澤田直彦
監修弁護士:澤田直彦
弁護士法人 直法律事務所
代表弁護士
IPO弁護士として、ベンチャースタートアップ企業のIPO実績や社外役員経験等をもとに、永田町にて弁護士法人を設立・運営しています。
本記事では、
「位置情報を活用するときの注意点!【個人情報・プライバシー保護】」
について、詳しく解説します。
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はじめに
まず、個人情報とプライバシーについて、おさらいをしましょう。
個人情報とは
第2条
「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することが できるもの
二 個人識別符号が含まれるもの
つまり、個人情報とは、個人に関連する情報、かつ、個人を特定できる情報のことです。例えば、名前、住所、電話番号ですね。これらは、すぐにこの情報で「個人を特定できる」ため、個人情報にあたります。
しかし、苗字だけ、例えば「佐々木」だけですと、佐々木さんはたくさんいるため、これだけでは「個人を特定できる」とはいえません。でも、この「佐々木」に、「東京都新宿区」や「○丁目▲番地」といった住んでいるエリアの情報が追加されると「あの佐々木さん」というように個人の特定ができるようになります。この場合には、個人情報となりますので、注意が必要です。
※なお、似たような言葉に「個人関連情報」がありますが、こちらは、令和4年4月1日施行の改正個人情報保護法で新たに設けられたもので、「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの」をいいます。
プライバシーとは
一方で、「プライバシー」となると、少し難しいですね。
これは、個人の事情を他人に知られない、干渉を受けない「権利」のことをいいます。個人情報は情報そのものですが、プライバシーは自分の情報を自らコントロールできる権利です。
位置情報とは
「位置情報」とは、人工衛星の信号から座標を計測するGPS(全地球測位システム)や携帯電話・Wi-Fi端末の基地局情報などから割り出される、利用者の現在地を示す情報のことをいいます。スマートフォンでは主に、現在地情報と関連して、地図アプリやフードデリバリーアプリなどの各種サービスを利用するために用いられるデータのひとつです。近年は、かなり身近なものになりつつあります。
GPSの位置情報などは、通常、設定によってオンオフ変えることができます。
では、位置情報の設定をオンにすることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
まず考えられるのが、位置情報をオンにすることで、各種アプリやサービスの利便性が大きく向上する点です。地図アプリや乗換案内サービスを利用する際にオンにしていれば、現在地から目的地までの最短ルートを割り出してくれます。
他にも、スマートフォンを紛失しても、その端末が今どこにあるのかを教えてくれる機能で、失くした場所や現在地の予測ができます。
さらに、近隣のお店で使える割引クーポンのお知らせやフードデリバリーの利用に使うことができます。以前流行したゲームでは、実際の道とゲームの道がリンクしていて、歩く距離次第でアイテムをゲットできたり、強くなったりするものもありました。
位置情報は、現時点を含む特定時点の個人の位置を特定できる情報なので、プライバシー侵害の危険性が高いものです。
また、詳しくは後述しますが、位置情報の中には、通信の秘密に関わる情報として厳格に規制がされているものもあります。
さらに、位置情報が、個人情報に該当する場合もあります。
前述のとおり、個人情報は特定の個人を識別できる情報(法2条1項1号)のことをいうので、位置情報の精度が高い場合には、位置情報だけで個人情報に該当する場合があるのです。
GPSの精度は、かつては数mから10m以上の誤差がありましたが、近年では、数センチ程度の誤差にまで精度を上げることも可能と言われています(内閣府宇宙開発戦略推進事務局ウェブサイト「みちびき(準天頂衛星システム)」参照)。
このような精度の高い一定時点の位置情報を個人に関する情報を紐づけることが容易な場合、個人情報に該当する可能性が高まります。
まず、位置情報だけではなく、氏名や属性に関する情報(会社員、男性、30歳等)が一緒になっていれば、その人だと分かってしまうので個人の特定が可能です。会社員、男性、30歳だけでは不特定多数の人が該当しますが、「●●駅南口にいる会社員、男性、30歳」となると該当人数はかなり絞られ、よほど混雑している場所にいるのでない限り、個人を特定し得るので、個人情報にあたる可能性があるのです。
