澤田直彦
監修弁護士 : 澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、「株主間契約とは?スタートアップが知るべき経営権・IPO努力義務・創業者規制」について、詳しくご説明します。
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株主間契約の基本的な役割と主な規定内容
株主間契約とは、スタートアップが資金調達を行う際に作成する3点セット(「投資契約」「株主間契約」「発行要項」)の一つであり、投資実行後の会社運営や株主間の関係を中長期的に規律する重要な契約です。
株主間契約で一般的に規定される事項は多岐にわたりますが、大きく以下の3つのカテゴリに分類できます。
- 経営・運営に関する事項
取締役指名権・事前承認など、投資家が会社経営にどのように関与するかを定めるルール - 株式の取扱いに関する事項
先買権・共同売却権など、将来の株式譲渡やエグジット時の調整に関するルール - その他の事項
新株引受権・契約の効力や存続期間・雑則など、契約全体を支える基盤的なルール
株主間契約は、投資家にとっては投資の回収や経営監視のためのツールとなり、会社にとっては株主とのルールブックとして機能するものです。
会社運営や株式処分に関するルールを定める目的
株主間契約の目的は、投資実行後の会社運営や株主間の関係について、あらかじめルールを定めておくことです。スタートアップは成長スピードが速く、将来の組織体制や株主構成が大きく変わる可能性があります。そのため、事後的なトラブルを防ぐ観点からも、事前の合意が重要になります。
株主間契約は、投資契約とは役割が異なります。
投資契約は、出資条件・前提条件・表明保証など、主に「投資実行まで」を規律する契約です。
一方、株主間契約は、「投資実行後」も継続的に効力を持ち、会社運営のルールや株式の処分方法といった長期的な関係を規律する契約として機能します。
投資家の権利確保と経営の規律を守る機能
株主間契約は、投資家にとっては会社経営への関与(モニタリング)や投資回収(エグジット)を確実にするための手段として機能します。スタートアップ投資は不確実性が高く、出資後に経営方針や事業内容が大きく変わる可能性もあります。そのため、投資家としては一定の関与や情報取得の仕組みを確保しておく必要性が高いのです。
一方で、会社や創業者にとっては、経営の規律を維持しつつ、投資家との協調関係を築くための基盤となります。経営判断のプロセスや情報共有のルールを明確にすることで、意思決定の透明性が高まり、創業者の独断や場当たり的な判断を防ぐ効果が期待できます。これは、社内外からの信頼性を高め、将来の追加資金調達やIPOを見据えた経営の規律づくりにもつながります。
経営への関与を定める重要な権利
スタートアップ投資では、資金提供だけでなく、投資家が経営状況を把握することも重視されます。必要に応じて助言や監督を行うため、株主間契約では一定の関与権限が設けられるのが一般的です。
代表的な権利として挙げられるのが、「取締役指名権(ボードシート)」と「オブザーバ権」です。いずれも取締役会などの重要な会議体に関与するための権利ですが、法的な位置づけや影響の度合いは大きく異なります。
まずは、両者の違いを整理しておきましょう。
| 権利 | 概要 | 権限 ・ 役割 |
|---|---|---|
| 取締役指名権 | 投資家が指名する者を取締役として選任させる権利 | 取締役会の決議に参加し、議決権を持つ。 経営判断に直接関与する。 |
| オブザーバ権 | 投資家が指名する者を会議に出席させる権利 | 議決権はないが、会議で意見を述べたり情報を得たりできる。 |
投資家が経営を監視・支援するために、取締役指名権やオブザーバ権は重要です。しかし、会社側にとっては経営の自由度に影響するため、慎重な検討が必要です。
投資家が取締役を送り込む「取締役指名権」
取締役指名権(ボードシート)とは、投資家が指名する人物を、会社の取締役として選任させる権利です。投資家が経営に直接関与するための代表的な手段といえます。
取締役指名権が定められると、会社や創業者は、株主総会での選任決議など、指名された人物が取締役に就任するために必要な手続きを行う義務を負います。その結果、投資家が選んだ人物が、取締役会の一員として経営判断に参加することになります。
ただし、投資家が指名した取締役であっても、会社に対して善管注意義務等を負うため、会社の利益を優先する義務があります。したがって、必ずしも投資家の意向通りに動けるわけではありません。
取締役指名権には、会社側にとってのメリットもあります。投資家が豊富な経営経験やIPOの知見を持つ場合、取締役として参画することで、経営ノウハウの提供を受けられる可能性があります。
会議に参加して状況を把握する「オブザーバ権」
取締役指名権を持たない場合、あるいは取締役指名権と併用する形で、株主間契約にオブザーバ権が定められることがあります。オブザーバ権とは、投資家が指名するオブザーバを、取締役会に出席させる権利です。
オブザーバは取締役ではないため、取締役会の決議に参加したり、議決権を行使したりすることはできません。しかし、重要な会議に出席して、意見を述べたり情報を得たりすることができます。
