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変形労働時間制とは?導入から運用まで弁護士がわかりやすく解説

Q
サービス業を営んでいますが、店舗や部署によって繁閑差が大きく、繁忙期の残業代負担が課題になっています。そのため、変形労働時間制の導入を検討していますが、制度の仕組みや適切な設計方法が分かりません。導入が無効となり未払い残業代を請求されるリスクもあると聞きます。

自社に適した制度設計や、就業規則・労使協定への記載方法など、法的に有効な運用のポイントを教えてください。


A
変形労働時間制は、業務の繁閑に応じて所定労働時間を調整できる制度で、「1か月単位」「1年単位」「1週間単位」の3種類があります。

一方で、制度設計や運用を誤ると無効となり、多額の残業代を請求されるリスクがあります。

1か月単位の場合、就業規則または労使協定で導入します。また、1年単位および1週間単位の場合には、労使協定の締結が必要で、締結した労使協定は労働基準監督へ届け出なければなりません。


澤田直彦

監修
弁護士法人直法律事務所 代表弁護士 澤田直彦

2009年 弁護士登録
2018年 弁護士法人直法律事務所 開業

IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。

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変形労働時間制とは何か

「変形労働時間制」とは、一定期間の平均労働時間が法定労働時間内に収まることを条件に、日や週ごとの労働時間を柔軟に設定できる制度です。

労働基準法では、法定労働時間を「1日8時間・1週間40時間以内」と定めており、企業はこの範囲内で所定労働時間を設定するのが原則です。

もっとも、変形労働時間制を導入すれば、一定期間の平均が法定労働時間以内である限り、特定の日や週について法定労働時間を超える所定労働時間を設定できます。

業務の繁閑や交代制勤務に合わせて労働時間を調整できるため、業務効率の向上や不要な残業代の削減、また従業員のワークライフバランスの向上などが期待できます。

導入可能な変形期間は、以下の3種類のみとなっています。

種類 対象期間 特徴
1か月単位 1か月以内 シフト制の職場などで広く利用される
1年単位 1か月超1年以内 季節ごとの繁忙期・閑散期がある業種向け
1週間単位 1週間 小規模な小売・飲食・旅館業などに限定

法定労働時間を柔軟に配分できる制度

変形労働時間制では、期間平均で法定労働時間内に収まっていれば、特定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定できます。

通常は、1日8時間または週40時間を超えて働いた時間は「時間外労働」とされます。しかし、変形労働時間制では、あらかじめ適法に労働時間を設定していれば、特定の日や週で法定労働時間を超えても、直ちに時間外労働とはなりません。

例えば、1日10時間勤務の日があっても、別の日を6時間勤務とするなどして、期間平均で週40時間以内に収まっていれば、超過した2時間分については時間外労働とはならず、残業代は発生しません。

業務に繁忙期と閑散期がある企業では、繁忙期に労働時間を長く、閑散期に短く配分できるため、業務量に応じた効率的な働き方を実現できます。

3種類の変形労働時間制と対象期間

変形労働時間制は、業務の繁閑に応じて「1か月単位」「1年単位」「1週間単位」の3種類から選択します。

1か月単位

1か月単位の変形労働時間制は、最も一般的に採用されている期間です。

毎月、月初や月末など一定の時期に業務が集中する経理部門や総務部門のほか、夜勤がある医療・福祉業界などに適しています。

1年単位

1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の期間で労働時間を調整する制度です。

春に繁忙期を迎えるリサイクルショップや、冬に利用者が集中するスキー場など、年間を通じて繁忙期と閑散期が明確な業種に適しています。

1週間単位

1週間単位の変形労働時間制は、曜日ごとの業務量の差が大きい業種を対象とする制度です。

例えば、火曜日から木曜日までを休日とし、金曜日から月曜日までを1日10時間勤務とするような働き方も可能になります。

もっとも、この制度を導入できるのは、従業員数30人未満の小売業・飲食業・旅館業に限られています。

1か月単位の変形労働時間制の特徴と留意点

「1か月単位の変形労働時間制」とは、1か月以内の期間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間以内となるように労働日と各日の労働時間を設定する制度です。特例措置対象事業場では、週44時間以内とされます。

この制度を導入すると、特定の日に8時間・特定の週に40時間を超える所定労働時間を設定できます(労働基準法第32条の2)。

1か月単位の変形労働時間制は、変形労働時間制のなかで最も利用企業の割合が高い制度です。一方、導入には就業規則や労使協定にて具体的なルールを定める必要があり、その手続きは厳格なものとなっています。