さらに、位置情報はある程度継続的に取得され続けることが一般的です。それにより、情報を取得している事業者がその人物の氏名などを把握していない場合でも、特定の個人を識別できる可能性が高く、個人情報の定義を満たすと考えられます。
総務省の「位置情報プライバシーレポート」は、「その場所に所在することそれ自体によって、個人の趣味嗜好、さらには思想信条まで容易に推測できる場合がある。また、一定期間追跡すれば、個人の行動状況まで詳細に把握することも可能となることから、基地局に係る位置情報と比べ、高いプライバシー性を有する」としています。つまり、ある宗教の集会が行われている場所に毎週火曜日の夜に行っているとしたら、その人はその宗教の信者であるという強い推測が働きますね。
なお、位置データについて、EU一般データ保護規則(GDPR)は、次の通り、個人データの中でも識別子として位置付けています。
「『個人データ』とは、識別された自然人又は識別可能な自然人(『データ主体』)に関する情報を意味する。識別可能な自然人とは、特に、氏名、識別番号、位置データ、オンライン識別子のような識別子を参照することによって、(中略)直接的又は間接的に、識別されうる者をいう。」
位置情報を取得するときのポイント
前述の通り、位置情報はプライバシー侵害のリスクがあり、また、個人情報や通信の秘密に該当する場合もあり、それぞれ取得に必要な要件が異なります。
詳しくは後述しますが、簡単にポイントを挙げます。
- 位置情報が「個人情報」に該当する場合、個人情報保護法が規定に従いましょう。 位置情報を加工して「匿名加工情報」を作成する場合は、規則34条が定める基準及び認定個人情報保護団体の個人情報保護指針に従って作成しましょう。
- 「通信の秘密」に係る位置情報を取得・利用・第三者提供する場合、正当業務行為等の違法性阻却事由がある場合を除き、通信当事者の有効な同意を取得しましょう。
- 法律上明確に規律されていない位置情報であっても、プライバシーの観点から保護の必要性が高いため、ガイドライン等を参考にして適切に取り扱うようにしましょう。
位置情報の特性
今回の設問を、2つに分けてみていきましょう。
前述のとおり、位置情報は、個人の位置を特定できる情報であり、プライバシーとしての要保護性が高く、利活用にあたっても特別な注意が必要です。
今回、入手する情報が
- GPS位置情報
- Wi-Fi位置情報
- 基地局位置情報
であるかによって、注意すべきことが異なります。
特に、今回はスマホから取得ということですが、このような通信端末により取得される位置情報の特徴として次のような点が挙げられます。
- 個人特定性が高い、
- 他の情報との結びつけが容易、
- 通信の秘密(電気通信事業法4条)により保護されるものがある
位置情報を利用したサービスを検討する場合、どのような位置情報を利用するかによって、注意すべき点が異なります。
(1)基地局に係る位置情報
基地局による通信を利用する全ての端末から、常時取得することができます。通信の秘密により保護されるものが含まれます。
(2)GPS位置情報
GPS位置情報は、精度が非常に高く、それだけで個人情報に該当する場合があります。 スマートフォンGPS機能の利用には、GPS機能をオンにしておく必要があり、通信の前提となるものではないため、通信の秘密には該当しません。なお、室内では精度が落ちてしまうことも多いです。 GPSについては、6で詳しくお話します。
(3)Wi-Fi位置情報
Wi-Fiアクセスポイントの範囲を把握でき、精度が高いです。利用には、Wi-Fi機能をオンにして、接続していることが必要です。複数台の設置により、上下の動きもわかります。室内でも精度は変わりません。通信の秘密により保護されるものが含まれます。通信の秘密については、後述します。
【位置情報の概要による特徴】
図表拡大
※MACアドレス(Media Access Control address)は、ネットワークカード(パソコンやルータなどのネットワーク機器)に付いている番号をいう。
(位置情報プライバシーレポートの図表2-3より番号、GPSの精度、個人情報への該当性等について筆者一部改訂、利用者の認識については省略)
位置情報に関する主要な注意点としては、次のとおりです。
- 法律の適用関係:位置情報の種類に応じた法規制に従いましょう。比較的法改正が多い分野ですので、改正状況を随時確認しましょう。
- 位置情報の取得・利用のためには、利用者の適切な同意を取得しましょう。
