澤田直彦
監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、「限定正社員とは?ジョブ型雇用との違いや導入時の注意点」について、詳しくご説明します。
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限定正社員制度は、多様な働き方を実現する有力な選択肢です。ただし、限定正社員制度を導入するにあたって、処遇・転勤命令・解雇回避義務との関係などの法的整理を誤ると紛争リスクを高めてしまいます。
本記事では、限定正社員の定義やジョブ型雇用との違いを明確にし、制度導入や見直しを検討する企業担当者が押さえるべき実務上・法的なポイントを解説します。
限定正社員とは
限定正社員は、無限定正社員を前提として形成されてきた日本型雇用の枠組みの中で、多様な働き方を実現するために設けられた雇用区分です。
この章では、限定正社員の基本的な定義と特徴を整理したうえで、近年注目されている「ジョブ型雇用」との違いや関係性について日本企業における運用実態も踏まえて解説します。
勤務地や職務が限定された正社員の定義
限定正社員とは、「期間の定めのない正社員でありながら、勤務地・職務・労働時間などの範囲を労働契約により限定した雇用形態」をいいます。
日本の従来型の正社員は、「フルタイム」「勤務地無限定」「職務無限定」を前提とし、企業の人事権のもとで幅広い配置転換や転勤が予定されてきました。これに対し、限定正社員はそのうちのいずれかを契約上制限する点に特徴があります。
近年は、育児や介護と両立する社員の増加、専門性を活かした人材活用や地域に根ざした雇用の確保といった観点から、限定正社員制度を導入する企業が増えています。正規雇用の安定性を維持しつつ、多様な働き方を可能にする制度として注目されています。
日本型雇用におけるジョブ型との関係
「ジョブ型雇用」とは、一般的に「職務内容(ジョブ)を明確に定め、その職務内容に応じて処遇を決定する雇用形態」を指します。
欧米企業におけるジョブ型雇用では、職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づき、担当業務が厳格に特定されるのが通常です。一方、日本企業におけるジョブ型雇用は、職務内容を一定程度明確化しつつも、企業側が人事権を保持したまま運用されるケースが多くなっています。
外資系企業などにおいては、「職務限定正社員」をジョブ型雇用として運用している場合もあります。一方、一般の日本企業では、職務を限定しない前提のまま、仕事の価値や重要性によって賃金が変動する形態をジョブ型雇用と呼んでいる場合もあります。
なお、ジョブ型と聞くと高度専門職や高報酬を連想しがちですが、日本企業では必ずしもそうとは限りません。既存の正社員と同等の給与体系で運用されているケースも多く見られます。
限定正社員のメンタルヘルス不調からの復職対応
限定正社員がメンタルヘルス不調により休職し、復職する場合の対応には、通常の正社員以上に注意が必要です。職務や勤務地が限定されているため、復職後は原則として「限定された元の職場・職務」に戻る前提となります。
ただし、メンタルヘルス不調の原因として上司によるハラスメントが主張されている場合は注意が必要です。会社が漫然と元の環境へ復帰させれば、再発リスクを予見できたにもかかわらず十分な対応をしなかったとして、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。そのため、事実関係の確認や環境調整を含め、慎重な判断が求められます。
限定の内容は労働契約の一部であり、変更には労使の合意が必要です。従業員が限定外の職務を希望しても、会社が必ずしも応じる義務はありません。ただし、一定の配慮は必要であり、従業員からの希望があり、かつ、程なく元の業務に戻れる状況であれば、別の業務での復職を検討することも考えられます。
もっとも、従業員が希望する特定の職務への異動に応えられない事情がある場合には、その理由を丁寧に説明し、代替案の提示などにより理解を得る対応が重要になります。
勤務地限定正社員への変更希望と転勤命令の対応
勤務地が限定されていない正社員に対し、転居を伴う転勤を命じたところ、本人から「勤務地限定正社員への変更」を希望されることがあります。
もっとも、この場合でも、会社が当然にその変更希望に応じる義務を負うわけではありません。また、適法な業務命令である転勤命令に従わない場合には、懲戒処分の対象となります。
ただし、育児や介護などの家庭事情がある場合には、育児介護休業法にもとづく配慮が求められることがあります。
勤務地限定正社員への変更希望があった場合の主な論点を整理すると、以下のとおりです。
| 項目 | 原則 | 例外(配慮が必要な場合) |