また、シフト表の作成や時間外労働に対する残業代の計算も複雑になります。

導入に必要な労使協定または就業規則の整備

1か月単位の変形労働時間制を導入するには、事業場の過半数代表との労使協定の締結、または就業規則その他これに準ずるものに定めを置く必要があります。

いずれの場合も、以下の事項を定めなければなりません。

  1. 対象労働者の範囲
  2. 対象となる期間と起算日
  3. 労働日と各労働日の所定労働時間

労使協定の締結による場合は、上記に加えて、3年を目安とする有効期間を定め、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。この届出は変形労働時間制の有効要件ではないものの、違反すると罰則の対象となります。

ただし、労使協定だけでは、従業員に変形労働時間制によって勤務する民事上の義務を履行させることはできません。そのため、労働協約・就業規則・労働契約などの契約上の根拠が必要となります。

実務上は、手続きが簡便で運用しやすいことから、就業規則に定めるケースが多く見られます。就業規則には、「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」を定める必要があります(労働基準法第89条)。

シフト表による労働時間の特定と注意点

就業規則などで具体的な労働時間を特定できない場合は、シフト表(勤務割表)を用いて、変形期間中の労働日と各労働日の所定労働時間を特定することができ、年間カレンダーや月間シフト表による方法などがあります。

昭和63年に発された通達では、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合、就業規則に以下の事項を定めたうえで、変形期間の開始前までに各日の勤務割を具体的に特定すれば足りるとされています。

  • 各直勤務の始業時刻と終業時刻
  • 各直勤務の組合せの考え方
  • 勤務割表の作成手続
  • 勤務割表の周知方法

後年には、これら各項目のすべてを就業規則に定めることは必須ではないとする裁判例も出ています。

もっとも、リスクを減らすため、想定され得る勤務パターンの始業・終業時刻を、漏れなく就業規則や労使協定に記載することが実務上推奨されます。

時間外労働の計算方法と割増賃金

1か月単位の変形労働時間制では、法定時間外労働に該当する時間を、日・週・変形期間の3段階で確認する必要があります。

法定時間外労働に該当する時間は、一般的には以下のとおりです。

  1. 所定労働時間を8時間超えに設定した日は、その所定労働時間を超えて働かせた時間。それ以外の日は、8時間を超えて働かせた時間。
  2. (1を除き)所定労働時間を40時間超えに設定した週は、その所定労働時間を超えて働かせた時間。それ以外の週は、40時間を超えて働かせた時間。
  3. (1および2を除き)変形期間における法定労働時間の総枠を超えて働かせた時間

これらの法定時間外労働には残業代が発生し、割増率は通常の労働契約と同じです。

所定労働時間と法定労働時間の定義と関係を正しく理解し、適切に割増賃金を支払うことが重要となります。

1年単位の変形労働時間制の特徴と留意点

「1年単位の変形労働時間制」とは、1か月を超え1年以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間を40時間以内とすることで、繁忙期と閑散期に応じた労働時間の配分を可能にする制度です。

労使協定で定めた対象期間について、平均して1週間あたり40時間以内(特例措置対象事業場も同じ)となるよう設定すれば、特定の日に1日8時間、特定の週に週40時間を超えて労働させることができます。

基本的な仕組みは、1か月単位の変形労働時間制と同じですが、1年単位では労使協定の締結が必須となります。

また、業務が繁忙となる時期を「特定期間」として定めることができますが、この特定期間中の連続労働日数は6日までに制限されます。さらに、対象期間中に特定期間を変更することはできません。

長期間の業務繁閑に対応する仕組み

1年単位の変形労働時間制は、季節ごとに繁忙期と閑散期がある事業場に適した制度です。

対象期間全体で平均して週40時間以内となるよう、繁忙期と閑散期を組み合わせて計画的に労働時間を配分する必要があります。

また、対象期間を1か月以上の期間ごとに区分し、変形期間が3か月を超える場合には、労働日数の上限が「280日 ×(対象期間の暦日数÷365日)」となります。

一方、変形期間が3か月以内の場合には、週1日の休日を確保しなければならないなどの制約があります。

導入手続きにおける労使協定の必須性

1年単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要になります。

労使協定では、以下の事項を定めなければなりません。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 対象期間と起算日
  • 特定期間
  • 対象期間中のすべての労働日および各労働日の労働時間
  • 労使協定の有効期間