投資家にとってオブザーバは、情報収集や助言の機会として機能します。オブザーバ権は取締役指名権よりも負担が軽いため、投資家がモニタリングを目的として確保するケースが多く見られます。
重要事項の決定における投資家の関与
株主間契約では、株主総会・取締役会といった会社法上の機関での決議とは別に、「事前承認」「事前協議」「事前通知・事後通知」といった制度が設けられることがあります。
これらの制度は、実質的に投資家に一定のコントロール権を与える仕組みです。
この章では、「事前承認」「事前協議」「事前通知・事後通知」の対象となる事項について、例を挙げて説明します。投資家と会社のバランス調整が交渉の肝になることを理解しておきましょう。
会社の意思決定に対し拒否権を持つ事前承認
事前承認とは、会社が特定の重要事項を決定する際に、事前に投資家による承認を必要とするルールです。株主総会や取締役会で決議が成立していても、事前承認が得られなければ実行できません。契約上、投資家に拒否権を与える仕組みです。
事前承認の対象となるのは、会社の根幹に関わる重要事項が中心です。例えば、定款の変更・M&A・多額の借入・株式や新株予約権の発行などが挙げられます。これらは、投資判断の前提を大きく左右するため、投資家が強く関与したい分野です。
事前承認は、投資家の安心感を高める一方で、会社の機動性を低下させる可能性があります。条項を受け入れるかどうかだけでなく、対象範囲と付与先をどう設計するか、慎重に検討する必要があります。
実務上は、すべての投資家に一律の事前承認権を与えるのではなく、出資額が大きいリード投資家のみに認めたり、特定の事項に限って権限を付与したりする設計も多く見られます。投資家間のバランスをどう取るかも、重要な交渉ポイントです。
実行前に意見交換を求める事前協議 ・ 通知
事前協議は、事前承認よりも緩やかな関与となります。事前協議について定められた場合、会社は実行前に投資家と協議を行う必要がありますが、投資家の承認を得ることまでは求められません。協議がまとまらなくても最終的な判断は会社が行うことができるため、経営の機動性を保ちやすいという特徴があります。
さらに関与の度合いが軽い制度として、事前通知があります。事前通知の場合、会社は実行前に投資家へ通知を行えば足ります。意見交換や同意を前提としないため、実務上は報告に近い位置づけとなります。事後通知の場合には、実行後に報告すれば足りるため、さらに機動性への干渉は小さいと言えるでしょう。
すべての事項を事前承認の対象とすると、経営が停滞するおそれがあります。重要度に応じて、承認・協議・通知を使い分けるのが合理的です。
スタートアップのゴール設定と経営監視
多くのスタートアップ投資では、投資家はIPOやM&Aによるキャピタルゲインを目的としています。そのため、株主間契約では、会社のゴールを明確にし、その進捗を確認するためのモニタリング条項が定められるのが一般的です。
代表的なものが、IPO努力義務や定期的な情報提供に関する条項です。
投資家が求めるIPO努力義務とペナルティ
株主間契約では、一定の時期までにIPOを目指すことを内容とする「IPO努力義務」が定められるのが一般的です。「努力義務」は法的拘束力が弱いとされているため、目標時期までにIPOが実現しなかったとしても、それだけで契約違反になるとは限りません。
ただし、IPO申請前の最後のラウンドであるプレIPOラウンドなどでは、IPOが可能な状況にあるにもかかわらず上場を行わない場合に、契約違反とみなす条項が設けられることがあります。その結果、投資家が保有株式の買取を請求できるプット・オプションなどのような具体的なペナルティが発動するよう規定されているケースも見られます。
IPO努力義務の規定は、「合理的な理由なくIPOを控える」といったような極端なケースをカバーするために機能しているものと捉えられます。
定期的な財務諸表提出とモニタリング
株主間契約では、投資家が会社の状況をモニタリングするために、定期的な情報提供義務が定められることが多くなっています。
具体的には、決算書・試算表・事業計画書などの提出が求められます。会計帳簿や財務諸表など一定の書類については会社法上の閲覧請求権がありますが、株主間契約では請求手続を経ることなく、より広範かつ詳細な情報提供が求められるのが一般的です。
情報提供の頻度は、四半期や年次に限らず、月次での提出が要求されるケースもあります。シード期のスタートアップでは月次決算が未整備な場合もあるため、実態に合わない水準を無理に約束することは避けるべきです。
実務上の負担も生じるため、提出内容や提出頻度は現実的に可能な範囲で合意することが重要です。
創業者のコミットメントと株式の取扱い
スタートアップ投資は「人(創業者)」への投資という側面が強くなっています。そのため、創業者のスタートアップへのコミットメントを確保することが重要になります。
この章では、「辞任禁止条項」「競合避止義務」「創業株主間契約」といった具体的な条項を取り上げ、創業者が経営から離脱することを防ぐための仕組みや、創業者間でトラブルが起きた際の株式取扱いのルールについて解説します。
経営からの離脱を防ぐ「辞任禁止条項」と「競業避止義務」