|---|---|---|
| 変更希望への対応 | 応じる義務はない | 難病の子の育児など、著しい不利益がある場合は変更を検討 |
| 転勤命令の有効性 | 有効(業務命令権) | 権利濫用となる可能性がある |
| 待遇変更 | 一方的な変更は不可 | 就業規則に根拠があり、合理性があれば可能 |
この章では、転勤拒否を理由とする待遇(給与)の引下げが認められるか、また、育児介護休業法を踏まえた配慮義務の具体的内容について解説します。
転勤を断られた場合の待遇変更の可否
勤務地限定ではない正社員が転勤命令を拒否した場合、それを理由に一方的に勤務地限定社員へ変更したり、待遇を引き下げたりすることは原則としてできません。労働契約の内容を変更するには、労使の合意が必要です。
もっとも、就業規則に「異動を拒否した場合は地域限定社員へ変更する」などの明確な規定があり、その内容が合理的と認められる場合には、例外的に変更が有効と評価される余地はあります。
その場合でも、個別事情を踏まえた慎重な運用が不可欠です。特に、育児や介護など家庭の事情による転勤拒否については慎重な対応が求められます。形式的に命令違反として処理することや、不利益変更を行うことは避けるべきです。
育児介護休業法を踏まえた配慮義務
育児介護休業法26条は、転居を伴う転勤を命じるにあたり、育児や介護の状況に配慮する義務を事業主に課しています。勤務地が無限定の契約であっても、個別事情を考慮しない転勤命令は問題となり得ます。
例えば、難病を抱える子を一人で養育している場合など、転勤によって著しい不利益が生じる事情がある場合には、転勤命令自体が権利濫用と評価される可能性があります。
そのようなケースでは、勤務地限定社員への変更を含めた柔軟な対応を検討することが適切でしょう。
限定正社員制度導入時の法的留意点
限定正社員制度を導入・運用する際には、労働条件通知書への記載内容や既存の非正規社員との均衡待遇など、検討すべき法的ポイントがあります。
この章では、2024年の労働条件明示ルールの改正を踏まえ、変更範囲の明示漏れがもたらすリスクや、パートタイム・有期雇用労働法に基づく比較対象の考え方を解説します。
労働条件明示における変更範囲の記載
労働基準法施行規則の改正により、2024年4月から、全ての労働者に対し、労働条件通知書において「就業場所および業務の変更の範囲」を明示することが義務づけられました。限定正社員制度を導入する場合には、この変更範囲を具体的に定める必要があります。
例えば、変更の範囲として「〇〇の範囲内」や「なし」などと記載します。一方、限定する合意をしない場合には、「会社が指定した場所」や「会社が指定した業務」など、非限定であることがわかるように記載する必要があります。
記載漏れがあったとしても、それだけで直ちに限定契約になるわけではありませんが、変更が予定されていないとの解釈を招くリスクは高まります。紛争予防の観点からは、限定の内容と変更可能性を明確に記載しておくことが重要です。
最終的には、労働契約の内容・就業規則の規定・実際の運用状況などを踏まえて総合的に判断されます。
契約社員との均衡・均等待遇の検討
新たに職務限定や勤務地限定の正社員制度を導入する場合、既存の契約社員(有期雇用労働者)との待遇差にも注意が必要です。業務内容や変更範囲が類似している場合には、比較対象とされる可能性があります。
パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8条は、職務の内容や配置変更の範囲などの事情を考慮して、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。
また、同9条は、職務の内容および配置の変更の範囲(人材活用の仕組みや運用など)が通常の労働者と同一のパートタイム・有期雇用労働者については、パートタイム・有期雇用労働者であることを理由として、基本給・賞与・その他の待遇のそれぞれについて差別的取扱いをしてはならないとしています。
そのため、限定正社員と契約社員との間で基本給・賞与・各種手当の差を設ける場合には、職務内容や責任の程度、人材活用の仕組みの違いなどに照らして合理的な説明ができることが重要です。不合理な待遇差と評価されれば、損害賠償請求や是正指導の対象となるおそれがあります。
限定正社員の処遇設定においては、無限定正社員とのバランスだけでなく、非正規社員との均衡も考慮する必要があります。
限定正社員の解雇回避努力と能力不足時の対応
職務や勤務地が限定されている正社員については、「限定があるから解雇しやすい」と誤解されがちです。しかし、実務上はそのように単純ではありません。
事業所閉鎖や職務消滅の場面、あるいは能力不足が問題となる場面でも、一定の解雇回避努力や改善機会の付与が求められます。