なお、対象期間を1か月以上ごとに区分する場合は、以下の方法も認められています。

  • 最初の期間 : 労働日および各労働日の労働時間を定める
  • その後の期間 : 期間ごとの労働日数および総労働時間を定める

この場合、各期間の初日の30日以上前までに、当該期間の労働日および各労働日の労働時間について、過半数労働組合または労働者の過半数代表者の同意を得て、書面で定める必要があります。

また、労使協定の届出は、変形労働時間制の有効要件(効力発生要件)ではありませんが、届出を怠ると罰則の対象となります。そのため、有効期間を明らかにしたうえで、所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。有効期間は、一般的には1年程度、長くても3年程度で定められることが多いです。

なお、労使協定だけでは従業員に勤務義務を負わせることはできないため、就業規則などに契約上の根拠となる定めを置く必要があります。

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変形労働時間制の実務で発生しやすいトラブル

変形労働時間制は、制度設計や運用を誤ると無効となり、多額の未払い残業代を請求されるリスクがあります。

特に、就業規則に定めのない勤務シフトの運用や、所定労働時間と時間外労働を適切に区別していないシフト管理は、制度が無効と判断される原因となりやすいため注意が必要です。

また、制度が無効となった場合は、過去に遡って割増賃金の支払義務が生じることもあります。この点、割増部分のみを支払えば足りるのか、それとも通常賃金も含めた全額を支払うべきかについては、裁判例でも判断が分かれています。

就業規則などにない勤務シフトの利用リスク

就業規則などに定めのない勤務シフトを運用すると、変形労働時間制が無効となるおそれがあります。

就業規則によって変形労働時間制を導入する場合は、あらかじめ各日・各週の労働時間や始業時刻・終業時刻を定める必要があるとするのが通説・判例です。

事前にすべてを定めることが難しい場合には、就業規則に「各直勤務の始業時刻・終業時刻」「各直勤務の組合せの考え方」「勤務割表の作成手続および周知方法」などを定めたうえで、各日の勤務割を変形期間の開始前までにシフト表などで具体的に特定する必要があります。

そのため、就業規則には想定される勤務シフトを網羅的に記載しておくことが重要です。記載のない勤務シフトを運用すると、変形労働時間制が無効と判断されるおそれがあります。

実務上は、想定される勤務パターンをすべて記載するとともに、「極めて例外的な場合には、記載のない勤務パターンを使用することがある」といった例外規定を設けるといった対策が必要になります。

時間外労働と所定労働時間の区別

所定労働時間と時間外労働を明確に区別して管理しなければ、変形労働時間制が無効となるおそれがあります。

変形労働時間制の適用対象者に時間外労働や休日労働を命じる場合は、所定労働時間を明確にしたうえで、時間外労働や休日労働と区別して管理する必要があります。

特に、シフト表を作成する際には、所定労働時間と時間外労働(残業)を明確に区別して記載しなければなりません。これらを混同すると、所定労働時間が特定されていない、あるいは法定労働時間を超える所定労働時間を設定していると判断され、変形労働時間制の適用が否定される場合があります。

実際に、1か月単位の変形労働時間制を採用していた会社で、シフト表に時間外労働の時間まで書き込まれていたため、所定労働時間と時間外労働・休日労働を区別がされていないとして、1週間平均40時間を超える所定労働時間を設定していたと評価され、変形労働時間制の適用が否定された裁判例があります。

実務上は、日または週ごとの平均労働時間を法定労働時間内に収めることに加え、所定労働時間と時間外労働を明確に区別して表示することが重要です。

制度が無効とされた場合の賃金精算

変形労働時間制が無効と判断されると、過去3年間分の未払い残業代を請求されるおそれがあります。

例えば、変形労働時間制により所定労働時間を10時間と定めていた日について、制度が無効と判断された場合には、8時間を超える2時間分が時間外労働となり、割増賃金が発生します。

この場合、通常賃金はすでに支払われているものとして割増賃金のみ(通常賃金の0.25倍)を支払えば足りるのか、それと通常賃金を含めた1.25倍を支払う必要があるのかについては、裁判例でも判断が分かれています。

企業としては、通常賃金文は支払い済であるとして、割増部分のみを支払えば足りるという0.25倍説を主張することになりますが、前提のリスク管理として制度が無効と判断されないよう、適正な制度設計と運用を徹底することが重要です。