株主間契約では、創業者が投資家の承諾なく経営から離脱することを防ぐため、辞任を制限する条項が設けられることがあります。これは、創業者の突然の退任が、事業の継続や企業価値に大きな影響を与えるためです。
スタートアップでは、創業者個人の知見や人脈が、事業の中核を担っているケースが少なくありません。そのため、創業者が一方的に辞任できる状態は、投資家にとって大きなリスクとなります。辞任禁止条項は、こうしたリスクを抑えるための仕組みです。
あわせて規定されることが多いのが、競業避止義務です。これは、創業者が在任中や退任後に、会社と競合する事業に関与することを制限するものです。創業者が競合に関与すれば、会社の価値が損なわれるおそれがあります。
なお、競業避止義務の期間や範囲が過度に広い場合、職業選択の自由との関係で無効と判断されるリスクがあります。実務上は、退任後1~3年程度に限定されることが多くなっています。
共同創業者間のトラブルを防ぐ「創業株主間契約」
スタートアップでは、投資家との契約とは別に、共同創業者間での合意が重要になる場面があります。特に問題になりやすいのが、創業者の一人が途中で離脱した場合の対応です。このようなリスクに備えるため、創業者同士で創業株主間契約を締結することがあります。
創業株主間契約では、創業者が退任した場合の株式の取扱いをあらかじめ定めます。代表的なものが、残った創業者や会社が、その株式を買い取れるようにする規定です。これにより、退任した創業者が大株主として残る事態を防ぎます。
あわせて用いられることが多いのが、ベスティングの考え方です。これは、在籍期間や貢献度に応じて、退任する創業者が譲渡義務を負う株式を減らすことを内容とする仕組みです。短期間で離脱した創業者には、株式が0又はわずかしか残らないとする一方で、長期間にわたり貢献した創業者には多くの株式を残すことができる設計とすることで、バランスを取ります。
しかし、創業者が退任した後も多くの株式を保有し続けると、その後の資金調達やM&Aに支障が生じるおそれがあります。投資家から見ても、意思決定に関与しない人物が大株主である状態は、好ましくありません。
将来起こり得る事態に備え、早い段階でルールを決めておくことが、結果として事業の安定につながります。
よくある質問(Q&A)

ここからは、株主間契約に関するよくある質問に回答し、注意点を解説します。
Q1. 努力義務規定に法的拘束力はありますか?
契約上の努力義務は、結果が出なかったことだけで直ちに違反とはならないのが一般的です。株主間契約でIPO努力義務が定められていても、目標時期までに上場できなかったというだけで、責任を問われるとは限りません。
ただし、契約内容によっては、IPOの要件を満たしているのに合理的な理由なくIPOをしないような場合に、契約違反とされる可能性があります。努力義務であっても、運用やペナルティ条項の有無を確認することが重要です。
Q2. 取締役指名権はどの投資家に与えられますか?
取締役指名権は、すべての投資家に一律に与えられるものではありません。実務上は、出資額が大きい投資家に優先的に付与されるケースが多く見られます。
複数の投資家がいる場合には、共同で1名分の指名権を持つ設計がされることもあります。誰に、何名分を認めるかは、交渉によって調整されるポイントです。
Q3. 月次決算ができていなくても契約できますか?
月次決算が未整備であっても、株主間契約を締結することは可能です。実際、シードステージでは、月次試算表が用意できていない会社も少なくありません。
実態に合わない約束をしても意味がないため、提出資料の内容や頻度は、現実的に対応できる範囲を示して交渉し、合意することが望まれます。
Q4. 創業者が辞めた場合の株式はどうなりますか?
創業者が退任した場合の株式の取扱いは、創業株主間契約で定められます。多くの場合、創業者の一人が辞めたときに、他の創業者がその株式を買い取れるようにする条項が設けられます。
ベスティングを採用している場合、在籍期間や貢献度に応じて他の創業者が買い取ることができる株式数が制限されることもあります。創業者が退任後も株式を持ち続ける場合、会社への影響は大きいため、事前に内容を十分理解しておくことが重要です。
投資契約 ・ 資金調達に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
株主間契約は、スタートアップの成長を支える重要な契約です。一方で、取締役指名権や事前承認、IPO努力義務、創業者規制などは、内容次第で経営の自由度や将来の選択肢に大きな影響を与えます。
株主間契約を締結する際には、自社の成長段階や事業計画と照らし合わせ、どこまで認めるのかを整理することが大切です。そのためには、実務上の相場観や将来を見据えた法的視点が欠かせません。資金調達や株主間契約に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談して検討しましょう。
直法律事務所においても、ご相談は随時受け付けておりますので、お困りの際はぜひお気軽にお問い合わせください。
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