- 位置情報の取得方法や目的等について、個人が調べればわかるようにし、理解できるよう透明性を確保しましょう。
米国連邦通信委員会(FCC)は、2020年2月、米国の携帯通信大手4社に対して、顧客の位置情報を不適切に販売したことに対して、総額2億ドルを超える高額な罰金を科しました。より一層国際的な動向にも注意が必要です。
(1)~(3)の位置情報は、上記のとおり通信の秘密に該当する個人情報を含む場合があるほか、プライバシーの観点から保護が必要とされます。今後の技術進展によって一層高いプライバシー性を有することも想定されています。
前述のとおり、位置情報は、現時点を含む特定時点の個人の位置を特定できる情報なので、プライバシー侵害の危険性が高いものでしたね。
そこで、プライバシー侵害のリスクを低減するために十分な配慮が必要です。
この点で参考となるのは、一般財団法人日本データ通信協会(電気通信事業を対象事業とする認定個人情報保護団体)の「電気通信事業における「十分な匿名化」に関するガイドライン」です。
このガイドラインでは、匿名加工情報の適正な加工として、個人情報の保護に関する法律施行規則34条5号に関して、位置情報特有の性質に対処するため、次のような要件を満たすことを求めています。
(以下は、通信の秘密に関する記述は省略するなど一部改訂しています。)
【「十分な匿名化」による加工の対象】
・位置情報と付帯情報を結合して作成したデータを用いることができる。
※付帯情報とは
性別、年齢及び市区町村までの住所 並びに経時的にデータが積み重ねられることのない情報(性別、年齢、市区町村までの住所を除く)で、以下の①ないし③をすべて満たすもの。
- 単体では個別の通信や個人を特定することができないものであって、かつ他の情報と照合してもなお、個別の通信や個人を特定する可能性が一般に想定されないもの
- 利用者が入力した情報、サービスの提供により電気通信事業者に提供されることが利用者にとって明らかな情報等、電気通信事業者による利用が利用者の想定の範囲内にあるもの
- 「十分な匿名化」をして利用することを公にしているもの
現時点で考えられる例としては、利用者が入力した趣味嗜好や言語情報(ただし、十分な対象者数が確保できる場合に限る。)がある。
・位置情報と付帯情報とを連結する符号(現に電気通信事業者において扱う情報を相互に連結する符号に限る。)を削除すること。
【加工した後のデータ】
次の①~⑨に掲げる評価要素によって特定の個人が識別されるリスクを評価し、総合的に判断して、同リスクが十分に低減するよう求めており、参考になります。
企業で位置情報を取り扱う際には、①から⑨の評価要素について検討し、不必要な要素については、位置情報の精度を下げるか、そもそも取得しないこととする等の工夫をし、リスクを下げることがいいでしょう。
①付帯情報(性別、年齢、住所等)
性別であっても、対象集団に偏りのあることが想定されるような場合のように、付帯情報によっては、特定の個人を識別する可能性が高まることに配慮して選定・加工することが望ましい。
②場所の特性
位置情報に自宅・通勤・通学地あるいは要配慮個人情報にかかわる場所が含まれる場合など、配慮して加工することがのぞましい。
(対処の例)
- 明らかに自宅、通勤・通学先がわかる場合は、これらを除く等。
- 特定の疾患を対象とする病院に滞留していることが明らかなレコードを、加工対象から除外。
③集団の規模
特定の学校・職場や稀少な趣味嗜好等を持つ集団を対象とした場合、集団の規模によっては、特定の個人を識別可能性が高まるため、集団の規模に配慮して加工することが望ましい。
(対処の例)
- 十分な対象者数が得られることを確認する。
④取得時期の特性
特定のイベントや事件のあった日、時期と一致する可能性がある場合、他の情報を結びつけることによって、特定の個人を識別する可能性が高まるため、取得時期の特性に配慮して加工することが望ましい。
(対処の例)
- 大規模施設等で、特定の宗教のイベントが開催されていることが明らかな場合は、当該期間及び当該施設に該当する情報を除外する。
⑤位置の精度
精度が高い位置情報は、特定の個人を識別する可能性が高いため、適切に精度を低減することが望ましい。人口密度の低いエリアは、特に配慮することが望ましい。
(対処の例)
- 位置精度数メートルの緯度・経度情報を、適切な大きさのメッシュ単位の位置情報に変換する。
⑥移動履歴の期間・範囲
移動履歴の期間が長い場合や、特定の時間帯を対象とする場合などは、次のa)~c)に係るリスクが高くなるため、これらに配慮して加工することが望ましい。