弁護士に相談すべきタイミング

変形労働時間制は、導入時だけでなく、運用中に問題が生じた段階でも早めに弁護士へ相談することが重要です。

特に、以下のような場面では、制度設計や運用方法について弁護士の助言を受けることをおすすめします。

変形労働時間制の新規導入・見直しを検討しているとき

変形労働時間制は、導入時の制度設計がその後の運用を左右します。

新たに制度を導入する場合や見直しを検討している場合は、「本当に導入が必要か」「どの変形期間を採用すべきか」「対象部署や従業員・所定労働時間・就業規則の内容」などを慎重に検討する必要があります。

一度設定した労働日や所定労働時間は、後から変更することが難しく、使用者の都合による変更も認められていません。

また、事案によっては、裁量労働制や時短勤務制度などの他の制度が適している場合もあります。そのため、自社の実情を踏まえて最適な制度を選択できるよう、導入前の段階で弁護士へ相談することをおすすめします。

未払い残業代請求のリスクを指摘されたとき

従業員や労働基準監督署から未払い残業代を指摘された場合は、早急な対応が必要です。

変形労働時間制の制度設計や運用に問題がある場合、従業員から未払い残業代を請求される可能性があります。また、労働基準監督署から残業代の計算方法について指摘を受けることもあります。

対応を誤ると企業の社会的信用にも影響を及ぼすため、早い段階で弁護士に相談し、適切な対応を検討することが重要です。

変形期間中に入退社があったとき

変形期間中に入社・退社する従業員がいる場合は、残業代の計算やシフト管理が煩雑になるため、注意が必要です。

例えば、1年単位の変形労働時間制では、対象期間の途中で退職・採用・配置転換があった場合、実際に労働した期間を平均して1週間あたり40時間を超えた部分について、割増賃金を支払う必要があります。

また、1か月単位の変形労働時間制では、入社または退社する月のみ制度を適用しないという方法も考えられます。月の途中で入社・退社する場合は、月末までの残日数に応じて按分した法定労働時間(残日数÷7×40)に収まるようシフトを組むなどの工夫が必要です。

このように、変形期間中の入退社には複雑な管理が伴うため、適切に対応できるよう弁護士に相談することをおすすめします。

よくある質問(Q&A)

Frequently Asked Questions  Q and A Icons on Wooden Block for Website and Social Media

変形労働時間制について、よく寄せられる質問をQ&A形式で解説します。

Q1. 就業規則に始業・終業時刻を全て書く必要はありますか?

原則として必要です。

労働基準法では、始業時刻および終業時刻は就業規則の必要記載事項とされており、変形労働時間制でも例外ではありません。

もっとも、事前にすべてを定めることが難しい場合は、勤務パターンや勤務割表の作成手続などを就業規則に定めたうえで、変形期間の開始前までにシフト表などで各日の勤務を具体的に特定する方法も認められています。

ただし、就業規則に定めのない勤務パターンでを運用すると、変形労働時間制が無効になるリスクがあります。

Q2. 変形労働時間制でも残業代は発生しますか?

発生します。

変形労働時間制でも、法定時間外労働となる時間については、通常どおり残業代を支払う必要があります。

1か月単位・1年単位の変形労働時間制では、「1日」「1週間」「変形期間」の3段階で時間外労働を判定します。1週間単位の変形労働時間制では、「1日」「1週間」の2段階で判定します。 割増率は、通常の労働時間制度と同じです。

Q3. アルバイトやパートにも変形労働時間制は適用できますか?

従業員である以上は、パート・アルバイトに対しても適用できます。

また、賃金や休憩などの労働条件についても、労働基準法に従って取り扱う必要があります。

変形労働時間制に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで

変形労働時間制は、繁閑に応じた柔軟な働き方を実現できる制度である一方、制度設計や運用を誤ると、未払い残業代請求や制度の無効といったリスクにつながる可能性があります。

また、従業員に制度の内容が十分に理解されていないと、「時間外労働が常態化しているにもかかわらず残業代が支払われていない」といった誤解を招き、労働意欲の低下や労使間のトラブルにつながりかねません。

自社の制度設計や運用方法が適法かどうかに不安がある場合には、導入や見直しを検討する段階で早めに弁護士などの専門家へ相談することが重要です。

直法律事務所においても、ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。

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