事業所閉鎖時における解雇回避努力義務
勤務地や職務が限定されている場合でも、当該事業所の閉鎖や職務の消滅を理由とした解雇が常に有効となるわけではありません。解雇の有効性は、回避努力の有無を含めて総合的に判断されます。
限定の範囲内で配置可能な業務がないかをまず検討する必要があります。また、限定外の業務についても、本人の同意を前提に提案することが考えられます。退職金の上乗せや再就職支援も、解雇回避努力の一環として評価され得ます。
また、高度専門職として高い処遇で雇用されていた人について、該当する職務がなくなった場合、別の業務を提案する必要があるのかという問題があります。この場合、裁判例を見ても、可能な限り次の仕事を提案する努力が求められる傾向にあります。
ただ、別の仕事を提案するにしてもどの程度の処遇で提案するか、また、提案できる仕事がない場合に割増退職金を提示することになりますが、どの程度必要となるかは、ケースごとに検討する必要があります。
パフォーマンス不足社員への対処法
職務限定正社員であっても、能力不足を理由に直ちに解雇することは困難です。まずは注意指導や業務改善の機会、例えば業務改善プログラム(PIP)を与えることが必要です。評価基準を明確にし、改善状況を記録しておくことが重要になります。
配置転換が想定されていない限定正社員であっても、解雇の有効性を高めるためには、可能な範囲での配置調整を検討します。改善の見込みがあるかどうかを丁寧に見極めることが大切です。
また、採用時に求める能力やスキルを具体的に特定しておくことも重要です。職務内容が明確であればあるほど、能力不足の立証はしやすくなります。制度設計段階で職務内容を具体化しておくことが、将来のリスクを軽減します。
定年後再雇用と65歳超雇用確保措置
限定正社員制度を運用するうえでは、定年後の再雇用や高年齢者雇用確保措置との関係も整理しておく必要があります。特に、65歳までの雇用確保措置と、70歳までの就業確保措置では法的性質が異なります。
65歳までの雇用確保は法律上の義務です。原則として、希望者全員を対象とする継続雇用制度を整備しなければなりません。一方、70歳までの就業確保は努力義務とされています。そのため、制度設計や対象者の選定には一定の裁量が認められます。
この章では、対象者を限定する基準の設定や、特定の社員のみ定年延長を行う場合の留意点、転籍などの選択肢について説明します。
65歳以降の雇用継続基準と対象者の選定
65歳までの継続雇用は義務ですが、65歳以降の雇用継続については、対象者を限定する基準を設けることが可能です。
しかし、対象者を限定する基準を設ける場合、原則として労使に委ねられますが、事業主と過半数労働組合等(当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、なければ労働者の過半数を代表する労働者)との間で十分に協議した上で、過半数労働組合等の同意を得ることが望ましいとされています。
また、そのように定められた基準であっても、事業主が恣意的に一部の高年齢者を排除しようとするなど、法の趣旨や他の労働関係法令・公序良俗に反するものは認められません。
なお、対象者を限定する場合には、具体的・客観的な基準である必要があります。
厚生労働省の「高年齢者雇用安定法の概要~70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずべき措置(努力義務)等について~」によれば、対象者を限定する基準として、以下のような基準が考えられます。
・ 過去○年間の出勤率が○%以上である者
・ 過去○年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないこと
このように、努力義務である70歳までの就業確保措置であっても、基準の内容と運用は客観的で合理的であることが求められるため、基準を明確に定め、記録を残しておくことが重要です。
選別的な定年延長と不利益変更の問題
一部従業員のみ定年を65歳に延長し、他の従業員については60歳定年として継続雇用制度を設ける形も可能と考えられます。ただし、その選別基準が曖昧であれば、恣意的運用と評価されるおそれがあります。
定年延長者と継続雇用者との間で、著しい待遇差が生じる場合にも注意が必要です。不合理な差があると判断されれば、紛争に発展する可能性があります。
定年制度の変更が実質的に労働条件の不利益変更にあたる場合には、その合理性が問われます。定年延長は退職金の受け取りが先延ばしになるなど不利益な面もあるからです。年金受給資格や退職金制度との関係も含め、総合的に検討することが重要です。
弁護士に相談すべきタイミング