a) パターン性
定期的に通っている場所、滞留している場所が分かることにより、自宅、通勤・通学地などが推測されて、個別の通信や特定個人の識別性が高まる。
b) 場所の特性
「②場所の特性」を参照。
c) 識別性
履歴の一意性が高まる。その一意性をもって、直ちに個別の通信や特定の個人を識別することができないとしても、一定の配慮をすることが望ましい。
(対処の例)
a)~c)を踏まえ、次のような配慮をする。
- 自宅や通勤・通学地に係る情報を除外
- 移動履歴の期間を短くして提供
- 同一の事業者に提供する場合、履歴の期間が重複しないように提供
⑦時間の精度・間隔
時間の精度が高い場合や、データを取得する際の時間間隔が短い場合、特定の個人を識別する可能性が高まる。また、詳細な時刻情報は位置情報とセットになることで、異なるデータセット間における共通の識別子として機能し得る。このため、適切に時間の精度を低減したり、間隔を開けたりすることが望ましい。
(対処の例)
- 秒単位で取得された時間の精度を、15分単位にまるめる。
⑧対象者数
加工対象とするデータセットに含まれる対象者数が少ないと、特定の個人を識別する可能性が高まることに配慮して加工することが望ましい。
同一の個人が複数台の携帯端末を所持している場合のあることを想定して、携帯端末の台数よりも対象者数が小さくなる可能性のあることに留意することが望ましい。
(対処の例)
- データを対象者数でカウントして、適切な規模の対象者数を確保する。
⑨データ提供までの期間
データを取得してから、「十分な匿名化」により加工した位置情報として提供するまでの期間が短い場合は、他の情報を参照することによって、特定の個人を識別する可能性が高まることに配慮して加工することが望ましい。
(対処の例)
- 位置情報を取得してから「十分な匿名化」により加工した情報として提供するまでの期間を、三ヶ月以上確保する。
なお、電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン 41条において、電気通信事業者は、あらかじめ同意を得ていれば位置情報を取得できることとなっています。
電気通信事業者が取り扱う位置情報については、先ほど解説したように、通信の秘密、個人情報保護及びプライバシーの観点から保護が必要です。
そのため、位置情報を匿名加工する場合においては、適切な加工手法及び管理運用体制が求められています。
具体的な加工方法等については、取扱いの実態等に応じて定められることが望ましいことから法に定めるほか、認定個人情報保護団体が作成する個人情報保護指針等の自主的なルールに委ねられています。
電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインの解説(令和4年3月総務省)参照。
通信の秘密の係る位置情報
通信の秘密の侵害とならないように注意が必要です。
日常で、通信の内容や通信そのものの存在、その相手方といった事実を誰にも知られず通信を行うことができることは、個人の私生活の自由を保障する上でも、自由なコミュニケーションの手段を保障する上でも大変重要なことです。自分が誰といつどのような内容の話を電話でしたのか、他人に知られたくないですよね。
こういったことから、憲法は、第21条第2項で、通信の秘密を、人として生きていく上で必要不可欠な権利として保障します。
個々の通信の際に利用される基地局の位置情報やWi-Fi位置情報のうち、端末利用者がアクセスポイントから外部と通信を行うことで把握される位置情報については、電気通信事業者にとって、通信の秘密に該当することは、前述のとおりです。
電気通信事業法では、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵すことを禁じています。「秘密を侵す」とは、上に述べた通信の秘密の保障が及ぶ事項の秘密を侵す行為、つまり、通信当事者以外の第三者がこれらの事実を故意に知ったり、自己又は他人のために利用したり、第三者に漏えいすることをすべて含みます。正当な理由なくこれらの行為を行うと刑事罰に処せられることになります(電気通信事業法第4条、第179条)。
通信の秘密に該当する位置情報は、GPS位置情報に比べ精度は低いものです。
しかし、携帯電話が通話可能な状態にあるときは常に取得することができます。また、携帯電話の契約時や譲渡する際等には本人確認義務があることから、携帯電話事業者にとっては、位置情報が個人情報に該当します。
