービス・接客等の問題や顧客等とのコミュニケーション不足などの改善を図ること、事案の内容や対応経緯を記録して関係部門で共有し再発防止に活用することも、望ましい取組みとして挙げられています。

単発の事案処理で終わらせず、組織的な学習につなげる視点が求められています。

悪質なカスハラを抑止するための措置

対処方針をあらかじめ定めて周知する

カスハラ指針の大きな特徴が、対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置です。

過度な要求を繰り返すなど特に悪質なものへの対処の方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、定めた対処を実際に行うことができる体制(関係部門間の連携等)を整備することが求められます。

パワハラ指針には同様の項目はなく、行為者が社外の第三者であるカスハラならではの措置といえます。

実務上の対処の選択肢

特に悪質と考えられる事案への対処の例として、指針では以下の例が挙げられています。

  • 犯罪に該当する言動について警察へ通報する
  • 行為者へ警告文を発出する
  • 法令の制限内で、行為者に対する商品の販売・サービスの提供等をしない
  • 行為者の店舗・施設等への出入りを禁止する
  • 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる

お客様相手にそこまでできるのかと驚かれることもありますが、指針が明示的に例示している以上、悪質事案にはここまでの対応があり得ることを前提に、自社の対処方針を設計すべきです。

もっとも、無限定に拒否できるわけではありません。指針では、以下の点に留意する必要があるとされています。

  • 消費者の権利への配慮
  • 障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止や、合理的配慮の提供義務への留意
  • 各業法等によるサービスの提供義務への留意
  • サービスの途絶が顧客等の生命や心身の健康に重大な影響を及ぼす可能性への留意

また、必要な対応は業種・業態によって異なる旨も指摘されています。そのため、医療・介護・インフラなどサービス提供義務性の高い業種では、とり得る対処の範囲について事前に法的な検討をしておくことを強くお勧めします。

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BtoB取引で企業が「加害側」になるリスク

他の事業主から協力を求められた場合

BtoB間のカスハラでは、自社が被害側になるだけでなく、加害側として関与を問われる場面もあります。改正法は、事業主が、他の事業主から措置義務の実施に関して事実確認等の協力を求められた場合、これに応じるよう努めることを定めました(同法33条3項)。

例えば、自社の従業員が取引先の従業員にカスハラを行っていた疑いがある場合に、取引先から事実確認への協力を求められれば、協力するよう努めることになります。

また、協力を求められたことを理由として、契約解除等の不利益な取扱いを行うことは望ましくないとされています。「協力を求めてきた取引先との契約を切る」という対応は、法の趣旨に反するものとして避けるべきです。

従業員のカスハラは自社のリスクでもある

従業員が取引先に対して行った暴行・脅迫等のカスハラ的行為について、行為者を雇用する会社側の責任が認められた裁判例も存在しており、従業員によるカスハラは、被害を受ける企業だけでなく、行わせてしまった企業にとっても現実的なリスクです。

予防策としては、自社の方針を明確化する際に、自社の従業員が他の事業主の雇用する労働者等に対してカスハラを行ってはならない旨の方針もあわせて示すことが望ましいとされているほか、就業規則の服務規律・懲戒規定の整備が考えられます。

国・事業主・労働者それぞれの責務

今回の改正では、カスハラに起因する問題に関する国、事業主、労働者および顧客等の責務も定められました(同法34条)。

事業主は、カスハラ問題に対する労働者の関心と理解を深め、労働者が他の事業主の雇用する労働者に対する言動に注意を払うよう研修等を行うほか、事業主自身も他の事業主の雇用する労働者に対する言動に注意を払うよう努めるものとされています。

カスハラ対策は「守り」の体制整備だけでなく、「自社が加害者側にならない」ための研修・啓発までを含むテーマになったと認識することが重要です。

カスハラ対策を怠った場合のリスク

カスハラ対策の措置義務に違反しても、直ちに罰金等の刑事罰が科されるわけではありません。しかし、行政による助言・指導・勧告や企業名の公表、さらに民事上の損害賠償責任が問題となる可能性があります。

措置義務や不利益取扱いの禁止に違反した事業主が勧告に従わなかった場合には、企業名が公表される可能性があります(同法42条1項・2項)。

企業名の公表は、採用活動や取引関係、レピュテーションへの影響が大きく、特に知名度の形成途上にあるスタートアップ・成長企業にとっては軽視できないサンクションです。

また、行政上の対応とは別に、民事上の責任が問題となる可能性もあります。従業員から被害の相談を受けていたにもかかわらず会社が適切な対応をとらず、その結果従業員の心身の健康に重大な影響が生じた場合には、会社の安全配慮義務との関係で損害賠償責任が問題となり得ます。

措置義務への対応状況は、こうした民事紛争においても会社の対応の適否を評価する事情となり得ます。そのため、「罰則がないから後回し」という判断は、リスクの見積もりとして適切ではありません。

よくある質問(Q&A)

Q1.当社は法人向けサービスのみで、一般消費者との接点がありません。それでも対応が必要でしょうか。

必要です。カスハラの行為主体である「顧客等」には、BtoB取引の相手方や潜在的な取引先、事業に関する問合せを行う者等も含まれます。

取引先の担当者による暴言や威圧的な要求、また長時間の拘束なども対象となり得るため、BtoB企業でも方針の明確化や相談体制の整備が必要です。

Q2.「SNSに晒すぞ」と言われたり、実際に従業員の情報を投稿されたりした場合、カスハラに当たりますか。

該当し得ます。カスハラ指針では、SNS等への悪評の投稿をほのめかす発言や、労働者のプライバシーに関する情報の投稿などが精神的な攻撃の一例として挙げられています。

投稿の予告段階でも該当する可能性があるため、従業員が一人で抱え込まず、速やかにに報告・相談できる体制を整えておくことが重要です。

Q3.障害のあるお客様から強い調子で配慮を求められた場合、カスハラとして扱ってよいのでしょうか。

慎重な判断が必要です。障害者差別解消法に基づき、不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去について意思を示すことは、カスハラには当たりません。

口調の強さだけで判断せず、要求内容がを確認したうえで、必要に応じて相談窓口や本部で対応する運用をお勧めします。

Q4.施行までに、何から着手すればよいですか。

まず、本記事で解説した措置義務の5項目について自社の現状を確認し、不足している対応を洗い出しましょう。

そのうえで、基本方針・対応マニュアル・就業規則や関連規程・周知物の整備を進めます。施行日から逆算し、早めに着手することが重要です。

カスハラ対策に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

2026年10月1日から、カスハラ対策は全事業主の法律上の義務となります。カスハラは、顧客等の言動の内容や態様、就業環境への影響などを踏まえて判断されます。「顧客等」にはBtoB取引の相手方等も含まれるため、一般消費者との接点がない企業も対応が必要です。

事業主には、基本方針の明確化や相談体制・事後対応・悪質な事案への対処方針・プライバシー保護などの措置が求められます。対応が不十分な場合は、行政による助言・指導・勧告や企業名公表のほか、民事上の責任が問題となる可能性もあるため、施行に向けて早めに社内体制や規程類を整備しておくことが重要です。

直法律事務所においても、ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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