限定正社員制度は、制度設計の段階から個別トラブル対応まで、法的判断が求められる場面が少なくありません。紛争予防のためには、問題が顕在化してから対応するのではなく、早期に専門家へ相談することが大切です。
この章では、弁護士への相談が有効となる主なタイミングを整理します。
限定正社員制度の新設・見直しを検討しているとき
限定正社員制度を新たに導入する場合や、既存制度を見直す場合には、事前の法的チェックが重要です。限定の範囲が曖昧であれば、将来的に配置転換や解雇をめぐる紛争が生じる可能性があります。
処遇差の設計や就業規則の整備、労働条件通知書の記載方法などは、制度全体の整合性が問われます。導入前に法的リスクを整理しておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。
転勤拒否や処遇変更を巡りトラブルが生じているとき
転勤命令をめぐる対立や、勤務地限定への変更を巡る紛争が発生した場合には、早期の対応が重要です。対応を誤れば、不利益変更や権利濫用と評価される可能性があります。
特に、育児・介護・ハラスメントが関係する事案では、育児介護休業法への配慮や安全配慮義務との関係も問題になります。事実関係を整理し、適切な説明と対応方針を検討するためにも、専門的な助言が有効です。
解雇・雇い止めの可否判断に迷っているとき
事業所閉鎖や能力不足を理由とする解雇、あるいは高年齢者の雇い止めについては、慎重な判断が求められます。限定契約であっても、直ちに解雇できるわけではありません。
解雇回避努力が十分か、基準の運用が合理的かなど、総合的な検討が必要です。判断に迷う段階で相談することで、リスクを抑えた対応を選択しやすくなります。
よくある質問(Q&A)

限定正社員制度の運用にあたっては、転勤拒否への対応や契約書の記載方法、高年齢者の取扱いなど、実務上判断に迷う場面が少なくありません。
この章では、企業から寄せられることの多い質問について、法的な考え方を簡潔に整理します。
転勤を拒否した社員の給与を下げることはできますか?
勤務地が限定されていない正社員が転勤命令を拒否した場合でも、それを理由に直ちに給与を引き下げることは原則としてできません。賃金は労働契約の重要な内容であり、不利益変更には労使の合意が必要です。
ただし、就業規則に合理的な規定があり、あらかじめ異動拒否時の取扱いが明示されている場合には、一定の変更が認められる余地はあります。育児や介護などの事情がある場合には慎重な対応が求められます。
職務限定社員に求められる「能力」は契約書にどう書けばよいですか?
職務限定社員については、会社が求める能力をできるだけ具体的に明示しておくことが重要です。ポイントは、紛争時に「何をもって能力不足と判断するのか」を客観的に示せるかどうかにあります。抽象的な表現では足りません。
関連する国家資格や民間資格があれば、それを明示する方法があります。適切な資格がない場合には、必要なスキルや使用ツール、一定年数の実務経験などで特定することが考えられます。
また、職務の目的や期待される成果を整理した職務記述書を作成し、契約書に反映させる方法も有効です。ただし、要件を細かく設定しすぎないよう、実務とのバランスも意識する必要があります。
70歳までの就業確保として子会社への転籍を命じることはできますか?
70歳までの就業確保措置として、子会社への転籍を制度化すること自体は可能です。65歳までの雇用確保措置においても、一定の条件を満たせば子会社への転籍は認められています。
70歳までの就業確保措置では、対象事業主の範囲も広く、他社との契約に基づく措置も許容されています。社員が定年時に子会社への転籍に同意しない場合には、定年により退職扱いとすることも特に問題はありません。
なお、自社で雇用を継続したうえで子会社へ出向させる方法も選択肢となります。高年齢者の活用方針を踏まえ、制度設計を行うことが求められます。
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限定正社員制度は、多様な働き方を実現する有効な手段である一方、処遇設計・転勤命令の可否・解雇回避義務の遵守方法・正社員や有期労働者等との均衡待遇など、多くの法的論点を含みます。
制度の趣旨に沿って適切に運用しなければ、思わぬ紛争や訴訟リスクにつながるおそれがあります。特に、制度導入時の労働条件の定め方や、トラブル発生時の初動対応は、その後の法的評価を大きく左右します。
自社の制度設計や個別対応への対応が適法かどうかに不安がある場合には、早期に弁護士などの専門家に相談することが重要です。
直法律事務所においても、ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
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