通信の秘密に該当する位置情報を利活用するには、個別具体的かつ明確な同意が必要となるのが原則です。サービス利用規約の中で他の条項と一緒に同意を取る方法(包括的な同意)で同意を得ただけでは、同意があったことにはなりませんので注意が必要です。 しかし、これには例外があります。それが、「十分な匿名化」です。
前掲した位置情報プライバシーレポートで、一定の加工方法等の組合せにより、その時点での技術水準では再特定化・再識別化が不可能又は極めて困難といえる程度に加工(「十分な匿名化」)をした上で、一定の要件を満たした場合には、包括同意による場合であっても、利活用することが可能であるとされています(「位置情報プライバシーレポート」(総務省、2014年7月)38頁)。
また、電気通信ガイドラインにもその旨が記載されています。
なお、個人情報保護法の匿名加工情報に係る作成の方法に関する基準(法36条1項)(第2章第7節[5])とは異なりますのでご注意ください。なお、個人情報にも該当する場合には匿名加工情報に関する規律も満たす必要があります。
「十分な匿名化」をし、下記①及び②の要件を満たした場合、利用者の個別具体的かつ明確な同意があるとは得いない場合でも、契約約款等に基づく事前の包括同意を、利用者の有効な同意として扱うことが可能となるものです。
「通信の秘密に該当する位置情報について、匿名化して他人への提供その他の利用を行う場合には、通信の秘密の保護の観点から、当該位置情報と個別の通信とを紐付けることができないよう十分な匿名化を行わなければならず、かつ匿名化して他人への提供その他の利用を行うことについてあらかじめ利用者の同意を得る必要がある。
この場合、原則として個別具体的かつ明確な同意がなければ有効な同意があるとはいえないが、
①契約約款の内容等が利用者に対して十分に周知され、事後的にも利用者が随時に不利益なく同意内容を変更し、以後は位置情報を匿名化して利用しないよう求めることができることから利用者が不測の不利益を被る危険を回避できるといえる場合であって、
②匿名化の対象とされる情報の範囲、加工の手法・管理運用体制の適切さなどを考慮すると通常の利用者であれば匿名化しての利用等を許諾すると想定できるとき
は、契約約款等に基づく事前の包括同意であっても有効な同意があると考えられる。」
GPS位置情報の利用
個人情報・プライバシー保護の観点から、どのような点に注意する必要があるでしょうか。
詳細なGPS位置情報に当たる場合は、個人情報として取り扱うことが必要です。
GPS位置情報とは
GPSは、よく耳にするかと思います。
これは、複数のGPS衛星から発信されている電波を移動体端末が受信して、衛星と移動体端末との距離等から当該移動体端末の詳細な位置を測定し、その位置を詳細に計算するもののことをいいます。
GPS位置情報は、精度が非常に高いといえます。特に、2018年以降、準天頂衛星の実用化により誤差数センチメートルでの測位が可能となっています。
スマートフォンをなくしたときに、探す機能を使えばどこにあるか分かりますし、フードデリバリーの配達員が自宅に向かっているのを確認するときかなり正確に距離やスピードが把握できますね。
GPS位置情報の法的性格
GPSは、通信の成立と無関係であるため、通信の秘密に係る位置情報には該当しません。
また、個人情報といえるかについて、従前は、GPS位置情報単体では個人情報とはいえないとされてきました。
しかし、精度が非常に高くなり、位置情報自体から本人の特定ができる場合も多くなったため、個人情報として扱うのが適切であると考えられます。また、他の情報と結びつける符合とする場合も、特定の個人を識別できるような場合には個人情報と考えて取り扱うべきです。
また、精度が高いGPSの位置情報は、個人特定性が高いため、プライバシー保護の必要性も高まります。
判例
警察によるGPS位置情報の無断取得がプライバシーを侵害し、違法であると判断した判例があります。判例は、GPS捜査について、次のように述べました。
【最判平29・3・15刑集71巻3号13頁】
ただ、警察による捜査の場合、監視を目的として特定かつ少数の者の位置情報を取得するものです。位置情報取得によるプライバシー侵害の程度は、捜査のための利用と比べ、企業がデータの利活用のために取得する場合、小さいと言えます。
企業は、位置情報の取扱い方やセキュリティについて利用規約等に明記して、利用者に対して取得目的、利用方法等を十分に説明することが重要です。
プライバシー情報に該当する位置情報
通信の秘密に該当しない場合でも、GPS位置情報はプライバシー侵害の特に保護の必要性が高く強く保護する必要があります。他人へ情報を提供するときは、利用者の同意を得るか、違法性阻却事由があるときに限定することが強く求められます(電気通信ガイドライン解説41条1項)。
電気通信ガイドラインの41条3項は、位置情報サービスを自ら提供し、又は第三者と提携の上で提供するにあたっては、その社会的有用性と通信の秘密又はプライバシー保護とのバランスを考慮して、電気通信事業者は、利用者の権利が不当に侵害されないよう必要な措置を講ずることが適当としています。
「必要な措置」の具体的内容として、
利用者の意思に基づいて位置情報の提供を行うこと
位置情報の提供について利用者の認識・予見可能性を確保すること
- 位置情報について適切な取扱いを行うこと
- 第三者と提携の上でサービスを提供する場合は、提携に関する契約に係る約款等の記載により利用者のプライバシー保護に配慮をすること
などが挙げられます(電気通信ガイドライン41条3項解説)。
なお、電気通信事業者以外も同項の措置を講じることで、プライバシー保護を図るようにするのがよいでしょう。
法的規制
位置情報の種類により、どのような法的規制がありますか。
GPS位置情報、Wi-Fi位置情報、基地局位置情報それぞれの特徴については、4.で詳述していますので、ご参照ください。
また、利用する位置情報が通信の秘密に該当するか、個人情報に該当するか、プライバシー情報のみに該当するかによって、法的規制のありかたが変わってきます。それぞれの位置情報を①取得、②利用、③第三者提供をするために必要な要件は次の通りです。 〈位置情報の種類と法的規制〉
【通信の秘密に係る位置情報】
取得
- 利用者の個別具体的かつ明確な同意がある場合
- その他の違法性阻却事由がある場合
を除いては取得不可
利用
違法性阻却事由がある場合を除き禁止
第三者提供
原則:個別具体的かつ明確な同意が必要。
例外:十分な匿名化と一定の要件を満たした場合には包括的同意でも可(前述の5参照)
【個人情報に該当する位置情報】
取得
原則:利用目的の通知・公表又は明示が必要
利用
通知・公表又は明示した利用目的の範囲内での利用
第三者提供
原則:本人同意(包括的同意含む)が必要
例外:匿名加工情報とすると同意不要
【プライバシー情報に該当する位置情報(全ての位置情報)】
取得
- 利用者の同意がある場合
- 電気通信役務の提供に係る正当業務行為その他の違法性阻却事由に該当する場合
に限り取得することが強く求められる(電気通信ガイドライン解説41条1項)。
利用
他人への提供その他の利用においては、
- 利用者の同意を得る場合
- 違法性阻却事由がある場合
に限定することが強く求められる(電気通信ガイドライン解説41条2項)。
第三者提供
不当な権利侵害を防止するために必要な措置(6.(4)参照)を講ずるのが適切。
高精度の位置情報を利用する場合は、「十分な匿名化」に準じた水準まで加工するのが望ましい。
通信の秘密に関わり、個人情報にも該当し、プライバシー情報にも該当する場合など、これらの要件が重ねて適用されます。
特に【プライバシー情報に該当する位置情報(全ての位置情報)】は、電気通信事業者が取り扱う、全ての位置情報に適用されることになるので注意しましょう。
なお、通信の秘密に係る位置情報については、利用者が法人である場合も含まれます。その場合も、実際には従業員が通信端末を利用していますので、プライバシー保護の対象として扱う必要があります。
全体的なイメージとしては、プライバシー情報というくくりがあり、その中に個人情報と通信の秘密に係る位置情報があります。個人情報と通信の秘密に係る位置情報の双方に該当する情報もあります。 通信の秘密に該当しない位置情報の場合であっても、電気通信ガイドライン解説41条1項は、 「ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い上に、通信とも密接に関係する事項であるから、強く保護することが適当である。そのため、通信の秘密に該当しない位置情報の場合においても、利用者の同意がある場合又は電気通信役務の提供に係る正当業務行為その他の違法性阻却事由に該当する場合に限り取得することが強く求められる。」とされています。
個人情報と通信の秘密との関係
参考:電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(令和4年個人情報保護委員会・総務省告示第4号)の解説
個人情報保護法・プライバシー保護に関するご相談は、東京都千代田区直法律事務所の弁護士まで
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